ロクでなし魔術講師と白き大罪の魔術師   作:灰ノ愚者

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どうも‼︎ また新しく最新話を作りました‼︎


【お気に入り】や【しおり】更に【評価】など
よろしくお願いします‼︎

因みに『ある人物達』が登場します‼︎


傀儡と少女

アルザーノ帝国魔術学院。アルザーノ帝国の人間

でその名を知らぬ者はいないだろう。今から

およそ四百年前、時の女王アリシア三世の提唱に

よって巨額の国費を投じられて設立された国営の

魔術師育成専門学校だ。今日、大陸でアルザーノ

帝国が魔導大国としてその名を轟かせる基盤を

作った学校であり、常に時代の最先端の魔術を

学べる最高峰の学び舎として近隣諸国にも名高い。

現在、帝国で高名な魔術師のほとんどがこの学院

の卒業生である確固たる事実が存在し、それゆえに

学院は帝国で魔術を志す全ての者達の憧れの聖地と

なっている。その必定の流れとして、学院の生徒

や講師達は自分が学院の輩であることを皆等しく

誇りに思っており、その誇りを胸に日々魔術の

研鑽に励んでいる。

 

 

 

彼らに迷いはない。そのひたむきなる研鑽が、

将来、帝国を支える礎になることを、自らに

確固たる地位と栄光を約束してくれることを

正しく理解しているからだ。 よって、この魔術

学院において授業に遅刻する、サボるなどという

その辺の日曜学校のような意識の低いことはまず

めったに発生しない。ましてや生徒のひたむきな

熱意に応えるべき講師が授業に遅刻するなどという

事態は通常ありえない。ありえないはずなのだ。

 

 

 

「失礼します」

 

 

 

ウィルは学院長室に入るとアルザーノ学院の

理事長のリック理事長は理事長室の椅子に

座ってウィルを見ていた。

 

 

 

「おお…君が『ウィル=オリバー』君じゃな?

話しは上から聞いておるよ?」

 

 

 

「はい。自分はイヴ室長の命令により本日より

アルザーノ学院に来たウィル=オリバーと

言います」

 

 

 

ウィルはリック理事長に敬礼しながら淡々と

そう言うと

 

 

 

「そんなに硬くなくていいんじゃよ…?」

 

 

 

 

リック理事長はウィルとの話に躊躇いながらも

「どうするかのぅ…」とか「じゃが、これは彼女

のたっての希望じゃからのう……」リック理事長

は小声で呟いて唸っている姿を見てとウィルが声を

掛けようとすると『ある女性』の声がウィルの背後

から 聞こえてきた。

 

 

 

「それについては大丈夫だ問題はない

この件は私の方でなんとかしよう」

 

 

 

(この声は……)

 

 

 

後ろを振り返ると髪が金髪で黒いドレスを

身に纏っている上品で魔性の大人の女性が

立っていた。

 

 

 

「おぉ‼︎ セリカ君! 君も来ていたのか?」

 

 

「やあ、学院長。暇だから見に来たぞ〜」

 

 

 

(…『灰燼の魔女 セリカ=アルフォネア』)

 

 

 

ウィルは振り返ってセリカを見てイヴから

貰った資料を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元宮廷魔道士団特務分室、執行者No.21《世界》

またも『灰燼の魔女』セリカ=アルフォネア

 

 

 

彼女は《愚者》の育ての親で魔術の師匠。

見た目は二十歳ほどの美女だが、真の永遠者(イモータリスト)

と呼ばれる原因不明の不老不死体質。

 

 

 

四百年前に記憶喪失となり、それ以前の記憶を

持たないらしい。長い時を孤独の中で過ごし、

大切な者たちとの別れを幾度となく繰り返して

きたせいで《愚者》と呼ばれる人物を拾うまでは

酒に溺れ、自傷行為を繰り返す荒んだ生活を

送っていたらしい。

 

 

更に二百年前の戦争で外宇宙から召喚された

邪神の眷属を殺害した伝説を持つ、人外と評される

第七階梯(セプテンデ)に至った大陸最高峰の魔術師である。

 

 

元同僚コードネーム《塔》アンリエッタの暴走で

滅ぼされた村の唯一の生き残りである《愚者》を

引き取ったことを機に特務分室を引退、現在は

教授職と並行している。

 

 

 

その、セリカ=アルフォネアが今、教授として

学院にいる。

 

 

 

真の永遠者(イモータリスト)と呼ばれる彼女は原因不明の

不老不死体質でも反則級なのに更には人間離れ

した【固有魔術】や二百年前の『魔導大戦』

邪神の眷属を殺すという偉業を成して更には

【究極の攻性呪文】があるからだ。

 

 

固有魔術(オリジナル)】『私の世界』

 

 

【究極の攻性呪文】

『イクスティクション・レイ』

 

 

 

非常に厄介過ぎる魔術師である。いや、そもそも

彼女は人間なのだろうか?もはや化物や人外など

の類いの者ではないのかと思ってしまう。だが、

もし、彼女と戦っても無傷では済まないだろう。

という導かれた単純でシンプルな一つの回答だ。

更にはこの任務をする前に特務分室の資料室の

資料を見ると更に見ていると実に興味深い内容が

書いてあった。

 

 

 

 

何故だろう……分からないが資料から目が

離せない…どうして…?

 

 

 

 

ウィルは思考を切り替えようとするが好奇心が

勝ったのか更に過去の資料を手に取ってパラパラと

ページをゆっくりめくる。すると『ある内容』が

目に写った。

 

 

 

 

それは──

 

 

 

 

「愚者……?」

 

 

 

そう、何故だろう…愚者…愚者って誰だろう?

と思い更に資料を読む。

 

 

 

 

■■■=■■■■、彼は彼女の一番弟子であるが

残念な事に魔術師としての位階は第三階梯(トレデ)

魔術特性は「変化の停滞・停止」で、魔力操作の

感覚と略式詠唱のセンスが致命的にないため、

初歩の汎用魔術ですら呪文の一節詠唱ができない為

魔術師としては三流である。

 

 

 

「なんだ、それなら意味がないじゃないか……」

 

 

 

ウィル溜息つきながら愚者についての過去の資料

をまとめたファイルを閉じようとすると

 

 

 

 

(いや、待てよ…いくらなんでもおかしいぞ…)

 

 

 

 

アルザーノ帝国が誇るアルザーノ帝国国軍省管轄

の、帝国宮廷魔導士団の中でも魔術がらみの案件

を専門 に対処する部署がそんな簡単な見落としを

するだろうか?

 

 

 

いや、そんなことは絶対にないはずだ。

なにか…なにか理由があるはずだ。

 

 

 

ウィルはそう考えながら本棚にある資料を

片っ端から調べ始める。

 

 

 

すると

 

 

 

「あった、これだ…‼︎」

 

 

 

九冊目を読み終えて十冊目でやっとお目当の

資料を見つけたウィルはペラペラとページを

めくっていく。そしてある内容が目に入った。

 

 

 

 

魔術師としては三流だが魔導士としては

間違いなく一流である。一定の時間、自分を

中心に有効射程半径五十メトラの範囲内で

魔術起動を完全封殺する固有魔術【愚者の世界】

と常識破りな固有魔術を編み出している。

 

 

この固有魔術(オリジナル)は自分や近くにいる仲間も魔術を

使えなくなるという重大な欠陥があるが、

宮廷魔導師団時代に身につけた卓越した帝国式

軍隊格闘術や魔銃《ペネトレイター》という

魔術に頼らない武器を持つため、魔術のみに

傾倒した敵相手には有利に立ち回れる。

ただ、すでに発動している魔術を封じることは

できないため、相手より先んじて発動させる

必要があるうえ、あくまで初見殺しなので手の内が

割れれば自分を窮地に追い込むまさに『諸刃の剣』

になり得る。

 

 

 

 

「魔術の完全封殺か……」

 

 

 

なるほど…確かに魔術に偏っている魔術師達の

武器である魔術を封じ込められれば後は肉弾戦

に持ち込んで行けば間違いなく勝てる。それに

魔術師達から見ればなんと反則的で厄介な魔術

だと思うだろう。

 

 

 

 

ウィルが納得しているとその資料には

更に続きが書いてあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特務分室帝国宮廷魔道士団No.0《愚者》こと

『魔術師殺しの愚者』と呼ばれていた

■■■=■■■■は街の人達から英雄のように

功績を崇められていた。そして三年間の間

外道魔術師達を毎日暗殺する任務の日々を

繰り返しだった末に精神的に疲弊していた。

だが、そんな彼にも心の支えが生まれる。

 

 

 

 

それが──

 

 

 

 

 

 

 

『■■=■■■■■■』

 

 

 

 

 

 

「これは……」

 

 

 

重要な部分が分からなかった。

 

 

 

 

いや、詳しく言うなら読めなかったのだ。

 

 

 

何故なら何故かは分からないが肝心な部分は

真っ黒なインクらしきものがべったりと

塗り潰されていて全く読めなかったのだ。

塗り潰された部分は気になったが今の時点では

知ることは確実に出来ないため諦めた。

 

 

 

 

とはいえ、帝国宮廷魔道士団特務分室執行官

No.21《世界》として活躍していた彼女がその

弟子に対象を根源素(オリジン)まで分解消滅させて

しまう最高峰の威力を持っている【黒魔術】の

『イクスティクション・レイ』その神殺しの魔術

を使えるらしいから彼女とその弟子の二人を敵に

回せば実に厄介過ぎる。

 

 

 

ウィルがそう考えていると知らないうちにセリカと

リック理事長が更に話を進めていた。

 

 

 

「学院長、そいつがグレンのクラスに新しく

入って来る転入生か?」

 

 

 

「あぁ、彼はウィル=オリバー君。十四歳で成績は

稀に見る優秀過ぎる天才じゃな……彼を二組に

入れようと思うじゃよ」

 

 

「おぉ‼︎ グレンのクラスかあいつなら

大丈夫だろう‼︎」

 

 

 

(……グレン、どこかで……)

 

 

 

ウィルは『グレン』という聞き覚えのある名前を

聞いて考えるが全く記憶にない。そう考えていると

 

 

 

「よし‼︎ ならば学院長。私がその転入生を

グレンが担当する教室まで一緒に連れて行こう‼︎」

 

 

 

セリカは両手を腰に当てて興奮気味に「ふん‼︎」と

鼻息をたてていると

 

 

 

「おぉ‼︎ 流石はセリカ君‼︎それは助かるわい。

なんせ、グレン君はまだ来ていなくてのう」

 

 

「何⁉︎ あの…馬鹿者が〜〜‼︎

遅刻しやがって、帰ってきたら絶対にあいつの顔に

イクスティクション・レイをぶち込んでやる‼︎」

 

 

(…………)

 

 

ウィルはそんなセリカとリック学院長を見て

リック学院長がセリカを宥めていた。

 

 

 

「ま、まあまあ……セリカ君。

まずは彼を教室に連れて行ってくれ?」

 

 

 

「あぁ、そうだな…オリバーだったな?

私は此処の教授セリカ=アルフォネアだ。

分からない事があったら相談してくれ」

 

 

 

「こちらこそお願いします。

セリカ=アルフォネア教授」

 

 

 

「そんな敬語はやめてくれ‼︎」

 

 

 

「ですが…セリカ=アルフォネアと言えば、

二百年前の戦争で外宇宙から召喚された邪神の

眷属を殺害した伝説を持つ、人外と評される

第七階梯(セプテンデ)に至った大陸最高峰の魔術師ですので…」

 

 

 

ウィルが戸惑いながらもセリカは大きな溜息を

つきながら

 

 

「構わん。私の事はアルフォネアと呼べ」

 

 

 

セリカはウィルにそう言うとウィルは少し

考えこんだ後、

 

 

 

「では、よろしくお願いします……

アルフォネア教授」

 

 

「あぁ、こちらこそよろしくな!

では、リック理事長、失礼するぞ?」

 

 

「ああ、後は頼むぞ、セリカ君」

 

 

リック理事長はそう言うとセリカは学院長室を

後にして廊下を歩いているとセリカがにウィルに

質問してきた。

 

 

 

「貴様は学院などは初めてか?」

 

 

 

「はい。初めてなので非常に興味深い

サンプルデータとして判断しました」

 

 

 

「サンプルデータってお前……」

 

 

 

セリカはウィルの言葉を聞いて戸惑っていると

 

 

 

「教室の扉の前に着いたみたいですよ?

アルフォネア教授?因みに先程の『忍び足』で

僕の背後に来ていましたよね? 魔術の世界に

それは少し興味深かったですよ?」

 

 

「⁉︎」

 

 

セリカは驚きを隠せなかった。

ウィル=オリバーにそのような態度や素ぶり、

更には仕草などは見られなかったからだ。

 

 

 

(ど、どこで、分かっていたんだ⁉︎

こいつは一体、何者なんだ?)

 

 

セリカが思考を巡らせて考え込んでいると

 

 

 

「アルフォネア教授?

入らなくていいんですか?」

 

 

 

「そ、そうだな……」

 

 

 

 

ウィルとセリカは二組の扉を開けて教室の中

に入って行くと

 

 

「みんな席に座れ!」

 

 

 

セリカが生徒達に指示を出して生徒を

座らせて僕の自己紹介をしてくれた。

 

 

「転入生の紹介をする。じゃあ、本人にも

自己紹介をしてもらうとするか……入って来い」

 

 

 

セリカがそう言うと扉が開いて一人の白髪の少年

が入ってきて教室の教卓の前に立っていた。

 

 

 

「皆さんはじめまして…僕はウィル=オリバーと

言います。皆さんどうかよろしくお願い──

「「「きゃー‼︎」」」」

 

 

 

「…へ……?」

 

 

 

ウィルは困惑していると生徒達は更に

ヒートアップしていく

 

 

 

「小さくて可愛いですわ‼︎」

 

 

 

「更にカッコいいわよね⁉︎」

 

 

「彼女とかいるのかしら…?」

 

 

女子生徒達がそうひそひそと話していると

 

 

「ちくしょう…ッ‼︎」

 

 

「何で…俺はモテないんだ‼︎」

 

 

 

「クソーー‼︎ イケメン死すべし‼︎」

 

 

 

「このリア充め‼︎ 滅んでしまえ‼︎」

 

 

 

「「「「リア充死すべし‼︎」」」」

 

 

 

スイーツ脳になっている女子生徒達の隣では

心の底からの嘆きの言葉叫び散らしている

眼鏡かけた少年以外の男子生徒達は血の涙を

流していた。

 

 

 

「な、何を言っているのか…分からない…

理解不能……」

 

 

 

ウィルは「理解出来ない」と言っていると

 

 

 

「静かにしろ」

 

 

 

セリカがそう言うというと先程騒いでいた

生徒達は静かになった。

 

 

 

 

「とにかくだ…今後はこいつと仲良くして

やってくれ…」

 

 

 

セリカがそう言うとウィルは

 

 

「あ、改めてよろしくお願します……」

 

 

 

ウィルは戸惑いながらもそう言って後ろの

席に座ると

 

 

 

「では、私はこれで失礼する」

 

 

 

セリカはそう言って扉を開けて出て行った。

 

 

 

後ろの席に座ったウィルはいつものように

落ち着いた表情でいると

 

 

 

「ねぇ…」

 

 

「…ん?」

 

 

 

ある女の子の声に気づいて声がする方に

視線を向けると

 

 

 

「…君は誰?」

 

 

 

ウィルが聞くと女の子は

 

 

「私…? 私は『ルミア』、

『ルミア=ティンジェル』って言うんだ。

よろしくね?」

 

 

 

ルミアがウィルにそう言うとウィルは

 

 

 

「自分はウィル=オリバーであります。

こちらこそよろしくお願いするであります。

えーと…『ルミア=ティンジェル』さん…?」

 

 

 

ウィルが頭を傾げながらそう言うとルミアは

 

 

 

「あ、あはは……え、えーと…ウィル君、

私の事は『ルミア』でいいよ? 後、ウィル君

もそんなに堅苦しくなくていいよ?」

 

 

 

ルミアがウィルにそう言うとウィルは少し

対応に困った表情して

 

 

「け、けど……」

 

 

ウィルはルミアを見て困った様な表情をして

そう言うと

 

 

「じゃあ、私もウィル君って呼ぶから、ね?」

 

 

 

ルミアがそう言うとウィルはルミアの顔を見て

 

 

 

「……わかった…じゃあ、改めて『ルミア』

って呼ばせてもらうね?」

 

 

 

「うん! よろしくねウィル君!」

 

 

 

「私は『システィーナ=フィーベル』よ。

私もウィルって呼ばれてもらうわね?」

 

 

 

「よ、よろしく……」

 

 

ウィルの言葉にルミアは太陽のような笑顔を

戸惑っているウィルに向けてシスティは手を

差し伸べて握手していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……遅い!」

 

 

魔術学院東館校舎二階の最奥、魔術学士二年

次生二組の教室。正面の黒板と教壇を、

木製の長机が半円状に取り囲む構造の座席、

その最前列の席に腰かけるシスティーナは、

苛立ちを隠そうともせずに吐き捨てた。

 

 

「どういうことなのよ! 

もうとっくに授業開始時間過ぎてるじゃない⁉︎」

 

 

「確かにちょっと変だよね……」

 

 

システィーナの一つ隣の席に腰かけるルミア

も首をかしげる。

 

 

「何かあったのかな?」

 

 

見渡せば、一向に現れる気配を見せない講師に、

同クラスの学友達も訝しむようにざわめき

立っている。

 

 

 

『今日はこのクラスに、ヒューイ先生の後任

を務める非常勤講師がやってくる』

 

 

 

一から七まである魔術師の位階、その最高位、

第七階梯(セプテンデ)に至った大陸屈指の

魔術師であるセリカ=アルフォネア教授が直々に

このクラスに赴き、そう発表した朝のホームルーム

から早一時間過ぎ。セリカが構築した『まぁ、

なかなか優秀な奴だよ』という前評判は早くも

瓦解しそうな勢いだった。

 

 

 

「あのアルフォネア教授が推す人だから少しは

期待してみれば……これはダメそうね」

 

 

 

「そ、そんな、評価するのはまだ早いんじゃ

ないかな? 何か理由があって遅れている

だけなのかもしれないし……」

 

 

システィーナはそんなルミアに振り返り、

猛然と抗議する。

 

 

「甘いわよ、ルミア。いい? どんな理由が

あったって、遅刻をするのは本人の意識の低い

証拠よ。本当に優秀な人物なら遅刻なんて絶対

ありえないんだから」

 

 

「そうなのかな……?」

 

 

「まったく、この学院の講師として就任初日

からこんな大遅刻だなんて良い度胸だわ。

これは生徒を代表して一言言ってあげないと

いけないわね……」

 

 

システィーナが悪態をついているとウィルは

 

 

 

「それなら大丈夫だと思うよ?」

 

 

 

「え…? どう言う事なの?」

 

 

「ウィル…? 何か知っているの?」

 

 

 

システィとルミアがウィルにそう聞いた

 

 

 

その時だ。

 

 

 

 

 

「あー、悪ぃ悪ぃ、遅れたわー」

 

 

 

がちゃ、と教室前方の扉がどこかで聞いた

ような声と共に開かれた。

 

 

 

どうやらその噂の非常勤講師とやらが今、

やっと到着したらしい。すでに授業時間は

半ばも過ぎている。恐らく魔術学院設立以来、

前代未聞の大遅刻だ。

 

 

 

「やっと来たわね! 

ちょっと貴方、一体どういうことなの!? 

貴方にはこの学院の講師としての自覚は——」

 

 

早速、説教をくれてやろうとシスティーナが

男を振り返って……硬直した。

 

 

 

「あ、あ、あああ——貴方は——ッ⁉︎」

 

 

「う、うそ…」

 

 

「ほらね? 言った通りでしょ?」

 

 

 

ずぶ濡れのままの着崩した服。

蹴り倒された時にできた擦り傷、痣、汚れ。

 

 

 

嫌な記憶は蘇る。朝、通学途中で会った

あの変態が、そのままの姿でそこにいた。

 

 

「…………違います。人違いです」

 

 

男は自分に指を差してくるシスティーナの

姿を認めると、抜け抜けとそんなことを

言い放ってスルーの態勢に入った。

そしてルミアも驚きを隠せなかった。

 

 

 

「人違いなわけないでしょ⁉︎

貴方みたいな男がそういてたまるものですかっ!」

 

 

「こらこら、お嬢さん。

人に指を差しちゃいけませんってご両親に

習わなかったかい?」

 

 

表情だけは紳士のそれのまま、

男がシスティーナに応じた。

 

 

「ていうか、貴方、なんでこんなに派手に

遅刻してるの⁉︎ あの状況からどうやったら

遅刻できるって言うの⁉︎」

 

 

 

「そんなの……遅刻だと思って切羽詰まってた

矢先、時間にはまだ余裕があることがわかって

ほっとして、ちょっと公園で休んでいたら本格的

な居眠りになったからに決まっているだろう?」

 

 

 

「なんか想像以上に、ダメな理由だった⁉︎」

 

 

男の物言いは突っ込み所が多過ぎて、

遅刻をとがめる気にもならない。

 

 

周囲の反応も同様だった。

現れた講師の異様な姿に、教室中の生徒達

がざわめき立つ。

 

 

だが、男はそれを華麗にスルーして教卓に立ち、

黒板にチョークで名前を書く。

 

 

 

「えー、グレン=レーダスです。

本日から約一ヶ月間、生徒諸君の勉学の手助けを

させていただくつもりです。短い間ですが、

これから一生懸命頑張っていきま……」

 

 

「挨拶はいいから、

早く授業始めてくれませんか?」

 

 

 

「違うでしょ…システィ…まずはあのおじさん

の汚い服からでしょ?」

 

 

 

「おい⁉︎ この俺を汚いって言うな ‼︎」

 

 

 

苛立ちを隠そうともせず、システィーナは

冷ややかに言い放ちそしてウィルは冷静に

辛辣なツッコミを入れるとグレンはウィルの

言葉が気に入らなかったのかウィルに

食いかかる。

 

 

 

「あー、でも、まぁ、そりゃそうだよな……

かったるいけど始めるか……仕事だしな……」

 

 

 

すると、先ほどまでの取り繕った口調は

どこへやら。たちまち素が出てきた。

 

 

 

「よし、早速始めるぞ……

一限目は魔術基礎理論IIだったな……あふ」

 

 

 

あくびをかみ殺してグレンがチョークを

手に取り、黒板の前に立つ。

 

 

 

途端にクラス中の生徒が気を引き締める。

システィーナもグレンに対するさっきまでの

わだかまりを捨て、その一挙手一投足に

注視し始めた。

 

 

(さて、どの程度のものかしらね……)

 

 

第一印象こそ最悪だったものの、このグレン

と言う男は、大陸でも屈指の魔術師である

セリカ=アルフォネアに『なかなか優秀』とまで

言わせたほどの男なのだ。その男が行う授業、

期待していないと言えば嘘になる。

 

 

かと言って、システィーナはセリカの評価を

鵜呑みにする気はさらさらない。

あくまで評価を下すのは自分だ。

今までがそうだったように、わかりにくい所は

どこまでも突っ込んで質問するし、

あいまいに誤魔化そうとしてもそうは

問屋が卸さない。いつの間にか

『講師泣かせのシスティーナ』などという

ありがたくない二つ名で学院内に知られるように

なってはいるが、それも全て自分が魔術という

崇高な道に対してひたすら真摯であるがためだ。

妥協する気はない。むしろ誇りにさえ思う。

 

 

(さて、お手並み拝見させてもらうわ、

期待の非常勤講師さん?)

 

 

システィーナはもちろん、クラス中の注目が

集まる中、グレンは黒板に文字を書いた。

 

 

 

 

 

 

 

自習。

 

 

 

黒板に大きく書かれたその文字に、

クラス中が沈黙した。

 

 

「え? じしゅ……え? 

じしゅ……う? え? ……え?」

 

 

システィーナはその文字について、自分が真っ先

に思い当たる意味とは別の意味についての解釈を

何度も試みた。だが、ことごとく失敗した。

当然である。そんな短い単語に込められた意味など、

たった一つに決まっているからだ。

 

 

 

「えー、本日の一限目の授業は自習にしまーす」

 

 

 

さも当然、とばかりにグレンは宣言した。

 

 

「……眠いから」

 

 

さりげなく最悪な理由をぼそりとつぶやいて。

 

 

「………………」

 

 

沈黙が支配する。

圧倒的な沈黙がクラスを支配する。

 

 

そんなクラスの面々を置き去りに、

間違っているのは自分じゃなくて世界だと

でも言わんばかりに堂々と、グレンは教卓に

突っ伏した。

 

 

十秒も経たないうちに、いびきが響いてくる。

 

 

「………………」

 

 

 沈黙が支配している。

圧倒的な沈黙がクラスを支配している。

 

 

 そして。

 

 

「ちょおっと待てぇええええ——ッ⁉︎」

 

 

 

「システィ…うるさい……」

 

 

 

システィーナはウィルのそんな言葉を無視

しながら分厚い教科書を振りかぶって、

猛然とグレンへ突進していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうかお考え直し下さい、学院長ッ!」

 

 

帝国魔術学院の学院長室に怒声が響き渡った。

声の主は二十代半ばの、神経質そうな眼鏡の男だ。

学院の正式な講師職の証である梟の紋章が入った

ローブを身にまとっている。名前はハーレイ。

多くの魔術師が第四階梯(クアットルデ)で生涯を終えるこの世界

において、この歳で早くも第五階梯(クィンデ)に至った

若き天才魔術師である。

 

 

「私はこのグレン=レーダスというどこの馬の骨

とも知れぬ男に、非常勤とは言えこの学院の講師職

を任せるのは断じて反対です!」

 

 

ばん、と両の手で激しく執務机を叩いて、

正面に腰かける初老の男性をにらみつける。

 

 

「しかしなぁ、ハーレイ君。彼を採用するのは、

セリカ君たっての推薦なのだよ?」

 

 

激しい剣幕で迫られても初老の男性は

どこ吹く風、好々爺然とした表情を崩さない。

 

 

「リック学院長ッ! まさか、あなたは

あの魔女の進言を了承したのですか⁉︎」

 

 

「まさかも何も、了承したからグレン君は

非常勤講師をやっとるんだろうに。

確かに彼は教職免許を持ってない。

だが、教授からの推薦状と適正があれば、

非常勤に限り特例で採用が認められるから

何も問題なし……」

 

 

「その適正が問題なのです! 

これを読んでもう一度お考え直し下さいッ!」

 

 

ずばん、と。ハーレイは書類の束を学院長——

リックの腰かける机に叩きつけた。

 

 

「これは、先日に測定したグレンという男の

魔術適正評価の結果です! なんなのですか、

この惨憺たる結果はッ!」

 

 

「ふむ? ほほぅ、なんつーか特徴がないのう。

魔力容量(キャパシティ)意識容量(メモリ)も普通、系統適正も全て平凡、良くも悪くも普通の

魔術師……いや、基礎能力だけ見れば中の下って

所かの」

 

 

リックはハーレイから渡された書類の束を

手に取り、ざっと目を通していく。

 

 

「しかも奴の魔術師としての位階はたかが第三階梯(トレデ)! 

経歴も合わせてご覧下さい!」

 

 

「む? ……おお、彼はこの学院の卒業生

だったのか」

 

 

「卒業と言うのは語弊がありますがね。

奴は卒業魔術論文を提出していません」

 

 

ふん、と小馬鹿にしたように、ハーレイは

鼻を鳴らした。

 

 

「グレン=レーダス。十一歳の時に魔術学院に

入学……十一歳じゃと⁉︎」

 

 

書類に眼を通していたリックが

驚きの声を上げた。

 

 

「通常、学院に入学する年齢は十四、五歳

じゃぞ⁉︎ それを十一歳で、じゃと⁉︎」

 

 

「……ええ。当時は史上最年少で難関と名高い

学院の入学試験を通った少年、と言うことで

ずいぶん騒がれたようですな」

 

 

 

忌々しそうにハーレイは顔をしかめた。

 

 

 

「だが、奴の栄光はそこまでです。入学後の成績は

極めて平凡。そして、四年の魔術学士課程を経て

十五歳の時に卒業……という名目の退学。最終成績も

やはり平凡。特に見るべき物はありません」

 

 

「ふむ……どうやら、そのようじゃな……」

 

 

「そして、問題は奴のその後の進路です! 

奴は魔術という至高の神秘の求道に一度は身を

置きながら、卒業から今日に到るまでの四年間、

何もせずに無駄な時間を過ごしていたのです!

もし、その間、魔術の道に邁進していれば、

どれほどの魔術の発展に貢献できたことか!」

 

 

 

確かに見ればグレンの経歴項目欄には

四年間の空白があった。

 

 

「ほう……四年間も無職でのう……

一体、何かあったんじゃろうか?」

 

 

 

「もう私の言いたいことはわかるでしょう⁉︎

奴のような低位で低俗な魔術師など、この学院

の講師として、ふさわしくないということです!」

 

 

 

「うーむ、別に我らが魔術学院の講師募集要項

には、経歴や位階による制限などなかったように

記憶しておるのだが?」

 

 

「明文化などされてなくても

そんなものは暗黙の掟でしょうが!」

 

 

再び、ずだんとハーレイは机を叩いた。

 

 

「思い出して下さい、学院に在籍するそうそうたる

講師陣を! 第四階梯(クアットルデ)は当然、すでに第五階梯(クィンデ)

第六階梯(セーデ)に到る者すらいます! そしてその誰もが

高度な魔術を修め、研究成果を残した者達ばかり!

なぜグレンのような男が彼らと肩を並べられるの

ですか⁉︎」

 

 

「ふむ……」

 

 

「あなたもあなたです、学院長! 

こんな重大な書類に目を通さずに、なぜ二つ返事

で彼の採用を許可したのですかッ!?」

 

 

「そりゃあ、だって、ほら?

セリカ君が推薦してくれた男じゃろ?

こう……なんか面白いこと、やってくれるような

気がせんか?」

 

 

リックはいたずら坊主のように口元を歪める。

 

 

「しません!

あなたはあの魔女を過大評価し過ぎだ! 

あの魔女は過去の栄光にしがみついて己が我欲

を振りかざし、守るべき秩序を破壊する旧時代

の老害ですッ!」

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

「言ってくれるじゃないか、ハーレイ」

 

 

 

学院長室内に突然響き渡った、

その何気ない言葉にハーレイが凍りついた。

 

 

 

「ふふ、あのハナ垂れ小僧がまぁ、ずいぶんと

偉くなったもんだ。私は嬉しいぞ?」

 

 

 

振り向けば、部屋の隅に意地の悪い笑みを

満面に浮かべるセリカがいた。

 

 

 

「な……いつからいた? 

セリカ=アルフォネア……」

 

 

「さ、いつからだろうな? 先生からデキの

悪~い生徒に問題だ。当ててみな」

 

 

「転移の術で……いや、時間操作……

そんな馬鹿な……魔力の波動も、世界則の

変動も感じられなかった……」

 

 

「はい、不正解。お前、まだまだ三流だよ、

精進しな。ついでに課題だ。今の不思議現象を

究明してレポート三百枚以内にまとめろ。

あ、これ、教授命令な」

 

 

「ぐぅ……ッ!」

 

 

屈辱に震えるハーレイを尻目に、セリカは

リックに向かい優雅に一礼する。

 

 

「ごきげんよう、学院長」

 

 

「おお、セリカ君。相変わらず若くて美人

じゃのう、羨ましいのう」

 

 

 

「ふふふ、学院長もまだまだ若くて素敵だぞ?」

 

 

 

「ほっほっほ、そうか! ならばセリカ君、

今晩辺りワシと一緒に……どうじゃ?」

 

 

 

「あはは、お断りだ。てか、相変わらず学院長

はお盛んだな。いい加減枯れろよ」

 

 

「ふははははっ! ワシは生涯現役よ!」

 

 

そんな温い空気を、ハーレイが机を叩いて

吹き飛ばす。

 

 

「私は認めんぞ、セリカ=アルフォネアッ! 

あのような愚物を講師に据えるなど、絶対に

認めんッ! 何かあったら責任を取って

もらうぞッ!」

 

 

「……取り消せ」

 

 

その時、その低く漏れたつぶやきに

部屋の空気が凍てついた。

 

 

「別にお前が私をいくら悪く言おうが構わん。

陰であいつを悪く言うのも流す。だが……

私の前で、私に向かってあいつを悪く言うのは

許さん。取り消せ。謝れ」

 

 

セリカの圧倒的存在感がハーレイを

あっと言う間に絡め取っていた。

 

 

「な、にを……グレンとか言う男が……

取るに足らない三流魔術師である……

のは事実……だろう……が……ッ!」

 

 

脂汗を垂らしながら、ハーレイは喉奥から

声を絞り出すように言う。

 

 

そんなハーレイをセリカは目を細めて

冷ややかに流し見る。

 

 

「お前にこれが受けられるか?」

 

 

見れば、セリカは左手に嵌めていた手袋を

ゆっくりと外しにかかっていた。

 

 

「——ッ!?」

 

 

セリカのその動作を見て取ったハーレイは

目に見えて狼狽し、青ざめた。

 

 

「わ、わかった……取り消す……私が……

悪かった……」

 

 

言質を取った瞬間、セリカはにっこりと笑い、

外しかけていた手袋を嵌めなおした。

 

 

「くそぉ……覚えてろよッ!」

 

捨て台詞を吐いて、ハーレイが学院長室を

逃げるように出て行く。残されたリックと

セリカの間にしばらくの間、沈黙が流れた。

 

 

 

「やれやれ。相変わらずおてんばじゃのう。

学院長室が吹き飛ぶかと冷や冷やしたわい」

 

 

呆れたようにリックはため息をついた。

 

 

「だが、セリカ君。

流石に今回の一件は君の差し金でも無茶だよ」

 

 

 

「……わかってるよ。本当にすまんと思ってる」

 

 

 

「なんの実績もない魔術師を強引に講師職に

ねじ込む。ハーレイ君に限ったことではない、

恐らくあの反応が学院に関わる者達の総意

じゃろうな……」

 

 

 

セリカは少しの間、押し黙ってから

迷いなく言った。

 

 

「責任は取るさ。アイツがこの学院で為す

ことやること、全て私が責任を取る」

 

 

「そこまでして彼を推すか……彼は君に

とってなんなのか……聞いていいのかな?」

 

 

「はは、別に浮いた話も、特殊な因縁もないよ。

ただ……」

 

 

「ただ?」

 

 

「あいつにはただ、生き生きとしていて

欲しくてな。まぁ、老婆心だよ」

 

 

 

セリカがそう言うとリック理事長に近づいて

 

 

 

「リック理事長…一つ聞きたい事がある」

 

 

 

「なんじゃ…セリカ君?」

 

 

 

リック理事長はそう言うとセリカは鋭い瞳で

 

 

 

「先程の転校生、『ウィル=オリバー』に

ついてだ」

 

 

「……」

 

 

「もしかして…あいつは…」

 

 

 

セリカがそう言うとリック理事長は顔を下に

俯きながら、

 

 

 

「そうじゃ…全てセリカ君の考えている

通りじゃ…彼は…軍から派遣された魔術師

なんじゃよ…」

 

 

 

「やはり…そう、だったか…」

 

 

 

セリカはそう言うとリック理事長は

申し訳なさそうな表情で

 

 

 

「すまないのう…」

 

 

「気にするな…私も知っているが魔術学院は

とにかく各政府機関の面子や縄張り争いが

うるさい魔窟だからな…『ウィル=オリバー』に

ついて私も少し調べてみるよ。だから安心しな、

リック理事長」

 

 

「すまんのう…セリカ君……」

 

 

「何を水臭い事を言っているんだ…

私とリック理事長の仲じゃないか?」

 

 

 

「そうじゃのう……」

 

 

 

二人はそう話しながら苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわー、見ろよ、ロッド、あの講師を……」

 

 

 

「あぁ、スゲェな……目が死んでる……」

 

 

 

「あんなに生き生きとしていない人を

見るのは初めてだ……」

 

 

 

教室のあちこちから、ひそひそと響く囁き声。

 

 

 

「で~~多分、こうだから~~きっと、

こんな感じで~~で~~大体、こうで~」

 

 

 

生徒達の蔑みきった視線の先では、

脳天に盛大なタンコブを乗せた男……

グレンがまるでゾンビのように緩慢な動作で

教鞭を取っていた。

 

 

 

「あぁ、ヒューイ先生はよかったなぁ……」

 

 

 

「ヒューイ先生、なんで辞めちゃったんだろ……」

 

 

 

端的に言えば、グレンの行う授業は

今までに見たことない最低最悪の授業だった。

 

 

とにかく、聞いていて授業の内容が理解

できない。そもそも説明になっていない。

だらだらと間延びした声で要領の得ない

魔術理論の講釈を読み上げ、時々思い出した

かのように黒板に判読不能な汚い文字を

書いていく。

 

 

 

(汚い文字だな…)

 

 

 

ウィルも含めた生徒達は授業の内容を

何一つ理解できなかったが、このグレンとか

いう非常勤講師が恐ろしくやる気がないこと

だけは理解できた。こんな授業は拝聴するだけ

時間の無駄であり、その時間を自分で教科書を

開いて独学した方がまだましだった。

 

それでもごくわずかに、この最低の授業から

でも何か得るべきものを得ようとする真面目で

健気な生徒もいた。

 

 

 

「あの……先生……質問があるんですけど……」

 

 

 

とある小柄な女生徒がおずおずと手を上げる。

 

 

 

名前はリン。少し気弱そうな、

小動物的雰囲気を持つ少女だ。

 

 

「なんだ? 言ってみな」

 

 

「ええと……先ほど先生が紹介した五十六

ページ三行目に載っているルーン語の呪文の

一例なんですが……これの共通語訳が

わからないんですけど……」

 

 

「ふっ、俺もわからん」

 

 

「えっ?」

 

 

「すまんな。自分で調べてくれ」

 

 

 

 あまりにも堂々とそんな風に返され、

質問したリンは呆然と立ち尽くしていた。

 

 

こんなグレンの対応に、元々腹を立てては

いたが、ますます腹を立てたシスティーナが

席を立ち、猛然と抗議した。

 

 

「待って下さい、先生。生徒の質問に対して

その対応、講師としていかがなものかと」

 

 

刺々しいシスティーナの糾弾に、

グレンは心底面倒臭そうにため息をついた。

 

 

「あのなぁ。だーかーら、俺もわからんって

言ってるだろ? わからない物をどうやって

教えりゃいいんだよ?」

 

 

「生徒の質問に答えられなければ、後日調べて

次回の授業で改めて答えてあげるのが講師と

しての務めだと思うのですが?」

 

 

「むぅ……だったら、やっぱ自分で調べた方が

早いんじゃねーか?」

 

 

 

「そういう問題じゃありません! 

私が言いたいのは——」

 

 

 

「……あ、ひょっとして、お前らってルーン

語辞書の引き方、まだ教わってねーの? 

それじゃ調べられんか……しゃーねぇ。

面倒だが、俺が調べておいてやるよ。

あーあ、余計な仕事増えちまった……」

 

 

 

「ぐ……辞書の引き方くらい知ってます!

 もう結構ですッ!」

 

 

どこまでもやる気ない態度を改めようと

しないグレン。

 

 

肩を怒らせて、荒々しく着席するシスティーナ。

それをはらはらした様子で見守るルミア。

教室内の雰囲気は最悪。クラス中で募る苛立ち。

無駄に流れる時間。

 

 

(暇だな…本を読むか…)

 

 

ウィルも自分のが持っていた本を開いて本を

読んでいた。こうしてグレンの記念すべき最初の

授業は、何も得る物のない不毛な時間の浪費に

終わったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレンの初授業終了後、学院の女子更衣室内にて。

身に着けている制服やケープ・ローブを

脱ぎ捨て、上下の下着姿となったシスティーナは

木製ロッカーの中にそれら衣類を叩き込みながら、

苛立ちのあまり吐き捨てた。

 

 

「まったくもう、なんなの⁉︎ あいつ!」

 

 

「あはは……まあまあ」

 

 

ルミアがあいまいに笑いながらなだめるが、

システィーナの怒りは収まらない。

 

 

「やる気なさ過ぎでしょ⁉︎ なんであんな奴が

非常勤とは言え、この学院の講師をやってる

わけ⁉︎」

 

 

「そうだね……グレン先生にはもうちょっと

頑張って欲しいかも」

 

 

次にシスティーナ達が受ける授業は錬金術実験

である。確かにシスティーナ達が普段、着用して

いる制服やローブは身体回りの気温・湿度調節

魔術——黒魔【エア・コンディショニング】が

永続付呪(エンチャント)されており、見た目以上に夏は涼しく

冬は暖かい、とても便利な代物だ。男性と異なり、

その生来の外界マナに対する親和性の高さを伸ばす

ため、魔術の習熟初期段階では薄着で過ごすことを

推奨される女性にとって、その制服は強い味方で

ある。

 

 

だが、錬金術の実験は実際に生徒達の手で

魔法素材を加工し、器具を操作し、触媒や

試薬を扱う授業だ。その実験内容によっては

衣服がひどく汚れたり、衣服に薬品の臭いが

移ったりしてしまう場合がある。それゆえに、

システィーナのクラスの女子生徒一同は

この更衣室に集い、実験用のフード付きローブ

に着替えている真っ最中であった。半裸になった

少女達の、瑞々しく張りのある肌。

 

 

子供から大人へと移行する思春期の少女特有

の艶かしくも清楚な身体の線。誰もが惜しげも

なくその若さの証をさらしている。年頃の男子

生徒達には目の毒過ぎる肌色のユートピアが

そこにはあった。

 

 

 

「はぁ……確か次の錬金術の実験も

アイツが監督するんでしょ?」

 

 

「うん、そうだよ。

グレン先生はヒューイ先生の後任だから」

 

 

「うぅ……胃に穴が開きそう」

 

 

その時、顔をしかめていたシスティーナが、

突然、何か思いついたかのようにほくそ笑んだ。

隣でするりと肌を滑らせて衣類を脱ぎ、下着姿

となったルミアを流し見る。

 

 

「これは……癒しが必要だわ」

 

 

「システィ?」

 

 

システィーナは戸惑うルミアに素早く近づき、

ルミアの背後から突然、抱きついた。

 

 

「えい!」

 

 

「きゃ⁉︎」

 

 

システィーナは思いっきりルミアのすべすべ

の背中に肌を密着させ、下着に包まれたルミア

の胸の二つのふくらみに手を当てた。

 

 

 

「あー、やっぱりルミアの身体は気持ち良いなー、

肌は白くて綺麗で、きめ細かくて」

 

 

「ちょ、システィ、だ、だめだよッ!」

 

 

甘える子猫のようにすりつくシスティーナの

腕から逃れようと、ルミアは顔を真っ赤にして

抵抗する。が、システィーナの腕は蛇のように

ルミアに絡みつき、逃げられない。

 

 

「きゃん! システィ、あっ、だめ!」

 

 

「むむむ……ルミア。

貴女、なーんか順調に育ってるわね……」

 

 

 

システィーナは掌に伝わってくる、

微かに芯のある柔らかな感覚が以前とは

微妙に変化している事実に眉根を寄せた。

ルミアの胸は大ぶりではなく、小ぶりでもない。

まるでルミアと言う少女の身長体格から精緻に

計算したかのような、理想の黄金比と造形美を

保った双丘だった。

 

 

「はぁ……良いなぁ、これ。

私はなぜか胸には栄養行かないからなぁ……

うぅ……癒しどころか私、なんだか落ち込んで

来たんだけど……」

 

 

「ちょっと……やめてってば、システィ。

そんなに強く……あ、あんッ!」

 

 

 

「あー、もう、羨ましいなぁ! 

ほれほれ、良いのはここかー? ん? ん?」

 

 

 

「ひゃんっ! い、いやっ! やめて……」

 

 

 

どうやら、こういう場で年頃の少女達の

やることなど同じようなものらしい。

 

 

 

「ず、ずるいですわ、テレサ! 

あなた、いつの間に——」

 

 

「うふふ、成長期ですから」

 

 

「わたくしを差し置いて、けしからんですわ!

ええい! こうしてやりますわ!」

 

 

「きゃっ! ウェ、ウェンディさんっ⁉︎」

 

 

 

更衣室のあちこちで似たような悩ましい光景が

展開されていた。女子生徒一同、きゃいきゃいと

姦しくも楽しげに騒いでいる。

 

 

 

だが、そんな少女達の前で、更衣室の扉が

突如、ばぁんと乱暴に開かれた。

 

 

 

「あー、面倒臭ぇ! 別に着替える必要

なんかねーだろ、セリカの奴め……ん?」

 

 

 

全開となった扉の外に、借り物の実験用ローブ

を肩に担いだ不審な男が立っている。

 

 

 

グレンであった。

 

 

 

扉から最も近い位置にいたシスティーナと

ルミアの二人と、グレンの目が合う。

 

 

三人とも無言で硬直。

 

 

そして、今まで半裸の少女達が妖精のように

戯れる楽園はどこへやら。突如、その場に

氷結地獄が展開され、時間すらも完全凍結し、

全てが沈黙した。

 

 

「……あー」

 

 

 

グレンは部屋の中をじっくりと見渡す。

そこに女子生徒達しかいないことを確認すると、

面倒臭そうに頭をがりがりかいて、更衣室の外の

プレートを見やる。

 

 

 

「昔と違って、男子更衣室と女子更衣室の

場所が入れ替わってたんだな……まったく

余計なコトしやがる」

 

 

 

その場に、なにやら凄まじい殺気が徐々に

渦巻きつつあった。その抗えない流れを前に、

グレンはうんざりしたようにため息をついた。

 

 

 

「やーれやれ。

これが最近帝都で流行の青少年向け小説で

よくあるラッキースケベ的な展開ってやつか? 

はは、まさか身をもって体験することになるとは

思わなかったが」

 

 

 

システィーナを筆頭に、ゆらりと少女達が

動きかけた。グレンは、それを威風堂々と

手で制した。

 

 

 

「あー、待て。お前ら落ち着け。俺は常日頃、

こんなお約束展開について物申したいことが

あってな。まぁ、聞いてくれよ。短い末期の

水代わりに」

 

 

少女達の動きが止まる。死刑囚も最後に

何か言い残すことは許されるのだ。

 

 

 

「俺、思うんだが……その手の小説の主人公って

馬鹿だよな? ラッキースケベ的イベントを発生

させた時点で、ヒロインにボコられるのはもう確定

してるのに、どうして慌てて眼を背けたり手を

引っ込めようとしたりするんだろってな。

たかが女の裸をちらっと一目見るのとボコられる

のが等価交換だなんて割に合わねーだろ? 

どう考えても」

 

 

 

そんな最低最悪な前口上の後、グレンはここに

高々と魂の宣言をする。

 

 

 

「だから、俺は——この光景を目に焼き

つけるッ!」

 

 

 

くわ、と。グレンは目を血走らせんばかりに

見開き、腕を組み、修羅の表情となって仁王

立ちし、眼前に広がる肌色成分多い光景を

凝視して——

 

 

 

「「「「この——ヘンタイ———っ!」」」」

 

 

 

その日、学士二年次生二組の女子生徒達による、

とある非常勤講師への目を覆わんばかりの凄惨

な校内暴力事件が発生した。

 

 

 

「何をやっているんだろう……?」

 

 

ウィルは頭を傾げながら遠くからグレン達の

やり取りを眺める姿はそれはまるでグレン達の

やり取りをサンプルデータとして観察する忠実

なる『傀儡』であり『機械』のようであった。

 

 

 

 

 

ちなみに、その日の錬金術実験は担当する

講師が人事不省に陥ったため中止となった。





最後まで読んで頂きありがとうございます‼︎


グレン達が登場させる事が出来たので本当に
良かったです‼︎


『評価』などの応援よろしくお願いします‼︎
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