『ロクでなし魔術講師と白き大罪の魔術師』を
読んでいただきありがとうございます。
更に【投票者】なんと『4人』もいました。
本当にありがとうございます‼︎
これからもロクでなし魔術講師と禁忌の魔術師の
作品の一つ『ロクでなし魔術講師と死神魔術師』
をよろしくお願いします‼︎
今回のウィルは純粋過ぎるお話です。
「痛ぇ……マジで痛ぇ……
こ、ここまでやるか? 普通……」
現在十二時過ぎ。昼休みの時間。全身引っかき傷と
痣だらけ、衣服ズタボロの姿となったグレンが、
涙目でゾンビのようによろよろと学院内廊下を
徘徊していた。
すれ違う生徒達が無様な姿のグレンを見て
ぎょっとするが、人の目を気にしている余裕は
今のグレンにはない。
「しっかし、最近のガキ共は発育が良いな……
一体、何を食ったらあんなにすくすく育つんだ?
……一人発育不良なのもいたけど。
まぁ、いいや、メシだ、メシ」
と、当の本人に聞かれたら命を落としかねない
恐ろしいセリフをつぶやきながら、グレンは
魔術学院の食堂へと足を運んでいた。
アルザーノ帝国魔術学院の食堂は、
巨大な貴族屋敷のような学院校舎本館の
一階に存在する。
出される料理は安くて美味しいと、
生徒達からは伝統的に評判がある食堂だ。
「ここを利用するのも久しぶりだなー」
食堂内には、白いクロスがかけられ、
燭台で飾られた長大なテーブルが何列もあり、
午前の授業を終えて食事を取りに来た生徒達で
混雑していた。
基本的に、食堂の利用者は奥の厨房カウンターで
料理を注文し、代金を支払って料理を受け取る。
そして、各自、自由にテーブルに腰かけ、
食事を取る。そういう方式だ。
グレンも奥のカウンターごしに、
食堂のコックに向かって料理の注文をした。
「あー、地鶏の香草焼き、揚げ芋添え。
ラルゴ羊のチーズとエリシャの新芽サラダ。
キルア豆のトマトソース炒め。ポタージュスープ。
ライ麦パン。全部、大盛りで」
グレンはいわゆる、
やせの大食いと呼ばれる人種だ。
おかげで無職のスネかじりだった頃、
セリカに何度嫌みを言われたかわからない。
しばらく待っていると料理ができ上がった。
グレンは皮袋の財布からセルト銅貨を
数枚取り出して給仕の人に手渡し、
木製お盆に乗せられた料理を受け取る。
「さて、空いている席は……と」
食事をする生徒達で賑わい、ほとんどの席が
埋まっていたが、向かって右端のテーブルの隅、
隣り合う席が二つほど空いているのが見えた。
誰かに席を取られてはかなわない。
グレンは早足でそこに向かう。
そして、ふと、気づいた。
「だからおかしいのよ、去年発表されたフォーゼル
先生の魔導考古学論文の説は。貴女もそう思わない?
ルミア」
グレンが座ろうと思っていた席の正面に、
見覚えある顔が二つ並んでいる。
「あの人の説だと、
メルガリウスの天空城が建造されたのは、
聖暦前4500年くらいになっちゃうの。
確かに次元位相に関する術式が古代文明に
おいて本格的に確立したとされているのが
古代中期なんだけど、フェジテ周辺で
多々発見された古代遺跡の壁画や、
発掘された遺物からすると、
聖暦前5000年にはもうすでに
メルガリウスの天空城らしきものが
空に浮かんでいたってされてるの。
この事実を無視して、魔導技術的に
不可能だからってだけで、4500年説を
ごり押しするのはどうかと思うわけ。
あの人が新しく考案した年代測定魔術は、
どうもこの500年を誤魔化すために
作られたこじつけのような気がしてならないわ!
机の上の思考や文献調査を過剰に重視するあまり、
フィールドワークをおろそかにしがちな現代の
魔術師らしい説ね。そもそも、古代中期の
次元位相術式で、本当に天空城が空に
隠されているのだとしたら、もうとっくに
時間切れになってるはずじゃない?
だって、当時の大気のマナ密度からして、
エクステンション限界が――(略)
――古代文明が滅ぶ切欠になった二度のマナの
冬もあったし――(略)
――マナ半減期の値だって矛盾――(略)
――そもそも表意系古代語の経時進化過程に
三つの素流分枝系統があるのは明らかで――(略)
――要するに紋章象徴学的な意味合いとしての
神と民間信仰の対立が――(略)
――テレックスの神話分解論でも古代文明が
単一文化じゃなくて――(略)
――(略)――(略)――」
「そ、そうなんだ……」
食事も忘れてひっきりなしにまくし立てる銀髪の
少女に、聞き手に徹していた金髪の少女――
ルミアが、少し脂汗を垂らしながらあいまいな
笑みを浮かべていた。
どうやら二人は魔導考古学議論の真っ最中
(やや一方的だが)らしい。
魔導考古学とは、超魔法文明を築いたとされる
聖暦前古代史を研究し、当時の魔導技術を現代に
蘇らせることを目的とする魔術学問である。
その中でも、特にメルガリウスの天空城に執心
する魔術師達をメルガリアン、などと呼んだりする。
どうやら、あの銀髪の少女は典型的な
メルガリアンのようだった。
「失礼」
一応、一言断って、グレンは金髪の少女の正面、
銀髪の少女の対角線上の席に、どかっと腰を
落ち着けた。
それで銀髪の少女はようやく我に返り、
グレンの存在に気づいたらしい。
「――ッ⁉︎ あ、あ、貴方は――」
「違います。人違いです」
「システィ……うるさいし、料理に埃が入る」
「ご、ごめん……ウィル……」
勢いよく席を立ち上がったシスティがグレンに警戒
しているとウィルがシスティに鋭く冷たい視線を
向けて言うとシスティーナはウィルの言葉を聞いて
悪く思ったのかしゅんとしていた。
すると
「そうだ‼︎ そうだ‼︎
食事の時ぐらい少し静かんできねェのかよ?」
「貴方にだけは言われたくありません‼︎
それに貴方は生徒の背後に隠れながら言うなんて
それこそ恥ずかしくないんですか‼︎」
システィがグレンにそう叫ぶのも無理はない今、
グレンはみっともなくもウィルの背後に隠れて
システィーナに文句を言ってるまさにダメ人間の
見本の極みそのものの形だった。
「美味ぇ。なんつーか、この大雑把さが実に
帝国式だなぁ……」
「だ か ら 、私の話を無視しないで下さい‼︎」
システィーナは大きな声でグレンに言うが
システィーナの話を全く聞いておらずただキルア豆
のトマトソース炒めをスプーンですくって口の中に
含んでいた。
唐辛子とニンニクが効いたトマトソースの風味が
実に良い。一方、先刻の事件からこの矢先、
グレンのこのふてぶてしい態度に銀髪の少女――
システィーナはまるで小動物みたいに威嚇をさせる
しかなかった。そして、かちゃかちゃ、と食器が
鳴る音が響いていく。
意外なことに、重苦しい沈黙のまま進む、
気まずい食事風景……とはならなかった。
「あの……先生ってずいぶん、たくさん
食べるんですね? ひょっとして食べるの
好きなんですか?」
「ん? ああ、食事は俺の数少ない娯楽の一つ
だからな」
「ふふっ、その炒め物、すごく美味しそう。
なんだか凄く良い匂いします」
というのも、グレンの登場により、すっかり
不機嫌そうに押し黙ってしまったシスティーナに
代わり、なぜかルミアが積極的にグレンへと話し
かけるからだ。
あからさまに敵意を向けてくるシスティーナと
違い、このルミアという少女は、どうやら先ほど
の事件をあまり禍根に思っていないようである。
そう言えば、さっきもグレンに対する折檻には
参加してなかったようだった。
「お、わかるか? ちょうどこの時期、「学院に
今年の新豆が入るんだよ。更にキルアの新豆は香り
が良いんだ。これを食べるなら今が旬ってやつって
グレン先生は言いたいんじゃないのかな?」」
グレンは自発的に人に話しかけるタイプでは
ないが、話しかけられればそれなりにきちんと
応じるタイプである。そしてキルア新豆の事を
話そうとしていたらウィルはグレンの言いたい事
を全てを目の前で話していた。
(こいつ……どうして?)
グレンが考え込んでいると二人の会話が
どんどん進んでいく
「そうなんだ? じゃあ、私も今度、キルア豆の
炒め物、食べてみるね」
「だったら今、グレン先生の学食のキルア豆の
トマトソース炒めを一口もらったら?」
「え? で、でも……いいのかな?
私と間接キスになっちゃうけど?」
少し心配そうな表情をしていたルミアを見た
ウィルだが、そんな事を気にせずに視線を
グレンに向ける。
「別に構わないですよね ?グレン先生?」
「ふん……ガキじゃあるまいし」
呆れたように肩をすくめ、グレンが豆炒めの皿を
差し出す。ルミアは嬉しそうに自分のスプーンで
一杯それをすくって口に含んだ。
ルミアの気安く人懐っこい物腰や、常に笑みを
絶やさない柔らかな雰囲気も手伝ったのだろう。
グレンも気づかないうちに口元を笑みの形に
緩めていた。
「…………………」
だが、その場においてただ一人、重苦しい雰囲気を
放つ少女がいる。システィーナである。彼女だけは
ルミアとグレンの談笑に参加せず、ただ刺々しい
視線でグレンを射抜き続けている。
「……ところで、そっちのお前。
お前は…と言うか、お前は確か……ウィル、
だっけか? お前はそんなんで足りるのか?」
流石にそこまで凝視されている中グレンはため息
混じりにウィルに話しかける。グレンが心配する
のも無理もなかった。何故ならウィルのテーブルの
上にあるのは『何の味付けもしていない丸いパン』
と『牛乳』ただそれだけだったのだ。
そんなグレンの言葉にシスティーナもウィルの
テーブルに乗っている自分よりも少ない量を見て
かなりの動揺でウィルに言葉を投げる。
「ウィル……貴方それだけで足りるの⁉︎」
「?」
システィはウィルに質問するがウィルはただパン
をむしゃむしゃと口に頬張って首をただ傾げる
だけだった。
「それとも……ま、まさか‼︎」
だが、ウィルのこの反応が更に誤解と混乱を
招くこととなる。
「ウィル、貴方……先生にお金を取られたの?」
「へ?」
「は、はぁ⁉︎」
システィの酷い勘違いの言葉にウィル頬張っていた
パンを外してシスティーナを見て首を傾げて一方、
グレンは椅子をガタリと勢いよく音を立てながら
倒して
「おいおい‼︎ 何でそんな展開になったんだ⁉︎」
グレンがシスティーナに抗議していると
「先生の日頃の行いが悪いせいじゃない
んですか?」
「んだと‼︎」
グレンは席を立って少女二人の前の食事に眼を
向ける。ルミアのメニューはポリッジと呼ばれる
麦粥と、香辛料の効いた鳩のシチュー、そして
サラダ……ルミアが比較的しっかり食べているのに
対し、システィーナのメニューはレッドベリージャム
を薄く塗ったスコーンが二つ、それだけである。
「だいたいお前、成長期だろ?
ちゃんと食わないと育たないぞ?」
実際に育ってねーし、とはこの状況において
流石のグレンも言えなかった。
「余計なお世話です。私は午後の授業が
眠くなるから、昼はそんなに食べないだけです。
真面目ですから。まぁ、先生にはそんなこと、
関係なさそうですけどね」
システィーナはグレンの前に並んだ大量の料理を
一瞥して言い放った。
「システィ……今のシスティを他の人が見たら
間違いなく性格が悪い人に見えるよ?」
ウィルはシスティにそう言うとシスティは
はっ‼︎ とした表情をして
「ち、違うのよ‼︎ 私はただ‼︎」
ウィルがシスティーナにそう言うとシスティは
顔が真っ赤になってウィルやルミア、そして
他の学院の生徒達に必死になって弁明をしていた。
すると、いつのまにかグレンとシスティーナの
間の重たい空気がウィルの一言で一瞬にして
消えいた。
すると
「……回りくどいな」
食事を続けるグレンの声が半オクターブ下がり
面倒くさそうに頭をガリガリと掻いている。
敏感にそれを察知したシスティーナの表情に
緊張が走った。
「言いたいことがあるなら、はっきり言ったら
どうだ?」
「……わかりました。
このままだとお互いのためになりませんからね。
この際、はっきりと言わせてもらいます。
私は――」
システィーナが、きっとグレンを正面から
にらみつけて何か言いかけて……
「わかった、わかったよ。降参だ。
そんな必死な顔すんなって」
「……え?」
グレンが突然、両手を上げた。
「そこまで思い詰めていたとは、流石の俺も
予想外だよ……俺の負けだ」
あっけに取られるシスティーナを前に、グレンは
スプーンでキルア豆を一粒すくうと、それを
システィーナの口の中に入れた。
「ほれ、お前も食いたいんだろ?
そんなにたくさんあるんだから少しくらい
分けろ、だろ? ……まったく、いやしんぼめ」
呆れたようにシスティーナを流し見て、
グレンは食事を再開した。
「……ち、ち、違いますッ!
私が言いたいのはそんなんじゃなくて――」
グレンのひどい勘違いに、システィーナは顔を
真っ赤にして屈辱に肩を震わせ、机を叩いて
立ち上がる。
だが、グレンはそれに一向にかまうことなく――
「代わりにそっちも少し寄こせ」
フォークを伸ばし、ざくりと、システィーナの
スコーンの一つに突き立て、あっと言う間に
かっさらった。
「うむ、
たまに食うとスコーンも美味いな……」
「ああ――――ッ⁉︎
何、勝手に取ってるのよ⁉︎」
「いや、まぁ、等価交換?」
「ど こ が 等価なの⁉︎
どこが!? ええい、もう許さないんだから!
ちょっとそこに直りなさい――ッ!」
「うぉわッ⁉︎ 危っ⁉︎ ちょ、おま、
お食事はお静かにお願いします――ッ⁉︎」
テーブルごしにナイフとフォークでチャンバラを
始めるグレンとシスティーナ。
何事かと集まる周囲の痛い視線。
ルミアはそれを苦笑いで見守るしかなかった。
するとウィルは一人だけ意味が分からないといった
表情を浮かべていた。それをルミアだけは
見逃さなかった。
「どうしたの、ウィル君?」
「ルミア……僕は分からないんだ……」
「分からない……? 何が分からないの?」
ルミアがウィルに聞くとウィルはルミアの顔を見て
「だって、二人共、たかが食事にあんなに熱く
なってる意味が全く分からないんだ……」
ウィルがそう言うとルミアはウィルに
「それはね、みんなで食事をすると美味しいし、
みんなで食事すると親睦を深めることもできる
からだよ‼︎」
ルミアが笑顔でウィルにそう言うとウィルは
何かを考え込んでいた。そしてウィルはルミアを
見て
「じゃあ、早速試してみよう」
「え?」
「だって、誰かと食事をすることによって
僕が知りたい疑問の答えが分かるんでしょ?
だったらルミア僕と一緒に食事をしてみたい
んだけど……駄目かな?」
ウィルはしゅんとしていた。
それは、まるで捨てられた子犬の様な
表情を浮かべていた。
「そ、そんなことないよ‼︎ 私もウィル君とは
もっともっと、仲良くしていきたいと思って
たから‼︎」
「…本当に? 本当に迷惑じゃない?」
「うん、大丈夫だよ‼︎」
ルミアが笑顔でウィルにそう言うと ウィルは
安心した表情を浮かべていた。そして二人は
別の席で食事をした。
因みにその食事以降二人は親睦が深まり仲良く
なったそうだ。
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