夜は極寒となるセクメーア砂漠に二つの影があった。ディアボロスを討伐するためにやって来たCyacyeとSeymourである。普段Cyacyeは、Seymourのクエストを手伝うことをあまりしない。それが兄妹のルールであったし、何より兄がソロハンターで集団での狩りをあまり好まないからだ。
本当は適当にGulenかMIHARUを誘うつもりだったが、断られてしまった。あの金髪が言うにはどうしても今日外せない用事があるらしい。
「Seymour」
「…あ、何?兄さん」
いけない、長い間考え込んでいたらしい。
「クエスト中だ、気を逸らすな」
「分かってるわ、ちょっと考え事してたの」
そうか、と短い返事を残して兄さんはキャンプ奥の枯れ井戸へ向かった。どうやら二手に別れて行動するようだ。その方が効率はいいけど本当は兄さんと一緒に行動したかった。兄さんはハンターとして尊敬しているし、何より同じ太刀使いとして少しでも戦闘を見て参考にしたい。だから今回はあの言い訳が下手くそな金髪の彼に感謝している。彼が断ったおかげで久しぶりに兄さんとクエストをこなせるし、兄の太刀捌きを見る機会が出来た。自分より上手いハンターの戦いほど勉強になるものは無い、それに今や兄はMIHARUやGulenとともに白き神ウカムウルバス討伐しフラヒヤの村々を救ったハンターだ。参考にならないはずが無い。
ウカムルバスを討伐してからというものあの3人は有名人になった。いや、現実にはMIHARUとGulenと一人の男…なのだが。月刊「狩りに生きる」には、まさに英雄扱いで3人は紹介されていた。しかし、兄の写真が載っていなかった、というより、載ってはいるものの顔は判別できなかった。元々顔が隠れる装備であったし、後ろ姿しか写っていなかった。インタビューコメントも2人に比べて随分と短かった気がする。
「まぁ、兄さんらしいと言えば兄さんらしいかな」
そのおかげで謎の男だの見せられないような顔なのではだの訳の分からない噂が立ったこともある。残念ながらあのグループは顔面偏差値が高い、妹ながらにそう思う。そうやって思考を巡らせながら散策していると上空の気球から信号が発信されていた、どうやら兄が標的を見つけたらしい。こうしては居られない、すぐに向かってあの太刀捌きを目に焼き付けるとしよう。
「終わったな、これで上位のキークエストは埋まったのか?」
「残念ながらまだいくつか残ってるの」
「そうか…残りは自力で頑張るんだな。」
「分かってるよ、兄さん」
討伐を終える頃には夜になっていた。後は捕獲したモンスターをギルドに引き渡すだけだ。 「急ぐ必要は無い、少し休んでから帰る支度をしよう。どうせ出発するのは日が昇ってからだ」
そう言うと兄さんはキャンプ場へ足を向けた。砂漠の青白い月明かりに照らされた兄の肌は女の私より白かった、何と無くそれが私たちの地の繋がりの無さを感じさせて兄が遠い存在に思えた。
「Seymour?どうした、戻るぞ」
「あ、ごめん」
どうやらまた立ち止まってたようだ。こちらを振り返ったまま兄は動かない。
「どうしたの?早く行こうよ」
「手」
「え?」
「手を貸せ」
意味が分からないまま手をだすと、兄がその手を握りこんで歩きはじめてしまった。
「え?…え!?」
「こうしていると昔のことを思い出すな」
昔のこととは、まだ町にいたころの話だろうか。
「お前はすぐ道端で足を止めてしまって、よくはぐれた覚えがある」
覚えている、まだ小さかった頃兄に手を引かれながら歩いたことを。
「俺はお前の兄だ、それ以上でもそれ以下でもない」
「………?」
「勝手に居なくなったりはしないってことだ。」
どうした足を止めていた理由が見透かされていたらしい。何だか嬉しくて私は兄の手を握りかえした。
「あ、」
「どうした?」
「見て、星が流れてる」
「……流星群か」
そらいっぱいに広がる星々、それはまるで天から降りそそぐ雨のようだった。
「あの時も、月明かりの綺麗な夜だったね」
「ああ、そうだったな」
それからしばらく2人で流星群を眺めていた。何か話すわけでも無く、いつの日か読んだ本のように願い事をするわけでもなく、ただただ星を見つめていた。その時間がが私にとって堪らなく幸せだった。
「あぁ、そうゆうことか」
だからGulenは、クエストに同行するのを断ったんだ。MIHARUのこの空を見るために。いつも気前よくクエストに参加する彼が断ったのには、こんな理由が隠されていたんだ。
きっと2人も同じようにこの空を眺めているに違いない、そして同じように彼らなりの幸せな時間を過ごしているんだろう。何と無くそう思った。帰ったら一応礼をしなければ、星と同じ金色の髪をもつ彼に、こんな素晴らしい時間を過ごさせてもらったのだから。
ありがとう、と
私たちには、会話なんていらない。ただ一緒に居られるだけで幸せだから。
願い事なんか必要ない、私の想いを叶えてくれる兄と仲間がいるから。
だから私は心からこう誓う。いつしか私も同じ場所に立って仲間を支えれるほどに強くなると。
今度は私が、あなた達に幸せな時間を贈るから。
待っていて