その日、ユーノは久しぶりに我が家へと帰ってきていた。
エクリプス関係の問題はあれど、ユーノの努力の結果、無限書庫は相当整理が行き届くようになっており、よほどのことがなければ司書長であるユーノが出張る必要もなくなってきた。
それに、重要参考人が何人も連行され現在六課も一段落したため、余裕も出てきたのもあるだろう。
「ん~、今日はゆっくりとお風呂に入って、たっぷり寝よう」
ふっふっふ、とユーノは笑う。久しぶりの休みなのだから存分に羽を伸ばそうとしていたら、ピンポーンとインターホンが鳴った。
「はーい?」
折角の休みなのに、誰だろうと思ってユーノは応対のために玄関へ向かう。そして、ドアを開ければ……
「お久しぶりですね師匠」
落ち着いた声。茶色いショートカットに蒼い瞳以外は自分のよく知る幼馴染と殆ど変らない姿。
「シュ、シュテル?」
そこに遥か遠き地に旅立った星光の殲滅者、シュテル・ザ・デストラクター(大人.ver)が立っていた。
とりあえず、シュテルの登場にユーノは混乱しながらも彼女を部屋に招き入れた。
「へえ、エルトリアからこっちに来ることができるようになったんだ」
「ええ、まだ長い時間は無理なのですが」
そう、エルトリアの環境もだいぶ環境改善が進んできた。おかげで彼女たちも少しの間ならエルトリアから離れることができるようになった。といっても長くて数日程度ではあるが。
「他のみんなは?」
「今は特務六課にいますよ」
みんな元気ですとシュテルは笑った。
一方特務六課。
「へイト、僕と勝負だー!」
「だから、私はフェイト!」
相も変わらずアホの子なレヴィに突っ込むフェイト。
「あ、もしかして、フェイトさんの生き別れの妹さん?!」
「違うよ?!」
半泣きになってフェイトはエリオの勘違いを否定する。まあ、そっくりではあるからそんな勘違いをされても仕方ないこともないが。
「久しぶりですねトーマ、リリィ」
そして、ユーリは数少ないこっちの知人の一人であるトーマとリリィに挨拶していた。
「えっと、ごめん、だれだっけ?」
だが、あの出来事を夢として処理されてしまっていたトーマにとってユーリは見覚えはあるものの、名前も知らない女の子としか捉えられなかった。
誰だったかなと必死に思い出そうとするものの、霞がかっていていてしまい思い出せない。
「そんな、私のこと忘れちゃったんですか?」
「そ、そんなこと言われても……」
うるうるとトーマを見つめるユーリにトーマは罪悪感で右往左往してしまう。
「おのれ、あの塵芥、いつの間にユーリを籠絡したのだ?!」
「雛鳥はいつか巣出つもんやで」
誤解し歯軋りするディアーチェにはやてはにやにやと勘違いを助長させるような発言をする。
もしかしたらおもろいことになるかなあとはやてはほくそ笑む。
「あれ? シュテルどこいったのかな?」
そして、一人相手がどっかに行ってしまったなのはは少し寂しそうだった。
六課は賑やかだった。いろんな意味で。
ふーんと相槌を打ちつつユーノはコーヒーを飲む。
「ところで、その姿は?」
「これは、私たちも成長するようでして、それでいつの間にかここまで大きくなっていました」
えへんと自慢げに、いつの間にか大きくなったなのはと同じくらい豊かな胸を張る。
へえっとユーノは驚いてから、そういえばヴィータも闇の書の呪縛から解き放たれてからちょっとだけ背が伸びたと喜んでいたことを思い出した。
「エルトリアの状況はどうかな?」
「少しずつですが、人の住める環境は整ってきています。死蝕に関してもだいぶ対策が進んできていますね」
「そっか、ちょっと安心したかな」
「みんなの努力の成果です。ところで師匠、約束を覚えていますか?」
と、唐突にシュテルはそんなことを言いだした。
「約束?」
果てなんだったろうかとユーノは記憶の糸を辿る。だが、あの時の記憶はなぜだかはっきりとは思い出せない。ユーノは覚えてないが、
それも記憶操作の弊害だった。時間操作という超技術を隠蔽するために、大まかな記憶は残っているものの、細部は曖昧にされている。
いつかの再会ではなく、なんかあっただろうか?
「手合わせの約束です」
「あー!」
シュテルの言葉にユーノはやっと思い出した。かつてシュテルはユーノに負けたときにいつか師匠越えを果たすと宣言していたのを。
「できればすぐにでもお願いしたいのですが」
今度は負けませんとシュテルは自身満々に宣言する。
「僕、実戦を離れてだいぶ経つんだけど……ま、いっか」
せっかくエルトリアくんだりからやってきたのだ。無碍にするわけにもいかない。
それに、シュテルにとってどうやら自分は越えるべき山のようであるし、それなら果たさせてあげようとユーノは電話を取る。
「もしもし、僕なんだけど、ちょっと訓練室貸してくれないかな? うん、ありがとう。この埋め合わせはいつか精神的に」
と、昔馴染みに頼んで、訓練室をユーノは借りたのだった。
翌日、久しぶりのバリアジャケットの感触を懐かしみながらユーノは準備運動をする。普段から遺跡探索などで体は動かしているものの、こういうのは久しぶりだから念入りに。
そして、準備を終えた二人は向かい合って構える。
「師匠、戦う前に一つ提案があります」
「提案?」
はい、とシュテルは頷いてその提案を述べた。
「負けたら勝った方の言うことを聞くなんてどうでしょうか?」
「はは、それはいいね。楽しみだよ」
答えながらもユーノは自分が勝つ姿を想定していない。故にシュテルがどんなことを言うのかを想像した。
真面目な彼女はいったいどんなことを言うのだろうか? なんとなくイメージ的に本を読んでそうだからなにか本を貸してほしいと頼むのか。それともエルトリア関係か。
「では、いざ!」
そして、ユーノがいろいろと想像を膨らませていたら、シュテルが飛び出す。
「ブラストファイアー!」
「プロテクトスマッシュ!!」
シュテルvsユーノ、次元を超えて師弟対決の火蓋が切って落とされた。
「真・ルシフェリオン・ブレイカー!!」
「うわあ!!」
ブレイカーの炎にユーノは飲み込まれる。
結局、ユーノの想像通りにこの戦いはシュテルの勝利であった。
ユーノの十年以上のブランクもあるだろうが、それ以上にシュテルの成長が大きかった。
「はは、負けちゃったね」
「ですが、流石は師匠です。容易には勝たせてくれませんでした。本当に十年間前線から退いていたなんて思えませんよ」
楽しそうにシュテルは答える。その顔には爽やかな笑顔が浮かんでいる。
やっぱり、シュテルの表情は大きく変わらないものの割りとコロコロ変わる。そこらへんも常に笑顔のなのはとの違いかななんてユーノは観察する。
そう言う意味では外見は似ているけど、なのはとはまた違った魅力を持った女の子なんだよなあとユーノは思っていた。
「じゃあ、約束だね。どんなお願いかな。僕にできることならなんでもするよ」
ユーノの言葉にシュテルは考えて、それからちょっとだけ頬を赤らめる。
「で、では師匠の自宅に戻ってからでお願いします」
なんで家に? それに、なんで頬が赤くなったのかな? とユーノは不思議に思った。
この時、もう少しその理由を踏み込んで考えていれば……いや、すでにシュテルの提案に頷いた時点でユーノは手遅れだったのだ。
「では、師匠、お願いがあります」
「うん、なにかなシュテル?」
自宅に戻ったユーノはシュテルからのお願いを聞こうとしていた。
そして、ちょっとだけシュテルは躊躇してから、
「そ、その、私と結婚を前提にお付き合いしていただけませんか?」
「うん、わかった」
シュテルのお願いにユーノは普通に承ってから……固まった、
今、シュテルはなんていったかな? 結婚を前提にお付き合い? あまりに唐突な言葉にユーノは混乱する。
いや、まて、今自分はそれを受け入れる発言をしてしまっていたよね?
「あ、あの、シュテル、それはちょ、ちょっと……」
慌ててユーノはシュテルの発言に待ったをかけようとしたが、
「なんでも聞くといいましたよね?」
「うっ」
「それに頷きましたよね?」
「ううっ!」
シュテルが一個一個ユーノの逃げ道を塞ぐ。さらには、
「ルシフェリオン」
『All right.
〈負けたら勝った方の言うことを聞くなんてどうでしょうか?〉
〈はは、それはいいね。楽しみだよ〉
〈そ、その、私と結婚を前提にお付き合いしていただけませんか?〉
〈うん、わかった〉』
しっかりとデバイスのルシフェリオンに録音されていた。
「はい、謹んで承ります」
逃げ道を塞がれたユーノは粛々とシュテルに頭を下げた。
そして、シュテルとユーノのお付き合いが始まった。残念ながらまだ二人とも責任のある仕事を預かっている身であるために一ヶ月に一度会える程度ではあったが、ゆっくりとお互いのことを知っていった。
ごくたまに魔王様が二人の襲撃を行ったものの、それもユーノとシュテルによってなんとか撃退されている。
「実は、初めて会った時からお慕いしていたのです」
「そうなの?」
はいとシュテルは頷く。
「恐らく、ナノハが最初から持っていた好意に引きずられてしまったのもあるのでしょうが、あなたが私を撃ち落とした時からはっきりとあなたのことを意識しました。『この人しかいない』と」
シュテルのまっすぐな告白にユーノは恥ずかしそうに頬をかく。あの時点でシュテルが自分のことを思っていてくれたなんて想像すらできなかったのだ。
「僕はシュテルほどはっきりとした思いはなかったと思うな。最初は君にとって失礼なことだろうけど、『なのはによく似た女の子』程度の認識だったと思う」
そのユーノの告白にそうですかとシュテルは頷く。
人間の第一印象は良くも悪くも容姿に左右されてしまうのだから、自分の姿がナノハを基にしている以上仕方のないことだとシュテルは納得する。
「だけど、また会って、君と付き合うようになってから変わっていったかな。なのはとは違う魅力あふれる女の子だってわかったんだ。君がそばにいてくれて今の僕は幸せだよ」
そっとユーノはシュテルの手を掴む。
「ありがとうシュテル」
「私こそありがとうございます。ユーノ……いえ、あなた」
きゅっとシュテルがユーノの手を握る。その手にはきらりと光る結婚指輪。
そしてユーノは空を仰ぎ見る。ああ、いい青空だなあと。エルトリアの空を。
ユーノ・スクライア二十八歳、三年間のお付き合いの末にシュテルと結婚。無限書庫司書長を辞任した後にエルトリアに移住する。そして、エルトリア復興に尽力する。
Fin.
「Fin.じゃないのー!!」
「だ、誰かなのは抑えるの手伝ってーーーー!!」
映画でシュテルンの活躍を見て昔他所で投稿したものを出してみたいと思いました。
できれば続きも出したいかなあっとも。