ユーノが無限書庫で仕事をしていたある日のことだった。
「おーい、ユーノー」
幼馴染の聞きなれた声と同じ、だけど、ずっと明るい声が聞こえた。
振り向けばそこに、やはり幼馴染と顔立ちは同じだけれども、髪の色が違ってどこか幼く見える女性がユーノに向かって飛んできていた。
「あれ、レヴィ? どうしたの? 今日はシュテルがくるって聞いていたんだけど」
「うん、実はシュテルンが手を離せない用事ができてな、僕が代わりに来たんだ」
無限書庫なんて場所に似合わないレヴィが来たことへの疑問にレヴィは元気に答える。
レヴィはマテリアルの中でも特に元気な少女だ、いっそ幼いとすらいえる。体つきは大人のそれだが、どこか小動物みたいな愛嬌があった。
「そうなんだ。わかったシュテルに渡すはずの資料ちょっと出してくるね」
「うん」
そうしてシュテルに渡すはずだった資料を探していると、じーっとレヴィがユーノをみつめていた。
「ど、どうしたの僕の顔をじっと見たりして?」
普段ならなんか騒がしそうな少女である。遊ぶものがない無限書庫で暇だから色々と話しかけてきたりするのだが。
「ねえ、ユーノって付き合っている子いるの?」
「はっ、ええっ?!」
突然で思わぬ相手の予想外の問いにユーノはすっとんきょうな声をあげてしまった。一方のレヴィは普段通りの顔だ。
「ねえ、どうなの?いるの?」
「あ、その、いないかな?」
しどろもどろにユーノは答えると、それにそうかそうかとレヴィは頷く。バクバクと鳴り響く胸を抑えるユーノ。
さすが雷刃の襲撃者。不意打ちはお手のものだ。
「い、いったいどうしたの?」
「んっ? なんでもないよ。ちょっと気になっただけだから」
とレヴィは答えるが、実際のところはシュテルのためだ。なにせ彼女はしきりにユーノのことを気にしているのだから、流石のレヴィにも彼女がどんな思いを抱いているのか理解している。
そこでシュテルが面として聞きづらいであろうことをユーノから聞くために自分だけで赴いたのだ。
「なあなあ、じゃあユーノはどんな子が好みなんだ?」
「ぶっ!」
さらに畳み掛けるようにレヴィが質問を重ねる。
ユーノが気になるシュテルのためにも少しでも情報を得ようという、レヴィなりに彼女を思っての問いかけである。
「ねー、どんな子ー」
「ちょ、ちょっと待ってレヴィ!」
隣からレヴィにユーノは揺すられるが、ユーノは突然かつこれまであまり考えていなかった問いにマルチタスクを総動員して考える。おかげで机の上に置いただけのはずの資料を捜す効率が駄々下がりになってしまった。
「えっと、元気で一生懸命な子、かな?」
そうして出たのは無難な答えだった。
ふむふむとレヴィは頷く。
「元気で一生懸命な子かあ。つまり僕みたいな子が好みなんだな!!」
と、再びレヴィが誇らしげにどや顔をする。
「え、あ、うーん。まあそういうことでいいよ」
まあ確かに元気な子だ。以前マテリアルズをクラナガンに案内した時ははしゃぎすぎて迷子になったくらいだ。それに仲間のためになら一生懸命になれる。確かに今のユーノの言葉に合致する少女だ。
「そうかそうか!」
それにレヴィはさらに得意げな顔になる。適当に言ったんだが本人が嬉しそうだからいっかとユーノはレヴィの言葉をスルーすることにした。
まあレヴィに対する感情は今のところ異性としての好意ではなく、こう、年下へ向けるようなものだろうか。ヴィヴィオの時に似ていて、なんとなく妹がいたらこんな感じなのかとユーノは考えた。
だが、すぐにレヴィはんっ? と首を捻る。むむむっと唸ってからガバッと顔を上げた。
「それは困るぞユーノ!」
「えっ? レヴィが困るの?」
「違う! 僕じゃなくてシュテルンが......むぐっ!」
シュテルの名前を出して慌ててレヴィは口を抑える。危ない危ない。危うくシュテルの気持ちを自分が言ってしまうところだった。これを自分の口から言うわけにはいかない。
むうっとレヴィは悩む。どうしたものか。悪魔でもシュテルのために聞いたのにこれでは役に立てない。
どうしたものかとレヴィは悩んで、
「はい、これがシュテルに渡す資料」
「ん、ああ、ありがとう」
すっかり忘れていた資料を受け取ってレヴィはしまい込む。
「ふう、僕もそろそろ上がろうかな」
こきこきとユーノは肩を鳴らす。それにきらーんとレヴィは目を光らせた。
「ユーノ、仕事はもう終わりなの?」
「え? うん。今日はシュテルが来るまで残っていただけだしね」
よしよしとレヴィは頷くと、ユーノの手を取る。
「よし、今日はこの後僕と遊べぇ!!」
「ええ~~~~?!」
レヴィは考えた。どうすればシュテルにとって有益な情報を得られるのか。そうして思いついたのは、ユーノと一緒に遊びに行って彼の好きなものを知るということだった。
好きなご飯に趣味も知れる。そのうえ僕も楽しい。まさに一石二鳥の作戦。さすが僕! と心の中で自分を褒め称える。
というわけで暗い無限書庫から、賑わうクラナガンの中央駅忠犬ザッフィー像広場へと二人は移動していた。
「よしユーノ! 腹が減っては遊びはできぬということでご飯食べよう! ユーノは普段どんなお店行くんだ?」
「え? うーん、サ〇ゼかな」
安くてうまい!独身男の味方サイ〇リア。
二人だからかするっと入れた。それぞれドリアとハンバーグを注文して待っている間にドリンクバーで飲み物を補充する。
その時、レヴィはユーノが半分ずつジュースを入れていることに気づいた。
「なあユーノ。なんで飲み物混ぜるの?」
「これはねマッドドリンクといって自分好みのドリンクを作る楽しみなんだよ」
それにおおーっとレヴィは目を輝かせる。マッドドリンク、もしくは闇の錬金術とも呼ばれる。さっそくレヴィも真似しはじめる。
オレンジにコーラにサイダーにカフェオレに……いろいろと混ぜて混沌とした色へとなる。だが、レヴィは満足げな顔である。
「うん、僕の好きなものを全部入れたから絶対美味しいぞ!」
「そ、そうだね……」
そんなわけないとその色にツッコミを入れたかったが、あえてユーノは見守ることにした。人間、手痛い教訓がなければ学ばないのだ。
決して面白そうだからではない。断じて。
そして、さっそくレヴィはコップを呷り……
「ぐふっ?!!」
ばたんと音を立ててテーブルに撃沈する。
「うう、まじゅいいい」
「こういうこともあるからほどほどにね。まずは二つくらいから試した方がいいよ」
ちゅーっと無難な組み合わせにしたユーノは微笑ましくレヴィを見つめ、この遊びのコツを教えるのであった。
そんな風にドリンクバーで遊んでいるうちに料理が運ばれてくる。パチパチと肉汁が弾けるハンバーグに湯気を立てるドリアが二人の前に並ぶ。
「うわー、おいしそうだな!」
「そうだね。いただきます」
食べ始めると、うまいうまいとレヴィはハンバーグにがっつく。やっぱり子供っぽいなあと思いながらユーノがドリアを口に運んでいるとレヴィがじっとドリアを見ていた。
「食べたいの?」
「うん!」
人が食べているものの方が美味しく見えることはよくあること。
少し考えてから、はいっとユーノがスプーンを差し出すと、レヴィはぱくんと迷いなくそれを咥えた。
「うん、おいしいぞユーノ!」
嬉しそうにレヴィは笑う。なんかいつもと違う賑やかな食事。でも、それも悪くないかもなとユーノは思い、笑う。
「じゃあ、僕からもだ! はい、あーん!!」
と、レヴィがハンバーグの欠片を乗せたフォークをユーノへと差し出す。
「え?!」
流石にこのお返しは想像していなくて、狼狽えるユーノであった。
そうして腹ごなしをしてからクラナガンの街を歩く。どこかレヴィが楽しめる場所はないかと探していると、映画館が目に留まった。そこには『魔法少女リリカルなのは』の文字。
「あ、そういえば、今はレヴィ達の映画やっているんだっけ」
「え?僕たちの映画?!」
正確に言えば人気の高いなのはたちの過去の事件を題材にした映画だ。数年前に闇の書編が公開し、今度はマテリアル編と相成ったのだ。
監修ははやてとフェイト。なのはは自分の役の子にみっちりと航空戦技をたたき込み、将来のエース候補を生んだとか。
「それはぜひとも見ないと! 僕らの活躍なんて王様とシュテルンもきっと気にするぞー!!」
そういってレヴィは映画館へと突撃していった。
そうして映画を見終わると、レヴィは消沈していた。なお、どっかの執務官にそっくりなパツキンが「なのはいいね……」と恍惚とした顔で映画館から出てきたと思ったがユーノはスルーした。
まあ、レヴィが不機嫌な理由は概ね察しがついている。
「むうう、僕ら悪役だったぞー!!」
「まあ、なのはたちが主役だから仕方ないよ」
予想道理だが、レヴィは映画の内容にご立腹のようだった。
なにせ自分たちが悪役として出ているのだから、映画にする上である程度脚色されてはいるだろうが、本人としては文句の一つも言いたいのだろう。
だが、あくまでもこの映画はなのは達の経験した事件がベースなのだ。そうなれば一時は敵対していたマテリアルたちが敵役になるのも仕方ない。
「それに、あんな子知らないぞー!」
「そういえばそうだね。なんでかな? でも、レヴィたちはかっこよかったよ」
「ん? そうか? ふふんそうだろそうだろ! なにせ僕たちは強くてすごくてカッコいいんだぞ!!」
ユーノの言葉にえへへんと得意げに笑うレヴィ。
どうやら機嫌が直ったようだなと安心する。
「そうだ、ユーノも少しだけの登場だけどかっこよかったぞ!」
「え?そうかな。ありがとう」
レヴィの言葉にユーノは面映ゆそうに顔を赤くした。まさか自分が褒められるとは思いもしなかった。
「ねえ、次はどこいくの?」
「うーん、どうしようか」
映画館以外でレヴィが楽しめそうな場所といえばどこだろうかとユーノは考える。
「よし、ゲームセンターに行こうか」
あそこなら騒がしくても問題ないし、レヴィも遊ぶものがたくさんあっていいだろう。
おおーっとレヴィが目を輝かせる。
「よーし、さっそく行こう!!」
「わ、レヴィ!?」
レヴィはユーノの手を取って歩き出した。暖かくて柔らかなレヴィの手の平にユーノは先とは別の意味で顔を赤くして引っ張られた。
「むううう、全然取れないぞ」
そうして到着したゲームセンターでレヴィは、UFOキャッチャーの前で渋面を作っていた。
レヴィは翡翠のフェレット人形を取ろうとしているのだが、中々引っかからない。隣の夜天のタヌキ人形はとれたが、「こっちじゃなーい!」と放り出してしまい、ユーノが預かっている。
「あー、また落ちた!」
ぼとっとクレーンから落ちた人形は他の人形の隙間に入り込んでしまう。
それでも諦めきれないのか再び挑戦するが、他の人形に邪魔されてアームが届かない。
「ねえ、レヴィ。もう諦めたら? ちゃんと一つは取れたし」
「やだ! タヌキじゃなくてあっちがいい!」
この時、八神捜査官がくしゃみしたとかしないとか。ゲームの前で唸るレヴィ。それを見ていたユーノはよしと一歩前に出る。
「ちょっとやらせて」
「ユーノ、できるの?」
ユーノは遺跡発掘が趣味だ。瓦礫を退かすことにはなれている。
人形の重心と形状を見ただけで把握して……
「おおっ?!」
持ち上がった。しかも、寄りかかっていた星光のオキツネさんも一緒に挟んでいる。
「す、すごいぞユーノ! 二個も一気にとれるなんて!!」
「僕もびっくりし、あっ」
だが二つの人形を捕らえたせいで緩んでいたのか、するっとフェレットだけが落ちてしまった。
「……あう」
出てきたのは星光のオキツネ人形だけであった。
「も、もう一回」
残念がるレヴィにユーノはもう一度挑戦する。クレーンは落ちた人形を拾い上げ、今度こそユーノはフェレット人形をゲットした。
「やったー!ありがとうユーノ!!」
「わわっ! れ、レヴィ?!」
感極まってレヴィがユーノに抱き付く。
何度も言うが、レヴィはその性格とは対称的に非常に女性らしい身体つきをしている。
具体的には胸がある。ボインである。ボンキュッボンである。抱き着いた拍子にむにゅりとたわわな乳房が潰れ、柔らかな弾力がユーノを襲う。しかも胸だけでない。きゅっと縊れた腰に見事な稜線を描く太腿と尻もまたむっちりと肉が詰まっている。
ユーノは草食系である。だがしかし、煩悩がないわけではない。
あたっている。あたっている! 柔らかな胸が、おっぱいが二つくっついてる!! 心臓が高鳴り、頭から湯気が立ち上りそうなほど顔が真っ赤に染まってしまった。
「んっ? どうしたのユーノ?」
自分が原因と露とも気づかずに不思議そうにレヴィはユーノの顔を覗きこんだ。
「な、なんでもないから! そろそろ離れてくれないかな?」
「え? うん」
なんだか残念そうにレヴィがようやく放してくれる。
未だにばくばくする心臓。なんだか男としては期待とか勘違いをしたくなるが、ユーノはレヴィはそんな気がないこと。そして、妹のような友達であると何度も自分に言い聞かせた。
そうして色々と回った結果、レヴィは両手一杯のお土産を抱えてトランスポーター前にいる。
「えへへ、ユーノ今日はありがとうね」
「ど、どういたしましてレヴィ」
対してユーノは少し疲れ気味である。あの後も何度も無自覚で過剰なスキンシップを受けたのだから仕方がないだろう。
「あ、そうだ!」
なにかを思い付いたらしいレヴィが荷物を置くとユーノに近づいてくる。
心なしか頬が紅くなっていて、なんだろうかと思っていると、再びレヴィが抱き付く。その上で、
「チュッ」
ユーノの頬にキスをした。柔らかく暖かく瑞瑞しい唇が頬に吸い付いて、離れる。
女の子がほっぺにキス。この日一番の衝撃に酷使されていたユーノの思考がついにオーバーヒートする。
「き、キリエが男の子はほっぺにチュウをすると喜ぶって言ってたから......あうう、じゃ、じゃあね!」
流石のレヴィも恥ずかしかったのか顔を真っ赤にして、ユーノから離れると一目散にトランスポーターに飛び込んだのであった。
それからしばらく司書長が石のように固まっていたとか。
次の日、ユーノは仕事に身が入らなかった。
その理由はユーノもわかっていて、そっとレヴィがキスをした頬に触れる。
「うう……」
いまだに鮮明にレヴィの唇の感触を覚えている。
あの子は単にお礼代わりと教えてもらったことをしただけで、別に異性的な好意を自分に向けているわけではない。
それはわかっている。わかっているのだが……
「レヴィ……」
しばらくの間、レヴィのことが頭を離れなさそうだった。
~一方のエルトリア~
「でね、ユーノがこの人形をとってくれてね、あ、そうだシュテルンにはこれあげる」
レヴィが星光のオキツネさん人形を渡す。
「......ありがとうございます」
レヴィの報告を聞くシュテルには表情がない。すでにディアーチェたちは逃げ出しているが、レヴィは気づかずに無自覚の自慢話(シュテルにとっては)を続ける。
「あれ? シュテルンなんでルシフェリオン出しているの?」
「レヴィ、少しOHANASHIしましょうか?」
ニッコリとシュテルが微笑んで、矛先をレヴィに向けた。
~一方特務六課~
「さて、フェイトちゃん言い訳はある?」
「知らないよー! 私ユーノと映画になんていってないよー!!」
~おまけ~
その日、ユーリもトーマたちと映画を見に行っていたのだが……
「トーマ、悲しいです。私、映画とはいえ、あんな目に合うなんて……」
悲しそうにスンスンと鼻を鳴らしながらユーリはトーマの胸に縋りつく。
「大丈夫だよユーリ、きっと映画の後編であのユーリも助け出されるから」
「そう、ですか?」
ぐりぐりとユーリは頭をさらにトーマに押し付ける。
トーマは気づいていない。ユーリが実は嘘泣きをしていることを。
鼻を鳴らしている本当の理由は、泣いているふりをしながらトーマの匂いをたっぷりと嗅ぐためであることを。そして、勝ち誇った笑顔を浮かべていることを。
それに気づいているリリィが微笑みながらも目に怒りの炎を燃やしていることを……