その日、特務六課には六人の客が来ていた。
シュテル、レヴィ、ディアーチェ、三人のマテリアル、フローリアン姉妹、そして、紫天の書の盟主、ユーリ・エーベルヴァイン。
かつての事件でかかわりのあったなのはたちに会いに来たのだが……
トーマは困惑していた何故ならば……
「トーマ、お久しぶりです!」
名も知らぬ少女に抱きつかれていたのだから。
そして、その後ろでなにか恐ろしい気を発する闇統べる王がトーマを睨んでいた。
「トーマ、その子、誰?」
さらに、リリィまでがまったく目が笑っていない笑顔でトーマに問いかける。
「トーマ、どうしたんですか?」
少女は首を傾げる。
それに、トーマは必死に目の前の少女が誰なのかを思い出そうと記憶の糸を辿り始めた。
金色の少しウェーブのかかったふわふわの髪。スバルのようにおへその出たバリアジャケット。そしてトーマの身体に押し付けられたお陰でむにゅっと変形したナイスなお胸様。
ダメだった。どこかで会ったような気がするものの目の前の少女のことをトーマは思い出せない。
「えっと、ごめん、君は誰だっけ?」
トーマの問いかけに目の前の少女は世界が終わったかのような絶望の表情を浮かべる。
「思い、出せないんですか?」
「う、うん」
トーマは少女の泣きそうな顔にたじろいでしまう。
「そんな、私をあんなに激しく攻めてきたのに?」
「うえっ?!」
激しく、攻めてきた? いったいなんのこと?
「トーマ、どういうことか、お姉ちゃんに説明してくれる?」
「す、スゥちゃん?」
ガシッと強く肩を掴まれる。スバルの目が金色に光っているのは気のせいだろうか?
「私が昔の自分に似ているって言ったのも、あの時限りの言葉だったんですか?」
うるうると少女はトーマを見つめる。
「トーマ、そんなこと言った相手も覚えてないんだ」
「ヴィ、ヴィヴィオまで……」
ヴィヴィオの軽蔑に満ちた視線が痛い。
えっと、とトーマは再び思い出そうとする。もし思い出せなければいろんな意味で俺は終わってしまう。そういえば少しだけ目の前の少女の顔に見覚えがあった。それもごく最近のはず。
「そうだ夢の中で出たあの子!」
そして、その微かなとっかかりからトーマはやっと辿り着いた。目の前の少女と同じ顔をした女の子のことを。それは夢の中でのこと。自分がなのはたちによく似た少女たちと共に事件解決に奔走するという奇妙な夢の中で現れた。
「トーマ、そんなので誤魔化すの?」
アイシスの問いにぶんぶん首を振る。
「え、えっと、リリィ、ほら、あの俺と同じ夢を見たときの!」
話を振られてリリィは思い出す。トーマと同じ夢を見るという不可思議な体験をしたことを。確か、新しい技を試して八神司令に怒られた……
「あ、あの!」
それでリリィも思い出した。
そう、確か彼女の名前は……
『ユーリ・エーベルヴァイン!!』
「はい!」
名前を呼ばれてユーリは嬉しそうに笑った。
「そっかあ、あれ、夢じゃなくて本当にあったことなんだ」
「はい。事情があってお二人にはエルトリアの出来事は夢と思っていただきました」
事情がわかったために、誤解も解け、先程まであった修羅場色は霧散して、ユーリとの会話に花を咲かせていた。
なお、時間移動のことを伏せるために、あくまでトーマたちはエルトリアの世界に来てしまったことにしている。
「でも、ユーリたちも成長するんだね」
「そうなんです。私たちもちょっと驚きました。自分たちにも成長があったなんて」
そう言ってユーリは笑う。
ユーリはかつてトーマたちと出会った頃と比べ、背は高くなり、その身体も女性らしい凹凸が生まれている。特に胸の成長は素晴らしい。
「でも、ユーリ、なんであんな誤解をされるような言い方をしたの?」
「誤解? キリエがこうすればトーマとリリィはきっと思い出すと言ったので」
リリィの問いにユーリがそう答えて、瞬間、女性陣の刺さるような目がなのはたちと楽しくしゃべっていたキリエに突き刺さった。
それに、びくっとキリエが震える。いつのまにかリリィはその手にディバイダー996を、スバルはマッハキャリバー、アイシスはアーマージャケットを装備し、ヴィヴィオは大人モードになっていた。
「えっと、その、ねえん、えっとユーリ、それ以上は……」
「色々キリエにアドバイスされたんですよ。男の子はお胸が大きい方が好きだから、トーマは私が抱きつけば喜んで思い出すって」
瞬間、危険を察したキリエは駆け出した。それを武装したリリィたちが追う。
それをきょとんと見送るユーリ。
「トーマ、みんないきなり走り出してどうしたんですか?」
「君は知らなくていいことだよユーリ」
ユーリから目を逸らしてトーマは答える。恐るべし天然娘。
「え、えっと、トーマ、と、ところで、その……嬉しかったですか?」
と、ユーリは顔を赤くして、もじもじしながら、問いかける。
「え? なにが?」
その問いかけにトーマは首を捻る。
それから、少しの間、ユーリは恥ずかしそうに顔を伏せてから、再び顔を上げる。
「わ、私に抱きつかれて嬉しかったですか?」
そして、今度こそトーマにはっきりと聞いた。
それに、トーマは……即答できなかった。うん、八割が困惑だったが、リリィと同じくらいに成長したユーリの胸の感触にドキドキしたほどで、スバルやギンガといった魅力的な女性がそばにいたからか、実は巨乳派であるトーマとしてはかなり嬉しかったりした。
そう、男は巨乳が大好きなのだ。ぷるぷると柔らかそうで、女体の神秘を余すことなく詰め込んだ魅惑の果実。八神司令が大好きになるのもトーマはよく理解している。
うん、嬉しかった。だが、それをはっきりと答えていいのだろうか。本人が聞いてきたこととはいえ、大きな胸が押し付けられたのが嬉しかったとカミングアウトするのはかなり恥ずかしい。
どうしようかとトーマは考え込む。だが……
「嬉しく、なかったんですか?」
まるで小動物みたいにしゅんと気落ちして見つめてくるユーリに、そんな葛藤はあっさり消し飛んだ。
「す、すっごく嬉しかったよユーリ!」
「ほ、本当ですか?」
疑うようにユーリはトーマを見つめる。
それに対してトーマは言葉を重ねてユーリに抱きつかれた瞬間の感動を熱弁する。
「う、うん。その、ユーリの身体すごく柔らかくて、ふわふわで、えっと……俺、大きいの大好きだし!」
「そ、そうなんですか?」
それに、ユーリは今度は別の意味で恥ずかしそうにもじもじして赤くなった頬に手を当てる。
「へえ? トーマ、大きいのがいいんだ」
「そりゃあ、俺だって男だし」
「ふーん、男の子って大きいのがいいの?」
「そうだな。大は小を兼ねる。大艦巨砲主義、昔から人は大きいのにロマンを見出すも、の……」
そこまでいってトーマは途中から問いかけがユーリではなく、別の人物からのにかわっていたのに気づいた。
「えっと、ヴィヴィオ? アイシス?」
「うん?」
「なあに?」
振り返ると、満面の笑顔の二人がそこにいる。さらには、
「トーマ、ユーリに抱きつかれて嬉しかったんだ」
「り、リリィ……」
にこにこと笑うリリィ。だが、三人の背後には悪鬼のようなオーラが立ち上っている。
『少しOHANASHIしようか?』
三人はがっしりとトーマの肩を掴んで引っ張る。
あーっと絶望の声を上げながらずるずるとトーマは連れ去られていく。そこにいつの間にか嬉々としてディアーチェも加わっていた。
そして、一人残されたユーリは……
「わ、私もトーマに抱きついた時ドキドキしました。男の人の身体ってこんなにがっしりしてるんだって驚きましたし、匂いもディアーチェたちとは全然違って……」
「えっと、ユーリ、トーマいないから話しても意味ないですよ?」
アミタがツッコむが自分の世界に旅立ってしまったユーリにはその言葉も届かない。
そして、訓練場の方向から、銀色のエネルギーと、爆音、そして、闇統べる王と聖王の魔力光の輝きが上がるとともにトーマの断末魔が響いた。