君の名は。〜bound for happiness(改)〜 作:かいちゃんvb
一昨日は勉強を一旦放ったらかして「IPPONグランプリ」見てました。いやあ、Aブロックの逆転劇には痺れましたね。僕は地味にロッチ中岡さんの芸風が好きですけどね。あと、りゅうちぇるセンスありすぎ笑笑。
では、本編スタートです!
2022年5月4日。この日の朝は三連休の中日ということもあって博多駅山陽新幹線ホームは思ったほどの混雑は見せていない。上り12番のりばに1人の男がいた。年齢は50歳くらいであろうか。少し疲れた表情を浮かべながらも、嬉しいことがあるのだろうか、ウキウキしているようにも見える。男は8時30分発ののぞみ16号東京行きに乗り込んだ。席に着き、男は携帯の画面を覗き込む。しかし、少し残念そうな表情を浮かべて携帯をしまい、持ち込んだ文庫本を開く。定刻通り出発したのぞみは、東へ向かってひた走る。
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前日は夜更かしが過ぎたのか、10時頃にフラフラと起き出した2人は、ブランチを済ませてリビングでくつろいでいた。時刻は午前11時過ぎ。2人=瀧と三葉は非常に眠そうな表情を浮かべていた。話が終わってから一応2人とも目は閉じたが、そこで思考の海に飛び込んだまま抜けられず、結果的に2人とも本格的に眠りについたのは東の空が白んでからである。2人はソファーを背もたれにして地べたに座り、体を寄せ合ってテレビを見ている。瀧は三葉の背中に手を回し、三葉の髪をすいていた。
「昨日の糸守に行く云々の件やけどさ。」
「何?」
「よう考えたら今年は10月4日が平日やねんね。しかも火曜日。」
「それは有給が取れれば何とでもなるよ。ここから糸守までどれくらいかかる?」
「電車やったら5時間くらい。車でもそれくらいはかかるかな。」
「泊まらなきゃ無理だな。」
「それがね、山登ったら丸一日潰れるから2泊3日は欲しいんよ。」
「………なかなか厳しいな。しばらくは土曜日も返上しないと。」
「そうやね。あ〜〜、絶対また瀧くんロスにかかる〜〜。」
「嬉しい事言ってくれるじゃん?」
2人はどちらからともなく唇を重ねた。
ちょうど2人の顔が離れた時、三葉の携帯に着信があった。発信者を見ると四葉である。
「どうしたんよ、急に。」
<ねえちゃん、今日は咲ちゃんのとこ泊まるって言うてたやんか。>
咲ちゃんとは四葉のクラスメイトで、一番四葉と仲良しな女の子だ。何度か三葉の家にも来たことがあり、感じの良い子だという印象を持っている。
「そうやけど、どうしたんよ。」
<それがな、咲ちゃんが風邪引いてもうてな、泊まられへんくなったんよ。>
「あらまぁ。」
<ほんでさ、ボッチ寂しいからお兄ちゃんち泊まりに行って良い?>
「ちょっと待って、瀧くんに聞いてみる。」
三葉はマイク部分を押さえて瀧に向き直る。
「瀧くん、四葉が今日友達の家に泊まられへんくなったからここに泊まりに来たいって言うてるんやけど。」
「親父の布団空いてるから大丈夫だよ。四葉にもいいよって言ってあげて。」
三葉は頷いて四葉と話す。
「瀧くんが大丈夫やって。何時頃に来る?」
<3時で大丈夫?>
「わかった。迎えに行くわ。」
「ちょい待ち。」
瀧から声が掛かる。
「どうしたんよ、瀧くん。」
「ちょっと四葉と2人で話したいことがあるからさ、俺が行って来るよ。晩飯の食材もついでに買ってくる。」
「………分かった。」
<どうしたん?>
「瀧くんがあんたと2人で話したいって言うてるから、瀧くんが1人で迎えに行くって。」
<はいよー>
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午後1時30分を少し回った頃、一本の新幹線が東京駅ホームに滑り込んだ。その中から1人の男が現れる。男はそのまま中央線ホームに向かい、快速に乗り換える。目的地は3つ目の停車駅である四ツ谷だ。10分ほどで到着し、駅近の定食屋で遅めの昼食を済ませる。ここから目的地まではもう僅かだ。
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瀧のマンションの軒先には瀧の洗濯物に加え、昨日ずぶ濡れになった三葉の洗濯物が干されている。時刻はまもなく午後3時30分。瀧は少し早めに夕飯の食材を買いに出かけるついでに今日も瀧の家に突如襲来する運びとなった四葉を迎えに出かけた。仕方なく三葉は家に残り、少し掃除をする。瀧と三葉にとってこのゴールデンウィーク最大の試練は、この時に鳴ったインターホンから幕を開ける。
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四ツ谷駅近くの定食屋から出てきた先程の男は見知った街の馴染みのあるところを順番に回りながら知り合いの店などで声を掛ける。皆息子の近況を聞かせてくれるが、なぜか最近妙に明るくなったようだ。少し嬉しく思いながら時計を見ると気づけば3時を回っていた。
ひと通り巡ると、スタスタと一棟のマンションを目指す。九州に単身赴任していた彼が息子と会うのは実に正月以来、5ヶ月ぶりだった。妻に先立たれ、男手1つで息子を養ってきた。その息子も今年で社会人である。もともとは仕事の影響でこのゴールデンウィークは会えないと思っていたが、なんとか案件が早期に片付き、急遽帰れることになったのである。とは言っても、明日の始発でトンボ帰りで、すでに東京駅近くのホテルを一部屋押さえてあるのだが。昨日の晩には息子にメールをしたのだが、一向に返ってこない。少し不審に思いながら、彼は息子=立花瀧が住む一室の前に姿を現した。昨日の晩にせっかくメールしたんだから返信しろよと思いながら、瀧の父である立花龍一はインターホンを押した。
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突如インターホンが鳴る。三葉は体をビクッと弾ませた。それもそうである。瀧が鍵を掛けて出て行ったのは2時30分頃だ。買い物も済ますとなれば4時は回るはずだが………。もう帰って来たのだろうか?と思ってドアに近づくが、どうも様子が変だ。瀧なら中に呼びかけて来てもおかしくはない。すると鍵が差し込まれる。そして、ドアが開く。そこには見知らぬ、だがどこか瀧の面影のある中年男性が立っていた。
「瀧はいな………えっ?」
「あ、その、お邪魔してます…………」
「…………どちら様ですか?少なくとも物盗りの類には見えないが……。瀧の知り合いかな?」
「その………まあ、彼女、と言いますか……」
「……………」
「とにかく、中に入りましょう。お茶出しますね。」
「私が誰か聞かないのかな?」
「瀧くんのお父様………ですよね?顔立ちがよく似てると思いますし、何より今までの会話からしても……」
「それもそうだ。では、上がらせてもらおう。」
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3時。四葉が北参道駅に大きめの荷物を持って現れた。四ツ谷のスーパーで食材を買い終わり、あと10分でマンションに着くという地点で四葉が尋ねる。
「何やの?2人で話したいことって。」
「いや、あんまり大した話じゃないんだけどさ、こういう時が一番聞きやすいかな?って思って。」
「何を?」
「あの日、2013年10月4日の糸守に何があったのか。なぜ全員生き長らえたのか。なぜ町民全員が学校に避難できたのか。」
「ねえちゃんは………そうか、何にも覚えとらんねや。」
「てっしーとさやちんにも聞けるとは思ったんだけど、なかなか会う機会ないし、何より幸せ絶頂なのにこんな嫌な話させたくないしね。」
「ほんまにお兄ちゃんは優しいんやな。」
「お褒めに預かり、光栄です。」
少し表情を曇らせるが、すぐに語り始めた。
「てっしーとさやちんからの聞き齧りも含めんねんけどな、実はあの日校庭に避難させようとしたんはねえちゃんなんよ。
隕石が2つに割れて落ちてくるって言い出して、てっしーとさやちんを集めて会議して、避難計画を立てたらしいんよ。私とかばあちゃんにも町を出ろって言うたり、もう目が血走ってたんよ。ほんで夕方にふらっとおらんくなって、日が沈んだからまた現れて、その時町長やったお父さんに避難の放送出すように呼びかけて、それまで全く聞く耳を持たへんかったお父さんが急に折れて避難の放送を流したんよ。」
「なのに三葉はその日のことをほとんど覚えてないと……」
「そうなんよ。そういえばあの頃のねえちゃんなんか変やったんよ。」
「変?」
「何かね、一日置きくらいで変になっとったんよ。朝起きたら自分の胸揉み出したり、髪の毛の結い方が雑やったり、妙に男っぽくなったり……。そういえばあの日の朝も変モードやったわ。涙流しながら胸揉んで、いきなり私に抱きつこうとしたんよ。あれは引いたわ。」
「変モード、ね……」
そういえば司と高木とミキが似たようなことを言っていた。突如ありもしなかった女子力を発揮してまるで別人のようになった時期があったと……
瀧のマンションが見えて来た。しかし、瀧と四葉はこの中にこのゴールデンウィーク最大の台風の目が存在していることをまだ知らずにいた。
<次回予告>現れた瀧の父親・龍一。彼は果たして瀧や三葉とどのような寸劇を繰り広げるのか?龍一を囲んでの晩餐会が幕を開ける。
次回 12月11日月曜日午後9時3分投稿 第19話「あなたはだあれ? 後編」
瀧と三葉の物語が、また1ページ。