君の名は。〜bound for happiness(改)〜 作:かいちゃんvb
入試の影響で3学期はほぼ授業がないのでロッカーの中の私物を引き揚げ、要らないものの整理をしたのですが、やたらめっかし疲れました。皆さんもあまりロッカーにプリント類は溜め込まないようにしましょう。
では、本編スタートです!
瀧が龍一を送り、マンションに帰ってきた頃には9時を回っていた。
「ただいま〜」
「おかえり、瀧くん。四葉が今お風呂入っとるよ。」
「もう完全にこの家の住人だな。」
「ほんまやね。」
そして2人で寄り添ってバカ話をする。やがて順番に入浴し、3人はそれぞれ床に就いた。眠気が襲ってくるまで取り留めのない話をしていると、ふと話題がお互いに早逝している母親の話になった。
「瀧くんのお母さんはどんな人やったの?」
「うーん、俺を産んで結構すぐに死んじゃったからあんまり記憶にないんだよな。それに親父も普段はあんまり喋らないからわかんないし。でも一回だけ話を聞いたことあるな。<少なくともどれだけ不肖であっても、あいつの忘れ形見のお前という息子を最後まで手放したくないほどは愛していた>って。結局べた惚れだったんだろうな。」
「その言葉、半分惚気やもんね。」
「写真を何回か見たことあるけど、結構小柄で華奢で、美人っていうよりは可愛らしい感じだった。もともと体は弱かったらしくて、俺を産むのに親父は躊躇したらしい。でも母さんそこを押し切って俺を産んだんだ。いつもはおしとやかで良妻賢母たることを自らに課していたらしいんだけど、この時だけは折れなかったらしい。それを話す時の親父の顔は満更でもなさそうだったけどな。」
「お父さんも一途やってんね。」
「ほんとに普段からはあんまり想像できないけどな。……三葉のお母さんはどんな人だったの?」
「私からしたら、なんでも優しく包み込んでくれる人。今になっても時折見守ってくれてる気がする、太陽みたいな人。写真を見る限りは、びっくりするほどの美人。おばあちゃんは、どこか神懸かってるっていうか、ちょっと普通の人とは違うオーラを出してたって言うとった。」
「常人離れしたカリスマ性ってこと?」
「ちょっとちゃうんよ。なんか近所のおじさんとかおばさんに道を歩いてるだけで拝まれてたって言うとった。」
「まるで生きる神様だな。三葉のお父さんもそんなお母さんに惹かれたの?」
「…………多分違うと思う。お母さんが死んですぐに家を出て行ったんやけど、後からおばあちゃんの話を聞く限りは、逆に母さんに対するそういう神様みたいな扱いが嫌いだったんだと思う。」
「三葉のお父さんが愛したのは1人の女性であって現人神ではないと……」
「多分そういうことやと思う。お父さんも頑固者に見えてお母さんに一途やったから。」
「…………ちょっと聞いていい?」
「…………お父さんのこと?」
「…………うん。」
「…………やっぱり寂しかったんやろね。母親を亡くして、父親も家を飛び出した。おばあちゃんには良くしてもらったし、もちろん不満はないんやけど、やっぱり親がいない、捨てられたっていうのが強すぎたんやね。彗星落ちた後に和解できるかなとか思ったりしたんやけど………結局ダメやった。ちょっと仲直りするには溝が深すぎたのかも。」
「多分そうじゃないよ。お互いに意固地になっちゃったんだよ。本当はもう溝なんて埋まってるのに。自分では分からないと思うけど、お互いに向こうから歩み寄って欲しいんだよ。三葉もお父さんも非があるのは自分だからと思って臆病になってるんだよ。だから三葉から歩み寄りなよ。今度帰ったら仲直りしなよ。きっとうまくいくから。」
「そうかなあ……」
「今度のお盆、四葉と岐阜に帰るんだろ。俺は行かないからさ。」
「えっ、瀧くん来てくれへんの!?」
「親父に付き合ってやりたいんだ。顔合わせはどうせ10月にできるんだし、焦ることないだろ。」
「う、うん……」
「それにこれは三葉と三葉のお父さんの2人の問題だから、部外者は口を出すべきじゃない。自分で作った借金なんだから、自分1人で返しておいで。」
「…………わかった。やっぱり瀧くんは優しいんやね。」
「そんなことないよ。」
「謙遜しないの。やっぱり瀧くん大好き!」
三葉が瀧の唇を半ば強引に奪う。そして2人は抱き合いながら深い眠りに落ちていく………
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夜が明ける。四葉は目を覚まし、龍一が昔使っていた部屋の壁掛け時計を見る。時刻は7時17分だ。もうちょい寝れたかなとは思いつつも思いっきり伸びをする。トイレを済ませてリビングを覗くが、瀧も三葉もまだ起きていないようだ。どうやら前日の様子を見る限り身体を重ねたとは考えにくい。"ひょっとしたら今日やっちゃってるかも………"という予測というより2人を揶揄うネタにしたいという願望から2人の寝ている寝室を覗く事を決意する。そしてドアを開け放った四葉の目に信じられない光景が飛び込んで来た。
少し乱れたベッドの上に一組の男女が横たわっている。残念と言うべきか、どちらも服を着ており、運動会をした形跡は残されていなかった。だが、そこまではただ恋人同士が行為に及ばずに共に寝ていただけにすぎない。しかし、しかしである。やけに女=三葉が少し苦しんだような、いや、少し上気しており呼吸もやや乱れている。三葉の胸元に視線を落とすと、明らかに男の両手が三葉の両胸を揉みしだいている。四葉は愕然とする。なんと瀧はまだ寝息を立てて眠っているのだ。つまり、寝ている間に無意識のうちに瀧は三葉の両胸を揉みしだいていたのである。
実は前々日も同じことがあったのですでに三葉は慣れてしまっていたが、当然初めて見る四葉は思わず声を上げてしまった。
「お、お、お兄ちゃん!何しとるん!?」
その声に三葉は目を覚ましたようだ。眼をこすりながら大あくびをする。
「ん………どうしたんよ、四葉。そんな大声出して。」
「ねえちゃん、胸………」
「ん?むね?」
そう言って三葉は胸を凝視する。そしてハッとして瀧の頬を思いっきりひっぱたく。
「いてっ!!」
「瀧くん!!手!!また!!」
「またあ!?」
四葉は驚愕の声を上げる。
「ご、ごめん三葉!わざとじゃないんだって!!」
「もー、瀧くんの変態!!」
「ごめんって………って四葉!?」
「うわー、この人変態やわ。ねえちゃん、ちょっと考え直した方がええんとちゃう?」
「うーん、そこまでは思わないけど………変態!!」
「三葉、ホントごめん!おい四葉!その虫ケラを見るような眼はやめてくれ!!マジで傷つくから!」
「ねえちゃんご飯しよー」
「そうやね、
しかしそう言いながら宮水姉妹は笑顔だ。そこまでは怒ってはいないのだろう、だが……
「あ、ちょっと待って!2人とも置いてかないで〜!ってかご飯俺の分も作ってくれ〜〜!」
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8時45分。瀧も無事朝食にありつき、一通りの家事を済ませ、部屋にゆったりとした時間が流れ始めた。3人はソファー周辺に集合する。そこで瀧が四葉に問いかける。
「そういえば四葉って彼氏とかいるの?」
「ううん、今はおらんよ。そもそも彼氏いない歴=年齢やし」
「へー、意外だな。四葉かわいいから彼氏の1人や2人いても良さそうなのに。」
「やめてよ、照れるやないの。」
「ほんまやよ、四葉。私も四葉の彼氏見たいわ〜」
「ええの。なんかビビっとくる男がおらへん。しかも最近お兄ちゃんのせいでハードル上がっちゃうし。高校おるうちはもうできひんかも。」
「せっかく四葉かわいいのに、もったいないな。」
「ほんまやよ。こんなええ時期を無為に過ごしたらいかんよ。」
「元彼氏いない歴25年のねえちゃんにだけは言われたくないな〜」
「なっ……今は瀧くんおるからええんやし!しかも出来ひんかったんやなくて作らんかっただけやし!」
「私も作ってないだけやし!」
「2人とも変なとこで意地張るなよ〜」
呆れ顔の瀧も楽しそうだ。
その後、3人で時にテレビに夢中になりながら、時にはトランプに興じながらバカ話をした。昼食は瀧の作った冷製パスタだった。楽しい時はあっという間に過ぎ去り、日もだいぶと傾いてきた。2人は荷物をまとめて玄関先へ向かう。四葉が気を効かせて先に一階に降りたのをいいことに、瀧と三葉は2人で話をする。
「またね、瀧くん」
「今度はいつになるかな?」
「大丈夫やよ。朝でも夜でも時間空いたら瀧くんの部屋に来るから。」
「ありがとう。」
「6月はてっしーとさやちんの結婚式やね。」
「楽しみだな〜」
「じゃ、またね。」
「気をつけてな」
「うん。」
そして深い口づけを交わす。三葉はついに瀧の前を後にした。
こうして数奇な運命で結ばれた瀧と三葉は大きく距離を縮めてこの波乱万丈のゴールデンウィークを締め括った。2022年5月5日。まだ出会ってから1ヶ月しか経っていないが、2人には家族に等しい連帯感が生まれていた。2人の旅路はまだ終わらない……
第3章 完
<次回予告>瀧と三葉の絆が深まったゴールデンウィークも終わり、2人は仕事に追われる日常に戻っていく。そんな中、三葉にトラブルが襲いかかった。
次回 12月25日月曜日午後9時3分投稿 第21話「優しさに包まれながら」
瀧と三葉の物語が、また1ページ。