君の名は。〜bound for happiness(改)〜   作:かいちゃんvb

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第22話 眠りの乙女

四葉の元に三葉が体調を崩したことが伝わったのはその日の午後6時半を過ぎたくらいだった。学校の自習室を利用して勉強したあと、家に帰って一息ついていたところだった。

 

「そろそろご飯作らなきゃ。それにしてもねえちゃん、遅くなるんやったらメールくらいしてよ。」

 

独り言を言って立ち上がったその時、ソファーの上に投げ出してあった携帯が鳴った。ねえちゃんやっと掛けてきたか、と思ったが、液晶に表示されたのは瀧の名前だった。不審に思いながらも電話を取る。

 

「お兄ちゃんどうしたん?平日の夜のこんな早い時間に電話してくるなんて珍しいやん。」

 

<三葉が体調崩してぶっ倒れた。>

 

「えっ、マジ!?」

 

<マジ。今三葉の会社から電話かかってきて迎えに行ったとこ。だいぶぐったりしてるな。>

 

「そういえば一昨日の朝くらいから元気ないし、顔色良くなかったな〜。」

 

<そうか……辛かっただろうな……>

 

「ごめんね、お兄ちゃん。迷惑かけて。」

 

<迷惑だなんて全然思ってないよ。それで相談なんだけど。>

 

「そうか、ねえちゃんの会社やったらお兄ちゃんちの方が近いんやよね。」

 

流石は四葉、察しがいい。

 

<そうなんだよ。いいかな?>

 

「ええよ。今から私もそっち行くわ。」

 

<それは心強い。頼むよ。>

 

「じゃあ準備してから行くわ。30分くらいかかるかな。」

 

<駅で待ってるよ。>

 

「ええよ。ねえちゃんについといてあげて。」

 

<わかった。>

 

瀧の方から電話が切れる。四葉は慌てて一応泊まりの用意と明日の学校で必要なものを用意する。それにしても心配だ。会社が帰すということはそんなに生ぬるい症状ではない。30分とは伝えたが、実際は15分足らずで準備を終えて家を出た。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

四葉が四ツ谷駅に着く。若干早歩きで路地を歩くと、前に三葉と瀧を見つけた。三葉は瀧に負ぶわれていた。

 

「お兄ちゃん!ねえちゃん!」

 

「お、四葉。早かったね。」

 

「ねえちゃんは?」

 

「このとおり。」

 

瀧に負ぶわれた三葉は確かに完全に病人だった。ぐったりしている上にかなり呼吸も浅い。四葉がいることには気づいたようだが、話す元気はないのか唇が僅かに動いただけだった。しかし長い時間姉妹として共に過ごしてきた四葉には、それが<ごめんね>と言っていることがわかった。

 

「とにかくお兄ちゃんのマンションまで行こ!私が荷物持つわ。お兄ちゃん、お米と晩御飯の食材ある?」

 

「詳しくはわからないけど足りないことはないと思う。」

 

「わかった。私が適当に私とお兄ちゃんの分作るから、お兄ちゃんはねえちゃんについといてあげて。ねえちゃんはお粥するからな。」

 

「ありがとう、四葉。」

 

三葉も瀧の背中で小さく頷く。3人はマンションに急ぐ。

部屋に着くと、まずは瀧の部屋のベッドに三葉を転がし、体温計を脇に挟んでやる。その間に四葉は早速食事の支度に取り組んだ。急いでご飯を炊く。三葉の体温計が鳴った。瀧が見てみると39.2度を示していた。

 

「何度?」

 

四葉が台所から声を投げかける。

 

「39.2度。」

 

「うわー、明日行けるか?」

 

「会社は別に休んでも構わないって言ってたから休ませよう。無理に行って酷くなったら目も当てられない。」

 

「そうやね。ここに縛りつけとこ。」

 

「明日は何時に帰ってこれる?」

 

「うーん、早くて4時前やね。」

 

「俺が帰るまでの間頼まれてくれる?」

 

「ええよ。ねえちゃんの分と私の分と泊まりの用意も持ってきたから。」

 

「お、用意がいいね。」

 

「お兄ちゃん、おうどんでいい?ねえちゃんのために持ってきたんやけど多いから。」

 

「よろしく。」

 

四葉は消化の良いうどんとうどんダシをあるだけカバンに詰めてきた。数も見ずに入れたが、6玉もあるのでここで使ってしまう。出汁は週末に三葉が堀川から貰ってきたヒガシマルのうどんスープである。どうやら関西のダシのようだ。パッケージに小さく写るうどんはダシが薄い黄金色をしていた。こちらのうどんはもっと茶色い。とりあえずうどんを湯がき、スープの素を入れて器に移し、さらにうどんと同じ数だけ持ってきた揚げと刻んだネギを乗せる。パッケージどおりの薄い黄金色のダシのきつねうどんが完成した。

 

「いい匂い……ん?」

 

「関西のダシやねんて。ねえちゃんが堀川さんから貰ったって言うとった。」

 

「ちょっと薄そうな色してるけど……」

 

「と、とにかく食べてみよ!」

 

2人ともズルズルとうどんを啜った。途端に目を見開く。

 

「………薄くない。」

 

「美味しい〜」

 

色は薄いが味はしっかりついている。ベースである昆布と鰹の香りが絶妙だった。

あっという間に平らげるとご飯が炊けたようだ。四葉はお粥を作る。瀧はその間に2人分の洗い物を済ませて三葉の手を握っていた。どうやら三葉は眠っているようである。

四葉はできたお粥を瀧に手渡す。その気配に気づいたのか、三葉が起き出した。

 

「三葉、具合はどう?」

 

「大丈夫やよ。」

 

「ねえちゃんダウト。全然大丈夫な顔じゃないよ、それ。」

 

「うぅ……」

 

「三葉の上司の方が明日は休めだって。ゆっくり休みな。無理してこじらせたら元も子もない。」

 

「私も早く帰ってくるから大人しく寝とくんやよ。」

 

「2人とも………ごめんね」

 

「三葉が気にすることじゃないよ。」

 

「ねえちゃん、とりあえずお粥食べれたら食べて。」

 

三葉はお鉢を取ろうとするが、少し危なっかしい。瀧は三葉の手を引っ込めて食べさせてやる。仲睦まじい光景だが、当事者は2人とも茹で蛸になっていた。結局、三葉はお粥を半分ほど食べた。それを片付けると三葉は四葉にメイクを落とし、パジャマに着替えさせてもらった。四葉は瀧を煽ったが、「理性を保てる自信がない」と言って断られた。三葉を床に就かせてしばらくすると、少し浅いながらも規則的な寝息が聞こえてくる。四葉はリビングで宿題をこなしている。しばらく三葉の手を握っていた瀧が風呂に入ろうとすると、瀧の携帯が鳴った。

 

「もしもし?」

 

<瀧君、三葉ちゃんの様子はどう?>

 

ミキからであった。

 

「熱はやっぱり高かったですね。お粥を少し食べて、今はぐっすり寝ています。」

 

<やっぱり明日は無理そうね。お大事にって伝えておいて。明日の朝もう一回電話するわ。>

 

「わかりました。では、おやすみなさい。」

 

<おやすみ、瀧君>

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌朝、三葉が目を覚ますとすでにかなり高いところまで太陽は登っていた。時刻は午前8時34分。すでに瀧も四葉も家を出ているようだ。起き上がってふらふらとリビングに歩いていく。まだ本調子ではないのか、頭が痛む。テーブルの上には四葉の字で書き置きがあった。

 

<朝起きたら熱を測って結果をお兄ちゃんにメールしておくこと。何か食べれるなら冷蔵庫に昨日のお粥を少し足したやつを置いているので、チンして食べること。あとはひたすら寝るべし。4時までには帰ってくる。 四葉>

 

冷蔵庫の中から大きめの茶碗に盛られたお粥を取り出し、電子レンジに入れる。待っている間に体温を測ると37.7度だった。まだ熱がある。書き置き通りにメールを送るとすぐに瀧から返信があった。

 

<だいぶ下がったみたいだね。良かった。今日は一日ゆっくり休んでね。 p.s.奥寺先輩がお大事にって言ってたよ〜>

 

その返信に笑みを漏らし、しっかりお粥を食べたあと、再び眠りについた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

3時45分ごろ、学校を終えた四葉が瀧のマンションに帰ってきた。

 

「ねえちゃん、どお〜?」

 

しかし、三葉は瀧のベッドでスヤスヤと寝ていた。流しを見ると、茶碗とスプーンが乾燥機にかけてあった。食欲が少しでもあったことにホッとする。荷物を置いて瀧のベッドに腰掛け、三葉の寝顔を見る。

そういえば三葉の寝顔はしばらく見ていない。昔は寝坊の常習犯だったが東京に出てきてからめっきり減ったし、たまに寝坊する時も四葉はわざわざ様子を見に行ったりしない。それでも、幾度か見た三葉の寝顔はいずれもどこか苦しそうだったことが妙に印象に残っていた。しかし、今の寝顔は見違えるように安らかだ。やはり、瀧が三葉を変えている。それが再確認できたことに四葉は嬉しさを覚えた。

 

四葉は、三葉が目を覚ますまでのしばらくの時間を、三葉の寝顔をニヤニヤしながら観賞して過ごした。都会の喧騒を忘れたかのような穏やかな時間が、姉妹の間を流れていた。

 

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