君の名は。〜bound for happiness(改)〜   作:かいちゃんvb

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どうも、かいちゃんです。
ここに何か書くのは久しぶりですね。一昨日、昨日とセンター試験を受けてきました。ちょっと第一志望には足りないかもしれない………。
そして、2月5日は私大入試に向けて勉強が忙しくなるので、休載させていただこうと思います。
では、本編スタートです!


第24話 勇気ある戦い

2022年6月19日日曜日。梅雨真っ只中のこの季節特有の重たい雲が日本列島を覆っていたが、幸い東京では雨は落ちないという予報が出ている。それでもスッキリ晴れて欲しいな、と四ツ谷のとあるマンションに居を構える社会人一年目の立花瀧は思う。だって今日は自分が愛してやまない恋人の宮水三葉の大親友であり、瀧とも知己である勅使河原克彦と名取早耶香の結婚式の日であるからだ。

ジューンブライドを狙っての日程ではあるが、6月に挙式すると幸せになれるのは6月に雨が少ないイギリスの風習だ。それを梅雨真っ只中の日本に持ち込んでも……と瀧は思ったりもするが、何事も縁起が良いのが一番だ。これが多神教独特の融通なのだろう、と大学時代に建築の勉強の傍らで独自に研究していた民俗学の考え方に当てはめて納得する。何故そんな一見無駄に思えることをしていたかは何も思い出せないが。

とにかく、2人を祝福するためには最良の服装で臨みたい。だからこそ、今は心を無にして時折体に当たる豊かな胸の膨らみを意識しないように三葉の着せ替え人形に徹しなければならないのだ。

 

「うーん、やっぱりこっちのネクタイがええかな?」

 

時刻は午前8時22分。開始は10時からでここから会場のホテルまでの所要時間は約35分といったところか。三葉はすでに着替えを済ませて来ているので、長くともあと1時間この無防備かつ女を無意識に意識させてくる三葉の猛攻を防ぎきれば良いのだ。

 

「きゃっ」

 

三葉が瀧の爪先に蹴躓いて瀧に倒れかかる。豊かな膨らみが瀧の脇腹にヒットする。股間が今にも反応しそうだ。瀧は内心の冷や汗を押し隠して三葉を気遣う。

 

「おいおい、大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫やよ。ごめんね。」

 

いやいいよ、いいんだけどさ!ちょっと申し訳なさそうに上目遣いでこっち見てくるのは反則だ!

瀧の困難な防衛戦はまだ続きそうである。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

瀧と三葉は途中で四葉を拾って会場に到着した。列席者が親戚縁者と近しい友人に限られているためか、そこまで大きくはないホテル内のチャペルで執り行われる。披露宴はこのホテル内のこちらもさほど大きくはないホールで開催される予定だ。3人は記帳を済ませて長椅子に座る。

 

「…………三葉、大丈夫か?手、めっちゃ震えてるぞ。」

 

「うー………全然頭に入らへん……」

 

三葉は手元の一枚の紙に書かれたスピーチの原稿を覚えこもうと必死になっていたが、緊張のせいかなかなか頭に入らないようだ。

 

「……おれだって緊張してるんだからな。」

 

先程から瀧は好奇の視線をあちこちから感じていた。なんせ地元で最も有力な神社の巫女であり、男の影を全くチラつかせなかった三葉が隣にいる正体不明の男性と親密そうに話しているのである。三葉の過去や家柄を知る糸守出身の両家の親戚縁者は探るような目線を3人の座る長椅子に向けていた。

 

「そういえば三葉、三葉のおばあちゃんとお父さんは今日は来ないの?」

 

「糸守の復興についての重要な会議が岐阜県庁であるんやって。2人とも現地のオブザーバーとしてそれに出とる。聞き齧りなんやけど、政府の復興予算はもう底が尽きかけとんねんて。それで今後どうするかっていう会議らしいんよ。」

 

「そうなんだ。」

 

「ねえちゃん、お兄ちゃん、そろそろ始まるみたいやよ。」

 

会場の照明が落ちた。そしてまず新郎の克彦が入場し、牧師の前で早耶香を待つ。慣れないタキシード姿の克彦は緊張でかなりガチガチになっていた。手足が同じ方向に出ている。

 

「見ろよ、あのてっしー、ガッチガチだぞ。」

 

「あかん、笑ったらあかんのに面白い〜」

 

そう言って2人は吹き出すのを辛うじて堪えていたが、克彦をよく知る勅使河原建設の関係者などはすでに大爆笑していた。

 

「おい坊、そんなんじゃ嫁さんに笑われるぞ〜!」

 

30代半ばくらいのガタイのいい男が茶々を入れる。

 

「う、うるせーぞウオ兄ぃー!」

 

そのやりとりに思わず瀧と三葉も臨界点を迎え、猛烈に吹き出した。

しばらくして場が収まると、新婦入場を司会である早耶香の姉が告げた。後ろのドアが開かれ、純白のウエディングドレスを身に纏った早耶香が入場してきた。

 

「うわー、綺麗……」

 

四葉が感嘆の溜息を漏らす。三葉はすでに泣きじゃくっていた。

 

「う……さやちんおめでとう……綺麗やよ………」

 

牧師の前では克彦も息を呑んでいた。そして早耶香が克彦の正面に立つ。

 

「早耶香………綺麗や………」

 

「ありがとう……」

 

2人とも顔が真っ赤になっている。夫婦の誓いを立て、牧師がキスを促した。2人とも真っ赤になったまま唇を重ねた。

 

場所を移して披露宴が行われる。次に現れた克彦と早耶香は和装だった。

 

「やっぱてっしーはタキシードよりこっちが似合うな。」

 

「ほんまやね。さやちんはどっちもよう似合っとるけど、てっしーのタキシードはなんか変やな。」

 

3人の座るテーブルを2人が通過する。また三葉は涙を流していた。

 

「うっ………てっしー、さやちん、おめでとう!!」

 

瀧も四葉も祝福の言葉を投げかける。そして、披露宴は粛々と進行していった。歓談の時間には新郎新婦の親戚縁者が2人を取り囲んでいたため、3人は無理にその輪に入らずに料理を貪っていた。

お色直しのために新郎新婦が一旦退場する。早耶香はその手にブーケを持ちながら克彦に腕を組まれて三葉のいるテーブルの方に歩いてきた。そして三葉にブーケを手渡す。

 

「次はあんたらの番やよ。幸せになりや。」

 

三葉は真っ赤になって俯いた。克彦は瀧に声をかける。

 

「頼むで、瀧。」

 

「おう!」

 

瀧と三葉の2人が列席者からの好奇の目線のマシンガンで蜂の巣にされていることは言うまでもない。

 

いよいよクライマックスというところでついに三葉の出番がくる。

 

「うっ……どうしよ!何も覚えてない!」

 

「ねえちゃんしっかりしてよ〜」

 

「あー、もうあかん!!!」

 

完全に三葉はパニクっていた。しかしその時、瀧が三葉が手に持っていた原稿を取り上げる。そして三葉の肩に手を置き、しっかり目を見て話す。

 

「自分の今思ってることを話しておいで。それが2人も一番嬉しいだろうと思うから。」

 

三葉の緊張がほぐれていく。緊張とパニックで真っ青だった顔色もかなり改善した。そして強く頷く。やっぱり私の彼氏は最高や、と三葉は思った。

 

「さあ、残り時間も少なくなってまいりましたが、ここで新郎新婦共通の大親友である宮水三葉さんに祝福の言葉をかけていただきましょう!」

 

披露宴の司会を務める先程克彦を野次った魚住が告げる。何も知らされていなかった克彦と早耶香は驚いていた。三葉は何も持たずにマイクの前に立った。それでもやはり緊張は拭えない。滑り出しは少し硬かった。

 

「てっしー、さやちん、ほんまにおめでとう。大親友として心から祝福します。思えば私たちが東京に移ったくらいの頃から、お互いを意識していたくせにあまり進展がなかったので、何としてもくっつけようと躍起になっていたこともありました。3人で飲んだ時に酒の弱い私が暴飲してさっさと酔い潰れて無理矢理2人きりにしたこともありましたね。思えばあの時からかな、2人がたまにおめかしして出かけるようになったんは。いや〜二日酔いした甲斐がありましたわ。」

 

ここで一つ笑いをとった。三葉は冷静さを取り戻す。

 

「そんな2人でも、私が悩んでることにいち早く気づいてくれとったね。そしてその悩みが晴れた時は2人とも心から喜んでくれたね。ほんまにてっしーとさやちんは私の唯一無二の親友やよ。だから、そんな2人が晴れて結ばれて、しかもその場に自分もいて一緒に祝福できて本当に嬉しい!」

 

克彦と早耶香は涙を流していた。

 

「みなさんも薄々察していると思いますが、この度彼氏ができまして、ここにも列席しております。だから、もし私たちが結ばれる時は2人にこの友人代表スピーチという恥ずかしい体験を一緒にお願いしたいと思います!」

 

列席者は笑いながら瀧を見つめる。瀧は真っ赤になって俯く。それ、実質告白じゃねーか!

 

「それでは2人とも、末永くお幸せに!!」

 

会場は拍手に包まれた。

 

式が終わった後、新郎新婦と瀧と三葉と四葉の5人が立ち話をしていた。

 

「いや〜それにしても三葉さん、大胆な宣言でしたね〜」

 

克彦がニヤつきながら口火を切る。

 

「本当だぞ三葉。マジで焦った。」

 

「瀧君、壇上から見て分かるくらい真っ赤やったもんな〜」

 

「でも満更でもないんやろ、お兄ちゃん」

 

「そりゃそうだけどさ……」

 

「まあブーケも貰ったし、一緒に幸せになろうね、瀧くん。」

 

「まあ瀧よ、急ぐことはないからな。ゆっくり関係を深めて三葉の晴れ姿を俺に見せてくれ。」

 

「約束するよ。」

 

「三葉、急ぐことはないんやよ。瀧君はまだ社会人一年目やから不安も多いと思う。だから、あんまり急かさんたってよ。」

 

「そうやよねえちゃん、待つのも一手やよ。ねえちゃん結構暴走しがちやから。」

 

「う……努力します。」

 

一同は爆笑した。しかし、時間の流れは薄情なもので、あっという間に瀧と三葉が帰らなければならない時間になっていた。

 

「じゃあな、瀧。気いつけて。」

 

「三葉も四葉ちゃんも、元気でね。」

 

すると3人は兼ねてから用意していた爆弾となる台詞を2人に声を揃えて投げかけた。

 

「今度は子供できたらね。」

 

2人の頬が一瞬で朱に染まる。それを見ながら3人は帰途についた。

 

雲の切れ間からチラリと太陽が顔を出す。その光が、ほとんど家族同然の瀧と三葉と四葉の仲の良い姿を、アスファルトに影として刻んでいた。

 


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