君の名は。〜bound for happiness(改)〜 作:かいちゃんvb
第25話 夏が来る
2022年も7月に入った。運命的な出会いを経て宮水三葉と立花瀧が交際を始めてから3ヶ月が経った。仕事が忙しくなかなか会う機会を取れなかった2人だが、それでも時間を見つけては夕食の時間だけでも一緒に過ごして一層結びつきを強めていた。そして付き合い始めてこれくらいの時間が経って来ると、お互い意識してしまうことがある。
"身体はいつ重ねようか。"
今まで泊まりは数回あった。三葉が風邪でダウンした後も2回瀧の部屋に泊まっている。しかし2人共お互いが近くにいるだけで何となく満たされてしまい、なかなかそっち方向の気分にならなかった。但し、三葉が無意識に瀧を誘惑して瀧の股間にテントが張られたことは幾度もあったが。とにかくどちらもいずれはしたいと思っているが機会がないというのが現状である。
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梅雨前線が例年通り北海道に到達する前に消失した7月4日月曜日の昼休み、この日も普通に出勤していた瀧に元教育係で現在はパートナーである狩野百合子からある提案が持ちかけられた。
「立花君、君さ、今度の三連休は仕事ないやんな。」
「そうですけど……まさか休日出勤!?」
「ちゃうちゃう。ちょっと誘いたいことがあるんや。」
「何ですか?」
「……海、行かへん?」
「海?」
「淡路島。」
「はあ。」
「彼女と一緒に。」
「大丈夫だと思いますよ。」
「よかった。それと申請してた10月の有給、4日と5日は確実にオッケー出るっぽいけど3日はびみょい。」
「あ、ありがとうございます!」
「じゃ、東京駅の八重洲口に8時な。」
「相談しときます。」
瀧は内心ガッツポーズした。
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三葉にも堀川から同じ問いかけがなされた。
「海?」
「そう、海。」
「瀧くんを置いて?」
「いや、百合子が誘ってると思う。」
「ならやぶさかではないけど、四葉どうしようかな?」
「確か受験生やっけ?」
「うん、結構頑張って勉強してる。」
その時にミキが会話に割り込んできた。
「たまには妹ちゃんにも息抜きさせてあげたら?この前あなたに電話した時だいぶ疲れてるみたいだったし。」
「そうよね〜、最近ちょっと余裕ないのよね〜」
「ちなみに私も行きたいんだけど、どう?」
「お、ええなあ。どうせなら婚約者も連れて来てーや。」
「向こうの予定が合えばね。」
「実はな、その時に行く海水浴場、この夏休み直前の時期は結構穴場やねん。今年の三連休は16から18やろ。だから世間一般は夏休み始まってないし、淡路島のうちのおとんの知り合いの民宿の目の前の海でな、砂浜はちっちゃいねんけど客は少ないし飯もうまいなかなかええとこ。」
「へぇ〜、淡路島なんだ。結構遠いんだね。」
「でもミキちゃん、大阪から2時間くらいで着くらしいよ。」
「よう知ってんな〜、まあ、そんなもんや。それにな、実は割引宿泊券、10枚ももろてんねん。そんなん俺と百合子だけやったら持て余すから、こうやって同行者を探し求めてる次第です。」
「それじゃあ高木くんも呼んじゃおうかしら。それで8人よね。」
「うちにも1カップル心あたりあるわ。それでちょうど10人じゃん。」
「お、いいねえ。三連休は美味いもん食って泳いで遊んで楽しもか!」
三葉は内心ガッツポーズした。"夏の暑さに当てられて………"なんて事を想像してしまい、瞬時に顔が赤くなってしまった。幸い、2人には見られていなかった。
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そして全員から了承の返事が貰えた。知らない人も混じっているとは報告したが、四葉と司と高木と勅使河原夫妻は口を揃えて、瀧と三葉のいちゃいちゃぶりを検証するいい機会だと快諾した。それを聞いた当の2人は微妙に膨れ面であったが。
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そして来たる7月16日土曜日午前7時53分、東京駅八重洲口。気分は学生時代に逆戻りした9人のバリバリの社会人の男女と花の女子高生1人が一堂に会した。全員が瀧と三葉とは知り合いなので、残る八名が自己紹介する。最後になった四葉が爆弾を投げ込んだ。
「宮水四葉です。三葉の妹です。瀧さんの妹になれる日を心待ちにしています!っていうかもはや頼れるお兄ちゃんです!」
瀧と三葉は顔を真っ赤にする。それを見て残りは爆笑の渦に包まれる。
「立花君、外堀埋まってんで〜」
「宮水、これは他の男にチェンジできひんぞ〜、妹さんが許さんことにはな」
「う、うるさいですよ狩野さん!」
「うるさいよ堀川君!」
2つの悲鳴がほぼシンクロする。さらに笑い声が響き渡った。
「いや〜三葉も瀧も仲のよろしいことで何よりや。」
「三葉、やっぱり瀧君しかおらんよ。」
「瀧も罪作りだな〜、先に妹さんを落として外堀埋めるとは。」
「全くだ。太平洋に沈めてやるから覚えとけよー」
「おい高木君、厳密には瀬戸内海やで。」
「こらこら、みんなもいじったらんとって。宮水さんと
すでに瀧と三葉を巡って奇妙な横の繋がりができている。それを考えると瀧と三葉は前途の多難さを思いやり、ため息が出るのであった。
「それにしても意外やな。奥寺の婚約者がこんなヒョロ坊主やったなんて。」
「すみません、期待外れで。」
堀川の挑発に司はやや申し訳なさそうにする。
「あら、これでも意外と男らしいところあるのよ。ウチの司は。」
そう言ってミキは司の首に腕を回して頬に口付けた。司の顔が一瞬で真っ赤になる。
「うわ〜〜、熱くて見てられへんわ。」
堀川がやや辟易していると、その様子を見てケラケラ笑っている瀧と三葉に四葉から手榴弾が投げ込まれた。
「まあキスこそあんまりしいひんけど、お兄ちゃんと姉ちゃん普段からあんな感じやよ。めっちゃ他人事みたいな顔しとるけど。」
2人の顔に朱が上った。
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大まかなスケジュールは夕方まで京都観光、その後京都駅でレンタカーを二台借りて晩までに淡路島に到着し、件の民宿で食事、2日目は1日中泳ぎまわり、最終日も昼まで泳いで東京に帰る計画である。
10人を京都まで運ぶのは東京駅8時30分発のぞみ17号博多行きである。狩野が手配していた2列分の指定席に座る。互いに椅子を向かい合わせにしており、2×2側に狩野、堀川、瀧、三葉の4人、3×2側に他の6人が座る配置となった。
6人のサイドでは大富豪をしながら瀧と三葉の昔話でゲラゲラ笑いながら急速に互いの親睦を深めていった。
4人の方ではトランプを用いておいちょかぶが行われている。
知らない人のためにルールを説明すると、親1人と子に分かれる。使用するのは株札か1〜10のトランプだ。勝敗は全ての札の和の1の位が高ければ勝ち、低ければ負けである。
どのように勝負するかというと、まず親は表向きの場札を4枚並べる。子は好きな札に賭ける。別に2点に賭けても一枚につき倍額賭けても構わない。そして端から順番に親は子に新たな札を見せ、それを子が確認すれば該当する場札の上に伏せる。もし和の1の位が0とか2とか小さい数字だと子はもう一枚だけ札を請求でき、これは表を向けて全員に開示される。ちなみに誰も賭けていない場札も札は全て開示されるが一応手順を踏む。
そして予め親も二枚の札を伏せておき、それを見て勝負するか、もう一枚請求して勝負するか、現時点で勝てそうな場札のみ勝負してもう一枚請求して残りと勝負するかを選択し、勝負を行う。
さらに特別な役が3つ存在し、子は1と4もしくは4と1の2枚の組み合わせでは「シッピン」という役が成立し、これは親の和の1の位が9であっても勝利できる。親も1と9もしくは9と1の2枚の組み合わせでは「クッピン」という役が成立し、これはシッピンにも勝る。さらに親も子も同じ数字が3枚連続して出れば「アラシ」となり、これは無条件で勝利できるだけでなく賭け金の倍をせしめることができる。よって、場札に同じ数字が3枚出ている場合、アラシが出ないので場をもう一度整え直す必要がある。
これにめっぽう強かったのは狩野だった。金をかけるわけにもいかないのでウノのカードを賭けていたが、もちろん堀川が親を務め、最初の持ち札は5枚から始まったにもかかわらず、15回で4倍に膨らませていた。対して瀧は負けに負けまくり、親の堀川から10枚借金してもなお足りない体たらくである。
「ふふふ、瀧くん全然ダメやね〜」
そう言ってころころ笑う三葉は7枚である。
「なんでもう一枚が10とか8とか1とかばっかりなんだよ。俺は5とか6とかそれくらいが欲しいのに!」
「それがおいちょかぶのおもろいとこや。」
「立花君弱すぎ〜、また借金せなあかんやん。」
「まあ、立花が弱いおかげでこっちも百合子に払ってる分の補填ができて何よりやねんけどな。」
「あーくそ!堀川さん、5枚借りますから右端の4に全部ベットしてください!」
「私一番左の2に2枚行くわ。」
「じゃあ私は左から2番目の7に1枚で行こかな。瀧くん、頑張ってよ〜」
「余ってる10には誰も行かんな。よっしゃ、左から行くぞ〜」
狩野は涼しげな顔でもう一枚請求し、3枚目は2であった。三葉は2枚でステイする。10のところには8が出たためそこでステイ。そして瀧に見せられたのは……
(1キタ〜〜!!!)
シッピン成立である。親がクッピンかアラシを出さない限りは勝ち確定である。
「ステイでお願いします。」
内心の興奮を押し隠して宣言する。そして親の堀川が自分の2枚を見た。そして一同に見せたのは……
「クッピンやな。」
「うわー、堀川君強いわ。私7やから勝負にもならんし。」
三葉は自分の伏せられた10の札を開示して堀川に支払う。
「瀧くん、瀧く〜ん」
瀧はフリーズしていた。そして堀川が瀧の役を開示する。
「うわ、こいつシッピンや。かわいそ〜。んじゃ、この5枚は頂くわ。また借金増えたぞ、こいつ」
「ところで百合子ちゃんは?」
「どうせ負けてるんやからおとなしく賭け金渡せ〜」
しかし狩野が開示した伏せられていた2枚目は……2だ。
「………お前、ここでアラシ出す?」
視線を狩野の顔に移すと、そこにはウザいレベルのドヤ顔が待ち構えていた。
「浩平、大人しく倍の4枚払うてくれるか?」
ついに10時52分にのぞみ17号は京都に到着した。瀧と三葉を介して集まった、生涯を通じて親交を深めることとなるこの10人が初めて一堂に会したアツイ三連休はまだ始まったばかりである。