君の名は。〜bound for happiness(改)〜 作:かいちゃんvb
「今日明日明後日とよろしくお願いします〜。」
堀川が一同を代表して旅館の主人に向けて挨拶をする。
「おお、君が堀川の息子かいな。俺がここの一応のオーナーの野中や。いや、よう目鼻立ちが似てるわ。堀川から面倒見るように聞いてるから、まあゆっくりして行ってくれ。」
「はい、そうさせて頂きますわ。」
「ホンマにアイツにそっくりやのう。その軽そうやけど締める時は締める態度とかな。その浅黒ポニーテールちゃんが彼女か?」
「そうなんです。こう見えても口は悪くてね〜〜。」
「やけどそういうところがええんやろ?」
「そんなドMじゃないですよ。慣れただけです。」
「がはははは。まあええわ。そういう事にしといたろ。とりあえず7時半なったら飯出すからそこの食堂に集まってくれ。風呂は俺らも入らなあかんから12時までに頼むわ。ほんで部屋な。この3日間お宅らの貸切やから六畳一間の部屋四つ全部使うてええからな。まあ、割り振りとかは相談してくれ。」
「何から何までお世話かけます。ありがとうございます。」
「ん。」
5分後、ささっと部屋割りが決まって瀧と三葉は2人の部屋でまったりしていた。この民宿の構造は、一階に受付と厨房とダイニングと脱衣所付きの風呂、トイレそして野中一家の居住スペースがあり、二階に宿泊用の四つの部屋と物置とトイレがある。瀧と三葉以外の3部屋の部屋割りは、勅使河原夫妻と四葉で一部屋、堀川と狩野で一部屋、ミキと司と高木で一部屋である。
「瀧くん、京都楽しかったね!」
「そうだな。狩野先輩にも色んな話聞けたし。さーて、明日は海だな!」
「うん、楽しみやね!」
一方、勅使河原夫妻の部屋では四葉が早速単語帳を開いて勉強していた。
「えーっと、donate寄付する、inherent内在する、termは期間と学期と………えっと〜〜」
「用語やよ〜、よう出るから覚えときよ。あとin terms ofで何々に関してっていう意味もあるで〜。」
英語科教員である早耶香が答えを教えてやる。
「わあお、さやちんサンキュー!」
「なんか分からんことあったらラインででも良いから聞いてくれてもええんよ。なんなら過去問の添削もしようか?」
「ほんまにありがとう!そうさせてもらうわ。」
そんな2人のやり取りを見て克彦は溜息をついた。
「四葉が言うてた単語何一つ分からんかったやんけ………」
司とミキと高木の部屋では、司とミキがいちゃついていた。
「ねえ、明日の水着白がいいかな?それともライムグリーン?」
「うーん、難しいところだなあ。ミキはどっち着ても可愛いからなあ〜〜。」
「うふふ、お上手ね。」
それを見て高木は一人ゴチる。
「よし、俺も彼女作ろ!」
堀川と狩野の部屋では荷物ー整理していた堀川に狩野が声を掛ける。
「なあ浩平、アレ持ってきた?」
「アレやろ?あるで。」
「空気とかどんな感じ?だいぶ長いこと使ってへんのちゃうん?」
「その点は任せとけ。ちゃんと入れてきてある。」
「ミカサ?」
「迷ったけどミカサやな。」
浩平の手には、黄色と青の球体が握られていた。
7時半になり、夕食の時間となった。豪華絢爛とは程遠いながらも淡路島の特産品をふんだんに使用した、女将が腕によりをかけた料理がズラリと民宿の大テーブルに並んだ。
「うまっ!」
「おいしい!」
素材の味が活きた、素朴な料理が10人の味覚を襲う。特に特製の新玉を使ったスープは絶品で、思わず瀧はため息をついていた。
「うわぁ、今まで食べてきた玉ねぎって何だったんだろう。口の中で溶ける玉ねぎは初めてだ。」
「お、立花くんええとこに気がつくねぇ!やっぱり淡路島の新玉はちゃうやろ?惚れたやろ?」
自慢の新玉を褒められて野中も鼻高々である。
「はい。惚れました。」
「ん?それって姉ちゃんより?」
「食べ物と比べてどうするんだよ。……もちろん三葉が勝ってるに決まってるだろ。」
「もう!何恥ずかしいこと言うんよ!」
すかさず言葉尻を捉えて四葉が混ぜっ返すが、瀧もしれっとあしらう。さらにその瀧の惚気に真っ赤になっている三葉を見て浩平と百合子が言葉を交わす。
「お、瀧やるなぁ〜。今のはポイント高いな。」
「流石我が愛弟子、やる事がちゃうわ〜。」
「これは師匠もポイント高いで。」
「何らしくない事言うてんの?」
「勘違い激しいぞ。ええ反面教師やったって言うてんねん。」
「お世辞ありがとう。」
「………唇に青のりついてんぞ。」
「あんたも口の端に米粒ついてんで。」
両者はニヤリと笑うと、お互いの青のりと米粒を取って食事を続けた。
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終始和やかに進んだ食事も終わり、皆で盛大に盛り上がったウノ大会もお開きになった午後11時30分ごろ、瀧は理性対感情の、もう何度目になるかわからない大激戦を繰り広げていた。缶チューハイを片手に進んだウノ大会で元々酒にあまり強くない三葉はものの見事に出来上がってしまい、タガが外れてやたらと瀧を誘惑してくるのだ。
「えへへ〜、瀧くん、飲んどる〜〜?」
ウノ大会は入浴と同時並行で行われており、その入浴の順番は公平を期してくじ引きで決められていて、瀧は最後の入浴者であった。瀧が入浴しようとした時は"明日もあるからそろそろラスト1ゲームやね〜"なんて言っていたくらい、普通にほろ酔いくらいだったはずで、瀧の記憶が正しければ柚子のチューハイ(500ml缶)を空けきっていなかったはずである。それが30分ほどの入浴を終えて部屋に戻ってきてみたらどうだ、空いたチューハイの缶が2本も転がっているではないか。
「四葉ちゃん、完璧やな〜。」
「でしょ!瀧くんとの初デートで酔い潰れて帰ってきた後に、"瀧くんの前で恥晒すんもう嫌やから〜"とか言うて自分の酒量を私の前で測ったことがあるんですよ。結果、このチューハイ2本が"理性ぶっ飛び"兼"翌日も記憶が残ってる"兼"寝ない"の酒量なんですよね〜」
瀧の部屋の扉の外では残りの8名がドアに聞き耳を立てている。実は瀧が入浴中に賭けが行われたのだ。つまり、酔っ払って無防備になった三葉を見て瀧は襲うかどうかである。三葉の限界酒量を知る四葉が主導し、他の面々が上手いこと三葉をその気にさせてチューハイを2本飲ませたのだ。全員一口100円を賭けており、浩平・百合子・司・高木が襲う、四葉・ミキ・勅使河原夫妻が襲わないに賭けていた。
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目の前の三葉はあられもない姿をしている。きちんと着ていた浴衣はゆるゆるになっていて左肩ははだけており、四葉が言っていた赤の勝負下着がごく普通に瀧の視界に侵入してくる。
(んー、眼福は眼福なんだけどなぁ〜)
「ん〜〜?瀧くんポケットに何入れとんの〜〜?」
(うわっ!?いつの間に!?)
どうやら下半身は欲望に正直なようだ。
「いやっ!これはその………」
「あれ〜〜?怪しいなぁ。隠しごとはあかんよ〜。」
「何も入ってないって!!」
三葉は瀧の分身を掴もうとするが、アルコールのせいか足下が覚束ず、その手は空振りを続ける。
「だいぶ酔ってるな〜。」
「酔っ払っとらんよ〜。」
「酔っ払いは誰でもそう言うもんだっと。」
瀧はついに三葉を躱して部屋の奥へと入った。そしてすぐさま2人分の布団を敷く。しかし、早く敷くことに意識を集中しすぎて背後が疎かになっていた。
「え〜〜い!」「うわっ!」
三葉は瀧の背中に抱きついた。
「えへへ〜〜。あったか〜〜い。」
「と、とと、おわっ!」
最初は何とか踏みとどまっていたが、ついにバランスを崩して布団に倒れ込んでしまった。瀧の背中では三葉の胸が激しい自己主張を行なっている。さらに三葉は瀧の背中に気持ちよさそうに頬ずりをしていた。
(これは襲えってことか!?いや、ここで襲ったら嫌われるかも〜、いや、そもそも男としてダメだろ!だがしかし!胸が気になるぅ〜〜!)
「やっぱり初めては素面の三葉とイチャイチャしながらの方がいい!!」
瀧はそう宣言すると頭の中で羊を数え始めた。200匹ほど数えると、背中から規則正しい寝息が聞こえてきた。どうやら今回も理性に軍配が上がったようだ。
部屋の外でも明暗が分かれた。
「立花流石やな!」
「さすが我が愛弟子!賭けには負けたがウチは誇らしく思うぞ!」
「ちぇっ!つまんねー!」
「お前の場合は瀧が襲わなかったからじゃなくて100円飛んでくからだろ。俺の100円は婚約者に行くだけだから変わんねーけどな。」
「お兄ちゃんはそんなケダモノじゃないもん!」
「まあここで襲っとったら俺が全力で張り倒しに行ったけどな。」
「もう!克彦!そんな仮定も意味ないくらい立花くんは紳士やから。」
「ウフフ、100円得しちゃった!」
皆が散り散りになって部屋に戻るちょうどその時、時計の針は日付を跨いだ。こうして関西旅行1日目が終了し、更に波乱の2日目へと突入して行くのである。