君の名は。〜bound for happiness(改)〜   作:かいちゃんvb

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第32話 気まぐれな雨の後で

試合終了と同時に、浩平チームも百合子チームも全員がその場にへたりこんだ。

 

「や、やっと終わった〜〜。」

 

浩平が天を見上げて言う。

 

「ホンマにミキさん強かった〜。ようここまで競ったわ。」

 

「百合子ちゃんこそ強かったわ。久々にいい汗かいたわ。あなたなら成徳とか実践でもレギュラー張れたんじゃない?」

 

「いや、流石に運が良くてベンチまでやろ。まあ準々決勝で氷上と当たったんが運の尽きやったかな。完全に負け惜しみやけど、あれがなかったら決勝までは行ってたわ。」

 

「私もあそこで共栄と当たってなかったら、ベスト8くらいまでは行ったかな。負け惜しみだけど。」

 

百合子とミキが思い出話に花を咲かせる。

 

「瀧くん、めちゃめちゃカッコよかったよ。」

 

三葉が足を伸ばして天を見上げていた瀧の肩に手を置いて言う。

 

「三葉こそ、めちゃめちゃ可愛かった。」

 

「もう!瀧くんたらお上手なんだから!」

 

瀧の返しに三葉は顔を真っ赤にして瀧の背中をバシバシと叩く。

 

「おーい、明日どうせほぼ全員筋肉痛で動かれへんくなるやろうから今のうちに泳いどけよ。」

 

「はーい。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「おー、お前ら、やっと終わったんか。」

 

午後四時になってオーナーの野中夫妻がおにぎりを10個ほど入れたお盆とクーラーボックスを持ってやって来た。

 

「あー、どうもお待たせしてすいません。なかなか決着がつかなかったもんで。」

 

息を整えた浩平が頭を下げる。

 

「いや〜、ええもん見せてもろたからチャラにしときましょ。まあとにかくスポーツドリンクとおにぎり持って来たから食べてや。」

 

試合で疲れ果て、胃も空腹を訴えていた一行はおにぎりとスポーツドリンクにかぶりついた。

 

「ほなゴミはおにぎりのラップとペットボトルに分けて袋にまとめて持って帰って来てくれ。晩飯は7時からな。おーっと、それとデカい雷雲が出来て来てるからゲリラ豪雨に気ぃつけろよ。」

 

野中が事務連絡を終えて宿に帰ると、男性陣と百合子と四葉は海に飛び込んでいった。残された同級生の女性3名も波打ち際で水を掛け合って遊び始める。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

和気藹々とした時間も束の間、5時半ごろに急に空が暗くなり、遠くで雷が鳴り始めたかと思うと、野中の忠告通りに急に大粒の雨がもの凄い勢いで降り注いだ。

 

「うわー、やっぱ降って来たか。みんな!急いで宿に戻るで!」

 

その百合子の号令とともに一行は海から上がり、急いでTシャツやカーディガン、ブルーシートなどを即席の傘にしてワーワーキャーキャーと喚きながら宿へと駆け戻った。そして、宿の入り口では野中夫妻が大量のバスタオルを持って準備してくれていた。

 

「いや〜、雲行き怪しなって来たから呼びに行ったろうと思った時には遅かったな。ま、とにかく体よう拭いて、お湯でシャワー浴びることやな。くれぐれも風邪引きなや。」

 

野中夫妻の完璧な対策に舌を巻きつつ、10人は男女5人ずつに分かれて芋の子を洗うようにシャワーを(もちろん女性が先に)浴び、部屋に直行した。

 

「本当に急だったな〜」

 

瀧が部屋着のTシャツを着ながら三葉に話しかける。もちろん三葉の着替えを見ることのないように壁を見ながら。

 

「そうやね〜。」

 

三葉は瀧と同じように壁を見ながら返事をする。にやける口元を抑えられないまま………。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

七時になり、いっこうは野中夫妻の自慢の料理に舌鼓を打った。皆も疲れていたのか、浩平、百合子、克彦、四葉は風呂を早々に済ませて眠ってしまった。その後にくじ引きで風呂の順番を決めたところ、偶然にも瀧と三葉が風呂の順番が最後の2人となったことで、他の4人の誘いもあって2人だけで夜の海辺を歩くことにした。

 

 

「昼間はあんなに暑かったのに、夜になったら割と涼しいんやね。」

 

紺に水玉模様が入った丈の長いワンピースの上に白いカーディガンを羽織った三葉が横を並んで歩く、半袖Tシャツにジャージの長ズボンを履いた瀧に話しかける。

 

「まああれだけ雨も降って地面も冷やされただろうしな。」

 

瀧はポケットに手を突っ込み、まだ少し濡れている地面を見ながら返事をする。すると、急に三葉が瀧の腕に抱きついた。

 

「お、おい三葉………。」

 

「瀧くん、夕方の時に私が濡れないようにしてくれてたんやね。」

 

大きなビニールシートを持って三葉の後ろを走っていた瀧は、三葉が濡れないように、左斜め後ろから降ってきていた雨に対して、ビニールシートと瀧の体で三葉を覆い被せるような姿勢で走っていたのだ。

 

「え、うん、まあ、確かにそうしたけど。」

 

「やっぱり瀧くんかっこいい。瀧くんはどんなけ私をキュンキュンさせたら気が済むん?」

 

以前早耶香から伝授された上目遣いを使って瀧を見つめる。

 

「そういう三葉だって、俺のためにわざわざ暖房つけて待っててくれたじゃん。おまけに暖房の風が当たりやすいように俺の荷物まで動かしてさ。」

 

バレるのが恥ずかしくてこっそりとやっていた瀧に対する気遣いがあっさりバレていることを知り、三葉の顔に朱が上る。

 

「何も恥ずかしがることないのに……。」

 

恥ずかしがって俯く三葉に苦笑しながら瀧は歩みを進める。しばらくすると、昼間に一行が遊んだ砂浜に着いた。空全体に、"まばらに"以上"びっしりと"未満くらいに広がる星空の下、暗い色をした瀬戸内海がよく見える堤防に2人は腰を下ろした。

夜風がそよそよと吹いている。三葉が瀧に寄りかかり、瀧が三葉の背中に腕を回して三葉の髪の毛を梳くなか、2人の間にしばらく心地よい沈黙の時が流れた。

 

「そう言えばさ……」

 

ふと思い出したように瀧が口を開いた。

 

「何?瀧くん。」

 

「三葉のお父さんのことなんだけど………」

 

「うん………」

 

瀧がいつか言わなければならないと思い続けていたことであり、三葉がいつか片付けなければならないと思い続けていたことであった。

 

「俺には三葉の気持ちも、三葉のお父さんの気持ちも一応わかってるつもりだし、三葉もとっくにそんなことはわかってると思う。だから説教垂れたりはしたくないし、実際しないんだけど、1つだけ言わせてくれないかな?」

 

瀧は三葉が嫌な思いをしないように慎重に言葉を選びながら三葉に語りかける。

 

「うん。ええよ。何なりと言って。」

 

「今度10月に糸守に行く時に彼女と彼女の父親が仏頂面なのは、できれば勘弁してほしいな。」

 

「………ふふっ。」

 

あまり瀧らしくない、どちらかと言うと浩平や百合子のような、ユーモアを交えた物言いに三葉は少し吹き出した。それと同時に三葉の心は少し軽くなった。それと同時に、瀧が三葉の彼氏であることを報告できるほど、本人も自信を付けることができたことを言外に伝えてくれた。それが何よりも嬉しかった。そして、覚悟を決める。

 

「………うん。お盆休みに帰る時にちゃんと仲直りしてくる。」

 

それを聞いた瀧は、三葉の華奢な肩を抱き寄せた。

 

「………ありがとう。」

 

そして、三葉の頭をくしゃくしゃと撫でてやる。

 

「もう、瀧くんったら………。」

 

そう抗議する三葉の両目からは、透明な水滴がはらはらとこぼれ落ちていた。肩も震えている。それに気付いた瀧は、子供をあやすように、ゆっくりと三葉の頭をポンと叩いてやった。その優しさに気付いた三葉から、今度は嗚咽が聞こえ始めた。瀧が見つめる瀬戸内海は、少し明るく見えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

10分もすれば三葉も落ち着いて、気持ちよさそうに瀧に身を委ねていた。

 

「三葉。」

 

「何?瀧くん。」

 

「そろそろ帰ろっか。」

 

「嫌。もっと瀧くんに埋もれてたい。」

 

「そっか。」

 

そう言うと、瀧は頭をポンと叩いていた右手を三葉のわき腹へと動かし、そこをちょんと触ってやった。

 

「ひゃっ!?」

 

「はい、ワガママ言わずに帰るよ。もうそろそろお風呂の時間だし。」

 

「も〜〜、意地悪〜〜!」

 

「意地悪で結構。膨れてる三葉も可愛いし。」

 

「なっ……!」

 

三葉の顔に朱が上る。そして三葉の動きがフリーズしたその一瞬のうちに、瀧は三葉をお姫様抱っこした。

 

「ちょっ!何するんよ!」

 

「何って?宿に帰るだけだよ。」

 

「何でお姫様抱っこするんよ!」

 

「恥ずかしがってる三葉の可愛い顔がよく見えるから。」

 

三葉の顔が真っ赤に染まる。そして、落っこちないように

瀧の首に回っている腕にしっかりと力を入れた。

 

7月17日22時24分、場所は淡路島のとある海岸で、瀧が三葉をお姫様抱っこして宿へと戻っていく。どうやら瀧は三葉の操縦法をだいぶ会得してきたようだ。

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