君の名は。〜bound for happiness(改)〜 作:かいちゃんvb
(ここから古畑任三郎ボイス)
皆さんはご存知ですか?高くジャンプをするために必要な筋肉を。もちろん足の筋肉は重要ですぅ〜。しかしバレーボールにおいては、そこからボールを打たなければなりません。そのためには足の筋肉だけでは足りないんですね〜。上に向かって伸び上がる、そういった働きをする筋肉が重要なんですぅ〜。はい、正解は、腹筋と、背筋。
(ここまで)
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翌7月18日午前6時34分、瀧は目を覚ました。隣では三葉がスースーと規則正しい寝息を立てている。昨日は結構良い雰囲気だったのだが、お互いが疲れていて風呂から上がった後にすぐに寝入ってしまった。水を飲むために瀧は起き上がろうとした。しかし、その意思は叶えられなかった。
「っつ〜〜〜〜!!」
全身に力が入らない。特に腹筋に力を入れようとした途端に筋肉痛に特有の鈍い痛みが走った。何とか態勢を整えてもう一度起き上がろうとする。仰向けに寝ていた瀧はうつ伏せになるようにひっくり返ろうとした。今度は背中と腿裏に鈍い痛みが走った。
「おおうっふ!」
何とかうつ伏せに漕ぎつけた瀧は腕立て伏せの要領で上体を上げようとするが、今度は胸と腕に痛みが走る。ろくに動くことも出来ずにジタバタともがく瀧の立てる物音に気づいた三葉が目を覚ます。
「ん………。」
「あれ、三葉、起こしちゃった?」
「ううん、大丈夫やよ。それよりどうしたん?のたうちまわって。」
「三葉も起き上がろうとしてみな?俺の気持ちがよく分かると思うよ。」
三葉も起き上がろうとしたが、瀧の3分前からの一連の動きを再生産するに留まった。
「これ無理〜。」
「だろ?まだ朝ごはんまで時間あるし、ちょっとこのまま居ようか。」
「そうやね。」
その時、コンコンと部屋のドアがノックされた。
「はーい。」
「俺、浩平。」
「どうぞ〜。」
入って来た浩平はしっかりと日本の足で床を踏みしめていた。
「すごーい、よく起き上がれたね。」
三葉が寝転びながら浩平に賞賛の眼差しを送る。
「いや、決しておたくらより筋肉痛がマシやってわけじゃないんやけどな。そういう時に立ち上がるにはコツがあるんや、コツが。」
「コツ?」
「それを伝授しに来た。」
「どんなん?」
「壁際まで転がって、片膝立てて壁を支えにして立つ。」
「わっ、地味〜〜。」
「ま、他のメンバーもお前らみたいにへばってるやろうから伝授したってくれ。」
「はーい。」
その返事を聞き届けると、浩平は満足そうに大きく頷いて瀧と三葉の部屋から退出した。
三葉が早速浩平のアドバイスを実行して、壁に向かってゴロゴロと転がっていった。壁に到達する寸前で片膝をなんとか立てる。その様子を瀧がボケーっと見守っている。そして、遂に三葉が壁を支えにして立ち上がることに成功した。しかし、筋肉痛のせいで太腿と脹脛に力が入らず、その両脚は極端に内股になってピクピクと震えていた。
「あははははっっっっつ!」
その三葉の何とも言えない情けない姿を見て瀧は大笑いしたが、笑う際に使った腹筋に鈍い痛みが走った。その哀れな姿を見て三葉もコロコロと笑ったが、すぐに瀧の行動を再現してしまう。
2人は大いに笑い、大いに筋肉痛に苦しんだ。
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午前9時すぎ、帰還の準備を済ませた一行は、水着に着替えることなくしばらくビーチで余韻に浸ったあと、予定を少し繰り上げて帰途に着いた。全員が全身筋肉痛で、泳いだりするどころでは無かったのである。帰りの新幹線は新大阪駅16時23分発ののぞみ386号の指定席を予約していたため、時間を変えることも出来なくもなかったが、浩平曰く「めんどい。」ということだったので、大阪駅周辺で時間を潰すこととなった。
11時30分、最初に借りた高槻でレンタカーを返却した後、阪急電車で梅田に戻り、昼食を済ませて女性陣はルクアとグランフロント大阪にショッピングに出かけた。
「他にも阪急と阪神と大丸あるけど、ちょっと年齢層高めのとこやからなあ。」
女性陣の中で唯一男性陣と行動を共にした百合子が語る。
「高島屋は難波行かなないし、東急とかはもちろんないからな。やっぱりあそこまでバレーがガチになるとは思わんかったからなあ。こんなに早く帰ってくるとは思ってなかったわ。」
今回の計画者である浩平が予定の変更を愚痴る。
16時に大阪駅の連絡橋の上にある時の広場で待ち合わせることを決め、男性陣と百合子はヨドバシカメラ・マルチメディア梅田で電化製品を見て回った。電化製品なら東京で見ても何ら問題はないのだが、要するに暇を持て余したのである。
「あ、そういえばここの上にファッションゾーンってあったな。ユニクロとか青山とか、その他にもちっちゃい店がようさん入ってたはずや。」
その存在を思い出した浩平の先導でファッションゾーンで男性陣が服やカバンを漁り始めた。東京より安価で、そこそこのものが揃っていた。また、百合子の先導で、阪急百貨店の地下でお土産を大量に買い込む。
一方で残りの女性4人はルクアで一通り服への興味を満たした後、カフェに入ってお茶をしていた。
「四葉ちゃん、勝負の夏だね。」
ミキが美味しそうにパフェを頬張っていた四葉に柔らかく現実を突きつける。
「そうですね〜。」
「あんた、ほんまに大丈夫なん?」
「ちなみに志望校は?」
「て………帝都大学東京……。」
「わーお、四葉ちゃんめちゃくちゃ賢いやん!」
四葉が挙げた志望校に、早耶香が感嘆の声を漏らす。
「ちょっと高望みやけど………」
「そんなの直前まで分からないわよ。司だって本来ならもうワンランク下の学校くらいが適正レベルだったけど、結局通ったのよ。」
「そうやよ〜、私もそういう生徒結構見てきたからね〜。」
「あんた、頑張らなな〜。」
「もう!姉ちゃん余計なプレッシャーかけんとって!」
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お土産やショッピングで増えた荷物と、全身筋肉痛の10人を乗せたのぞみ386号が東京駅に到着したのは19時前であった。そこから電車で瀧と三葉とミキにとって非常に感慨深い店、瀧とミキがかつてホール従業としてバイトし、瀧と三葉が最初の晩餐を行ったレストランで夕食を摂った。
「これだったら海水浴しにきたのかバレーしにきたのか分からないなあ。」
瀧がパンパンになった脹脛を叩きながら言う。
「でもめちゃくちゃ楽しかったね〜。」
三葉もほろ酔い気分でコロコロ笑っている。
「あー、この三連休の埋め合わせしないとな〜。」
四葉が脳内で今後の学習スケジュールを必死に再構築しながらオレンジジュースをすする。
「ミキさんかっこよかったですよ。」
「そういうあなただって、頑張ってたじゃない?」
司とミキのカップルが惚気る。
「いいなあ〜。」
それを見て高木が大きくため息を吐いた。
「早耶香、楽しかったな。」
「そうやね。やけど1番楽しかったんは瀧君が三葉を襲うか襲わんかでみんなで賭けた時やったな〜。」
「せやな。バレーボールと匹敵するおもろさやったな。」
克彦と早耶香が肩を組んで述懐する。
「お前、あのジャンプ(サーブ)はセコかったわ。」
「そっちは経験者2人やったやん。」
バレーボールが大好きな浩平と百合子がバレーの話で盛り上がった。
「そういや姉ちゃん、勝負下着買ったのに活用できひんかったなあ。」
「ええんよ!また今度で!」
「三葉、最初が肝心やからね。狼にしないように上手いこと歳上のあんたがリードするんやよ。私それで失敗したから。」
「悪かったな!狼で!」
「まあこればっかしは2人の共同作業やからな〜。でもやっぱり宮水次第かな〜。」
「ちょっ!みんな!ちょっと下品な方向に逸れすぎやで!」
「あー、俺も彼女欲しいなあ。」
「高木君なら出来るわよ。大丈夫。」
「心配すんなっれ!友人のこの俺、藤井司がほひょうしてやる。」
「司、ちょっと飲みすぎじゃね?」
その後は全員であーだこーだと語り合い、大いに盛り上がった。楽しい夕食の時間は瞬く間に過ぎ去っていく………。
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「明日仕事やから早よ寝ろよ〜!寝坊したら走られへんからな〜!特に社会人4年目諸君は3日くらい筋肉痛残るぞ〜!」
浩平がほろ酔いのテンションで重要すぎる注意事項を伝達し、10人の記念撮影をしたところで解散となった。
こうして、波乱と灼熱と激闘の夏の関西旅行が、ここに終わった。