君の名は。〜bound for happiness(改)〜 作:かいちゃんvb
では、本編スタートです!
第8話 誰がための訪問
かくして、この瀧との初デートの日、瀧と三葉の恋人生活はスタートを切った。三葉はルンルン気分で時折スキップしながら家に帰っていく。ただでさえ周囲の目を引く行動であるが、その姿を偶然目撃し、余程ショックだったのか、目を見開いてフリーズした女性がいた。
左目の下のほくろとショートヘアーが印象的な彼女=名取早耶香は三葉の幼馴染で、三葉と同様に彗星災害から東京に移り、現在は都内の私立高校で教鞭をとっている。早耶香は土曜日の勤務を終え、たまたま瀧の家の近く、四谷周辺の雑貨屋を物色した帰り道でこのスーパーアルティメット恋する乙女状態の三葉を発見したのである。
はっと早耶香が正気に戻った時にはすでに三葉の姿はなかった。とっちめてやろうと思ったのに、と歯軋りしたが、見失ったものは仕方ない。取り敢えず同じく三葉の幼馴染で、早耶香の婚約者でもある勅使河原克彦に知らせることが先決だと早耶香は判断し、家へ全力で夕焼けに照らされているアスファルトの上を駆けてゆく。
建築家である勅使河原克彦の休日は不定期である。勅使河原建設の社員の1人でありながら、すでに建築界の若手のホープとして関東各所で辣腕を振るっている克彦に仕事を頼む団体や個人は多いのだが、その日はたまたま休みであり、呑気に夕飯の支度をしながら鼻歌を歌っていた。
都心とベッドタウンの真ん中あたりにあるマンションの一室で、克彦は明日に入籍を控える早耶香の帰りを待っていた。時計は6時15分を指している。そろそろかなと思っていると、明らかにヒールで走る足音が聞こえてきた。早耶香であるのは多分間違いないが、何をそんなに急いでいるのか?煮込んでいたクリームシチューの火を止め、玄関の方を覗き込む。程なくしてバタン!と凄い勢いでドアが開き、息を切らした早耶香が部屋に突入してきた。靴もその辺に脱ぎ散らし、唖然としている克彦に興奮した様子で詰め寄ってくる。
「なぁ!!てっしー聞いて!!!」
明日に入籍を控える二人はお互いを下の名前で呼ぼうと決めていたにも関わらず、昔のあだ名でまくし立ててくる。
「どうしたんや早耶香、えらい慌てて。」
そう訊くのが手一杯である。
「三葉が、三葉がなぁ!!」
「頼むから落ち着いてくれ。近所迷惑や。んで、三葉がどうしたんやって?」
早耶香は息を整え、間を置きながら見たことを話す。
「三葉がね、あの三葉がよ、ニヤニヤしながらスキップしとったんよ!」
「な、なんやて〜〜!!」
確かにそれなら早耶香の態度も納得いく。自分がもしそんな三葉を見かけたら、あまりにもの豹変ぶりに卒倒してしまうかもしれない。
「そうなんよ。今さっき帰りに雑貨屋物色してて、ええもんなかったわ〜と思って帰ろうと思ったらやよ、それはもう幸せそうな笑顔でニヤニヤしながらスキップしとったんよ!」
「それは確かに嬉しいことやけど、めっちゃ見たかったな、それ。」
彗星災害以来、何か大事なものを失ったかのように物思いに耽ることが増え、本気で笑わなくなってしまった三葉を、親友かつ幼馴染である二人も心配していたのである。そんな三葉が本気で笑っている。それは嬉しいことであるのは間違いない。だが、性格上どうしても気になってしまう。
「で、何があったかは聞かんかったんか?ひょっとして、あの三葉に男か?」
「それがやらかしてもうたんよ。あんまりにもビックリしすぎて思考ぶっ飛んでる間にロストしてしもた。」
「マジか〜」
「この名取早耶香、一生の不覚。」
「明日から勅使河原早耶香やけどな。」
「あぁー、明日から名前が漢字7文字か〜。」
「せやな〜」
ふと、克彦に名案が思い浮かぶ。
「せや、明日区役所行くついでに三葉の家寄らへんか?結婚の報告のついでに……」
「尋問大大会と……」
克彦も早耶香も互いに悪党顔を近づけ合う。そうなれば話は早い。やる事は三葉の家にアポを取るだけだ。克彦が四葉に電話を掛けようとすると、ちょうど四葉から電話が掛かってきた。
「もしもし、勅使河原です。」
「あ、てっしー?四葉やけど。」
「ちょうど電話しようと思っとったんや。何か用か?」
「ねえちゃんのことやねんけど……」
「ニヤニヤしながらスキップして帰ってきたんやろ。」
「なんで知っとんの!?」
「早耶香も帰り道で見かけたらしいんや。四葉は何か知っとるんか?」
「どうやら男みたいやねんけど、真相は分からん。」
「ちょうどよかった。明日ちょっとそっち行ってええか?」
「3人でねえちゃんを締め上げると……」
電話の向こうでニヤつく四葉が想像できる。さすが四葉、察しがいい。
「そういうことや。ほんまはついでやねんけどな。」
聡い四葉は勘づいたようだ。
「祝福の言葉は明日に取っとくわ。」
「ありがとうな、じゃあ明日っちゅうことで。明日は三葉も家におんのか?」
「うん、明日はおるって言ってた。昼御飯用意しとくから。さやちんにもよろしくね〜、じゃあね〜」
「ありがたく頂くわ。そっちも三葉によろしく………言わん方がええな。」
「こういうのはサプライズの方が効果あるからね〜」
「んじゃ、また明日。」
克彦は受話器を置き、早耶香に向き直る。
「じゃあ、三葉に何があったかは知らんけど、取り敢えず飯にしよか。」
「そうやね。」
二人は食卓の用意を始めた。
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明けて日曜日。今日は瀧とは会えない。三葉は心持ち暗くなる。そういえば昨日は自分でもどうかしてると思うほど発狂していたはずなのに、あのゴシップ大好きな四葉からさほど追及されなかった。少し奇妙ではあるが、今つつかれたらどんなボロが出るか分からない。今日は四葉が炊事当番であるため、掃除と洗濯をしてしまえばもうやることはないため、瀧のことを考えてはニヤニヤしながら部屋でゆっくりしていた。
まもなく12時になろうという頃、三葉の部屋にもミートソースの香りが漂ってきた。どうやらパスタのようだ。しかしまだ三葉は気づいていない。すでにこの部屋には二人の侵入者がいることを。四葉がミートソースパスタを四つの皿に盛り付ける。侵入者=克彦と早耶香はニヤつきが抑えられない。そして、ついに四葉が三葉を呼んだ。
「ふわあぁ〜〜い」
と、なんとも間抜けな返事が返ってきた。そして三葉は扉を開け、もちろんフリーズする。
「三葉、邪魔しとるで」
「三葉、はよ食べようよ〜、私もうお腹空いた〜」
「ねえちゃんはよ座りよ〜〜」
「…………なんでてっしーとさやちんがおるんよ。」
「まあちょっと話があるんや。」
三葉が席に着いたところで克彦と早耶香は改まり、克彦が切り出す。
「この度、わたくし、勅使河原克彦と名取早耶香は夫婦になりました!!」
「今日から私は勅使河原早耶香なんよ。」
三葉はその言葉に驚きながらも感動する。
「さやちん、てっしー、おめでとーー!!」
三葉の目から涙が溢れてくる。そういえば、大学時代はこの2人を何としてもくっつけようと色々画策したものだ。それが、ようやく実ったのだ。嬉しくないはずがない。三葉は心の底から2人を祝福した。
新郎新婦の惚気話を肴にして4人は和気藹々と食事する。だが、そんな安寧の時は長くは続かない。まだメインディッシュは始まっていないのだ。今日の本当の目的は克彦と早耶香の結婚を祝福することではなく、三葉を締め上げることなのだから。徐々に克彦と早耶香と四葉の戦意が高まっていく。そんな3人の気配に気付く様子もなく、三葉は呑気に克彦と早耶香の惚気を聞きながら、幸せな時間を過ごしていた。
<次回予告>遂に始まった三葉追及作戦、しかしその実態は三葉の想像とは全く異なるものだった。一方その頃瀧は、高校時代の同級生と飲むべくある居酒屋を訪れていたが、そこにはサプライズゲストがいた。
次回 10月2日月曜日午後9時3分投稿 第9話「2つの査問会」
瀧と三葉の物語が、また1ページ。