霊夢がこのすばの世界に行くそうです   作:緋色の

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はじめまして。
これは基本的にこのすばの世界を主体に進めます。
知識は薄いところありますので、それでも平気という方はどうぞ。


第一話 女神連れて異世界に

「博麗霊夢さん、あなたは死にました」

 

 青い髪の女性は玉座に座りながら偉そうに言った。

 周りを見るからに、ここは地上ではなさそうだ。

 この場所の感じからして、あれは女神っぽそうね。

 偉そうに言ってるだけで、あんまし威厳ないけど、女神よね、あれ。

 

「死んだのはいいんだけど、何でここにいるのよ」

「えーと、うんとね……、あ、あったあった。あなたは幻想郷? とかいう聞いたこともない田舎出身みたいね。変な結界で外と切りはなして、幻想郷とかいうのにしてるみたいだけど、それでも日本の一部だからこっちに来たわけね」

 

 変な結界というと、博霊大結界のことよね。

 こいつの話からすると、外の世界のことを日本と言ってるのよね?

 外は日本で、というのは紫とかから聞いたことはあったけど、幻想郷の巫女の私に関係なさそうだから忘れてたわ。

 

「あなたみたいに不幸な事故で若くに死んだりしてる子に異世界転生しないか聞いてるのよ。聞いて聞いて。天国ってのはね、みんなが思ってるようなものじゃないのよ。器がないから触れ合えないし、一日中のんびりお話をするだけ。娯楽なんてないわ」

「へえ、そうなの」

「記憶をなくして転生ってのも寂しいものがあるでしょう? そこで異世界転生の出番よ!」

 

 魔王が暴れてるから異世界は大変で、死んだ人はトラウマで転生拒否るから魂の総量は減ってマジやばいから日本で死んだ奴送り込むってわけ、らしい。

 

「で、送った人が困らないように私達神々が言語を習得させ、転生特典をあげてサポートするわけ。どう? いいでしょ」

「いや、異世界転生しても面倒臭そうだから普通に転生して」

「何言ってんのよ! あんたそんな年で死んで悔しくないの!? 異世界転生してもっと生きなさいよ!」

「人間死ぬ時は死ぬものよ」

「何でよー! おかしい、あんたおかしい!」

 

 異世界転生を拒絶しただけでそう言われるのは納得できない。

 幻想郷ではいつ死んでもおかしくなかったし、死んだ時の覚悟は最低限持っている。だから、こうして死んだとしても慌てることはない。

 それに生き返ってまで魔王倒したいとか思わないんだけど。

 

「もし魔王を倒したら、どんな願いだって叶えてあげるわ。魔王を倒すのが怖いって言うなら、異世界でのんびり暮らしてもいいから!」

 

 しつこい。

 どんな願いも叶えると言われても、それに魅力を感じない。

 私が乗り気じゃないのを見て、とうとう手を合わせてお願いしてきた。

 

「この通り、お願いします。本当にあの世界は大変なの!」

 

 私みたいな人間にここまでお願いをしてくるなんてね……。

 巫女やってたせいよね? 神様にここまでお願いされたら断りきれないわ。

 

「わかったわよ。行ってあげるわ」

「本当!? よかったよかった。じゃあ、これカタログだから決まったら教えてね」

 

 笑顔で、雑にカタログを投げてきた。

 こいつ、話に乗った途端扱いが悪くなったわね。

 見ると、玉座に座って袋らしきものに入ったものを食べている。

 えっ、こいつ何なの?

 そりゃ、カタログに説明文は載ってるけど、そこはおすすめとか教えたり。

 

「ねー、私見てないでカタログ見てよ」

 

 肘をつきながら言ってきた。

 何かを食べてるばかを殴りたい。

 そうしたら話がまた面倒になりそうだから、カタログに目を通す。

 

「はーやーくー!」

「うっさいわね。今見てるんだから」

「はやくしてよねー」

 

 こいつはやっぱりばかだ!

 私が行く世界について何も教えてくれないから、カタログを見ても何がいいのかわかんないのよ。

 だからって、こいつに聞いても、まともな答えが返ってくるとは思えない。多分自分で考えた方が後悔しない。

 カタログには魔法とかあるのに、妖術とかはないから、多分魔法しかないか、その他は発見されていないかね。

 どういう魔法があるかもわからないから、武器や防具の効果を見ても決めにくい。

 

「何選んだって一緒よ。ほら、はやくー」

 

 あんたがそんなんだから転生を嫌がる人があとを絶たないのよ。

 それにしてもこの女神腹立つわ。

 ここまで腹立つ奴なんて幻想郷でもいない気がする。

 

「転生特典はどれも凄いから何選んでも大丈夫よ」

「……あんたを連れていって、少し世間というものを教えてやりたいんだけど」

「できるわけないじゃない。日本担当のエリート女神たる私を連れてく? ぷーくすくす」

「……ふざっけんじゃないわよ! いいわ、ならあんたを異世界特典で持ってくわよ!」

「霊夢様の要求承りました!」

「「えっ?」」

 

 白く輝く光と一緒に羽の生えた女性が現れた。

 あいつ、承ったとか言わなかった?

 言葉を聞いた女神が見てて面白いほど慌てる。

 

「な、何言ってんのよ! 本当に何言ってんのよ!」

「あはははははは! 人をばかにするからこうなんのよ! これに懲りたら少しはちゃんとすることね」

「ふざけないで! 女神にこんなことするなんて最低!」

「うっさい、邪魔!」

 

 掴みかかってきたアクアを……。

 鳥女が何かを言ってる。

 

「数多の勇者候補達の中から、あなたが魔王を打ち倒すことを祈っています。……さあ、旅立ちなさい!」

 

 足下には青く光る魔法陣がいつの間にかあって。

 私達は光に包まれた。

 

 

 

 

 

 気づくと、私達は街の中にいた。

 石造りの建物。

 道を進む馬車。

 視線の先を歩くのは、人外ではありそうだが、人間に受け入れられてそうな人外達。

 幻想郷では見られないものの数々で、私はここが異世界であると確信した。

 

「あああああ……」

 

 信じられないといった様子で、力のない声を漏らすアクア。

 これを転生特典でもらったわけだが、これはカタログに載っていた転生特典と同じぐらい役に立つのだろうか?

 もしかして、とんでもないミスをしたんじゃ、と不安に駆られるが、一応女神だから大丈夫と自分を説得した。

 

「あんた何てことしてくれたのよ! この私をこんな、こんなあ!」

「うるさいわね、もう。揺らすな」

 

 掴みかかってきたアクアを力任せに引き剥がすも、今にも泣きそうな顔でまだまだ文句を言ってきそうなので、私は先に言った。

 

「わかったわよ。帰っていいわよ。あとは一人で何とかするから」

「できるわけないでしょ! あんたが特典として連れてきたから、魔王倒さないと帰れないのよ!」

「あー……。帰れないんだ」

 

 意外と厳しい。

 帰りたい時に帰れるものだと思ってた。

 

「どうすんのよお……」

 

 とうとう泣き出した。

 ぐずぐずと泣くアクアをどう泣き止ませるか考えようとして、そこではじめて自分達が注目されていることに気づいた。

 私が泣かせてるとか青いのが無理言いまくって怒られたとか、そんな感じに言われている。

 

「アクア、とりあえず移動するわよ。私みたいなのは最初にどこ行くのよ?」

「さあ?」

「……おい」

 

 アクアの胸ぐらを掴む。

 

「ひいっ! ま、待って、思い出すから、ギルド、冒険者ギルドに行くと思います!」

「どこにあるのよ」

「わ、わかりません」

「わかりません?」

「だって、しょうがないじゃない! そこまで細かいことは見てないし!」

 

 もしかしなくても、アクアはつか……。

 まあ、まだ決めつけるのははやい。

 アクアの言う通り、施設の場所がわからないのは仕方ないことだ。

 こんなのでも女神で、仕事もあっただろうから、そこまで見られなかったのだろう。

 などと自分を納得させようとしたけど、無理だ。

 私のような人が最初にどこに行くべきか教えるためにも、ギルドとやらの場所ぐらいは覚えておくべきだ。

 

「ギルドって、大きさどれぐらいなの?」

「わ、わかんない。でも、それなりに大きいはず」 

「なら、上から見てみるわ」

 

 こいつ使え……。

 ギルドがどういうものか知らないけど、大きい建物のようだから、空から見れば絞り込める。

 

「上から?」

 

 無視して、私は飛んだ。

 空から探そうとして。

 

「レイム、戻ってきて! 見られてるから!」

 

 だめか。

 ……幻想郷でも混乱を招かないために、よほどのことがない限りは人里では飛ばなかった。

 この世界も幻想郷のように街の中では禁止されていそうだ。

 

「歩いて探すしかないわね」

「それよりここをはなれないと!」

 

 アクアが妙に慌てている。

 街の中を見ながら歩こうとした私を、アクアは手を掴んで走り出した。突然のことだったので、私は逆らえず、そのまま連れていかれる。

 

「もういいかしら?」

 

 しばらくして、やっとアクアは立ち止まった。

 振り返ると、私に聞いてきた。

 

「何で飛べるのよ!」

「私のいたとこだと普通なんだけど」

「おかしいわよ! あのね、人間は飛べないのよ」

「知ってるわよ、そんなの。私は例外よ」

「普通って言ったじゃない!」

「人じゃないのも含めての話よ。魔法使いとか」

 

 そこまで説明してもアクアは納得しない。

 だけど、幻想郷では多くの人外が空を飛ぶ。

 他に説明しようがない。

 

「あのね、この世界の人間は飛べないの」

「魔法で飛んだりは」

「するのは翼のあるモンスターぐらいよ」

 

 幻想郷とは違うようだ。

 まさか空を飛べるのが一部のモンスター限定とは思わなかったので、驚きを隠せない。

 そうなると疑問も出てくる。

 

「アクアは飛べないの?」

「飛べないけど」

「そう。飛べないんだ」

 

 女神なのに飛べないのか。

 私が何を思ったのか察したアクアが文句をつけてきた。

 

「あんたがおかしいだけだから! 飛べる方がどうかしてるんだから!」

「うるさいわよ。そんなに言わなくていいから」

 

 このままだとずっと言ってきそうだから、話を終わらせる意味で歩き出す。

 私が突然歩いたものだから、アクアは文句を言うのをやめてついてくる。

 私はギルドの場所を人に聞いて、それを頼りに進んでいき、ようやく到着した。

 ギルドの扉を開けて、中へと入る。

 中には数人の冒険者と職員がいる。

 私達は受付に行き、列ができているところは避けて、空いている方に。

 何であそこだけ人が並んでるんだろと思って見てみると、巨乳の綺麗なお姉さんがいたので納得した。異世界でも男は単純みたいだ。

 

「今日はどうされましたか?」

「……アクア、来たのはいいけど、何すればいいの?」

「冒険者登録よ。というわけでよろしくー」

「でしたら千エリスになります」

「お金? あんたお金は?」

「あんな状況よ。持ってるわけないじゃない」

 

 無一文。

 当たり前だけれど、働いてない私達にお金なんかあるわけない。

 どうしようかと思ってると、アクアはお年寄りからお金をもらってくると言い、そっちに行ったので追いかける。

 後ろで聞いていたが、自分の信者からお金をもらおうとしたら、別の信者だった。諦めようとしたところ、その人に二人の女神は先輩後輩の関係だからと言われてお金をもらった。

 

「ふふっ。私、後輩の信者から憐れまれて……」

「そ、そうね……」

 

 流石のアクアも今のはきつかったようで、失望のあまり泣きそうになっていた。

 こんな女神いるんだ……。

 経緯はどうあれ、私達はお金を入手した。

 これで冒険者登録ができる。

 お金を支払うと、職員から冒険者についての説明がされる。わからないことは聞いていったので、少し時間がかかった。

 書類に色々と書いていって、カードに触れるだけとなった。

 

「アクアからやっていいわよ」

 

 凄くやりたそうにしていたのでやらせたら、知力と幸運以外のステータスが凄くて、いきなり上級職になれますよとか言われ、アークプリーストになった。

 

「さあ、次はあんたよ」

「はいはい」

 

 カードにそっと触れる。

 

「えーと。……幸運と魔力が尋常じゃないんですけど! 平均と比べたら器用と敏捷はかなり高く、その他のステータスも高め。これならどんな職業もいけますよ!」

 

 職員に言われて職業を見るが、巫女は見当たらない。今まで巫女しかしてこなかった私には何がいいのかわからない。

 アクアはアークプリーストを選んだ。

 それがどんなものかを職員に詳しく聞き、頭を悩ませる。だって、悪霊退治とか私の本分だもん。

 アクアとこの先一緒に活動するのなら、ソードマスターやクルセイダーのような職業が好ましいと職員は言っている。

 私一人なら迷わずにアークプリーストを選ん……、ん? この世界でも私は空を飛べた。それってつまり幻想郷でできたことはここでもできるってことなんじゃ。

 他人に見えないように、体で隠しつつ、受付の下で手のひらの上に光る弾を出す。いつものように出てきた。

 ……私に職業は関係なかった。

 

「はやく決めなさいよー」

「あのね。これは大事なことよ。あんたみたいにぱっと決めるのがおかしいのよ」

 

 クルセイダーの硬さと私の力があれば無双できそうだが、空を飛べることで多くの攻撃は無力化できる。飛行できる敵と遭遇しなければ、クルセイダーの魅力は発揮されない。

 アークウィザードは多くの攻撃魔法を使える職業で、私の力と合わせれば、クルセイダーよりも活躍の場面は多くなる。しかも魔法を使ってから次の魔法を使うまでの間隔……隙を埋めることができる。唯一の欠点は上級魔法習得まで時間がかかることだが、候補にはなる。

 ソードマスターは近距離戦闘に長け、はっきり言うとアークプリーストとの相性は一番よさそうだ。遠距離攻撃に乏しいところはあるが、アークウィザード同様私の力で補うことが可能であり、飛行の強みも生かせる。

 冒険者は、職業補正もかからない上にスキル習得には余計にポイントを必要とし、その上教えてもらう必要もある。唯一の魅力は教えてもらえさえすればどんなスキルも習得できるところにあるが……、そこまでするぐらいならはじめの三つのどれかを選んだ方がいい。

 説明を聞いて、そんなによくない頭でどうにかこうにか利点を見つけてる私の気も知らないアクアは急かしてくる。

 

「ねえ、まだ?」

「あのねえ……。あんたのことを考えてるから時間かかってるのよ」

「私?」

「そうよ。あんたのアークなんちゃらを生かすために考えてたのよ。色々考えたけど、アークウィザードは上級魔法習得まで時間がかかるし、ここはソードマスターを選ぼうと思うの」

「なるほどなるほど。私の支援魔法を受けたソードマスターは無敵になるものね」

 

 唯一の不安は、こいつの平均以下の知力だ。どうもこの女神は考え足らずなところが見受けられるので、戦闘も変なことして足を引っ張らないか不安になる。

 私も私で考え足らずなところがあるとはよく言われたが、こいつはすぐにばれる嘘を吐いても大丈夫と思うタイプに見える。

 それにこいつには苦労させられるような気がする。

 

「ソードマスターでお願いします」

「わかりました! レイム様、アクア様、我々はあなた方を心より歓迎致します!」

 

 それに何だかんだ言っても、これからのことを思うと胸が膨らむ。

 あまり暗い考えをするのはよそう。

 全てはあるがままに……。

 

 

 

 

 

 私達は早速ジャイアントトード討伐の依頼を請けた。そうしないと無一文だから。

 武器もないのに挑むのは危険だが、弾幕で吹き飛ばせばいい。

 職員から打撃が効きにくいと教えられたが、私には関係ない。

 ちなみにこの蛙は食用となるみたいで、死体があれば引き取ってもらえるので消さないように注意する。

 

「あれね。予想よりでっかいわ」

「剣もないのにどうやって倒すの?」

「こうすんのよ」

 

 私は光る弾を数十個出し、それででっかい蛙を囲んで、蛙に向かって一斉に発射する。

 蛙に容赦なく、雨のように降り注ぐ。

 逃げることはできず、巨大な体で全てを受け止め、最後は全身の骨が砕けて死んでいた。

 蛙はでかいばかりで、どうやら予想を遥かに下回るほどの耐久力みたいだ。

 これ剣いらなくない?

 

「ねえ、今の何!? 魔法使えないのに、何で魔法みたいなの使ってんの!?」

「幻想郷では今の使えるのごろごろいるわよ」

「いや、おかしい! 絶対におかしい!」

 

 薄々わかってはいたが、幻想郷の常識はここではとんでもないことみたい。

 これはソードマスターを選んで正解っぽい。

 弾幕を見て戦慄くアクアを無視して、このあと蛙を二匹倒した。

 

「簡単ね。これなら私一人でよさそうね」

「ま、まあ、少しはやるみたいね。でも、仲間も大事だから。それにそろそろつ、疲れたでしょ? 交代してあげるわ」

 

 私の言葉を聞き、びくんと飛び上がったアクアが腕を組んで、震える声で言ってきた。

 どうやら活躍しないと捨てられると思ったらしい。

 戦うのは構わないけれど、この女神はどうやって蛙を倒すの?

 そうか! 駄目そうな女神とはいえ、女神は女神。きっと神としての力を使うのよ。

 

「レイム、見てなさい! これが女神の力! 世界で最も有名なアクア様の力よ! ゴッドブロー!!」

 

 アクアの拳が光を纏う。

 人のこと色々言ってくれたけど、似たようなことできるんじゃない。

 神の絶大な力を宿した拳が蛙なんかが防げるわけもない。

 いくら蛙が打撃に強いと言っても、神の力の前では意味を持たない。

 結果は見るまでもない。

 私は近くに蛙がいないか探して、いなかったので視線をアクアに戻す。

 

「あん?」

 

 アクアはいないのに蛙はいた。

 蛙の口から出ているのは足かしら?

 アクアの足っぽいわね。

 ……えっ?

 

「食われてんじゃないわよおおおおお!」

 

 幸いにも蛙は食ってる時は動かないようなので、救出できた。

 蛙の口から出たアクアは地面に寝転がり、両手で目を隠して泣きじゃくる。

 まさか、蛙に負けるとは思わなかった。

 弱いはずの蛙に食われて、唾液まみれになって、泣いて、こんなんが女神って……。

 

「ありがどお……、レイムありがどお!」

「やめて! 触らないで! 蛙臭い!」

 

 私は何とか避けられた。

 蛙の唾液は鼻持ちならないほどで、貴重な服を蛙の唾液で汚したくない。

 

「うう……。レイムが冷たい……。これも全部蛙のせいよ! そこの蛙、覚悟なさい!」

「優しくしたことないんだけど」

 

 私の言葉は聞かず、アクアが恨みを晴らすべく、マジギレして土から出てきた蛙に襲いかかる。

 

「この私を汚したこと! 神に牙を剥いたこと! 全てを懺悔なさい! むきゅ」

「学習して!」

 

 蛙を倒してアクアを救出した。

 

 

 

 

 

 ギルドに戻った私は結果を報告した。

 職員のお姉さんに「いきなり達成なんて凄い!」と褒められた。

 こうも素直に褒められると、むず痒くなる。

 

「しかし、武器もないのにどうやって倒したんですか?」

「それは秘密よ」

「それは残念です。お連れの方は?」

「先に銭湯に行かせたわ」

「そうでしたか。こちら追加討伐も含めて十三万エリスになります」

 

 財布代わりになるものがないのに気づいて、言ってみたらサービスで布の袋をくれた。

 お礼を言って、お金を布の袋に入れる。

 私はギルドを出て、アクアが待つ銭湯へ向かう。

 銭湯の前にいたアクアと合流して入店した。

 体を綺麗に洗い、蛙の悪夢から解放されたアクアは、ギルドに戻ってくると上機嫌でお酒を飲みはじめた。

 私もどんどん飲もうとして、その手を止めた。

 目の前の女神が酔い潰れるような気がしたから。

 

「アクア、明日は武器買うわよ」

「うーん? 武器い?」

「そうよ。私もいつまでもあんな戦い方できないんだから」

「そうねえ。剣がないとねえ」

 

 弾幕が目立つものなのはアクアを見てわかった。

 今日は仕方なかったが、これからは目立つやり方は控えないと。

 剣さえあれば、ソードマスターの私なら蛙を倒すのは簡単だ。

 片手剣、両手剣には既にポイントを振った。

 私の場合は初期ポイントが30もあり、この内2ポイントで二つともとれた。

 残りは今後ゆっくりと決める。

 気に食わないのは、アクアが最初からアークプリーストのスキルを全部取得して、宴会芸スキルも取ったことだ。

 こんなところで女神の力を発揮するとは。

 

「そういえば、あんたならアークウィザードやってもよかったんじゃない?」

「そうもいかないみたいよ。上級魔法は詠唱覚えないといけないから、取るのに時間かかるわ」

 

 どっちにしろソードマスターが正解だ。

 私はあれこれ考えるより行動する方が性に合う。

 ソードマスターはそんな私に適している。

 

「まあ、これからに乾杯!」

 

 初日にしては中々のスタートができたはず。

 明日になれば、安物でも剣が手に入る。

 この日のお酒は美味しく感じた。

 しばらくして、予想通りアクアは酔い潰れて寝てしまったので、私は代金を支払い、アクアを背負う。

 支払う時にお姉さんに安くて綺麗な宿屋を教えてもらった。

 凄くありがたかったので、何度もお礼を言ってから、言われた宿に向かう。

 

「ふひぇひぇ、魔王なんて、魔王なんて、敵じゃないにょよー」

 

 お金を節約する意味で一部屋にしたのだけど、ばかがうるさい。

 何でこんなに寝言言うのよ。

 しょうがないからアクアを床に寝かせる。

 うるさいことはうるさいけど、眠ることはできる。

 こいつは寝ても迷惑かけるのね。

 やれやれ。

 重くなった瞼を下ろして、眠気に逆らわず眠りについた。

 

 

 

 翌朝。

 目が覚めた私が見たのは、床でも気持ちよさそうに寝ているアクアだった。

 

「たくましいわね」

 

 よだれを床に垂らしている。

 昨日まで女神やってたとは思えないわ。

 剣を買いに行きたいから起こさないと。

 

「アクア、起きて」

 

 強く揺らすとアクアが起きた。簡単に起きてくれたのでビンタしないで済んだ。

 大きな欠伸をし、立ち上がり、んーっと言いながら腕を伸ばした。

 

「ちゃんと寝れた?」

「ばっちり! かなり調子いいわ」

 

 床で寝てたのに体は痛くないようで、それが女神の力なのか、それともただ丈夫なのか、区別がつかなかった。

 一つ確かなのはアクアにはベッドはいらないということだ。

 絶好調らしいアクアを連れて武器屋へ。

 たくさんの剣があり、素人の私にはどれがいいのかさっぱりだ。

 片手剣、両手剣、どちらのスキルも取ったが、どっちが私に合うのか不明だ。

 個人的に大きな両手剣は厳しい。

 両手剣でも小さめの部類か、でもそれなら片手剣を選んだ方がよさそうよね。

 

「へえ、こんなのもあるんだ」

 

 静かだなあ、と思ったら商品に夢中になっていた。

 邪魔しないならそれでいい。

 しばらく片手剣を見ていて、他より安いものを発見した。

 

「すみません。どうしてこれは安いんですか?」

「それはね、中途半端だからさ。両手剣にならないようにしつつ、大きさは両手剣に近い片手剣。それなら普通の片手剣か、普通の両手剣を買うのがいい。ものがいいだけにもったいない」

「そうですか」

 

 試しに手に取る。

 大きさの割には軽めで、手に吸い付くように馴染む。これなら楽々扱えそうだ。

 素振りをしてみたい。

 

「これで素振りできませんか?」

「構わないよ。街の外に行こうか」

「ありがとうございます。アクア、行くわよ」

「はいはーい」

 

 武器屋を出て、店主と一緒に街の外に来た私は近くに人がいないのを確認してから剣を鞘から抜き、強く振る。

 はじめて扱うのにきつくならないのは、職業とスキルのおかげだろうか? それならもう少し重くても大丈夫かも。

 楽しくなってきた。

 調子に乗って、縦横無尽に剣を振り回す。

 途中から体も動かして、気が済むまで剣を振る。

 

「ふう……」

 

 疲れが出始めたぐらいで私は素振りをやめた。

 こんな風に運動したのは久しぶりな感じがする。

 私にそんなことさせたこの剣は相性がいいのかもしれない。これ買おう。

 店主に言おうとしたら。

 

「いやあ、素晴らしかった! 剣の舞とは今のを言うんだろうね。途中から見惚れてたよ……。その剣、あんたにあげるよ。どうせ売れ残るものだ。それなら最高の使い手に渡した方が剣も喜ぶってもんだ」

「いいんですか!? ありがとうございます!」

「その代わり大事にしてくれよ」

「はい!」

 

 素振りが楽しくなって調子に乗ったら無料になった。

 思わぬ儲けだ。

 剣の購入費が浮いたので、少しは余裕ができた。

 店主を見送り、ギルドに行こうとしたのだけれど、アクアに引き止められた。

 

「その剣の切れ味試してみない?」

「そういえばやってなかったわね。いいわ、やってみましょ」

「あそこに蛙いるわよ」

「よし!」

 

 剣を手に私は駆ける。

 蛙が私に気付き、舌を伸ばしてきた。それを切り払い、間合いに入った瞬間に剣を振り上げる。

 それだけで蛙は真っ二つになった。

 ……いや、この剣切れ味よすぎでしょ!

 

「いやあ、凄かったわね!」

 

 アクアの下に戻ると、興奮した様子で言ってくる。

 確かに凄かった。何の抵抗もなく切り裂けた。

 これは流石に職業補正とかスキルだけじゃない。

 

「この剣自体かなりよ。中途半端にしなければ、かなり値が張ってたんじゃないかしら」

「どんなものも使われなきゃ安くなるのね」

「おかげでこうしてただでもらえたわけだけど」

 

 二日目の滑り出しは好調そのもの。

 今だけな気もするけど気のせいよね……。

 よくわかんないけど、アクア並みの人が仲間に来るような気がする……。

 私は背筋が冷たくなる思いがした。

 

 

 

 ギルドに来た私達は朝食を注文する。

 

「あっ、剣を買われたんですか?」

「ちっちっちっ。違うわよ。レイムはこの剣を舞い踊るかのように振り回し、店主を魅了して譲ってもらったのよ。切れ味もよく、蛙を真っ二つにしたわ!」

「本当ですか!? もう凄いなんてもんじゃありませんよ、それは!」

「確信したわ。レイムは最強のソードマスター……いや、最強の冒険者になると!」

 

 アクアの熱弁に職員が期待と興奮の眼差しを向けてくる。

 何だろうか。アクアにそこまで言われると、逆に不安になってくる。

 アクアがそこまで言うと思わぬ落とし穴が出てきそうだからやめてほしい。

 

「あんまり期待しないで。最初だけの可能性もあるんだから」

 

 私の言葉も、アクアの熱弁に心を動かされた職員は「謙虚な人だ」と言ってきた。

 あっ、これ、手遅れね。

 アクアによって、望まぬ形で私の評価が上がっていく。レベル1のソードマスターに期待されても困るんだけど……。

 職員は仕事があるから戻った。

 そのあと運ばれてきた朝食をいただく。

 半分ほど食べ進めたところで、アクアが言ってきた。

 

「仲間が欲しいわね」

「仲間?」

「そうよ。レイムは武器持ちソードマスターだからいいけど、私は支援職のアークプリースト。レイムみたいに戦うことは不向きなの」

 

 アクアが何を言いたいのかわからず、手を止めてじっと見つめる。

 

「レイムが近くにいない時に襲われたら私は終わりよ。そうならないためにも仲間を募集すべきよ」

「なるほどね。けど、私達のところに来る人っているかしら?」

「私達は上級職よ。むしろ向こうからお願いされるわよ」

「そんな簡単にはいかないと思うけど。それに先に私達をどうにかしないと」

「どういうこと?」

「あのねえ……。考えてみなさいよ。私達は昨日来たばかりよ? 服なんかこれだけよ。何が言いたいかわかるわね?」

「当たり前じゃない。レイムも女の子ね。可愛い服が欲しいんでしょ」

「違う!」

 

 何もわかっていない。

 誰が可愛い服なんか欲しいと言った。

 

「生活用品を揃えようと言ってるの! 下着はない! 服はない! あとは櫛とかそういうのね」

「はっ! 言われてみればそうね! パジャマとか、タオルとか色々欲しいわね」

「生活力皆無の私達のところに来たいと思う物好きなんかいないわ」

「そうね。貧乏で喘いでるパーティーに入っても苦労しかしないのものね。そんなところ誰だってお断りね」

「そういうことよ」

 

 最低限の生活さえも保証されていなければ、例え上級職がいるパーティーでも敬遠される。

 アクアの甘い考えを正し、私は自分達の生活を安定させるべく、行動を起こした。

 蛙を狩れば金になる。

 しかし、蛙討伐にアクアはいらない。むしろ一人の方が安全だ。

 

「アクア、あんたはギルドにいて、怪我した人に回復魔法をかけなさい」

「なるほど、それで礼金をもらうのね」

 

 アクアに親指を立てる。

 我ながらよくできた作戦だと思う。

 私は依頼を請けて、ギルドをあとにした。




出だしはこんなものでしょうかね。
のんびり気ままに書いていきます。

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