霊夢がこのすばの世界に行くそうです   作:緋色の

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マイホームを買う時、人は永久労働を命じられるのだ。


第十話 大陸を蹂躙するワシャワシャ

 アクセルの街で家を買う。

 ダクネス、アクア、めぐみんがそれぞれ二千五百万エリスを出す。私はドラゴンの報酬の残りと二千五百万エリスを出して七千五百万エリスだ。

 合計で一億五千万エリス。

 これだけあれば豪華な屋敷とかでもなければ購入できる。らしい。

 

「さあ、我々に相応しい家を探しましょう」

「保証人などは私の名を出せば問題ないだろう」

「女神に相応しい家を要求するわ」

 

 アクセルは王都よりも物価などが安いので、同じ資金でもアクセルの方がいい家を購入できる。らしい。

 比較したことないからどの程度安いかわかんないし。

 難しい話は置いておくとして、私達は浮かれた様子で不動産屋に向かっていた。

 

「お家、お家」

 

 家の購入とあって、私は上機嫌で口ずさむ。

 ああ、これからはお家でゆっくりできるのだと思うと、気分がよくなる。

 今日まで頑張ってきたのが報われる。

 不動産屋に到着して、早速物件を探す。

 しかし、今まで神社、宿屋と一つのところに長く生活していた私にはどれがいいのかなんてわからない。

 その辺は意外と生活力があるめぐみんに任せ、

 

「ですから、例えダスティネス様がいらっしゃっても無理ですって! お願いですから、こちらの優良物件で満足して下さい。こちらだって冒険者の方にお売りするのは躊躇われるというのに!」

「我々の活躍は聞いているでしょう? アクセルをあらゆる危機から守れるのは我々だけです。例えあのデストロイヤーが来ようと」

「王都で上手いこと活躍できただけじゃないですか!」

 

 だめだこいつはやく何とかしないと。

 私はめぐみんを話し合いの場から外させ、代わりに私がダクネスの隣に座る。

 店主は疲れたように深く溜め息を吐いた。

 

「こちらにある物件は優良物件です。皆さんの職業、予算、そしてダスティネス様、それらを考慮して用意させていただきました。冒険者という不安定な職業の方に紹介するのは、ダスティネス様の名があるからです。これ以上は本当に無理です!」

 

 めぐみんでよほど疲れたのか、強く言ってきた。

 後ろのめぐみんは少し威嚇するように唸っているが、この際だから無視しよう。

 ダクネスは店主に頭を下げる。

 

「私の仲間が迷惑をかけてすまない」

「あ、頭を上げて下さい! ダスティネス様がそこまでされなくても!」

「迷惑をかけたのは事実だからな。あなたが気にすることではない。……さて、それぞれの物件について説明してもらえないか?」

「か、かしこまりました!」

 

 店主の説明を聞く限りでは、どれを選んでも損はなさそうである。

 ダクネスが私に聞いてくる。

 

「レイムはどれがいい?」

「これってどれ選んでも変わらないでしょ。あとはもう私達の好みとかになるわよ。お風呂が大きいのがいいんだけど」

「でしたら……、こちらの物件になりますね」

「価格は一億五千万エリスか。悪くないな」

 

 最後に物件そのものを確認し、文句なしと判断して、購入に踏み切った。

 物件を購入したら、次は家具だ。

 私達の購入した家は二階建てで、二階の部屋数は五つあり、それだと一部屋余るから、余った部屋はお客さん用にしとこう。

 私の希望する大きなお風呂があり、もはや非の打ち所がない。

 共有する家具はみんなで話し合って決める。

 自室のものは各々好きなものを購入する。

 と言っても自腹であるし、そこまでのものを求めるつもりはない。

 生活できるだけあればいいやと本当に最低限だけ買う。

 そうしたらアクアに女子力が足りないとばかにされたから、酒瓶を抱えて寝る奴に言われたくないと言い返して涙目にしてやった。

 今からあれこれ買うよりも、あとで必要になったら購入すればいいと思う。

 ま、何を買えばいいのかわかんないのが一番の理由なんだけどさ。

 購入した家具はお店の方で運び入れてくれるそうで、大変な思いをしなくて住む。

 しかし、当日にやるのは無理なので、三日後に運び入れることを言われた。

 家を購入しても当日から住めないのは残念な話だが、三日待てば住めるのだから我慢しよう。

 

 で、三日後。

 待望の日を迎えた。

 家具が家の中に運び込まれ、私の新しい日々がはじまる……!

 居間にはテーブルを挟んでソファーがある。しかも暖炉があるから、これからの季節にはぴったりだ。

 私のための家が完成した。

 ソファーに座って、天井を見上げる。

 ああ……。

 これからはのんびりと暮らせる。

 家の掃除をして、お茶を飲んで。

 本なんかも読んだりして。

 そんな日々に飽きたらレベル上げに行って。

 ふあああああああ。

 もはや私の生活に非の打ち所はない。

 

「くあー……」

 

 このソファー随分と座り心地がいいわね。

 ああ。

 段々と眠気が……。

 そこに私の時間を壊そうとする敵が現れた。

 

「レイム、早速だが依頼を請けに行くぞ」

「嫌」

「家の購入やら何やらでお金をたくさん使ったんですよ? 少しは取り戻さないと」

「いーやー」

 

 まだ貯金はたんまりとある。

 依頼を請ける理由がない。

 

「ふあー……」

 

 ソファーに寝転がる。

 何てことなの。

 気持ちよく眠れそうだわ。

 それなのに敵は妨害してくる。

 

「気に入ったのはわかるが、この家を手ばなさないためにも依頼を請けよう」

「依頼の報酬で豪華な料理とお酒を用意して、新しい門出を祝うのよ」

 

 アクアもなぜかやる気を出してる。

 めぐみんとダクネスに言いくるめられた?

 

「お金ならあるんだから、それで祝ったらいいじゃないの。少しはゆっくりしていいじゃないの」

「お金があるからと甘えていたらだめだろ。依頼が終わったらゆっくりしよう。冒険者として新しい日々を送る意味で依頼を達成しようと言ってるんだ」

「依頼を無事に終えて幸先のいいスタートを切りましょう」

 

 私は何も聞こえなかった。

 むしろ周りには誰もいない。

 

「ほら、行くぞ! この! 抵抗するな! 大人しくしろ!」

「ほら、変に抵抗しないで素直に痛い! 蹴りました、普通に蹴りましたね! いいですよ! それならこちらもとことんやるまでですよ!!」

「ちょっと、レイム。一人だけサボろうとしてんじゃないわよ! 私だってごろごっ!? よくもやったわね! ほら! 三対一で勝てると思ってるの!?」

「私は、私はのんびりするって決めたのよ! ちょっ! 三人なんて卑怯よ! きゃっ! ダクネス、あんた足掴むんじゃないわよ!」

「ふふん。私だって支援魔法を使えば、こんなものよ! めぐみん、とことんやってしまいなさい!」

「こら! アクア! 手をはなしなさい! ちょ、ちょっと、めぐみん何しようっての? や、やめなさいよ! 痴女認定するわよ!? あっ!」

 

 めぐみんが容赦なく私をくすぐる!

 

 

 

 三人に負けた私は泣きべそになる。

 あんな、あんな酷いことするなんて……。

 

「何なのよ、もー……」

「これを読め」

「何これ? 冒険者新聞?」

 

 ダクネスに渡されたのはタイトルが冒険者新聞と書かれたものだ。

 こんな新聞あったんだ。

 はじめて見るから好奇心が出てくる。

 私の目つきが変わると、ダクネスは説明をする。

 

「それは週に一度発行され、色んな街の依頼、ダンジョンについての情報、旅に役立つアイテムの情報を載せている」

「へえー」

 

 話の通り、多くの依頼の情報が載っている。なるほど、これは便利だ。

 冒険者が多いこの世界ならこの新聞も需要がありそうね。

 

「んっ? この期待の新人冒険者にあるハクレイレイムって、私のこと?」

「むしろお前以外にいるのかと問いたい」

「だってこんなのに名前が載るなんて思わないじゃないの」

「レイムは幹部討伐、ドラゴン討伐、王都での大活躍と色々やってますからね。載ってても不思議ではないありませんよ」

 

 他にも九名ほど名前があるけど、興味ないからどうでもいいや。

 旅に役立つアイテムもスキマがあればほとんど関係ないし、あとで見よっと。

 依頼は……と。

 

「少し面白いわね」

「そうだろ? その新聞に載るのは手強いモンスターのものばかりだ」

「そういうことですか。難しい依頼を減らすために、そういった依頼を求める冒険者のために載せてるんですね。……ふむふむ。やはり美味しいクエストの類いはありませんね」 

「そういうのはその街の冒険者が倒せるからな。その街のクエスト難易度の基準になるのはいくつか載せてるが、基本は手強いモンスターの依頼だ」

 

 もちろん街によって手強いモンスターの基準は変わる。

 アクセルだと初心者殺しは強いモンスターとして扱われるが、他の街だと普通の強さとして扱われていたりする。

 理由は簡単で、アクセルと違って冒険者のレベルが高いからだ。

 アクセルは駆け出し冒険者の街だ。よって冒険者のレベルはそこまで高くない。そのため初心者殺しがかなり危険なモンスターとして扱われるわけだ。

 ちなみにアクセルの依頼情報はこの新聞には載っていない。当然か。

 

「クエスト難易度の基準なんて載せてどうすんのよ」

「そりゃあ、自分の実力に合った街を見つけやすくするためだ。依頼の有無は日々変わるが、その街の基準が大きく変動することはない」

 

 生態系とかそういうのが関わってくるのだろう。

 街によって多少異なるが、やはり高難易度ともなると大きく差があるわけではなさそうだ。

 トップクラスはドラゴンといったものになるが、そういうのは飛び抜けてヤバいだけで、参考にはならない。

 

「この中から依頼を探すわけですね」

「ああ。幸いなことに載っている依頼は報酬だけでなくモンスターの居場所も書いてあるから、はやく帰れるものを選ぼう」

 

 遠方から冒険者が来やすいようにするためか、モンスターの簡単な情報と報酬と居場所は記載されている。

 ダクネスはいくつも地図を出して、めぐみんと一緒に街から近い依頼を探す。

 それを見て私は。

 

「それは今度にして、アクセル周辺のにしましょうよ。一撃熊とかさあ」

 

 一撃熊と聞き、ダクネスとめぐみんはお互いの顔を見る。

 一撃熊。それは悪魔討伐の時に私がお金ほしさに狩ろうとしたモンスターであり、しかし悪魔討伐を依頼されたことでほったらかしたものだ。

 報酬は確か百万だか二百万のはず。

 そろそろこの世界の熊がどんなものか見てみたい。そして狩る。

 

「それなら夕方には帰ってこれるかもしれないな」

「アクセルの依頼の中ではトップクラスの難易度ですからね。ちょうどいいかもしれませんね」

「じゃあ、その物騒な名前の熊にする?」

 

 そのアクアの質問にダクネスとめぐみんは頷く。

 

 そういうわけで私達は一撃熊を討伐するために、冬眠から目覚めた熊が農場に来て大変だから倒してくれというのを請けた。

 その農場まで来て、私は一撃熊を目撃した。

 普通の熊と違って強そうで、荒々しさを感じさせるその熊は畑を荒らしている。

 あれが一撃熊か……。

 何をしてるんだろうと思ったけど、どうやら地中の野菜を掘り出しているみたいだ。

 野菜を掘り出していた一撃熊は何かに気づくと、手を止めて顔を上げた。

 私達を見ると、唸りだした。

 

「じゃ、さくっと倒すわね。『ライトニング』」

 

 本来一撃熊はアクセルの街の冒険者では倒すのが困難らしい。

 ただ紅魔族のように上級魔法を当たり前に使う連中には稼ぎのいいモンスターとして狩られる。

 私の魔法は一撃熊を文字通り一撃で葬った。

 何と言うか、前々から思ってたことだけど……、魔法強すぎない?

 魔法耐性ないと即死状態だからね。

 楽だからいいんだけどさ。

 

「相変わらずだな。ここまで来るとお前がてこずる相手を見てみたいものだ」

「それは面倒だから嫌よ」

 

 依頼も終わったことだし、さっさと帰ってだらだらしよう。

 それにしても、一人で倒せるんだから他の三人を買い出しに行かせればよかった。

 そうすれば買い出しをしないでよかったのに。

 一撃熊討伐報酬を受け取り、そのお金を持って夕日に染まる商店街へと出向く。

 このお金があれば買えないものはないだろう。

 よほどの高級食材でも買えないということはないと思う。

 食材を見ながら歩いていると、

 

「はぅあ! あ、あれはまさか!」

 

 めぐみんが何かを見つけて叫ぶ。

 頬に手を当てて、興奮した様子を見せている。

 

「霜降り赤蟹じゃないの! これは買うしかないわよ!」

「何それ」

「霜降り赤蟹は最高級食材の一つで、爆裂魔法を我慢したら食べていいと言われたら喜んで我慢して、お腹いっぱいになるまで食べて爆裂魔法を使いますよ!」

「爆裂魔法好きのあん……ん?」

 

 口は開かないが、ダクネスでさえ蟹に目を奪われているようだ。

 そんなに美味しいのかしら、あれ。

 一匹の値段は……五万エリス。一人一匹として四匹あればいいわよね。

 

「この蟹を四匹ちょうだい」

「はいよ!」

 

 蟹を四匹購入する。

 私からお金を受け取ると、店長は蟹を二匹ずつにわけて袋に入れ、それを私へと手渡す。

 

「はわわわわ。気前よく一人一匹なんて……! 今日ほどこのパーティーに加入してよかったと思った日はありませんよ!」

「そんなになの? そこまで楽しみにされると私も楽しみになってくるんだけど」

 

 沢蟹より美味しいのかしら。

 めぐみんが調理していない蟹をそのまま食べてしまいそうな雰囲気の中で買い物を続けていく。

 アクアが気に入って通ってるお酒屋から普段は買えないお高いものをいくつか購入し、その次は蟹料理にぴったりの野菜をめぐみんとダクネスが選んで購入し。

 全てのものを買ったら家に戻って、めぐみんとダクネスに調理を任せる。

 霜降り赤蟹なんて見たことも聞いたこともなかった私にまともな調理なんてできない。アクアに関しては不安があるからさせられない。

 さて、我が家には食事するための部屋がある。ダイニングルームとかいうらしいが、こんなものがあるとは思わず、大金使っただけのことはあるなあと思ったり。

 そこでアクアと一緒に料理を待つ。

 

「お家も手に入ったし、あとは私達のレベルを上げて魔王をしばくだけよ」

「レベル上げは構わないけど、魔王は面倒じゃない。わざわざ遠い場所に行くってのはねえ」

「いやいや、魔王を倒すために転生させたんだからね。というか倒してくれないと私が天界に帰れないじゃない」

「でも、ここにいれば仕事とかしなくて済むのよ」

 

 私の言葉にアクアはそれは盲点だったとばかりに黙り込み、目をそっと閉じて、珍しく熟考をはじめた。

 自分で言っておいてなんだけど、神様が仕事しなくていいと聞いて頭を悩ませるのはどうかと思うんだけど。

 アクアはカッと目を見開くと。

 

「魔王討伐は困難だものね。焦らずに着実にレベルを上げて倒しましょ。時間がかかるのはしょうがないことだもの」

 

 楽できる方を選んだ。しかももっともらしい理由もつけて。

 こいつの信者は可哀想ね。

 自分達の崇める女神が仕事をサボってるなんて。

 何かの理由でまた巫女をやることがあっても、こいつだけは祀らないようにしよう。

 

「待たせたなら。料理ができたぞ」

 

 そう言ってダクネス達が運んできたのは皿に乗せられた蟹と鍋だった。

 まさか鍋とは……。

 めぐみんとダクネスの話では蟹四匹分の出汁が出ているとのことで、かなり美味しいようだ。

 蟹を皿にわけてるのは単に食べやすくするため。

 私達は早速いただくことにした、

 

「いただきます」

 

 三人の食べ方を見て、私も真似る。

 

「っ!?」

 

 口の中で濃厚な蟹の味が駆け回る。

 何これ!

 超絶美味しいんだけど!

 だめ、手が止まらない!

 三人も私のようにどんどん蟹を食べ進める。

 

「蟹の出汁を吸った野菜もまた!」

 

 どうしてこんなに美味しいものがこの世に存在するのかしら。

 どうしてこんなにも私を虜にするのかしら。

 心も舌もとろける……!

 

「レイム、ここに火をちょうだい」

「はいはい」

 

 アクアは簡易的な七輪らしきものをつくり、金網の上に蟹ミソの入った甲羅を置いてそこに日本酒のように透明な酒を注ぐ。

 頃合いを見て、火傷しないように布で甲羅をとり、少し冷ましてから飲むと。

 

「ふはあー……」

 

 実におっさん臭いけれど、でも凄く美味しそうに見えたから私達は真似をする。

 

「まあ、これはいいじゃない!」

「うむ。ここまで美味いとはな……!」

 

 次は蟹ミソを単体で食べると、身とは違う、濃厚な味と独特な香りが口内に広がる。

 これは好き嫌いがわかれそうだけれど、でもこの風味はたまらない!

 ああ、もう、最高!

 あまりの美味しさに締まりのない顔になるけど、こんなに美味しいものを食べたら誰だってこうなるわ。

 ああ……、この世界に来てよかった……!

 

 

 

 蟹を食べた翌日はこれまたいい気分で目覚めることができ、朝風呂をいただいて、爽やかな気分で居間へと来た。

 

「そういや、こんなのもあったわね」

 

 ダクネスが持ってきた冒険者新聞を手に取り、依頼に目を通す。

 これは私のレベルを効率的に上げるのに役立つものだ。

 例えばこれなんかは凄いよさそうだ。

 

『エンシェントドラゴン討伐 報酬十億エリス』

 

 この依頼はエンシェントドラゴンを倒して、山を奪還してくれというものだ。

 報酬から見るに、これは以前のような不確かなものではなく確定したものだろう。

 しかし、この金額……。

 不確かなものは一億エリスだったよね? あれもしも本物だったら大変なことになってたんじゃないの?

 報酬に差がありすぎでしょ……。

 九億損するところだった!

 

「印しといて、と」

 

 ペンで丸く囲んでおく。

 こいつをぶっ潰す魔法をつくって経験値もらいに行こっと。

 何だかんだでオリジナル魔法をつくれていないから、いい加減一つぐらいつくろうと思う。

 じゃないといつ最初のオリジナル魔法がトイレと言われるかわかったものじゃない。

 

「どうしようかな……」

 

 ぶっ潰す魔法……ぶっ潰す魔法……。

 私の頭の中に陰陽玉が浮かんだ。

 魔理沙には重くて熱いけど潰されない技とか言われたっけ。

 じゃ、重くて熱くて潰れる奴つくりましょ。

 よし。

 予定を決めたところで新聞に視線を戻す。

 

「この大蛇もいいわね」

 

 報酬は四千万エリス。洞窟に住んでいる。

 エンシェントドラゴンに比べたら報酬は落ちるが、それはドラゴンの報酬が桁外れなだけで、大蛇は何もおかしくない。

 それがわかるのは新聞に載ってる様々な依頼を見ているからだ。

 億を超える依頼そのものは三つしかない。

 もっと言うと大半は数百万クラスだ。

 億を超えるような高額の依頼ばかりだったら色々と大変よね。

 

「ふんふーん」

 

 数千万エリスを超すものばかりを探した結果、十四個見つかった。

 全体から見たら少数だ。

 

「おはようございます。はやいですね。ふわ」

「おはよう」

 

 めぐみんが下りてきた。

 そのあとすぐにダクネスも下りてきた。

 二人は私の向かいのソファーに座って、私が何をしてるのか聞いてきたから新聞を手渡す。

 

「なるほど。請けるものに印をつけていたんですね」

「何だかんだでやる気を出してもらえたようで何よりなんだが……、超高難易度のものばかり印をつけたな」

「しかも一つはエンシェントドラゴンですよ。報酬が報酬ですから、これは本物でしょうね」

 

 お金をたくさん稼げば昨日の蟹みたいに美味しいものを食べられる。

 経験値たくさんもらえて嬉しい、お金がたくさん入ってありがたい、美味しいもの食べられて幸せ。

 

「そいつをぶっ潰す魔法つくったら倒しに行くわ」

「……街が滅ぶようなのはつくるなよ?」

「つくらないわよ! ってか、つくれるわけないでしょうが! もう」

 

 私を何だと思ってるのかしら。

 どこにでもいる普通の女の子なんだけど。

 

「そろそろご飯用意しないとね」

「手伝いますよ」

「ありがと」

 

 めぐみんと一緒に朝食を用意する。

 昨日の蟹の出汁を使って、朝食とは思えない豪華なものをつくる。

 ダイニングに運ぶと、寝起きのアクアもいた。

 ダクネスが起こしてきたのか、それとも自力で起きてきたのか。

 こいつは変なところで勘がいいから自力で起きたのかもしれない。

 

 朝食を食べ終えて一時間後。

 私は街からはなれた場所に来ていた。

 温風を纏い、寒さを退ける。

 

「どうしたものかしら」

 

 陰陽玉のようなものをつくる。

 幻想郷にいた時は宝具を利用していた。

 当然だが、そんなものはない。

 土属性から岩をつくり出そうかと思ったが、それは岩をぶつけてるだけだし、熱くない。

 火と風と雷は違うし、水と氷は論外。

 光は、うーん……。マスパとセイバーがあるからなあ……。

 この技は記念すべき最初のオリジナル魔法だ。

 幅広く使えるようにしたい。

 いつでもどこでも使えるようにしたい。

 

「属性なしだと、純粋な魔力のみ……」

 

 そんなことができるのか? その疑問は弾幕によって消える。

 あれだって特別何かの属性をつけてるわけではない。事実弾幕はこの世界に来て初日に使えていた。

 属性を習得する前に使えたのだから、純粋な魔力のみと言える。

 

「どうしよっかなー……」

 

 こんな感じというイメージはある。

 だけど、それをつくるにはどうしたらいいのやら。

 三分ほどみっちりと考え、一つの答えを出す。

 わからないから、適当に調整しながらつくろう。

 とりあえず適当につくる。

 それを放つ。

 結果を見て調整する。

 宝具なしだともはやそうするしかなかった。

 

「宝具って凄いのねー」

 

 はじめて宝具の凄さを知った。

 わかってたらもっとちゃんと使ったのに。

 

 数時間後。

 マスパやセイバーはすぐにできたのに、この陰陽玉は違った。

 理想は重くて熱くて潰れるものなのに、完成するのは当たったら炸裂するものだ。

 掠りもしないとは……。

 おかしい。

 だってマスパはあんなにあっさりと撃てたのに、陰陽玉はまるでできないなんて。

 マスパだって使ったことないのに、しかもあれ道具使っての魔法なんだから、あっさりと使えるわけないのよ。

 マスパでそうなんだから陰陽玉も同じなのよ。

 いや、陰陽玉は私が使ったことある分マスパより難易度は低いはずよ。

 

「こうなると私が使ったマスパは酷似してるだけのものか、マスパが実は簡単に使える魔法かのどっちかよね」

 

 元々の使用者が道具ありなんだから、私のはやっぱり似てるだけってことかな。

 あれが簡単に使えるなら他の魔法使いも使ってたはずだし、私のはあくまでも似せてるだけね。

 ……じゃあ陰陽玉もそうあるべきでしょ。

 宝具だからってお高くとまってんじゃないわよ!

 

「どうしろってのよ!」

 

 イライラする。

 どうにかしてストレス発散しよう。

 微妙に積もってる雪を集めて雪玉にして近くの木に投げつける。

 バンッ、とぶつかり、少しだけ木に張りついて残る。

 楽しくてもう一発、もう一発と投げる。

 四つ目をつくっている時にふと思った。

 

「雪玉みたいにする?」

 

 雪玉はぎゅっぎゅっと固めてつくる。

 それと同じようにすれば。

 でも、それはどの魔法も同じだ。

 洗練してつくったのが今ある魔法なわけで。

 待って。

 

「でも、セイバーは密度を高めて使ってるのよね」

 

 武器の形状に合わせるため、セイバーの密度は普通に使うよりも高い。

 時には強大な威力のために大量の魔力で発動することもある。その時の密度はとんでもないはず。

 

「やってみよう」

 

 試してみるが、いい結果は得られず。

 地面に着弾すると炸裂するのでクレーターができる。

 これはこれで悪くないけど、そうじゃない。

 

「でも、密度を高めたら威力は上がるし、上げる前より着弾時は陥没させられてた」

 

 着眼点は悪くなかったのかもしれない。

 でも、これじゃだめだ。

 何となくだけど、まだ足りないところがあるように思える。

 今までのように簡単にはいかなそうだ。

 

「楽につくれたらよかったのに……」

 

 だからってここまでしてやめると、宝具に負けた気がして悔しい。

 私が宝具なしだと何もできない女みたいには思われそうで嫌だ。

 宝具なしでもできるのよ、私は。

 その日から私の打倒宝具の日々ははじまった。

 

 それは前日よりも冷え込んだ日。

 それはみぞれが降り注いだ日。

 それは階段から足を踏み外して転げ落ちた日。

 それは雪がちらほら降った日。

 それは風が吹き乱れた日。

 それはお風呂で寝て溺れかけた日。

 それはあられが降った日。

 それは晴れ渡った日。

 それは跳ねた油で首筋を火傷し、それがキスマークに見えて男をつくったと勘違いされた日。

 それは太陽の光が遮られた曇りの日。

 それは通り雨が凄かった日。

 それは古くなったサラシがめぐみんの前でびりっと破れて理不尽な怒りを買った日。

 

 私は宝具に負けたくない一心で魔法の実験を行ってきた。

 私の実験により巨大なクレーターができつつあるが、何ならここを池にして鯉を飼ってもいいと思う。

 私がつくったんなら私のものだ。

 そんなこんなでようやく私の魔法は完成した。

 池にどんな鯉をはなすか悩んだりもしたけど、ついに、ついに完成した。

 

「さて、最後に撃って問題なければ終わりよ」

 

 私は空に浮き、クレーターを見下ろす。

 クレーターに右手を翳す。すると、そこに魔法陣が浮かび上がる。しかし、ここではまだ機能しない。

 次に右手の前に魔力を集め高めて密度を極限まで上げる。完成するとなぜか陰陽玉のような見た目になるから不思議ね。

 次に右手と陰陽玉の間に魔法陣を浮かべる。

 最後に私が魔法陣を発動させると、陰陽玉が凄い速度で撃ち出される。

 クレーターに浮かぶ魔法陣はその速度と威力を上げるために陰陽玉を強力に引き寄せる。

 魔法陣は私の方は斥力、クレーターの方は引力のような働きをしている。

 そして、陰陽玉は地面にぶつかるとその身の六割、七割ほど沈める。

 陰陽玉に触れた部分からは煙が上がる。

 そして、最後は膨らんで周囲を押し潰す!

 完成させた私が言うのもなんだが、かなり凶悪な技になってしまった。

 何はともあれ。

 

「私は宝具に勝ったのよ!」

 

 やればできる子と証明できた。

 しかし、ここまではあくまでも地面が相手。

 魔法耐性などがある敵が相手だとどうなるかは予想がつかない。

 とりあえず四千万エリスの大蛇で試してみるか。

 大蛇なら最悪切り裂いたり、焼いたり、飛ばしたり、雷で貫いたり、凍らせたら倒せるでしょ。

 ま、陰陽玉で一撃だと思うけどね。

 

 

 

 翌日。

 私は大蛇を倒して美味しいものを食べる予定を立てていたのだが。

 

『デストロイヤー警報! デストロイヤー警報! 街の住人は直ちに避難して下さい! 街にいる冒険者の方は万全の装備で冒険者ギルドに来て下さい!』

 

 わけのわからない警報が流れた。

 その警報を聞くや、めぐみんとアクアは荷物をまとめて逃げようと言い出した。

 

「いやいや、これはどういうことなの?」

「デストロイヤーよ! デストロイヤー! さっさと逃げないとだめだってば!」

「だから何なのよそれは」

「機動要塞デストロイヤーとは、それが通ればアクシズ教徒以外残らないと言われるものです。草さえ残らないため、街を通過するようなことがあればその街は壊滅的被害を被ります。まさに最悪の大物賞金首です」

「ねえ、どうしてアクシズ教徒がそんな扱いされてるの? みんないい子なのよ、ねえ聞いてる!?」

 

 どうしてそんな奴を放っておいてるの?

 それこそ人を集めれば倒せるんじゃないの?

 私がそんな疑問を抱いていると、装備を整えたダクネスが下りてきた。

 ダクネスは私達に精悍とした顔つきを向け。

 

「はやくギルドに行くぞ!」

「逃げるべきよ!」

「ばかを言うな! この街が襲われたらどれほどの人が苦しむと思っているんだ! デストロイヤーの襲撃ともなれば数百人の犠牲で済まないんだぞ!」

 

 そんなにヤバいの?

 さっきめぐみんが街が壊滅するとか言ってたのは大袈裟でも何でもないのね。

 …………。

 

「お、おい待て。どこに行くつもりだ?」

「どこって、デストロイヤー潰しによ」

 

 オオカネヒラを手に家を出ようとしたのだが、慌てた様子のダクネスに肩を掴まれて止められた。

 

「先に冒険者ギルドだ。お前はこの街の冒険者の中では間違いなく最高戦力だ。お前がいると知れば、少しは皆も安心するだろう」

 

 そんなことするぐらいならと思う私にめぐみんが。

 

「レイムはデストロイヤーのことをよく知らないのですよね? ならギルドに行き、情報を集めるべきですよ」

「お、お前、何も知らなかったのに倒そうとしてたのか……」

「いいじゃないの」

 

 ダクネスが呆れの眼差しを向けてくる。

 めぐみんとアクアは私に呆れたような表情を向けてきている。

 アクアは目を閉じて、首を何回か振ると、やけに優しい顔つきになり、

 

「レイム、まずはギルドに行くわよ」

 

 肩に手を置いて諭すように言ってきた。

 アクアにそうされるとかなり悔しい気持ちになるのは何でだろ。

 無駄に女神らしさ出してんじゃないわよ。

 

 私達が冒険者ギルドに来ると、職員や冒険者がぱあっと表情を明るくした。

 

「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。今回のデストロイヤー戦ではレベル職業関係なく全員参加となります。今回の戦いでは皆さんが街の最後の砦となりますが、デストロイヤーの討伐が困難となった段階で街を放棄して撤退します」

 

 その話に私は眉をひそめる。

 この時点で放棄の話が出るのはそれほど相手だからだろうか。

 デストロイヤーってどんな奴なの?

 

「さっそく議論に移りたいところですが、デストロイヤーについて説明が必要な方はいますか?」

 

 これに私だけでなく他数人も手を挙げた。

 それを見て、職員のお姉さんが説明をする。

 デストロイヤー、それは魔王軍に対抗するためにつくられた古代兵器だ。その昔魔導技術大国ノイズでつくられた超大型の蜘蛛の形をしたゴーレム。魔法金属が惜しげもなく使われ、外見に似合わず軽めの重量で、八本の巨大な脚で馬をも超える速度を出す。

 デストロイヤーに踏まれてしまえば大型のモンスターすらミンチにされる。そして、その体には常に強力な魔力結界が張られていて、それは爆裂魔法ですら撃ち破れない。そのため魔法攻撃は意味をなさない。

 どういうモンスターよ、こいつ。

 爆裂魔法を通さないとなれば、私の魔法も通すことは無理だろう。

 

「魔法が効かないので物理攻撃になるのですが、近づいたら潰されます。弓や投石も魔法金属の体を持つデストロイヤーには弾かれるでしょう。それにデストロイヤーの胴体には空からのモンスターの攻撃に備えて、自立型のゴーレムが飛来するものを小型のバリスタで撃ち落とし、しかも胴体部分の上には戦闘用ゴーレムもいます」

 

 あれ?

 

「結界があるのに物理攻撃が通ったり、モンスターが侵入できるの?」

「これは魔法に対して効果があるようです」

「ふーん」

 

 それなら私の家と私の街を守れる。

 私からの質問がないと判断すると、お姉さんは続きを話す。

 

「デストロイヤーがなぜ暴れているかについてですが、これにはいくつかの説があり、有力なのは開発責任者が乗っ取ったというものです。その人は今もデストロイヤーに指示を出しているとも言われています。デストロイヤーはその構造からどんな悪路も踏破し、またその速度もあって、この大陸で踏み荒らしていない場所はありません。今のところ人もモンスターも等しく蹂躙され、これが街に接近したらすぐに逃げろと言われるほどです。まさに天災そのものです」

 

 天災、ね……。

 これは異変よね。

 ……異変解決なんて随分と久しぶりな気がするわね。

 

「デストロイヤーは現在北西方面から街に向かって接近してきています。では、意見がありましたらどうぞ」

「デストロイヤーに乗り込んだらどうしたらいいの?」

「乗り込む!? いったいどう……ああ! そうでした、レイムさんは空が飛べたんですよね!」

「そうよ。で、どうしたらいいの?」

 

 お姉さんだけでなく、その場にいた全員が私に視線を送る。

 それは希望と期待に満ちたもので、乗り込めさえしたらとあちこちから聞こえる。

 

「デストロイヤーに乗り込んだら、確実にゴーレムによる妨害があるので、それらを無力化しつつ内部へ侵入して下さい。次に開発責任者を見つけ、デストロイヤーを停止させて下さい。それが無理だったなら動力部の破壊か停止をお願いします」

「何だ。そいつ自体ぶっ壊してもいいのに」

「いくらレイムさんでも無理かと。デストロイヤーは本当に大きいので」

 

 お姉さんの話からして動力部の方が楽そうだし、苦労して本体倒さなくていいならそうしよ。

 私が乗り込むのは決定した。

 それを見てダクネスが手を挙げる。

 

「どうぞ」

「レイムが乗り込み、首尾よく動力部を無力化できても即座に停止するとは限らない。街中で停止するといったことが起きないように我々の方でも対策をとるべきだ」

「そうですね。しかし、デストロイヤーを止めるとなると、やはり魔力結界を壊さないことには……」

 

 爆裂魔法にも耐える結界を破壊する。

 聞いてみると結構無茶苦茶な話だ。

 私が乗り込むついでに結界を解除しちゃおうかな。

 そんなことを思っていると。

 アクアが腕を組みながら不敵に笑う。

 

「ふっふっふ。それもどうにかなるわよ」

「ええっ!?」

「レイムが動力部をどうにかしたなら、結界も弱まると思うから私のブレイクスペルで破れるわよ」

 

 活躍できると考えたらしいアクアが自信たっぷりに語る。

 それを聞いたみんなは思わず、おおっ……と声を漏らして、アクアに熱い視線を送る。

 

「ならば残りは強力な魔法だが、それはめぐみんの爆裂魔法がある」

 

 ダクネスの発言にめぐみんはふふんと笑いながら格好つけようとして、しかし周囲の視線が集まっていることに気づくと途端に弱腰になる。

 

「我が魔法でも一撃で仕留めるのは無理と、思われ……」

「他に強力な魔法は……レイムはどうなんだ? 動力部を終わらせたら」

「どうかしらね。内部の状況がわからないから、確実とも言えないし」

 

 動力部がやたらと手間がかかるものだったら手を回せない。

 多くの人命に関わる異変ともなると、軽軽には言えない。

 どうしたものかと悩んだ時のことだった。

 

「遅くなってすみません。一応冒険者の資格はありますので……」

 

 ウィズが来た。

 そういえばウィズは昔冒険者をやってたんだっけ。それに経験豊富とも言ってた。

 そして、あれだけ多くの魔法を完璧に扱っていたことと言い、使えるのは間違いない。

 

「ねえウィズ、あんた爆裂魔法使えない?」

「使えますが、どういうことです?」

 

 お姉さんに説明をしてもらう。

 説明を聞いたウィズはなるほどと頷き、作戦を提案してくる。

 

「それならば、アクア様に結界を破ってもらったあとは私とめぐみんさんが左右の脚に爆裂魔法を撃ちましょう。そうしたらデストロイヤーは移動できなくなります」

 

 ウィズが交じって作戦は立てられていき。

 最終的に決まった作戦がお姉さんから話される。

 

「それでは本作戦を説明します。まずレイムさんが空からデストロイヤーに接近し、本体に降り立ったら内部に侵入して開発責任者を発見して停止させる。それがかなわない場合は動力部の無力化をお願いします。街に残った我々は、動力部を断たれても稼働を続けるかもしれないデストロイヤーを迎え撃ちます。アクアさんの魔法で結界を無力化し、次にウィズさんとめぐみんさんの爆裂魔法でデストロイヤーの脚部を破壊する。万が一に備えてバリケードなども張り、デストロイヤーが街に入らないようにします! それでは皆さん、よろしくお願いします!」

「「「おおおおおお!」」」

 

 作戦が決まると、冒険者達はギルドから出ていく。

 残された私達は顔を見合わせる。

 そして、みんなが私を見てくる。

 

「レイム、一番危険な役目を任せてすまない」

「気をつけて下さいね。相手はあのデストロイヤーですからね!」

「無理だと思ったらすぐに戻って来るのよ」

「何言ってんのよ。普段と変わらないでしょ」

 

 ドラゴンの時も私が倒したし。

 今回もその時と同じだ。

 アクア達がどことなく不安げに見てくるが、

 

「あんたらは自分のことに集中しなさいよ」

 

 私は手を振りながら言い、ギルドを出て、空を飛ぶ。

 デストロイヤーは北西だったわね。

 よし。

 出せる限りの速度でデストロイヤーの方へ向かっていく。

 私がそいつを見つけるのにそこまでの時間は必要としなかった。

 飛行するものを撃ち落とすと聞くから、念のため低めに飛んでいたのだが……。

 

「なるほど、これは無理と言われるわね」

 

 巨大、まさしくその言葉しかない。

 城ほどありそうな巨大なゴーレムだ。

 見上げても足りないと思うほどだ。

 確かにこれを完全に壊すのは手間がかかる。

 

「さて、うえ、に……?」

 

 太陽が雲に隠れ、追い討ちをかけるようにデストロイヤーが隠すことで逆光となって……。

 巨大な漆黒の……。

 ああ……。

 あの赤く光る目はそっくりだ。

 幻想郷を襲ったあいつらと……。

 赤く目を光らせる漆黒の異形。

 それは群れで来て……。

 私はみんなと戦って……。

 激しい戦いだった。

 …………。

 そうだ。

 幻想郷はあいつらのせいで崩壊しかけたんだ。

 それを……、それをどうしたの?

 どうやって終わらせたの?

 だめだ。

 やっぱりまだ思い出せない。

 思い出せる記憶は以前より増えたが、それでも所々飛んでいて、前後の繋がりがあまりない。

 これでは頼りにならな……。

 

「つっ!」

 

 それをかわせたのは、勘と強運のおかげだ。

 記憶が戻ってきたから、意識が記憶に傾いてしまい、私は自分が何をしていたのか忘れていた。

 結果、飛行する敵を撃ち落とすものが私の横腹を掠めていった。

 上に移動しようとは考えたが、まさか無意識にここまで移動してたなんて。

 甲板には戦闘用と思しきゴーレムが十数体ほどいて、どれも私を見上げている。

 スキルを発動し、オオカネヒラにセイバーを纏い、甲板へと急いで向かう。

 接近する私を撃ち落とそうとしてくるが、油断していた時ならともかく、今の私に当てられるはずもない。

 甲板に降り立つと、今度はゴーレムの群れが私に襲いかかる。

 

「邪魔よ!!」

 

 横腹の出血が止まらず、足へと流れ落ちる。

 その血が私の足を滑らせないことを祈りながら、立ち塞がるゴーレムを切り裂く。

 歯を食いしばり、横腹の脈打つような激痛に耐えて、それを忘れようとするように刀を振るう。

 

「はあああっ!」

 

 私を囲んで拳を振り上げるゴーレム達。

 目の前の一体を切り裂き、囲いから抜け出る。

 遅れて拳を振り下ろし、無防備になったゴーレムを素早く切り伏せる。

 そうして全てのゴーレムを倒して、私は横腹を手で押さえて扉の前まで進む。

 扉を開ける前に応急処置をしよう。

 胸に巻いてるサラシをとり、左右の袖を傷口に合うように折り畳んで当てる。次にサラシをきつめに巻いて……。

 

「さっさとやらないとヤバいわね」

 

 扉を切り裂いて、内部へと踏み込む。

 内部にもゴーレムはあちこちに配置されているが、それらは外のゴーレムのように問題なく切り伏せる。

 とっとと責任者をしばいて止めないと。

 デストロイヤーが移動しているせいで、内部は揺れている。

 足下が不安定な中で、勘を頼りに進んでいき。

 とある部屋の前まで来た。

 中には椅子に腰かけた白骨死体がある。

 

「乗っ取って、そのまま死んだのね。じゃあこの迷惑なのは暴走してるのか……」

 

 死体には霊魂が見られない。

 迷惑にも成仏しているようだ。

 何かないかと室内を見回す。

 

「あそこ」

 

 机の上に乱雑積まれた書類が妙に気になり、少し探すことにした。

 すると手記と思われるものが出てきた。

 これに停止方法が載っているかも。

 そう思っていた時が私にもありました。

 

 この責任者は少ない予算でデストロイヤーをつくれと無理難題を言われた。

 やけくそで蜘蛛の汁がついた設計図を出したら好評で、それが今のデストロイヤーの形となった。

 デストロイヤー動かしたいならコロナタイトとかいう燃え続けるレアな鉱石を要求したところ、予想外にも持ってこられ、動力炉に設置された。

 動くか実験することになったのだが、責任者はデストロイヤーが動かなかったら俺は死刑になるからとまたやけくそになり、酒に逃げた。

 酔っ払ったこいつはコロナタイトに煙草の火を押しつけて根性焼きした。

 結果、デストロイヤーは暴走し、ノイズという国は滅んだ。そして今に至るわけだ。

 

「ふざけんじゃないわよ!」

 

 手記を床に叩きつける。

 内容があまりにもふざけていた。

 もっと真面目に書けと言いたい。

 

「もう私がどうにかするのね」

 

 頭が痛くなってきた……。

 

 

 

 今私は動力部にいる。

 コロナタイトは鉄格子の中にあった。

 あれが永遠に燃え続ける鉱石……。

 何て迷惑なのかしら。

 加工しても使いものにならなそうだし、ゴミね。

 水をかけてみるが、蒸発してしまう。

 消火は無理か……。

 

「きゃっ!」

 

 立ち眩みがして、揺れているのもあって倒れてしまう。

 立ち上がっても倒れるだろうから、座りながらやろう。

 はやくどうにかしないと。

 手記の内容からして、コロナタイトさえどうにかできたら、デストロイヤーは動かなくなる。

 怪我のせいか、それともコロナタイトの熱のせいか、顔に汗が滲む。

 氷の魔法札を四枚取り出す。

 使おうとして、しかし解かされることに気づき、常に展開しないといけないことに思い至る。

 

「はあ、はあ……」

 

 魔法札は魔力を込めて魔法を発動するが、込め続けたらどうなるかはわからない。

 雷も火も発動すれば魔法札が使いものにならなくなるからだ。

 だけど氷ならどうか。

 氷漬けになるだけなら、魔法札が無事である可能性は少しはある。

 魔法札を両手で挟み。

 

「単純な円なら……」

 

 コロナタイトの囲むように飛ばす。

 それは私を中心に光の円によって繋がりを持っている。

 この円によって絶え間なく魔力を流し込み、魔法を発動し続けることが可能となる。

 

「問題は私が持つかどうかね」

 

 応急処置で止血したけど、それも間に合わせ程度だ。今ではサラシが赤く染まり、血が足に流れつつある。

 それでもやるしかない。

 

「ふっ!」

 

 短く息を吐いて、円に魔力を流す。

 次々と氷の魔法が発動して動力炉もろともコロナタイトを氷漬けにする。

 魔法札が二枚散ったが、残る二枚は維持できている。

 

『エネルギーの供給がストップしました!  搭乗員は直ちに動力部の修復を行って下さい。繰り返します。エネルギーの供給がストップしました! 搭乗員は直ちに動力部の修復を行って下さい』

 

 突然鳴り響いたアナウンスがとてもうるさい。

 しかし、これは私のやり方が成功している証にも思えたから、悪いことばかりではない。

 

「それでもまだ動くのね……」

 

 速度を落としたのか揺れは弱まった。

 今どの辺にいるのかな?

 そろそろアクセルの近くだと思うけど、どうなんだろ。

 出血のせいか、頭がぼーっとしてきた。

 少しずつ揺れが治まっていく。

 その内完全に停止するんじゃないかと思った時。

 

「んっ」

 

 強い魔力の気配を感じた。

 それも二つ。

 これは爆裂魔法かな?

 揺れに備えないと。

 氷で自分を囲い、吹っ飛ばされないようにする。

 強い衝撃が最初に襲い、次に下から衝撃が襲ってきた。

 足を飛ばされたから、胴体が地面に激しくぶつかったんだろう。

 氷の中とはいえ、私は前後左右にぶつかる。

 

「いったあい……」

 

 不幸中の幸いと言うべきか、痛みで意識が覚醒した。

 デストロイヤーは完全に停止し、揺れは一切なくなった。

 もう一踏ん張りだ。

 周りの氷を解かして、コロナタイトの凍結に更に力を入れる。

 今気づいたが、アナウンスが消えている。

 コロナタイトによるエネルギーが完全に失われたのだろうか。

 あとはこれを取り外すだけか。

 それは他の人に任せよう。

 

 痛みで意識がはっきりしたのも少しの間だけ。

 私の意識はまた朦朧としつつあった。

 そろそろ誰か来てもいいとは思うんだけど。

 深くたっぷりと息を吸い、ゆっくりと深く吐く。

 凍結もいつまでもできるわけじゃない。

 

「ふう……、はあ……」

 

 横腹から流れる血が床に溜まっている。

 こうして意識があるのは、まだ致命傷ではないからだろう。

 しかし、そろそろアクアが来てくれないと本当に危ない。

 

「「レイム!」」

 

 やっとか、と言ったつもりなのに声が出なかった。

 ダクネスとアクアが私に駆け寄る。

 後ろから数人の足音も聞こえる。

 その中にはウィズもおり、みんなが私を不安げに私を見つめる。

 アクアは私の隣に座ると泣き出しそうな顔になる。

 

「レイム、大丈夫!?」

「アクア、はやく回復魔法を!」

 

 ダクネスに怒鳴られ、びくりと震えたアクアは私の傷口に回復魔法をかける。

 それはとても暖かく、傷口を癒していくと同時に痛みを和らげる。

 そう、まるで女神の癒されているかのような……。そんな錯覚を覚えてしまうほどのものだ。

 アクアの魔法で私の傷は治り、痛みもすっかりとなくなった。

 凄いわねこれ。

 私の傷が治ると、その場の全員が胸を撫で下ろす。

 

「傷は完璧に治ったわ。血液もある程度戻ってるけど、全部じゃないから無理しちゃだめよ」

 

 アクアの警告に私はこくこくと頷く。

 数名の冒険者が氷漬けの動力炉を見ている中で、ダクネスが私を安心させるかのように微笑む。

 

「これでもう大丈夫だな。さっ、戻って休もう」

「だめよ。コロナタイトは私が凍結させてるの。私がいなくなったらデストロイヤーはまた動くわよ」

「燃え続けるコロナタイトを凍結とは……。やはりレイムさんの魔力は凄いですね」

 

 ウィズは私にそんなことを言いながら、真剣な眼差しで氷漬けのコロナタイトを見つめる。

 しばらく見ていたウィズから。

 

「デストロイヤーは動けなくなっています。それなのにコロナタイトを解放したら、おそらくエネルギーが正常に消費されないため、内部に溜まると思われます」

「ちょっと、もっとわかりやすく言いなさいよ」

「つまり、行き場をなくしたエネルギーが大爆発を起こすということです。レイムさんが先にコロナタイトを凍結させていなければ、デストロイヤーは爆発していたことでしょう」

 

 ウィズのわかりやすい解説にアクア達はぎょっとなる。

 こんな巨大ゴーレムが爆発でもしたら、どれほどの規模になるかわかったものではない。

 誰もが顔を青くしてコロナタイトを見つめる中。

 

「ですが、コロナタイトを取り外せばエネルギーの供給は行われないので、デストロイヤーの爆発はないでしょう。しかしコロナタイトは長年使われてきたのでどうなるかわかりません。爆発してもいいように一度遠くに運ぶべきでしょう」

「な、なるほど」

 

 話を聞いて、冒険者は顔を見合わせると、何やら道具を取り出した。

 杭をコロナタイトを囲む氷に打ち込む。

 次に糸ノコギリを取り出した。それを見て、私が口を挟む。

 

「無駄よ。常に凍結してるから切っても凍りつくわ」

「そんな。ど、どうしよ」

「そうだ、レイムが魔法を解除すれば……!」

「それだと間に合わないぞ!」

 

 ウィズは爆裂魔法を撃ってるから、上級魔法を使う余裕は当然ない。

 そうなると、当然……。

 私はスキルとセイバーを発動する。

 

「私が解除して、すぐに切り裂くわ。そしたら、あとは……」

 

 立ち上がろうとしたらくらっとした。

 ダクネスとアクアが慌てて私の体を支える。

 二人が無理するなと言いたそうにする。

 アクアなんか今にも泣きそうな顔をしている。

 だけど、アクセルの命運がかかってるんだから少しぐらい無理はしないと。

 

「コロナタイトを取り除いたらすぐに凍結しないといけません。なので、レイムさんが氷を切り裂き、引っ張ってコロナタイトを取り外したらレイムさんの前に来るようにしましょう」

「そしたらレイムのあれで飛ばしちゃお!」

「どこに飛ばすのよ……あっ」

 

 そうだ。

 あそこに飛ばそう。

 ちょうどいいや。

 私は刀を構え。

 魔力の供給をストップして……。

 刀を振るう。

 

「今だ! 引っこ抜け!」

 

 氷の塊が私の前に来る。

 床に当たると氷は砕け散る。

 コロナタイトは少しするとはじめのように赤々と輝き出す。

 それを見て私は再び凍結させる。

 ずっと氷漬けにしたから、もしかしたらと思っていたんだけど、どうやら甘かったらしい。

 これはどんなにやろうと、解放されればすぐに燃え出すみたいだ。

 オオカネヒラを鞘に戻し、私はコロナタイトを廃棄しに行くことにした。

 

「じゃあ、捨ててくるわね」

「気をつけなさいよー」

「今度は油断するなよ」

 

 慣れた手つきで空間を切り開き、氷漬けにしたコロナタイトを持ってデストロイヤー内部から去る。

 昨日まで魔法の練習に使っていた場所に来た私はクレーターの中にコロナタイトを放り込む。

 一応周りを確認するが、当然のように誰もいない。

 さて、はなれよう。

 空を飛び、遠くから様子を見守る。

 コロナタイトは氷を解かして、再び赤く輝く。

 時間が経つと色が変化し、白へと変わる。

 輝きも強まり、そして……。

 爆発した。

 爆裂魔法と同等かそれ以上ではないかと思うほどの凄まじいものだ。

 周囲のもの全てを吹き飛ばさんばかりの爆風と、空気を激しく揺らす爆音。

 クレーターは更に大きくなり、表面は溶けてしまっている。

 近くの木々は爆風で根から吹き飛ばされてしまっていた。

 本当にとんでもない爆発だ。

 この爆発によって、あちこちに火が見られる。

 消火しないと危険なため、消し残しがないように念入りに消火をする。

 とはいえ、この辺は雪が積もっていて、それを考えると消火は別にしなくても……。

 全部消火してから、そんなことに気づいて、頭を抱えた。

 

 

 

 デストロイヤー。

 それはこの大陸に住む人やモンスターを長年苦しめてきた超大型ゴーレムである。

 それが葬られたのは先日のこと。

 知らなかったとはいえ、コロナタイトを先に凍結させたことで大爆発を未然に防ぎ、また爆発寸前のコロナタイトを安全な場所に投げ捨てたことで危機を防いだ。

 さて、本体部分はどうなったかと言うと、今は亡き魔導技術大国ノイズが高い技術でつくったものということもあり、国の研究者などが調査に来ている。上手く行けば、これまでにないゴーレムをつくれるようになるらしい。

 デストロイヤー戦では思わぬ怪我をした私だけど、アクアの魔法のおかげで何ともなく過ごせている。

 私達は今、報酬を受け取るために冒険者ギルドを訪れていた。

 

「冒険者ハクレイレイム一行。今回の機動要塞デストロイヤー討伐はあなた方の活躍なくして成せませんでした。よってここにあなた方の功績を称えます!」

 

 ギルドの職員が総出で私達を称える。

 それを合図にギルド内の冒険者が立ち上がり、一斉に拍手をしながる褒めちぎる。

 代表するようにお姉さんは私の前に立つ。

 

「あなた方を表彰し、街から感謝状を与えると同時に、機動要塞デストロイヤー討伐の特別報酬金二十五億エリスを進上します!」

 

 職員の一人が大きめの台車に頑丈な箱を乗せて、私達の前に持ってくる。

 箱の中には布袋が五つ入っていて、中身はもちろんお金だ。

 とうとう働く必要がないほどの大金を入手した。

 この途方もない金額を前にしためぐみんが私の袖を引っ張る。

 

「レイム、さっさと銀行に預けに行きましょう。これを手元に置いておくのは流石に怖いですよ」

「そう? 盗む奴いたらひたすら殴ればいいのよ」

「そんなことするぐらいならさっさと預けましょうよ……」

 

 怯えるのはめぐみんだけではなく、アクアも同じようで。

 

「そうよ! いつ私達のお金を狙って奪いにくるかわからないのよ!? ここは預けに行くべきよ!」

「周りの冒険者がするとは思えないが、ここに置いたままというのも邪魔になるだろう。身軽になるという意味でも預けに行こう」

「だから、盗もうとしたら殴り倒せばいいだけよ」

 

 結局三人は聞き入れず、しかも三人がかりで私に預けろと言ってくる。

 三人があまりにも面倒なので、渋々お金を預けに行くことに。

 ギルドを出る前に、

 

「今日は宴会するわよ!」

 

 みんなにそれだけを伝える。




今回は霊夢が少しピンチになるようにしてみました。
新聞は独自設定です。書籍9巻とは別のものです。
次のお話は最初悪ふざけですかね。
下は言わせる予定の台詞

「我はエンシェントツリー。さあ、冒険者よ、黄金の梅の実がほしくば勝ち取るがいい。『カースド・ライトニング』」




下はおまけ

 我が名はめぐみん。
 紅魔族随一の魔法使いにして、アクセル最強のアークウィザード。
 最近ではマイホームを手に入れ、生活が充実しつつある。
 その日の朝はとても天気がよく、思わずこちらも気分がよくなる。
 一階に下りると、レイムがのんびりとお茶を飲んでいた。

「おはようございます」
「おはよう」

 私は台所からコーヒーを持ってきて、レイムの向かいに座って飲む。
 あと少しすればダクネスも来るだろう。
 アクアはこちらから起こしに行こう。
 平和な時間。
 しかし、それはレイムによって破られる!

「んー……っ」

 レイムがストレッチするように体を動かした時にそれは起こったのだ。
 無意識に近いレベルで体を反らした時にそれは起こったのだ。

 ビリッ!

 静かだったからはっきりと聞こえた。
 私はレイムの服が破けたとばかり思っていたが。

「うわ、サラシ破けてる……」
「よし、歯食いしばれ」
「えっ!?」

 見せつけてくれましたよ、この女!
 私の静かで、それでいて荒々しい怒りにレイムは戸惑いを隠せないみたいだ。
 私のお胸大きくなりましたアピールは許せない。

「何ですか何ですか! 胸が成長しない私に対する嫌がらせですか!? いいでしょう、その喧嘩買いましたよ!」

 私は戸惑い、状況についていけてないレイムに襲いかかる!

「ちょっと、何よ、やめて!」

 逃げようとするレイムを後ろから捕らえる。
 見るとサラシは脇の下で破れているようで、レイムが動くと緩くなっていく。

「レイムも私と同じ胸成長しない組でしょうが! 裏切りは許しませんよ!」
「ちょっと意味わかんない! 何言ってるか意味わかんない!」

 どうやらレイムは混乱しているらしく、反撃せずに逃げようとしている。
 この時の私はここだと思い、可能ならもぎ取るつもりで後ろから手を伸ばし――。

「ぬあああああああああああああ!!」

 激怒した!!

「誰か、誰か来てええええええ!」

 ダクネスが来るまで、私はレイムを攻撃した。

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