霊夢がこのすばの世界に行くそうです   作:緋色の

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のんびりとした話を目指します。



第十一話 黄金の梅の実と大蛇とあの子

 デストロイヤー討伐記念宴会をしたのは先日のこと。

 あの時の盛り上がりようは魔王の幹部以上で、ギルドの職員も参加して朝まで騒いだ。

 その時の宴会で私は酒場のマスターから面白い情報を仕入れた。

 この世界にも梅がある。

 しかもそれは時季を問わずに収穫できるとのこと。

 流石に誰かに収穫されたあとだったら実はついていないが。

 梅の木は山の中にあり、冬の間でも収穫されていなければ実をつけている。

 もちろん梅を扱っている農家はいるが、どの梅も百年も持たないため、新しく植えられる。

 こうやって聞くと梅の寿命は百年足らずなんだ……と思えるが、現実はそうではなく、梅は百歳ほどになると農園から逃げ出すのだ。

 何を言ってるかわからないと思うけど、私も何を言われてるのか理解できなかった。

 木なんだからと思ってはいけないみたいで、根を足のように動かして農園から逃走し、山の中で暮らす。

 困ったことに生きた年数が長ければ長いほど美味しい実をつけるらしく、しかも梅の実は木についてる年数が長いほど凄くなる。

 そのため市場に出る梅は養殖は百年未満のもの、天然は百年以上のものを指す。

 大体一ヶ月で実をつけるらしいが、農家が出荷するのは色々考えて半年以上のものだ。もちろん収穫せずに放置すれば、梅の実の格は上がっていく。

 しかし、長い間収穫しないというのは、収入が得られないことを意味する。

 余裕がある農家でなければ、数年数十年とそのままにしておけない。しかも台風などで実が落ちることもあるから、そうしたら丸々損することになる。

 だから、市場に出回るのは養殖の数年ものが限度であり、それ以上のものは金持ちに納品される。

 私達みたいな冒険者ではいいものは買えない。

 天然の最高級品を求めるなら、自分で収穫するしかない。

 最高級品、それは数百年生きた梅が数十年間熟成させることで至る黄金の実だ。

 もはや伝説級のものだ。

 はっきり言って入手は不可能に近い。

 しかし、私は以前ドラゴン討伐の際に通過した西の山で黄金の実をつけた梅が目撃されたと聞き、アクア達を連れて、ここ西の山に来ていた!

 

「さあ、梅の実をとって、梅酒をつくるわよ!」

 

 黄金の梅の実でつくる最上級の梅酒こそ私の求めるものだ。

 

「黄金の梅の実か。本当にあったとしたら凄いことだぞ」

「伝承では、旅に出た冒険者が街に戻るまで、一粒の黄金の梅の実を二週間にわけて食べたところ、疲れが一切出なかったとありますからね」

 

 伝説級と言われるだけのことはあり、その黄金の梅の実は疲れを取り去る効果があるらしい。

 しかし、その冒険者の話以外では黄金の梅の実は非常に美味であるとしか語られておらず、冒険者の話は嘘ではないかと囁かれている。

 美味であるならそれでいい。疲労回復は求めていない。

 私は雪積もる道を風の魔法で雪を左右に吹き飛ばして突き進む。

 つくづく魔法は便利だと思う。

 ここで一人深刻そうな顔で悩んでいたアクアが顔を上げて。

 

「レイム、私はその魔法をスノー・ブレイカーと名付けるわ」

「何悩んでると思ったら、そんな下らないことを考えていたのね。しかもこれただの風なんだけど」

 

 雪道を除雪して進むため、わりと快適に歩けている。

 本当なら冷たい中を我慢して進まなくてはいけなかったと思うと、これは本当に便利だ。

 私達は途中から山道を外れて進み、黄金の梅の実が目撃された近辺まで来ていた。

 さて、私がどこからこんな情報を得たのかというと、金髪のチンピラだ。

 チンピラが五十万エリスで売ってたのを買い取った。そのチンピラがどこから情報を仕入れたのかと言うと、冬なのにお金がなくて仕方なく依頼を請けたところ、たまたま見つけたらしい。

 ちなみに私から五十万エリスを得たチンピラはギルドで酒を飲んでいる。

 木々の間を縫うように進んでいると開けた場所に到着した。

 そこだけは不思議なことに雪がうっすらとしか積もっていない。

 そして……。

 

「黄金の梅の実!」

 

 本当にあったことで、私は興奮気味に叫ぶ。

 それにつられて他の三人も頬を赤らめて、黄金の梅の実を指差す。

 

「本当にありましたよ! あの伝説のものが!」

「ちょっとしかないけど、大きいから十分よね!」

「養殖の小さいのとは違うな。なるほど、だから二週間持ったのか」

 

 人の拳より大きめぐらいか。

 小さいものだとばかり思っていたが、どうやら黄金の梅の実はそうではないようだ。

 それに梅の木そのものも大きい!

 数百年以上生きているだけの貫禄がある。

 こんなにも見事な梅の木は生まれてはじめて見る。

 私は思わず見入ってしまう。

 空気を読まないアクアはそうではなく。

 

「早速収穫するわよ!」

 

 止める間もなく走り出したアクアに梅の木が小さな実を飛ばす。

 

「ふきゃ!」

 

 私達は何が起こってるかわからず、梅の木を観察することに。

 今飛ばしたのよね。

 枝を動かして、飛ばしたのよね。

 どういうこと?

 おでこを両手で擦りながら、アクアは梅の木を涙目で睨みつける。

 近づくと痛い目を見るので、アクアは雪玉をつくって投げつけた。

 すると、梅の木は枝を動かして防御した。

 何だあれ?

 

「ねえ、何なのあれ! 生きてるみたいなんですけど!」

 

 アクアの戸惑いの声に、めぐみんが何かを思い出した様子で言った。

 

「そういえば梅は農園から逃げると聞いたことがありますね。おそらく動けるのでしょう」

「気をつければ怪我なく収穫でき」

「我から梅の実をとろうと言うのであれば、全力で相手しよう」

「「「「!?」」」」

 

 しゃ、喋った……。

 私達は言葉を失うが、梅の木は気にせずに自己紹介をする。

 

「我はエンシェントツリー。さあ、冒険者よ、黄金の梅の実がほしくば勝ち取るがいい」

 

 今はそれどころじゃない!

 私は最大の疑問をぶつける。

 

「あんたどうやって喋ってるのよ!?」

「我は数百年生きたエンシェントツリーであるぞ? なぜ喋られないと思う」

「思うから! そんな普通に喋られたらびっくりするから!」

 

 神や霊のように一部の人だけ聞こえるというならともかく、あいつの声はめぐみんやダクネスにも聞こえている。

 つまり私達のように言葉を話せている。

 キャベツもそうだったけど、ばかにしてんのかしら? この世界の生き物は。

 

「まあよい。貴様がどう思おうと、事実は何も変わらぬのだ。黄金の実がほしくば、我を倒してみよ!」

「そうね。倒すわ、全力でしばくわ!」

 

 どうせただの木だ。

 動けるだけの木だ。

 私の魔法なら一発だ。

 右手を梅の木に振るって。

 

「凍りつきなさい!」

「『リフレクト』」

「はっ!?」

 

 光の壁を出して私の氷の魔法を反射した。

 跳ね返ってきた魔法を私達は回避し、驚愕の眼差しを梅の木に向ける。

 何なのあいつ。

 

「面白い。精霊のように魔力を属性変換し、放っているのか。スキルに依存する我らと対極にあるとも言えるな」

「無駄に大物感出してんじゃないわよ!」

 

 一目で見抜くというとんでもないことをしてきた梅の木にいよいよ呆れを通り越しはじめる。

 

「そもそもかつての魔法はどうであったのか疑問に思わないか? はじめはスキルなどなかったはず。ならば、その頃は皆お主のように魔法を使っていたのではないか?」

「続けんな!」

 

 老人みたいに長話をしつつある梅の木に空気の塊を放つが、リフレクトで跳ね返される。

 あれをぶち抜く魔法で気絶させないと。

 

「『カースド・ライトニング』!」

 

 そんなことを考えていたら、上級魔法を唱えてきた。

 放たれた漆黒の稲妻をアクアとめぐみんは飛んで避ける。

 あの梅の木がいよいよ何者かわからなくなってきた。どうして上級魔法使えるのよ。

 

「本当にあんた何なのよ」

「ふむ。それを答えるのは難しいな。我らエンシェントツリーは百年前後生きると、こうして意思を持ち、動けるようになるわけだが、なぜそうなるのかは我らにもわからん。他に百年以上生きる木はあっても、どういうわけかならぬし。梅の木のみに与えられた特権なのか、実は他にもあるが見つかっていないだけなのか。……難しく考えるよりも、梅の木の精と捉えた方が色々と楽であろうな」

「……そうね、そういうことにしておきましょ」

 

 面倒が極まりつつある。

 どうしてこんなのがいるのか。

 さっさと終わらせて帰りたい。

 というか帰ろう。

 私の目つきが変わると、梅の木はピョンと跳ねて土の中から出てきた。

 長い根を足のように動かして、確かめるようにピョンピョンと何度もジャンプする。

 見たこともない光景なんだけど。

 

「『トリプルアクセル』」

 

 くるくると回りながら、根を突き出してきた!

 梅の木の根は地面を激しく抉る。

 もしもまともに食らえばミンチにされること間違いなしだ。

 こいつ、ミノタウロスとか普通に倒せるんじゃないの?

 アクアはトリプルアクセルの威力に腰が抜けたようで、木の後ろに隠れている。

 めぐみんは爆裂魔法を使えば仲間が巻き添えになってしまうため待機するしかない。ダクネスはそんなめぐみんのそばにいる。

 

「あんたが並みのモンスターより手強いのはわかったわ。でもね、あんたは美味しい梅の実をつけてればいいのよ」

 

 私は氷の魔法札を十数枚ほど取り出す。

 梅の木はそれを見て、身構える。

 

「生半可な魔法は我には」

「『氷縛結界』!」

 

 魔法札を投げつける。

 それらは梅の木を取り囲むように展開し、一枚一枚から氷が縄のように伸びて絡みつく。

 全体を氷に絡みつかれた梅の木は身動きをとろうとするも、僅かに動かすのがやっとだ。

 

「ぐうっ……。魔法が使えぬ……」

「あんたは美味しい梅の実をつけるみたいだからね。退治しないであげる」

「とるなら、優しくな?」

 

 動けなくなった梅の木から実を収穫する。

 アクア達にも手伝ってもらい、全部で二十個の黄金の梅の実をとった。

 他の実には手をつけず、そのままにしておく。

 よく見るといくつかはうっすらと金色がかかっていた。時間が経てば黄金の梅の実になりそう。

 

「もう少ししたら解けるから。じゃ」

「えっ、ちょっ……!」

 

 梅の木の呼び止めるような声を聞き流し、縛ったまま放置して来た道を戻る。

 帰り道で、今回の収穫を素直に喜ぶ。

 

「さあ、帰ったら梅酒を仕込むわよ!」

「これでつくったらどんな味になるかしらね?」

「想像できないな。そもそもこれの味なんか想像もつかないぞ」

「伝説級のものですからね。きっと凄く美味しいはずですよ」

 

 それぞれがこの梅の実に期待を寄せながら、緩んだ顔でアクセルへと戻る。

 街に戻ったら、最初に家に戻って梅の実を冷蔵庫にしまう。

 さあ、梅酒に使うものを買いに行きましょうか。

 梅の実自体が大きいので、入れものの壺は大きいものにしないと。

 それに使うお酒も多くなる。

 先に壺を買って、そこで一度家に戻り、置いてからお酒を買いに行こう。

 計画通り、壺を買ってからお酒を買いに行き、一番いいものを大量に購入する。

 支援魔法でステータスを底上げして、私達はお酒を家に運び込む。

 やはり支援魔法はかなり役に立つ。

 これがなかったら運ぶのは苦労しただろう。

 家に運び入れた私達は、お酒を物置の中に置く。その隣には大きな壺がある。

 我が家で梅酒を置いておける場所はここしかない。

 夏になったら物置の中が暑くならないようにする必要は出てくるが、それは夏になったら考えよう。

 今は梅だ。

 梅の実を傷つけないように枝を取り、綺麗に洗う。

 とりあえず全部持っていって、具合を確かめながら入れていこう。

 壺の中に梅を詰めていき、大きい実だけあって十個ほど入れたらよさげになった。

 そしたら次はお酒を投入し、最後に蓋をする。

 

「一年から一年半寝かせたら完成よ」

「長い! ねえ、そこは三日で何とかならないかしら? 一年半はちょっと……」

 

 アクアが文句をつけてきた。

 

「そう言われても。時間を操作するとかしないとそんなの無理よ」

「レイムならできるんじゃないの?」

「できるわけないでしょ」

 

 懐疑的眼差しで見てくるアクアを放っておく。

 いくら私でも時間操作はできない。

 梅酒をじーっと見つめるアクアに釘を刺す。

 

「言っとくけど、時間をかけないと梅の成分とか出ないからね。はやく飲んでもただのお酒だから」

「えー……。でも、まあ、それで美味しくなるって言うなら待ってあげてもいいわね」

 

 なぜか上から目線だけど、飲まないってならそれで結構だ。

 私達は物置から出て居間に戻る。

 ダクネスは台所へと行き、何をしてるのかと思ったら梅を切りわけて持ってきた。

 このまま食べるの?

 梅干しにしたりとかあると思うんだけど。

 時期が悪すぎてつくれないけどさ。

 そんなに美味しくないはずよね。

 しかし、伝説ではそのまま食べられていたようなところがあるし。

 サンマが畑でとれる世界だ、あまり常識は通用しない。

 私は梅を口に運ぶ。

 

「これは、驚きの一言しかないわ」

 

 味は果物のように甘酸っぱい。

 軽やかでありながらしっかりと土台はあって。

 飲み込んだあとは素晴らしい余韻があり。

 一言で言うととんでもなく美味しい。

 

「ん。微かに渋味があるな。それが全体の味を高めている」

 

 私よりいいもの食べて育ったお嬢様が梅の味に感動している。

 まあ、これはするわね。

 アクアとめぐみんは……待てこら!

 

「あんたらがっつきすぎよ! あー! もうないじゃないの!」

「「美味しいのが悪い」」

 

 氷漬けにしてやろうか。

 まだ残っているが、こいつらに全部食われてしまいそうな勢いだ。

 ダクネスが新しいのを取りに台所へ行く中、野獣のように目を輝かせる二人に私は警戒した。

 

 

 

 あれから三日後。

 私とめぐみんは大蛇の依頼を請け、そいつの住み処まで歩いて進む。

 ダクネスは実家に呼び出されており、アクアは寒い中行きたくないと駄々をこね。

 二人だけで来ていた。

 雪は風で吹き飛ばし、道を確保して進む。

 その大蛇は四千万という高額賞金がかけられるほどの強さがあるらしい。

 上級魔法一発で沈められる相手ではなく、物理攻撃にも強い。岩をも溶かす酸を吐き、何より恐ろしいのはその巨体による攻撃とのこと。

 凄く大きいらしい。

 上級魔法一発で沈むのが、四千万なんてあり得ないものね。

 大金をかけられるモンスターだけのことはあり、多くの冒険者を葬ってきた。

 長くこの地の王者として君臨し、多くの冒険者に恐怖を与えてきたモンスターと戦う。

 ドラゴンよりは弱いと思うから大丈夫でしょ。

 のんびりと歩きながら。

 

「でかいとは聞いたけど、どれだけ大きいのかしらね」

「そうですね。蛇は長い生き物ですから、そういう見方でいけばドラゴンとかよりも体長はあるでしょうね」

「ドラゴンの倍ぐらいかしらねー」

 

 危機感の欠片もなく会話をする。

 いつ蛇が襲ってきてもおかしくないのだが、今更蛇ぐらいでびびるわけもない。

 

「それにしてもレイムと二人で討伐に行くことになるとは思いませんでしたよ」

「アクアが嫌がったからね。まあ、掃除とか全部押しつけたけど」

「ふふっ。結構駄々をこねましたね」

 

 ついてこないということで、アクアに押しつけたところ、本人は嫌そうにした。

 それでも暖かい家の中でぬくぬくと過ごせるならと話を飲んだけど。

 梅酒に手を出してないといいんだけど。

 そのあともめぐみんと他愛もない話をしながら進んでいき。

 やがて大きな洞窟の前に到着した。

 大蛇が住み処にするだけのことはあり、入り口から既に大きい。

 ドラゴンも余裕で入れるのではないだろうか。

 大蛇が今ここにいるのか、洞窟の前から見てもそれはわからなかった。

 

「待つのも面倒だし、一発魔法を撃ってみるわね」

「わかりました私は爆裂魔法の用意をしておきますね」

 

 めぐみんの詠唱に合わせて、炎の玉を洞窟に撃ち込む。

 それは洞窟内を照らしながら進み――。

 壁にぶつかると炸裂した。

 

「シャ――――――――――!」

 

 洞窟の奥から蛇の怒声が飛んできた。

 何度も叫び、威嚇してくる。

 洞窟から出てきたそいつはあまりにも大きかった。

 本当にドラゴンの倍、いやもしかしたらそれ以上あるかもしれない。

 めぐみんが言ったように蛇は細長いので、頭から尾までの長さだけを見れば凄い。太さはそうでもない……のだが、やはりこれほどの大きさともなると相応の太さがある。

 洞窟によく入ったものだ。

 禍々しさを感じさせる紫色の瞳、紫色の鱗で覆われた巨体、何より特徴的なのは頭が二つあることか。

 こいつならドラゴンに巻きついてそのまま倒せてしまいそうね。

 

「シャ――――――――!」

 

 蛇は口を大きく開くと、濁った緑色の液体を吐き出した。

 それが何なのかはすぐにわかった。

 液体もろとも蛇を凍結させるべく、氷の魔法を放つ。

 私達に向かってきた液体ごと蛇の頭を氷漬けにするが、蛇は胴体を氷に何度も巻きつけ、一気に締め上げて氷を砕いた。

 

「うわ、本当に?」

 

 頭に残った氷の破片は激しく頭を振って飛ばす。

 この様子では全身を氷漬けにするのは難しそうだ。

 というか、こいつは氷漬けにしてもしばらくは生き長らえそうな生命力を持っていそうだ。

 大蛇は尻尾を振るい、落ちていた氷の破片を私達に飛ばしてきた。

 それを炎の壁で解かして防ぐ。

 大蛇はその体を長く伸ばして、一気に氷漬けにされないようにする。

 たかが大蛇と思っていたが、そこそこ賢いようね。

 大蛇は舌をチロチロ動かしながら私を注視する。

 私に注意が向いているならそれはそれで構わない。

 めぐみんが詠唱しながら魔力を高めているのを大蛇は気づいているようだが、私の方が危険と判断してめぐみんは放置している。

 お互いを牽制するように睨み合う。

 オオカネヒラの刃先を蛇に向けて、簡単に動けないようにする。

 少しの間そうしていたが、めぐみんによって均衡は破られる。

 

「レイム!」

 

 その声に私はその場から下がる。

 続けて、めぐみんの鋭く大きい声がこの場を走る。

 

「『エクスプロージョン』!」

 

 その一撃は大蛇の体のほとんどを飲み込み、吹き飛ばす。

 爆裂魔法の一撃によって積もっていた雪は消し飛ぶ。

 近くの洞窟の入口はその衝撃で崩れる。

 爆裂魔法の凄まじい威力はクレーターという形で痕跡を残していた

 地面に倒れるめぐみんを拾い、背負う。

 長くこの地を支配してきた大蛇でも爆裂魔法には耐えられなかったようで、尻尾だけが残されていた。

 

「今のでレベルか一気に2も上がりましたよ」

「流石高額賞金首ってことはあるわね」

「これでまた我が爆裂魔法は更なる高みへと上ることができますよ」

 

 威力上昇、高速詠唱にポイント注ぎ込み、魔力の消費が永遠に追いつけないようにするめぐみん。

 もうポイント振らなくてもどんなモンスターも一撃だと思うんだけど……。

 本人は他の魔法を習得するつもりないから、振っても振らなくても変わらないけどさ。

 微妙に納得できないものがあるけれど、まあいっか。

 それにしても何か忘れてるような……。

 気のせいね。

 大蛇討伐の報酬を受け取った私達は豪華な食材を購入して家に戻った。

 

 

 

 ダクネスが実家に行ったまま数日が経過した。

 良家のお嬢さんということだったし、何かあったのだろうか。

 しかし、ダクネスという人間は痛めつけられると喜ぶという変わった性質を持つ人間だから、大体のトラブルは喜びそうだけど。

 戻ってこないダクネスをアクアとめぐみんは心配しているようである。

 だが、日課の爆裂散歩を欠かさない。

 今ではすっかりとアクセルの風物詩となり、爆裂魔法の爆音とか聞こえても動じる住人はいなくなった。

 この街の住人はたくましいもので、アクアの話では肉屋のおじさんは蛙を倒したり、ファイアードレイクを狩ったりしてるらしい。

 冒険者よりたくましいおじさんだ。

 変わった人が多く住んでいる、それがここアクセルの街だ。

 一説では変な奴ほどアクセルに居座る傾向にあるようで、パーティーメンバーを頭に浮かべて私は納得した。

 食材の買い出しに出ようとした時のこと。

 めぐみんとアクアが爆裂散歩に行こうとした時のこと。

 我が家に警察が来た。

 警察は私達に厳しい目を向け、辛辣に言い放つ。

 

「あなた方の爆裂魔法のせいで冬眠中のジャイアントトードが目を覚まして地上に出てきています。早急にこちらの駆除をお願いします」

 

 私はばか二人を睨む。

 二人はさっと目を逸らした。

 こいつらに全部やらせたいところだが、確実に蛙の餌になるだけで、最後は私に回ってくる。

 なぜ今更蛙なんか倒さなきゃいけないの……。

 

 めぐみんの魔法によって数匹の蛙は消し飛ぶ。

 倒れためぐみんを背負う。

 今の爆裂魔法でも全ての蛙を討伐できたわけだはなく、残りは私がやる。

 はあー、寒寒。

 とっとと終わらせて帰りたいわ。

 冬だというのに元気に跳ね回る蛙と、それに追いかけられて涙目になるアクアをのんびりと眺めながら、欠伸をした。

 

「レイムさーん! 欠伸してないで助けてえええええええええ!」

 

 蛙引き寄せ女神のアクアの叫びにまた一つ欠伸を。

 そろそろ助けてやりますか。

 蛙を倒そうと思ったその時。

 

「『ライト・オブ・セイバー』!」

 

 鋭く強い声が雪原に響く。

 どこかで聞いたことのある声だ。どこだっけ?

 光の刃はアクアを追いかけていた蛙を切り裂く。

 

「上級魔法? でもウィズは店だし……」

 

 このアクセルで上級魔法を使えるのはウィズぐらいなものだ。

 そもそも上級魔法使えるほどの冒険者は他の街に行って強いモンスターを相手にする。

 こんなところに来るのは変わり者か、何か理由があってのことだろう。

 その後も謎の人物は上級魔法を惜しみなく使って蛙を倒していく。

 見事な上級魔法だ。

 魔力の強さといい、これは相当な腕を持つ冒険者に違いない。

 残っていた全ての蛙はその人によって倒された。

 そして、その人は私達の前に来て、私が背負うめぐみんにビシッと指差す。

 

「久しぶりね、めぐみん! 今日こそあなたと決着をつけるわ!」

 

 めぐみんと同じく黒いローブを着て、マントを身につけている。

 スタイルはとてもよく、大人になったら間違いなく男が放っておかないだろう。

 その子を私は知っていた。

 知ってたけど、名前が思い出せない。

 悪魔の時いたのよね。

 その子は私とアクアを見ると、ぺこりと頭を下げた。

 

「お久しぶりです。アクアさん、レイムさん。森の悪魔の時はお世話になりました」

「あー、思い出したわ。ゆんゆんね! 久しぶりね。何よもう、すっかり本物の紅魔族じゃないの」

「おい。まるで偽物がいるみたいではないですか」

 

 アクアはめぐみんを無視してゆんゆんと会話を重ねる。

 そうよ、ゆんゆんよ。

 すっかり忘れてたわ。

 しばらく見ない間に立派な魔法使いになっていたわね。

 きっと強いモンスターをたくさん倒してきたのね。

 ゆんゆんはアクアとの会話を名残惜しそうに切り上げ、マントを翻してめぐみんを指差す。

 

「見ての通り私は上級魔法を習得したわ! 今日私はあなたに勝利し、紅魔族随一の魔法の使い手になるわ!」

「ほほう。随分と強気ですね。しかし、どうやって決着をつけるつもりですか? 私は爆裂魔法を使ったので魔力はありません」

「そう。…………どうしよう」

 

 考えてなかったのね。

 めぐみんは顔に手を当てて、呆れたように言った。

 

「全く。少しは考えて下さいよ」

「だ、だって……」

「まあ、寒いから家に戻るわよ。話はそれからよ」

 

 雪降る中でいつまでも会話をしてるとかばかなことしたくない。

 私はみんなを連れて帰宅することに。

 家に戻る前に、ギルドに寄って蛙討伐を終えたことを報告する。

 今回は私達のせいでもあるので引き取り料しか出なかったけど、出るだけマシよね。

 それをゆんゆんとめぐみんに半分ずつ渡す。

 なぜかゆんゆんは受け取れません、と言ったけど、半分はゆんゆんが倒したものなので渡さないといけない。

 ゆんゆんにお金を握らせたあとは、我が家へと連れていく。

 居間へと案内をして、お茶を出す。

 

「ありがとうございます。……立派なお家を購入されたんですね」

 

 そのゆんゆんの発言に、なぜかめぐみんが胸を張ってどや顔で答えた。

 

「ふふっ。どうですか、ゆんゆん。我々がどれだけ活躍してるかわかるでしょう?」

「……レイムさんの活躍はよく聞くけど、めぐみんの情報はあまり聞いたことないわよ。王都でちょっと活躍したってのは聞いたけど……」

 

 痛いところを突かれためぐみんはぐっとなる。

 デストロイヤーの時も活躍したが、今回の蛙事件のことといい、必ず帳消しにするのがめぐみんだ。

 言葉が詰まるめぐみんにゆんゆんは。

 

「それに活躍してるのはいいとして、どうして蛙なんか討伐してたのよ。蛙って今は冬眠中でしょ」

「さ、さあ、なぜですかね? 冬眠してない理由はさっぱり、さっぱりわかりませんが、警察の方が討伐してほしいと依頼してきたのですよ。我々の優れた力を頼りにしたということでしょうね」

「ギルドじゃなくて警察が? ねえ、何をやったの? どうして目が泳いでるの、ねえ何で?」

 

 見事に自爆しためぐみんは耳を手で塞いで聞こえないようにしている。

 それだけでおおよそのことはわかったのか、ゆんゆんは呆れたように溜め息を漏らした。

 めぐみんは、全くめぐみんは……、と心から呆れてるゆんゆんにめぐみんは下手くそな口笛を披露して誤魔化そうとした。

 それにアクアは何を思ったのか、

 

「下手ねえ。本当の口笛ってのはね、こういうのを言うのよ」

 

 口笛を披露したんだけど、おかしい。

 楽器には疎いが、しかしアクアの口笛は複数の楽器を奏でているかのようで。

 一人で数人分の演奏をしている、口笛で。

 めぐみんの口笛が初級魔法なら、アクアの口笛は爆裂魔法だ。それほどまでに違う。

 どうなってるの!?

 私達三人は愕然としながら口笛を聞く。

 もうこいつは芸で食ってけばいいんじゃないかと思うほどよ。

 もしかして女神の力が宴会芸スキルをここまで高めてるの?

 もしそうならそれこそ女神の力の無駄遣いとしか言えないんだけど。

 アクアはしばらく口笛を吹くと満足した顔になり、汗をかいてないのにどこからか取り出したタオルで顔を拭いた。

 そんなアクアをゆんゆんはじっと見つめ、私は気を取り直すように言った。

 

「ゆんゆんは泊まるところ決まってるの?」

「い、いえ、まだです。これから決めようかと」

「そっ。それならここに泊まったらどう? 空いてる部屋があるから好きにしていいわよ」

「い、いいんですか!?」

 

 何をそんなに食いつくのか、ゆんゆんは興奮した様子で、テーブルに手をついた状態で私に顔を近づけてきた。

 その必死さに思わず引いてしまうが、それに気づかずゆんゆんは目を輝かせている。

 

「い、いいわよ。誰も使わなければ物置になるだけだったからね」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

 

 私の言葉にゆんゆんは深く頭を下げて何度も感謝の言葉を口にした。

 この子の反応はいったい何なのかしら。

 あまりにも反応が過剰で、どういうことなのとめぐみんに尋ねるように視線を向けると、めぐみんはさっと目を逸らした。

 あとで問い詰めよう。

 そんなことを私が思う中、ゆんゆんの感謝の言葉が居間に響く。




次は多分悪魔です、
きっとバニルさんがめぐみん達の恥ずかしい過去を暴露するか、この世に大災厄をもたらすと思います。

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