霊夢がこのすばの世界に行くそうです   作:緋色の

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もうすぐで十二月ですね。
そろそろ今年も終わりか……。
年々、時間の経過がはやくなってると思う今日この頃。


第十三話 温泉旅行なう

 温泉旅行に行きます。

 そもそもなぜ温泉旅行に行くのかというと、私が最近疲れることばっかりだから、ゆっくりと休みたいわー、とか言ったらアクアがアルカンレティアを推してきたので決まった。

 ゆんゆんがあまり行きたそうにしていないのが気になったけど、温泉という素晴らしい響きには心を動かされた。

 現在は馬車に乗って、アルカンレティアを目指している。

 護衛として乗り込めば代金を無料にすることもできたけど、のんびりとしたいのが目的なので、お金を払って普通のお客さんとして乗り込んでいる。

 馬車に揺られながら、景色を眺める。

 アクセルや幻想郷では見ることのなかった景色を夢中で眺めていた。

 それしかやることがないというのも理由の一つだけど。

 お茶とせんべいがほしい。

 めぐみんとゆんゆんは見たことがあるのか、私とダクネスとアクアほど景色を見ようとはせず、ちょむすけを可愛がっていた。

 めぐみんのペットのちょむすけは羽の生えた猫で、邪悪な気配を感じさせる。羽が生えてるから、普通の猫とは違うのだろう。

 なぜかアクアにはなついていない。

 アクアが抱こうとすれば激しく嫌がるほどだ。邪悪な気配があるから、なんちゃって女神でも嫌なのかもしれない。

 私に関してはそもそもなつかれようと思ってないから構っていない。めぐみん達より早起きしてるので、朝食の用意はしてやってるけど、そんなものだ。

 そんな関係だから、ちょむすけは私を見ることはあっても近寄ってくることはなかった。

 そのちょむすけは何を思ったのか、めぐみんの隣に座る私のところに来て、じーっと見上げてくる。

 ちょむすけの顎回りをかいてやると気持ちよさそうに喉を鳴らして、私の膝の上に座り込む。

 背中を優しく撫でてやる。

 

「にゃー」

 

 嬉しそうに鳴いた。

 ちょむすけを撫でることにした私は景色を見るのをやめる。

 中々私からはなれず、ずっと撫でられているちょむすけを見て、不満げな顔になったアクアが近寄って抱き寄せようとしたのだが、それに感づいたちょむすけは私の服の中に逃げ込んだ。

 さらしに爪を立ててしがみつくものだから、ちょっと痛い。

 

「ちょむすけが嫌がってるじゃないの」

「何でよー! レイムに全然なついてる感出してなかったのに、どうして急にそこまで仲よくなってるのよ! おかしいじゃない」

 

 アクアだけなつかれていないのは笑える。

 ちょむすけのいる場所がいる場所だから、アクアは手を出すのを諦めて席に戻る。

 アクアがはなれると、ちょむすけは爪を立てるのをやめ、少しずつ下りていき……、服の中から出ないで座り込んだ。

 ここが安全地帯だと思ったようだ。

 誰も手が出せない。

 出したら、その瞬間切り裂かれることになる。

 

「こら、ちょむすけ! そこから出てきなさい!」

 

 服の中のちょむすけが欠伸をした。

 この猫、見た目によらず賢いのかもしれない。

 ちょむすけが私の中から出てこないまま時間は過ぎていく。

 ちょむすけがすっかりと熟睡してしまった頃、馬車が止まった。

 私達は休憩するんだと思ったが、そうではなかった。

 

「モンスターが出たぞー!」

 

 窓の外を見れば、土煙を上げながら大量のモンスターがこっちに向かってきている。

 鷹の頭を持つ、二足歩行の鳥のモンスターが猛スピードで接近している。

 何だあれ。

 一般客として乗り込んでる私達は戦わなくていいから、外に出て安全なところに避難すればいい。

 ちょむすけを抱き抱えて外に出る。 

 向こうから来るモンスターの数は尋常ではない。なぜあんなにもたくさんのモンスターがタイミングよく来たのかしら。

 まあ、運のない女神がいるからそいつのせいね。

 ぼーっと眺めている私にダクネスが。

 

「レイム、奴らを倒すぞ」

「えっ? それは護衛の冒険者にやらせましょうよ。そのためにお金払ったのよ」

「いえ、流石にあの数は厳しいと思います。最悪馬車が破壊される可能性もありますよ」

 

 馬車が壊れるとアルカンレティアに行けなくなる。

 アクセルへも徒歩の帰りになる。

 それはとても面倒臭いことだ。

 あの数のモンスターを倒したら経験値はそれなりに入るわよね?

 ふむ……。

 経験値か……。

 私は大量の経験値を見据える。

 

「経験値稼いどきますか」

 

 ちょむすけを抱いたまま前に出る。

 先に前に出ていた冒険者達は私達を見ると、

 

「おい、あんたら、護衛とは関係ないんだから下がってろよ!」

「待って! 猫を抱いてるあの子、ハクレイレイムじゃない?」

「なっ!? あのレイムか!? 魔王軍の幹部バニルとベルディアを討ちとり、デストロイヤーすら葬ったあの!?」

「あの変な格好は間違いなく本物だろう!」

 

 変な格好とは失礼な。

 

「あの後ろの人達は……!」

「ハクレイレイムはソロじゃなかったのか?」

「付き人か何かだろう」

「ふふっ……」

 

 私は向こうの冒険者に見えず、聞こえないように笑った。

 彼らの悪意のない言葉に少なからずショックを受けるアクア達。

 みんなの活躍はどうやら伝わることはなく、私の活躍ばかりの知られているらしい。

 そして、なぜか私は仲間がいない設定になっていた。王都での活躍で私達のパーティーは名が売れたんだけど、それはどうしたのかしら?

 ゆんゆんは加入したばかりだからしょうがないと思うけど、やたらとショックを受けてるような……。

 

「来るぞー!」

 

 それを聞くとめぐみんは杖を構えて目を閉じ、詠唱を開始した。

 魔法使いの人達はモンスターの群れに向けて、次々と魔法を唱える。

 

「私は付き人じゃなくて仲間です!」

 

 妙に気合いを入れたゆんゆんが怒りをぶつけるように上級魔法を唱える。

 中級魔法よりも威力が高い上級魔法は、一撃であってもモンスターの群れには有効であった。魔法の余波で転倒して巻き込んだりと、一気に十匹を超える数を倒した。

 遅れて私も魔法を連発する。

 それは炎であったり、雷であったり、氷であったり、竜巻であったり、光であったり……。

 それは蹂躙と呼べるものだったと思う。

 私の魔法を見たゆんゆんは驚きのあまり文句を言ってきた。

 

「おかしい! 休まずにそんなに発動できるのはおかしいから!」

 

 隣でゆんゆんが高速で詠唱して上級魔法を唱えているが、私の速度には負ける。

 

「そもそも何で詠唱も何もしてないのにそんなに使えるの!? せめて唱えてよ!」

「断る」

 

 魔力を練り上げ、長々と詠唱していためぐみんはカッと目を見開いて、力強い声で唱える。

 

「『エクスプロージョン』!」

 

 めぐみんの必殺の一撃がモンスターの群れの中心に突き刺さり、大地を揺らすほどの大爆発を起こした。

 あとには大きなクレーターが残る。

 今の大爆発でモンスターはあちこちに吹き飛ばされるか、消し飛び、その数を大きく減らした。

 今のエクスプロージョンはいつもよりも気合いが入っている感じがした。心なしか威力も大きかったような。

 今の爆裂魔法を見たゆんゆんは「やっぱりめぐみんは……」と何かを言いかけて、慌てて首を振って上級魔法を唱える。

 

「今のエクスプロージョンはいつもよりも凄かったわね」

「ふっ。そうでしょうそうでしょう。私も今のは過去最高だと自負しておりますよ」

 

 ダクネスに背負われためぐみんが誇らしげに語る。

 今の魔法を見た、他の冒険者達はあまりの威力に驚きを隠すことはできず、口をポカーンと開けていた。

 ゆんゆんは自称ライバルだからか、負けていられないとばかりに次々と上級魔法を唱えていく。

 あれほど大量にいたはずのモンスターは一匹も馬車まで到達することはできず、全て倒された。

 ダクネスとアクアは何もしてなかった。

 

 

 

 夜になり、私達は野営をとっていた。

 アルカンレティアへは一日半ほどかかるため、ここで一泊過ごすしかない。

 さて、私とゆんゆんとめぐみんは、冒険者や商隊のリーダーに囲まれていた。

 あの一方的な戦いをした私達の力を褒め称える彼らに気分をよくしながら、注がれるお酒を次から次へと飲み干す。

 

「お強いとは聞いておりましたが、いや、まさか上級魔法をポンポンとお使いになるとは!」

「紅魔族の子もレイムさんほどじゃなかったけど、上級魔法を何度使っても疲れを見せないなんてね! やっぱり流石としか言えないわ!」

「めぐみんさんの魔法はそんな二人を遥かに凌駕するほどの威力だったぞ! あれならドラゴンでも幹部でも一撃じゃないか!?」

 

 多くの人に褒められてゆんゆんは照れ臭そうに、ちびちびとお茶を飲む。

 めぐみんは、私なら当然とばかりの態度を見せていて、ジュースを飲みながらデストロイヤー戦での武勇伝を語っている。

 そんな私達とは対照的にアクアとダクネスは静かーにご飯を食べていた。昼間あまり活躍できなかったのが心に響いたらしい。

 二人は私達をちら、ちらと見てくる。

 肩身が狭い思いをしている二人に目を合わせた私はこくりと頷く。すると二人はぱあっと顔を輝かせて。

 

「活躍したあとに飲むお酒は最高ね!」

 

 すぐに泣きそうな顔になった。

 ダクネスに関しては泣きそうな顔のはずだが、どこか嬉しそうな様子を見せていて、口が若干弧を描いている。

 あいつはこんな時でも興奮しているのか。

 そんなダクネスに、アクアは肩を揺さぶって何かを言っているが、当の本人は頬を赤らめて嬉しそうにするばかりであった。

 あいつは本当にどんな時でもぶれないわね。

 バニルに乗っ取られた時も変態な一面を惜し気もなく見せていたし。

 ダクネスの性格がもっとよくて、剣のスキルをちゃんととるような奴ならもっと活躍できると思うんだけど……。

 まあ、たらればの話をしても、ダクネスが変態という事実は変えられないから無駄なんだけどさ。

 私は二人を見るのをやめて、新しく注がれたお酒をごくりと飲んだ。

 

 楽しい食事も終わって、眠りについた。

 それからどれぐらい時間が経ったかは知らないけど、まだ真っ暗な時に目を覚ました。

 トイレに行きたいわけではなく、ただ何となく目を覚ましてしまった。

 二度寝しようと思ったのだが、妙な気配を感じたので体を起こした。

 何か見えてるわけではないけど、妙な気配は感じる。これはアンデッドかな?

 気配は一つ二つではない。数えるのも面倒なほどの数がいる。

 

「みんな起きなさい」

 

 隣で眠るアクアとめぐみんを揺する。

 強い気配はないが、数が多い。

 どうしてアルカンレティアに行く途中で、二度もモンスターの群れに襲われなくてはならないのか不思議でならない。

 相手はアンデッドのようだし、アンデッド?

 ベルディア戦でアクアがアンデッドの群れに追われた時のことを思い出した。

 アンデッドを引き寄せる何かがアクアにあるのだとしたら、この群れはアクアのせいで来たことになる。

 

「アクア、起きなさい! 起きろ!」

「痛い! せっかく気持ちよく寝てたのに何なのよ!?」

「アンデッドの群れが来てるのよ」

 

 私の言葉を聞くと、アクアは素早く立ち上がる。

 やけにやる気に満ちた顔で周囲を見回す。

 

「神の理に刃向かいしアンデッドが、よくこの私の前に姿を見せられたものね! 一匹残らず浄化してあげるわ!」

 

 そういや、あいつバニルを見た時も敵意を剥き出しにしてたわね。

 アンデッドとかそっち系が許せない質なのかな。

 そんな些細な疑問を私が持ってると、アクアは浄化をはじめた。

 アクアの足下に青く輝く魔法陣が浮かび上がり、それは一気に巨大化して、広範囲に展開する。

 アンデッドの群れを丸々囲んだ魔法陣は、

 

「『ターンアンデッド』!」

 

 アクアの一声でカッと強く輝く。

 光に照らされたアンデッドの体はボロボロと崩れ、その魂は天へと昇っていく。

 あっという間にアンデッドの群れを退治する、その姿は誰に見せても納得してもらえる女神の姿であった。いつもそうならいいのに。

 

「見たレイム!? この私の圧倒的で華麗な浄化を!」

 

 腰に手を当てて、頭が悪そうな大笑いを見せる。

 アクアはアクアか。

 私は一人納得した。

 

 

 

 翌日、モンスターに遭遇することなく、アルカンレティアに到着することができた。

 

「こちらの方をどうぞ」

 

 昨日の活躍の報酬として、私達は商隊のリーダーから温泉宿の宿泊券を渡された。この宿はアルカンレティアで一番大きい宿屋らしく、報酬としては十分なものだった。

 私達に報酬を渡したリーダーさんは、このまま次の街へ向かうようだ。

 頑張るなあ、と思いながら見送り、私達はアルカンレティアに向き直る。

 アクアがはしゃぐ。

 

「来たわ! 来たわよ!」

 

 街のあちこちには水路があり、それだけでも水の都としての顔を見せていた。

 建物は青色を基調としている。

 そして、この街最大の魅力は何と言っても温泉だ。

 水と温泉の都アルカンレティア。

 それがこの街の呼び名だ。

 アクアは感激した様子で街中を見回す。

 こいつは何でこんなテンション上がってるの?

 気持ち悪いぐらいなんだけど。

 これ以上うるさくなるなら殴っても黙らせる。

 

「来たわ! 水と温泉の都アルカンレティア! そして、アクシズ教団の総本山! ここは永遠にして美しき聖地なのよ!」

 

 アクシズ教団……?

 それってアクアを崇める頭のおかしい集団よね。

 この街にそいつらの本部があるとは思わなかったわ。だから、テンション高いのかこいつ。

 まあ私は温泉が楽しめればいいから、アクシズ教団とやらには関わるつもりはないけど。

 

「とりあえず、この宿泊券が使える宿に行くわよ」

 

 アクア達はこくりと頷く。

 街の中を散策するにしても、まずは荷物を置いてからだ。

 アクアはこの街に来ただけで舞い上がっていて、あちこちを楽しそうに、そして嬉しそうに見ている。

 今のアクアなら、入口にいるだけでも一日を普通に潰せそうである。

 国内でも有名な観光地だけのことはあり、多くの人が行き交っている。

 この人の数は、多分この辺りが宿の密集地だからだと思う。

 周辺の人の会話を聞くと、お土産を買えるところに行こうよ、というのがあり、それが多く聞こえてくるので、多分そこも混んでるんだろうなあと思った。

 しばらく歩くと目的の宿に到着した。

 外観は立派なものである。

 私は幻想郷にあるような和風の屋敷を想像していたが、石造りの大きな建物であった。王都で見たような宿に似ている。

 私達は早速中へと入る。受付周りにはなぜか店員が固まっていた。

 気になったが、客の私には関係のないことだろうと思って流す。

 入店してすぐに横にある受付へと行き、店員に宿泊券を見せる。

 店員の女性は宿泊券を見ると、周りの店員に一つ頷いてみせた。

 

「皆様のことは旦那様からお伺いしております。どうか、ごゆるりとおくつろぎ下さいませ」

 

 手厚い歓待を受けた私達は部屋へと案内される。

 案内されたお部屋は広く、私達の倍の人数でも使用できそうだ。

 私達は荷物を置く。

 アクアはアクシズ教団の本部の大教会に行ってくると言い残して出ていき、めぐみんはアクアが心配だからと一緒について行った。

 それを見届けて、私はお茶をコップに注ぐ。

 

「はい」

「ありがとう」

「ありがとうございます」

 

 ダクネスとゆんゆんはお礼を言い、お茶を一口飲んだ。

 それを見てから私もお茶を飲む。

 アクア達がなぜあんなにも元気なのかは不明だけど、まあその内帰ってくるでしょ。

 街の散策よりもゆっくりしたい。

 散策は明日でいい。

 熱いお茶を飲みながらそんなことを思い。

 

「このあとはどうするんだ?」

「ここでゆっくりするだけよ。景色もいいことだしね」

 

 窓から、街並みが見下ろせる。

 今日ぐらいはこれを楽しんで、明日お土産を売ってるエリアを見て回ればいい。

 そんな私に何か言うでもなく、二人もゆっくりすることに決めたらしい。

 ダクネスは暇潰しようにと持ってきた本を読み、ゆんゆんはトランプで山をつくり、私は窓から見える景色を眺める。

 ……ゆっくりしてるわあ。

 

 温泉も堪能した私達は部屋で寛いでいた。

 浴場は思ったよりも広くて、お湯の加減も好みだったので、大満足できた。

 これからも通おうかしら。

 ダクネスとゆんゆんもここの温泉には満足がいってるらしく、いつもよりもリラックスした雰囲気で寛いでいる。

 流石アルカンレティアで一番大きい宿屋というだけのことはある。

 温泉は凄く満足したし、夕食は何が出てくるのかしら。きっと豪華で美味しいものよね。

 夕食に期待して、胸を弾ませていた。

 そんな時に出かけていた二人が戻ってきた。

 

「うえええ、ぐすっ、ひぐ」

「アクシズ教徒怖いです。アクシズ教徒怖いです。アクシズ教徒怖いです。アクシズ教徒怖いです」

 

 アクアは泣きながら。

 めぐみんは俯いてぶつぶつと呟きながら。

 二人ともなぜか暗い雰囲気で帰ってきた。

 教会に行くとは聞いたから、何かあったとすれば教会絡みなんだろうけど、アクシズ教徒の悪評を考えたら納得できてしまった。

 でも、アクアはアクシズ教団が崇める女神。泣かされる理由はないと思うんだけど。

 いや、ひょっとして、アクアが想像してたのと違いすぎて失望されたんじゃない? 近くにいる私も疑ったりするぐらいだからしょうがない。

 

「アクア、何をそんなに泣いてるのよ」

「レイムー! うええええええ!」

 

 アクアが私に抱きついてきた。

 本当にショックなことがあったようで、次から次へとぼろぼろと涙を流して、私の服を濡らす。

 

「何よ、本当に何があったのよ。鼻水つけんな」

「教会のね? 秘湯に入ったの。そしたら、私の体質で、ぐすっ、普通のお湯にしちゃったの……」

「うんうん。それで?」

「それで怒られたから、私の意思とは関係ないからしょうがないって言ったの! でも、その人は納得しなかったの。だから私は、自分が水の女神アクアであることを教えたの! ううっ……」

 

 想像はついたけど、一応聞いた。

 

「それで?」

「ふんって鼻で笑われたの!」

「ぷふっ」

「わああああああああ!」

 

 予想通りすぎて笑ってしまった。

 アクアは大声を上げて泣き出した。

 

 

 

 次の日。

 朝食を食べながら、アクアはいつになく真剣な顔で私達に言った。

 

「この街の危険が危ないと思うの」

「それはいいことじゃない。危険なものに危機が迫ってるなら、近い内に危険なものは消えるわね」

「そういう意味じゃないの!」

 

 違うのか。

 アクアはコップをテーブルにドンと置いて、この街で起きてる異変について語った。

 この街では、あちこちの温泉の質が下がっている。それは突然のことで、原因はわかっていない。

 そして、それはアクシズ教団を危険視した魔王軍による破壊工作だと、アクアは確信した様子で言った。

 ……。

 

「自分とこの神様を見抜けない教団をそこまで危険視する? アクシズ教団なんてポンコツじゃない」

「そんなことないわよ! 私の愛する信者達を悪く言わないでちょうだい! 私が水の女神アクアってわからなかったのも、きっと地上に落ちて力が落ちてるからよ」

「ああ、一応弱体化してる設定なのね。まあどっちでもいいけど」

 

 最近、私が魔王の城に攻めたら、結界は解けて、魔王を倒せるのではないかと思ってる。

 アクアの力を頼らなくてもいけるんじゃない? と思ってる私だが、泣かれると面倒だから何も言わないでいる。

 

「ここは私達がアルカンレティアを、アクシズ教団を救うべきよ! そうしないとこの街の温泉は破壊されてしまうもの!」

「ここの温泉は気に入ったから、それは困るわね。これからも来ようと考えてるのに」

「だから、誰が犯人か突き止めて、退治しましょう!」

 

 私は頷いた。

 他の三人は魔王軍が温泉を? と疑ってるところはあるようだけど、調べるだけ調べてみようってことにして、私とアクアのあとに続く。

 私の温泉を破壊しようとする魔王軍許すまじ。

 そんなわけで私達は、温泉の質が悪くて経営できていないところを訪れた。

 

「調査と言っても、専門家の方が見てもわからなかったんですよ?」

「まあまあ。ここにいるアークプリーストは力は確かでな? どの程度汚染されてるか調べるだけでも価値はある」

「はあ……」

 

 あまり乗り気でない経営者は私達を浴場へと案内する。

 脱衣場を抜けて、浴場に入ると、アクアは湯の中に手を入れる。

 すぐにその表情は険しくなり、手を入れたまま私達と顔を合わせる。

 

「かなり汚染されてるわね」

「ふうん。で、それどうにかできるの?」

「少し時間はかかるけど、浄化できるわ」

 

 アクアは親指を立てて、浄化作業に戻った。

 私は気になることがあった。

 この温泉は使えないほど汚染されてて、私達の使った温泉は何ともなかった。

 部屋のパンフレットを見たけど、この街の温泉はアクシズ教会の裏にある山から源泉を引いているとあった。もし本当なら……。

 

「この街の温泉って、教会の裏の山から引いてるんでしょ?」

「ええ。裏の山から源泉が湧いていて、アクシズ教団はそれの管理をしています。彼らがこの街で好き放題していられるのはそれが理由です」

「そうなんだ。しょうもない連中ね、ってそいつらはどうでもいいのよ。そっか。うん」

 

 めぐみんの話で確信した。

 ゆんゆんが気になったようで、私に尋ねる。

 

「レイムさんは何かわかったの?」

「誰かが温泉を回って悪さしてるってのはね。まだ源泉には手を出してないみたいだけど、時間の問題よね」

 

 温泉宿を一件ずつちまちま潰して回るよりも、山の源泉を潰す方が色々と楽だ。

 むしろ、犯人はどうして源泉を狙わないのか。

 ここまでこつこつとやるより、源泉の警備とかそういうのをクリアして潰す方法を見つける方が手っ取り早いと思う。

 努力家なのかしら?

 

「浄化終わったわー」

 

 アクアが笑顔で報告した。

 魔法を使わなくても手を入れるだけで浄化できるのだから便利よね。

 たまには女神らしく特殊能力を見せるわね。

 

「さあ、この調子で温泉を浄化して回るわよ!」

 

 私の癒しとなる温泉を守るためにもアクアには頑張ってもらおう。

 私達は、街の温泉が汚染されてることを告げた上で、どこの温泉が汚染されてるかわからないから一件一件浄化して回ってると伝え、許可をもらって温泉を浄化していく。

 中には無事の温泉もあったが、汚染された温泉も含めて、街にある温泉は全てアクアによってただのお湯となる。

 無事の温泉の持ち主は泣きそうな顔になってたけど、汚染されていた時のことを踏まえたら、被害は微々たるもの。

 正義には犠牲が必要なのよ。

 そんなこんなで、空が暗くなりはじめた頃にやっと泊まってる宿に戻ってくることができた。

 入浴と夕食を済ませて、疲れた私は布団にごろりと横になる。

 

「ねえレイムさん。もしかして寝ようとしてない? してるわよね、ねえ?」

「今日はもう疲れたわ」

「レイム、これから今後の予定を立てるんだ。寝るのはもう少しあとにしてくれ」

 

 予定。

 予定って……。

 そんなの立ててどうすんのよ。

 けど、そう言ってもこいつらは寝かせまいと何かしてくる。

 

「聞いててあげるから話し合いなさいな。まあ、明日になれば、事件起きると思うけど」

「事件? それってどういう?」

「アクアが汚染された温泉を元通りにしたわよね?」

「ええ。私超頑張ったわ!」

「誰かがこつこつと頑張って汚染させたのに、アクアが一日で浄化したのを知ったら、これまでの努力を無駄にされた犯人は源泉を狙うと思うの。私だったらふざけんな! って気持ちで源泉に毒を投入するわ」

 

 私の話を聞いたみんなは顔を見合せる。

 

「確かにレイムの言う通りですね。犯人はきっと源泉を狙いますよ!」

「ほら、はやく話し合いしてよ。じゃないと寝るわよ、つうか寝る」

 

 大きな欠伸をして、私は夢と希望が詰まった夢の世界へ飛び立った。

 そのあとされた話し合いの内容を私は知らない。

 

 

 

 翌日。

 ダクネス達によって、警察や冒険者ギルドに話が伝わった。私は朝風呂を楽しみたくて、参加しなかった。

 犯人が行動を起こすとしても、もう少しあとだろうと予想はつけてた。

 根拠はないけど間違いない。

 それまではのんびりしてても問題ない。

 異変が起きるまで待ちましょ。

 朝風呂を堪能した私は部屋に戻って、窓から街を見下ろす。

 少し長く入りすぎたのか、少し頭がぼーっとする。

 体調を回復させる意味でも、私はしばらく景色を眺めていた。

 どれぐらいの時間が経ったかわからないけど、部屋の外からドタドタと足音が聞こえてきたので、景色を眺めるのをやめて扉に視線を向ける。

 アクア達が部屋に入ってくる。

 

「お疲れさま」

 

 そこまで疲れてなさそうな彼女達を労う。

 みんなはテーブルについて、ゆんゆんはみんなにお茶を淹れる。お茶を飲んで、ダクネスが言った。

 

「警察やギルドに連絡はした。源泉への警備はより厳重なものとなり、犯人特定のために、各宿にアンケートを頼んだ。もちろん犯人には気づかれないように行動しているから安心していい」

 

 それは自信に満ちた声だ。

 大丈夫そうなんだけど、私はむしろこれからだと思った。

 私の勘が告げている。

 

「あとは報告を待つだけかな……」

 

 ゆんゆんがぽつりと漏らしたそれにアクアが激しく反応した。

 

「何言ってるの! 私達も犯人を探すために動くべきなのよ!」

「私達が動いたらバレてしまいますよ。忘れがちですが、我々は大物賞金首をいくつも討ちとった凄腕冒険者パーティなんですよ? 我々の顔が知られてる可能性があります。ここは大人しくしておくべきです」

 

 この前付き人とか言われたの忘れたのかしら?

 しかし、めぐみんの言葉にアクアは心を動かされたのか、腕を組んで「ううむ」と唸る。

 これで大人しくするなら安いか。

 だけど、昨日散々あちこち歩き回ったから、もしめぐみんの言う通りならもうバレてると思う。

 ダクネスを見ると、めぐみんの話に何か言いたそうにしていたが、アクアを派手に動かさないために無言を貫いていた。

 

「そうね。今や私達は最も魔王討伐に近いパーティーだものね。ここは様子見が一番かもね!」

「そうですよ。凄腕冒険者たるもの、待つことができなくてどうしますか!」

 

 めぐみんとアクアがハイタッチした。

 最も待つことができない問題児二人が何を言ってるのかしら?

 今日ぐらいは犯人も大人しくするでしょ。

 夜になればアンケートで犯人の目星はつくし、それまでごろごろしましょ。

 私は布団に飛び込んだ。

 

 昨日、夕食を食べ終えた頃に、ギルドの職員がアンケートの結果を知らせに来た。

 浅黒い肌で、短髪で茶色い髪の男性があちこちの温泉で目撃されていたようで、汚染されていた温泉にも例外なく通っていたことも判明したため、その男に手配をかけた。

 明日から男を捕まえる手伝いをしてほしいとお願いされた。

 そんなわけで今日の私達は出て、温泉を破壊しようとしている犯人を探していた。

 私達以外にも多くの人が探しているから犯人もすぐに見つかると思われたのだが、異変に気づいたのか、見つかったという話が出てこない。

 昼すぎまで探し回ったが、見つかる気配が欠片もないので、私達は昼食と休憩をとることに決めた。

 

「どこに隠れたのかな?」

 

 サンドイッチを食べるゆんゆんの問いかけに私達は考える。

 広い街なので、隠れようと思えばどこにでも隠れられる。むしろ見つける方が難しいのかもしれない。

 人数はこちらの方が遥かに多いだろうけど、隠れるのに専念されたら厳しいか。

 それに犯人が動くとしたら夜だ。相手が夜八時九時に就寝するのでなければ、人の活動が低下する夜を狙うでしょ。

 大抵の悪者は夜に動くものだし。

 温泉への破壊工作は無理、源泉の警備は以前よりも厳重、犯人はどうやって破壊工作をするのか。

 この街の名物の温泉を狙って動いて……。

 名物?

 この街の名は、水と温泉の都アルカンレティア。

 もしも、この街で使用される水が汚染されたらどうなる? それは温泉以上の被害となる。

 温泉ばかり目を向けてたけど、もし予想通りなら犯人が今狙うべきなのは水源となる湖だ。

 魔法で水を出せるとは言っても、アルカンレティアで使用される水量を考えたらすぐに限界は来る。

 考えれば考えるほど正しく思えてきた。

 

「湖に行ってみない?」

「湖に? 何でまたそんなことを」

「だって、ここの湖って水源でしょ。それならそこを汚染させたらアルカンレティアに被害与えれるじゃない」

 

 頼んだ野菜スティックを一本摘まむ。人参が思ったよりも美味しくてびびった。

 

「今は源泉や街の温泉に注意が向けられてます。確かに今なら湖は手薄ですね。源である湖を汚染させれば、この街のいる人達に健康被害を与えることもできる」

 

 めぐみんが詳細に語る。

 その内容はとても重い。事実であるなら、アルカンレティアは壊滅の危機に晒されていることになる。

 犯人がいつ行動するのかもわからない。もしかしたら源泉や温泉に破壊工作を施すために、近い内に湖で騒動を起こすというのもあり得る。

 私が大根をポリポリ食べていると、みんなは椅子を倒しそうな勢いで立ち上がった。

 

「湖に行こう。もしかしたら犯人を捕まえることができるかもしれない!」

 

 ダクネスの有無を言わさぬ雰囲気に同調するようにアクア達は頷く。

 私はお持ち帰りしたいので、容器をもらって、それに野菜スティックを放り込む。右手で持ちながらアクア達の後ろをついていく。

 人参が美味しいのよね。

 

 

 

 アクシズ教会の左隣にある巨大な湖に私達は訪れていた。

 効率よく探すために散開する。

 ポリポリと野菜スティックを食べながら、今にも毒とか入れそうな怪しい奴を探す。

 ここも観光の名所なのか、観光客の姿を確認できる。カップルもいるようで、男の方が女性に何かを囁いている。俺の器はこの湖ほど大きいとでも言ってるのだろうか。

 よく見るとカップルが多い。なぜ多いのかは不明だけど、こういうのは『カップルで訪れると幸せになる』みたいな信憑性のない噂があるものだ。

 

「浅黒い肌の男はいるのかしらねー」

 

 野菜スティックを食べ終えたので、真面目に探すことにした。

 こんな人がいる時間から破壊工作をしに来るのかと疑問に思うが、逆に来るのかもしれない。人がいるからこそ罪を擦りつけることもできるわけだし。

 五分五分かなー、と思いながら湖の周りを歩く。

 

「おっ?」

 

 浅黒い肌、短髪で茶色い髪。情報通りの男が人があまりいない方へ歩いていく。

 犯人だ。

 間違いなく犯人ね。

 私は犯人を尾行する。別にバレても構わないから堂々と後ろをついていく。

 男は私に気づいている様子はなく、もしかしたら観光客と思ってるのか、振り返ることなく湖のそばまで寄っていく。

 どうするのかと見ていると、湖に手を入れた。

 間もなくして、男の手を中心に湖が黒く濁っていく。毒か何かを撒いてるのか。

 

「そこまでよ」

「どうしました? そんなに険しい顔をされて」

 

 慌てることなく手を引き抜き、何でもないように振る舞う。

 何も知らなかったら引き下がってしまうほどに自然な対応だ。しかし、こいつが手を突っ込んでいた場所はまだ黒く濁っている。

 

「何か撒いてたでしょ。あんたが手を突っ込んでから湖の水が黒く濁ったもの」

「何のことやら。何なら調べてもらってもいいですよ。毒なんて出てきませんから」

「誰がいつ毒なんて言ったのよ」

 

 男の顔がひきつる。

 

「黙ってついてきなさい。そうすればっ」

 

 男が殴りかかってきた。

 私は咄嗟に避けて、男と距離をとる。

 

「ちっ。こんなはやく見つかるとは運がないな。こうなったらてめえを片づけて、とっとと湖を終わらせてやる」

 

 忌々しそうに言い、両腕を変形させた。人の腕から、真っ黒なゼリー状の触手となる。

 それが毒の塊であるのはわかった。

 面倒な感じがするなあ。

 オオカネヒラの出番またないわね。

 近づいたら全身に毒を撒かれそうだし。

 私は七色に輝く雷を放って、男の体を貫く。つもりだったけど、そうはならなかった。

 魔法耐性が高いのか、思ったより効いていない。

 またこのタイプなのね。

 私は前回のダクネスを思い出し、げんなりした。

 

「残念だったな。デッドリーポイズンスライムの俺は魔法に対して強い」

「スライム? スライムってプルプルしてるのじゃないんだ」

「俺は人の形をとれるんだよ」

「えー……。何そのスライムの中でも凄く強いみたいな設定。やめてくれない?」

 

 魔法連発で終わりだと思ったら全然違った。

 普通のモンスターの何倍も強そうな感じがするし、というかこいつ幹部じゃないの?

 

「死ね!」

 

 触手が私に向かって振り下ろされる

 横に飛んで回避する。振り下ろされた触手は地面に叩きつけられ、草花と土を溶かす。

 もう一つの触手が追撃のように払われた。私は真上に飛んで避ける。

 空を飛ぶことに驚きを見せた男だけど、キッと睨むと、二つの触手から小さな塊を数十と飛ばしてくる。

 弾幕のようなそれは間を縫って進むことはできず、私は飛行して回避することを強いられる。

 撃たれた塊は男によって回収されているので、弾切れは期待できない。

 こうなったらこちらも弾幕しかない。

 私に向かって放たれる毒の弾幕を、光弾で次々と撃ち落としていく。途中から逃げるのをやめて、弾幕を展開して対抗する。

 

「何だその魔法は!?」

 

 一発、また一発と着弾する。

 数の暴力は私の勝ちとなり、光弾が次々と男に直撃する。しかし、強い魔法耐性を持つこいつにとって大したものではなく、鬱陶しい程度のものである。

 不快そうに顔を歪めて、私を見上げる。

 私も私でこいつをどう倒すか考える。

 力任せに倒してもいいけど、周辺への被害がとんでもないことになりそうだ。

 あっ。

 アクアに浄化させたらいいか。

 よし、畳み掛けよっと。

 

「これで終わらせるわ!」

「んなっ!?」

 

 男がまぬけな声を上げて、驚愕の表情を浮かべた。

 これまでの比ではない数の光弾が男に向かっていく。いくら魔法耐性が凄くても、とてつもない数ならどうにかなる。私はそう思っていた。

 現実はそうではなく、身の危険を感じた男は人の姿を捨て、本来の姿をさらけ出した。

 鋭い牙が生えた大きな口、真っ黒なゼリー状の巨体からは数本の触手が空に向かって伸びていた。

 

「ガアアアアアアアア!!」

 

 周囲の空気を震わすほどの咆哮を上げる。

 先ほど放った弾幕は全て直撃したものの、その巨体の前では意味を持たなかった。ゼリー状の体は衝撃も吸収してしまうのだろう。魔法耐性の高さも考えると、こいつにほとんどの魔法は通じない。

 スライムとしての真の姿と力を見せたということね。面倒臭そうな感じしかしない。

 

 私が真の姿を見せたスライムとの戦闘を開始し、魔法を数発撃ち込んでからアクア達がやって来た。

 アクアは湖を見て、手を入れると、汚染されていることに気づき、湖に飛び込んで浄化をはじめた。

 ダクネス達はなぜしばらく来なかったのかと思ったが、湖の周辺に人がいないのを見て理由がわかった。

 

「これほどのスライムが存在しているとは……。いや、まさか、こいつは……! 魔王軍の幹部ハンスか!?」

「デッドリーポイズンスライムの変異種だっけ? だとしたら一撃でももらったらあの世行きよ!」

 

 ゆんゆんの解説に、ダクネス達の間に緊張が走る。

 いよいよ厄介この上ないことが判明したけれど、私にはとっておきの術がある。

 

「『氷縛結界』!」

 

 氷の魔法札を大量にばらまき、強敵を封じ込めてきた結界を展開する。

 札から縄のように氷が伸びてハンスを縛り上げるのだが、あまりに巨大で体重が重く、ゼリー状なのもあって他のモンスターにやるよりも効果はいまいちだった。

 ドロッと形が崩れると、分離してしまうのだ。一部が氷となって空中に浮いている。……そんな風に残されると、食べ残しを見られたような気持ちになる。

 私の自慢の氷縛結界から抜け出したあとは、狙いを私に定めて、触手を伸ばして捕らえようとしてきた。

 その時ダクネスが震えながら言った。

 

「毒さえ、毒さえなければ私がされたい……! 今すぐ私を触手で絡めとり、そして都合よく服だけ溶かす液体で私を裸にして、そのまま……! くうん!」

 

 妄想して身悶える変態に、二人の紅魔族は手遅れのものを見る目に。

 眼下のハンスが一瞬固まったのは多分気のせいだと思う。

 私を捕らえようと、触手を半分に割き、倍に増やして素早く伸ばしてくる。

 避けるよりもと、高所へと移動して攻撃が届かない位置まで移動する。

 

「『ライトニング・ストライク』!」

 

 ハンスの頭上から雷が落ちるが、直撃したところがプルルンと揺れただけで大したダメージになっていない。やっぱり雷は効かないんだ。

 

「上級魔法は傷一つつけられない。なれぱ、我が爆裂魔法しかないでしょう!」

「やめて! この辺り一帯が汚染されちゃう!」

 

 アクアの悲痛な叫びを聞いて、ゆんゆんがめぐみんを後ろから押さえる。

 

「は、はなせえ! 我が爆裂魔法とアクアの浄化魔法で全ては解決するのです!」

「やめて! 湖にたくさん破片が飛んだら、浄化だって間に合わなくなるから!」

 

 騒ぐ彼女達を見て、ハンスが矛先をそちらに向けようとしていた。

 様々な魔法は通用しなかった。本当に爆裂魔法し、か……。その時、あるものを思い出した。

 私は放置されてる氷縛結界に目を向けた。

 そこには凍った破片が空中に浮いている。

 氷の魔法は効かなかったように思えたけど、威力が足りなかっただけなんじゃ?

 いつか悪魔にごり押しとか言われたけど、今回もごり押しになるのかあ……。

 残りの氷の魔法札をとり出す。

 つくるの大変なのよね。

 

「みんなはなれなさい。今から私の全魔力をこいつにぶつけてくれるわっ!」

 

 アクアは湖の中に逃げ、ダクネス達は全速力で逃げ出した。

 全ての札に全魔力を込めて、ハンスを取り囲むように放った――。

 

 

 

 翌日。

 私は昼過ぎに目を覚ました。

 ハンスを氷漬けにして討伐したまではよかったのだが、魔力が底を尽きた私は当然落下し、氷の塊に体を何度も打ちながら地面に落ちた。

 全身ズキズキして痛かったけど、アクアの回復魔法てそれは治ったからいい。

 私達のやるべきことはまだ残っていた。

 巨大な氷の塊の中にはデッドリーポイズンスライムの死骸がある。その辺に捨てておくわけにもいかないし、焼いてどうにかなるものでもない。

 それをどうにかしたのがアクアだ。

 唯一と言ってもいい、こいつの女神としての力でハンスの破片を浄化した。

 幹部を討伐し、温泉を救い、ついでに街も救った私達はギルドに報告したのち、泊まってる宿屋で宴会をして遅くに眠った。

 んで、昼過ぎに起きたわけだけど、みんな帰り支度をしている。

 

「お土産買ってかないの?」

「買っていくに決まってるじゃない。ほら、レイムもはやく帰り支度しなさいよ」

 

 アクアに促されて私は体を起こし、着替えてから帰り支度をする。

 そのあとはみんなで街に出て様々なお土産を購入した。

 

 温泉旅行に来たのにゆっくりしてない。




気づいたら年金生活をしてるんだと思うと、生きるのが怖いと思う私です。
次は紅魔の里かな……。

???「私、私、ダストさんと子供をつくらないといけないの!」

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