霊夢がこのすばの世界に行くそうです   作:緋色の

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生まれ変わったらスティールになりたい作者です。


第十四話 私の初体験

 旅行は散々だった。

 癒しを求めて旅行に行ったのに、そこで変なトラブルに巻き込まれるし。

 困ったものだ。

 私は冒険者ギルドでだらだらしていた。

 やることないんだもん。

 いや、やることないことこそ私は望んでいた。

 最近は魔法耐性が馬鹿みたいに高い奴らばっかりで疲れたから、これからはそういうの出ないでほしいわ。

 これからはゆるーく生きていく。

 結局アクセルから出てものんびりできないなら、ここでのんびりする方がいい。

 そうよ。

 よく考えたら、幹部がここに来る理由はないのだから、ここにいれば平和じゃないの。

 あー、でも、アイリスとまた会う約束してるのよね。まあ、隙間でいくらでも行けるし、そこまで気にしなくてもいっかあ。

 お茶を飲みながら、最近購入した『リア充は街の中心で嘔吐する』という小説に目を通す。

 これは年代問わず、称賛されている。

 称賛する方々が言うのは「虚しい気持ちを満たしてくれる」である。

 ストーリーは、リア充カップルに酒の席で馬鹿にされた主人公カズマが復讐をする、という単純なものだ。

 酒が入ってたとはいえ「彼女いない歴と年齢が一緒とか」と笑うのはよくない。

 そんなの言ったら私も彼氏いない歴と年齢一緒なのよね。もしそんな風に笑われたら顔面変形させる。

 とまあ、こんな風に馬鹿にされたカズマはその日から復讐を考えるようになる。そのためには犯罪者になっても、と思う彼だったが、家族と将来のことを考えて完全犯罪を企てる。

 しかし、完全犯罪は簡単にはできない。

 なぜなら嘘を感知する魔道具がこの世にはあるからだ。

 それを回避するにはどうしたらいいのか……。

 実物を見てみないとわからないと、彼は酒をたくさん飲んで酔っ払って、あたかも酒が原因であるかのようにものを盗んで捕まった。ちなみに酒の力を借りないと盗みを働けなかった。

 取り調べで「覚えてない」を連呼して、文句があるなら嘘を感知するものを使えばいいと挑発して引っ張り出した。

 質問に覚えてないと素直に返したら当然のチリーンと鳴る。

 同じ質問に彼は「酒の力があるから盗めたと思います」と返すと鳴らなかった。これで彼はこの魔道具は例え一部でも正しければ鳴らないと知る。

 次に「酒で酔ってたから記憶があやふやなところがある」と答えると鳴らない。実際ところどころ記憶が飛んでいる。

 つまり魔道具はカズマが盗みを『覚えていない』という嘘は感知できても、盗みを働いた目的を看破できないのだ。あくまでも嘘を見破るだけなので、嘘にならないように上手く返答すれば、今度はカズマを守る道具となる。

 それを知ったカズマは完全犯罪が難しいものではないことを確信した。

 いざとなれば嘘を感知する魔道具が守ってくれる。

 だとしても、一番いいのは疑われないようにすることであり、そのような事態に陥らないように注意を払うことに尽きる。

 彼は計画を練り、一つの案を出した。

 それは無差別で仕掛けるというものだ。

 多くのカップルが盛り上がるイベントの日に腐った食べ物や飲み物を建物の上からばらまいて台無しにする。そして、ターゲットには一番やばいものを当てて、忘れられない日にさせるというもの。

 そうしてカズマはことを進めていき、作戦決行日、カップルが一番盛り上がる時間帯で作戦を行う。

 建物の上にはあらかじめ腐ったものを用意してあるので、カズマは潜伏や狙撃などのスキルを使いつつ、見事に目的を達成する。

 やられたターゲットは泣きながらゲロを吐いて、忘れられない思い出の日となった。

 大惨事となったイベントの翌日、カズマは容疑者として呼び出され取り調べを受ける。

 

「お前は何もしていないか?」

「何もしてないということはないだろ。呼吸したりご飯食べたり」

「そうじゃなくて昨日のイベントの日に何かしてないかと聞いてるんだ」

「その日は親からいつになったら彼女つくるんだという口撃に耐えて冷めたご飯を食いました」

「そ、そうか……。昨日のイベントで腐ったものをばらまいてカップルを泣かせた奴がいてな? それで色々な人に聞いてるんだが」

「カップルはみんな死ねばいいと思ってます。俺に彼女できないのも全部あいつらが悪いんだ。きっと日頃からカップルしてるのがいけないんだと思います。ざまあみろですよ。俺だって彼女と手を繋いで――」

「わかった! もういい、もういいから! 帰っていいから。お疲れ様でした!」

 

 そして、彼は本心を語ることで、こいつは恨みを溜め込むタイプだと思わせて難を逃れる。陰鬱で、行動力があるようには見えないように見せたのだ。

 こうしてカズマは完全犯罪を為し遂げ、ハッピーエンドを迎えた。

 

「近年稀に見る名作ね」

 

 売上、人気、ともに一位なのが納得できる。

 読み応え抜群の作品だ。

 今度のエリス感謝祭では、泥水をエリスコスプレした奴らにぶっかけてやろっと。

 気分よくお茶を飲んでいると、慌てた様子のゆんゆんがギルドに飛び込んできた。後ろにはアクア達がいた。アクアは面白いことが起きると思ってるのか目を輝かせている。

 私は何事かと様子を見る。

 ゆんゆんはダストで有名なチンピラの前に立つ。その手には手紙があり、何より目を引くのは真っ赤に染まった顔である。

 

「あん、何だ?」

 

 ダストが訝しげにゆんゆんをじろじろと見る。

 理由は不明なのだが、ゆんゆんはなぜかダストと例の悪魔と仲がいい。本人は否定するが、友人みたいなものと言ってもいいほどの仲だ。

 そんなゆんゆんは恥ずかしそうにダストをちらちらと何度も見ると、意を決して、ギルドに響き渡る声でとんでもないことを口にした。

 

「私、ダストさんの子供がほしいの!」

 

 そんな、あまりにもストレートな言葉をぶつけたゆんゆんは耳まで真っ赤にして、ダストをじっと見つめる。

 私はゆんゆんの隣まで歩いていく。彼女の顔の赤さが移ったみたいに、私の顔はほんのりと赤く染まる。

 ゆんゆんの肩に手を置く。

 

「世間ではゴミクズの代表と言われてるけど、あんたが本気なら私は応援するわ」

「ちょ、ちょっと待って下さいレイム! ゆんゆんも、二人とも一旦落ち着こうじゃありませんか。間違ってもこの男だけは駄目ですって! ゆんゆんもどうしてこんな底辺の底辺にいるような男に馬鹿なことを求めているのですか! 何があってそんなことをお願いするのか教えて下さい!」

「年齢差があるから本当は対象外なんだが、そこまで求められたら、俺も協力するしかねえ。とりあえず近くの宿に今から行くぞ」

「あんた、黙らないと刺すよ」

 

 リーンにゴミを見るような目で見られ、首もとにナイフを突きつけられたダストは青ざめた顔になる。

 めぐみんとダクネスの説得により、ゆんゆんはどうしてこんなことをしたのか語る。

 

「実は……」

 

 ゆんゆんの話をまとめると。

 魔法耐性高い魔王の幹部来て紅魔族全滅。

 残されたゆんゆんは子孫を残さないといけない。

 手紙には相手も記されていた。

 駄目男がゆんゆんの伴侶で、その男との間に生まれた子供が魔王を倒す勇者になる。里の占い師が占ったらそう出たらしい。

 だからゆんゆんは子作りを要求したわけだ。

 

「ここは俺が協力して、勇者を誕生させよう」

「あの、それなのですが、よく見ると小説みたいですよ。ほら、ここに著者あるえとあります」

 

 めぐみんが指差した場所を確認したゆんゆんは膝から崩れ落ちる。

 

「わあああああああああ! あるえの馬鹿あああああああ!」

「おい、どういうことだ? 俺がゆんゆんとどうこうする話はどこに飛んでいった」

「ただの勘違いだから帰っていいぞ。途中から小説だったとはいえ、最初のは族長のものであるようだし、里に危機が迫っているのは確かだな」

「おいおい。随分と冷たいじゃねえかダクネスさんよお。こっちは純情を弄ばれて傷ついてるんだぜ? 何なら出るとこ出たっていいいんだったい!?」

 

 リーンに後ろから殴られたダストが面白い声を上げて蹲った。

 笑いが喉まで込み上げてきたけど、我慢しなくてはと思い、しかし我慢する理由がどこにあるのだと自問した私は普通に笑うことにした。

 笑っている私をそのままにダクネス達が話を進めていく。何か最近ダクネス達が方針を決めてる気がするのよね。

 別に悪いことじゃない。

 むしろ、そういう面倒臭いことはこいつらに片づけさせておく方が楽なのである。

 労力は最小限に、結果は最大限に。

 でも、そんな細かいことはどうでもいいのよね。

 個人的に紅魔の里とやらに興味がある。

 紅魔族。それはめぐみんやゆんゆんみたいなもんで、普通の人とは住む世界が違う連中のこと。

 紅魔族特有の挨拶であったり、素質であったり、特殊な感性であったり。

 きっと彼らは朝起きたら鏡の前に立って自己紹介をして、昼になれば住人全員が里の広場に集まって自己紹介をし、夜はご飯を食べる前に自己紹介をし、最後に就寝前の自己紹介をするに決まってる。

 そうして自分達なりに格好いい自己紹介を練習して、他者に披露するのだ。

 そんな珍妙集団を見ないなんてもったいない。

 面白そう。面白そうだから見たい。

 里の危機はどうでもいいから珍妙集団を見たい。

 言ってみれば、それは、好奇心だ。

 どうして面倒なとこに云々よりも、面白そうなものを見たいという気持ちは全てを凌駕した。

 量産型めぐみんとゆんゆんが見られるかもしれないという期待が大きい。

 こうして私は紅魔の里に行くと決めた。

 

 

 

 荷物を持ち、アルカンレティアに飛んだら、街の外れに出て紅魔の里を目指す。

 紅魔の里への道には強力なモンスターが多く、馬車で移動することはできない。そのため我々は歩いて目指しているわけだが、夜になったら帰宅就寝する。

 ついに家を買ったことによるメリットが発揮されるのよ。

 やったね。

 

 里を目指して間もなくに安楽少女というモンスターと遭遇した。

 林の入口にいて、私達をじっと見てくる。

 見た目は完全に人なんだけど……。

 こいつは人に擬態する奴で、地図に載ってる情報によれば、人間に庇護欲を抱かせてそばからはなれないようにさせる。栄養はなく神経に異常をきたす実を食べさせて衰弱死させ、その死体に根を張る。

 危険極まりないと判断した私は容赦なく燃やしてやったのだが、それがどうやらアクア達の貧弱な心に傷を与えてしまったらしい。

 

「凄い叫びながら……」

「怖いよお……怖いよお……」

「レイムは正しいことをした。うん。レイム、お前は正しいことをしたんだ……」

「ああもあっさり倒す辺りレイムらしいと言わざるを得ませんね」

 

 こいつらは冒険者としての自覚が足りない。

 きっと、私がいなければパンツを盗んで喜ぶような男にいいようにされるわよ。

 私がこのパーティの良心と言っても過言ではない。

 そのあとも私は飛び出してきた強そうなモンスターを葬り、こつこつと経験値を溜め、暗くなるまで先へ先へと進む。

 暗くなったら、今日の冒険はここまでと隙間でお家に帰って、夕食をとってお風呂に入り、みんなで軽くカードゲームしてから就寝。

 翌朝、朝食を食べたら昨日まで進めた地点まで隙間で移動する。

 この一連の流れにゆんゆんは。

 

「何だろ。すっごく便利だけど、冒険してる感がかなり薄れてるような……」

 

 私も思った。

 近所の公園に遊びに行ってる感が凄いする。

 とはいえ、外で寝るとかトイレするとか、もう二度としたくないからやめるつもりはないけど。

 

「便利なのも考えものということか」

「寒い中、ご飯つくって食べるのも冒険の醍醐味といえば醍醐味なのよね。でも、私は家でぬくぬくする方がいいわ」

「そうですか? 私はやはり冒険を楽しみたいですね。家でしっかりと疲れをとるのは捨てがたいのですが、何というか、帰宅してたら近所に遊びに行ってるように思えて……」

「あー、それはわかるわ」

 

 わかるけど冒険を楽しむよりも利便性を優先する。

 

「私は外でトイレしたくないから」

 

 と返して、ついでに外でトイレしたいなら冒険しなさいと言ったらみんな何とも言えない顔をした。

 そのあとは平和そのものだ。

 旅の疲れなく、モンスターに遭遇せず、順調に進んでいく。

 緊張感なく会話しながら、里を目指す私達は新米冒険者にしか見えないだろう。

 まあ、見られる相手はいないんだけど。

 そんなこんなで林を抜け、私達は隠れる場所がない平原の前に立っていた。

 ここから先はモンスターに見つかりやすくなる。もしかしたら一番の難所かもしれないけど、今まで逃げてないので遠慮なく狩らせてもらう。

 私が隠れる場所を失ったのではない。モンスターが失ったのだ。

 軽い足取りで平原を進む。

 

「このパーティーには女性しかいないのでここは怖くありませんね」

 

 めぐみんの意味深な言葉にゆんゆんは頷く。

 女性しかいなくて?

 どういうこと?

 男が好きなモンスターがいるの?

 女が好きとかじゃなくて男か。……考えてみると、特におかしいことではない。むしろ女ばかり犠牲になってるのだから、バランスをとる意味で男も狙われるべきよ。

 めぐみんの言葉の真意など知らない私は男を狙う物好きなモンスターの面が見たくなった。

 平原を進んでいると、遠くにモンスターを見つけた。そいつを見つけたら、めぐみんとゆんゆんが顔をしかめた。

 そうか、あれが。

 

「我々は女性なので酷いことはないでしょうが、食料を奪いに来るかもしれませんね」

「オークね。男を捕まえたら、干からびるまで絞り上げることで有名な」

「雄のオークなら……!」

「雄は絶滅してるからいないですよ? 雌のオークにやられたとかで」

「ええっ!?」

 

 悲しそうに叫んだダクネスは放っておくとして、あら、今の声で敵が気づいたようでこっちに走ってきた。

 中々足はやいわね。

 砂煙を上げながら走ってくる豚の顔と猫の耳を持った醜悪なモンスターことオークは私達の前まで来た。

 色々な意味で恐怖を煽るオークにアクアが冷や汗を流す。

 めぐみんとゆんゆんとダクネスはキッと睨みつける。

 

「あらー、男はいないのね残念」

 

 本当に残念そうに言った。

 息臭い。

 

「まあいいわ。あんた達死にたくなかったら食べ物を」

「息臭いから口開くな」

「……へえ。随分と強気な子ぎゃああああああ!」

 

 オオカネヒラを鞘から抜くついでにオークを真っ二つに切り裂く。

 私のこの行動にゆんゆんが焦る。

 

「レイムさん!?」

「男ではないからそこまでは……。しかし、敵討ちには来そうですね」

「こいつ経験値結構持ってるじゃないの」

 

 冒険者カードを確認して喜ぶ。

 これならいい稼ぎになりそうね。

 何か敵討ちに来るかもとか言ってるし、ここは利用するしかないわ。

 ああ……経験値美味しい。

 

「おっ?」

 

 断末魔を聞きつけてやって来たのはもちろんオークの群れだ。

 どこから出てきたのかは知らないけど、数十ではきかないほどの数だ。百匹以上いるんじゃないのあれ?

 大量の経験値美味しいです。

 

 

 

 平原には百を超えるオークと騒ぎを聞きつけてやって来たモンスター達が死体となって転がっていた。

 私が襲いくる凶悪なモンスターを魔法を連打して倒していると、アクアの支援魔法を受けたダクネスが前に出て敵を引きつけ、そのあとめぐみんとゆんゆんもモンスター討伐に参加した。

 祭りみたいだった。

 多くの魔力を消費することになったが、大量のモンスターを倒したからそれ相応の経験値が入ったはず。

 疲労で地面に座り込むみんなを尻目に、冒険者カードをとり出して久しぶりにレベルを確認する。

 

「ああっ! レベルが10になってるわ!」

 

 ついに私はレベル10になれた。

 ようやくレベルが二桁に到達したのよ。

 ステータスも見る限りでは伸び率を維持している。完璧を極めてるわー。

 

「やっとレベル10なのか……」

 

 ダクネスの愕然としたような声も今の私には気にならなかった。

 レベル10になれた喜びは何にも勝る。




生まれ変わったらスティールになりたい作者です。
次は里の中に霊夢達は潜り込み、そこで里の隠された真実を暴いてほしいなと思ってます。
あと最近はコーヒーより緑茶のが好きになりつつあります。

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