霊夢がこのすばの世界に行くそうです   作:緋色の

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変更完了しました。
三話の方も削除したのは、はじめから大きく変わるためです。
前よりは霊夢強めです、多分。


第二話 レベル2を目指して

 今回の討伐は、蛙を十体倒すというものだ。これは何件か出ていた蛙討伐を二件一気に請けた形になる。

 昨日狩った影響もあるのか、昨日と同じ場所では蛙が二匹しか出てこず、探しに行く必要が出た。

 とはいえ、繁殖期に入り出していることはあり、少し遠くに行けば、土から蛙が出てくる。

 見つけ次第切り裂く。

 レベル1とはいえ、ソードマスターの私が蛙に苦戦する理由はない。

 今回も危なげなく依頼を達成した。

 昨日今日合わせて十七匹倒したわけだが、レベルは上がらない。

 

「蛙は弱いって言ってたし、そこまで経験値なさそうね」

 

 それにソードマスターは上級職なので、レベルアップに必要な経験値は多そうだ。

 先は長いことを知り、がっかりする。

 レベルアップしたらステータスがどうなるか気になってたのに……。

 レベルが低いと上がりやすいと聞いてたのに……。

 ある程度お金を稼いだら、蛙より強いモンスターと戦おう。そして、レベルが上がった時のステータスを見よっと。

 

「そういえばアクアちゃんとやってるかしら?」

 

 ギルドに置いてきて、回復魔法で金を稼がせているのだが、今になって不安になる。

 変なのに言いくるめられて、何かやらかしてないといいんだけど。

 そこまであほではないことを祈る。

 今から急いで戻っても意味ないだろうと思い、普通に歩いて帰る。

 帰り道では当然蛙の死体を見るわけだが、内臓とかが丸見えなのでかなりグロい。

 それに血の臭いも強く、蛙を餌にしてそうなモンスターが寄ってきそうだ。

 もし強いモンスターが来たら…………、いや、空を飛んで攻撃したら勝てるか。

 アクセル周辺では、強い飛行モンスターは限られた場所にいて、縄張りから出てこないらしい。

 蛙の死体エリアを通り過ぎようとした時、背後からびちゃっ、と大きな音が鳴った。蛙の血を踏んだモンスターがいる。

 剣を引き抜いて振り返る。

 大きな牙を持つ、黒くて大きい獣がいた。見た目は猫に近い。

 蛙なんかとは違う。このモンスターは強そうだ。それこそ普通のレベル1ではまともに戦えないレベルだ。

 

「ウウヴヴヴ……」

 

 漆黒の獣が唸る。

 それは私を脅しているかのようで、動かずにじっと観察している。

 その行動で、目の前のモンスターが蛙とは比べものにならないほど賢いことがわかる。

 二日目で大物モンスターに出会すとは……。

 強いモンスターを狩ろうとは思っていたが、ここまで強そうなのは希望していない。

 迷惑極まりない。

 

「グルルアアアアア!!」

 

 獣が吠えた。

 空気を強く震わせるほどの声量だ。

 獣は私をじっと見つめる。

 今のでも私が動じず、剣を構えているのを見て、獣は唸るのさえやめた。

 来る、そう思った時には体は勝手に動いていた。

 私は剣を盾代わりにし、爪が剣にぶつかる瞬間に後ろに飛んで衝撃を和らげる。

 あんな巨体から繰り出される一撃をまともに受け止めたら骨折では済まない。

 空中で姿勢を立て直し、追撃しようと迫る獣に剣を振り上げる。

 

「ギャン!」

 

 右前足を切った、切ったけど、深そうな感じの傷で終わった。体勢の悪さはあるけど、蛙とは違って硬い!

 この剣でなければ掠り傷で終わってたかもしれない。

 剣の性能に救われた。

 ……舐めていた。この剣の切れ味なら大抵の敵はどうにかなると思っていたが、強いモンスターともなれば物理攻撃に強くなるらしい。

 やはりレベル1がどうにかする相手ではない。転生特典で強力なものをもらってるならともかく、素のステータスで戦うにはまだはやい。

 さっきの怪我で獣は私を警戒するようにじっと見つめている。

 蛙より賢いようで、今度は怪我をしないで私を仕留める方法を考えていそうだ。

 獣が動く前にこちらから仕掛けよう。

 

「危ないからね」

「!?」

 

 大きめの結界を張り、逃げられないようにした。

 出ようとして結界を渾身の力で叩いているが、そんなものでは壊せない。

 

「グルルアアアアアアア!」

 

 怒りの雄叫びを上げて、結界に体重を乗せて体当たりをするが、それぐらいで壊れるような柔な結界じゃない。

 獣はあちこちに体当たりをしては、その度に大きな雄叫びを上げる。

 

「悪いけど、終わらせるわ」

 

 自分を結界で囲む。

 自分と獣の位置ははなれてるけど、まあ何とかなるでしょ。

 二重結界の要領で、と。

 自分を囲む結界に向けて、光る弾を数え切れないほど発射する。

 そして、全ての弾はそのまま獣へと撃ち込まれる。

 結界があるから逃げ出すこともできず、次々と来る弾をかわせず、文字通り全身に着弾する。

 獣が動かなくなるのに、それほど時間はいらなかった。

 あまりにも一方的だ。

 自分の力を使えば、レベルなんか関係ないことが証明された。

 しかし、それはこの世界の理を無視することになる。昨日のアクアを見てもわかるように、自分の力はこの世界では異常そのものだ。

 あまり使わない方がいい。ソードマスターの力で倒せるならそれで倒した方がいい。

 基本的にはこの世界の理に従っておこう。

 私は獣を見ながらそう考えた。

 振り返り、一歩踏み出して気づく。

 

「そういえばこういう時はどうなるのかしらね」

 

 依頼とは関係ない敵を倒したらどうなるのか。

 大抵は追加で報酬をくれたりするけど、安いことがほとんどだ。

 苦労して倒したわけではないので、別に構わないのだけど。

 とはいえ、また倒すのも嫌なので、帰り道は来ないことを祈った。

 

 

 

 街に無事戻ってこれた。

 アクアがちゃんと仕事してるのか気になる。

 例えば怪我人がいなくて何もできなかった。これはしょうがないことなので許すけど、面倒だから何もしてないとかだったら怒る。

 まあ、流石にそれはないだろうけど。

 アクアだって働かなければお金がないことはわかってるし、サボることはないはず。

 ただなあ……、あいつお金入ったらすぐ使いそうなのよね。

 ちょっと不安になりながらも、私はギルドの前まで戻ってきた。

 扉を開けて、中に入る。

 受付に向かいながら、ギルド内を見回す。

 アクアがいないかを探して、

 

「何じろじろ見てんだ、てめえ」

 

 チンピラに絡まれた。

 そいつはくすんだ金髪の男だ。酒を飲んでいるらしく、酒臭い。

 何が気に食わないのか、不機嫌そうに私を睨み付けてくる。

 

「ここはガキが来る場所じゃねえんだよ」

 

 この手の輩は無視するのがいいと決まっている。

 ギルド内を見回し、こちらを面白そうに見ているアクアを発見した。

 にやにやしている。

 私がどうするか期待しているようだ。

 期待されても困る。

 こんなのを相手にしても後々厄介になるだけだから構うつもりはない。

 受付で用を済ませたら、アクアに今日の成果を聞こう。

 

「おいこら! 何無視してんだてめえ!」

 

 チンピラに胸ぐらを掴まれる。

 強い力で引き寄せられる。

 私は爪先で立ってる感じになった。

 男の冒険者らしく力がある。

 アクアを見れば、何かを食べながら食い入るように見ている。

 演劇でも見ているみたいだ。

 私を助ける気は微塵も感じ取れない。

 忘れてはいけないが、あれは私の転生特典だ。

 チェンジできないかしら?

 

「だから無視してんじゃねえぞ! クソガキ!」

 

 この世界でも若者はキレやすいみたいで、私に顔を近づけて怒鳴り付ける。

 こめかみに血管が浮き上がりそうなぐらいに怒っている。

 こいつが顔を近づけてくれたおかげでやりやすい。

 遠慮なく頭突きを。

 

「いだっ!? てめっ!」

 

 反撃で拳を出してきたので、それを利用させてもらい、遠慮なく投げ飛ばす。

 飛んだ男を追いかける。

 床に背を打って、痛そうにしつつも立ち上がろうとしたところを狙い撃つ。頭を思いっきり蹴りつける。

 

「うぎゃっ! ま、待ってくれ、悪かった、俺が悪かった!」

 

 男の上に乗って殴る姿勢に入ると、降参してきた。

 アクアを見れば、食べる手を止めて、これからどうなるの!? って顔で喧嘩を観戦していた。

 

「博打で負けてイライラしてただけなんだよ! 絡んで悪かった! 謝るから、これ以上は勘弁してくれ!」

 

 両手を合わせて懇願してくる男からはなれる。

 降参したからもういいや。

 私は当初の目的を果たすべく、受付へ向かう。

 すると、後ろから。

 

「ばかめ! 背を向けたな!」

「レイム! 危ない!」

「「よ、避けた!?」」

 

 振り返らずに避けた。

 再度男に向き直る。

 私が敵意を剥き出しにして睨めば、汗をだらだらと流す。

 

「も、もうしない、これはうそじゃない」

 

 私は無視し、その場で回転してチンピラの顎を蹴り上げる。やられたチンピラは床にどさりと倒れた。

 迷惑な奴がやっと気絶したので、ようやく受付に行ける。

 ギルド内にいた冒険者達が私を視線を送ってくるけど、それに気づかないふりをした。

 受付の前に立つ。その時にお姉さんが驚きの眼差しを向けていることに気づいた。

 さっきの喧嘩で私が勝ったのがそんなに凄かったの?

 少し疑問は出たけど、さっさと用を済ませたい気持ちのが強いので、本題を切り出す。

 

「蛙の討伐終わったから報酬がほしいんだけど」

「え、は、はい。こちら二十五万エリスになります」

「あと、他にもモンスター倒したんだけど、それってどうなるの?」

「どんなモンスターでしたか?」

「黒くて、大きくて、大きな牙を生やしてた」

「……カードを拝見させてもらえます?」

「いいけど、どうすんの?」

「えーとですね。こちらを、こうすると」

「おー。討伐情報が見れるのね」

 

 そういえば最初の説明でどれだけの討伐が行われたかも記録されると言ってた。こうやって確認できるのは中々便利ね。

 討伐情報の一番上には初心者殺しとあった。名前からレベル1で倒せない奴とわかった。多分レベル10とか15で、パーティー組んでる冒険者が倒すようなのだ。

 ……てことは?

 私はレベルを確認する。

 

「何でレベル上がってないのよおおおおおおお!」

 

 無情。

 私のレベルは上がっていない。

 もっと高いレベルで戦うモンスター倒したのに、経験値もたくさん入ったのにレベル1。

 何これ? おかしいでしょ。

 頬がひくひくと痙攣する。

 

「ねえ。低レベルは上がりやすいって聞いたんだけど」

「え、ええ。その通りです」

「じゃあ、何で上がらないの?」

「レベルが高いと上がりづらくなるのは、強くなってるからです。ですから、強い人ほどレベルは上がりにくいんです。レイムさんがここまでレベルが上がらないのはそれだけ素質があるからだと思われます」

 

 気長に頑張って下さいと言われてる気がした。

 私がレベルを1上げる頃には他の人なら2と3上がってる可能性がある。しかもレベルが高くなるとレベルアップは遅くなるわけだから、私がレベル10になる頃には他の人なら20、30になってて、結局ステータスに差がない可能性も……。

 それではレベルアップが遅い凡人だ。

 

「レベル上がったらステータスどうなるか見たかったの……」

 

 私の言葉にお姉さんは愛想笑いを浮かべるのみだ。

 思わぬ欠点に私は悲しくなった。

 私には秘密の力があるから戦いには困らないけど、でもそうじゃないの。レベルアップがどういうものか気になるの、知りたいの。

 だけどそれは素質とかいうわけのわからないもので阻止された。

 本当の敵は自分だった……。

 落ち込む私を励ますつもりなのか、お姉さんは明るく言った。

 

「こちら初心者殺し討伐による追加報酬です。依頼を請けてないので安くなりますが」

 

 追加で渡された金額は四十万エリスだ。

 これが安いとは。

 本来の金額はいくらぐらいなんだろ。

 

「本来の報酬はいくらなの?」

「初心者殺しは二百万エリスですね。このモンスターは弱いモンスターの周りをうろついて、冒険者がその弱いモンスターを狩ってる時に襲うという特徴があり、名前の通り駆け出し冒険者の天敵です。かなり危険なモンスターなので高額になってます。追加報酬も他のモンスターより高めです」

「へえ。これでも高い方なのね」

 

 他のモンスターはもっと安いのか。

 そういうのを聞くと、依頼とは関係ないモンスターは無視したくなる。

 

「追加報酬も安いんじゃ、関係ないのは倒したくないわね」

「基本はそれでいいと思いますよ。モンスターによっては出ないのもありますから。それに他の冒険者がそのモンスターの討伐依頼を請けていることもあります。その時のことを考え、また横取りを防ぐ意味でも安いんです」

「あー、そっか、そういうのもあるわよね」

「ええ。もう一つ教えますと、追加報酬が安くなるのはそのモンスターが討伐対象とは限らないからです」

「……依頼に出たのとは違う奴かもしれないからってこと?」

「そうです。違う個体だと依頼がかかってないこともあり、その場合は当然報酬がありません。とはいえ、今回のレイムさんのようにせっかく苦労して危険なモンスターを倒されたのに何もなしというのも可哀想なので、追加報酬は出ますが」

「なるほどね。よくわかったわ、ありがとう」

 

 話を終えて、私はアクアのところに行く。

 蛙の唐揚げを食べつつ、こっちに手を振る。

 顔は赤くないので、お酒を飲んでいるわけじゃなさそう。

 アクアの前に座って、私は彼女とは別のものを注文する。

 先に飲み物が来たので、それを少し飲んでから話をする。

 

「で、結果は?」

「二万エリスよ。やっぱ討伐に比べたら大したことないわね」

「一回いくらにしたのよ」

「五千エリス」

「四人か……。時間が悪かったかしら。夕方ならもっと人が来たかもしれないわね」

「あんまりたくさん来ても疲れるだけだから嫌なんだけど」

「あんたねえ……。ま、いいわ。それは小遣いになさい。私の方で結構稼げたから、生活用品は何とでもなるわ」

「本当!? やったー!」

 

 両手を挙げて喜んだアクアに、私は自然と笑みを浮かべていた。

 あまりにも頼りない神様だけど、でも案外悪くないのかもしれない。

 そんなことを思いながら、私は飲み物を飲んだ。

 二時間後、アクアは二万エリス落としてマジ泣きした。

 

 

 

 

 

 二週間後。

 今日までに討伐依頼を二回ほどこなしたが、私のレベルは上がらなかった。

 ここまでレベルアップしないのは素質以外にも何か理由があるのではと思い、少し考えた結果、候補が二つ出た。

 一つ目は幻想郷での経験が原因というもの。結構色々やったし。

 二つ目は私の本来の職業……つまり巫女の力を鍛えていないこと。これは元々修行不足だ何だと言われているのであり得る話だ。

 一つ目だと私にはどうしようもないが、二つ目なら話は別だ。

 こう、ちょっと、少しだけやってみて改善されないかぐらいは調べてもいいと思うの。

 それでレベルアップするなら継続して、だめならやめればいいだけだし。

 はやくレベル2になってステータスがどうなるか見たいので、見たくてしょうがないので、修行をすることにした。

 修行してもレベルアップに関係なかったという時に備えて、修行が無駄にならないように神降ろしを鍛えている。月のあいつ、刀持ってた奴を目標にしている。あそこまでぽんぽんやれなくても、実戦に耐えるレベルには持っていきたい。

 まあ、見方を変えれば修行も経験値稼ぎだ。

 修行とは別に、夢想封印を剣に纏わせられないかやってみた。三回目で成功し、ついでに斬撃を飛ばせるようになった。これで邪悪なものに効果的に攻撃できるようになった。

 もしも華扇が今の私を見れば、自分から修行して偉いと褒めてきそうだけど、私は修行したいわけではなく、ただレベルを上げたいだけだ。

 はやくレベル2になりたいの。

 

 

 

 この日、私は朝からイラついていた。

 この二週間、アクアはニートであった。

 私は自分のレベル上げたいからと、今日まで何も言わなかった。

 でも、そろそろ働いてもらわないと。

 この女神はニート生活が合うのか、働きに出ようとしない。

 朝飯を食べたら、宿に戻ってごろごろしている。

 何、このニート……。

 転生特典にニートもらった記憶ないんだけど。

 

「あんた、たまには働きなさいよ」

 

 本物の転生特典を取り戻すためにそう言ったら。

 

「えーっ。嫌よー。危ないことしたくない」

 

 このくそ女神、何曜日に捨てればいいのかしら。

 ベッドに寝転がり、何かの小説を読むアクアをどうにかして働かせないと。

 私だけでも収入は問題ないけど、私が稼いだ金でこいつが好き勝手してるのは気に入らない。むかつく。

 どうしようかと悩み、思いついた。

 

「なら、ずっとベッドの上にいなさい」

 

 結界を張って閉じ込める。

 腰に両手を当てて、アクアを眺める。

 アクアは何これとぺたぺた触って、次にバンバンと叩いた。出れないことに気づくと、結界越しに抗議してくる。

 

「な、何よこれ! 出しなさいよ!」

「結界よ。今日はそこにいなさい」

「け、結界? ……そういえばレイムって巫女っぽい格好してるわね。でも、巫女なんだとしてもよ? ほら、結界張る時とかは普通御札使うじゃない。何で御札なしでやってるの、ねえ、おかしいでしょ」

「御札なしでもある程度やれないと話にならないでしょ。ちなみに御札があればもっと強く張れるわ」

「いやいや、おかしいから!」

「おかしくないわよ。これぐらいやれないと、私に修行つけてた妖怪が納得してくれなかったからね。本当面倒だったわ」

 

 それでもまだまだ未熟と言われたけど。

 紫みたいな大妖怪から見たら非力なのは当たり前の気もするけど、何を勘違いしてたのかしら。

 もしかしたら紫はもっと別の何かを目論んでいたのかもしれないけど、今となっては考えるだけ無駄。

 今は目の前の駄女神をどうにかしないと。

 

「何よ妖怪って! あんたが妖怪みたいなものじゃない! この妖怪巫女!」

「おい! 誰が妖怪巫女だ。私は人間の巫女よ! そこんところよく覚えときなさい! このニート女神!」

「にっ!? 私のどこがニートだって言うのよ!」

「人の金で遊んで、よくそんなこと言えたわね!」

「あのね、私だって仕事して、して……」

 

 この二週間を振り返って、ようやく気づいたらしい。

 頭を抱えて、必死に思い出そうとしてるが、やってないものを思い出すのは不可能。

 自分が穀潰しニートであることに気づき、女神としてのプライドが蘇ったアクアは立ち上がり、宣言した。

 

「明日から頑張るわ!」

「殴るわよ」

 

 どうして私はニートを転生特典でもらってしまったのだろうか。

 ああ……。たくさんあった武具、能力からどうしてこんなの持ってきたんだろ。

 今更後悔して、やるせない気持ちになる。

 

「頑張るって言ってるんだから出してよ! ここから出れないと何もやれないじゃない!」

「明日からでしょ? なら今日はいいじゃない」

「……今日から働くので出して下さい。お願いします」

 

 観念した。

 全く。楽ばかりしようとして本当だめな女神ね。

 働こうとしないから怒られるのよ。

 アクアは不満そうに唇を尖らせている。

 そんなに働きたくないか。

 人の収入に寄生する生活はよほどよかったのか?

 その辺を少しでも直さないといけないわね。

 結界を解除して、むくれるアクアを連れてギルドに。

 

「いつまでむくれてんのよ」

「別に。レイム一人でも余裕なんだからいいじゃないの」

「あのね。あんたがいれば、難易度の高い依頼もできるから連れてきてんのよ」

「私がいれば?」

「そっ」

「ふーん。そう、そういうことね。私がいれば各種支援魔法、回復魔法もかけられるからね」

「頼りにしてるわよ」

「任せなさい!」

 

 おだてたら手のひらを返した。

 こんな簡単にいくなら、これからもこの手を利用させてもらおう。

 鼻歌を歌いながら、上機嫌に歩くアクアを見て思った。

 

 

 

 ギルドは昨日までの雰囲気はなく、喧騒に包まれていた。

 プリーストをこっちの班にくれと言ったり、ポーションがどうのこうの言っている。

 私の知らないものだ。

 冒険者達がここまで慌ただしくしているのは、何か大きなことをやるためだろう。そうなると出てくる答えは当然一つしかない。

 大物モンスターの討伐。

 しかも、これだけの人数がいなければ討伐できないほどのモンスター。

 レベル1の私達には手の届かない世界だ。

 周りの人にぶつからないよう歩く。

 掲示板の前で、いい依頼がないか探す。

 アクアがいるのだから、ソードマスターだけの力で初心者殺しも倒せるはずだ。

 いや、初心者殺し以外もいけるかもしれない。

 アークプリーストのスキルを全て習得しているのだから、アンデッドなども倒せる。

 私もアンデッド系は倒せるけど、それでもアクアのいるなしでは選べる量が変わる。

 やはりスキルを取ってるアクアの存在は大きい。

 ……スキル、か。

 アクアのことを考えていて気づいた。スキルの有無はかなりの影響力がある。それこそステータスと同等かそれ以上と言えるほどに。

 私は片手剣と両手剣のスキルしか取ってない。

 この機会に他のスキルを習得しよう。

 近くのテーブルに座って、カードを取り出す。

 

「どうしたの?」

「何かスキルを取ろうと思ってね」

「まだ取ってなかったんだ」

「後回しにして忘れてたわ」

「場合によってはステータスより重要なものよ。それを忘れてたって……」

 

 頬杖をついて、呆れ顔で言ってくるアクアから逃げるようにスキルの一覧表を見る。

 やはり、スキル習得はかなり大切らしい。

 ……スキルを習得してたら、初心者殺しも私の力なしで倒せたかもしれない。

 スキルは様々ある。

 筋力アップ、器用アップ、敏捷アップ、ソードガード、反撃、切れ味上昇、斬撃飛ばし……。これ以外にも色々あって、何にするか悩んでしまう。

 しばらく低レベル生活になるのを考えると、それだけでやっていけるものが望ましい。

 切れ味上昇は習得に2ポイント必要とし、習得後もポイントを使うことで性能を上げられる。注ぎ込んだ分だけ強くなるスキルだ。

 斬撃飛ばしはその名の通り、斬撃を飛ばしてはなれた場所の敵も斬れるようになる。夢想封印とは違って完全な物理攻撃だ。習得に2ポイント。

 私はこの二つのスキルを取ることにした。

 他のスキルも魅力的なのはあるけど、今はやめておこう。

 反撃は、間合いにいる敵に対して確率で反撃するというものだけど、これは私の足を引っ張りかねない。というのも、攻撃を避けたら次はこう攻めようと考えた時に反撃が発動したら戦法は崩れる。それは隙を生む。

 切れ味上昇と斬撃飛ばしは任意なので、私の足を引っ張ることはない。

 アクアを転生特典に選び、後悔した私に隙はない。

 切れ味上昇に20ポイント注ぎ込み、斬撃飛ばしも取り、合計22ポイント使った。

 残ポイントは6で、これは使わないで取っておこう。

 

「よし。取ったわ」

「何にしたの?」

「切れ味上昇と斬撃飛ばしね」

「二つだけ?」

「ええ。他にも色々あったけど、とりあえずこれだけね」

「それじゃポイントかなり余ってるんじゃない?」

「そうでもないわ。切れ味上昇はポイントを使えば使うほど性能上がるから、これに20突っ込んだの」

「なるほど。いわゆる特化タイプね。色々使える汎用タイプとは真逆だけど、いいと思うわ」

「でも、性能上げたら魔力も多く使うのよね」

 

 そんなに多くはないが、あまりに上げすぎると困ることになるかもしれない。

 そこのところは注意しとこう。

 スキルの習得も完了したので、改めて掲示板の前に立って依頼を探す。

 何がいいのか。

 高額報酬の依頼をやるつもりだが、どれにしようか悩む。

 初心者殺しと一撃熊は二百万エリスとあり、これだけの大金があればしばらくは安泰になる。

 初心者殺しは以前倒したので、今回は一撃熊でも倒そう。

 依頼の紙を取って、受付に行くと。

 

「あっ。こちら請ける前にお話を聞いてもらえます?」

「何?」

「あちらの冒険者の皆さんは大物の悪魔を倒しに行かれるんですが、それにアクアさんを参加させてくれませんか?」

「悪魔? 今悪魔って言った?」

「は、はい」

「レイム、悪魔よ、悪魔! これはもう滅ぼすしかないわよ!」

 

 アクアが急にやる気を出した。

 そういえば女神だっけ? 神と悪魔は敵対しているものだから、それでやる気を出したのかしら。

 アクアは胸の前に拳をつくり、力強い声で語った。

 

「悪魔というのは人の悪感情に寄生する奴らなのよ! なめくじみたいに暗くてじめじめした場所がお似合いで、ゴキブリ同然の連中よ! 悪魔なんてこの世から消えてしまえばいいのよ」

「そ、そう」

「決めたわ! 私悪魔を滅する! 何とか熊より悪魔優先よ!」

 

 アクアは悪魔討伐を優先しちゃった。

 名前似てるのに凄い嫌ってるわね。

 彼女の盛り上がりようを見ると、やめろと言っても聞かなそうね。女神としてそれほどまでに許せないんだ。

 しょうがない。

 熊の討伐は私一人で行こう。

 元々アクアは働かせるために連れてきた。悪魔討伐参加も目的に適うのでいい。

 

「わかったわ。なら、熊は一人で何とかするわ」

「えー。レイムも行かないの?」

「こんなにたくさんいるならいいでしょ。それよりあんたよ。ちゃんと言うこと聞きなさいよ。悪魔見つけても突っ走るんじゃないわよ」

「そんなに心配ならついてくればいいのに」

 

 アクアの言葉に、私は黙り込む。

 蛙を除けば、久しぶりの討伐になる。蛙相手にあんな失態を見せたこいつを送り出していいの?

 しかも、大物の悪魔相手に。

 かなり重大な作戦よ?

 熊の討伐はまた今度にして、こいつについて行った方がいいかもしれない。念には念を。

 

「そうね。熊は今度にして、今日はアクアと一緒に悪魔を討伐しましょうか」

「そうこなくちゃ」

 

 こうして私達は悪魔討伐に参加することとなる。

 幻想郷にいた時でもこれほどの人数で異変解決はしたことが、ない……?

 あれ?

 今何か頭に浮かんだような……。

 ? 何だろ、今の。

 一瞬だから何もわからない。

 うーん。だめだ。思い出せない。

 

「どうしたの、レイム。行くわよ」

「えっ、うん」

 

 アクアに声をかけられ、私は我に返る。

 よくわからないことを気にしてもどうにかなるわけじゃない。

 私は頭を軽く振って考えを追い出し、アクアと一緒に冒険者達に交じる。




レベル1の二人にホーストみたいな大物は荷が重いと思う今日この頃。

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