霊夢がこのすばの世界に行くそうです   作:緋色の

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ミツルギどこで出すかな……。
……出す場所ないなあ。
書き終わりました。


第七話 リッチー見つけた

 ベルディア討伐の翌日。

 私はギルドに向かう途中で軽く後悔していた。

 ベルディア戦でちょうどいいからと神降ろしをして、エリス様に禁止された。

 今後のことも考え、敵も相性がいいからと試したわけだが、それがアクアの逆鱗に触れてしまった。

 結果的に神降ろしの修行は無駄に終わった。

 ……もう修行しない。修行嫌い。

 私はギルドの前に立つ。

 何だかんだでここに来てそろそろ一ヶ月ぐらいね。

 その間に随分と色んなのと戦った気がするけれど、気のせいよね。

 私はギルドの扉に手を触れ、そっと開く。

 

「「「勇者が来たぞー!」」」

 

 たくさんの冒険者が私を勇者と呼ぶ。

 昨日のベルディアの一件が影響している。

 あいつが私を勇者とか言ってくれたから、それを聞いた人がそう呼ぶようになった。

 悪い気はしないけど、何となくしっくり来ない。

 私はギルドの受付まで歩く。

 そこにはアクア達がいて、ベルディア討伐の報酬を受け取っていたところだった。

 そう。

 昨日はベルディア討伐の報酬はもらえなかった。金額が大きすぎるというのが理由だった。

 それが今日受け取れる。

 

「レイムさん、まずはこちらからどうぞ!」

 

 こちらから?

 布袋に入ったものを受け取り、そのまま待つと、お姉さんは誇らしげに言った。

 

「レイムさんのパーティーにはベルディア討伐の特別報酬が出ています。こちら金三億エリスになります!」

「「「さっ!?」」」

 

 三億!?

 ……それがどんなもんなのかわかんない。

 でも、凄いのよね?

 三億と聞いたら、アクア達だけでなく、周りの冒険者も驚きで固まってるし。

 私はよくわかんないまま三億エリスを受け取る。

 よくわかんないけど、これだけあったらもう何もしなくても暮らせるんじゃない?

 そんな気がする!

 

「勇者様ー! 酒を奢ってくれー!」

「宴会だ、宴会だー!」

 

 宴会。

 そういえばこの世界に来てから一度もしてなかったわね。

 幻想郷にいた頃と違ってお金の使い道がないから、この三億は宴会に使うのが一番だ。

 

「好きなもの頼んでいいわよー!」

「「「レイムさん最高!」」」

 

 面倒な後片付けもしないでいい。

 至れり尽くせりね。

 私は久しぶりに浴びるようにお酒を飲んだ。

 

 

 

 宴会の二日後。

 私はギルドに寄らず、街の中を散歩していた。

 ギルドに行こうとしたアクアに散歩のことを言ってある。

 実はアクセルの街を私はそんなに知らない。

 無駄な修行に時間を割いたせいで少ししか知らない。

 修行する必要もなくなった今、時間はその分浮くわけで、暇潰しに街の散策を決めた。

 ケーキ屋さん。

 ステーキ専門店。

 レストラン。

 パン屋さん。

 雑貨屋さん。

 魔道具店。

 こうして見ると本当に色々あると思う。

 屋台で串焼きを購入して頬張る。

 ん。これは中々美味しい。

 串焼きを食べると、ミスティアのことを思い出す。

 今もヤツメウナギを売ってるのかしら?

 久しぶりに食べたいわね。

 そんな他愛のないことを思った。

 しばらく街の中を散歩していると、看板にウィズ魔道具店と書かれたお店を見つけた。

 裏路地にあって、客がいなそうなお店だ。

 

「なーんか、面白いものがありそうね」

 

 私の勘がこの店は面白いと言っている。

 これはもう入るしかない。

 お店に入ると、正面の帳場に茶髪の美女がいた。

 彼女は私を見ると、

 

「あーっ!!」

 

 なぜか酷く驚いた様子で叫んだ。

 私のことを知ってる?

 でも、ベルディア討伐から私のことは誰もが知ってるし……。

 だけど、この人の反応は明らかに……。

 

「あっ、あの、すみません。突然叫んだりして」

 

 うん? この声聞いたことある。

 どこだったかしら?

 悔しい思いもした気がする。

 ここ最近で悔しい思いと言えば……。

 

「思い出したわ! あの時のリッチーね!」

「や、やっぱりあの時のソードマスターですか! 強いから通りすがりの人かと思ってたのに!」

 

 リッチーを見つけた! のはいいんだけど、どうしようかな?

 まさか、普通に暮らしてるとは思わなかったし。

 今日はのんびりしたいから、退治する気になれないのよね。

 怯えた様子で見るリッチーに質問を投げる。

 

「聞くけど、あんたってモンスターよね? 何で人間の街で暮らしてるのかしら?」

「それは、その」

「もしも異変を起こすつもりなら退治よ」

「そ、そんなことしません! 私は昔は冒険者でした。だけどとある理由からリッチーとなり、もちろんリッチーとなった私に冒険者を続けることはできず、引退したんです。この街は冒険者時代の仲間と出会った場所で、戦いに疲れた彼らを迎えるためにこのお店をはじめたんです」

 

 どうしたもんか。

 倒そうと思えば倒せるだろうけど……。

 こいつは強い方だから、街中で戦えば被害は大きくなっちゃう。

 見逃す?

 

『暴力以外の平和を望んでいるのでしょ?』

 

 昔、誰かに言われた言葉が頭に浮かぶ。

 このリッチーは悪いことするようには見えない。

 だけど、墓場でゾンビ操ってたし。

 帳場に体を隠し、頭だけを出して、目に涙を溜めてこちらを見ているリッチーに聞く。

 

「あんた、この前は墓場でゾンビ操って何かしようとしてたじゃない」

「違います! 死体が私の魔力に勝手に反応してゾンビになるんです。あと、私はあの墓場で迷える魂を天に還してたんです。退治されるようなことは本当に何もしてません!」

 

 善行を積むリッチー。理と神の意に背きながら善行を積むリッチー。変な奴ね。

 冒険者に恐れられる最強のアンデッドなのに、威厳の欠片もない。

 生かすか、退治するか悩む。

 リッチーはそんな私に懇願してくる。

 

「倒すのは待ってもらえませんか? 私にはまだやるべきことがあるんです! それを終えたら素直に退治されますから。その時までお願いします」

「……人を絶対に襲わないって言うなら考えるわ」

「襲いません」

 

 この時だけはおどおどせず、隠れるのをやめて立ち上がり、胸に手を置き、私を見据えてはっきり言い切る。

 幻想郷では、人から妖怪になるのは許されない。

 人を捨て、妖怪になった男を滅したこともある。

 まあ、私が知る範囲で退治していただけだし、実際には人から妖怪になった奴は幻想郷にそれなりにいたとは思う。

 ただそれが幻想郷に来る以前だったり、或いは私が生まれる以前とかなら、関係ないとした。基準となるのは私が幻想郷にいた時にやらかしたかどうかで、過去のことなんかどうでもいい。

 私がいるのにやらかしたら容赦なく殺すけど。

 さて、この世界は私が管理してるわけじゃないから、このリッチーを何がなんでも殺すなんてことはしなくていい。

 そんなルールないし。

 あと面倒臭い。

 迷惑かけてないならいいでしょ。

 

「退治するのは見送りにするけど、監視はするわよ。何かやったらその時は容赦なく退治するから」

「あ、ありがとうございます!」

 

 リッチーは深々と頭を下げる。

 それを見てると、こいつが本当に大物モンスターなのか疑わしくなる。

 ぱちもん女神と同じで、こいつもぱちもんリッチーかもしれない。

 こいつの頭を叩き割る日が来ないのを祈りつつ、店内を見て回る。

 液体が瓶に入ったものを見つけ、取ろうとしたら。

 

「それは強い衝撃を与えると爆発するポーションです」

「爆発? 何て物騒なの。じゃ、これ」

「それは開けると爆発するポーションです」

「これも? これは」

「それは水に触れると爆発します」

「……こっちは?」

「温めると爆発します」

「やっぱり退治した方がよさそうね」

「そんな!? そこの棚が爆発シリーズなだけで、他はちゃんとしてますから!」

 

 爆発物を大量に抱えるお店を見逃していいのか疑問に思う。

 私の言葉を聞いて、私の肩に手を置いてお願いしてくる姿は、やっぱりリッチーには見えなかった。

 

 三十分後。

 リッチーことウィズにお茶菓子をもらい、店内で寛いでいた。

 リッチーになった理由は詳しく教えてもらえなかったが、リッチー化はベルディアに死の宣告をかけられた仲間を助けるために必要なことだったらしい。

 どうしようもない理由からではなく、仲間を助けるための自己犠牲だった。

 

「あんたの強さならわざわざリッチーにならなくても倒せたと思うけどね」

「いえ。私の今の強さはリッチーだからですよ。人間の頃よりずっと強くなってるんです。だから、仲間を救えたんです」

「ふーん」

「な、何か?」

 

 ウィズは私の態度を見ると、不安げに尋ねた。

 幻想郷の時みたいに問答無用で倒さなくていいとしてるけど……。

 

「昔住んでた場所、幻想郷って言うけど。そこではウィズみたいに人を捨ててモンスターになるのは絶対に許されないの。例えどんな理由があろうと私は退治したわ。こっちでは向こうとルールが違うし、私に何の役割もないからウィズを見逃すけど、それでも……職業病で退治しなきゃって思うのよ」

「そ、そうなんですか。レイムさんはそのゲンソウキョウでは他にどんなことをされてきたんですか?」

「色々よ。異変が起きたら解決しに出向き、里の人が困ってたら助け、悪いことする奴は退治し。色々やったわ」

 

 神社の参拝客を増やすのも頑張った。

 どういうわけかほとんど失敗したけど。

 何がいけなかったのかしら?

 イベントがあればそっちに行って、商売して、神社のこと宣伝してたのに。

 個人的にお饅頭はよかったと思うのよ。

 あれ人気あったもん。

 凄い楽しくて。

 華扇も褒めてくれたし。

 けど、今思うと私に巫女は向いてなかったように思える。

 冒険者やったら、仲間に難はあるけど、お金持ちになれたもの。

 これで巫女のが向いてると言うのは無理がある。

 

「へえ。レイムさんは昔から戦ってたんですね。あれだけお強いのも納得ですよ」

 

 私の話にウィズは手を合わせて、感動したように言ってくれて……。

 何だろう。

 そんな素直な反応されると涙が出そうになる。

 だって幻想郷だと訝られるかばかにされるか怒られるかのどれかよ。

 ウィズみたいな素直な人はほぼいなかった。

 ……ウィズは大切にしよっと。

 ウィズは微笑み、質問をする。

 

「レイムさんはベルディアさんを倒されましたけど、他の幹部も倒すつもりですか?」

「面倒だからしないわよ。向こうから来るんなら別だけど、わざわざこっちから行くのはだるいわ

「あれ? レイムさんって積極的な人と聞いてるんですが」

「それはレベル上げたくてやっただけで、幹部を倒したくて倒したわけじゃないし。経験値多いから倒しただけよ」

 

 かつて私はレベル上げをするため、わざわざ修行したけど、よく考えると頭悪いことした。

 強い敵倒せばいいだけだ。

 修行なんて必要なかった。

 レベルが上がらないから修行なんて……。

 何を考えていたのか。もしかして異世界テンション? もしそうなら異世界テンション怖い。

 まあ、何だかんだで私も先日レベルが上がるという素敵な経験をした。

 面白いほどステータスが上がったので、またレベルを上げたいと思うものの、時間と労力を考えたらやる気が失せていく。

 

「経験値目的で幹部討伐ってはじめて聞きましたよ」

「そうなの? 私は極端にレベルが上がらないから、幹部クラスとはいかなくても強いのが相手でないとね……」

「そんなに? 今おいくつなんですか?」

「レベル3」

「さっ!? ……ちなみに私と戦った時は?」

 

 私のレベルに驚愕し、知りたくないけどでも、といった感じに尋ねてきた。

 ウィズの中の常識が崩れはじめてるのかもしれない。

 私はウィズに教える。

 

「レベル1」

「い、1!? 1って初期レベルの1ですか!?」

 

 ウィズが激しく取り乱し、早口で聞いてきた。

 そんなに驚かなくてもいいと思う。

 きっと歴代勇者も私みたいにレベル1でリッチー倒したり、幹部倒したりしてるわよ。

 

「そんなに驚くことでもないでしょ。歴代勇者も私みたいなのいたはずよ」

「それはありませんよ。どんな勇者も高レベルになってないと流石に幹部は倒せませんって。歴史上初だと思いますよ。レベル1で倒すってのは」

 

 そうなんだ……。

 でも、それならいっそのこと魔王をレベル1で倒しとけばよかったと思う私は変なのかしら?

 もったいないことしたわね。

 でも、魔王の城まで行くの面倒臭いし。

 そういえば魔王の城って結界で守られてるんだっけ? どんなものか気になるわね。

 しょぼかったら壊しちゃお。

 

「あっ。ウィズって昔は冒険者って言ったわね?」

「ええ」

「魔王の城の結界がどんなものかわかる? 幹部が維持してる強力なものとは聞いてるのよ」

「知ってるも何も私は幹部なの、で……」

「……幹部?」

 

 大事なことを隠していたようだ。

 ウィズは口が滑ったと、慌てて手で口を隠したが、もう遅い。

 

「幹部ねえ。それなら結界について詳しく話してもらうわよ」

「えっ、あ、はい……」

 

 なぜか不思議そうにしてるウィズを私はじーっと見つめる。

 ウィズはそんな私をじっと見て、一息吐いてから本題に移った。

 

「私も詳しく知りませんよ。レイムさんの言った通り、幹部によって結界は維持されてます。かなり強力な結界で、それこそ爆裂魔法を数十発撃っても耐えるほどです」

「あんな魔法を数十発耐えるってイカれた強度ね」

「幹部の人数が減れば強度は下がりますけど、一人程度ではそんなに影響はないかと。私でもリッチーになって、ライト・オブ・セイバーで通れるぐらいに切り開くのがやっとでしたから」

「ふうん。壊すのは無理でもそっちはいけるのか」

 

 破壊は無理でも力業で道はつくれるみたいだ。

 てっきり氷の魔法でどうにかしたと思ってたけど、別の魔法か……。

 私の聞いたことない魔法ね。

 教えてもらおっと。

 

「その何たらセイバーってどんな魔法なの?」

「ライト・オブ・セイバーですか? 光の刃で敵を切り裂くというものですよ」

「ほほう。今度それ見せてくんない?」

「いいですよ」

 

 ウィズは快く了承してくれた。

 

 

 

 あのままずっといてもよかったけど、まだ街の中を散歩し終えてないので、ウィズの店をあとにした。

 アクセルの街は、駆け出し冒険者が集まるところにしては大きい。

 周辺に弱いモンスターしかいないのが要因だろうか?

 考えてもわからないことである。

 こうして見て回ると、やっぱり幻想郷とは違うなって思う。

 飲食店、建物の造り、すれ違う人々、本当に何もかも違う。

 今では見慣れたものだけど……。

 ……いつの間にか街の外に出ていた。

 街からある程度はなれると、空を飛んだ。

 街の近くの小さな山へ向かって飛んでいき、頂上より高く、空へと昇り、街に背を向けた。

 

「不思議ね。こっちは幻想郷に似てるなんて」

 

 見下ろし、視界全体に広がる自然を見て、私は微笑をこぼす。

 夕日が大地を照らし、赤く染め上げる。

 間もなく冬を迎えるため、緑溢れる光景とはならないが、それでも構わなかった。

 十分に美しいと言える。

 こんな風に黄昏れていたら、隣に来た魔理沙に似合わないとか言われるわね。

 それか紫がいきなり現れて、よくわかんないこと言ってきたり。

 この世界は悪くない。

 簡単にお金持ちになれるし、冒険者になれば楽に暮らしていける。

 何の苦労もせずに生きていける。

 素敵な世界だ。

 ここで暮らすのは文句ないどころか賛成だ。

 でも、久しぶりにみんなの顔が見たいかな……。

 向こうにいた時はこんな気持ちにならなかったんだけどな。

 どうせ向こうから来るし、迷惑をかけられるだろうから、来んなって思ってた。

 不思議だ。

 

「スキマを繋げるのも、紫ほどじゃないし、何より世界と世界と繋ぐなんて無理よね」

 

 右手の人差し指で目の前を撫でるようにして切り裂く。

 それだけでスキマは開く。これは視界の端の山に繋がっている。

 だけど、ここまでだ。

 この世界と幻想郷を繋ぐなんてことは、そこまでの力は私にはない。

 それでも思う。

 もしもできたのなら、みんなの顔が見れる。

 そして。

 

「私の知らない記憶について知ることができる」

 

 私はどうしてあんな黒い異形の群れと戦っていたのだろうか。

 私はどんな風に死んだのか。

 いくら私でも面倒臭いと放っておけない。

 それに過去については知らなきゃいけない、そんな気がする。

 こればっかりは理屈ではなく、心の問題だ。

 ……一度幻想郷に戻ろう。

 そう決めた時。

 

 ――霊夢。

 

「誰? ……気のせい?」

 

 呼ぶような声が聞こえたけど、周囲には誰もいない。

 私はスキマを閉じて、念のためにもう一度だけ周辺を見る。

 やはり誰もいない。

 空耳ね。

 風も出てきたから、きっとそれね。

 懐郷に浸っていたのもあるかもしれないけど。

 アクセルに振り返る。

 夕日が大地を照らしていたのも少しだけ。

 夜が顔を見せてきた。

 本格的に夜を迎える前に街に戻らないと。

 寒くなってきたし。

 

 

 

 ウィズの店を訪ねてから三日後。

 この日、私は彼女に魔法を教えてもらう。

 例のセイバーをとうとう我が手におさめることができるのよ。

 ウィズの店を出て、ギルドの前を通りかかった時にアクア達に見つかった。

 

「ねえレイムさん。どうしてそんなのと一緒にいるのかしら。この私の全てを見通す目にはそいつが何なのかはっきりとわかるんだけど」

「あんた、本当にスペックは無駄に本物よね。大丈夫よ、こいつは無害だから」

「そういう話じゃないの。そいつは浄化しないといけないのよ」

 

 いつものアクアとは違い、何やら殺気を放っている。

 ウィズを親の仇を見るような目で睨みつけ、あわよくば浄化しようとしている。

 アクアに怯えたウィズは私の後ろに隠れる。

 

「アクア、こいつにも事情はあるのよ」

「へええ? 事情、事情ねえ。いいわ、じっくり聞かせてもらいましょうか」

 

 ここでは邪魔になるからと、私は本来の目的を果たす意味でも街の外に行くことをみんなに告げた。

 そこまでの道で、アクアはずっとウィズを睨んでいた。私が近くにいなければ、間違いなく滅ぼしにかかっている。

 めぐみんとダクネスはよくわからずといった感じで、ことの成り行きを見守っている。

 街の外まで来て、標的を探す。

 蛙がいれば、セイバーで切り裂いてもらうのだが、寒くなってきてるからかその姿が見られない。

 街の近くの森まで出向き、そこに生えてる木を切ってもらうことにした。だじゃれじゃない。

 

「それではやりますね。『ライト・オブ・セイバー』!」

 

 ウィズが魔法を唱えると、右手からまばゆい光が伸びる。

 右手を振るって、木に切りつける。

 木に光の刃が走り、真っ二つに切り裂かれる。

 いとも簡単に切り裂いてみせた。

 何というか。

 剣を使うソードマスター泣かせの魔法ね。

 だって切るんだもん。

 しかも切れ味がいいと来た。

 ソードマスターいらないじゃん。

 

「それあったらソードマスターとか剣使うのいらなくない?」

「威力はありますが、やはり魔法なので詠唱は必要になりますし、魔法耐性が高かったり光属性に強かったりする敵には効きにくくなりますから、万能ではありませんよ」

「なるほどねー。よし、やってみよ。ウィズはそいつらに過去の話をしてなさい」

「はい」

 

 後ろでウィズがリッチーになった経緯を話す中、私は早速光属性の魔法の開発に挑む。

 火、風、雷をつくり上げた今の私なら簡単よ。

 まず光を、そう、こんな感じで……できた。

 あとは、これを、こう、こうして、ほいっと。

 うわ。光属性やりやすっ!

 これならもっとはやくにやっとけばよかった。

 あとは切れるようにしてと。

 これか? こうか? こう? ここをこうして。

 

「『霊夢式ライト・オブ・セイバー』!」

 

 私の右手から虹色に輝く光が伸びる。

 また虹色なのね。いいけど。

 目の前の木に切りかかる。

 やったわ!

 木が切れたわ。

 こんなはやくに完成するなんて、私と光はよっぽど相性がいいのね。

 これで魔法耐性が高くない限りは……。

 閃いた!

 夢想封印を剣に纏うことができるけど、この魔法も剣に纏えばいいのよ。

 しかもスキルを発動したら……。

 あはっ。物理魔法同時攻撃よ。

 物理に強い敵は魔法で、魔法に強い敵は物理で。

 最高ね。

 

「『霊夢式セイバー』」

 

 おおおっ!

 私は感動と興奮で体が震えた。

 ライト・オブ・セイバーが私の剣に。

 剣の形状に合わせたことでより密度は高まり、魔法としての威力は高まった。

 ライトつけたら長いから縮めてセイバーにした。

 にやにやが止まらない。

 こんなにも、何もかも上手くいくなんて。

 これならどんな敵も倒せる。

 今度ドラゴンでも倒しちゃおうかしら。

 そんなありふれたことを思いながら、魔法を解除して剣をしまう。

 上機嫌で振り返ると、みんなが私を凝視していた。

 

「何よ」

「いえ。速攻で魔法を完成させたと思ったら更に発展させて。本当にレイムは何者ですか?」

「私よ」

「格好よく聞こえるのが腹立ちますね。そして胸キュンしてるのも悔しい!」

 

 めぐみんが顔を赤くして、格好いいとまた呟く。

 こいつの何に触れたかわからないけど、少し興奮して体を震わせるめぐみんを無視しよう。

 

「話はどうなったのよ」

「あの、レイムさんがあんまりにもはやく完成させるものですから、全然進まなかったです」

「私のせいにしないでよ。ほら、さっさと話しちゃいなさい」

 

 釈然としない顔でウィズは話を再開した。

 アクアはしかめっ面で、腕を組んで話を聞いている。さっさと終わらせろという態度だったが、仲間を助けるためと聞いた辺りからしかめっ面でなくなり、墓地の話が出ると気まずそうにした。

 ウィズが全てを話し終わった時、めぐみんは言った。

 

「仲間のために自分を犠牲にして助ける……! それは冒険者として最も素晴らしいことではないでしょうか!」

「私はエリス様を信仰しているが、今の話を聞いては斬れない。そこまで仲間思いの人を斬るなんて、私には……。しかも迷える魂を導くとは……」

 

 ダクネスは敬虔なエリス信徒と聞いたが、かつて冒険者であり仲間思いのウィズには重ねてしまうものがあるんだろうか。ウィズの話に涙ぐんでいる。

 めぐみんは例の紅魔族特有のセンスなのか、彼女本人のセンスなのか区別がつかないけど、ウィズの話に感動しているのは確かだ。

 肝心のアクアは気まずそうにしていたが、何かに気づいたようにハッとなると。

 

「全部つくり話なんじゃないの!?」

 

 ウィズに掴みかかった。

 

「本当です! 信じて下さい!」

「いーや! だめね! お涙ちょうだいのいい話だったけど浄化するわ!」

「そ、そんな! 私何も悪いことしてないのに!」

「ふん! リッチーなのがいけないのよ!」

「待って下さい! これはレイムさんにも言いましたが、私にはまだやるべきことがあるんです! それが終わりましたら大人しく浄化されますから、それまでは生かしておいて下さい! お願いします!」

 

 泣きつくリッチーにアクアはたじたじになる。

 もしもつくり話であるなら、あんな行動はとらない。

 ウィズの行動は話が真実であることを証明していた。そのウィズを見て、ダクネスとめぐみんはアクアに冷たい目を向けた。

 その二人の視線にアクアは逃げ腰になる。

 

「ね、ねえ……、こいつはモンスターよ? ダクネス、あなたはエリスの信者でしょ。なら、アンデッドにはどういうことをすべきかわかってるでしょ?」

「ああ。しかし、みんながみんな悪ではないだろ? ウィズが邪な考えでリッチーになったならともかく、仲間のために自分を犠牲にしたんだぞ? それにやるべきことを果たしたら浄化されるとも言っている。倒すなとは言わないが、その時までは待ってやってもいいだろ」

「そうですよ。アクア、例えば小さい子供の幽霊がいたとします。私達の冒険の話をたくさん聞いたら成仏すると言っても、アクアは問答無用で浄化するんですか?」

 

 二人のコンボにアクアは何も言えなくなり、ウィズからはなれた。

 私悪くないのに、と呟いて、私の隣に来た。

 

「ありがとうございます。こんな私を助けてくれてありがとうございます」

 

 ウィズが二人に深謝する。

 アクアは面白くなさそうであったが、ほんの少し安心してる感じがした。

 ウィズの件も私の目的も終わったところで、街に帰ることにした。

 

 

 

 ウィズは街に戻ると自分のお店に戻った。

 残された私達はやることがなく、ギルドで飲み食いしている。

 めぐみんとダクネスはモンスター討伐に行きたがっているが、どれもこれも遠いからやりたくない。

 

「せっかく魔法をつくったのにどうしてだらけるんですか。試してみましょうよ!」

「そうは言うけどねえ。今日はもういいわ。それにやるんなら強いモンスター限定よ。雑魚は経験値の足しにならないんだから」

「お前は経験値しか頭にないのか? そういえばこの前ベルディアを倒したが、レベルはどうなんだ?」

「やっと聞いたわね。上がったわよ。やっと3になったのよ」

 

 私の話に三人はたった2だけか、って顔になる。

 何それ。まるで本当はもっと上がるみたいじゃない。

 2だけってそんなにおかしいの?

 

「あっ。ついでにステータスがどれだけ上がったか見せて下さいよ」

「えー……。どうせこれっぽっちかってなるんじゃないの?」

「あまりに上がってないならそうなりますけど、流石にステータスはまともでしょう。それともアクアみたいにカンストしてましたか?」

「そんなことないわよ、はい」

 

 ステータスはまともでありますように。

 それかレベル上がんない分、もの凄く上がってるとかでお願い。

 ダクネスとめぐみんは私の冒険者カードを見て、

 

「「はあっ!?」」

 

 信じられないものを見た顔になる。

 驚愕する二人は何やら言っている。

 内容から察するに私の前のステータスかな。

 この二人の反応から私の伸び率が素晴らしいのはよくわかった。

 

「何ですかこれ。レベル2しか上がってないのに、ステータスは桁違いに伸びてますよ!」

「とんでもないな。あれだけ上がりにくいから、これだけ上がっても納得いくが……。1レベルがレベル5、6に相当してるぞ」

「まあ、私ぐらいになれば質で圧倒するわよ」

 

 そうよ。

 レベルはどんどん上がればいいってものじゃないから。

 ステータスの伸びも大事だから。

 私は強いの倒せば問題解決するから。

 ドラゴンとか悪魔とか幹部とか、そういうの倒せばレベル上がるから。

 

「魔力が大変なことになってるな。アクアより上だぞ、これ」

「はあ!? この私より上!?」

 

 アクアが慌てたように私の冒険者カードを見て……。

 項垂れた。

 私はアクアから冒険者カードを取り返す。

 アクア以上の魔力ねえ。そんなにあるなら切れ味アップのスキルの性能を上げようかな。

 性能を上げると消費魔力が増えるという悪いところはあるが、私の魔力なら問題ないわね。

 8ポイントあるスキルポイントを全て切れ味アップに注ぎ込む。

 これで私は30ポイント突っ込んだことになる。これからも突っ込んでいこう。

 魔法を使える私ならソードマスターのスキルは斬撃飛ばしと切れ味アップの二つで十分だ。

 攻撃魔法が一通り揃うのも時間の問題だ。

 ふむ……。

 私は項垂れるアクアの肩に手を置く。

 こっちを見たら、優しく微笑みかける。

 

「うああああ!」

 

 アクアが戦慄く。

 そろそろ支援魔法も我がものにしてしまおうか。

 ついでに回復魔法も習得しようか。

 どうしよう。にやにやが止まらない。

 こういう時は無駄に勘がいいアクアは私の胸元を掴んで泣きつく。

 

「やめて! 支援魔法とか回復魔法とか習得しようとしないで! 私の存在価値奪わないで!」

「そういうあんたはエリス様と組んで私から神降ろし奪ったでしょ」

「そ、それは、でも、私がいるのに他の神に頼るのはどうかと思うわ!」

 

 それでも修行を無駄にされたのよ。

 レベル上げるためとはいえ、今思うとよくやったわね。どんだけ執着してたのよ。

 これから一生やることはないと思うけどね。

 レベル上げるための修行だったわけだし。

 強い敵と戦えばいいという答えを手にしてる今、修行なんかやる理由はない。

 私はアクアに反論する。

 

「あんたじゃできないことあるでしょ。金属つくったり、お酒つくったり」

「それはできないけど。でも、許したらまたエリスに頼るんでしょ?」

「あんたができる範囲の神様は呼ばないわよ。エリス様も怒るし」

 

 アクアが泣くからだめと言った。つまり、泣かないなら降ろしてもいい。

 それによく考えたら、私は降ろしませんと宣言してない。する前に喧嘩したし。

 アクアは私を不安げに見ながら。

 

「本当に呼ばない?」

「呼ばない呼ばない。それでもだめって言うなら回復魔法とか支援魔法とか習得するわ。ついでに浄化魔法も」

「わかったから! わかったからやめて! 私にできないことする神なら許すから、だから私だけのものを奪わないで!!」

 

 神降ろしを取り戻した!

 そういえば私にもアンデッドとか滅ぼす攻撃手段はある。そして、アクアがいるのなら、アクアやエリス様のようなタイプの女神を呼ばなくても問題ないことに今気づいた。

 協力してくれる神様がいるかどうかだけど……。

 こっちの神様はけちなところあるからなあ。

 それとも幻想郷の神々が大らかすぎるのか。

 ぐすぐすと鼻を鳴らすアクアを遠ざける。

 野菜スティックを手に取り、口に運ぶ。

 ダクネスがそわそわしながら、何度も私の顔をちらちらと見て、意を決したように尋ねる。

 

「なあ、エリス様のお声はどんなだったんだ? やはり美しかったのか?」

「ダクネス。夢のないこと言うと、神様が美形なのは信仰心を集めやすくするためよ。声も当然綺麗なものに決まってるじゃない」

「ほ、本当に夢がないな……。だが、そうか、やはり美しいのか……」

 

 ダクネスは顔立ちと同じく可憐なんだろうな、とか言って妄想を膨らませる。

 どうして信者はこんなにも神に夢を見るのか。

 そんなことを思いながら、私はお酒をぐっと飲み干した。

 そんな私のところにいつものお姉さんが一枚の紙を手にやって来た。

 

「レイムさん。この討伐依頼をお願いできます?」

 

 直接私のところに?

 お姉さんから紙を受け取り、対象を確認する。

 

「西の山を一つ越えた先にある岩山に住み着いたドラゴンの討伐?」

「こちらの依頼は魔王の幹部を討伐したレイムさんに是非とのことです」

 

 もしかして今度倒そうとか思ったからこんな依頼が来たのだろうか。




次はドラゴンですね。
強さ設定どうしましょうか。
ミツルギはいっか……。
下はおまけ。







 side魔理沙

 英雄とは何なのか。
 強ければ英雄なのか。
 才知があれば英雄なのか。
 度胸があれば英雄なのか。
 違うな。
 英雄ってのはそんなちっぽけなもんじゃない。
 きっと、何でもない顔でみんなの想いを受け止められる奴のことを言うんだ。
 そして、そいつはこう言うんだ。

 そんな面倒なものいらないわよ。

 口ではそんなこと言いながら、数万、数十万という膨大な想いをあいつは受け止めた。背負った。
 妖精のつまんないイタズラに引っかかったり、天狗にいいように使われたり。隙だらけなくせに、いざって時はスパッと解決して。
 まぬけな奴だけど、一応幻想郷を守り抜いた英雄なんだ。
 あいつ以上の英雄なんてこの世にはいない。
 死んじまったけど、大丈夫だ。
 今幻想郷にいる奴はあいつを信仰してる。
 幻想郷を守り抜いた英雄様だ。信仰されるのも頷ける。
 信仰されれば神様になるんだろ?
 だからさ、神様になって帰ってきてくれよ。
 霊夢……。


 その頃霊夢は蛙のステーキに感動していた。

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