霊夢がこのすばの世界に行くそうです   作:緋色の

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何気にライト・オブ・セイバーってチート魔法だよなと思った。
この魔法の実績。
蛙を切り裂いた。
魔王軍の連中を切り裂いた。
幹部六人が維持する結界を切り裂いた(ベルディア、ハンス、シルビア、バニル、魔王の娘、謎の天使)

チートですね。


第八話 ドラゴンを倒しに行きました

 ドラゴンのいる岩山まで徒歩で数日かかる。

 一日で戻ってこれるなら、食料は多く持ち込まなくていいが、今回は徒歩での計算とはいえ、数日もあるためそういうわけにはいかない。

 水は私とアクアが出せるから問題ない。

 食料に余裕を持たせる必要もあるので、二週間分は必要だ。それを四人分用意する。

 当然だが、着替えも必要になってくる。どんな冒険者でもずっと同じ服ではいられない。体も洗いたい。

 中には平気な奴もいるだろうけど、少なくとも私にはできない。

 その日の内に私達は出発する。

 ダクネスの案により、今日は山の前で野宿し、朝から登山する。

 そうすれば山で野宿する回数を減らせるとか。

 何て言うか、ダクネスが珍しくまともで、軽く感動すら覚えた。いつもそうならいいのに。

 たまに最初に見たダクネスが帰ってくるのは卑怯だと思う。

 西の山までの道でモンスターとの遭遇はない。

 冬を前にして多くの弱いモンスターは冬眠に入った。まだ残ってるらしいが、遭遇率は低い。

 今回の冒険は馬車を借りたかったが、ドラゴンに怯えることを考えたら連れていけなかった。

 ドラゴンに怯えた馬が逃げたりしたら、食料をはじめとしたものはなくなる。

 その最悪の事態を避ける意味でも私達は徒歩を選んだ。

 ……帰りはスキマ移動するつもりだから逃げられても構わないけど、弁償したくないのよね。

 さて、西の山は多くの動植物が生きる山だ。

 西の山には、動植物を狙ってモンスターが来て、更にそれを狙って強いモンスターが来るという。

 強いモンスターもいる反面、それなりに美味しい思いができる場所ではある。ただし、山の奥に進むのは危険だ。

 西の山はグリフォンやマンティコアの縄張りとなる山岳地帯に隣接しているため、餌を求めて来ることがあるらしい。

 その二匹の討伐依頼は形だけ出されている。危険すぎるので誰も請けないし、ギルドも請けないように報酬を安くしている。

 誰も請けないまま長い時間放置されたクエストは塩漬けクエストと呼ばれる。

 今回の冒険で遭遇する可能性は低いが、出会ったら経験値をいただこう。

 

「こうして野宿するのははじめてね」

 

 アクアは小さな男の子みたいに、無邪気に、わくわくしながら言った。

 アクアの言葉にみんなは頷く。

 厚い毛布で体を包み込み、夜の寒さを耐える。

 私達の中心には暖をとる焚き火がある。

 焚き火は弱いながらも周りを照らす。その輝きで私達の顔は浮かび上がる。

 

「アクセルの依頼は日帰りできるものが多いですからね。他の街ならもっと、今回のように遠出するクエストはあると思いますが」

「面倒だから遠出したくないわ」

「お前は……。こうして仲間と遠出すると冒険してる感じがしていいじゃないか」

 

 してる感があるのは認める。

 これからもしたいかどうかは別としてね。

 めぐみんはなぜか苦笑している。

 

「経験値が欲しいから他の街に行くと言ってたのに、こういう遠出は嫌ですか」

「何日もってなると面倒じゃないの」

「わかるわ。ベッドで寝れないのは辛いの。固い地面で寝るのは合わないわ」

 

 床で気持ちよく眠れる奴が何を言ってるのか。

 

「他の街に行けば、こんな風に遠出する機会は増えるぞ」

「どうにかして近場で終わらないかしら。それか街まで来てほしいわね。そうしたら楽なのに」

「そんな都合のいい街は……そういえば王都は魔王軍が定期的に攻めてくると聞きますね」

 

 都合のいい場所があったらしい。

 そこなら私の望み通りだ。

 それなら文句はない。

 

「あとは私がやる気出るかどうかね。出ないなら戦わないし、出たら戦うわ」

「そんな都合のいいこと聞いてもらえるわけないだろ! 毎回駆り出されるに決まってる!」

「それならアクセルでのんびりやるわ」

「お前は本当によくわからないな……。レベルを上げたいのかそうでないのかはっきりしてくれ」

「レベルは上げたいわ。この前の幹部みたいなのがたまに来てくれればいいのよ」

 

 たまーに来てくれる程度でいい。

 それなら私もたまーにならいいわね、ってなる。

 

「頑張りすぎると倒れちゃうからね」

「レイムの場合は頑張らないとレベル上がらないでしょ。そんなのもわからないなんて、レイムさん頭悪いの?」

 

 プークスクス、と笑うアクアの頭を拳で挟んでぐりぐりする。

 こいつにだけはばかにされたくない。

 

「痛い痛い! やめて! 謝るからやめて!」

 

 根性のないアクアはすぐに泣きを入れる。

 それを聞いて満足した私は最後に抉るようにごりっとやってから手をはなす。

 

「ふぎゃっ!?」

 

 よっぽど痛かったのか、涙目でヒールをかける。

 すぐに痛みがなくなり、アクアは文句を言いたそうに私を見るが、ぐりぐりされるのが怖いみたいで睨むだけだ。

 アクアにお仕置きをし、満足した私に眠気が襲ってくる。

 

「眠いから寝るわ」

 

 返事を聞かずに私は目を閉じた。

 厚い毛布で、夜の寒さから身を守り、私は眠気に身を委ねた。

 

 

 

 夜が明ける前。

 私はダクネスに体を揺らされて起こされた。

 

「見張りを交代してくれ」

 

 私は何度か頷き、そのままだと二度寝してしまいそうだったから立ち上がる。

 体を横にして寝たわけじゃないから、あちこちが微妙に痛い。

 ほぐすように、腰に手を当てて背筋を伸ばしたり、腕を伸ばしたり、色々と行う。

 それで大分眠気はとれた。

 夜明け前の、冷えきった空気が私の体を冷やす。

 顔に当たる空気が眠気を吹き飛ばしてくれるような気がした。

 

「あー、寒々」

 

 寒さから逃げるように、膝を抱えて毛布を羽織る。

 まだ冬を迎えていないのにこの寒さだ。

 明け方は冷えるものだが、今でこれなら、冬になったらどうなるのか。

 吐いた息は白く染まる。

 

「それじゃ休ませてもらう」

 

 ダクネスはそう言って眠りについた。

 私は朝を迎えるまで見張りをする。

 

 モンスターに襲われることなく朝を迎えた。

 みんなを起こし、朝食をとる。

 朝食を食べてる時は会話もなく、寒さに耐えて、静かに食べ進めた。

 お腹を満たしたあとは荷物をまとめて焚き火を消す。

 さて、ここで問題が出た。

 

「トイレはどうする。その、そこら辺でするのは抵抗があるんだが」

 

 ダクネスがもじもじしながら、頬をほんのりと赤らめて言った。

 それは私も思うところだったので、アクアとめぐみんに答えを出してもらいたい。

 めぐみんはダクネスを見ると、呆れた顔つきになり、やれやれと首を振って、きっぱりと言い切る。

 

「私達は冒険者ですよ。時にこういう事態に直面しますが、受け入れるしかないでしょう」

 

 そして、これが冒険者だとばかりにめぐみんは山道の脇に入り、私達から見えない場所に行った。

 数分後。

 スッキリした顔でめぐみんは戻ってきた。

 

「いつかはするんですから、さっさとやって慣れるべきですよ」

 

 妙に男らしいめぐみんにダクネスは。

 

「そ、そうだな。我々は冒険者だ……。恥ずかしいが、やるしかあるまい」

 

 勇気づけられたらしく、めぐみんより遠くの脇道に入っていった。

 ここまでの経過を見ていたアクアはというと。

 

「まあ、わ、私は女神だからね。女神だからしなくても、で、でも珍しいものあるかもしんないからね!」

 

 誰も聞いてないのに、真っ赤な顔で恥ずかしそうに言い放つと、私達の目から逃げるようにめぐみんとダクネスとは反対の脇道に入った。

 

「残るはレイムだけですよ」

 

 にやにやと笑う。

 私もみんなと同じようにお花を摘みたい。

 だけどできない。

 誰もいないとわかってても、見られるかもしれないと思うと無理よ。

 かつては幻想郷で妖怪退治を生業とし、多くの異変を解決し、博麗大結界を管理してきた、博麗の巫女たる私が外でトイレ……。

 するんだとしても誰にも見られないようにしないといけない。

 

「余計なプライドなど捨てたらいいですよ。こういうのは最初だけですから。二回目からは平気になりますよ」

「くうううう……」

 

 なぜか悪人面でめぐみんは私に笑いかける。

 私の名は博麗霊夢。

 朝食を食べてから死ぬまでの記憶を失って転生した、どこにでもいる極普通の女の子よ。

 転生特典に女神アクアを持ってきたけど、これがまあ役に立たないの。

 一人暮らしできないタイプね。

 そんなアクアに私は自分が色々やらないとまともな生活を送れないと確信し、依頼をこなした。

 生活の基盤を整えた私は、アクアと一緒に上位悪魔を討伐した。

 その時に知り合った魔法使いのめぐみんが私達の仲間となり、それからすぐにダクネスも仲間になる。

 仲間と一緒にキャベツを収穫して、魔王の幹部を討伐した私が、ドラゴンを倒そうとするこの私が外でトイレすることを迫られている。

 葛藤する私の肩にめぐみんはぽんと手を置く。

 そうこうしている内にダクネスとアクアは戻ってきて、まだトイレに行かない私を見ると。

 

「レイム、我慢しすぎるのはよくないわよ」

「すぐに終わらせれば問題ないぞ」

 

 今私は三人のばかにトイレすることを勧められている。

 どうしてこいつらに言われるんだ。

 だけど、いつまでも持たないのはわかってる。

 このままだと大惨事になる。

 わかってるのよ。

 わかってるけど、お外でおトイレするなんて、やっぱり無理よ!

 めぐみんが諭す。

 

「レイム、何日も我慢できるわけないのですから。誰もいませんから大丈夫ですって」

「誰かいて見られてたら……」

 

 待って。

 ここでの問題は誰かに見られるかもしれないというところにあるわけよ。

 外でするのも問題だけど、そこはもう腹を据えるしかない。

 例えば、お家にあるようなトイレのように壁があれば、問題解決になるんじゃないかしら?

 つまり壁と天井をつくれば、誰かに見られる心配もないし、個室のようになるので外でするのはっていう気持ちも薄らぐ。

 そして、私には魔法がある。

 ……。

 私は三人からはなれ、山の近くまで行く。

 それに三人はやっと覚悟を決めたかと、それでいいんだと満足そうに頷く。

 脇道に入ってすぐに私は使う魔法を考える。

 土に水を含ませて泥のようにし、凍らせれば……。

 形も自由が利くからこれがベストね。

 しかも放っておいても時間が来たら勝手に崩れるから処分に困らない。

 早速私はトイレをするための準備をした。

 

 戻ってきた私に三人は微笑む。

 私は内心で勝ち誇る。

 トイレを済ませた私達は西の山の登山を開始する。

 山道に入ってすぐのこと。

 

「ねえ、あれ何かしら」

「おや、見たことないのが……。レイム、あれは何ですか?」

「トイレ」

「なあ、あんなのつくれるなら何で言ってくれなかったんだ?」

「私も追い詰められてやっと思いついたのよ」

「「「へえ……」」」

 

 私は後ろを振り返らずに走り出した!

 

 

 

 山道をペースも何も考えずに走って進んだ私達は当たり前のことだけど疲れ果てた。

 荒く息をし、肩を激しく上下させる。

 全速力で走ったせいで汗がどんどん出てきて、服が肌にべちゃりと張りつく。

 四人とも上気した顔である。

 

「レイムだけ、あんな……」

「はあ、はあ……。女神の私にあんなことさせといて、自分だけは壁で囲うなんて」

「いつまでもうっさいわね」

 

 みんなでそこら辺に座り込んで休憩をとる。

 アクア達がねちねちと文句を言ってきて鬱陶しい。

 みんながしたあとに思いついたんだから、私にはどうしようもない。

 呼吸が落ち着きを取り戻すと、喉が渇いてきた。

 指先からちょろちょろと水を出し、口の中に注ぐ。喉が潤い、水を飲んだからか体が冷えた気がした。

 

「レイム、私にも下さい」

「はいはい」

 

 めぐみんのコップに水を注ぐ。

 この世界に来て魔法を手にしたわけだが、私は使えるようになってよかったと思う。

 火と水があれば野宿で困ることはない。

 ちょっとした工夫で簡易トイレがつくれる。

 それで思ったけど、私の魔法は自由度が高いんじゃないかしら。

 今までは見たことある魔法に寄せてたけど、これほどの自由度があるなら、完全に私だけの魔法をつくってもいいと思う。

 いちいち霊夢式言うの面倒なのよね。ライトニングならライトニングで済ませたい。

 

「どうした。そんなに難しい顔をして」

「ん? ああ。トイレをつくった時もそうだけど、私の魔法って自由が利くと思うの。それならいっそ私だけの魔法をつくろうかなって」

「オリジナル魔法ですか。本来なら時間がかかるものですが、レイムならやれるかもしれませんね」

「その最初のオリジナル魔法は簡易トイレね」

「やめて。それはノーカンよ」

 

 いくら私でも最初のオリジナル魔法がトイレというのはお断りだ。

 というかあれは魔法というにはあまりにも……。

 アクアは腕を組み、不敵に笑う。

 

「ふっふっふ。そして爆裂魔法を超える最強の魔法をつくり出すのね」

「ほう。究極の魔法を超える魔法ですか。果たしてつくることができるのか見物ですね」

 

 めぐみんは片目を手で隠し、挑戦的に言ってくる。

 私はそんなのよりも使い勝手のいいものを求めているので、つくるつもりはない。

 結果的につくった、ということはあっても、自分から進んでつくるつもりはない。

 

「あのクラスの魔法はつくろうと思ってつくれるものじゃないと思うんだが……。それよりもドラゴンとどう戦うか決めないか?」

「私が斬る。以上」

「いくらレイムでも厳しいと思うぞ。ドラゴンは硬い鱗で覆われていて、魔法と物理に対する防御力は高い。素直にめぐみんの爆裂魔法などを使った方がいい」

 

 私の考えを改めさせるように言ってくる。

 よく考えたら私はドラゴンを見たことがない。

 でかいトカゲと聞いてるけど。

 ダクネスの言うようなモンスターなら、確かに苦戦するかもしれない。

 霊夢式セイバーは魔法、物理両方対応してるが、ドラゴンもどちらも対応してるという。一撃で仕留めるのは厳しいかな?

 負ける気はしないんだけどなあ。

 めぐみんは依頼の紙を見ながら、やはりダクネス同様に忠告する。

 

「今回のドラゴンはただのドラゴンではありません。相手はあのエンシェントドラゴンかもしれません」

「それが? そんなに強いの?」

「やはりわかってなかったか……」

「あのね、レイム。あなたは知らないだろうけど、エンシェントドラゴンは最上位種のドラゴンなのよ」

「その力は神と互角とも言われ、ドラゴン達の頂点に立つ種族です。爆裂魔法でも仕留めるのは困難でしょうね」

 

 めぐみんから依頼の紙を取ってもう一度見る。

 討伐モンスターにはドラゴンとある。ただモンスターの詳細欄にエンシェントドラゴンの可能性がありと書いてあった。ここ読んでなかったわ。

 エンシェントドラゴンと断定してないのは、遠目で見たとかそういうのが関係してそうね。どんなものも近くでちゃんと見ないと勘違いしやすいし。

 

「でも、可能性が高いってだけでしょ。私の勘だと、ただの勘違いだと思うのよね」

「もし本物だったとしてもうちのレイムさんなら余裕で倒せると思うのよね。支援魔法全力でかけるわ」

「とても私達のレベルで戦える相手ではありませんが、ドラゴンスレイヤーの称号のためにも倒すとしましょうか」

「ふっ。どんな攻撃も私が防いでやろう」

 

 三人はなぜか格好をつけはじめた。

 途方もなく強い敵に戦いを挑むような雰囲気を漂わせている。

 私の勘は、三人の雰囲気は無駄になると告げてるけどね……。

 それからしばらく雑談をして過ごす。

 休憩を十分にとった私達は登山を再開する。

 

 私達は山に入って三日目でやっと越えることができた。

 山の寒さが厳しいとは言っても、それで無理して山越えをすることはない。

 山を越えた先に待っていたのは、視界一杯に広がる平原であった。

 ここを突き進んだ先にドラゴンが住む岩山に到着できる。

 まだ夕方を迎える前の時間だけど、ダクネスが私達に言ってくる。

 

「今日はここまでにして、しっかりと休もう」

「そうですね。まだ夕方前ですが、後々に響かないようにしましょう」

 

 岩山まで徒歩で一日ほど。

 ドラゴンの住み処までまだまだ遠い。

 歩くのも面倒だし、休んでいいなら休もう。

 はあ、ドラゴン来てくんないかな。

 ダクネスとめぐみんが焚き火用の木を集めてくるそうなので、私とアクアは荷物番をすることに。

 

「荷物番は楽でいいわ」

 

 リュックを背もたれ代わりにして、緊張感の欠片もない顔をするアクアに聞いてみた。

 

「山賊とか来たらどうすんのよ」

「ないない。山賊なんてレアモンスターよりレアな連中よ? モンスターとかうろついてるのに山賊なんて割に合わないことすんのは頭の中お花畑な奴らだけよ、マジで」

 

 幻想郷も幻想郷で妖怪がうろついてるから山賊みたいなことをする奴はいなかった。

 人里からはなれてそんなことをすれば、一週間もしない内に妖怪に襲われて食われる。

 こっちにも山賊がいないのは、幻想郷とそう変わらない理由からだろう。

 そうなると荷物番は本当に楽な仕事ね。

 山を進んでいた時も、私達はモンスターに遭遇しなかった。

 アクアがいるから運よくというのは間違っても起こり得ないので、寒さが原因よね。

 余計な戦闘は面倒なだけだからいいんだけど。

 この平原に強いモンスターがいるとは聞いていないから、遭遇することはない。

 私とアクアは木を拾いに行った二人が戻ってくるまで、特に会話をすることもなく、ただごろごろしていた。

 

 西の山と岩山の間にある平原ではモンスターと遭遇することもなく、私達は万全の準備で岩山の前にいた。

 ドラゴン討伐を引き受け、冒険に出た私達。

 西の山の前で一泊し、西の山で二泊し、山越えして間もなくに一泊し、岩山の前で一泊し、今日で六日目となる。

 そろそろ帰りたい。

 

「ここがドラゴンの住み処ね……。みんな、行くわよ!」

 

 アクアが、覚悟を決めた顔で私達の前を進む。

 

「我が爆裂魔法がどこまで通じるかわかりませんが……、私はただ唱えるのみです」

 

 顔の前に手を持っていき、声を低くして語っためぐみんはアクアに続く。

 

「私の防御力でどこまでやれるかわからないが……、命ある限り仲間を守り通そう」

 

 強い光を瞳に宿したダクネスは二人に続く。

 私は何も言わないで三人に続く。

 言うことないもん。

 三人が不満げに、何か言いたそうに私を見ているが、そんなの無視無視。知るか。

 この岩山、そこまで大きな山ではない。

 それに山道の傾斜も緩やかだ。

 ドラゴンの住み処までの時間と労力はそう大きいものにはならない。

 山道は人が横に数人か十人は並んで歩けそうな幅がある。

 山道の両端は岩の壁があり、その高さは数メートル以上ある。

 この山道は通行のため開拓されたのではなく、自然がつくり上げたらしい。

 私達は口を閉ざして、足音を立てないように進んでいた。

 三人から緊張感が漂う。

 ドラゴンについて私より詳しい三人は戦う前から恐れを抱いているようだ。

 ドラゴンは誰でも知ってる有名モンスターで、しかも相当な強さを誇ることも知られている。

 そのため倒せば名誉と多額の賞金がもらえる。

 ゆっくりと進む私達は、ようやくドラゴンを見つけた。

 ドラゴンの姿を確認した私達はリュックを置いて、アクアに支援魔法をかけてもらい、武器を手にドラゴンへと近づく。

 敵は寝ておらず、私達とは違う方を見ていた。

 近づけば近づくほどにその大きさがわかる。

 民家よりもずっと大きい。

 この岩山の支配者というだけのことはあり、凄まじい存在感を放っている。

 触れたら火傷では済まなくなりそうな、そんな風に思わせるほどのものがある。

 

「グルルルル……」

 

 ドラゴンが何かに気づいた様子で唸り。

 

「グルルルアアアアアアアアアアア!!」

 

 私達に顔を向けて、空気が激しく揺さぶられるほどの咆哮を上げた。

 それを受けて、

 

「ひああああああああ! 嫌ああああああああ! 怖いいいいいいいい! 帰るうううううう!」

「こ、こここここここ紅魔族は、こ、こんな、ことでは、おおおお怯えませんからね!?」

 

 アクアとめぐみんがパニックを起こした。

 それを見てか、それとも自分の欲望のためにか、ダクネスはドラゴンの前に立ってデコイとかいう囮スキルを使った。

 

「シャキッとしなさいよ!」

「無理よおおおお! あんなの無理よおおおお!」

「わ、私はしてますから! えくすふろーしょん! えっくすふろーじょん! ま、魔法が出ません!」

「いざって時に使えないわね!」

 

 私は二人を庇うように前に立つ。

 

「た、大変です! レイムが前に立ったらレイムの背中しか見えません!」

「わあああああああ! 何これ! 超怖い!」

 

 気絶させた方が色々楽になりそうだと思いながら、私はドラゴンを見据える。

 その体は漆黒の鱗に覆われ、巨大な翼を持ち、血のように赤い瞳はダクネスに向けられている。

 巨大なモンスターを前にしてもダクネスは怯えを見せず、まっすぐ睨み返す。後ろの二人にも見習ってほしい。

 一撃で仕留めないと。

 私はスキルを発動する。

 霊夢式セイバーを、大量の魔力を使って展開し、剣に纏う。

 通常の霊夢式……面倒ね。もうセイバーでいいわよ。いちいち霊夢式いらない。

 通常のセイバーと変わらない輝きだが、それから放たれる魔力の気配は段違いだ。

 私の周辺の空気が魔力によって震える。

 どんなに抑え込んでも、刀身を覆う魔法から魔力が微量だが溢れる。その溢れた魔力は剣の周辺を漂い、ピシッ、バチッ、と弾けるような音を鳴らす。

 

「レイムさんがとんでもないのやろうとしてる!」

「もうラスボスに使う最終奥義みたいになってるんですが!」

 

 わけのわからないことを口走る二人は無視し、私はドラゴンへと駆ける。

 

「グルアッ!?」

 

 ダクネスに気をとられていたドラゴンは、私に気づくと、驚きと怯みから反応が遅れる。

 ドラゴンが口から火を吐こうとしたのと、私の剣がドラゴンを切り裂いたのは同時であった。

 ドラゴンの口からぼふっと火が吹き出て、地面に崩れ落ちた。その衝撃で地面が揺れ、砂煙が舞い上がる。

 そして、私の剣は今の一撃で限界を迎えたように、ひびが入ったかと思うと音もなく粉々に砕け散った。

 

「まさか……一撃でやるとは。本当にお前はとんでもないな。だが」

「剣は持たなかったわね」

「いい剣であったみたいだが、レイムの力を耐えるには無理があったな。お前の力を考えたら、それこそ聖剣や魔剣クラスが求められるな」

 

 使い勝手がよくて愛用していたのに……。

 せめてちゃんと供養してあげよう。

 剣の破片を集めていると、アクアとめぐみんがこちらに走ってきた。

 アクアは目を輝かせて。

 

「いやあ! 凄かった!」

「本当ですよ! まさかあのドラゴンを一撃で倒すなんて!」

 

 酷く興奮した様子で二人は詰め寄ってくる。

 二人の反応に私はというと。

 

「本当に? 大したことなかったじゃない」

「レイムのあんな攻撃を受け止められるモンスターの方が少ないと思うぞ」

 

 どうも今回のドラゴンは実はそんなに強くない方なんじゃないかと疑ってる。

 自慢していいのかわからないレベルだ。

 一撃で沈むんだもん。

 あんなに強い強い言われてたのに。

 

「これなら……幹部の方が強かったわね」

 

 名前を忘れてしまったけれど。

 私の話を聞いて、ダクネスは苦笑した。

 

「本当にお前は予想の遥か上を行くな。……とはいうものの、このドラゴンはエンシェントドラゴンではなさそうだな」

「いくらなんでも弱すぎますからね。本物のエンシェントドラゴンならレイムの攻撃でも仕留めきれなかったはずです」

 

 神と互角とかいうのが、一撃で倒されるわけがないものね。

 ここで私はアクアを見てしまう。

 ……こいつは、まあ、ぱちもんの可能性あるからね。比較対象にならないわ。

 アクアはじーっとドラゴンを見つめる。

 

「うーん。上位種には見えないわね。それでも大人のドラゴンだから並みのモンスターよりは強いんだけど……。やっぱりレイムの魔法が強すぎたんだと思うわよ。霊夢式セイバー」

「セイバーでいいわよ」

「そう? あのセイバーとんでもなかったわね」

「おかげで剣がだめになったけどね」

 

 剣の破片を一ヶ所に集めた私は、リュックから布袋を取り出し、戻って破片を布袋に詰める。

 やることやったし、さっさと帰ろ。

 

「もう帰ろっか」

「そうね。はやく帰って熱い湯に入りたいわー」

 

 冒険中は体を拭く程度のことはできても、お風呂に入るとかそういうのはできなかった。

 アクセルに戻ったら、ギルドに行く前に銭湯に寄ってじっくりと堪能しよう。

 そうと決まったらさっさと帰ろう。

 ドラゴンと戦う前に置いたリュックを背負い、三人も私と同じように背負ったのを確認する。

 

「こっから長いのよねー」

「そうでもないわよ。すぐに帰れるわ」

「どゆこと?」

「見てなさい」

 

 右手を頭上まで上げて人差し指を伸ばす。

 三人は何だ何だと見る。

 私はすっと指を下に動かす。

 

「く、空間が開いた!?」

「……本当に何でもありですね。レイムって本当は神様とかじゃないんですか?」

「そろそろ人間と言うには無理が出てきたな」

「これでも立派な人間よ」

「「「立派……?」」」

 

 三人はなぜか首を傾げた。

 おい。

 やめて。まるで私が人間じゃないみたいにするのはやめて。

 

「ほら、はやく!」

 

 恐る恐るといった様子で三人はスキマを通り抜け、最後に私も通る。

 スキマを通り抜けると、視線の先には懐かしのアクセルがあった。

 距離は少々あるが、少し歩けば着く。

 やっとお風呂に入れる。

 

「ここに繋がるのね。それなら最初から使ってほしかったんですけど」

「ドラゴンの住み処はわかんなかったもん」

「わけて使うとかはできなかったんですか? 見える範囲でどんどん移動するとか」

「嫌よ。そんな面倒なことしたくないわ」

 

 私の言葉に、三人は少しはなれたところに行って何かをこそこそ話してる。

 待つ?

 でも、お風呂入りたいし。

 放っとく?

 お風呂入りたいし、放っとこ。

 私は一人先にアクセルの街に向かう。

 

「「「ま、待って!」」」

 

 それを後ろの三人が追いかけてきた。

 

 銭湯でじっくりと疲れをとり、汚れを落とした私達は、久しぶりのお風呂に満足した顔でギルドへ。

 数日振りにギルドの扉に触り、開いた。

 まだ夕方前だというのに冒険者の姿が多く見られた。

 ろくな仕事がないと、愚痴る冒険者の横を通り過ぎて、受付の前に立つ。

 

「レイムさん! まさかこんなにはやく戻ってくるなんて。何かありました?」

「倒したから帰ってきただけよ」

 

 お姉さんに私の冒険者カードを渡す。

 ドラゴンの討伐を確認したお姉さんはカードを返してくる。

 

「流石レイムさんですね! すぐに賞金の一億エリスを支払いところですが、額が大きいので少し待ってもらえますか?」

「大丈夫よ」

「ありがとうございます」

 

 前の三億はほとんど残ってるしね。

 報告も終わり、私達は近くのテーブルに座って、食事を注文する。

 蛙のステーキを食べていると、ダクネスが話を振ってきた。

 

「レイム、これから入る賞金を使って剣を購入したらどうだ? ベルディアの報酬も残っているし、それも使っていいかもな」

 

 ダクネスの言う通り、私の魔法に耐えられる剣を購入するのも悪くはない。

 賞金も賞金で剣の購入以外は使い道がないし、使ってもいいよね。

 だけど、問題がある。

 

「そうは言ったって、アクセルで売ってる剣程度じゃあね」

「誰がアクセルと言った? 王都ならお前の力に耐える剣があるはずだ」

 

 この世界のことに疎い私でも王都がこの国で最も重要な街であるのは知ってる。

 王都と名がつくだけあり、この国を支配する王族が住んでいるのだ。

 この国の中心地とも言え、毎日多くの人やものが行き交う。

 確かにそこなら……。

 ダクネスの話にアクアが水を差す。

 

「しょぼいのじゃ意味ないわよ」

「魔剣や聖剣はあるだろう」

 

 魔剣、聖剣の違いは何なのかしら。

 アクアはダクネスの話を聞くと、チッチッチッと口ずさみながら指を振る。

 

「わかってないわねー。いい? 魔剣や聖剣にも格ってものがあるの。格で剣の強さは決まるわけだけど、その格が高いものは神器と呼ばれるの。はっきり言ってレイムには神器級が望ましいわ」

 

 自信満々に語り、鳥の唐揚げを口に運んだアクアにダクネスが反論する。

 

「それほどのものとなれば、我々の資金では足りなくなるぞ」

「アクアの言うこともわかりますが、神器ともなればそれこそ数億では無理ですよ」

 

 めぐみんの話にぎょっとなる。

 数億じゃ無理?

 どういうことなの。

 ダクネスの言う通り、ドラゴンの賞金で武器を買おうと思ってたのに。

 あと、ここまで私の意見が出てないってね。

 聞きなさいよ。

 そっちが聞くまで私は言わないわよ。

 それと魔剣と聖剣の違いをはやく言いなさい。

 

「本当にめぐみんはばかねえ。その頭には脳の代わりに爆裂魔法が詰まってるのかしら?」

「それはそれで悪くないと思った私はそれだけ爆裂魔法を愛してるということでしょうか」

「……魔剣や聖剣は時として持ち主を選ぶことがあるのは知ってるわよね?」

 

 アクアはあえてめぐみんをそっとして、話を戻すように問いかける。

 それにダクネスは小さく頷いた。

 

「特に神器はその傾向が強くてね? 認められなくても使えるケースはあるけど、それでも本来の力は使えないの」

「ほう」

「だけど、大半は認めた相手でないとその力を発揮しないわ。例えば剣なら、認めてない相手が使うと普通の剣と変わらなくなるのよ」

「ん。しかし、それでも神器なんだろ? やはり予算が足りないぞ」

 

 そのダクネスに、アクアは腕を組んで、自信たっぷりに言った。

 

「ばかねえ。そんなんだからダクネスは脳筋クルセイダーって言われんのよ」

「うぐっ……。くうう……。そ、それじゃアクア、私より賢いお前は、ど、どんな案を出すんだ?」

 

 テーブルの下に隠した拳がぷるぷると小刻みに震えている。

 ダクネスの頬はひくついていた。

 頬は少し赤らんでいた。

 悪意はないが、ウザさはあるアクアは不敵な笑みを浮かべた。

 

「わからない? 普通の剣と変わらなくなるのよ」

「あっ! アクア、もしかして」

 

 何かに気づいたらしいめぐみんがその手があったとばかりにアクアを見つめる。

 それにアクアは親指を立てる。

 

「そう。普通の剣、または格の低い魔剣や聖剣と勘違いされてる剣を見つけて購入するのよ」

「確かにそれなら安値で買えるか……。しかし、神器級ともなればそうそう見つからないだろう」

「当然じゃない。けど、一億エリス使って大したことないの買うよりいいと思うけど?」

 

 魔剣、聖剣の違いをそろそろ教えてほしい。

 アクアなのにどうしてこんなにも賢い案を出せるのかとかどうだっていい。

 さっさと違いを教えて。

 

「探すついでに他の街を観光するのもよしか。なあ、レイムはどう思う?」

「そんなことよりも魔剣と聖剣がどう違うか教えてちょうだい」

 

 お店で売ってるとか言ってたし、魔剣だから呪われてるとかそういうことではなさそうだし。

 もうわかんない。

 本当に何が違うの?

 三人は顔を見合わせ、小さく頷くと、アクアが説明に入る。

 

「魔剣には呪われてるものが混じってるのよ。聖剣はそんなのないし、神の祝福を受けてるわ」

「へえ。じゃあ、呪われてない魔剣なら神の祝福受けたら聖剣になるの?」

「なるわね」

 

 アクアが肯定した。

 疑問が一つ解決した私はすっきりした。

 よかったよかった。

 蛙のステーキの残りを口に入れる。

 いい感じにお腹が満たされてきたが、まだもう少しだけ入る。

 私はお酒とおつまみを注文する。

 注文したのが運ばれてきたら、最初にお酒をぐっと流し込む。

 続いておつまみを食べて、と……。

 

「ぷはあ。久しぶりのお酒はいいわー」

 

 疲れた体を最後に癒すのはお酒ね!

 私がそんなことを思った時。

 

「「「どうするの!?」」」

「うぇっ!?」

 

 三人がいきなり叫んだ。

 本当にいきなりどうしたの?

 そんなことされても困る。

 私は三人を困惑しながら見る。

 肝心の三人はこいつマジかって顔で……。

 何なのこいつら本当に。

 

「ねえ、剣を探しに行くの行かないの?」

「あー、それね。何聞いてんのかと思ったら」

「それしかないでしょ! もういいわ! 強い剣を探しに行くわよ!」

「えー……」

「行くの! 最初はそうねえ……」

「王都でいいじゃん。木を隠すなら森の中とか言うし」

 

 探す気がなく、神器探しとかそんな面倒なことをしたくない私は適当にそんなこと言った。

 一億エリスで適当に買って帰ろう。

 そのつもりの私とは違って、

 

「確かに王都は日々様々なものが入荷されますからね。もしかしたら……」

「なるほどね。流石レイムね。一見なさそうに見えるけど、しかし実は一番可能性が高いってね」

「まさに鋭い読みだな。中途半端な頭脳では思いつかないな」

 

 三人は私が適当に言ったことを真に受けていた。

 こいつらマジか。

 ……マジね。

 私はお酒を片手にばか三人を眺めた。




そんなわけで次は神器求めて王都です。
仁義なき戦いがあるかも。神器絡むだけに。
上手くないですね、ごめんなさい。
次回のタイトルは。
王都爆発
王都崩壊
王都復活
王都爆裂
王都復興
王都瓦解
王都消滅
王都再生
やったね霊夢!神器手に入れたよ!
適当に考えときます。

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