霊夢がこのすばの世界に行くそうです   作:緋色の

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そんなわけで王都です。
なぜ王都が絡むと文字数が増えるのか……。


第九話 王都に剣を求めて

 ドラゴンと戦った次の日に剣の供養をした。

 戦いで剣を失った私は新しい剣を手に入れる必要がある。

 この国で最も栄えている王都で剣を探すことが決まり、ドラゴンの報酬が支払われたらすぐに行くつもりだ。

 そのついでに観光もしようとなって、三日ぐらいゆっくりすることに。

 宿の方はダクネスが予約をとった。

 でも日にちのズレはいいのかしら? ダクネスが大丈夫と言ってたから大丈夫なんだろうけど……。

 ……問題ないならいっか。

 考えても意味ないだろうし。

 そんな結論を出して、そのあと私はみんなと一緒に買い物に出かけた。

 旅行の準備が終わった日のこと。

 

「あー、疲れた……」

 

 寝間着に着替えた私はベッドに横になる。

 ほどなくしてやって来た眠気に任せて眠りについた。

 その日の夢は特徴的だった。

 私はみんなと一緒に人がたくさんいる場所の前にいた。それがどこかはわからない。門があるから、どこかの街の前かな?

 景色は飛んで、路地に入って、進んで。

 剣が交差する絵が描かれた古びた看板が立て掛けられたお店……。

 名前は……トウケン?

 そこに入って、隅にある……、くすんだ……。

 そこまで見て、私は目が覚めた。

 予知夢かしら? 今の。

 内容からして剣のようだけど。

 期待していいのよね?

 夢を忘れないようにしとこう。

 いつもの格好に着替えて、アクアを起こして、ギルドへと向かう。

 乾いた寒風がアクセルの街中を駆け抜ける。

 私の髪が風でふわりと舞い上がる。

 すれ違う人達は寒そうに、はや歩きで進む。

 冬に近づくにつれて、冒険者ギルドの依頼は日に日に数を減らしている。

 冬になれば、凶悪な依頼しかなくなる。

 弱いモンスターは冬眠し、冬でも活動できる凶暴なモンスターだけが残る。

 そうなってしまえばまともに仕事するのは困難だ。

 そのため冒険者は冬の間は仕事を受けずに大人しくしている。

 無計画と言われる冒険者が揃ってそうするのだから、それだけ冬は怖いと考えているのね。

 私は私で雪降る寒い中仕事したくないから、暖かい室内でのんびり過ごす予定だけど。

 そんな素敵な予定を立てたところでギルドに到着した。

 ギルドには既にめぐみんとダクネスがいて、二人とも朝食を食べている。

 二人のいる席につこうとしたら。

 

「あっ。おはようございます。レイムさん、ドラゴン討伐の報酬が用意できましたよ」

 

 お姉さんに声をかけられた。

 私は受付まで行き、報酬を受け取る。

 ドラゴン一頭で一億エリスだ。

 本当にこの世界は簡単にお金が稼げる。

 一億エリスを持って、三人が座る席へ。

 席についたら、私も適当に注文する。

 先に食べ終えたダクネスが水を一口飲んで、テーブルに置かれた一億エリスを見て、話しかけてくる。

 

「報酬が来たのか。これで剣を買いに行けるな」

 

 それに私は頷く。

 ドラゴンの報酬が入り次第、王都に行く予定を立てていた私達は朝食を食べたら、荷物を取りに戻る。

 その時に一億エリスを丈夫な革の鞄に入れ直す。

 お金が入った鞄を右手に持ち、着替えなどを詰めた旅行用鞄を左手に持って、アクアと一緒に宿を出る。

 ギルドの前で合流し、これからどうするのかをダクネスに尋ねる。

 

「王都までどう行くのよ」

「レイムのあれは知らない場所には使えないんだよな?」

「ええ。無理に繋げると大変なことになるわよ」

「どうなんの?」

「例えば、繋げた先が湖だったりすれば、大量の水が流れ込んで来るわよ」

「洪水並みの被害が出ますね」

 

 私の話を聞いたダクネスは納得した顔になり。

 

「ん。なるほどな。レイムのあれが使えないなら、転送屋を利用するまでだ」

「それが一番はやいでしょうね。早速行きましょうか」

 

 転送屋なるものを利用することが決まった。

 はなれた地に一瞬で移動できるものなんだろう。

 ダクネスに案内されて、転送屋まで移動する。

 その転送屋、一回の金額が非常に高い。

 テレポートとかいう魔法は魔力の消費が大きいから値段が張るようだ。

 四人で百万エリスと言われた時は、驚きで声を出してしまった。

 高すぎでしょ……。

 蛙のクエスト十回分ぐらいよね。

 行くのに百万エリスの出費……。

 次からは使わない。

 

「それじゃ行きますよ。『テレポート』!」

 

 おじさんが唱えると、眩しい光が私達を包み込んだ。

 

 

 

 テレポートの魔法によって、私達は王都の門の前に転送された。

 門の横には兵士が二人立っていて、見張りをしている。彼らは突然現れた私達を見ても顔色一つ変えなかった。

 王都にテレポートでやって来るのは珍しくないということなのかしら。

 門の向こうは活気に溢れている。

 この国最大の都市というだけのことはあり、私達の暮らすアクセルがいかに田舎かわかる。

 王都に暮らす人からすれば、比べるのも烏滸がましいかもしれないけど。

 多くの人が行き来する中を通るのはげんなりしそうだけれど、しょうがないか。

 

「宿に案内するからついてきてくれ」

 

 ダクネスが予約しておいてくれた宿へと向かう。

 そこは王都では有名な宿らしい。

 警備は行き届き、防犯対策もばっちり。でもお高い。そんな宿屋らしい。

 その宿屋までそこそこ時間はかかったが、何事もなく到着することができた。

 

「おっきくて、綺麗な宿屋ね」

 

 アクアの感想と全く同意見だ。

 どの宿屋よりも大きい建物だ。

 まさか、こんなところを予約していたとは。

 

「ちょっとダクネス。三億エリスで足りるの?」

「ぶふっ。ば、ばかなことを言うな! 三億で泊まれない宿屋なんかあるわけないだろ!」

「それならいいんだけど」

 

 一泊一千万エリスとかかしら?

 宿泊代金についてはダクネスに任せてるから、私にはいくらかかったかわかんないのよね。

 まあそのお金も幹部討伐報酬から出してるが。

 

「入るとしよう」

 

 私達をはじめに迎えるのは広間だ。右手に受付があり、左手には階段がある。正面には大きな扉があり、その先には食堂がある。

 規模は違うが、この宿も一階の構造は普通の宿屋と変わりないようだ。

 ちなみに食堂を利用しないお客には部屋まで運んでくれるサービスがあったりする。

 ダクネスにここで待っててくれと言われ、私達は広間の中央辺りで待機する。

 ダクネスが受付まで行き、店員に声をかける。

 名前を聞いた受付の人は受付裏へと入室した。

 受付裏の扉から年配の男性が出てきて、ダクネスに慇懃に接する。

 ?

 うーん? 何か変ねえ。

 何というか、ダクネスに対する態度が普通のお客とは違う気がする。

 どちらかというと目上の人にする感じなのよね。

 もしかしてダクネスって、わりと偉い人?

 この世界で偉いと言えば、王族と貴族なのよね。

 貴族なのかな、あいつ。 

 今度聞いてみよ。

 

「待たせたな」

「大変お待たせしました。お荷物は私どもの方でお運び致します」

 

 男性の後ろには三人の従業員がいる。

 私達は彼らに荷物を渡す。

 

「それではお部屋にご案内させて頂きます」

 

 男性はにこやかに笑う。

 部屋へと向かう途中、男性から質問される。

 

「ところで皆様は王都へはどのようなご用件で来られたのですか?」

「旅行も兼ねてるが主な目的は私の仲間の武器の購入だ。そこの紅白の格好をした彼女は相当腕が立ってな。魔剣聖剣クラスでないと使い物にならない」

「何と。そこまでお強いのですか?」

「ああ。あの魔王の幹部と普通に戦えるぐらいに強い」

 

 謎の自慢がはじまってる。

 私の武勇伝が語られてる感じがしていい気分になるけど、目の前で語られるとちょっぴり照れる。

 男性はダクネスの話に目を丸くした。

 

「それは予想していませんでした。いや、そんなにもお強いのであれば、魔王討伐もすぐかもしれませんね」

「ああ。こいつなら魔王討伐も夢じゃない」

 

 ダクネスが自信たっぷりの笑みを浮かべると、男性は私を頼もしそうに見てきた。

 いつもなら面倒臭いと言うけど、そうしたらイメージを壊すのは私でもわかるから、無言を貫く。

 ほら。

 男性がまるで本物の英雄を見る目になったわ。

 

「武器をお求めとのことでしたが、どこに行くか決めていますか?」

「少しはね。けど、場所まではわかんないのよね」

 

 三人がえっ? ってなってるけど、私は気にしない。

 夢で見た光景の一つは間違いなく王都の門で合っている。多くの人で行き来してるのは夢の光景そのままだった。

 

「名前はわかりますか?」

「トウケンだったかしら。そのお店の古びた看板には剣が交差する絵が描かれてるんだけど」

 

 夢を見たとしても、この広い王都の中を探して見つけるのは困難だ。

 多分だけど、どこかで役に立つ情報があるはず。

 

「もしかしてあそこかな? お客様の仰るお店に心当たりがあります。あとで受付の方に来て下されば地図をご用意しますが」

「それでお願い」

「かしこまりました」

 

 すぐに出てきたわね。

 これは探すのに苦労しなくて済むわ。

 旅行を楽しみましょ。

 話をしていたらいつの間にか部屋に到着したようで、男性に入室を進められる。

 私達の部屋は最上階の一つ下の階にあり、二つの部屋を並びでとってある。

 従業員が荷物を部屋に運び入れる。

 

「私どもはこれで失礼します。ごゆっくりお過ごし下さいませ」

 

 綺麗な礼を見せて、男性は従業員を連れて退室する。

 私とアクアは荷物をベッドの横に置く。

 

「大きなベッドねえ」

 大きなベッドが二つあっても余裕が出るほど室内は広い。

 その他にもソファー、丸テーブル、大きな座椅子が二つあり、隅には飲み物が入った冷蔵庫があって。

 浴室とトイレは当然のように完備されており、これまた当然のようにシャンプーといったものも浴室には揃えられている。

 何これ。

 こんなに豪華なのはじめてみたんだけど。普通の宿屋の部屋が鼻で笑うレベルになってる。

 

「このベッドすっごくいいわ! ほら、ほら!」

 

 アクアはベッドの上で跳ねている。それを見て、私は……。

 

「うわ! 凄いわね!」

 

 いつものベッドでは味わえない楽しみ方をしていたら、ノックする音が聞こえた。

 続いてめぐみんとダクネスが入ってくる。

 

「何をしてるんだ、お前達は」

 

 ダクネスの冷ややかな目に私達は跳ねるのをやめて、ベッドの上でごろごろしながら二人を見る。

 

「二人とも豪華な部屋で気に入ったみたいですよ」

 

 めぐみんがくすくすと笑いながら言った。

 何だか年上のお母さんみたいな雰囲気が出てた。

 めぐみんの言葉を肯定する。

 

「そうよ。気に入ったわ。こんな凄い部屋だもの。普通の部屋とはまるで違うもん。浮かれたりするわよ」

「そ、そうか。なら、ジュニアスイートルームをとった甲斐があるというものだ。しかし、さっきのは下の階の人に迷惑だからやめろ」

「「はーい」」

 

 ジュニアスイートルームか……。

 これを知ったら普通の宿の部屋はちっぽけね。

 

「で、だ」

 

 ダクネスが話を切り換えるように言ったので、私達は耳を傾ける。

 

「さっきレイムは目的の店があると言ってたが、誰から聞いたんだ?」

「聞いてないわよ。夢で見たのよ」

「……夢?」

「ええ。断片的だけど、王都の前にみんなといるとこからはじまって最終的に私はそのお店で見つけてたわね」

 

 私の話に、妙に興奮した様子で、めぐみんは詰め寄ってくる。

 

「それはつまり予知夢を見たということですか!? もしそうなら、それはもう剣がレイムを呼んでいることになりますよ!」

「本当なら確実に力のある剣よ。夢を見せて呼ぶなんて」

「しかもここの支配人に心当たりがあると来た。単なる夢でないのは確かだな」

 

 ここまで話が進めば、あとは見つけるだけだ。

 私達は受付に行って地図を受け取る。

 目印でここの宿を丸で囲ってるので、これを頼りに進めば辿り着けるはず。

 しかし、この王都は広い。

 少し間違えれば簡単に迷子になる。

 なので、みんなで地図を見ながら進むことに。

 表通りは人が多く、固まって歩くのはあまり向かないので、路地に入って進んでいる。

 人はそれなりにいるが、表通りに比べたら優しいもので、むしろ移動ならこっちの方がいい。

 

「ここの路地に入ってから……、今はこの辺りか?」

「そうですね。十字路が三回あったから、この辺りで間違いありませんね」

 

 戦闘では一回だけ魔法使いのめぐみんだが、今は高い知力が発揮されていた。

 ダクネスもダクネスで頼りになり、心配しなくてよさそうだ。

 

「こりゃあ今日中に見つかりそうね」

「そうね」

 

 支配人の情報がなければ、おそらく発見することはできなかったろう。

 情報があるから、こうして目的地に向かえる。

 なければ、どこに行くかで話し合っていたはず。そうなれば全く関係ない場所を探していた可能性は非常に高い。

 そう考えたら情報を得られたのは相当ラッキーだ。おかげで楽ができる。

 

 

 

 夕方を迎えた頃。

 私達はようやく目的のお店を発見した。

 

「夢のまんまね」

 

 そう呟いて店内に入る。

 中は客がいなかった。

 清掃はされている。

 他の三人が店内をきょろきょろ見てる内に、夢で剣を見つけた場所まで行く。

 そこに置かれているものを見て、私は勘違いしていることに気がついた。

 よく思い出したら、くすんでるという印象を受けているだけで、形状ははっきりとしていなかった。

 鞘から引き抜くと、夢の通りくすんでいる。

 

「まさか、刀なんてね」

 

 いや、ヒントはあった。

 店の名はトウケンとあったが、これは刀剣を意味しているんじゃないの?

 なるほど。私より以前に来た転生者が関係しているのね。なら、この刀も転生特典か何かな?

 

「おや、珍しい。いらっしゃいませ」

 

 帳場の奥から、お爺さんが出てきて、刀を持つ私を見ると、目を細めて興味深そうにする。

 しばらく眺めたのち、お爺さんは聞いてくる。

 

「それを目当てに来たのかね?」

「ええ」

 

 アクアは私の持つ刀をじーっと見つめて。

 

「ほうほう。どうやら封印がかけられてるみたいね。では早速解除を」

「それは前の持ち主が、次の持ち主に解除させるためにかけたものですよ。それぐらいできない人には使ってほしくないと言ってました」

 

 アクアは出端を挫かれる。

 手を引っ込めて、少し不機嫌な顔でお爺さんを見る。

 たまにしかない活躍の場面を奪われてご立腹らしく、お爺さんに棘のある口調で言った。

 

「ソードマスターにできるわけないじゃない」

「そう言われましても。それが前の持ち主の希望でしたので。嫌なら諦めてもらうしか」

「ふうん。結構なものだけど神器ほどじゃないし。他を当たり……何してんの?」

「何って封印解除すんのよ」

 

 刀身に指を当てて形を三回ほどなぞる。最後にピッと指を当てると……。

 パチンッ! と弾けるような音がして封印が解除された。

 封印が解除されても刀身はくすんだままだ。

 

「何ですか、今の?」

「本当にお前は次から次へと何かを出すな」

「今の封印解除なんて見たことないんですけど! どういう原理で解除してんのよ!」

 

 封印が解除されたと聞くと、お爺さんは思案顔で私を見つめる。

 

「力任せでもよかったけど、こっちのがはやいからねえ」

 

 この刀を綺麗にするにはどうしたらいいんだろ。

 鍛冶に出すのかな?

 私が悩んでいると、お爺さんが教えてくれた。

 

「次は魔法を纏わせることですよ」

「そんなの簡単じゃない」

「強くないと纏わせることもできませんよ」

「へえ」

 

 封印解除の次は持ち主の力量を調べると来た。

 店内でやるのは流石に迷惑なので、外に出て、周りに人がいないのを確認してからやる。

 今こそセイバーの出番ね。

 

「はあ!」

 

 むっ。

 魔法というか、魔力というか、弾くような感じがする。お爺さんの言ったことがわかった。

 剣を壊した私の力を見せる時!

 ドラゴンの時のセイバーみたいに周りの空気が震えて、ピシッ! パチッ! と音が鳴り出す。

 刀は私の魔法を弾こうとするが、私の力の前では無駄な抵抗というもの。

 力比べををはじめて数分後。

 刀が抵抗するのをやめて、素直に私の魔法を纏うようになった。

 なぜか魔法から魔力が溢れることがなくなる。

 この刀の能力に関係あるのかな?

 

「どんなものかしらね」

 

 魔法を解除すると、くすんだ刀身はどこはやら。

 夕日の光を反射する、美しい刀身が姿を見せる。

 どういう仕掛けか知らないけど、持ち主と認めない人には本当の姿を見せないのか。

 今は私を主と認めたのね。

 

「さて、これの名前は何かしら?」

「名はオオカネヒラと言います」

 

 オオカネヒラ。

 いったいどんな意味を込めてつけたのか。

 私の疑問を見抜いたように、お爺さんは教えてくれた。

 

「オオカネヒラの製作者は、その剣は自身の生涯で最も優れた剣とし、自国で最高のカタナなるものと同じ名をつけることにしたそうです」

「これって人がつくったの?」

「はい。ドワーフといった他の種族ではなく、人がつくり上げたものです」

 

 そういえば、さっきアクアは神器ほどではないとか言ってたわね。

 神様も関与してないのか。

 つまり転生特典ではない。

 とはいえ相当よさそうだし、これでいいや。

 残りの二日は旅行を楽しみたいし。

 

「この剣の能力は何なのですか?」

「さっき弱い魔法では纏わせられないと言っていたが……」

「その剣は、既にお気づきでしょうが魔法を弾くんですよ。ついでに弱い状態異常も。しかし、その剣が最高傑作と言われるのはそこではありません」

「何々? これにはいったい何があるのよ!」

 

 私よりも他の三人の方が食いついている。

 私は持ち主なのに三人の後ろで話を聞くという謎の嫌がらせを受けた。

 わかってやってんのかしら、こいつら。

 

「製作者の話では、その剣は強くなるそうです」

「強くなる? 具体的にはどんな風に」

「先ほどそちらのお嬢さんが魔法を纏ったでしょう? その時に溢れてしまう魔力を取り込み、自らの力とする。そうして剣の性能が強化されるとか」

「それって相当強くありませんか? 話が本当なら最終的にその剣は」

「もちろん限界はあるでしょうが、それがどれぐらいかはわかりません。状態異常を無効にしたり、上級魔法を弾いたりするかもしれませんね」

 

 へえ!

 それってもの凄いことよね。

 今はまだ強くないけど、最終的には桁外れの性能の刀になるってことね。

 もしかしたら神器とかいうものより強くなるんじゃないの?

 これはいいものを見つけたわ。

 アクア達は私の持つ刀を見ると。

 

「神々が渡す神器並みの性能とか、いったいどんな奴がつくったのかしら?」

「ロマンがありますね。名前はあまり格好よくありませんが、これからレイムが最強の剣にするんだと思うとわくわくしますよ!」

「細身の剣だが、切れ味はよさそうだな。それにとても美しい」

 

 言いたいこと全部言われた。

 何なの本当に。

 私はほんの少しふて腐れる。

 

「わしが生きている内に再び使える人が出るとは思いませんでしたよ」

 

 お爺さんは感慨深げに言い、夕日を眺める。

 そういえば封印を解除する時、お爺さんは前の持ち主はどうこう言ってた。

 これを引き取ったのはこのお爺さんね。

 このお店の刀剣という名前は誰かにつけてもらったのかな?

 調べたら色々出てきそうね。

 お爺さんは私を見つめる。

 

「お嬢さんはソードマスターと言ったね」

「ええ」

「ふむ。その剣を強くしたいと言うならルーンナイトになるといい」

「ルーンナイト?」

 

 そういえばそんなのもあったような……。

 ギルド職員にソードマスターはアークプリーストと相性がいいからと言われてソードマスターにしたわけだけど。

 あの時は今みたいにバンバン魔法使うとは思ってなかったからなあ。

 

「で、ルーンナイトって何?」

「ルーンナイトは魔法と剣を扱う職業です」

「ルーンナイトは魔法剣というスキルも使える。それはレイムのセイバーに近い。炎を纏ったり、冷気を纏ったりな」

「ただ成り手が少ないのよ。魔法と魔法剣は魔力が結構必要だからね。ルーンナイトでやれるだけの魔力があるならアークウィザードやアークプリースト選ぶ人多いし、そうでなければソードマスターの方を選ぶし」

「ふうん。あまりよくないのね」

「そうでもないぞ。魔法と剣を使う職業である以上、どちらも補正を受けられる。一つの方向に特化したアークウィザードやソードマスターほどの補正は得られないが、それでも優れてると言える」

 

 ダクネスの話に私はルーンナイトに興味が出た。

 というのも私は魔法を使うことができる。

 ソードマスターだと魔法に関する補正はかからない。しかし、ルーンナイトなら補正が出てくるので威力の底上げが狙える。

 というか私にぴったりな職業じゃない?

 ウィズと戦った時とか魔法しか使ってなかったもの。ソードマスターの意味なかったからね。

 ところがルーンナイトだと魔法だけの戦いでも意味はあるし、逆に剣だけでも意味がある。

 ルーンナイトのお得感半端ないわね。

 ちょっと考えただけでこれだけ出てくるなら、ルーンナイトいいかな。

 たまに役に立たなくなるソードマスターとかいう職業よりいいね。

 

「私ルーンナイトになる!」

 

 

 

 オオカネヒラは五千万エリスで購入した。

 能力を考えたらもっと高値にしてもいいのに、お爺さんは五千万エリスで売ってくれた。

 刀を購入したあと、私達は冒険者ギルドへと向かった。

 職業の変更はスキル習得のように個人でできるものではなく、ギルドを利用しないといけない。

 幸いにもルーンナイトに変更したらレベルなどがリセットされるといったことはなかった。私が習得したスキルはルーンナイトでも使えるものだったので、問題は一つもなかった。

 変更を済ませたあとは、絡んできた冒険者を蹴飛ばして、ギルドを出た。

 宿屋に戻る頃にはすっかりと暗くなっていた。

 宿屋で遅い夕食をとる。

 一日中歩き回ったこともあり、すっかりと疲れてしまった。

 部屋に戻ったらお風呂に入って、すぐにベッドに寝転がった。

 明日はもう少しのんびりしたいなあ……。

 

 夜明け頃。

 私は目が覚めた。

 んー……。

 眠いような、眠くないような。

 よくわかんないな。

 

「ふわああ……」

 

 腕を伸ばしながら大きな欠伸をする。

 どうしよっかな。

 散歩でもしようかな。

 そうしよう。

 私は着替えて、窓から外を覗く。

 天気は良好。

 視線を下げると、夜明けだというのに商人達が忙しそうにしている。

 流石に昼間ほど人がいるわけでもないが、ゆっくり散歩できなさそうな感じがある。

 

「今の時間なら大丈夫でしょ」

 

 空の散歩を楽しむとしよう。

 スキマを使って外に出て、建物より高いところまで上昇する。

 夜明けだし、見つかることはないでしょ。

 見つかったから何だって話だけど。

 空の散歩をしていてわかったが、王都は建物がかなり多い。

 アクセルよりも詰まっている。

 それなのにアクセルより広いのだから驚きだ。

 ここで暮らす人達は息苦しさを感じたりしないのだろうか。

 と、のんびりと散歩していた私は目的の建物に目を向けた。

 

「王族が住むだけ大きいわね」

 

 城の大きさは語るまでもない。

 この広い王都に負けないだけの立派な城だ。

 侵入はしないが、周りを飛んで見て回ってもいいでしょ。

 

「どうやって掃除してんのかしら」

 

 巨大な建物である城の壁は私が見た限り汚れ一つない。空を飛べないのにどうやって掃除してんだか。

 螺旋階段のように移動しながら上昇していく。

 いや、本当に汚れてないのね。

 侮れないわね。

 最上階まで来ても、やっぱり汚れがない。

 もはやこの城に住む人達の掃除力に脱帽するしかなかった。

 

「ふーん。なるほどねえ」

 

 一通り見たし、帰ろうかな。

 城から視線を外そうとして時だった。

 

「あの!」

 

 とても澄んだ声が私の耳に届いた。

 この夜明けの時間に調和するような声だ。

 声のした方に振り返る。

 窓を開け、身を乗り出して私を見つめる金髪碧眼の少女がいた。

 少女はやや興奮した面持ちだ。

 私はその子の前まで移動して話しかける。

 

「何?」

 

 その子は私が目の前まで来ると、ますます興奮した様子になり、頬が赤く染まる。

 両手を胸の前に持っていき、落ち着きなく動かす。

 私に目を向けたり、外したり。

 何かを言いたそうにしているが、上手くまとめられないといった風だ。

 

「落ち着きなさいよ。私は逃げないから」

「す、すみません。空を飛ぶ人を見るのははじめてなものでして……。あの、どうやって飛んでるんですか?」

「どうやって? うーん……。私にとっては別に普通のことだから教えようがないわ」

 

 意識して飛んでるわけじゃない。

 飛べるから飛ぶ、それだけのことだ。

 

「もしかして手足を動かすような感じですか?」

「そうね。そんな感じかも」

「凄い……。まさに先天のものなんですね」

 

 少女は心底羨ましそうに私を見つめる。

 どうしよう。

 幻想郷だと普通に飛んでるよと言えない。

 ……まあいっか。

 少女を黙って見つめていると、何かに気づいた様子になり。

 

「名乗りが遅れました。私はアイリスと申します。この国の第一王女です」

 

 驚くほど綺麗な礼を見せる。

 流石王族と言うべきね。

 

「私は博麗霊夢。空飛ぶルーンナイトよ」

「レイム様……。もう少しお話に付き合ってもらえますか?」

「いいわよ。散歩も飽きてたし」

「ありがとうございます!」

 

 アイリスはぱあっと輝くような笑顔を見せた。

 ……。

 不思議な子ね。

 見てると、放っておけないっていうか、甘えられたら甘やかしたくなるというか、お願いされたら聞きたくなるというか。

 王女だから、多分人を惹きつける力があるのね。

 

「レイム様はどこから来られたのですか?」

 

 会話は面白味のない質問からはじまる。

 

 私とアイリスは時間を忘れて楽しく話をしていたが、終わりは近づいていて。

 

「もう、朝ですね」

「そうね」

「そろそろ私を起こしに来る時間なので、お話はここまでですね」

 

 寂しそうに私を見つめるアイリスに私は。

 

「暇があったらまた来るわよ」

「ほ、本当ですか?」

「ええ。アイリスと話をするのは楽しいし」

 

 嬉しそうに笑うアイリスだったが、何かに気づくと暗い顔になる。

 

「でも、アクセルから王都は遠いですよ?」

「ああ。そんなの関係ないわよ」

「えっ?」

 

 その時、扉がノックされる音が聞こえた。

 時間切れね。

 

「またいつか会いましょうね」

 

 指を動かしてスキマをつくって飛び込む。

 後ろからアイリスの驚くような声が聞こえたのは気のせいじゃないだろう。

 例の豪華な部屋に戻ってきた私は、冷えた体を暖めようと思い、お風呂場に向かう。

 少し熱いお湯がいいのよねえ。

 朝風呂さいこー。

 ふう。

 お風呂を堪能した私は冷蔵庫から飲み物を取り出し、ソファーに座った。

 

「いいわね」

 

 こんなに素晴らしい朝を迎えたのははじめてかもしれない。

 王都に旅行に来て、初日は大成功。

 二日目もここまでは最高の流れよ。

 

「ふふっ」

 

 飲み物をグラスに注ぐ。

 もうここまで来たら誰にも邪魔されない。

 アクアが起きても風呂に行かせればいい。

 めぐみんとダクネスが来ても、二人はお風呂に入ったあとで寝ぼけてないだろうから、私の時間を壊すことはない。

 この優雅な時間を壊せる奴なんかいない。

 むしろ壊せるなら壊してほしいものだわ。

 私はグラスに口をつける。

 

『魔王軍襲撃警報! 魔王軍襲撃警報! 騎士団はすぐさま出撃。冒険者の皆様は、街の治安維持のため、モンスターの侵入を警戒して下さい。高レベルの冒険者の皆様はご協力お願いします!』

「んぶふっ!」

「なにー、うるさいんだけどー」

 

 は、鼻に飲み物が……!

 痛い! 地味に痛い!

 うー……。

 

「あうっ、鼻がー」

 

 絶対に許さない。

 この世界に来て、最高の朝をぶち壊すなんて。

 絶対に許さない。

 何があっても許さない。

 私はオオカネヒラを手に取る。

 扉の向こうから慌ただしい足音が聞こえ、ノックがされる。

 荒々しく扉を開けて、二人が入ってきた。

 

「レイム、今のを聞いたか!?」

「私達の出番で、す……よ?」

 

 めぐみんの声が後半に行くにつれて小さくなったけど、どうしたのかしら。

 

「ええ、聞いたわ。魔王軍だっけ?」

「「は、はい」」

「滅ぼしてやる!」

 

 スキマ移動して、王都上空へ出る。

 魔王軍、魔王軍はどこよ!?

 あれか!

 あの黒い塊か!

 経験値のくせによくも最高の朝を壊してくれたものね。許さないわ。

 というわけでそこまでスキマ移動よ。

 オオカネヒラを鞘から引き抜く。

 私の視線の先には無数のモンスターがいる。

 魔王軍とだけあって、モンスターを従えることができるようね。

 

「き、君! ここは危ないから下がりたまえ!」

「お断りよ」

 

 後ろから騎士が声をかけてきたが、冷たく返す。

 どうやら魔王軍が引き連れるモンスターの中には雑魚に分類されるのもいるようだ。

 強そうなのは数が少ないものの、全体的に散らしてある。

 魔王軍はゆっくりと進行している。

 ここでさっきの騎士にまた話しかけられる。

 

「断るではなく……。それとも君は高レベル冒険者なのか?」

「邪魔よ」

 

 こいつうっさい。

 殴り倒そうかな。

 と、思っていたら、魔王軍の中から、牛の頭に人身のモンスターが飛び出してきた。巨大な斧を持っていて、図体に似合わずはやい。

 

「み、ミノタウロスだ!」

 

 悲鳴のように叫んで、後ろの騎士は私からはなれる。やっといなくなったわね。

 スキルを発動し、セイバーを刀に纏う。

 準備してもまだ距離がある。

 ……。

 

「『ライトニング』!」

「ンモオオオオオオオオオオ!!」

 

 ミノタウロスとかいうモンスターは虹色の雷に貫かれて絶命した。

 走ってきた勢いで倒れて地面を何度も転がって、ようやく止まった。

 それを見て、私の背後にいた騎士達が。

 

「な、何て魔法だ!」

「すげえ!」

「それにあの剣を覆う魔法からも強い魔力を感じるぞ!」

「あの子、あんなに強かったのか……」

 

 驚嘆の声を上げた。

 また出てくるかもと様子見するが、ミノタウロスのように飛び出てくるのはいなかった。

 じゃ、狩りましょうか。

 私は飛び出る。

 

「「ああっ!?」」

 

 魔王軍の方も一人で突っ込んでくるとは思っていなかったらしく、若干驚いている。

 最前列のモンスターを数体切り裂く。

 右手を半円に振るって。

 

「『インフェルノ』!」

 

 虹色の炎で、広い範囲でモンスターを焼き払う。

 炎があると私も進めないので、一度後退する。

 モンスターは炎を避けて進む。それらに向かって斬撃を飛ばして切り裂く。

 

「グルルア!」

 

 赤い毛並みの虎のような大きいモンスターが数匹で向かってきたからインフェルノで焼き払った。

 わあ。

 凄い効率よくモンスター倒せて経験値稼げる。

 

「な、ななな何なんだあいつは!?」

「今までいなかったぞ、あんな奴!」

 

 魔王軍が酷く慌てていた。

 私による被害なんか全体で見たら微々たるものなんだから慌てるなと助言したい。

 と、ここで最初のインフェルノが姿を消した。

 

「『トルネード』」

 

 風の竜巻を撃ち込んでモンスターを大量に倒す。

 竜巻に飲まれ、上空へと巻き上げられ、遠くへと飛ばされる。それらは下にいたモンスターと衝突する。

 うーん。

 ルーンナイトになったからか、魔法の威力が上がってる気がするわ!

 

「『トルネード』」

 

 もう一つ撃ち込む。

 あちこちにモンスターが落下するという不思議な現象が起きる中、ようやく人が揃ったらしい。

 

「な、何だありゃ!?」

「さっきから凄い魔法使ってますよ!」

「お前ら働けよ!」

「いや、その、あれ!」

 

 後ろが騒がしくなる。

 お前らも働け。

 ここで後ろから聞き慣れた声がする。

 

「「「レイム!」」」

「今頃来たの……って、あんたらどうやって来たの。高レベルでもないのに」

「まあ、その辺はあとで話しますよ。今は魔王軍ですよ。さあ、私の必殺の魔法を」

「やるなら他でやってね。今トルネードあるから」

「……じゃあ、あの辺の強そうなの固まってるところに撃ってきますね」

 

 めぐみんはアクアを連れていく。

 これからを想像してか、上機嫌に鼻歌を歌い、杖を振り回している。

 あっちは大丈夫ね。

 残されたダクネスを見る。

 

「私のところだと巻き込むから、アクアに支援魔法かけてもらって、別のところで活躍してきて」

「ん。レイム、油断するなよ」

「してたって余裕よ」

 

 私の返事にダクネスは安心しきった笑みを見せ、アクアとめぐみんのところへ走る。

 少ししてめぐみんの爆裂魔法が魔王軍に撃ち込まれた。

 爆裂魔法の強大な威力によって、撃ち込まれた場所にクレーターが生まれる。

 魔法を撃っためぐみんは当然のように倒れるが、それは後ろに控えていた騎士に回収され、安全な場所に運ばれる。

 めぐみんの魔法に、まるで勇気づけられたように冒険者と騎士が駆け出す。

 私の魔法がある場所以外に。

 来たら巻き添えになるだけだからね。

 

「トルネードがあるからモンスターが他に逃げて……んんっ?」

 

 トルネードに飛ばされず、私に向かってくる巨大な人型のモンスターが目に映る。

 岩の体を持つモンスターだ。何かしら、あれ。

 

「何て大きさのゴーレムなんだ!」

「あんなのがいるなんて!?」

「助けに入んないとヤバくないか?」

 

 セイバーをドラゴンを倒した時ぐらいまで高める。

 これで巨大ゴーレムも余裕ね。

 間合いに入ると、ゴーレムは拳を振り上げ、私に殴りかかる。

 あまりにもわかりやすい。

 地面を陥没させるほどの威力はあっても、分かりやすすぎるから簡単に避けられる。

 ゴーレムの拳に飛び乗り、駆け上る。

 それに気づいて、私を逆の手で捕まえようとしてきたので、その手を薙いだ。

 地面に落下し、大きな衝突音を出した。

 そこそこ硬いけど、切れないほどじゃないわね。

 速度を上げて、ゴーレムの頭部に迫る。

 私を振り落とそうと、腕を振るが、その時には肩の近くまで来ていた。

 肩へと飛び移る。

 それで死角に入ったらしく、ゴーレムは私を振り落とせたと勘違いしたようだ。

 その大きな隙を利用して、頭に接近して刀を思いっきり振るう。

 頭を斬り飛ばされ、ゴーレムは力を失ったように倒れる。

 私は飛び下りるタイミングを見極め、地面に降り立つ。

 

「一撃で仕留めたぞー!」

「とんでもねえ冒険者もいたもんだ!」

「今日は楽勝だな!」

 

 トルネードが両方消える。

 もはや自然災害を受けたかのようになっているが、それだけ魔法が強いということだ。

 上級魔法が使えると、魔法耐性が高くない敵は一方的に倒せる。

 魔王軍の一人が焦りながらも声を張り上げる。

 

「ええい! 遠距離攻撃だ!」

 

 ゴーレムが敗れて、接近戦が無理と判断すると次は矢や魔法を放ってきた。

 氷の壁を展開して攻撃を防ぐ。

 前にウィズがやったのと同じものだ。いや、これは本当に便利ね。

 

「ほ、本当に何なんだあの変な格好の女は!」

「紅白の悪魔だ!」

 

 もはや嘆くように怒鳴っていた。

 ていうか、私だけが飛び抜けて危険みたいに言ってるわね。

 やめてほしいわ。

 氷の壁を敵の攻撃が叩く中で。

 

「いいぞ! このまま抑え込め!」

「へっ! 案外大したことないな」

「やーい、お前の胸崖っぷちー」

 

 あとで殺す。

 私は先にアクアとダクネスを確認する。

 ずっと放ってたけど、あいつら大丈夫かしら。

 うーん……。

 ダクネスは持ち前の硬さで敵の攻撃を受け止め、しかもスキルを使って引きつけてるっぽい。

 アクアはアンデッドを倒したり、ダクネスや他の冒険者に回復魔法をかけたりと、活躍、活躍!? あのアクアが活躍してるじゃないの!

 

「へいへーい、びびってんのー?」

「お前の肝っ玉と胸の小ささ同じぐらーい」

 

 その煽りを聞いて、他の冒険者と騎士は。

 

「うわあ、あいつらだせえ!」

「卑怯だぞ、てめえら!」

「お前らの肝っ玉はしょぼい玉玉サイズだろ!」

 

 非難を次々と浴びせた。

 安全なところから煽ってくる魔王軍の方達に私が言うことは一つよ。

 

「死刑」

 

 そもそもあいつらが調子に乗るのは、私がここから動けないと思ってるからだ。

 そろそろ殺しましょう、そうしましょう。

 私は宙に浮く。

 後ろから驚きの声が上がる。

 

「「「おおおおっ!」」」

 

 敵はそれに気づいてはおらず、私の胸をひたすらにばかにしてる。

 なぜ胸を執拗にばかにするのか……。

 

「死ね! 『ファイアーボール』!」

 

 虹色の炎の玉をばか二人に放つ。

 それを見てばか二人はにやりと笑った。

 私の魔法は透明な壁に遮られ、二人に届くことはなかった。

 結界か。

 

「ふはははははは!」

「何の対策もとってないと思ったのか? やはり胸が小さいと脳みそも小さいんだな!」

 

 だからあいつは何でいちいち胸を絡めてくるの。

 そして、空を飛んでる事実に気づかないの?

 

「あーん、私のお胸どうやったらおっきくなるかなー?」

「うーん。こんなお子様サイズじゃ恥ずかしいわ」

 

 胸の前の手を上下に動かして、平らであると誇張するばかども。

 殺す。

 あいつら絶対に殺す!

 結界ごとぶっ殺す!

 威力の高い攻撃……ああ、面白いのがあったね。

 右手を前に出す。

 

「弾幕はパワーだっけ? 『マスタースパーク』!!」

 

 見慣れたその魔法は、何の根拠もなかったけれど、再現できるとは思った。

 もしかしたらその魔法は私が一番よく見たものかもしれない。

 右手の前に魔法陣が浮かび上がり、そこから極太のレーザーが発射される。

 超火力の魔法は結界を一瞬で貫き、雑魚を葬る。

 手を上に動かして最後列まで消し飛ばしたところで魔法は消えた。

 

「ざまあみろ」

 

 

 

 魔王軍との戦いが終わった。

 今回は久しぶりの快挙だとか。

 だからなのか、城へ向かう途中で様々な人から褒め称えられる。

 その声に誰もが誇らしい顔つきになる。

 今回は珍しくみんなが活躍した戦いだ。

 めぐみんの魔法は強いモンスターが集まってた場所を撃ち抜いていたらしい。強いモンスターは全体的に散らしてると思ったが、どうやら見た目と違って強いのがいた模様だ。

 次にアクア。こいつは性能だけは本物ということもあって、大活躍した。アンデッドを浄化したり、怪我人を回復したり。

 次にダクネス。地味ではあるが、敵を引きつけて攻撃を一身に受け止めた。そのおかげで負傷者を減らせたようだ。

 こいつら大規模な戦闘だと役に立つのね。

 そして私はレベルが5になった。

 ドラゴンの経験値ではレベル4になってなくてがっかりしてたのだが、どうやら4になる直前だったらしい。

 そのため今回の大量経験値によって私は一気にレベル5に。

 いやあ、経験値たっぷりでよかったわ。

 ステータスの伸びも落ちてないし。最高。

 で、私達は今城の前にいる。

 他にも戦いに参加した人達がいるけど、先頭にいるのはなぜか私達だ。

 そんな私達のところに白スーツの女性が駆け足でやって来て、ダクネスに話しかける。

 

「ダスティネス卿、無理を言われた時は不安だったが、蓋を開けてみたら大活躍とのことでほっとした」

「心配をかけて申し訳ない。だが、言った通りだったろう?」

「ええ。めぐみん殿の爆裂魔法による奇襲、アクア殿の回復魔法、ダスティネス卿は多くの敵を前にしても引かずに攻撃を受け止める。どれも見事だ」

 

 ダクネスのことをダスティネスと呼んでるところを見るに、ダクネスは偽名か。

 偽名を使う理由はやはり……。

 

「ふうん。やっぱダクネスは貴族だったのね」

「隠しててすまなかった。しかし、どこで私が貴族だと知ったんだ? めぐみん、話したのか?」

「いいえ。何も話してませんよ」

「宿屋の支配人いたでしょ。あの人のあんたに対する態度が普通の客とは違う気がしたから、貴族かなって思ったのよ」

 

 そんな小さなことでとダクネスが呟く。

 私の話を聞いた白スーツは。

 

「いや、素晴らしい。些細なことから真実を見抜くとは。聞けば、あなたはドラゴンスレイヤーの称号があるだけでなく、魔王軍幹部ベルディアと渡り合うことができたとか! そして、今回の戦いにおいても巨大ゴーレム、ミノタウロスと凶悪なモンスターを倒したと聞きます」

「あれってそんな強かったの? ミノタウロスなんて突っ込んできたからやっつけただけよ」

 

 ンモオオオオオオオオオオ! とか叫んで死んでったわよ、あいつ。

 あまり実感が湧かない私に、白スーツは驚きと興奮の眼差しを向ける。

 

「クレア殿、そろそろ」

 

 ダクネスはクレアの後ろから人が十数人来たのを見ると、声をかけた。

 クレアはこほんと咳を吐くと、先程までの表情はどこへやら。キリッとした顔になり、凛々しい声で。

 

「騎士団並びに冒険者諸君! 此度はご苦労であった! 諸君らの活躍により今回も王都は守られた! この国を代表し、アイリス様は王都を守った皆に深く感謝すると仰せだ! 今回の報酬は期待してよいぞ!」

 

 アイリス……。

 あっ、いた。

 アイリスは私を見ると目を大きく開いた。

 そんなに驚かなくても。

 私はアイリスに向かって小さく手を振る。

 それにアイリスは嬉しそうに笑う。

 

「レイム、今の聞いた? 報酬いっぱいくれるって!」

「うん。けど、使い道がねえ……」

 

 不思議なもので、幻想郷ではお金を頑張って稼いでいた私だが、こっちに来てからはお金への執着心が希薄になっている。

 幻想郷にいた頃は少ないお金で色々やったけど、こっちではそうじゃないし。

 それに何か討伐すれば簡単に大金が入ってくるから困らない。

 豊かになると執着心って薄れるのね。

 

「私は杖の強化か魔道具を購入する予定ですよ。爆裂魔法を更なる高みへ至らせたいですからね!」

 

 魔道具。

 それは魔法の力が込められたマジックアイテムだ。 お金はあるし、めぐみんと一緒に買い物しようかな。面白いの見つかるかもしれないし、お金を腐らせるのも嫌だ。

 そう思って、視線を前に戻すと、アイリスがクレアに何かを言ってることに気づいた。

 

「なるほど。かしこまりました」

 

 何か言われると思い、報酬について話してた人達は静かになる。

 

「今回の大きな戦果は近年稀に見るものである。そこで、それほど大きな戦果を持ち帰った諸君らを労う宴を開きたいとアイリス様は仰せだ! 明日の夕刻まで体を休め、また城に来るがよい。また今回の報酬に加え、大きな活躍をした者には特別報酬を与えるつもりだ。以上だ、此度は本当にご苦労であった!」

 

 おおお! あちこちで声が上がる。

 特別報酬と聞くと、自信があるものは歓呼の声を上げる。

 特別報酬……、変なのじゃなきゃいいな。

 その場にいた冒険者は喜色満面に、思い思いにその場を去る。

 

「レイム殿並びに皆は残ってもらいたい」

「ふあっ」

 

 不意打ちだったから間の抜けた声が出た。

 頬が熱くなる。

 クレアは一瞬きょとんとしたが、くすくすとおかしそうに笑う。

 

「獅子奮迅のような活躍をされたレイム殿も無防備なところがあるのですね。あなた達の話が聞きたいとアイリス様が仰せです」

 

 アイリスは期待するように私を見ている。

 少しだけそわそわしているのがわかる。

 

「今日は城にお泊まりになればよいでしょう。皆様の荷物はこちらでお運びします」

 

 泊まる場所がレベルアップした。

 

 今朝、城の壁があまりに綺麗なことに戦慄した私だったが、城内を見てまたも戦慄する。

 外がとても綺麗なんだから、中は当然綺麗よね。

 クレアに案内されて、私達は広い部屋へ。

 室内にある調度品はどれも高そうなものに見える。一つでも壊したら大変なことになりそうだ。

 テーブルを挟んで向かい合う大きなソファーに私は座ると、隣にアイリスが来た。

 これにはダクネスだけでなく三人も驚きを隠せない。

 

「アイリス様? まだ話をされたこともない冒険者の隣に座るのはいかがかと」

 

 そんなクレアの言葉にアイリスは何でもないように。

 

「話はしました。とても楽しい人と記憶しております」

「たくさんしたわね」

「おい、レイム。もう少し言葉遣いを」

「構いません。自然体で話をして下さる方が私としては嬉しいです」

 

 にこにこと笑いながら私を見上げるアイリスの頭を何となく、髪型を乱さないように撫でてみる。

 凄く嬉しそうにしてくれた。

 ……これが妹って奴かな?

 妙になついてるアイリスにクレアが尋ねる。

 

「あの、話をされたとはどういう……」

「レイム様は夜明けぐらいに私の部屋の外を飛んでいまして、その時に声をかけたのです」

「と、飛んで? そういえばレイム殿が空を飛んだという情報が……」

「もしかしたら夢かもと思い、胸に秘めていました。しかし、魔王軍との戦いから帰ってきた者達の先頭にはレイム様がいて、本当に驚きました」

 

 それであんなにびっくりしてたのね。

 てか、夢と思われてたのね……。

 私はアイリスの両頬を掴みむにむにする。

 

「あ、あにするんですか」

「人を夢扱いしたし」

 

 別に気にしてないけどね。

 アイリスの頬っぺた柔らかいわね。

 私に遊ばれてるのが気に食わなくなったのか、アイリスも私の頬を掴んできた。

 私と違って引っ張る。

 

「なあ、レイム。空を飛んで散歩したっていうのはどういうことなんだ?」

「よあえにしょりゃろんれ」

「すまん。一旦遊ぶのやめてくれ」

 

 私はアイリスを見る。

 手をはなせと、頬っぺたを引っ張って伝えるが、アイリスはそっちがやめたらとばかりに引っ張ってきた。

 ……こいつめ。

 私達はお互いの頬に攻撃をする。

 

「おい」

 

 怒り顔のダクネスがそこにはいた。

 私とアイリスはそれを見て、しょうがないとばかりに手をはなした。

 

「しょうがないわね。えっと、何だっけ?」

「お前が空を飛んで散歩したことについてだ」

「ああ。夜明けぐらいに目が覚めて、空の散歩をすることにしたのよ。で、ついでにお城も見て帰ろうとしたらアイリスに見つかって、誰か来るまで話をしただけよ」

「だ、だけよで済まされるわけないだろ! お前のやったことは立派な犯罪だぞ!」

 

 犯罪……。

 犯罪だって言われてもなあ。

 

「そんな小さいことで……。別に建物の中に侵入したわけでもないんだから、そんな怒んなくていいじゃないの」

「怒るわ! 城への不法侵入は重い罰が下る! ああああ……。こんなの常識じゃないか」

 

 他人の敷地に入ったのがそんなにいけないのか。  ちょっと通っただけじゃないの。

 

「お前、逮捕されても文句言えないぞ」

「逮捕? ああ警察とかいうのが、暴れるチンピラを捕まえることよね」

「今回の場合もお前は逮捕される」

「暴れてないのに!? 横暴すぎない?」

 

 暴れたりとか泥棒したりとか迷惑かける奴が逮捕されるのはわかるけど、私悪いことしてないんだけど。

 散歩をしてただけなのに。

 不法侵入とやらで説教する程度なら理解できなくもないが、逮捕は理不尽すぎる。

 

「それほど城への侵入は重大なことだ。レイム、お前だって子供じゃないんだからそれぐらいわかるだろ」

「はあー……。そんなものでねえ。私のいたところはそんなのなかったけどなあ」

 

 それに全員が驚きの表情を見せる。

 そもそも私の神社に勝手に住み着く奴とかいたぐらいだし。

 それに勝手に部屋に入ってくるのもいたし。

 ここのルールだとそいつらみんな逮捕になるんじゃないかしら?

 アイリスが恐る恐る聞いてきた。

 

「レイム様のところはどうなっていたのですか? その法律とか」

「そんなのないわよ。いくつかルールはあったけれど、そんなもんよ」

 

 これにみんなの顔が引きつる。

 それにしても法律ねえ。

 そういえばギルドで誰かが法律はくそとか言ってたのを聞いたことがあるわ。

 普通に暮らしてれば無縁だからすっかり忘れてたわ。そうか、法律があるのね。

 面倒だなと思っていると、ダクネスが溜め息一つ吐いて言ってきた。

 

「お前が特殊な場所に住んでいたのはわかった。しかし、他人の土地に無断で侵入するのは罪になる。これからはしないでくれ」

「しょうがないわね。もっと高いところを飛ぶわ」

「違う! そうじゃない。高さの問題じゃない」

 

 ダクネスが泣きついてきた。

 高ければ見つからないから問題ないと思うんだけど……。

 めぐみんは冷や汗を流しながらも、フォローするように。

 

「きっとレイムは秘境とかそのような場所で育ったのでしょう。あまり外部と接しないから、法律に疎いのでしょう」

 

 両手を落ち着きなく動かしながら言うめぐみんを見てクレアは顎に手を当てる。

 

「ふむ。本来なら何らかの形で処分をとりますが、法関連が未熟な土地出身で、悪意もない。……これまでの活躍を考慮して不問としましょう」

「寛大な措置を感謝します」

 

 ダクネスが深々と頭を下げる。

 よくわかんないけど助かったようだ。

 これからはちゃんと高く飛ぼう。

 隣のアイリスは胸に手を当ててほっとしている。

 

「それに空からとはいえ、簡単に侵入を許し、見逃したのは知られるわけにはいきませんからね。今回のことは空からの攻撃に備えよ、という教訓にします」

 

 問題が片づいたところで、アイリスが聞いてくる。

 

「今回レイム様は活躍されましたが、今のレベルはおいくつなんですか?」

「そういえばダスティネス卿からは仲間が戦場に行ったとしか聞いてませんでしたね。強力な魔法を次々と使いこなしたと聞きます」

「それほどの方ならきっとお高いとは思いますが」

 

 二人は私のレベルに謎の期待を寄せているようであった。

 そんな二人に私は現在のレベルを自信満々に言った。

 

「5」

「「5?」」

「そうよ。今回ので5になれたのよ」

 

 ちなみにダクネス達は、あれだけ大量に倒して、しかも前回ドラゴン倒したのにまだ5なのかと驚きを見せている。

 もしかしてこいつら今回の戦いでそこそこレベル上がったとか、そういうパターン?

 私がこんなに苦労して5になったのに、こいつらは簡単にレベルが上がるなんて……不公平よ。

 

「レイム様も冗談がお上手ですね」

「本当のことよ。ほれ」

 

 冒険者カードをアイリスに渡す。

 それを見て、どういうことなのと私を何度も見る。レベルの次はステータスに目が行き、それを見るとこれは納得という顔になる。

 最後にスキルを見て、だからどういうことなのと私を揺らしてきた。

 アイリスは焦るような声で聞く。

 

「スキルは切れ味アップと斬撃飛ばしの二つしかなく、レベルは本当に5。それなのにステータスはとても高い。魔力なんて見たことない数値になってるんですが!」

 

 アイリスからカードを取り返す。

 

「レベルは本当に上がらないのよ。ステータスはその分高いんだけど……。スキルはそれしかとってないから、二つしかないのよ」

「しかし、魔法を使われたと聞きます! これはどういうことなのですか!?」

「レイムは私達とは異なる手段で魔法を使っているんですよ。ちなみに聞いても理解に苦しむので聞かない方がよいかと」

「本当にレイム様は何なのですか? 私はあなたのような方を見るのははじめてですよ」

「わかる。わかるわ。私も実はレイムさん人間やめてんじゃないかって思ってるもの」

「こら」

 

 アクアにつっこみを入れるけど、ダクネスとめぐみんもアクアに同意見と腕を組んで頷いている。

 どうしても私を人間の枠から外したいようだ。

 私が何をしたというのよ。

 不当な扱いにむくれると、アイリスがおかしそうにくすくすと笑う。

 

「本当に仲がよろしいんですね」

 

 何だかんだでほぼ毎日一緒にいるから仲は悪くないと思う。

 でも仲よしかと言われれば微妙だ。

 

「何だかんだで組んでから色んなことをしてますね。今回の魔王軍もそうですよ。レイムは凄い気迫で戦いに行きましたよね」

「あいつら私が最高の朝を迎えて気分よくしてたのに、ぶち壊してくれたからね。仕返しに行ったわけよ」

「どう考えても仕返しの規模じゃなかったんですけど!」

「途中から魔王軍はレイムから逃げてたぞ」

「どう攻めてもやられてますからね。魔法耐性あるモンスターは切り裂かれ、そうでないのは魔法で葬られ……。数で攻めても焼き払われ。逃げれば光線が飛んできて……」

「本当めちゃめちゃだったわね」

 

 三人はまるで遠い過去を懐かしむように話す。

 その反応はまるで、嵐が過ぎ去ったあとのようで、今回は凄かったなー、と話す人みたい。

 そんなに私は暴れてたのかしら?

 

「さて。そろそろ本題に移りましょうか。私にレイム様達の冒険をお聞かせ下さい」

 

 私達を楽しげに見ていたアイリスは笑みを深めてそう言った。

 

 

 

 夜。

 食事やら入浴やらお話が終わり、客用の部屋に通された。

 大きなベッドに座り、足をだらりと下げる。

 

「さて、と」

 

 目をすっと細めて、右手を顔の前に持ってくる。

 みんなの顔が見たいと思ってからは、こうして一人になった時はスキマをいじっている。

 幻想郷に繋げないものかと試してるが、何の成果も得られていない。

 私の力ではそこまでのことはできないのか、それとも経験不足だからなのか、この世界で完結している。

 しばらくスキマをいじり続けたが。

 

「ふわ……」

 

 単純作業になっているのと、魔王軍との戦いの疲労が重なり、私の眠気は最大限に達した。

 強い眠気のせいでしていることも定かでなくなる。

 一瞬眠りに落ちるも、頭がかくんと下がってはっとなって起きる。

 

「ふわあー……」

 

 もう眠くて無理よ。

 寝よ寝よ。

 

 お城でお泊まりするというレアな体験をした私は、朝食を食べると、めぐみん達と一緒に買い物に出た。

 世の中には魔剣のように、不思議な力が込められた魔道具が存在する。

 それらの中には特定の属性の威力を上げたり、装備者の幸運度を上げたり、或いは日常生活に使われるものだったりと様々ある。

 私が求めるのは当然魔法の威力を上げるものだけど、それがまあ困ったことに高い。

 一つの属性の威力を増加させる指輪でも最低二千万エリスからだ。これが複数の属性になると数千万エリスからになる。

 

「高いとは聞いていたが、ここまでとはな」

 

 ダクネスは驚きを隠せずにいる。

 

「レイムは様々な属性を操りますからね。お金はいくらあっても足りませんよ」

「最安値で二千万。でも、この程度じゃ買うだけ損なのよね。あの二億するものならレイムさんに少しは釣り合うと思うの」

 

 アクアの言う指輪は光と雷属性の威力を増加するものだ。しかし、流石に二億はない、

 かといって安いものでは期待も薄い。

 値段の差は性能の差に直結するだろうから……。

 満足のいく性能のものとなれば私の場合は数億かかることになる。

 どうやら私は金のかかる女みたいだ。

 

「めぐみんは買わないの?」

「爆裂魔法は複合属性ですからね。片方だけでは意味がありませんし、むしろバランスが崩れるのでつけられません。複数の属性を有する指輪は高すぎますし、安いのもどれほどの効果が見込めるかわかりません」

 

 安いのだとそんなにって感じがするのよね。

 ないよりはマシ程度だと思うのよ。

 本当に効果が実感できるのは……、単独で数千万、それも五千万エリスから。そんな気がするわ。

 

「こんなにも高いんじゃね……」

「なーんでこんなに高いのかしらね」

「何代にも渡って使うのを織り込んでいるのだろう。数億エリスのものなら家宝にもなるからな」

 

 そういうのを見越しての値段か。

 現実の厳しさに私は思わず溜め息をこぼした。

 魔法の威力関連は諦めて、他の指輪なり腕輪を見るが、装備するだけでステータスアップするようなものは高い。

 買えるのはそれこそ成功してる人だけよ。

 すっかり買う気が失せた。

 そうなると見るのもどうでもよくなり、残った五千万エリスで何ができるかを考える。

 お城に泊まったり、いいお部屋に泊まったりした。それで思ったのは、今泊まってる宿屋の部屋がちっぽけってこと。

 

「残ったお金でいいところ探そっと」

「何の話だ?」

「ん? 残ったお金で小さくてもいいから家を買おうと思ったのよ」

 

 大きな屋敷には憧れるけど掃除は大変そうだからね。小さな家でいいや。

 私の話を聞いた三人は。

 

「家ねえ。考えたこともなかったわね」

「冒険者はあちこち旅しますからね。しかし、レイムの力なら色々な場所に行けます」

「ドラゴン討伐の時は野宿したが、レイムのあれがあれば家に戻って休み、次の日は進んだ地点から再開することも可能だ。レイムの力を考えた場合は確かに家を持った方がいいな」

 

 勝手に話を進めないでよ。

 

「そういう目的で買うわけじゃないんだけど。のんびりする目的で買うんだけど!」

「しかし、我々は冒険者ですよ。それにレイムの望んだ通り、アクセルでのんびりしながらやれますよ」

「どんな遠出も家に戻って休める。次の日になったら旅の再開が可能。討伐後はすぐに街に帰れる。これならゆっくりと進めてもいい。往復二週間の依頼なら行きで一週間になるわけだが、レイムの力があれば行きに二週間かけてゆっくり進んでも、往復した時と時間は変わらない」

「丸め込もうたってそうはいかないわ。私が家に求めるのは安らぎなのよ。冒険に利用したいから買うんじゃないのよ」

 

 騙されないわ。

 こいつら私の力と家を狙ってるんだわ。

 アクアは話しが難しくてついていけなくなり、近くの指輪を眺めている。

 最後の最後で私に害を与えないのはアクアなのね。盲点だったわ。

 

「あんた達が私と私の家を都合よく利用しようとしてるのはお見通しよ!」

「人聞きの悪いことを言うな! 前にお前が言ったじゃないか! 楽して経験値を稼ぎたいと」

「モンスターが街まで来るわけでもなく、遠出もしないわけではありませんが、この方法なら楽に経験値を稼げますよ」

 

 私が疑いの目をやめないでいると。

 

「どうせ家を買うなら私達が住む家にしましょう。それぞれお金を出しあっていい家を買おうではありませんか」

 

 めぐみんがそんなことを言ってきた。

 四人で住めば、掃除も分担されるだろうから、少し大きい家でも問題なくなるわね。

 それに私だけのお金で買うわけでもないし。

 大きい家か……。

 

「悪くないわね」

「でしょう? アクセルに戻ったら我々の拠点を探しましょう」

「今拠点って言った?」

「いいえ。お家と言いました」

「レイム、我々の資金ならそれなりの家は購入できるはずだ。家具もいいものが揃えられる。いい家にしよう」

「そうね。住みやすいお家にしましょう」

 

 お風呂は大きめがいいかな。

 四人で住むなら部屋は四つと居間もあれば文句なしね。

 住み心地のいい家にしたいわ。

 のんびりとお茶を飲めるならベストよ。

 

「そうと決まれば早速アクセルに戻りましょう」

「いや、今日は宴がある。それにアイリス様達に挨拶なしで帰るのはだめだ」

 

 ああ、宴なんてものがあったわね。

 すっかり忘れてたわ。

 

 アクセルで家を買うと決めてから数時間後、夕方になったので私達は城に戻ってきた。

 宴の時間となり、パーティー会場へと移動する。

 魔王軍との戦いに参加した冒険者達が集まり、貴族も参加する宴は人が多い。

 この宴は私が想像したものとは違っていて、宴会を可能な限り上品にしたような感じである。

 みんなとことんお酒を飲むことはしない。してるのは一部の人とアクアぐらいだ。

 ダクネスは貴族連中に囲まれてちやほやされている。

 めぐみんは魔法使いっぽいのに囲まれ、自分は最強の攻撃魔法である爆裂魔法しか愛せないから、他の魔法に興味ないとか格好つけて語っている。

 アクアも冒険者に囲まれ、褒め称えられているが、結構酔ってるからまともに話せていない。

 私も冒険者に囲まれ、褒め称えられて気分をよくしてたけど、終わりが見えないから疲れてしまう。

 周りに断りを入れて、私は露台に出る。

 お酒は満足に飲めないし、ご馳走も食べられないんじゃ疲れる。

 私にはパーティーよりも宴会の方が合ってる。

 露台には小さなテーブルと椅子がある。

 テーブルにお酒とご馳走を置いて、座り心地のいい椅子に腰かけて月を見上げる。

 雲がなく、月がよく見える。

 冷たい空気は雰囲気をつくるけど……。

 

「流石に寒いわね」

 

 火属性と風属性を使い、体を温風で包み込んで寒さから身を守る。

 こういう時、私は自分の魔法が便利でよかったと思える。

 

「こんなところで何をしてるんですか?」

 

 アイリスが、お酒を持つクレアと魔法使い風の女性を連れてやって来た。

 

「ずっと話しかけられたから疲れてね。それに月がこんなにも綺麗だからね、眺めたくなったのよ」

「パーティーははじめてでしたっけ。クレアにいいお酒を持ってきてもらいましたので、こちらをどうぞ」

「流石。気が利くわね」

 

 アイリスは向かいに座る。

 クレアが持ってきた酒を飲むためにグラスを空ける。

 テーブルに置かれた酒をグラスに注いで、と。

 

「おっ。重厚で飲みやすいわね」

 

 この世界に来て、一番美味しいと感じたお酒だ。

 私好みの味だ。

 私の反応を見て、アイリスは笑む。

 

「お口に合ったようで何よりです。それはそうと先ほどララティーナから聞いたのですが」

「ララティーナ? ララティーナって誰?」

「えっ!? レイム様の……、ダクネスと言えばわかりますか?」

「あいつララティーナって言うのね。そういえば名前聞いてなかったわね」

「一応教えておきますが、彼女はダスティネス・フォード・ララティーナ。ダスティネス家は王族の懐刀と言われるほどの貴族です」

「へえ。あいつそんなにいいとこなんだ。何で冒険者なんかやってんのかしら」

 

 ここからでもダクネスは見える。

 イケメンに囲まれてちやほやされている。

 若干面倒臭そうというか、疲れてる感じが出てるが、それに気づく貴族は誰もいない。

 

「おそらく冒険者となって民をモンスターから守りたいと考えてのことでしょう」

「あいつらしいわね」

 

 アイリスの言う通り、確かにダクネスならそうするだろう。

 

「話は戻しますが、レイム様達はアクセルに家を購入されるそうですね」

「うん」

「ずっとアクセルで暮らすおつもりですか? レイム様なら王都でも暮らしていけるだけの力はあると思うのですが」

「私はのんびり生きたいの。アクセルならその条件に合うのよ」

 

 私の話にアイリスはあからさまに気落ちする。

 

「どうしたの?」

「王都でしたら、レイム様が活躍すればこうしてお話しすることができますから」

「……私は暇があったらまた来るって言ったわよ」

 

 それにアイリスはばっと顔を上げた。

 

「あんたの部屋の窓の前に来て話をするわよ」

「すみません。流石にそれは色々危ないので、普通に来て下さい」

 

 ちょっとだめ出しをもらったけど、普通に遊びに行けるようにはなった。

 話が終わると、クレアがアイリスに声をかける。

 

「アイリス様、そろそろ中に戻らないと風邪を引いてしまわれます。レイム殿もそろそろ中に戻られた方がよいかと」

「私は平気よ。寒くないからね」

「そんなはずは……。こんなにも寒いというのに」

 

 ここでアイリスは何かに気づいた様子になり、私の隣に来て体に触れる。

 

「やっぱり! レイム様、暖かい空気を纏ってます!」

「じゃなきゃ、いつまでもいないでしょ」

「むうう……。私達にもかけてくれればいいのに」

 

 文句を口にして、ぶるりと震えると。

 

「レイム様も風邪を引かないように」

 

 と残してアイリスはお供を連れて会場へと戻る。

 お供の二人は私に軽く礼をして、アイリスのあとに続く。

 私はそれとなく会場に目を向ける。

 アクアは見えないが、酔い潰れていそうだ。

 めぐみんは魔法使い連中から解放され、何かをちびちびと飲んでいる。お酒かな。

 ダクネスの方は自身がいいところのお嬢様だからか、未だに貴族連中に捕まっている。が、お酒を飲むめぐみんを発見すると、これだとばかりに周りに断りを入れて、めぐみんの下へ駆け寄りお酒を取り上げる。

 そうしてはじまる二人の口論を周りの人達は面白そうに眺める。

 私はいつものがはじまったと思い、月に視線を戻す。

 本当に美しい月夜ね。

 けど……。

 お酒がそこそこ回ると、月夜だけでは物足りなくなり、それならと少しだけ手を加えることにした。

 右の手のひらを空に向ける。

 上手くできるかな?

 

「ま、そこそこでいっか」

 

 それっぽく見えたらいい。

 手のひらから、色とりどりに輝く蝶を次々飛ばして、月へと向かわせる。

 ただ見るためだけの、それしかない光の蝶を次々と飛ばして夜空を彩る。

 月の美しさを損なわぬよう、蝶の光は淡くしてある。

 近くで見たら蝶の形をしてる程度だけど、遠くに行ってしまえば本物のように見える。

 練習すればもっと綺麗になりそうね。

 蝶の群れが月の周りで戯れる。

 

「我ながら上手いことできたわね。流石私」

 

 とても幻想的光景になり、私は満足する。

 お酒が美味しい。

 うーん。これはいいかもね。

 こんなにも美味しく飲めるなら、この遊びを極めるのも悪くなさそうだ。

 

「何をやってるかと思えば……」

「とても綺麗ですね……。忘れられない夜になりそうですよ」

「月夜だけじゃ物足りなくてね」

「とても美しいが、これは人に当たっても大丈夫なのか? お前の使う魔法は」

「見るだけのものよ、ほら」

 

 一つだけめぐみんに飛ばす。

 めぐみんに当たると蝶は弾け、光の粒となって消えていく。

 人に無害と知ると、ダクネスは安心した様子で月の周りで戯れる蝶の群れを眺める。

 

「……さりげなく私で試しませんでしたか?」

「無害と知っててやってるわよ。そうでなきゃ人に飛ばさないって」

 

 まあそれならとめぐみんは文句を言うのをやめて、ダクネスと同じく月を見上げる。

 

「何をしてるかと思ったら、こんなにも美しいものをお見せするなんて!」

 

 会場に戻ったアイリスがとんぼ返りしてきた。

 他にも多くの人が露台に出てきて、幻想的な光景を楽しむ。

 

「いや、素晴らしい!」

「ここまで美しい魔法ははじめてですな!」

「このように芸術的に魔法を使うのは彼女ぐらいですよ、本当!」

 

 みんながみんなが褒め称えてくるものだから、私はもっと凄いのを見せようと思った。

 みんなを驚かせたいと思った。

 

「よーし。王都の空に蝶を羽ばたかせるわね!」

「ま、待て! れ」

「それー!」

 

 気分は高ぶり、やることしか考えていなかった。

 この世界に来てアクアと一緒に過ごしたせいで、幻想郷にいた頃よりも落ち着いて行動していた私は久しぶりにやらかした。

 大量に出した蝶で王都にパニックを起こした。

 幸いにもダクネス達がすぐに手を回したから、パニックは最小限かつ素早く解決したが、私は手酷く怒られた。

 

 翌日。

 私達は帰り支度を終えて、アイリスの部屋に来ていた。

 

「それでは我々はアクセルに帰ろうと思います」

「たまーに遊びに来るから、その時は美味しいもの用意してね」

「はい! その時はまた楽しいお話を聞かせて下さいね」

 

 アイリスが輝かんばかりの笑顔を見せた。

 私達は魔法使いのテレポートによってアクセルへと転送される。




アイリスも出したし、もう心残りはありません。
次は子供に人気があるワシャワシャするのが……。

霊夢「ダンジョン……お宝……」

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