インフィニットストラトス 〈THE GEMINI G MYSTER〉 作:ジャッジ
校舎の床にポタポタと血が滴り落ちる。
それはセシリアのでも信太郎のでもなく、ましてや標的だった烈花の血ではなかった。
「くっ…間に合った、ようだな。」
「る、ルーシィさん?」
割って入ったのはルーシィだった。
彼女は烈花が無事なのを見てから、自らの腹に突き刺さった槍を掴んだ。
「うっ!ぅぅ…ぐぁぁ!」
苦痛の声をあげながら、やっとの事で槍を抜いたルーシィはハイパーΖ炎を解除し、その場にへたり込んだ。
「ルーシィさん!」
「おい、大丈夫…じゃねぇよなやっぱ!」
普通なら、ショック死しててもおかしくない量の血が出ていたが。ナノマシンのおかけでそれは免れていた。
「つまんないの。ただの人間を守るだなんて、女神様もバカだねぇ。」
ふと、束がそう呟いた。無論それが、三人の怒りに火をつけたのは言うまでもないだろう。
「ぷっ、あはは!やっといい顔になったねぇ!そうだよ、その顔だよ。
やっぱり全力じゃないと楽しくないもん、さぁ!もっともっと楽しませてよ!」
「…楽しむ?人を殺すことを?ふざけないで!」
烈花は叫んだ。だが、その事が矛盾していることも分かっている。
彼女だって、戦いを楽しむ戦闘狂だ。
だけど忘れていた、友達が傷つくことが。死にかけの仲間を見るのが。そして、愛する人が危険に晒されるのがどれだけ辛く、苦しく、悲しい事かを。
そして、この事を決して忘れてはならないと言うことを。
「この連鎖を絶対に終わらせる。世界の運命があんたの手にあるなら…私たちが取り戻す!」
「たった一人で何が出来るのさ。どうせやられて終わりなんだから。」
「あなたより弱くとも、あなたのしていることを見逃す理由にはなりません!
だから、全力であなたを倒します!」
「おう、そんで見つけようぜ。俺たちの未来って奴をなぁ!」
「ふふ、そうで…ないとな。」
ルーシィはおぼつかない足し取りで、烈花たちにベルトを渡した。
「リミッターを外しておいた、詠唱なしでもアンリミテッドが使える。
それじゃあ、後はよろしく…な。」
そう言ってルーシィは座り込み、瞳を閉じた。
だが、すぐに寝息に聞こえてきて安心した。少なくとも、今すぐに死ぬような状態では無いようだ。
安堵の感情は置いておく。ここからはもう一度、闘志をたぎらせる時だ。
『変身!』
〈Unlimited Gun Form〉
〈Hi-νForm〉
〈Climax Form〉
烈花はテスタメントアンリミテッド、セシリアはHi-νストライクE、そして信太郎はストライカー無しのアウトフレームDを展開した。
そんな三人を見て束はため息をつき、首を横に振った。
「たった三人で私を相手するの?よっぽど殺してほしいようにしか見えないけどなぁ。
さっきから土壇場の解決案ばっかり、どんどん苦し紛れだねぇ。諦めたら?」
ニヤニヤと見下しながら束はいう。
信太郎は反論しかけたが、セシリアの咎めを受けて飲み込んだ。
それに対して烈花は過剰に反応もせず、ただ冷静に答えた。
「私たちだけじゃ、多分そうしてた。けど今は仲間がいる、そう!」
『一人じゃない!』
烈花の言葉にセシリアが、信太郎が、一夏たち学園組が、カイトたちエンシェント・レギルス組が、ルルーシュたちエターナル組が賛同した。
ここに来て、全員が一つにまとまった。誰に命令された訳でもない、世界を救う為に協力し合い、助け合ってきた。
確かに、束も仲間を作った。けれどそれは表面的なもの、信じるべき仲間にすら真実を伝えず、ただ道具のように扱ってきた。
これが束との大きな違い、信じる事と信じない事の差は歴然だった。
一人では出来ないことも二人なら、あるいは三人、もしくは四人…と、その思いが人々を繋ぎやがて、一つの大きな願いを成就させる。
「くだらない!そんなの私がぐちゃぐちゃに引き裂いてやる!」
「させるかよ!行きな、ファング!ドラグーン!」
慎太郎の声とともに、腰にコンテナ、背中にバックパックが展開され、ファングとドラグーンが飛び立つ。
自身が持つオリジナルストライカーの必要な部位を瞬時に呼び出す。それが信太郎のクライマックスストライカーだ。
『束は烈花とセシリア、初号機は信太郎とヒビヤ、エイラが引きつけろ。
残りは無人機に対応!最終決戦だ、気を抜くなよ!』
ルルーシュの声が終わると同時に全員が散開、各々が敵へと向かった。
烈花はミニガンで牽制しつつ束を追い込む。
やはり先ほど同様、当たり前のように避けられる。
ーー次はセシリアの狙撃…単純だなぁ
束はそう予想し、そして的中していた、が。
「うわぁ⁉︎」
今まで被弾ゼロのエピオンが初めてダメージを受けた。
一発だけならわかる。しかし、それが二発、三発と続いていく。その間にも烈花はアサルトライフル、マシンガン、レールガンとコロコロ銃を変えていく。
「シュート!」
「これでもくらいなさい!」
セシリアはツインビームライフルを、烈花はスナイパーライフルで応戦する。
そして束はやっと気がついた。二人の性能が上がったんじゃない、自分の性能が落ちているということに。
「テスタメントガンダムの、ウイルス送信システム!」
「その通りよ!ISの特徴、プライベートチャンネルで機体にウイルスを流し込む。
テスタメントだけある、正真正銘最後の切り札よ!」
「よくもぉ!」
束は二人の弾幕を物ともせず、烈花に突進する。
ビームソードの乱舞をお見舞いし、烈花もガン=カタで応戦する。
「セシリア!」
「わかりました、いきなさいフィンファンネル!」
セシリアはフィンファンネルを束に襲わせる。
もちろん近くにいる烈花も危険だ。だが彼女は信じていた、セシリアならこの場においてもミスはしないと。
実際、凄まじいほどのコントロールで的確に束だけを狙い撃ちしていた。
この二人相手では、流石の束も防戦を余儀なくされていた。
一方、初号機の相手をしている信太郎とヒビヤ、エイラはA.T.フィールドに悩まされていた。
いくら斬ろうがどれだけ撃とうが、この結界に阻まれて攻撃が通らないでいた。
「クスフィアスIII!ビームマグナム!GNランチャー!ダブルガトリング!」
信太郎は高火力系の武装を呼び出し、その弾幕を初号機に浴びませる。
しかしガトリングはかわされ、残りは全てA.T.フィールドに阻まれてしまった。
「やはりA.T.フィールドを破るしかない。」
「じゃあどうすんだよ!アレを破るにゃMark6くらいじゃねぇとー」
「来たぞ、回避するンダナ!」
エイラはアリスファンネルで防御陣を展開しつつ言った。
ヒビヤもGNフィールド、信太郎はバンシィのシールドを三枚呼び出した。
その瞬間、初号機が吠えた。
「ヴォォォォォン!」
驚異的な跳躍力で跳んだ初号機は、振りかぶった槍でヒビヤを狙った。
その一撃はGNフィールドを貫通し、オーライザーの右翼先端をもぎ取った。
「くっ…!」
けどその時、エイラは見逃さなかった。初号機が使っている槍、それがロンギヌスであることを。
ーーロンギヌスがある。って事は、もしかして…!
突破口が見えた。確認を取るため、エイラは信太郎へと繋いだ。
「おい!初号機はアレの他に、もう一本槍を持ってなかったか⁉︎」
「あっと…持ってたぞ!けど、ありゃ確かルーシィに向かって投げたはずだ!」
だとすれば…とエイラは一時攻撃を中断して計算する。
それは十秒もかからなかった。迷ってる時間はない、この手を使うしか方法が思いつかない、
「信太郎!ヒビヤ!一分だけ稼いでくれ!私に考えがあるンダナ!」
「お、おう!」
「わかった、トランザム!」
トランザムを発動させたヒビヤはGNソードIIIを展開、最大加速で斬りかかった。
「GNバスターソード!ハイパービームジャベリン!アームドDE!」
信太郎も近接戦闘特化の装備に、推進力アップのアームドDEを展開して襲いかかった。
スピードはほぼ互角。これでようやく初号機と同じフィールドで戦うことができる。
「はぁぁぁぁ!」
「オォォォォォ!」
初号機は二人の斬撃をさばきつつ、自身も逆に攻撃に転じる場面もあった。
大きく振りかぶった槍がヒビヤを貫こうと迫る。だが彼は身をかがめてかわし、初号機の背後に回り込んだ。
「セイヤーッ!」
ヒビヤは高速でGNソードIIIを振るう。だが、初号機はロンギヌスをそれ以上の速さで突いた。
ギィィン!
轟音を立ててGNソードIIIが半ばから断ち切られた。くっと歯を食いしばり、ヒビヤはGNソードIIIを捨てる。
今まで戦い抜いてきた愛剣に未練はあるが、今はそんな事を言ってる場合ではない。すぐさまGNソードIIに持ち変える。
「貰ったぁ!」
その時、後ろから迫っていた信太郎がハイパービームジャベリンを振り下ろす。
無論それもA.T.フィールドに受け止められる。けど、それでよかった。
ザシュッ!
空から、一条の赤い光が走り初号機の胸を貫いた。それは、さっきルーシィの腹を刺したのと、まったく同じ槍だった。
「…オイ、一分はとっくに過ぎてっぞ。」
「ふん。時間にうるさい男は、嫌われるンダナ。」
初号機より上空から狙っていたエイラは、ルーシィを貫いた槍を投げた。
しかも、それはただの槍じゃない。ロンギヌスと対になるよう作られたカシウスの槍だった。
カシウスを受け、初号機の目から光が消え、速度を上げて落下していく。
「カシウスはエヴァを停止させる能力がある。悪いけどエヴァにゃ詳しいンダナ。」
落下した初号機は、槍によって地面に縫い付けられたように、ピクリとも動かなくなった。
それを見て、ヒビヤはホッとため息をついた。
「これで…一件落着?」
「あぁ、後はあの二人が元凶を倒したら…か。」
「なっ…⁉︎」
初号機が機能を停止した事を、束もまた気がついていた。
この状態から察するに、恐らくカシウスの槍を刺したのだろう。
だが、事態はそこまで深刻じゃない。カシウスを抜きさえすれば、後は初号機の自己回復機能でコアも治る。
まだ計画は破綻していない、だが。
「はぁぁぁぁ!」
「行きなさい!」
依然として、烈花とセシリアの攻撃は続いている。いや、時が経つにつれどんどん激しくなってきていた。
烈花が撃ち、セシリアが斬る。またある時はセシリアが撃ち、烈花が斬る時もあった。
「あんたの思い通りにはさせません。ここは、わたくし達が死守します!」
「セシリアの言う通りよ。聞きなさい、私たちの
まただ。また予期せぬイレギュラーが起きた。
そうだ、と束は改めて確信した。それもこれも…
「お前の…せいだぁぁぁ!」
束はビームソードを最大出力にして、烈花に斬りかかった。
「守りなさい、ファンネル!」
セシリアはフィンファンネルのビームシールドでビームソードを防ぐ。
だが、そのビームソードすらも切り裂いて、ヒートロッドで烈花を拘束、近くのアリーナに叩き落す。
「くっ…これくらい、どうってこと!」
制動をかけつつ着地した烈花は二丁のドッズライフルのトリガーを引く。
直撃、確かにそれはエピオンにダメージを与えたはずだ。だが。
「その程度!」
三発目をビームソードでかき消し再びヒートロッドを振るう。
ドッズライフルが弾き飛ばされ残った銃に手を伸ばそうとする…が。
「させないよ!これで…王手だ!」
素早く回り込んだ束はウェポンコンテナごと、全ての銃を切り捨てた。
烈花はスラスターパックごとそれを切り離し、誘爆は防いだ。しかし、事態は深刻だ。
もう銃がない。あるのは全身に懸架されたスナイパーライフルが二つ、そして残弾数が残り少ないビームピストルが一丁。
剣戟で束に勝てる自信は無い、 勝てるとすれば不意を突いての一撃必殺。
そして烈花は二丁のスナイパーライフルを放ちながら後退する。
接近戦ではあちらが有利、向こうの得意なレンジで戦うつもりはない。
「うぉぉぉぉ!」
「なんっ…!」
エピオンはテスタメントのウイルスに侵されてるはず。それなのにこれだけの出力を持つエピオンに、じわじわとなぶられていく。
スナイパーライフルを失った烈花は、ついに最後のビームピストルを構え放つ。
一発目、ヒートロッドを捉え真っ二つに断ち切る。
二発目、軌道を読まれかわされる。
そして三発目を撃とうとした瞬間、トリガーを引くことが出来なくなった。
「その様子だと、残弾ゼロってとこかな?」
「っさい!銃が無くてもあんたなんて!」
「ふふっ、強がらないでよ。さぁ、フィナーレだ!」
烈花の首根っこを掴みアリーナの壁に叩きつける。そしてビームソードの切っ先を、彼女の胸に添えた。
「うふふっ。よくも私の邪魔ばっかりしてくれたよねぇ…だからぁ、さっさと死ねぇぇぇ!」
束はそう言ってビームソードを振り被り、烈花の胸に突き立てる…はずだった。
「たぁぁぁぁぁぁぁ!」
舞い降りたセシリアが、その手にビームサーベルを携えて束の右腕を切り落とした。
「がぁ…ぁぁぁぁぁ⁉︎」
斬られた箇所から血が吹き出す。
苦悶の声を上げながら、束はセシリアを思いっきり睨んだ。
そして斬られた事のショックで、烈花を拘束する力が緩んだ。
これで彼女は確信した、今しかないと。
ビームサーベルを抜き、束が反応するより前に胸に突き立てた。
「あ、ぁぁ……」
「ぜぇ…ぜぇ…お、わった…?」
膝から崩れ落ちた束は、絶望しきった顔をして涙を流す。
「死にたく…ない。私はただ、幸せになりた…かったのに…」
「………そのせいで、どれ程の方々が不幸になったのか。お分かりになりまして?」
セシリアはそう束に問う。しかし束には答える元気もなく、首を横に降るのみだった。
ビームサーベルを納め、束と目線を合わせるため膝立ちになって烈花は言った。
「…誰も信じないからよ。最後まで私が諦めなかったのは、セシリアが、皆が諦めなかったからよ。
忘れないでね、次に生まれ変わる時まで。」
それを聞いて束はコクン、と小さく頷いた。同時にうつぶせに倒れ、ピクリとも動かなくなった。
見届けた烈花とセシリアはISを解除して見つめ合った。
そして、小さくこう言った。
『ミッション、コンプリート。』
最終回完
戦いは終わった。そして、バトン次の世代へ…
次回
インフィニットストラトス
〈THE GEMINI G MYSTER〉
エピローグ
「赤と青のクロアチュール」
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