ヘドロの弟です 作:隠れミノ
「んじゃ、行ってくる」
「はーい」
祖母に挨拶をして家を出る。今日は雄英高校の実技試験日だ。ちなみに先日の筆記に関してはそれなりに解けたとは思う。
だが何よりも大事なのはこの実技試験ではかられる戦闘能力だ。
ペン先では合格が決まらないってところに雄英の難しさはある。
倍率は300倍といわれ、多くは実技試験で落ちてるらしい。
そういう点において俺なんかは恵まれてると思う。
個性について、実戦で指導を受けるなんてヒーロー一家とかじゃないとできないからな。
兄貴のこともあって色々と面倒なことになりそうなのが嫌だが。
ちなみに雄英高校のヒーロー科は西の士傑と共にあげられる日本最高峰とも言われ、現在のトップクラスのプロヒーローの多くはどちらかを出てるとのこと。
ヒーローという職種において大事な点はいくつかあるが、第一に個性を生かせない限りやってはいけない世界だ。
なにも戦闘だけではないが、救助など様々な場面において個性を使用することが多い。
そういった訓練をプロヒーローから指導を受けることができ、他のヒーロー科よりもより実践的に取り組める。
他にも理由はあるが、そんな感じで倍率が高いらしい。
「どけデク!!!」
会場について関わるなオーラを出しつつ歩いていると怒鳴り声が聞こえてきた。
あれは…爆豪だったか?
うちの兄貴の被害者か。
「俺の前に立つな。殺すぞ」
どうやら知り合いらしい緑のモシャモシャを恫喝している。
ヒーロー科目指してる奴のセリフじゃあないなと思ったが、人の事は言えないぞと、この前会った先生とやらが何やら語りかけてきたような気がして思わず殺気を飛ばしてしまった。
周りの生徒もなにやらざわざわしている。
「あれバクゴーじゃね?ヘドロん時の」
「あそこの怖そうなのってヘドロ弟?」
「本物っぽいぞ」
どうやら周りの呟きが聞こえたらしく、爆豪がこちらを睨みつけてくる。
そのまま無視して中に入り、人目につかない角の席を取る。
そう言えばつい先日に、じいさんの知り合いらしい警官が話を聞きにきていたな。なんだか村人Aみたいな顔だった。塚内さんだっけな?
流石に警察相手には完全に嘘を言う気になれず、オールマイトのことは殺すではなく、害するってな感じでぼかして話してみたが、厳しい表情だったな。
…真面目に話を聞いていたってことはオールマイトに何かあるのか?
こんな話はタチの悪いイタズラと思われるのが関の山だとずっと思っていた。
ひょっとして、あの先生とやらはオールマイトに勝てる超大物
そんなのに目をつけられるのは勘弁してほしいな。
ラスボスな雰囲気があったから否定できないとこがマズイが。
だが俺が話した情報の中に個人を特定できるほどのものはないな。
うーんわからん事を考えてもしょうがない。
気づいたらもう実技試験についての説明がとっくに始まっていた。
途中メガネの生徒の質問やら、緑モシャに注意やらがあったが無事説明は終わった。
どうやらロボは4種類あり、うち3つは倒すと1〜3ポイントまでを得られる仮想敵。これを時間制限のなかでいくつ倒せるかを競う。
最後のは巨大ロボとやらで0ポイントだ。こいつはいわゆる妨害用らしい。
個性を生かし、仮想敵を倒しつつ、巨大ロボを避けより高い得点を競う試験のようだ。
ちなみに他人への攻撃などアンチヒーローな行為は禁止か。
アンチヒーローな行為ねぇ…。
一応ロボを相手にしても火炎放射器なんかが搭載されてなければ、効率よく倒せる。さっき思いついた一案があれば、他の受験生を蹴落とすこともできるだろう。
ひょっとしたらアウトかもしれないが、まあ
説明も終わり少し移動して会場についた。同じ学校の連中とはわかる方針らしく、いくつかの会場があり、どれもリアルな街並みが再現されているようだ。
ヒーロー関連については国からも結構潤沢な予算が確保されてるらしい。
危険な職種だが、福利厚生もばっちりで勤め上げれば老後も安泰だし、こんな好条件はそうそうない。
決意も新たにしていると、緑モ(ryが先ほど質問をしてたメガネに説教くらってるようだ。
あのメガネは真面目というべきか…。同じ受験生をプレッシャーで落とす作戦でも実行してんのか?
俺の考え方はだいぶひねくれてるな。
しばらくすると、
「ハイ、スタート!」
と予告もなく開始宣言が行われた。
突然の事であたふたしてる他の奴らを置いて会場へと入る。
しばらく歩くと物騒な声が聞こえてきた。
「標的補足‼︎ブッ殺ス‼︎」
どうやら1ポイント敵のようだ。こちらに迫ってくるが大した脅威には感じない。
敵の走りながらの射撃を回避して、横を通り抜ける際に足をヘドロに変えて車輪の下にヘドロを噛ませる。
そいつはそれなりのスピードを出してたために、そのままスリップしてビルに突っ込む。
そいつが機能停止したのを確認しつつ、他の敵を探す。
しばらく相手してみた感じ1ポイント敵は頑丈とは言い難い。
他はもうちっと頑丈だが、物理的な攻撃手段しか持ち得てない時点で余裕はある。
そもそも機械の内部の機構を侵入させたヘドロで破壊してけばいいが、少しペースが遅い。
俺の一案は内部が壊れてない方が都合がいい。
そんなことを考えていたら幸運にも損傷少なめの撃破された3ポイント敵を見つけることができた。
こいつに取り憑くことで無理やりにでも動かす。
俺の攻撃には物理的な破壊力にかけてたし、搭載してる火器は使えなくともその腕を振り下ろせば十分な破壊力はある。
さらに2つの利点もある。
1つ目は仮想敵から攻撃対象と認識されるまで時間がかかることだ。
殴りすぎるとだめだが、最初の1.2発は誤射に判定されるような設定があるらしい。
2つ目は…おっと。どうやら俺を敵と勘違いしてるらしい、受験生が攻撃にくることだ。(レーザーが飛んできてビビった)
そいつは他者への妨害として不合格となるだろう。
こっちは工夫してやってるだけで落ち度はない(多分)。ルールにもおそらく抵触しないはず。
基本的には攻撃してきた向こうに問題はあるし、こちらは効率的に倒すための工夫といえばギリギリグレーゾーンくらいでいける。
そんな感じでポイントを稼ぎつつ、何人かを陥れていくと、最終盤になってきて、会場の中央に人が集まってきていた。
あそこにはロボットが固まってるのもあって、ラストスパートとばかりに攻撃をしかけていた。
俺の方はだいたい…50か60いくかいかないかぐらいか。
やはりいま使ってるロボットは重量があり動かすのが非常に大変だが、一撃に結構な破壊力がある。
今俺は会場の北東部の小高い丘にいるせいでロボの多い中央は遠い。
もうそろそろ終わりだし、周りに敵はいないため、のんびりと眺めていると、巨大なロボットが出現した。
どうやら受験生をロボで引き込んでから巨大ロボを一気に繰り出すという腹づもりだったらしい。
このプランを考えた奴はなかなかにいい性格をしている。
しかしそのロボットはただの生徒の一撃で吹き飛ばされた。
状況を見た感じ巨大ロボの攻撃で動けない人を助けるために、あれを撃破したようだ。
あの場にいたほぼ全員が逃げ出したのに、そいつだけは救出のためにあれに立ち向かった。
実に非合理的でしかしまさに英雄めいた行動。
…それを見てなぜか俺は不愉快な感覚を覚えた。