大いなる海の母   作:村雪

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どうも、村雪です!も~相変わらず不定期で申しわけない!まだ読んでくださる人いるかな!?

 まぁ作者の個人的な話なんかで作品を満喫できないのは良くないので、一先ずはちょっとだけでもワクワクして作品を読んでいただければ!


---ごゆっくりお読みください。








旧敵―だからこそ・・・!

「ス、スイカ・・・!ゲホッ、ゲホッ!」

 

「ようおにーさん。随分と無茶をしたみたいじゃーないか・・・って、そりゃ初めて会った時からか」

 

「!お前、手!」

 

「ん?ああ、こんなもんどうってことないよ。治しようなんかいくらでもあるからね」

 

 

 それよりまずは自分の身を案じてほしいものだと、目の前の大剣豪から目を離すことなくスイカは思わず笑ってしまう。インペルダウンであった時もそうだがこの若者はどうも熱くなると周りを見ないようだ。

 

 

「で・・・まだ動けるのかい、おにーさん」

 

「・・・!」

 

 

 身体中から血を流していてすでに限界に近いのは明らか。心境を推し測ることも出来たが、それを無視してスイカは淡々と言葉を続ける。

 

 

「別に動けないと言っても見限りやしない。ここにいんのは全員あんたより場数を踏んでる連中ばかりで、そいつら相手にあんたはよく健闘したよ。だから恥じることなく下がりな」

 

 

 そもそも動いてられるのが不思議なほど重傷だったというのに、よくもここまで走り戦い続けられたというもの。評価することは多々あれど非難することは何一つないからこそ、スイカははっきりと戦前からの脱退を進めようとした。

 

 

 

「なに、任せなよ。あんたがいなくてもあそこから1人解放するぐらい―ーー」

 

「・・・・・・える」

 

「・・・んっ?」

 

 

小さく、しかし意志が籠った声がスイカの言葉をそこで止めさせた。思わず振り返ると・・・

 

 

 

「――まだ戦えるっつってんだ!」

 

「!・・・ほう?」

 

 

 傷と血だらけの拳を地に打ちつけ必死に起き上がろうとするルフィの姿があった。ギロリと、身を案じているはずのスイカを憎々し気に睨むルフィは思うままに叫ぶ。

 

 

「何回も言わせんなスイカッ!このぐらいのケガが何だ!エースが死ぬかもしれないってときにこんなもん関係ねぇ!おれは・・・おれはっ!エースを助けるためだけにここまで来たんだっ!それ以外のことなんて、死ぬ以外いらねぇよ!」

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・そうかい」

 

 

 ただそれだけ。スイカはあまり反応を出すことなく口にしたが・・・

 

 

 

 

(まったく・・・本当にあのバカがちらつくね、あんたを見てると!)

 

 

 まるで子供のようにわがままなのに人一倍の人情。そして決めたことを頑なに撤回しないその姿が今は亡き宿敵とよく被る。

 

そのためスイカはルフィを止めるようなことは言わなかった。ここでやるべきはその心意気を買い、背中を押すことだろう。

 

 

「だったら立ちなよ、おにーさん。そこまで言ったからにはやり遂げて見せな。私はそれを全力で支えてやるからさ」

 

「そんなもん、いらねぇよ・・・っ!」

 

 

 その言葉も刺激となったのかルフィが先ほどまでからは想像できない勢いで身体を起き上がらせた。肩で息をしていて疲労しているのが一目瞭然だが、それが彼の覚悟を鮮明に示し、逆にスイカを満足させるのであった。

 

 

 

「はは、それだけ声を出せるなら大丈夫かな。それじゃあ」

 

 

 

 

 ズガンッ!

 

 

 その先は続かなかった。

 

 

「―――っっづ!」

 

「!スイカ!?」

 

 

 自分の名を叫ぶルフィが、海賊を討たんとする海兵、それを迎撃する海賊など視界に収まるもの全てが一斉に傾いた。長年のライバルである白ひげが〝グラグラの実〟の能力を使ったのかと思ったが、家族である船員を巻き込むような男ではないと知っていたためその考えは一瞬だった。

 

 

それよりも、今なお感じる首筋の痛みに原因があると見て間違いないだろう。スイカは傷の程度を手で確認しながら、男―――ジュラキュール・ミホークを見据えた。

 

 

「・・・ことのほか性急じゃないか。てっきり正々堂々を心掛けていると思ってたんだけど」

 

「一騎打ちならばそれもあっただろう。だが、ここは敵味方が入り乱れる戦場。道徳から最もかけ離れたこの場所に騎士道も何もあるまい」

 

「あー。ま、それもそうだね」

 

 

 むしろ十数秒、ルフィと話している間に手を出してこなかっただけでも律儀なものだ。そう自己完結をして首にあてた手を離すと・・・

 

 

「おおうっ。やっぱりいい太刀筋してるね、あんた」

 

 

 わずか。手のひらの中央小さくだが赤い血が付着していていた。皮膚が裂かれ傷を負ったということに、スイカは驚きと関心を混ぜた声で鷹の目をほめた。

 

 

「よく言う。皮肉にも聞こえてしまうな」

 

 

 対し、腕前を称賛されても鷹の目は全く表情を動かさない。愛刀にして至宝の一本である黒刀、〝夜〟を構えながらスイカを睨んだ。

 

 

「おれは一切手を抜いてない。その一振りを急所である首に与え、負わせたのがかすり傷程度では、な」

 

 

 ヒトの皮膚は刃に限らず、薄い草や紙でも摩擦により切れることがある。今スイカの首に見受けられる切り傷はまさにその程度の、傷と呼ぶには浅すぎる跡だったのだ。

 

 

「そう?だけど言っておくなら、刀傷を私に与えたやつは五人といないよ?」

 

「与えた傷に満足しても腕を鈍らせるだけだ。重要なのはその一太刀を次の一太刀で超えるという、終わりない気概だ」

 

「おぉ、なかなか良いこと言うじゃないか。嫌いじゃないよそういうのは」

 

 

 大きく口を緩めるスイカ。その顔はどこまでも無邪気に、溢れんばかりの興奮に満ちていている。

 

 

「そうなると、私のやる気もあげないとね~・・・!」

 

「・・・!!」

 

 

 右腕、左腕を。スイカは掌を外に向けて目いっぱい広げた。

 

そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぱぁんっ!

 

 

 大きな音を立て、胸元で一つ柏手を打った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・?」

 

 

 

 何か来ると警戒した鷹の目だったが、自分にも、目の前で手を合わせたままこちらを見ている少女にも変化は無い。

逆に周囲では数秒前までは戦っていた海兵が倒れたり、倒れていた海賊が手当てのため仲間に引き下げられたりと次々状況が変化しているが、戦渦の下という状況ではありふれた光景。鷹の目の注意を引くようなものはこれといって無かった。

 

 

(・・・何をした?)

 

 

力を発揮するための儀式のようなものか。あるいは何かの合図なのか。意図を読めなかった鷹の目だが、それでも油断することなくスイカを睨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴッーーズズ――バキキーーー!

 

 

 

「!」

 

 

 

 その時、鷹の目の耳が気になる音を捉えた。ガリガリと荒々しく岩が崩れる音。何らかの力に耐えきれずに折れゆく木材の悲鳴という、なんてことはないただの雑音。

戦場を絶え間なく包む数百の音の一つ。

 

 

・・・・にすぎないのだが、世界最強の剣士は違う。

 

 

修羅場を幾度も駆け抜け養われてきたカンが、その音が求めていた答えだと訴えたのだ。

 

 

 

「さぁ、腕前拝見」

 

 

 それを裏付けるように、どこか期待を感じさせる少女の言葉も耳に届いた。

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

「――――簡単に潰れてくれるなよ?ジュラキュール・ミホーク」

 

 

 

 

 

 

 バキバキ!バキベギャギャギャギャギギギギィ!!

 

 

 

 

 

 

 

左から一つ。右から一つ。

 

 

痛々しい音を立て地面に船底を削られ続ける軍艦二隻が、鷹の目を挟み込む形で勢いよく突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 ごしゃああああああああああっっっ!!

 

 

 

 

『ぎゃあああ~~!?』

 

『ぜっ、全員何かに捕まれぇー!』

 

『何だぁ!!何がどうなったぁああああ!?』

 

『わ、わ分かりません!ただ・・・きゅ、急に軍艦が湾外から湾内に移動したとしかっ!』

 

『はぁあ!?』

 

 

 あちこちから海兵の悲鳴があがっていく。というのも、勢いが強ければそれだけ衝突の波紋は広がる。陸を走った軍艦は皮肉にも本来の目的とされる海よりも速度が速く、真正面からぶつかりあった勢いに乗艦していた海兵たちは一人たりとも足を甲板につけることが出来ないほどだった。

 

 

 

「さてさて。手は抜いてないけれど・・・」

 

 

 

 乗艦していた海兵達への言葉ではない。けが人も少なくない状況を目の当たりにしても、今彼女が気にするのは一人。軍艦の狭間に姿を消した男だけである。

 

 

 

「まさかこれで致命傷なんてこと、ないね?」

 

「杞憂だな」

 

 

 スパリと。衝突により横転して丸出しとなった船底。その船首側の氷に近い部分に一つ線が走った。さらに二つ、三つと長方形を縁取るように線は増えていき、四つ目が走ると同時に内側がくり抜けて人が通れるほどの穴が生み出された。

 

当然それは大破した軍艦から抜け出すための、艦内にいた者の仕業であり・・・・黒刀を携えた鷹の目がそこから姿を見せた。

 

 

「速度があろうと、俺に当たる場所を切り除けばいいだけのことだ。いくら大きかろうが人体に触れる箇所は極僅か・・・・・図体に惑わされるようでは未熟だ」

 

「さっすがだね。今のを全く取り乱さずに対応できるのは」

 

 

 不意を突かれたら個人差はあれ動揺を見せるのが人間。ところがこの剣士は無駄なく冷静に対応し、ところどころ服が汚れているだけで全くけがを負っていない。

 

スイカは1つ評価をあげるのである。

 

 

「随分と跡が伸びているが、湾外の軍艦か?」

 

 

 そして、その鷹の目は背後の軍艦を。そこから一直線に跡を残すほど抉れた氷、及び湾岸広場の一部を眺めた。

 

 

 

「そうだよー。手ぇ向けた先にあったのがそいつらだったから、遠慮なく引っ張らせてもらったぜい」

 

「そうか・・・随分と広範囲に及ぶ能力だな」

 

 

2人の場所から元々軍艦が待機していた場所は、大まかに見積もっても百メートルはある。その距離にある軍艦を航行より速く寄せつけるとは並の能力ではないと、鷹の目もまた1つ目の前の少女への警戒心をあげるのである。

 

 

「さぁて。今ので戦意を無くした、なんてことは?」

 

「皆無だ。むしろ、それぐらい出来てもらわねば興が削がれていた」

 

 

 フと、鷹の目は一瞬笑いを浮かべた。普段の無感情な表情と大きな変わりはないが、やはりその心境は違う。柄を握る手に力が籠り・・・

 

 

 

 

 

「――行くぞ」

 

「おう、いつでも来なよ」

 

 

言うが早いか、鷹の目は黒刀を振り切った。

 

 

 

 

 

 

 

ザザッ、ザザザザザザザザザザザァッ!

 

 

 

 ただ一度ではない。少なくとも10はあろう斬撃が、狙い狂わず一気にスイカへ殺到する・・・!

 

 

 

 

「ぬっ、ううううううううううんっ!」

 

 

 彼女はかわそうとしない。上等と言わんばかりの笑みでスイカは構えた!!

 

 

 

 

「おらおらおらおらおぉらぁあああああああっ!!」

 

「ふ・・・・・・っ!!」

 

 

 

 首を狙う斬撃を、右脚を狙う一太刀を、腕を、胸を、胴を顔を角を。あらゆる箇所へ及ぶ攻撃をスイカは全て防ぐ。腕の伸びる範囲は拳で、届かないところにはそこに覇気を込め受け止める。

 

 

 その都度浅い切り傷が走るが気に留めず隙をついて鷹の目に仕掛けるが、覇気を扱えるのは彼も同じ。刀で防ぎ、時に回避をしながらスイカの攻撃をさばいていく!

 

 

 

 

 

 

 

「おおおおっ!」

 

「・・・・・・!」

 

 

 だが、間接的な攻撃のため威力が劣り互いに決定打には至らない。先にしびれをきらしたスイカが身体を霧散させ、一気に鷹の目の真正面へ移る。

 

 

 

 その意図を察した鷹の目は、それまで以上に意識して両腕に力を籠め・・・!

 

 

 

 

 

 

 

「ぶっっ飛べぇえ!!」

 

「やってみろ・・・っ!」

 

 

 

 

ごっっ!

 

 

 

 

 

 それは互いに出せうる最高の一打と一太刀。轟音と共に足場は一気に瓦解し2人に浮遊感が襲い掛かるが、その程度のことで動じることはない。

 

 

 

 

 

「ぬ、ぐぐぐぐぐぐぐっ!」

 

「ぬ・・・・っ!!!」

 

 

 

 

『!?げは・・・っ!』

『がっ!ま、た・・!?』

 

 

 

 

 

 陥落する地面に着地した途端、足をストッパーに2人の競り合いが再開する。容赦なく巻き溢れる覇気で辺りの海賊、海兵達が気絶しようと知ったことでない。

 

 

 

 

 

ただ目の前の強敵に打ち勝つ。

 

 

ただその一念で2人は鼓舞の雄叫びをあげる・・・!!

 

 

 

 

 

 

「うおぉおおおおおおおおおお!!!」

 

「ぉぉお・・・っ!」

 

 

 

 

 ぐぐ・・・っ!

 

 

 

 

 

 

 そして、勝敗は間も無くついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズバンッ!!

 

 

 

 

「!あづぁ・・・・っ!!!」

 

 

 

 

 後方に吹き飛ぶのは拳を繰り出したスイカだった。ごろごろと勢いよく後転の要領で引き下げられること十数メートル。勢いが止まり起き上がった彼女は悔しそうに左拳を見下ろした。

 

 

 

 

 

「づ~~っ!手ぇ抜いたつもりはないのに・・・!ここまで鈍ったかい私っ!」

 

 

 

 

 五年の拘束が響いたようで、幸い骨もあり切断とはいかなかったが親指を除いた4指の付け根に真っ赤な直線が走っている。悔しさを隠そうとせず手を睨み、スイカは1人場に残った男へと視線を戻した。

 

 

 

 

「・・・鈍ってこれ、か。まさに笑えん冗談だな」

 

 

 その鷹の目もダメージが無いというわけではない。いくら押し勝ったとはいえ僅かな緩みも許されない緊迫の競り合いで、柄を握りつぶさんばかりに力を込めた両手のあちこちには肉擦れによる出血が確認できる。

 

 

 悔しさと呆れ。2人が見せる表情だったが、次に浮かべたものは見事に一致した。

 

 

 

 

 

 

「それでも、ここまで良い腕してるとはねぇ・・・!!」

 

「それでこそ戦う価値がある・・・!」

 

 

 若くも確かな実力を持つことに関心するスイカに、轟く伝説に恥じぬ実力を確認できた鷹の目。久しい強敵に2人は笑みを剥き出しにして闘志を滾らせる・・・!

 

 

 

 

「これはまだまだ付き合ってもらわないとね~!」

 

「望むところだ・・・!」

 

 

 その間にも周囲は慌ただしく状況が動いており、それにあわせて砲火も激しくなっているがスイカも鷹の目も一切関心を向けない。

 

 

 

 

 

 

ただこの勝負に勝つ。

 

 

その一心で再び二人は――――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドンッ!

 

 

 

 

 

 

「ん??」

「?」

 

 

 

 

 ところが、一歩も譲る気が無かった2人はほぼ同時に動きを止めることとなった。

 

誰かが横やりを入れてきたわけでもなく・・・そもそも実力がありすぎる2人の間に割り込もうとする命知らずはいなかったのだが、とにかく2人は周囲の妨害によって戦闘を中止したのではなく、負傷による痛みが動きを鈍らせたわけでもない。

 

 

 

原因は突然の静寂。会話も難しいほどありとあらゆる騒音に包まれていた戦場から、すべての音が消え去ったのだ。

 

 

 あまり経験のない事態にスイカも鷹の目も戦場を一瞥し・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ?」

 

「あれは・・・」

 

 

 

 

――あの時浮かべた表情は、きっと1、2を争う間抜け面だったろうね。

 

 

 後にスイカはそう語るのだが、目と口を丸く開けっぱなしにするその表情はまさに間の抜けた、容姿相応の顔だった。どんな表情をすればいいか分からない・・・いや、それ以前に何が起こったのかも分からないのだろう。

 

場数を踏んだ海賊らしからぬ反応なのだが、今回に限ってはその経験こそが起こったことを鵜呑みにさせなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・おい」

 

「・・・大渦蜘蛛 スクアードか?」

 

 

 

 何度も潰しにかかるが未だに達成したことがなく、反対に潰されかけたことも多々あった。それでも必ず上を行ってやると戦い続けること数十年。それでもなお決着がつかず、気が付けば酒を飲みかわすほどの関係にまでとなった男。

 

 

 

 

 

 

 

 その白ひげがああも容易く胸を刺されるなど、いったい誰が受け入れられるだろうか・・・?

 

 

 

 

 

「---~~っっ!なぁにあっさりやられてるんだいてめぇええええええ!」

 

 

 

 

 そこからの動きは速かった。身体を消したスイカは一気に白ひげの元へと猛進し、下手人である男の頭を掴み強烈に船首へ叩きつけた。

 

 

ずだぁんっ!

 

 

「ぐ・・・っ!」

 

「お前・・・お前っ!こんなガキにやられるなんざどうしたのさ!らしくないにも程があるだろうがい!おぉ!?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・~っ!」

 

 

その大声はここに来て一番のものだった。溢れんばかりの怒りを、焦燥を隠さずスイカは白ひげに怒鳴るが言葉が返ってくることはない。戻ってくるのは膝をついて荒い息を零す音だけで、あまりにも知る姿から離れた態度にスイカは胆汁を嘗めたかのように顔を顰めた。

 

 

「(グイッ!)なんでこんなことした小僧!どうなるか分からなかったなんざ言わせないよ!ええ!?」

 

 

 ならば仕掛け人であるこの男に聞くしかない。詳しくは知らないが、間違いなくこの巨大な刀を扱う男 スクアードは白ひげの傘下の海賊。容赦なく襟元を掴み起き上がらせてスイカは感情のまま問い詰める。

 

 

「・・・うるせぇ!てめぇはそいつが目障りだったんだろうが!だったら口を挟んで来るんじゃねぇ!」

 

「そんなことは今どうでもいいんだよ!私は、なんで親を裏切って噛みついたのかって聞いてんだ!答えろ!!」

 

 

 スクアードの言葉が全くのウソというわけではない。だがそれを押しのけてもこの突然の謀反の訳を知りたい。

 

 

「・・・・!!何が親だっ!先に裏切ったのはそいつじゃねえかぁ!(ばっ)」

 

「あ゛ぁ!?」

 

 

さらに強まるスイカの掴みと睨みにとうとうスクアードは吐き出すように叫んだ。だがその内容は理解できずありえないこと。手を乱暴に払われたスイカは負けない迫力でスクアードを睨む・・・!

 

 

「裏切っただぁ!?白ひげが何を裏切ったって言うんだい!?」

 

「そいつはっ!おれ達傘下の海賊団43人の船長の首を売って、引き替えにエースの命を買ったんだ!!それが裏切り以外の何だっていうんだ!?」

 

「はぁ!?」

 

 

 スイカの迫力に耐えきれなくなったのか、スクアードは身体を震わせながら心の全てをぶちまけた。

 

 

 曰く、今回のキーマンである海賊 ポートガス・D・エースは海賊王 ゴール・D・ロジャーの実の子供であるということ。

 

 曰く、スクアードの昔共にいた仲間はロジャーによって全員葬られたということ。

 

 

 

 そして、この戦争に白ひげ海賊団と共にやって来た海賊団の船長全ての首を差し出すことでエースの身柄を引き渡すと、白ひげと海軍元帥 センゴクと話がついていると。

その話に不服である大将 赤犬が、白ひげの命を討つことと引き換えにスクアード率いる大渦蜘蛛海賊団の全員の安全を保障するということを、スクアードは全てを打ち明けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ばっっっっっかだね~~」

 

 

 

 

 それが、全て聞いたスイカの言葉だった。

 

 

 

 

「!?い!今なんてい」

 

「馬鹿だねぇ、って言ってるんだよ」

 

「!!てめぇえええええええ!!」

 

 

 

 どれだけの失望と葛藤を味わったと思っているのか。その上で出した結論を他人事のように侮蔑するスイカへ怒りを感じるのも人の情であり、スクアードは感情のまま白ひげを刺した大刀を振り上げた!!

 

 

 

パシッ

 

 

「!ぐ・・・!」

 

「別に、あんたの行いを否定するつもりはない。むしろそれが本当だったなら、私はあんたを讃えていたさ~」

 

「・・・!?」

 

 

 その一太刀をあっさりと掴んだスイカの顔は穏やかだった。言葉とは裏腹の反応に変化にスクアードは戸惑ってしまう。

 

 

「・・・・・・ただ」

 

 

 どういう魂胆かをスクアードが尋ねるのより、スイカの口の方が先だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの堅物はそんな甘っちょろい男じゃないし、そのヒゲはそんな雑魚じゃないんだよ・・・!」

 

 

 

 そして彼女は歩いた。膝をついたまま荒い息を吐く白ひげの足元へ、肩を怒らせながら近づき・・・

 

 

がっ!

 

 

「・・・!」

 

「いつまで膝をついてる。さっさと立ち上がりな!」

 

 

 

 胸を刺されるということは人にとってけして軽いけがではない。屈強な肉体を持つ白ひげでも例に漏れない重症なのだが、彼女は一切配慮などしなかった。白ひげが羽織るコートの襟もとを飛び跳ねて鷲摑み、力任せに自分の眼前へと引き寄せたではないか。

 

 

 そのままスイカは、白ひげに口を挟ませることなく畳みかける・・・!

 

 

 

 

 

 

 

「この小僧の刀がなんだ!あんなもん、私が今まで散々かましてやったもんに比べたら塵みたいなもんだろうがぁっ!!」

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

 

「なのにそんなザマ見せやがって・・・!私を馬鹿にすんなっ!!私はっ、こんな小僧なんかに劣ってるつもりはないし・・・・・・!ことごとくその私に張り合ったあんたを!そこらの砂利どもより劣ってるなんざ考えると思ってんのか!?ああ!?」

 

 

「・・・・・・!!」

 

 

 殺気さえ滲ませながらスイカは怒鳴る。致命傷を与え与えられる血生臭いとしか言えない白ひげとの関係だが、どんな形であれその感情は決して脆くない。

 

 

 

 何十年もかけ積み重なったそれは、第三者による宿敵の負傷を絶対に許さなかった・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「立て!エドワード・ニューゲート!!私が・・・・この私がっ!この私が認めた男が醜態を晒すことなんか!絶対に許さぁああああああんっっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ばっ!

 

 

 

 

 

 

「・・・うるせぇよ。おめぇに認められても、ただ鳥肌が立つだけだ・・・・っ!!」

 

 

 

 どう捉えられたかは分からない。

 

 だがそれでも、膝をつく彼を奮い立たせるには充分すぎた。傷口から手を離した白ひげはスイカの手をこれでもかと振りほどき、力強く立ち上がった・・・!

 

 

 

「それでいいんだよ・・・!ほら、さっさと話をつけてきな。親の務めを放棄したろくでなしが希望かい?」

 

「うるせえっつってんだ。そんなわけねぇだろうが・・・!」

 

 

 荒い息をそのままに、白ひげは己の胸を刺したスクアードの元へと足を動かす。

 

そのスクアードは顔を青くさせているが、この〝親〟を良く知るスイカはその恐怖が無用に終わると想像できた。

 

 

 

 

 

「・・・センゴク~。私はあんたの性格を知ってるつもりだし、今さらそれに文句をつける気はないさ」

 

 

 2人には目を向けず、この作戦の企てたであろう男を見据えながらスイカは頭をかく。

 

 かつて海に居たときもそう。ガープと同等の実力を持っているにも拘らずもっぱら頭脳による策を展開してきて、思考よりも行動を主軸とするスイカにとってこの上なく厄介な宿敵の1人だった。

 

 

 

 そして、〝結果的〟には5年前。その知将の策略により見事身柄を確保されたわけなのだが・・・・その事を掘り下げる気はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、私の目の前で私の獲物を腐すような策とはいい度胸してるねぇ・・・!」

 

 

 

 今言いたいのは、誰の許可を得て人の旧敵に手を出しているのかということ。状況が状況だろうがスイカにとって看過できない事案だった。

 

 

 

 

 

 

「スイカ」

 

「あ?なんだい白ひげ」

 

 

 沸々と身体に熱がこもるのを感じながら身体の調子を確かめていると白ひげが隣に立ってきた。後ろではスクアードが膝をついて涙を流しており、どうやら話はついたようだ。

 

 

 

 

 

「・・・最初に言ったな。おめぇに出しゃばらせる気はねぇと」

 

「?言ったね。でもそれがなにさ。私がそんな注意聞くと・・・」

 

「だからもう一度言ってやる」

 

 

 

 

 ピシリと。本当にそう聞こえたと誤認するほど白ひげの雰囲気が一層険しくなった。先ほどまでは呆れも含まれていたが今はなく、隠すこともない純粋なまでの殺意で彼の言葉は満ちていて・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ以上余計なことをするな。じゃねぇと・・・・・・本気でお前の首を獲るぞ」

 

「・・・っ!!!」

 

 

 

 

 

 久しく。本当に何年かぶりにスイカの身体全身が総毛立った。

 

 

 

 チンピラがただ口にするようなものではない。明確にその意志を持った断言だ。

しかもそれが世界最強と恐れられる男の言葉となれば、言わばほぼ確定した未来。長い付き合いのスイカはそれら全て正確に理解し、もしもこの警告を蹴ったとすれば本当に自分は明日を拝むことが出来なくなるかもしれない危険性も分かっており・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あははっ♪だったら!だったらなおさら張りきらなくちゃね!!本気のあんたをぶっ潰すことが積年の目標なんだからさぁ!!!」

 

 

 

 その上で堂々と撥ねつける。

 

 

 

 

 邪魔だから引っ込め?それをはいそうですかと聞き入れる感性を持ってるなら誰が海賊などするか。

 

 

 

 首を獲る?面白い。そんな真剣勝負ならいくらでも受けて立ってやる。

 

 

 

 

 

 

 何より・・・・・・〝世界最強の海賊〟??

あの大馬鹿もそうだが、いったいいつ敗北を認め、上に立つことを許したのか答えろというものだっ!!

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・大馬鹿女が・・・!」

 

「はっ!その言葉は生意気にも海賊王なんかになった本当の馬鹿にでも言いな!」

 

 

 

 

 結果的に馬鹿1人とは決着をつけることが出来なかったが、この男とは必ず白黒をつける。案外同意見なのか、スイカの力強い一蹴を聞いた白ひげも殺気は消さずとも、大きな弧を描く笑みを見せていた。

 

 

 

 

 

 

 

「なら勝手にしろ。お前に割く時間も惜しい」

 

「いいよ、この件は後の楽しみにしてやる!」

 

 

 

 そうと決まれば心行くまでケリをつけるまでだが、この男にしこりを残されたまま挑まれてはたまらない。そのためにまずはこの場の片を付ける必要がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長く・・・・・・本当に長く望み続けた勝負の邪魔を退かすためなら!いくらでも目の敵に手を貸してやろう!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界の運命を握る戦争が始まって一時間と三十分。海軍は元帥の仕組んだ策略により敵将 白ひげへ致命傷に至りうる攻撃に成功した。

 

 

 もちろん戦況を変える一手なのに違いなく白ひげ海賊団は当然、傘下の海賊たちにも大きな動揺を与えることに成功し、その立役者でもある人間兵器 パシフィスタの軍団投入もあって流れは一気に海兵へ傾いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ1つ・・・知将 センゴクが企てたこの作戦に物申すとすればこの1つ。

 

 

 

 

 この戦場に白ひげの最後のライバルの1人がいるということを想定しなかったのが、無理難題と言えど痛すぎる失態だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この戦場で死んだ方が良かったと思わせてやる……スイカァ!」

 

「そいつぁ楽しみだ!せいぜいその時まで生き延びなよ……ニューゲートォォォオッ!」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・!!総員構えろぉ!正念場だっ!!全てを破壊する男が!全てを支配する女が暴れ出すぞぉおおおおお!!」

 

 

 

 流れが一度変われば影響は必ず広がる。それが誰にどのように反映するかは分からないが、その変化が訪れた場所からも新たに波紋が広がりだす。

 

 

 

 

 

 

 

「さぁて、こうなったらチマチマなんかやらないよぉ~・・・!」

 

 

 

 

 

 それを示すかのように。かつて個人でとは到底考えられないほど影響を与えてきた彼女が真っ先に動く。共に戦場へ降り立った白ひげの意思など構わず、高らかに叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミッシング・パワァァァアアアアッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これより、戦争は一気に終結へ突き進む。

 

 

 

 この書物を手にする読者の興を削ぐ可能性も十分あるが、あえて記させていただくとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここまでの戦いが透けて見える程、戦場はさらに苛烈を極める・・・!

 




 お読みいただきありがとうございました!う~ん、妄想で大雑把な流れは出来てるのに文字にできないもどかしさっ!


 いやはや、やはり原作の知名度が高いようで多くの読者様にお気に入りしていただいてるのに投稿が遅くなり申し訳ない!
 
 一応は分かっていたのですが、就活が終わったら社会人。やっぱり時間はこれまでより取れなくて書くのがものすごく遅くなってしまいました。唯一の趣味なので続けていくつもりではあるのですが、投稿のスピードが遅くなる可能性が高いとうのは伝えさせてくださいね!本当にすいませんです!



 さて、作品では頂上戦争の顔である場面の一つを書きましたが、村雪の中ではスイカさんは〝海賊王〟にならぶ白ひげのライバル!ライバルが消えるのなら村雪は間違いなく喜ぶというチキンぶりですが、『鬼の四天王』 伊吹萃香ならばこんな反応をするんじゃないかな?と思いながら書かせていただきましたがいかがでしたでしょうか。ちょっとでも皆さんが思う萃香像にかすればよろしいのですが・・・!



 それではまた次回っ!誤字なんかあったら是非報告してくださいまし~!
 


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