FGO マシュのマスター戦記 作:くた男&ぐだ子
しばらく早足で、通路を歩いて行くと機械的な大扉がプシューッなんて音を立てながら開きました!
近未来的だ! と若干感動を抱きつつ先輩がこの場所がなんなのかを教えてくれます。
「ここが中央管制室だよ」
「ここが……ん? あの地球儀、いや天球儀は一体?」
「あれ?あれはカルデアスと言って──」
そんな説明を受けていると、なにやら鋭い視線を感じました。
銀髪三つ編みの目付きのきつい、なんというか強気な性格に見える─もっとオタク風に言うのであれば、ツンデレな感じの─女性がそのつり目でぎらりとこちらを睨んでいます。
なんというかその……視線が痛いです。
「無駄口は避けた方が良さそうだ。これ、もう始まってるようだしね」
小声で私に告げてくれるレフさん。座席表(立って並んでいるよなので整列表でしょうか)をちらっと確認してきてくれた先輩が私が彼女の目の前であると教えてくれます。
私が男子だったら恋愛フラグ……いやなにを馬鹿なことを考えているのでしょう。
先程の弊害か、睡魔に襲われながら、そんなことをぼんやり考えながら、なんとかその目付きがきつい女性の前まで足を運びます。
わかりやすく溜め息を吐いた後に彼女は語り始めます。
「時間通り、とはいきませんでしたが……これで全員揃ったようですね」
少し不機嫌であるということを体現しながら、バイト内容の説明を始める……先程のレフさんの説明からするとパートリーダーみたいな感じでしょうか?
いや、レフさんたちが所長と言っていたからここの長つまり社長あたりだと考えるべきでしょうか?
まあ、後者で考えておいた方が良さそうですね。
そんな思考をしていると女性──先程、自己紹介としてオルガマリーと名乗ってましたね──は衝撃発言をします。
「貴方達は各国から集められた稀有な才能を持つ人材です。とはいえ、特別なのはあくまでも才能であって貴方達ではない。貴方達は人類史を守るための道具に過ぎないことを自覚するように!」
なんと横暴で矛盾した発言でしょうか、駅前で変な検査受けてセールスマンみたいにしつこく絡まれてここにきた私は正直うんざりしていました。
周りもやはり文句があったようで怒りや嫌悪、罵倒の言葉で溢れかえっています。耳を塞ぎたくなるほどには。
当然の結果、因果応報ですね。そんなことを思っているとオルガマリーさんも黙ってはいませんでした。
「それが気に入らないと言うのなら、すぐにここから立ち去りなさい! もっとも、カルデアの外は極寒地獄ですが」
どうだ参ったか、そう言えばそちらも強くはでられまいという自身たっぷりのドヤ顔をしながら、そう言ってのけました。
どうしよう、ならこちらからお断りだと言ってやりたい……言ってやりたいけど、眠い。
そんなことを言う気力は睡魔に奪われました。うう、優等生としてあるまじき行為ですが、この際仕方ありません。いっそこのまま、意識を睡魔に委ねましょう。
倒れないよう姿勢は少し崩し気味にして……
「ちょ……、まさ………れて…たそ…………た! たっ…………てる…!?」
雑音が聞こえるような気がしますが、意識をほぼ刈り取られている私には関係ありませんでした。
強い衝撃を頬に受けて、気づけば先輩と一緒に通路を歩いていました。
「……大丈夫? マシュ」
「はい、すみません。ご心配おかけしました。眠気でここまでボーッとしてしまいましたが私は元気です!」
「そ、そう、ならいいんだけど。かなり熟睡だったからね……っとうわぁ!」
目の前に出てきたフォウさん出会い頭に先輩目掛けて飛びかかりを仕掛けてきました。とっさに先輩は回避をします。
「びっくりした……フォウは時たま、俺の肩に乗るために今のような行動を起こすからね。ちょっと注意するように」
「だいぶ慣れているんですね」
「フォウがカルデアに住み着いてから一年になるしね。だいぶ行動が読めてきた……と思う」
フォウさんはこちらに向かって若干反抗的な視線と鳴き声を浴びせてきます。何かしてしまったのでしょうか?
「……ふむ、どうやらフォウはマシュを同類として認めたらしいね。しかし、人間をライバル視する白い謎生物はありなんだろうか?」
「ああ、そう言うことだったんですか、何かフォウさんの機嫌を損ねることをしてしまったか、と少し心配になってしまいました。ってそれはそれでどうなんでしょうか……」
「ま、フォウのことだし、明日あたりにはもう忘れているだろうからあまり気にかけなくても大丈夫だと思うよ……っと、ここがマシュの部屋だね」
「態々案内していただきありがとうございました」
「なんのなんの、昼飯を奢るくらいのことまでならするさ。先輩だしね、でもそろそろ管制室に戻らないと。俺は先発隊みたいなもんだからね」
キュー、キュ!とフォウさんが軽く鳴き声をあげます。雰囲気的に心配するなといった感じでしょうか?と思っていたら私の胸に飛び込んできました。その行動にびっくりしながらもしっかりキャッチしました。
「おお、フォウがマシュを見ていてくれるのか? なら安心だな、じゃあ俺はここで。運が良ければまた会えるかもね」
といって来た道を戻って行きました。そんなに広い施設でもないみたいですし、またそのうち会えるでしょう。いいバイト仲間ができました。
案内された部屋に入るとゆるふわ系ポニーテールの男性がケーキを食べながら我が物顔で居座っていました。
「はーい、入ってまー――って、うぇええええええええ!? 誰だ君は!? ここは空き部屋で僕のさぼり場だぞ!? 誰の断りあって入ってくるんだい!!」
「こちらのセリフです!! まさか不審者ですか!?」
「な、不審者ってことはないだろう! どこからどう見ても健全で真面目なお医者さんでしょうが!」
「こんなところでサボっていることから真面目とは言い難いと思います。……が、装いは確かに医師のようですね。残念なことに」
「残念なことにってどう言う意味さ! ……コホン、ともかく初めましてマシュ・キリエライトさん。予期せぬ出会いだったけど改めて自己紹介をしよう」
そしてその(怪しげな自称)お医者さんは自己紹介を始めました。というかなんで私の名前を?
「ボクはロマニ・アーキマン。
なぜかみんなからDr.ロマンと略されていてね。理由はわからないけど言いやすいし、君も遠慮なく呼んでくれていいよ。
実際ロマンって響きがいいよね。かっこいいし何処と無く甘くていい加減な感じがして。あ、一応ここの医療部門のトップだ」
医療部門のトップですか……バイトの説明はまともに聞いていませんでしたが、ここはきっとそういう部所が必要な所なのでしょう。
「成る程それなら、私の名前を前以て書類で確認していても可笑しくありませんね。先程は失礼しました」
「納得いただけて何よりだよ。今後とも宜しく、っと? そこにいるのはリツカから聞いた不思議生物かな?ちょっと、手懐けてみようか……」
自身の持っているケーキを餌に、私の抱えているフォウさんにお手を敢行するDr.ロマン。
それに対してフォウさんはため息をするように鳴き声をあげてから、彼を見下しています。
その滑稽さに思わず吹き出してしまいました。
「ぷっ……ふふふ」
「わ、笑うなよぉ! と、とにかく、話は見えて来たぞ。君は今日来たばかりの新人で所長の逆鱗に触れてカミナリを受けたって所だろう?」
「……うーん。まあ、平たく言えばそんな所ですかね」
「なら僕と同類だ。何を隠そう、僕も所長に叱られて待機中だったからね」
自慢げで誇らしそうにそんなことを告げられます。何がそんなに誇らしいのか……ちょっと理解できません。
「えっと、それってつまり叱られたことに拗ねて一人ストライキしてたってことですよね?」
「うぐっ……なかなか鋭いね……だって所長が『ロマニが現場にいると空気が緩むのよ!』なんて言うもんだからさ。あとは君の推理の通りだよ」
ふふふ、と不幸が滲み出ているような感じで乾いた笑いを披露されます。
こんなとき、どう声をかけるべきなのか……
取り敢えず、思ったことをそのまま言いましょう。
「それは所長さん側に問題があるかと、緊張をほぐすためある程度の緩和人員ムードメーカーは必要ですし」
「うん、ありがとう。医療する側の人間がカウンセリング受けてどうするんだ、って話だけど、少し気が楽になったよ。
それに、ここにいたおかげで君に会うことができた。ぼっちにメル友、地獄に仏とはこのことだね。
所在がないもの同士、ここでのんびりゆったり世間話に花を咲かせて親睦を深めようじゃないか」
「ぼっちにメル友なんて諺はありません。ですがちょうどここは私の部屋ですし、このバイトの説明はまともに聞いていませんでしたので、ありがたいです」
しばらく私に出番はないようですし、ちょうどいい機会なのでここでバイト説明も改めてしていただきましょう。
ちょっと抜けてそうな人ですし、怒られたりはしなさそうですし。
「うん、つまりボクは友達の部屋に遊びに来たってことだ……って、え? バイト?」
「はい、長期的で場合によっては一年近く掛かると聞いたのでどんな内容なんですか? 先ほど説明を受けたんですが、恥ずかしながら理解できなかったのと睡魔に襲われてほぼ聞いていなくて……」
「……あー、一般枠ではそんな対応をしてたのか。認識の齟齬があるようだ。素人にもわかりやすく言うとここで行われるのは、歪んだ歴史を正史に戻す命がけの仕事なんだ」
はい? いや……はい?
えっと、整理しましょう。さっき断片的に聞いていた説明と今のDr.ロマンの説明を合わせると……ん? ひょっとすると私……騙された?
「なんですかそれは! スカウトマンとか言う人からは『一年間近く備品点検をするだけの簡単なお仕事で日給二十万の割高なバイトです』みたいな説明を受けたんですが!?」
確かに怪しいとは思いましたが、先日近所の古本屋に埋もれていたシャーロックホームズの初版本を買うため、多少怪しくてもさすがに命の保証はあるだろうと高を括っていた私は実際かなりの愚か者ですね……。
もっと世の中の闇の深さを知るべきでした……。
「いや、まあ、君の仕事に関しては多分そうなるよ。所長が君を前線に起用するとは思えないし」
「そ、そうですか。少し安心しました」
「でも、もしかしたら一回や二回くらいは支援班として起用されるかもしれないから、覚悟はしておくように」
「はい、わかりました」
「じゃあ、まあここの設備説明とかもしていこうか」
と言った風にこのあと数時間にわたってカルデアの歴史や構造について談話していました。
親睦も大分深まって来たところでDr.ロマンのタブレットが鳴り出しました。
「っと失礼するよ。やあレフ。どうかしたのかい?」
『ああ、ロマニ。あと少しでレイシフトなんだが、万が一に備えてこちらに来てもらえないか? Aチームの状態は万全だがBチーム以下、慣れてないものに若干の変調が見られる。緊張からくるものだろうな』
お相手はどうやら、レフさんのようです。向こうで軽いトラブルがあったみたいですね。
「それは心配だね。麻酔でもかけにいこうか」
『急いでくれ。今医務室だろう? そこからなら二分で着くはずだ』
通話が途絶えてしまいました。
医務室がどこかは知りませんが少なくとも管制室から五分近く歩いて来たので医務室よりか私の部屋は遠いと思われます。
「ここ医務室じゃありませんよね? どうするんですか?」
「……あわわ……それは言わないで欲しかった……ここからじゃどうあがいても五分はかかるぞ……
でも、ま。少しの遅刻は許されるよね。
Aチームは問題ないみたいだし。
お喋りに付き合ってくれて、ありがとう影光マシュさん。落ち着いたら医務室にでも来てくれ。今度は美味しいケーキでもご馳走するよ」
Dr.ロマンが立ち上がって、この部屋を去ろうとしたその瞬間。部屋が暗転しました。
因みに眠りに入ったマシュに所長は
「ちょっと、まさか遅れてきたそこのあなた! 立ったまま寝てるの!?」
と言ってたそうな。