東亰ザナドゥ・ショートコラボ   作:玄武Σ

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久しぶりの投稿ですが、いつの間にか年末に。
斬の軌跡の筆が乗らない&きららファンタジア実装に乗っかって、こっちを描きました。
ただし今回はひなこのーとのコラボなので、きらら枠ではないのです。あしからず。


郁島空&四宮祐騎「劇団ひととせ?」

時坂洸が八神コウと出会う数日前、彼の後輩である郁島空が帰省する前のこと。

彼女は現在、同級生の四宮祐騎を連れてある場所を訪れていた。東亰の古祥寺である。

 

「全く、せっかくの夏休みなのになんでこんなところに……」

「祐騎君、夏休みだからだよ。家で過ごすなんて、普段の休みでも出来るんだからさ。普段と違うことをしようよ」

 

出不精な祐騎を心配している空だが、当の本人は鬱陶しそうにしている。ちなみに祐騎はこんなところと言っているが、杜宮から古祥寺までは電車一本で行ける場所である。

二人がこの場所にいるのには、理由があった。

 

「確か郁島の親の知り合いが、この辺りでアパート経営してるんだっけ?」

「うん、まだ挨拶してなかったから、いい機会だと思って。萩野さんっていって、昔は舞台役者だったんだって」

「……なるほど。古祥寺といえば、下北沢に並んで演劇の町って言われてるくらいだしね。近場の劇団員が引退後に何かしらやっててもおかしくないか」

 

この街に来たまさかの理由に、少し驚くも納得する祐騎。同時に内心で、「なんで父親の友達に会うのに、自分まで付き合うんだ?」と疑問に思ってしまうのだが、ここで意外なことまで判明してしまった。

 

「それで、ひととせ荘って名前らしいんだけど……ちょっと、サイフォンの地図の使い方、よくわかんなくって」

「まさか、それで僕を連れて来たとか?」

 

まさかの空の発言に、祐騎もついジト目で見てしまう。その反応に、思わず慌ててしまう空。

 

「い、いや! それもあるけど、祐騎君が家に籠ってばかりなのが心配なのも本当で!?」

「はいはい、そういうことにしてあげるから」

「だから……」

「もし。そこの御二方」

 

そんな中、二人にふいに声をかける少女の声が聞こえた。振り返ってみると、見た感じは小柄で小学生のようだが、服装や口調にどこか気品のある雰囲気をしている。

 

「何、ひょっとして迷子? 言っとくけど、僕もこの辺りに来たばかりだから土地勘なんてないよ」

「いえ、むしろ案内して差し上げようかと。私も、ひととせ荘に用があったので」

 

祐騎が邪険に扱おうとしたところ、むしろ案内を買って出た少女。先ほどから雰囲気と言い、言葉遣いと言い、あまり年齢に合っていない感じである。

そんな中で、祐騎はあることに気づいた。

 

「あれ? この子って、まさか……」

「祐騎君、気づいた?」

「あ、まあね(このレベルの著名人なら、郁島とか一般的な高校生はみんな知ってるだろうけど)」

 

祐騎が何かに気づいたところで、空が耳打ちしてくる。同じことに気づいたと思っていたが

 

 

 

 

 

 

 

「この子、小学生っぽいのに発育いいね。明日香先輩辺りと、いい勝負かも」

「そっち!? 違うから、この子って有名な子役だから!」

 

まさかの空の返答に、思わずギョッとしてしまう祐騎であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「黒柳ルリ子。元々筋金入りの芸能一家の生まれで、その証拠に母親が現役モデル。彼女自身も大人顔負けの演技力を披露し、百年に一人の逸材って呼ばれる天才子役さ。なんか最近、このあたりの高校で演劇部の特別顧問に招かれたって話を聞いたけど」

「そうなんだ。私、あんまりテレビとか見ないからそういうの詳しくなくって……」

「そうだったんですか。逆にそちらのあなた、詳しいのですね」

「まあこのご時世、情報を持っている人間が一番強いからね。あれこれ調べ回らせてもらってるよ」

「ねえ祐騎君、まさかまたハッキングとかしてないよね?」

 

道中、案内を買って出た少女について説明する祐騎に、当の説明されている本人も感心する。しかし空は、彼が普段からハッキングやら株取引やらに手を出していることを知るため、コソコソと尋ねる。

それに関しては特に問題もなかったらしく、今度は空からルリ子に声をかける。

 

「それにしても、プロとはいえまだ子供なのに先生って、ルリ子ちゃんって凄いんだね」

「それを言うならあなたもでしょう。今年の空手インターハイで優勝した、郁島空さん」

 

ルリ子のことを褒めていると、まさかの返事が返ってきて空も驚く。

 

「私のこと、知ってたの?」

「はい。演劇部顧問を務める身として、脚本なども考えていますので。どこに参考になる物があるかわかりませんから、アンテナを広く張っております」

「へぇ、小学生にしちゃ妙に研究熱心だね。だからこその、逸材ってところかな?」

 

ルリ子が天才子役と言われる所以を知り、空だけでなく祐騎も素直に感心していた。

 

「で、古祥寺は演劇の町で有名だし、やっぱり地元高校も役者の育成に力を入れてるから君みたいなレベルの役者を招いたわけかな?」

「まだ若輩ですが実力を買って貰っていますので、応えようと受けさせてもらいました。そして、肝心のひととせ荘には部員も何人か下宿していますの」

「ああ。だから場所を知ってたんだね」

 

ルリ子がわざわざ案内を買って出た理由が判明し、空も納得する。そして、そうこうしている内にひととせ荘に到着するのだが……

 

 

 

「あれ、古本屋ひととせ?」

 

アパートと同じ名前だが、看板にははっきりと古本屋と書かれていた。本当にあっているのか、疑問に思ってしまう。その為、つい祐騎も疑いの目でルリ子を見てしまう。

 

「ねえ、本当に合ってるの? やっぱり子供に案内任せたのが間違いだった?」

「いえ、アパートで経営しているどうですの。聞いた話では、入居者はアパート内で何かしらの仕事をする決まりだそうで」

 

ルリ子は事情を説明すると、そのまま扉を開けて中に入ってしまう。ひとまず、二人もそれに続くことにした。

しかし、入ってすぐに空達はまたギョッとするものを見てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ふぇんふぇい。いらっひゃいはへ」

 

なんと、青い髪の同い年っぽい少女が紙を口に入れて咀嚼している姿が飛び込んできたのだった。肝心の少女は咀嚼したままでルリ子に声をかけてくるが、先生と呼んでいるようなので演劇部員のようだ。

 

「ごきげんよう、くいなさん。今日は少し様子見に来たのですが、道中でこちらに用があるという方達と会ったので、案内させてもらいましたの」

 

しかしルリ子はその様子に驚いた様子もなく、そのまま少女に応対する。そして少女はルリ子の後ろにいる空達に気づくと、紙をそのまま飲み込んで応対に入る。

 

「あ、お客さんでしたか。どういったご用件でしょうか?」

「えっと……こちらを経営している、萩野さんはいらっしゃいますか? 父が知り合いだそうで、挨拶に来たんですけど…」

 

空はどうにか平静になって、用件を伝えることにする。しかしその用件を聞いた瞬間、少女が申し訳なさそうな表情を浮かべた。

 

「あ、そうでしたか。でも今、海外にいるので会うのは難しいですね。代わりに、今は空けてますけど娘の大家さんがいますが」

「……まあ、折角ですし顔を会わさせてもらいます。連絡も入れてくれるかもなので」

「わざわざ訪ねてもらって、すみません。あ、自己紹介がまだでしたね。夏川くいなっていいます」

「あ、わざわざどうも。私は郁島空、杜宮学園高校に通う一年生です」

「四宮祐騎、一応同級生」

 

とりあえず、顔合わせしてそのまま自己紹介に入る一同。そんな中で、祐騎は先ほどの光景が気になってつい問い尋ねてしまった。

 

「で、君はなんで紙なんて食べてたの? 見たところ、その本のページっぽいけど」

「あ、その……読書と、それと同じくらい食べるのが好きで、本が友達というか食べちゃいたいくらいかわいくて」

「いや、その発想可笑しいから!?」

 

くいなから返ってきた返事に、思わず祐騎がツッコんでしまう。そんな中で、ルリ子が再びくいなに声をかける。

 

「ところでくいなさん、千秋さんが空けているということはひなこさんもでしょうか?」

「はい、二人で野外に練習に行ってます。近くに大家さんの知り合いの小劇団さんが練習に来てるそうで、混ぜてもらいに」

「そうでしたの。では、私はお二人の方に声をかけに行かせてもらいましょうか」

 

そしてそのまま、ルリ子は一人でひととせ荘から

 

「あの、折角だからゆっくりして行っても……」

「こちらに来る前に食事も済ませたので、大丈夫です。ではみなさん、ごきげんよう」

 

そしてそのまま退散してしまった。別れの挨拶と言い、明らかに子供のそれではない。

 

「食事……そういえば、そろそろお昼御飯の時間だね」

「だね。例の大家さん戻ってくるまで時間ありそうだし、コンビニでも行かない? 僕も、流石にお腹減ってきたんだけど」

 

先ほどの食事というワードに反応し、揃って空腹感が襲ってきた。するとくいなが声をかけてくる。

 

「実は奥が喫茶店になってて、私達も普段はそっちでお昼食べるんですよ。よければお二人もどうです?」

「え? 流石に悪いよ、部外者だし」

「いえ。間接的だけど、大家さんと関わりのある人ですし、ひととせ荘の住人としても無関係じゃありませんよ」

「郁島、折角だしご馳走になろうよ。こういっちゃアレだけど、倹約にもなるし」

「あはは……そっちの彼、大家さんと気が合いそうですね。まあそういうことみたいなので、どうでしょう?」

 

まさかのお誘いに、思わず空も遠慮する。しかし祐騎が身も蓋もないことを言い出したと思いきや、くいなも苦笑しつつ再び空を誘ってくる。ここまで言われたら、流石に断れる気配ではなかった。

 

「……そういうことなら、一緒させてもらおうかな」

「決まりですね。それじゃあ、ついて来てください」

 

そしてくいなに案内され、店の奥の扉をくぐる。するとその先に、複数のテーブルやカウンター席が設けられている。そしてカウンターの向こう側が、ちょうどキッチンになっていた。

するとそこに、金髪碧眼にメイド服の小柄な少女が調理の準備をしているのが見えた。

 

「あ、くーちゃん。お昼、今から準備するから……あれ、お客さん?」

「まゆちゃん。ちょっとややこしいですけど、大家さんのお父さんの友人の娘さんと、そのお連れさんだそうです。折角なんで、一緒にお昼いいですか?」

 

喫茶店のキッチンを使っていることと言い、くいなと親しい様子といい、彼女もひととせ荘の住人らしい。見た目は小学生のそれであるが。

 

「あら、そうだったの。初めまして、柊真雪よ」

「初めまして、杜宮から来た郁島空です。こちら、同級生の四宮祐騎君」

「郁島、勝手に自己紹介しないで。四宮祐騎、一応よろしく」

 

ひとまず自己紹介をし、そのまま目の前の少女、真雪と話をするのだが……

 

「まだ小さいのに下宿とお仕事してるって、凄いね」

「っていうか、労働法とかに触れないの? そこらへんは、大丈夫?」

「え!? 違う、私高2だから!!」

 

真雪が年上というまさかの事実で、そのままそろってギョッとするのだった。ちなみに、メイド服も制服ではなく彼女の普段着だという。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「空ちゃんって、玖州から来たんですね。でも、なんでそんな遠くで空手家やってる人が大家さんのお父さんと知り合いなんでしょうか?」

「その萩野さんが劇団時代に殺陣の参考を考えてたら、たまたま近くを訪ねてたお父さんが協力してくれたらしいんだって。丁度、知り合いの柔術道場を家族で尋ねてた頃の話らしいんだけど」

 

その後、くいな達と食事を取ることになった二人。テーブルに並んだパンケーキやナポリタンなどの喫茶メニューを味わいつつ、空は父と肝心の萩野という人物との関わりについて話している。

 

「でも実家が本格的な古流道場なら、そこで修行した方が強くなれそうだけど。なんでわざわざこっちに来たの?」

「父の教えなんですが、『若いうちに見聞を広め、己が修行の場を見出すべし』ということでその柔術道場のある杜宮に来たんです」

「御覧の通り、郁島は脳筋の武術バカだからね。それも筋金入りの」

 

真雪も空の上亰について感じた疑問を口にするが、当の空はそれに嫌な顔一つせずに答える。その一方で祐騎が毒を吐くも、スルーされていた。

 

「そういえば、ルリ子ちゃんがさっき言ってた千秋さんって、たぶんだけど大家さんの名前だよね。大家さんも役者さんの兼任とかしてるの?」

「元子役、というのが正しいですね。実は大家さんも私たちの通う藤宮高校の生徒で、演劇部に入っているんですよ」

「ちなみにアキちゃんは演劇部のエースで、子役時代からかなりの有名人何。千秋ちゃんと演劇部に憧れて入学した子も、多いんだよ」

「下宿人が働くルールって時点で学生が大家やってるのは、まあ納得がいくね。それにしても、元子役で特別顧問の指導を直接受けている、加えてアパート経営してるってハイスペック過ぎない?」

 

こうやって話しているだけでも、その千秋なる人物が結構な大物であることは想像がついた。ちなみに談笑しながらの食事だったため、いつの間にか料理もすべて食べきっていたりする。

 

「ごちそうさまでした、真雪さん。とっても美味しかったです!」

「まあ一人で喫茶店の厨房任されてるだけはあるね。そこは認めるよ」

「ありがとう。それと食後にいきなりなんだけど、二人がよければアキちゃんの練習してるところまで連れて行ってあげようと思うんだけど」

 

食後に真雪からの提案があるも、流石に悪いと感じて遠慮する空。

 

「え、いいですよ! お昼ご馳走になったうえにそこまでしてもらうのは、流石に図々しいですって! それに、喫茶店も古本屋もあるんじゃ……」

「お昼のピークは過ぎてるし、問題ないわよ。それに……」

 

特に問題ないということを語る真雪だが、直後にバツの悪そうな顔をする。そして語られたのは、意外としょっぱい事情だった。

 

「実は普段から、お客さん来ないんだよね。古本屋もそうだけど……」

「え?」

(まあ、学生しかいない店っていろんな意味で不安だろうしね。また郁島が煩くしそうだから黙っておこう)

 

空が一瞬フリーズする中、祐騎は冷静に分析する。また空に小言を言われそうだったので、黙っていたが。

 

「そ、それじゃあ折角だしみんなで行きましょうか!」

 

そんな中で、くいなが空気を換えようと一同を先導するのだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「確かこの辺りだったと思うけど……」

 

その後、一同は近場の公園を訪れていた。杜宮記念公園でもいえた例だが、大きな公園は都内でありながらも自然が豊かな場所だった。加えて公園内の池で鴨が泳いでおり、のどかな雰囲気を醸し出している。

 

「それはそうと、ここいい場所だね」

「そうなんですよ。それに、ここの売店で、たい焼きとかお団子とか美味しいの色々あるんですよ」

「さっきあれだけ食べたのに、まだ食べ物の話するんだ」

 

空が公園の雰囲気を気に入り、くいながまた食べ物の話をするのを祐騎がジト目で見る。そんな感じで談笑しているのだが、その最中で空がある物を発見。それと同時に、彼女の眼の色が変わった。

 

「あんたねぇ、今ぶつかったせいでこれ壊れちゃったじゃない! どうしてくれるのよ!?」

「ひ、ご、ごめんなさい……」

「煩いわね、誤って済む問題じゃないっての! 弁償しなさい、十万は貰ってかないとだめね!!」

「そ、そんな……」

 

明るい茶髪の少女が、目つきの鋭い長髪姫カットの少女に絡まれている光景が見えた。やっていることは完全な恐喝で、数か月前のBLAZEの騒動を思い起こした。

 

「真雪さん、警察に連絡してください。祐騎君も、一応証拠写真とかの準備をお願い」

「え? 空ちゃん、何を……」

「私はあの子を助けてきます!」

「ちょ、郁島!?」

 

そのまま真雪と祐騎に指示を出し、空自身は脱兎のごとく駆けだし、目の前の恐喝現場に乗り込んだ。そしてそこで目つきの鋭い少女が拳を振り下ろそうとしたところを、空がそれを掴んで阻止する。

 

「「え?」」

「それ以上の狼藉は、許しません」

 

突然の事態に少女は揃って唖然とするが、空は気にした様子もなく告げる。そしてそのまま手を放すと、そのまま少女に視線を向けて告げた。

 

「あなたのあからさまな恐喝ですが、先ほど知り合いに警察への連絡を頼みました。今すぐにやめてこの場を去ることを勧めます」

「ちょ、何言って……」

「それでも下がる気がないなら、私が相手をします。武を極めんとする者として素人に手を出すのは心苦しいですが、それ以上に悪意を持った相手を見逃すのはもっと心苦しいので」

「あんた、話を……」

「逃げないつもりですか……それだったら仕方ありません!」

「え、ちょっとまって!?」

 

そして空はそのまま目の前の少女に構えを取り、拳を振るうのだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「空ちゃんだめぇええええええええええええええ!?」

「郁島、ストぉおおおおおおおおおおおおおおおおップ!」

「え?」

 

突如、祐騎と真雪が同時に止めに入ったため、そのまま拳が少女の顔面間近で寸止めされることとなる。

 

「ここ探してた劇団さんの練習場所! それと、その子もうちの学校の演劇部員なの!!」

「いくらなんでも、周り見なさすぎだよ! 郁島、いつからそんな猪みたいになったの!?」

「え?」

「さっきぶりですね、空さん。で、何をしてらっしゃるんですの?」

 

祐騎と真雪が事情を説明、直後に聞き覚えのある声が聞こえたので見ると、先ほど分かれたルリ子の姿があった。そしてまわりをよく見てみると、何人かの人が唖然としており、手には台本を持っていた。そして目の前の恐喝をしていた少女もよく見ると、手に台本を持っていた。

 

「ひなちゃんがまた案山子になってますね。今回は恐怖で、みたいですけど」

 

もう一人の絡まれていた少女も手に台本を持っている。そしてくいなの指摘通り、案山子のようなポーズをとって固まっていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「すいません、本当にすいませんでした!!」

 

そして空はそのまま、先ほど殴ろうとしていた少女に土下座で謝っている。勘違いしたあげく、本気で殴ろうとしていたのだ。当然の反応だろう。

ちなみに空が殴ろうとしていた少女は中島ゆあ、案山子になっていた少女は桜木ひな子というらしい。ちなみに、ひな子はひととせ荘の下宿人の一人だとか。

 

「ま、まあゆあの演技がそれだけ凄かったってことだから。別に、気にしてないわ」

「だから気にしないで……(怖かったけど、かっこよくもあったかな?)」

 

しかしゆあ自身は特に咎めるつもりはないとのことであった。脚とか微妙に震えてる気もするが、気のせいだろう。その一方で、ひな子は空にいい感情を持っていたようであった。

 

「……あなたが郁島さんの娘の空ちゃん?」

「え? そうですが……」

 

直後に空に声をかける女性が現れる。それは濃い茶髪に紫の瞳、女性ながら170㎝はある高身長と豊かな胸と、かなりの美人である。今の反応から、彼女の正体が察せられた。

 

「まさか、あなたがひととせ荘の大家さん?」

「はい。萩野千秋です、昔父があなたの父にお世話になりました」

 

探していた人物と接触できたため、反射的に空は挨拶を返す。

 

「はい、郁島空と申します。上亰と夏季休暇を利用して、挨拶に伺わせてもらいました。それと、そちらの後輩方に勘違いで手を挙げよとしてすみません!」

 

そして挨拶を返すと同時に再び謝罪の言葉を口にする空。流石に立て続けに土下座をするのは相手側にも迷惑と考えたが、深々と頭を下げることはした。

 

「大丈夫。ゆあちゃんもひなちゃんも、気にしてないって言ってるし。それに、空ちゃんがいい子で正義感が強いっていうのも、聞いているから」

「……そうですか。その…ありがとうございます」

 

しかしその後、千秋から優しい言葉をかけてもらい、どうにか立ち直る空とそれをやれやれと言った感じで見守る祐騎。

その後、練習が再開したためそれを見物することにする二人であった。

 

~練習後~

「残念だけど、父は定期的に連絡はしてくるけどこっちからする時は殆ど留守だから難しいかな」

「そうですか、残念です……」

 

練習後の休憩時間で、公園の屋台で買ったたい焼きを食べながら話をする一同。千秋の父に連絡を入れることが難しいと聞いて、残念そうにする空。しかし、気を取り直してそのまま話を続けてみる。

 

「そういえば、千秋さんのお父さんって外国で何をしてるんですか? 妥当なところで、役者に復帰するために勉強してるとかだと思いますけど……」

「ううん。父はギタリストに転向して世界一周に出てて、今はメキシコに行ったときに影響されてマラカス奏者に転向しなおしたみたい」

「え? いくらなんでも自由すぎでしょ、それ?」

 

千秋の父の意外な経歴を知り、思わず祐騎もツッコミを入れる。ひとまず話題を変え、今度はひな子やゆあに話を振ることにした。

 

「二人はどうして演劇部に入ったの? 千秋さんに憧れてる人が多いって真雪さんから聞いたけど……」

「ええ。ゆあは千秋先輩に憧れて入ったの。あと、女優志望でもあるわ」

「わ、私は、その……」

 

ゆあは自信満々そうな様子で語るが、ひな子は少し言いづらそうにしている。何かあるのかと思っていると

 

「何? そんなに恥ずかしい理由でもあるの、演劇やるくらいで?」

「い、いえ! ただ、私、人見知りが激しくって、緊張するとさっきみたいに案山子になってしまう癖があって……」

 

祐騎の遠慮しない物言いのおかげか、割とあっさり理由を話すひな子。とはいえ、先ほどの光景を見ていなければ、案山子になるという理由もよくわからない物であったが。そしてそのまま、ひな子は話を続ける。

 

「それで藤宮高校の学校見学に行ったときに、演劇部の公演で感動して、それで演劇を通して人見知りを直したいって思ったんです。で、お店のルールもあって小劇場やることにもなったんだ」

「なるほど。いい夢とか目標を持ったんだね。私も実家が空手の道場でね……」

 

話を聞いて空は、ひな子とそのまま話し込んだ。同じく一つの物に打ち込む姿勢から、何か惹かれるものを感じたのだろう。そんな彼女とそのまま電話の番号を交換することにしたのだった。ちなみに彼女の使っているSNSはNiARではなかったため、そちらの交換はしていない。

 

~その後~

「もっとこう、腰に力を入れながら狙いを定めて……拳を放つ!」

「えっと、こうして……えい!」

「きゃあ!? ひな子、気をつけなさいよ! 思いっきりずれてるんだけど!!」

 

そのまま殺陣の参考に空も協力することとなった。ちなみに先ほど練習していた演劇は、気弱でいじめられている少女が女性武術家に出会い、強くなってやがて世界大会に参加するというサクセスストーリーらしい。ちなみに、ひな子がそのいじめられてる主人公の少女、ゆあはその武術家に出会うきっかけの恐喝してきたスケバン、千秋はまさかのその女性武術家の役だったらしい。

 

「もっと丹田、おへその下あたりに力を入れて!」

「えっと、こうやって……う、腹筋つった!?」

「ゆあちゃん、大丈夫!?」

「なんだか、本格的な武術の鍛錬になってますね……」

「郁島、その子たち素人なんだからちゃんと加減しなよ」

 

いつの間にか、本格的な空手のレッスンと化していた。ちなみにこれは話に出ていた知り合いの柔術家、洸の祖父・九重宗介の教えをそのままやってるので空にも指導ができたのだった。

 

そのまま夕方

 

「それじゃあ、今日はありがとうございました」

「いえいえ。空ちゃんこそ、高菜漬けと明太子ありがとう」

 

帰る時間になったのだが、駅で今回出会った面々に見送られることとなる。ちゃっかり実家から送られてきた特産品が、プレゼントされてたりする。

ちなみにルリ子は用事で途中から帰ってしまったのでもういない。

 

「真雪さん、今日のお料理美味しかったのでいつか他の友達とか先輩たちも連れてきますね!」

「ありがとう。その時を楽しみにしてるね」

「ま、それなりに有意義な時間ではあったよ。けど、今度からは本なんて食べないように。お腹壊しても知らないから」

「あはは。気を付けます(祐騎君はああ言いますが、子供のころから大丈夫だったし、今更ですね)」

「ひな子ちゃんとゆあちゃんも頑張ってね。特にひな子ちゃんは小劇団もあるらしいし、私も空手の方頑張るから」

「ありがとう、空ちゃん」

「まあ、ゆあが手伝ってあげるんだからいい劇団になるのは確実よ。例の先輩とやらにも紹介しておきなさいよ」

 

そのまま挨拶を済ませ、杜宮行きの電車に乗って帰るのだった。

 

「まあ、たまにはちょっと離れた街に行くのも悪くは無いかな。足痛いし、もうしばらくは行かないけど」

「祐騎君、たまには運動しなきゃだめだよ。そうだ、今度は浅草に行ってみない? なんか瑞星庵って和菓子屋が有名みたいで……」

「はいはい、出来れば夏が明けてからね。流石に暑い中で出かけるのはこりごりだよ」

 

悪態をつきながらも満更でなさそうな祐騎と、それに気づかないながらも楽しそうにしている空であった。




最後にちらっと出てた瑞星庵は、餡さんぶるという漫画に出てくる和菓子屋です。これも連載がアーススターコミックできららじゃないのですが、1巻と巻数を打ってるのに公式HPで完結扱いになっていて個人的に残念な作品です。復活を願って、ちょっと出させてもらいました。
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