少し変わった乙坂有宇   作:々々

13 / 14



感想や評価ありがとうございます。
それを糧に頑張っていきます。






日常

 

 

 中学校の校舎が崩れると同時に乙坂さんは倒れました。その姿はまるで崩壊の現場を直接見ていたような、そんな感じに思えました。

 皆が息を呑み校舎に駆け寄ろうとするのを制止する。ここであたし達が行っても出来ることはありません。友達の妹、あたしにとってはそれだけではなく、大切な友達の危険かもしれないのにひどく冷静になれました。

 

 だからですかね、乙坂さんに起こったあれこれについて考える事ができました。

 まず一つに乙坂さんが校舎に辿り着く前、校舎が見える辺りで立ち止まり声を上げたこと。あれ程急いでいた乙坂さんが理由もなく立ち止まる訳がありません。

 疑問に思い横から覗いてみると瞳いつもの色、なんて言うんでしたっけ黒に赤が混じったような、そうです玄色から瞳の色が変わっていました。

 緑と黄色の間の色に変化し微小な発光、能力発動時のものです。ただ、彼の能力である『略奪』は使用時の最初にしか光りません。もしそれがあたしの勘違いだとしても彼は必死に手を伸ばしながら叫んでいたので、意識が体から離れる『略奪』を使っていないのは明らかです。

 

 となると、ここである仮説が有力になってきます。『略奪』の本質は『意識を乗っ取る』事ではなく、『能力を奪い取る』ものであると。

 まるで校舎の中が見えているような発言と行動。有働が持っていた『念写』のものと一致します。元の使い方がセーラ服を透けさせて紙に念写する、というものなので如何せん有用性がハッキリしていませんでした。

 だが本質がある一つ物質を透過し、それを何かに映すというものだったとしたらどうでしょうか。後日、本人に聞いたら建物越しにも念写できていたと言っていました。

 今回は、校舎の壁を透過し中の人を確認したと仮定する事ができます。

 

 そしてゆっくりと崩れる校舎。

 これも乙坂さんが『略奪』した『念動力』だと思われます。他の考えとしては第三者の能力者がいた、というのもありますが乙坂さんが行ったと考える方が確実性があります。

 

 では最後に能力の()()()()()についての考察を述べて活動記録を終わらせたいと思います。

 あたし達能力者にとって切っても切り離せない、その能力の欠点です。『意識を乗っ取る』能力では無いと考えた場合、『5秒のみ』という時間制限はデメリットになりえません。

 それならば何がデメリットとなるのか。

 全てが仮定となってしまうのですが、乙坂さんは能力の核となるのは能力者が持つ感情・心情・想い等では無いかと言ってました。

 となると、本人以外が能力を使うという事は『全く別の人の思考』を自分の中に取り込む事で可能になるのではないか。言い方を変えれば、乙坂さんの中には今まで乗り移った人の思考が少しばかりは残っているのではないか。

 

 もし、それでも乙坂さん本人の人格に影響を与えたら。他人の考えが生まれて、脳の処理が追い付かず気を失ってしまう事もあり得るかもしれません。

 何か乙坂さんに変化がないか、暫くの間学校を休み観察したいと思います。

 

 活動記録はこのあたりで終わりにします。

 

 

 歩未ちゃんの葬式の後からの乙坂さんの観察を続けていますが、声を出さずじっと観察するのは辛いものがあります。最初の頃はご飯を作り、学校には行かなくとも部屋の掃除や勉強を続けていました。ですが、今となっては、3食食べることもなくなり、1日に1,2回カップラーメンを食べています。部屋の掃除も止め、ゴミが溜まっています。

 部屋はカーテンを締め切り、24時間ついているテレビが唯一の光源になっています。

 そんな状況でも乙坂さんは毎日歩未ちゃんの写真に挨拶をしています。

 

 

 それから1週間。高城と黒羽さんが何度か訪れましたが、扉の前で追い返してしまいます。その口調は荒々しく、彼の口から初めて出された強いものでした。

 今思うとあたし……あたし達は乙坂さんの事を深く知りません。高城は昔からの付き合いですから自然と知っていますし、黒羽さんも女性同士ですので生徒会室でお話をしたりお姐さんとは波長が合って会話が弾みます。

 でも、乙坂さんとの話の機会はあまりありませんでした。それもそのはずで、あたしがあんまり……と言うかはっきり言って乙坂さんが嫌いだったから話をしなかっただけなんですけどね。

 

 

 そして次の日、また来客がありました。

 当然乙坂さんは昨日と同じように玄関前で帰ってもらうように言いました。あたしに事前連絡が無かったので、二人以外の誰かと言うことになりますが、玄関前にある鏡にあたしの姿が映ってしまう可能性があるので誰の訪問かは分かりませんでした。

 その場で終わりと思いましたが、相手はそこで終わりませんでした。管理人に事情を説明し、解錠してもらい中に入って来ました。

 あたしの能力は一対一の物なので、相手に見られたら大変です。急いで能力の対象を乙坂さんから相手に変えます。乙坂さんには見えてしまいますが、部屋の形はある程度理解しているので、乙坂さんのいる位置から見えない場所は分かっています。

 リビングに入って来たのは、うちの制服ではない女子高校生でした。あれは確かに乙坂さんが前に通っていた高校の、そうです乙坂さんが能力を使って助けた人です。

 

「乙坂さん! 大丈夫ですか?」

 

 カップ麺ばかりで足場のないリビングを歩いて、乙坂さんには近寄っていきます。

 

「新聞を見ていたら、『乙坂』という文字を見てもしかしてと思ってきました」

「誰だよ?」

「以前命を救ってもらった白柳です。覚えていませんか?」

 

 乙坂さんはテレビから目を離しません。

 

「あぁ。で? だから?」

「今度は私が乙坂さんを助けます! 私はあなたの力になりたいんです」

「助ける? 力になる? なにを言ってるの?ぼくはげーんき、だからそんなの要らないよ」

 

 あぁ、痛々しい。まるで昔の自分を見ているようで胸が痛くなる。兄弟を失う痛み、あたしはまだいい方ですが、はとてつもないものです。

 歩未ちゃんの写真に向かって毎日「歩未に何ができただろうか」「まだまだもらった幸せを返せてないのに」と泣く姿に、何度も声を掛け慰めたくなりました。

 ですがそれではいけない。

 他者から与えられる考えを受け入れるは、乙坂さんと歩未ちゃんとの日々を否定してしまう事です。大切だったからこそ乙坂さんが自分で納得する答えを見つける必要があるのです。

 

「そんなはずありません。だってカップラーメンしか食べてないんでしょ?」

「だーかーらー! 元気だからなにも要らないって言ってんじゃん!? あんた何様のつもり!?」

 

 これまで単調だった口調が荒々しくなり、ギラついた目で白柳を見つめます。一度怯み後ろに下がりますが、彼女は乙坂さんに立ち向かいます。

 

「元気な人はこんな生活しません。心が病んでる証拠です!」

「人を勝手に病人扱いするなぁぁぁ!!!」

 

 辺りにあるものを蹴散らして、立ち上がります。怯える白柳の肩を掴み、首を傾げる。ここからでは見えませんが、白柳さんは恐怖に震えているはずです。

 

「なぁ。僕の何処が病気なんだ?」

「あ、いえ……」

「何処が病気なんだぁ?」

「いえ……」

「ならさっさと帰れ。邪魔だ」

 

 

 また来客がありました。ですが、今回は今までとは様子が違います。外から聞こえるのは男性の声だけですが、覗き窓から見た乙坂さんは舌打ちをしました。すると、能力を使ったのか体から力が抜け壁に寄り掛かりました。

 5秒後再び力が戻ると、財布を手に取り急いで玄関から出ていきました。どうして頑なに自室に篭っていたのに、今になって突然?

 追うように部屋を出ると、驚いた顔を管理人が手すりの方を見ている。手すりの方、手すりの下を覗くと木々の上に黒服の男性達が気絶していました。

 

「ちっ、ここが好機と思ったんすかね」

 

 心を痛めた乙坂さんに漬け込み、捕まえようとしたようですが返り討ちに会いましたか……。

 

「高城! 今暇?」

『友利さんがそう聞くと思ったので、ゆさりんと共に暇です!』

「乙坂さんが寮を出たので、尾行お願いします。あたしがいる事に気づいていないようなので、あたし達の誰かが後をつけるとは思っていないと思うので以前よりは楽勝です」

『わかりました』

「あたしが戻るまでで良いのでよろしくお願いします」

『友利さんは?』

「あたしは少し用事があるので……」

 

 あたしに出来るのは、心積もりを決めた乙坂さんを再び生徒会で迎えること。その時は軽いパーティでも開きましょうか、いや不謹慎ですね。

 皆でお食事、程度にしますか。

 あたしの好きなものや、高城の好きなもの、黒羽さんが好きなもの、そして乙坂さんが好きなものを用意しましょう。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。