少し変わった乙坂有宇 作:々々
あっさりし過ぎだけど、これ以上はむずかしかったです。
ではご覧ください。
金は全額おろした。生徒会の活動の補助金や、歩未のために別枠で貯めた貯金は全て財布に入っている。取り敢えず、ずぶ濡れの能力者の範囲から出るためできるだけ遠いところに行こう。地図は覚えているから、どこまで行けば安全かも分かっている
何となく範囲内から抜けた駅で降りる。周りは派手な建物がなく、のどかな雰囲気だ。人目を気にして移動して来た事もあって、体を休める為に駅前のホテルに入る。平日で繁忙期でもない為値段は安かった。
貯金は暫くは生活に困らない程あるが、どれだけ逃亡生活を続けるか分からない。取りあえずは一泊だけして、その間にこれからどうすれば良いか考えよう。
「まずは雰囲気を変えないとな」
僕が逃げなければならないのは学園側と先程家に現れた、おそらく科学者側の人間。学園側と科学者側、その2つから逃げなければならないということになる。
どちらも僕の容姿などは完璧に捉えている事だろう。だから普段着ないような服も揃えた。
「まぁどうでもいっか」
別にどうなろうがいい。
僕の事を気にする奴なんかいないし。
◆
「ははは、なんだこれ!」
寝床をネカフェに移したものの、ネットを使って時間を潰すにしても数日もそんな事を続けていたら飽きてしまった。別に面白くもない動画を流して、別に美味しくもないピザとサービスで頼んでも無いのに出てくるサラダを食べる日々。
外の空気を吸うために、街を歩くことにした。最初はただ何となく歩いて、飽きたら帰ろうと思っていた。この辺りはのんびりとしていて昼間は過ごしやすい。
だが、夜になると不良がそこそこ
「ちっ、100円玉がない」
話を戻して、ある程度歩いて余った体力も少しくらい消費出来たと思った時にゲームセンターが目に止まった。今思うと、ゲームセンターは生まれてからこの方、一回も行ったことが無かった。
ゲームセンターはただ金が吸われていく場所だと思ってたし、それくらいならば長く遊べるものをお金を貯めて買った方が良いと思っていた。
「帰るか」
ゲームセンターを後にしてもその気持ちは変わらない。ただ、お金を使って何も得たものは無かった。だが、この非生産的な感じが良く分からないが愉しい。心地が良い、この沼に嵌ってしまいそうになる。
◆
ネカフェに帰ってネットサーフィン。
物足りないピザを食べ、
何故かついてくるサラダを食べ、
ネットサーフィン。
暇になって外に出て、
何となくみたらし団子を買って、
食べて、
ゲーセンに行って、
ゲームをして、
帰る。
何も考えなくてすむ。
ネカフェに帰ってネットサーフィン。
物足りないピザを食べ、
何故かついてくるサラダは残し、
ネットサーフィン。
暇になって外に出て、
今日もみたらし団子を買って、
食べて、串をゴミ箱に捨てて、
ゲーセンに行って、
ゲームをして、
閉店時間になったから帰る。
なんでこうしているのか忘れそうになって、泣いた。涙はひと粒も出なかった。
ネカフェに帰ってネットサーフィン。
何かが足りないピザを食べ、
何故かついてくるサラダは残し、
トイレで吐く。
暇になって外に出て、
大量のみたらし団子を買って、
食べて、
ゲーセンに行って、
ゲームをして……ゲームをしている奴らを待って
それでも終わらなくて、終わらなくて、
団子の串を床に落とし、
「早くしろよ!」と声を大にして言い放った。
ゴミにゴミを蹴り当ててやった。
◆
「お前さ、何様?」
「善良な一般市民だけどぉ?」
「さっきから舐め腐ってんな」
ゲームをやっていた制服を着たゴミと、柄の悪そうなゴミに高架下に連れて来られた。お店に入った時は明るかったのに、外に出たら太陽はなくなっていた。
夏だとこのパーカーも要らないかもしれない。
「話聞いてんのか?」
「聞いてる聞いてる。舐め腐るって漢字で書くの難しいとか言ってた、書けないの?」
「しばらくゲームが出来なくしてやるよ」
「へぇ、僕に勝てるかな?」
僕の両肩を掴んできたゴミに能力を使って乗り移る。僕の体を壁に優しく預け、勢い良く後ろを振り返る。この体のセンスがいいのか、後ろのゴミの顔に思いっきりパンチが入る。
「あるぇ? いきなり仲間割れ?」
殴られたゴミがナイフを取り出すのを確認してから、そいつに能力を使う。そこからは簡単だ。同じ作業の繰り返し、乗り移って他のやつを攻撃して、上手く時間を調節してやれば僕に一切の攻撃をしないまま喧嘩が終わる。
「いや喧嘩じゃないか。ただのゲームか」
ゲーセンでやった銃を撃つゲームよりも面白くて、スリリングだ。ドキドキして、けど僕が圧倒的な勝利に終わる。ハハハハ、ハハハハ。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」
それから外を歩くと毎日のように敵が現れる。昨日の何とかをやったのはお前か? みたいな感じで。
「俺は細山田だ。覚えておけ」
今日もまた、街を歩いていたら囲まれた。違うかな、僕がこいつらのアジトに迷い込んだんだ。ふふふ、これくらいの戦力で僕を倒す気なのかな?
「細山田ぁ? なんか数分で忘れそうな名前」
「言ってろ。やれお前ら」
しゃがみながら、後ろにいる敵に乗り移る。もう一人の奴を殴り飛ばし、思いっきり顎を殴ろうとして能力が終わる。
骨を殴る鈍い音と、ばたりと敵が倒れる音を聞く。これで二人目。他にもうじゃうじゃいるけど、ボスを倒せば皆静かになるよね。
「テメェら何やってんだ」
「えぇ!僕は何もしてないよ!」
だって体は僕のじゃないから。
ズボンが微かに膨らんでいる敵に乗り移り、ポケットの中身を取る。僕の予測通りナイフで、刃を出す。
そしてそのまま全速力でボスに向けて走り出す。
「ぐぁぁぁ」
すぶりと肉を刺す音と共にボスは倒れる。
なーんだ、弱いじゃん。
「ねぇねぇ、僕を倒すんじゃなかったの?」
こんなの拍子抜けだ。もっとスリリングで、ドキドキするようなゲームがしたい。
「細なんとか、どうしたの?これで終わり?」
ふらふらと細なんとかに近づく。
とどめを刺さなきゃいけない。
「ハハハハハ!」
後ろから髪を引っ張って上を向かせる。
「これで目玉突っついてあげる」
みたらし団子の串を右目に近づける。
細なんとかの体が震える。
「隻眼の細なんとかって二つ名になれるよ? 中二病ぽくって格好いいね」
「俺の負けだ! 許してくれ」
スリリングなゲームは終わらない。敵の数を増やして、学生じゃ物足りないから、日中に制服を着てない同じ歳の奴らに喧嘩を売って叩きのめす。
そして、その中で面白いものを持っている奴がいた。何の変哲もないアルミの箱。中には真っ白な粉が入っていた。
「さてと」
ちょっと試してみたかったんだ。
テレビで見たのでは注射器とか使ってたけど、固形だから吸うのかな? 戦利品のアルミの箱に入ってた紙を丸めて、空洞に粉を入れる。
それを口に咥え、ライターに火をつける。
ヒュッ
目の前を一陣の風が通る。
気付けば僕の口から紙がなくなって、粉が宙を待っていた。
そして顔を上げるとそこには……。
◆
日の落ちた駐車場。
パーカーを深く被った少年と制服を身につける少女が向かい合っていた。少年は罰を悪そうに目を逸らす。
「……能力か」
「はいそうです。あなたにしては随分と答えが遅かったですね」
少年の問に少女は淡々と答える。自分の気持ちを押し殺して、少年に向き合う。
「いつからだ。いつから僕をつけていた」
「初めからです」
「は?」
「あなたが歩未ちゃんを亡くして、塞ぎ込んでいたころからずっとです」
少年は目を合わせない。
少女は少年を見つめる。
「あたしはあなたが立ち直るまで、側で見守ろうと思っていました」
「ならなんで!」
「でも、これは駄目です。あなたは人間を辞めてしまうことになります。それは、そんな姿だけは見たくありませんでした」
少女は自分の兄の事を想う。実験のせいで人間として生活できなくなってしまった兄を。だからこそ、少年を止めようと思った。
自分の決断を押し曲げてでも。
「誰かの差し金かよ。お前よりも偉い奴からの命令か?それともあの黒服の」
「いいえ、あたしのわがままです」
「なんで」
少年の声は震えていた。
訳がわからない。どうしてそんな事をするのか、だってこいつとはソリが合わなかったじゃないか。
「あたしの贖罪です」
少年は顔を上げる。
凛とした少女の顔は凛々しくも悲しげだ。
「
少年よりも先に、歩未が『崩壊』の能力を持っていると考えていたにも関わらず、事態を甘く見てきた事に対する自責の念。
「そんなことっ! 今更思った所でどうにもならないんだよ!」
少年は立ち上がる。少女の胸倉を掴んで、力任せに引き寄せ、大声で叫ぶ。
今まで胸に込めた感情を、喧嘩という形ではなく、会話という人間の行動として解き放つ。
「はい」
「なら! 僕のことは放っておいてくれよ!」
「あなたは歩未ちゃんの死をこんな形で終わりにするんですか? 後ろ向きに歩未ちゃんが死んだ事を忘れて、自分も廃人になって生きてるか死んでるかわかんない状態になるつもりですか?」
「僕だって、僕だってそんなことはしたくない! でも、歩未の事を思い出すと胸が痛くなって苦しくて。いっそ忘れてしまいたくなって。前を向けない……」
胸倉を離し、か細い声で呟く。
「なら頑張りましょう」
「え?」
「あたしはあなたを見守ると約束しました。もしあなたがそうしたいと思うならそれを見守り、辛かったら隣で付き添うくらいの事は出来ます。それがあたし、友利奈緒が乙坂歩未と乙坂有宇に出来ることです」
「そこは手伝いをする位言うんじゃないか」
これまでしてきたような、少し毒のある日常的な返事を。
「そこまではしません。だってあなたは一人で立てるじゃないですか。だからあたしは転びそうになった時に支えるだけで十分なんです」
日常が戻って来た。
◆
取りあえずは美味いご飯ですね、と友利の部屋まで連れて来られた。
「時間かかるので眠かったら寝ててください。ここしばらくちゃんと寝てないでしょ」
僕の事を監視しているだけあって、僕の体調に詳しい。それが何だか悔しくて、寝てやるものかと意気込む。
けれどソファーに預けた体はずしりと重く、友利が台所で料理をする音を聞いている内に勝手に瞼が落ちていく。
「「はい、出来ました」」
目の前で友利がお皿を持って、こちらを見つめている。
「どうかしましたか?」
「いや、何でもない」
テーブルの上に置かれた皿には、オムライスが。そしてケチャップで「ひでん」と書かれている。
ひでん?
「これが美味いご飯か?」
「取りあえず食べてみてください」
言われるがまま、スプーンで掬い口に入れる。
ピザを食べたときに物足りないと思っていた甘さが強く舌に来る。
「これって!」
「やっぱり分かりましたか」
「でも、もう無いはずじゃ」
すると友利が一冊のノートを出す。
見たことのない古いノートだ。
「歩未ちゃんに料理をどうやって作ってるか聞いたときに見せてくれたんです。そして、あなたの好物のピザソースとオムライスのページを見せてくれました」
そう言って開いたページには『ゆうおにいちゃんの大好物!』と大きく書かれ、花丸が付けられていた。
「あぁ……歩未」
涙がポロポロと流れてくる。
この前まで流れなかったのに、どうしてこんなに。止めようと思っても止まらない。
「そんなに泣いちゃって。仕方ないですね」
呆れた口調ながらもハンカチを取り出して、僕の涙を拭いてくれる。暖かい人のぬくもりを感じる。
有宇と友利の関係が原作より深かった為、少しばかり変わったような。軽くなってしまったような。
私の技量ではこれが限界でした。
次回からは前みたいな雰囲気に戻ります
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