少し変わった乙坂有宇 作:々々
歩未との天体観測も、中間試験という面倒なイベントも色々と終わった。今日で全てののテストが返却され、廊下にデカデカと順位が貼りだされる。
僕はさも興味ありませんというようにその前を通り過ぎる。横目でちらり、貼りだされた紙を視界に入れる。名前は縦書き。なら成績上位者は右側、と推測して1位を見ると「乙坂有宇」と書いてある。
数問僕の実力では解けない問題があったが、主席を譲れない状況だった為、仕方なく能力を使い今回も1位だった。
それから数日後、白柳さんに「きちんとあの時のお礼をさせてください」とお茶に誘われた。面倒臭いため行きたくなかったのだが、学年順位2位であり学園のマドンナと一緒に行動するというのは旨味が大きい。僕はその申し出に了承した。
「お待たせ。今日はどこに行くのかな?」
律儀に教室の前で待ってくれた白柳さんと合流し、一緒に下足箱に向かう。
どうやら今日連れて行ってくれるのはパンケーキが美味しい店だそうだ。白柳さんはこれまで見たことのないほど嬉しそうな表情を浮かべている。
不意に放送を知らせる音が鳴る。真面目な白柳さんに倣い僕も足を止め、放送に耳を傾ける。
『一年乙坂有宇くん、至急生徒会室に来てください。繰り返します、一年乙坂有宇くん至急生徒会室に来てください』
呼びだされたのは僕だった。
「何でしょうか?」
「何だろうね。呼びだされたから行かなくちゃ行けないけど、もし遅くなるようだったら先に帰っちゃってもいいから」
頷く白柳さんを見て生徒会室に歩き出す。学校での地位を確かなものにする為に、白柳さんと更に交流を持ちたいと思っていたのだが。こうなっては仕方がない。これを断ったほうが痛手というのは明らかなのだから。
僕が呼び出される理由。日々の学校生活を優等生として送っている僕にとってそれは一つしかない。
カンニングがバレた
これに尽きるだろう。
だがしかし。どうやってバレた?その経路が分からない。後ろや横の席の奴が僕を見ても違和感が無いような能力の使い方を研究してきた。簡単に分かるわけがない。何故だ、何故だ。
考えながら歩くうちに生徒会室まで辿り着いてしまう。もう少しで違和感に気が付けそうなのに。舌打ちをしてから、勢いでガラリと強く開けてしまいそうになる心を律し、心を落ち着けノックして相手の返事を待ってから部屋に入る。
「1年乙坂有宇です。今日はどのような要件で私は呼ばれたのですか?」
「君にはカンニングの容疑が掛かっている。俺はそんなことは無いと思っているが、一応確かめさせてもらいたい。良いかな?」
「えぇ良いですよ。疑われたままだとお互いスッキリしませんしね」
カンニングを見つけたのは生徒会長ではないことが分かった。学生や先生が見つけたら、生徒会室には呼ばないだろう。普通は職員室だ。
部外者が僕の能力に気が付き、この手を打った。恐らくこれが正解だろう。しかしそうならば、どんな奴がこれを?
「この前の試験のそれぞれ最後の問題だ。成績優秀の君なら解けるだろうから、全て解け次第オレに声を掛けてくれ」
渡された紙には言われた通り、各教科の最終問題が書かれていた。最終問題は一番難しい問題で構成されていたので、この書かれている問題をやり切るには確かに骨が折れる。
だが、僕はこうなる事を予想してキチンと解き直しをしている。僕を嵌めようとした誰かさん残念だったな。僕はこんな簡単な手に引っかかるわけがないだろ!
少し勝ち誇って高ぶる感情を抑え、計算ミスに気を付けて着々と問題を解いていく。
◆
「あっ! 乙坂さん!」
復習の結果もあり簡単にカンニングの容疑を晴らすことが出来た。それでも予想以上に時間がかかってしまった為、てっきり白柳さんは帰っているものだと思いつつも別れた場所に向かう。
これまた予想を裏切って、白柳さんは僕を待ってくれていた。
「待っててくれてたんだ」
「はい。早く帰ってもする事と言ったらお勉強くらいしかありませんから」
「そうだったんだ。なんかゴメンね」
「いえ。それで、どんな要件だったんですか?」
「僕の力が必要みたいで、手伝ってたんだ。それこそ放送を使うほど至急のね。白柳さんが待ってるかもって思って抜け出す機会を探してたんだけど、結局一段落するまで来れなかったんだ」
我ながらスラスラと言葉が出たもんだと感心する。
「ではこれからもまだ?」
「そうなんだ。今日は約束を守れなくてごめん」
「残念ですが、学校の仕事ならどうしようもありませんね。また今度の機会に行きましょう」
下足箱まで白柳さんを見送り、彼女の姿が見えなくなるのを確認してから僕も靴を取り出す。僕はこれから今回の出来事の黒幕を捜す。
この前の試験の問題を解かせ、解けない所の解答を見るために、僕が生徒会長の持っている紙をのぞき見る際に能力を使うのを待ってたのだろうが、僕がそんな初歩的ミスをするわけがない。今頃地団駄を踏んで悔しがっているだろう。
こんなアホみたいな作戦を考えるという事は、本格的に僕の能力を狙う組織ではないはずだ。そんな奴らだったら僕をさっさと誘拐しているに違いない。
今回の下手人はどんな奴なのか、最近あったおかしな事から整理して考えていこう。まずはここ最近感じる見つめられるような視線についてだが……
◆
「高城、乙坂有宇はどこに向かってる?」
「全く見当もつきません。途中から道を変えふらふらと歩いていますが」
「ちっ。尾行に気付いたか?」
「そんなことは無いと思われます。私の能力ならいざ知らず友利さんの尾行に気付けるはずなどありません」
「あたしだってそう思いたいっすよ」
おそらく同じ学校の男女の高校生が有宇の後方に位置する。女子の方はキラキラと煌めく銀髪を少し高い位置で二本括り、残りの髪を下ろすような髪型をしている。腰にはカメラを入れるためのポーチを付けている。彼女の名前は友利奈緒。
そしてもう一人は見るからに着痩せしそうな顔つきをしていて、学ランのせいで着痩せしている可能性がほぼ100%と言ってもいいだろう。彼の名は高城丈士朗。
二人は星ノ海学園生徒会の生徒会長と役員である。彼女らの目的は特異な能力を持つ有宇の捕獲、もといスカウトだ。人の意識を乗っ取ることのできる能力はこれからの活動にとっても役に立つ。そんな名目を彼に伝え、今回の仕事は終わりとなる。
そして今日はそれを実行する日、だった。
友利の『特定の一人から姿を消す』能力で有宇に気付かれず身辺調査を行い、高城と綿密な話し合いをして決めたことだ。テストでカンニングを行っている有宇を呼び出し、再びテストを受けさせる。答えがわからず、生徒会長が持っている偽の回答を見ようと能力を使う。それをカメラで撮り動かぬ証拠と突きつけるつもりだった。
そう
ただのゲスカンニング魔だと思っていた乙坂有宇は、自ら勉強しようとするカンニング魔だったため、能力を使う場面を撮ることができなかった。
他に考えていた作戦も、有宇があても無くフラフラと歩いているため困難。
「取り敢えず尾行は続けます。高城も何かあった時に対応できるようにしてて下さい」
「分かりました!」
視線を有宇に向け友利は能力を発動する。
三人が出会うまであと残り少し。
◆
「おい、誰かいるのか?」
視線を感じなくなったら帰ろうと思って、フラフラと歩いてたのだがソレが消えることはなかった。僕が家に行くまで尾行するのだろうか、それは嫌だと思い迎え撃つことにした。
場所は家の近くの土手。見晴らしがよく、姿を現したらすぐに分かるだろう。それとは逆に僕の姿も見えやすく、足元には長い草が生えていることが良くない点だ。
「……」
返事はない。だが、未だ視線を感じるという事はここに居るということに他ならない。視線は感じても、どの方向から来ているのかまでは分からない。
右足を軸にして回り、周囲に人影がないか確認する。
ガサっ
後ろから音がして振り向く。しかしそこには居ない。
居なくてもその方向にいる事は確かになった。草が揺れる音がしたので、絶対近くにいるはずだ。注意深くその光景を眺める。
そして見えた。あしの長い草が潰される様子を。草に残される足跡は確実に僕に近づいて来る。そして目の前に来ると、2つあった踏み跡が一つになる。
やばい! そう思うと同時に後ろに下がっている。瞬間、目の前で風が切るような音が鳴る。
敵は姿が見えないのか? 焦る心を抑えて、冷静に判断を行う。分からない。でも、このまま居ても状況は悪くなる一方なのは分かる。
「お、おい。姿を現してみたらどうだ?」
声は震えていなかっただろうか。今は僕が相手より優位であることを示さなければならない。ビビっていることがバレたらそれでお終いだ。
どうだ、出てくるか?
「やはりバレてましたか」
草が潰されている場所に女の子が現れる。初めからそこにいたかのように、やっぱり姿を隠せる能力者だったのか。ソイツは僕と同じくらいの歳だと思う。
「それで僕に何の用?」
「単刀直入に言うと、貴方には私たちの生徒会に入ってもらいます。貴方の能力は使えるので協力してください」
彼女は僕の目をまっすぐと見て告げて来た。
話のユーモアをそこそこに、出来るだけテンポを意識したものにしたいと思っています。
これからは字数を少なめに、更新頻度を結構上げて完結まで持って行こうと思います。
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