少し変わった乙坂有宇   作:々々

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念写

 職員室で先生と合流して、一緒に教室に向かう。先生に転校生としての前置きをしてもらってから中に入る。

 職員室で言われたことだが、能力者や予備軍は総じてこの学園に入れられるそうだ。先生達もそこら辺のことを知った上で働いている。

 

「転入してきた乙坂有宇です」

 

 黒板に手慣れた丁寧な文字で名前を書く。頭が良い奴は結構字が綺麗なことが多い。それに第一印象だってずっと良くなるに決まっている。

 後は適度な笑みを浮かべて礼をする。これで完璧だ。

 問題があるとすれば、この前手伝いに来た友利と高城が同じクラスという事だ。引っ越しと言いクラスと言い、僕はアイツらに監視でもされているのか?

 

「それじゃ、廊下側の後ろの席に座って」

 

 指示されたのは高城の後ろの席。高城は背が高いため、あまり黒板が見えなくなりそうなのが怖い。誰彼構わず乗り移る事が、誠に遺憾ながら禁止されたのでノートを取ることが僕の学力の生命線となる。

 

「よろしくお願いしますね、乙坂さん」

「あぁ」

 

 結局高城の性格はこの前の引っ越しの日、一日だけでは分からなかった。こういう方が日々の生活で何かと厄介な人だったりする。僕の経験なんて少なすぎて、確かとは言えないのだが。

 僕の紹介が終わると、さらっと朝のHRも終える。

 

 

「乙坂さん。食堂にお昼を食べに行きませんか?」

「今日は弁当あるんだ」

 

 歩未が僕のために作ってくれた弁当。これを食べずに何を食べれば良いと言うのか。ピザソースを沢山使ったオムライスと言っていたので、とても楽しみだ。

 

「そうですか。では私はサンドウィッチを買ってくるので、教室で一緒にいただきましょう」

「僕に構いすぎじゃないか? もしかしてコッチなのか?」

「もしそうだとしたらどうしますか?」

「別に気にしないが」

 

 ただコイツに乗り移る事はしない。この能力は自分がその人になるため、その人の趣味や思考が少なからず僕自身に影響してくるからだ。

 

「……では、行って来ます」

 

 高城が戻ってくるまで英語の単語帳を眺める。その視界の端に友利が入り込み、集中できない。教室で僕と対角に座るアイツはイヤホンを耳に入れ、弁当をもぐもぐ食っている。

 ボッチか? と思ったが何か別の理由がありそうだ。例えばアイツを見て笑う女子生徒とか。ああ言うのは嫌いだ。

 

「お待たせしました」

「思ったより早かったな……って! お前ソレ!」

 

 戻って来た高城は頭に包帯を巻いていて、学生服も少しボロボロになっている。

 

「乙坂さんを待たせては行けないと思って、急いでサンドウィッチを買ってきただけです」

「それだけで普通ここまでなるか?」

 

 絶対能力使っただろ。たしか高速移動だったか。でも、どんな感じで使ったのだろう。

 

「それは置いといて。では、ご飯を食べましょう」

「残念ながらここでは食べずに、生徒会室で食べてください」

 

 席についた高城の言葉を遮るように、友利が声をかけてきた。イヤホンを外し肩からぶら下げ、弁当片手に。あと箸を咥えたまま歩くな喋るな。

 

「なんでだ?」

「我々の活動開始のお知らせです」

「今からか?」

「そうですが。何か?」

「午後の授業に出れないじゃないか」

 

 ここの授業はそこまで進みが早くないから一回程度ならまだ遅れは取り戻せる。だが、それが何回も重なってくれば取り戻せなくなってくる。それに僕はそこまで一人で勉強できるわけでもない。

 

「公欠扱いになるから大丈夫っすよ」

「学業に影響が出るだろ」

「カンニング魔が何言ってるんですか?」

「言い掛かりはよしてもらおうか」

 

 秀才イケメン転校生に要らぬ疑惑はやめて欲しい。

 髪をかきあげ近くにいた女子微笑む。

 

「うっさい。あたしは先に行ってるから、高城! 無理矢理でもいいから連れて来い」

「待てよっ!」

 

 僕の静止を聞かず友利は行ってしまう。何なんだよアイツ。あの場で活動についての詳しい説明を求めなかった僕も確かに悪いが、あの態度はないだろ。

 

「行きますか? 行きませんか?」

「行くよ! 行けばいいんだろ」

 

 机の上の歩未の手作り弁当を持って友利の跡を追う。僕の時もそうだったが、どうやって能力者を探すのだろうか。闇雲に探すとか言わないよな……。

 あと能力を使おうとして腕を掴んでくるのは、中々の脅しになるから怖い。

 

 

「今日もそのあっまーいピザソースですか?」

「何だよ。文句あるのかよ」

 

 僕の至福の時間を邪魔しないで貰いたい。

 オムライスの上には『ファイト><』とピザソースで書かれていて、その甘さとケチャップライス(こっちはケチャップ)の酸っぱさのハーモニー。これを分からないやつの気が知れない。

 

「それで、どうやって能力者を見つけ出すんだ?」

 

 結局お昼を食べ終わってもここに来た意義が分からなくて、生徒会室の備品のポットと急須を使って淹れたお茶をすすりながら友利に訊ねる。

 

「もうすぐ来る人が教えてくれます」

 

 そう言うとタイミングよく生徒会室の扉が開く。

 そこから一人の男が現れる。

 

「何だコイツ?そして、どうして髪が濡れてるんだ?」

「彼は協力者です。彼は濡らさないと能力を使えないらしいですよ」

 

 僕の『5秒だけ相手を乗っ取る』能力も、友利の『一人からしか姿を消せない』能力も、そしてさっき教えてもらった高城の『いつ止まるか制御できない高速移動』も能力が完璧なものから程遠い。

 なんの理由があってこんな事になっているのだろうか。

 

「能力は『念写』」

 

 指から垂れる水一滴を、真ん中に鎮座するテーブルの上の地図に落とし男は立ち去った。

 

「南羽高校っすね」

「早速行きますか」

 

 地図を見て場所を確認した友利、提案する高城。どうせ文句を言ったところで行くことになるんだ。ここは我慢だ我慢。

 

 

「聞き込み開始!」

 

 南羽高校に着くと、早速聞き込みと友利が言う。

 移動に時間がかかり既に下校時間になっているので、沢山の生徒たちがいる。そんな中で違う制服の奴らが聞き込みをしていたら怪しいだろう。

 でも毎回こうやっているなら、僕の場合もやっていたのだろうか。僕もこんな怪しいことに気付けなかったのか。

 

「ほら早くいけ!」

「わかったよ!」

 

 脚をあげ僕の背中を蹴ろうとするのでそそくさと離れていく。友利と高城も聞き込みを開始する。

 『念写』は心霊現象の一つで心の中で念じる事を写真にしたり、映像として映し出すみたいな感じだったか。それなら聞き込みの内容は心霊現象から初めて、写真や映像の話に持って行こう。

 

 

 

 嫌々ながらも聞き込みをしていると、友利がこっちに走ってきた。

 

「挙動がおかしいヤツが!」

「そうか。頑張れ」

「付いて来る!」

「はいはい」

 

 腕を引かれて連れて行かれる。そんな焦んなくても良いだろ。何をそんなにも焦っているんだ。

 

「アイツです」

 

 友利が指を指した短髪の高校生はこちらから逃げた。絶対何か怪しいことしているのは明らかだ。

 

「アイツに乗り移ってください。後は高城がなんとかするので」

「りょーかい」

 

 校舎の壁に体を預けて、逃げて行く男を乗っ取る。

 走っている脚を止め、その場にしゃがみこむ。その上を高城が飛んで行った。仕事だから仕方なく能力を使ったが、痛いことは嫌だ。

 乗り移ったヤツは野球部だったみたいで、綺麗なフォームで友利の方に学生鞄を投げることが出来た。

 残りの時間を使って地面にうつ伏せになる。

 

「これでいいか?」

「能力使い慣れてますね」

「まぁな」

 

 鞄の中身を全て出した友利に近づいて精査する。短髪のヤツは高城に組み付かれて動けなくなっている。ボロボロなのに高城タフ過ぎるだろ。

 写真を入れていそうなパスケースを見つけ中を見てみる。やっぱりあった。友利に渡す。

 

「きっとこれだろ」

「なになに。ほーう、これですね」

 

 悪い笑顔を浮かべ短髪に近づく。

 ちなみにその写真とは女子の下着姿の写真だった。

 

「なんだろーこれー。おっ! これが念写か、しょうもないことに使うなー。アナタがやったんすか?」

「ち、ちがう! 俺は買っただけだ」

 

 下着姿の盗撮もどきの売買。十分犯罪だろ。

 

「教えてくれないとこの写真の子にアナタが持っていた事をバラしますよ。アッチの男がさっき見かけたと言ってたので、すぐに出来ますよ?」

 

 きっと冷たい目をして見下してるんだろうな。

 とことん能力者を見つけ出そうとする熱意。少し空回りしているようにも思えるが、その分僕のすることが減るからありがたい。

 

「有働……2年E組。弓道部に所属している」

「ありがとうございました。写真はこちらで預かりますね」

 

 

「いやー、びっくりしたな」

「うわっ!?」

 

 あの有働とか言う若干イケメン袴男は友利が突然現れて驚いた。僕らには姿は見えているから推測になるけど。

 

「まさかこんなハレンチな写真を念写能力で撮影して売りさばいてる犯人が……弓道部の部長だなんてー」

 

 言い方がウザい。あざとい演技がうますぎて、聞いているこっちですら腹が立ってくる。

 高城でさえ少し冷や汗をかいている。

 

「写真? 念写? なんの事だ」

「しらばっくれるんですかぁ? 貴方のロッカーにはたくさんの写真があったのにぃ?」

「……」

「沈黙は肯定と捉えます。まぁ、このカメラで動画撮ったんで言い逃れは出来ませんよ。投降してくれたら学校にも警察にも伝えません。いかがですか?」

 

 前半の言い方とは打って変わって、追い詰めるように相手を攻め立てる。

 有働は袴から紙を取り出して少し睨む。そしてその紙を友利に見せる。

 

「お前の下着姿を念写した。ばら撒かれたくなかったらすべてなかったことにしろ!」

 

 あの一瞬で念写を終えたのか? 友利も同じ様な感想を述べている。

 

「でもそんなの需要ないっすよ」

「どっから見ても上玉だろう…」

 

 確かに見た目だけなら上玉なんだよな。でも、性格悪いし口を開けば幻滅する。結婚出来るのか?

 

「やったー褒められた!」

 

 なんで喜んでるんだ。っと、乗っ取る合図である『体を横に向けた』ので能力を発動させる。

 持っていた写真を友利に投げる。あとは逆上して変な事をしないように持っていた弓を置き、袴を少し崩し動きづらくした所で意識が戻る。

 

「写真が……無い!?」

「ここにありまーす」

「なっ!」

「おっと変に動かない方が良いですよ。指示してないのに袴を緩めているので、脱げちゃいますよ?」

 

 詰めが甘過ぎるように思えたが、打つ手がないと思って有働は諦めたように膝を着いた。

 生徒会の活動ってこんなに疲れるのか。取り敢えず活動一日目は無事終えることが出来た。




諦めの良さ↑ 能力者への理解↓


前回の更新で沢山のお気に入り登録と評価ありがとうございました。ゲージに色がついてて驚きました。
また、誤字報告もありがとうございました。
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