少し変わった乙坂有宇   作:々々

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降霊

「こんな所に本当にいるのか?」

 

 今日も相変わらず能力者探しをしている。今回は協力者が路地に居ると伝えて来たので、スマホアプリを使って土地勘が無いながらもやって来た。

 今回の不安点は2つ。1つ目はこんな昼間に路地裏なんて所にいるのは何故かという事だ。既に事件に巻き込まれている可能性がある。それ故に友利は急いでいる。兄のことを聞いてからは、多少なりともその考えに共感は持てる。

 2つ目は能力についてだ。これまでの奴は一人が一個だけしか能力を持っていなかったが、今回は一人が二個持っている。もう1つの考え方はとしては2人のことをまとめて言った、だ。

 

 ちょっと待て、そもそも能力とは一体何なんだ?

 友利は能力は思春期特有のものと言っていた。思春期を過ぎると能力が消滅するとも言っていた。

 色々と説はあるが大雑把に言ってしまうと、思春期とは青年期の入り口であり前半である。そして青年期の課題は「アイデンティティ」の確立である。

 アイデンティティ、自我同一性の確立。自分がどのような人間なのかを知り、他の誰でもない自分を発見することがソレに繋がっていくらしい。

 もしそれが関係しているならば、思春期の僕らはアイデンティティを確立している途中でこの能力に目覚めたのではないか。そして自分が何者か分かった時この能力は消える。もしくは友利の兄のようにアイデンティティを見つける事が出来無い状況に陥っても消える。

 などと移動の最中に考えてはみたものの、いくら何でも推測が多すぎる。例えそうだったとしても、何で能力という形で発現したのか分からない。

 

「あそこの路地を見てください」

「少しホコリがありますね」

「でも無い所もあるな」

 

 友利がある路地を指差した。

 ホコリが積もっているため、踏まれて出来た靴の跡がぼんやりと分かる。一つは小さくもう一つは大きい。歩幅も同様に大きさが分かれていて、全く同じ方向に向かっている。

 

「女性が男の人に追われていますね」

「だな。急いだほうがいい」

 

 相変わらず先を行く友利のあとを付いていく。曲がりくねった道を通り、一度大通りに出てしまった。これでどこに行ったのか分からなくなった。

 偶然店の前に居た女性に友利が話しかける。

 

「先ほどのこちらに女性と男性の2人が来ませんでしたか?」

「あぁ、さっきのあれね。アイドルが大男に追われてるっていう…撮影でしょ?アイドルの西森柚咲だっけ。あまりテレビ見ないから合ってるか不安だけど」

 

 歩未が好きなアイドルだ。最近金曜の夜に音楽番組に出ていたのを一緒に見た。キラキラとアイドルらしさもありながら、力強い歌声だったと記憶している。

 

「ゆさりん!? まさかこんな所でお会いできるとは!」

「知ってるんですか?」

「はい! 通称ハロハロ。How-Low-Helloというバンドのボーカルも務める人気上昇中の歌って踊れるアイドルです! 小学6年のときにローティーン向けファッション誌『プチバナナ』の第14回読者モデルオーディションでグランプリを獲得という快挙から始まり専属モデルとしてデビュー!翌年には『ムーブメント朝!』のレギュラー出演も決まり2年後受験のため降板。高校生になってからまた芸能活動を始めハロハロのボーカルになりました。初シングルの売上は」

「もういい!! お前そんなにアイドルオタクだったのか引くなっ!」

 

 僕も完全に引いている。マシンガントークをされると、耳が聞き取るのを止め、脳が理解するのをやめて半分以上理解出来ていなかった。

 

「高城が予想以上のドルオタと分かりましたが、それだけでは無かったみたいです」

「流石友利さんです。先ほどのポージングで分かるように私実は……」

「高城の大きな声で不審者が連れました」

 

 またもや友利が突っ走る。だが、路地に入ったところで殴られた音ともに後ろに吹き飛ばされる。

 逃したらもう一度探さなくては行けなくなるのでそれは面倒くさい。友利の元に駆け寄って殴ったであろう男に乗り移る。どうやって拘束しようか悩んでいると腹部に強烈な痛みが生じ、次に背中に何かがぶつかった痛みを覚える。

 そこで5秒経ったようで男の様子を見ると、高城が男の腹部にぶつかっていた。どうやらその衝撃でコンクリートの壁に背中を打ったらしい。

 アレが骨の折れる感覚と口から血を出す感覚か。もう二度と味わいたくない。

 

「ちっ……くそ! ビデオカメラが壊れたらどうすんだよ!」

「そっちかよ」

 

 なんと言うか自分に対する優先順位が低すぎやしないか。カメラを優先したり、自分の怪我を厭わない点だったり。

 

「で、お前何者だ?」

 

 この男はあまり痛みに慣れていない事は、乗り移って分かっているので顔を近づけて話しかける。あの痛みじゃ当分自分からは動けないからな。

 

「貴様らこそ」

「吐いたら救急車呼んでやるからさぁ。このままじゃあなた死んじゃいますよ。命懸けてまで守る話ですか?」

「それにその怪我じゃ長い時間喋るのもキツイだろ。必要なことだけさっさと吐け」

 

 おい高城。後ろの方で「悪魔のような二人だ」とか言うんじゃない。

 

「……西森柚咲を捜してるんだ」

「それは知っている。情報は一気に話せって言ったよな? それで他には」

「大洋テレビに頼まれて……」

「その誰っすか?」

「知らない。本当に知らないんだ」

 

 大人が泣いてしまったので、これ以上の情報は得られないだろう。ここはひとまず諦めよう。

 友利の言った通りに救急車に連絡をして来てもらう。

 だけど、どうやってこの惨状を説明するんだ?

 

 

「お前ら何者なんだ?」

 

 友利がうまい事言って納得させた救急車を見送ると、ついさっき言った言葉を言われた。振り向くと赤色の青年がこっちを見ていた。

 

「友利、一部始終を見ていた奴だ」

「何で分かるんですか」

「お前に能力で見張られた時から敏感になってるんだ」

「それはすみませんでした。……あたし達は西森柚咲さんという方を捜している者です」

「通称ゆさりんです!」

 

 高城のキャラがいつもと違い過ぎる。

 

「なんの為に?」

「ちょっとした伝手で大変な事になっていると聞きました。あたし達はその手伝いをするために来ました」

「勿論僕達は大洋テレビとは関係ない」

「そして私はただのファンです。いえ! これでは語弊がありますね、大ファンです!」

「「いちいち話の腰を折るな!」」

 

 高城の暴走っぷりに耐え切れず、僕と友利はそれぞれ高城を蹴る。これで少しは大人しくなるだろう。

 

「あたし達なら彼女を助けられます。それに、すこし不思議な現象についても」

 

 その言葉を聞くと男は頷き、僕らを連れて行った。

 

 

「戻った」

 

 連れて行かれた先はある建物の地下部分。だが、片方は川に面しているので日差しは入ってきている。

 そして目の前にはアイドル西森柚咲が座っている。マシュマロを両手で持って食べながら。

 

「うぉぉぉぉ!!!! まさに本物のゆさりん! ハロハロのCD全部持ってます! 初日に買いました!」

「ここぞとばかりに近づくとか、引くなっ!」

「ありがとうございます」

 

 オタク全開な高城に対し西森柚咲は満面の笑みでお礼を言う。天然っていうか、ウチの歩未と一緒で汚れを知らないんだろうな。

 

「おい誰だそいつらは」

 

 右側の扉から一人、暑いのにニット帽みたいなのを被った男が出てくる。

 

「美砂と同じ特別な力を持った連中だ」

「美砂? でも、名前は柚咲じゃなかったか?」

「そうですね。柚咲さんに直接聞いてもいいっすか?」

「あぁ、構わない。俺達でもよく分かってなくてややこしいんだ」

 

 カメラを持ったまま友利は西森柚咲に近づく。

 

「はじめまして。友利と言います」

「はじめまして! ゆさりんこと西森柚咲です!」

 

 アイドルって自分のことをアダ名で呼ぶのか? いやこれもきっと歩未と一緒で、ついつい言っちゃうやつだろう。

 

「生でアイドル見るの初めてっす。ほんと作り物みたいにかわいいっすね」

「私もそこまで近づきたいー」

 

 お前も口を閉じて性格変えりゃ、そこそこいい顔立ちだろ。確かに本物には敵わないけど。

 あと高城。いい加減にしないと隣の般若がブチ切れるぞ。

 

「ではまずあなたの本名を教えてください」

「黒羽柚咲でっす!」

「てめぇには聞いてねぇよ!」

「だぁぁぁぁぁ!!」

 

 今度は友利一人に回し蹴りを食らっている。

 取り敢えず、柚咲≠美砂なのは分かった。

 

「本名の方が芸名っぽいな」

「黒い羽なんてあまりにアイドルっぽくないとのことで西森と付けてもらいました!」

 

 確かに黒というのはアイドルらしくない。

 

「それで、自分が自分じゃない時とかあるか?」

「それを自覚しているかも教えて欲しいです」

「確かにそんな時があるが、コイツはそれを自覚していない。そもそもなんで知ってるんだ」

「テメェには聞いてねえよ」

「んだとこら?」

 

 喧嘩はやめてほしい。

 このまま放っておいても勝手に話が進みそうなので、僕は西森柚咲が座っていない方のソファに腰を掛ける。

 

「で、黒羽さんどうですか?」

「そうなんですよ。眠り病というんでしょうか。最近いつの間にか寝ていて起きると違う場所にいたりする……ということがありまして。お医者さんには『多重人格のおそれがある』とか言われちゃってます。」

「そうですか。多重人格ではないので安心してください」

 

 おそらく彼女が今回、協力者が言っていた能力の一つ『降霊』の能力者で合っているだろう。知らない間に霊を宿して、行動しているのだろう。

 友利は西森柚咲への質問を一旦止めて、男たちに話しかけた。

 

「貴方も食べますか?」

 

 パイプ椅子をテーブル側に戻した事によって、僕と向かい合うことになった彼女は僕にマシュマロを渡してきた。

 あまり甘いものは好きじゃないが、断るのもどうかと思うので受け取ることにした。

 

「貴方達の言う『美砂』とはどのような方ですか?」

 

 マシュマロを食べているとそんな会話が聞こえた。

 

「もうひとつどうですか?」

「ありがとう」

 

 一つ食べればまた一つ渡され、また食べれば渡される。マシュマロなんて久々に食べたけど美味しいな。芸能人が買ってるものだから、僕達が昔食べてたものと違うし旨くて当然か。

 

「柚咲の1つ上の姉。半年前に事故で亡くなっている」

「てめぇ」

 

 その荒っぽい言葉は目の前から聞こえた。

 空の様に住んだ青色の瞳は燃える日のような真っ赤な赤へと変わっていた。

 

「見ず知らずの相手にあれこれ教えてるんじゃねぇよ!」

 

 西森柚咲(?)は帽子男に回し蹴りを喰らわせる。

 落ち着け僕。こんな事は今までもあったじゃないか。だから先ほど食べたマシュマロを食べ続けよう。

 

 




捕まった能力者への理解によって、明日は自分や歩未にとって危険なことがあるんじゃないかと思うように。それによって仕事に対するやる気↑ やり遂げるための残忍さ↑ 友利に対する理解↑
また、様々な厄介事を経験し諦めの良さ↑
そして能力に関する分析をしていたり。



沢山のお気に入り登録、評価(とそのコメント)、感想ありがとうございました! 嬉しくて連日投稿してしまいました。
誤字報告もありがとうございます。たいへん助かっています。
皆さんのおかげでランキングにも載り、やる気満々ですので次の更新を楽しみにしていてください。さて、どうやって例の作戦を変えましょうか……。
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