「覇王様。覇王様的に困ってる生徒ってどう映ります?」
「んはっ。十把一絡げの有象無象である。
無論、俺を慕う者達は別だがな!」
とある放課後。
俺は図書館でヒソヒソと覇王様と話をしていた。
どうやら今日は清楚先輩の日だったらしく、図書館にいたのだ。
清楚先輩には申し訳ないが、今回の用事は覇王様にあったので一旦変わってもらった。
というか場所を移したいな、覇王様も尊大な態度で偉そうな事を言っているが声のボリュームは限りなくミュートなので格好悪い。
「実はですね、最近俺達風間ファミリーはとある依頼を請けおったんですよ」
「ほう。それは何だ?」
何やら興味があるらしく耳を近づけてきた。
なので礼儀として耳の中に息を吹きかける。
「~~~~ッ!」
スパァン! と頭を引っぱたかれた。
手加減を滅茶苦茶してくれているから即死せずに済んだが、それでも中々に痛い。
十秒ほど悶絶させて頂く。
覇王様は言葉にできないほど怒りと羞恥に震えている。
あと微妙に感じたのか少し悶えている。
「変態の橋に何やら大変な変態が現れたんです」
「いつもの事ではないか」
「いつもの事でした」
俺とした事が選ぶ言葉をミステイク。
「言い直します。凄まじく強い変態が現れたんです」
「ほう。だがそれならば依頼などせずこの学園の教員共が片付ける件ではないのか?」
「覇王様のクセに中々鋭い事を言いますね」
「クセにとは何だ! 普段お前は俺をどういう目でみている!?」
叫んでいるように見えるが、ヒソヒソ声である。
「その事なんですが。どうやらその変態はやたら武術に心得があるらしく、一定の実力者がいると現れないんです。
つまり気を察知ができて、尚且つその人の実力を悟る程度に強いんです」
「タチが悪いことこの上ないな」
全くだ。
おかげで先生方では解決に時間が掛かり、その間に被害者が増えかねない。
その為俺らに依頼が来た。
そもそも対象として大人よりも生徒を狙った犯行が主なのだ。
ならばその変態を返り討ちにできるレベルの生徒こそこの事件解決に適任といえよう。
「結果だけ言います。
姉さんは気配を隠しても普段の行いのせいで顔バレしてて変態現れず。
ワン子や京、クリスとまゆっちでさえも気を悟られて現れませんでした」
まさかまゆっちすら気取られるのは意外だった。
もしかしたら一人で松風とボソボソ喋ってるから変態も避けたのかもしれないけど、
これではお手上げだった。
「それで俺の助力を求めたと、そういう事か」
「話が早くて助かります。その理解の良さ、流石覇王様ですね」
「んはっ。覇王だからな!」
「ちょっと褒めたくらいでいい気にならないでください覇王様」
「褒めるのか貶めるのかどっちなのだお前は!」
半泣きで訴えてきた。
その子供のような純朴さにゾクゾクした感情がこみ上げる。
ドSな人間の気持ちがわかってきた。
「ぐぅ、しかしだな。俺など百代以上に不適合ではないか?
ただ歩いているだけでも覇王っぽいオーラ出てるから気配を察するまでもないだろう」
「何ですか覇王っぽいオーラって、プラズマクラスターから出るマイナスイオン的なものですか?」
「うぅ、お前今日はちょっと意地悪すぎるぞ」
からかいすぎた。大分泣きが入ってきている。
「冗談ですよ。確かに覇王様にはそこにいるだけでかなりの存在感があります。
普通に覇王様が変態の橋を渡っていてもその変態が現れる事はないでしょう」
しかし、覇王様には覇王様しかできない技というか特徴がある。
いや、これは覇王様というより葉桜清楚そのものの個性なのだが。
「ですから最初は清楚先輩のまま橋にいて貰って、変態が現れたら覇王様に代わり捕らえて欲しいんです」
「あぁ。成程、それならば問題はないな」
合点がいったらしい。
腕を組んで頷く。
基本的に清楚先輩の方にはプレッシャーなど一切なく、むしろ人を惹きつける雰囲気がある。
そして引き寄せられた変態を即座に覇王様が粛清。悪くない手段だ。
もっともこれはあくまでも前提として風間ファミリーが請け負った依頼なのだ。
この件に関して覇王様や清楚先輩は完全に部外者。
断られても仕方がない。
だが、そんな心配はどうやら杞憂だったらしい。
「んはっ。この覇王に任せておけ。
他ならぬ大和の頼みだ、断る理由がない」
「覇王様・・・・・・」
その構えた器の大きさに心討たれた。
「因みに清楚先輩の方は?」
「ん? あぁ待て、本人の口から聞いたほうが早かろう」
そう言って覇王様は集中し、内にいる清楚先輩の人格に代わる。
一拍置き、その覇王様の威風堂々とした雰囲気が霧散し、清楚先輩の柔らかな空気が現れた。
代わったらしい。
「うん、私も手伝うのには賛成だよ。
もう一般の生徒にも被害が出てるみたいだし見てみない振りはできないかな」
穏やかに微笑み、協力を申し出てくれた。
「それに項羽と同じで、大和君のお願いなら喜んで私はお手伝いするよ」
・・・・・・愛されているなぁ俺。
なんだろうか。
俺はこんな危険な依頼に先輩や覇王様を巻き込んで申し訳なくなった。
「所でその変態さんはどんな変態なのかな?」
興味深そうに聞いてくる。
確かに事前の情報は大切だ。
知っているのと知らないのとでは危険になった際の対処の出来がまるで違う。
「ストリーキングです」
「わぁ。変態さんの代名詞みたいな嗜好だね――――オイィ! 俺はそんな変態の相手など御免被るぞ!」
いきなり覇王様が現れた。
「やっぱり嫌ですか?」
「う、それは俺とてお前の力になってやりたいが今回はアレだろう・・・・・・!
その、いいのか?」
何やらモジモジとしながら言いづらそうにしている。
俺はそれを急かすことなく、自分から言ってくれるまで待つ。
「お、俺がお前以外の男の裸を見るなど・・・・・・お前は良いのか?」
絶句した。
成程。
今回間違っていたのは俺だったようだ。
覇王様は正しい。俺と自身の事を想っての考えを教えてくれた。
「すいません、俺が間違っていました。
この相談、聞かなかったことに」
想像してみれば確かに有り得ない。
覇王様や先輩に他の野郎の裸なんぞ見て欲しくない。
みっともない独占欲かもしれないが、一切の濁りない本心だ。
俺は頭を深く下げて席を立つ。
彼氏として最低なお願いをしてしまった。
かなり深い自己嫌悪を抱きながら俺は覇王様に背を向けた。
「ま、待て。別に俺ならばその変態の裸を見ずとも対処できる。
俺は覇王だからな、目を閉じたままでも壁を越えておらぬ者など相手ではない」
・・・・・・この人はやはり姉さん同様規格外だった。
「んはっ。お前の為ならば嫌な事とて取り掛かろう。
この覇王の寵愛、その惜しみなさに感謝するがいい!」
どうやら俺が落ち込んでいるのを、覇王様が俺の頼みを断ったからだと勘違いしたらしい。
無理している感が丸分かりだ。
だが、それでも俺のために頑張ってくれる。
その事にかなりの嬉しさを感じた。
「覇王様。ヤバくなったら絶対に無理しないで逃げてください。
むしろもう出会った瞬間に相手せず逃げてもらっても構いません
いえ、むしろ出会う前からドタキャンしてくれても一向に構いません」
絶対に彼女を不快な目に合わせない。
そう俺は決意した。
「おいおい。いいのかよ大和?」
「良いのかって、何の事だよ」
「こんな結構ヤバイ件に葉桜先輩巻き込んで大丈夫なのかって事でしょ。
僕も正直どうかと思うよ」
放課後、俺達風間ファミリーの男陣は変態の橋の端付近に隠れていた。
橋の中央部には清楚先輩。
先輩は囮としてそこに居てもらっている。
ただ変態がいつ現れるかわからない為、退屈をさせて申し訳ないと思っていたがそれは杞憂らしい。
清楚先輩は橋の縁に腕を起き、優雅に読書を楽しんでいる。
その姿がまた綺麗で通りがかる人の目を誘う。
「なぁ大和ー。何でウチの女子達は今回の件から外したんだ?」
キャップがガクトやモロの話をぶった切って切り込んできた。
「流石に女の子にストリーキングはヘビーすぎるでしょ。
武士娘達とはいえトラウマ作りかねない」
だから今回は外してもらった。
もっとも、清楚先輩に手伝ってもらうまでは外すつもりもなかったのだが、
覇王様の言葉でそれを意識してからの判断だ。
「それっておかしくね。清楚先輩も女の子だしウチの奴ら同様危険なのは変わりないだろ」
「そうなんだよ。だから俺は直前までやっぱりやめましょうって言ったんだけどね」
頑なに先輩はそれに頷いてくれなかった。
何を言っても
『私が大和君の力になれるのってこういう事くらいしかないから。
だから手伝わせてください。ね?』
と、笑顔で言われてはこちらも二の言葉がない。
しかも本気で心から手伝いたいと思ってくれているらしく、その言葉に一切のやらされてる感がないのだ。
「あぁ。大和が止めても相手が聞いてくれないパターンなのね」
「成程納得! 先輩って結構強情なんだな」
キャップもモロもどうやら納得してくれたらしい。
ただガクトだけは何か考えているらしく、難しい顔をしている。
どうせ碌でもないことを考えているのだろうが。
「ここで葉桜先輩がピンチの時俺様が颯爽と変態をぶっ倒したら株価がスタンディングオベーションじゃね?」
「俺にとってのガクトへの株価は今のでリーマンショックだよ」
この野郎、この期に及んでまだ清楚先輩狙いやがるのか。
妙な真似をしたら俺が直々にぶちのめしてやる。
仲間の謀反を警戒しつつ俺は清楚先輩に目を向ける。
相変わらず本を読んでいる。
夕日を背にした橋の上で、穏やかで静かな微笑みを浮かべつつ本を読む彼女。
本当に本が好きなんだな。
俺も読書は好きな部類ではあるが、それでもあそこまで楽しめているとは思わない。
「こないね、変態」
「やめろ、俺様せっかく先輩見てすげぇ気分良かったのに台無しだ」
「読書ってそんなに楽しいもんかね。俺にはさっぱりわかんね」
相変わらずなキャップだ。
「葉桜先輩にとっての読書の楽しさは、キャップ的に宝の地図を読んでいる時の楽しさに近いものがあるんじゃね」
「おお! 確かにそれならワクワクドキドキが止まらないぜ!」
「ガクトの癖に良い例えしやがって。お前そんなキャラじゃないだろう」
「ふはは、おだてるなおだてるな。俺様の溢れ出る知性に引き寄せられるのはお姉様方だけで充分だ」
「ガクト、馬鹿にされてるのに気がついてないのね」
モロは既に飽きてきたらしく、気が付いたら今朝買ったらしいジャソプを読み始めていた。
キャップとガクトは集中してはいるがそれでも退屈そうだ。
むしろキャップがまだ集中してくれている事が意外なのだが。
何はともあれ、俺は全く退屈ではない。
なにせ囮が清楚先輩だ。
何かあれば覇王様がいるし、実は切り札もあるとはいえそれでも油断は絶対しない。
それから一時間。
いい加減夕日も沈みかけ、夕方から夜へと変わるその瞬間。
人気がほぼない橋の上に佇む清楚先輩のそばに一人の男が現れた。
もしやあの人が。
「御嬢さん、貴女はダビデ像をどう思います?」
読書中突然話しかけられ、清楚先輩は僅かに驚いた顔をしている。
俺は寝始めたキャップと携帯ゲームしてるモロ、腹筋しているガクトを全員ひっぱたいて召集した。
「ダビデ像ですか。すいません、私芸術には疎くて。
ただ、ちょっと苦手かもしれません」
まぁあれ思い切り男の人の裸だしね。
局部まで丁寧に作りこまれてるし、純情な清楚先輩や覇王様には苦手なものかもしれない。
「ダビデ像とは人間の力強さや美しさの象徴ともみなされる作品なのです。
それを苦手とは私にとってとても残念です。ところで御嬢さん。
拙者、ダビデ像に似ておりません?」
「きゃーーーーーーー!?」
前触れなく一瞬でフルチンになりやがった。
「うおおおおいッ。いきなりかアイツ!? おい大和行くぞ!」
「大変な変態だーーーー!」
「はは。でもまじで結構いい筋肉してるぜあの変態」
「笑ってないで行くよキャップ!」
男陣は突然の事に面食らったが即座に立ち上がり変態にダッシュ。
だが橋の中央までまだ地味に距離がある。
作戦としてはこのタイミングで覇王様に切り替わってこいつをぶちのめしてもらう算段なのだが。
「や、やめてください!」
「嫌なら見るな! 嫌なら見るな!」
清楚先輩、完全に混乱してらっしゃる。
恐らく内にいる覇王様も困惑しているのだろう、予想通りこの作戦は失敗だった。
変態はどうやら物理的に獲物を傷つけるつもりは更々ないらしい。
顔を本で隠し、しゃがみ込んでいる清楚先輩に対して触れようともしていない。
ただひたすらに清楚先輩を中心に残像が残る速度でくるくると回っているだけだ。
フルチンで。
フルチンで。
「おっしゃ一番手は颯爽とこの俺がゲット! 食らえ!」
キャップが一番乗りで変態の元へたどり着き、走った勢いをそのまま活かしとび蹴りを放つ。
かなり勢いがついているらしく、外したら恐らく受け身すら取れず転倒しかねない速度だ。
だがキャップの事だ、そもそも外した時のことなど考えてはいないだろう。
「むむ!?」
変態、キャップがとび蹴りを放った瞬間に俺たちの存在に気が付いたらしい。
くるくると回る事をやめ、足を止めてキャップを見た。
「隙あり! てぁりゃああぁぁぁ!」
「んふぅ。紳士的行いの邪魔をしないで頂きたい」
凄まじい速度のとび蹴りが変態に直撃する瞬間、あり得ない事が起きた。
まさかの変態の回避である。
それもただの回避ではない。
わざわざ肉体を美しく見せようとしているのかどうかは知らないが、ダビデ像のポーズで避けやがった。
しかも残像が残るほどの速度なせいで全裸の男が数人に分身して見える。
ひどい。ひどすぎる。
「私の肉体美見ましたね。それではごきげんよう」
「なんとぉー!?」
まだ着地すらしていないキャップの背面に回り込み、変態は片手でとび蹴りしているキャップの襟をつかみ動きを止めた。
そしてそのまま橋の外へぶん投げた。
何の抵抗も出来ず視界からフェードアウトするキャップ。
一瞬ヤバイと思ったが、そういえば前日の大雨で下にある川は結構な量だ。
変態もそれを理解してた上での行為らしい。
数秒後響き渡るキャップの着水音。
「二番手、俺様が良い所みせてやるぜ!」
次にたどり着いたのはガクト。
「まてガクト! 一人じゃ勝ち目無い!」
「俺様を見くびってもらっちゃ困るぜ。
ベンチプレス二百キロは伊達じゃねぇんだよ!」
真っ向から力比べをしようと変態に掴み掛るガクト。
確かに普通の人間ならばガクトの怪力に真っ向からぶつかって勝てるやつなんて殆どいないだろう。
だが相手は普通じゃない。変態だ。
「んふぅ! 私に汗をかかせて更なる肉体美を追及させる算段ですかな?
芸術活動が捗りますなぁ!」
「嘘だろぉーっ!?」
真っ向から襲い掛かるも、当然相手が受けてくれるはずもなく
投げ飛ばされるガクト。
「お前使えなさすぎんだろ!?」
「ちくしょーーー! 葉桜先輩の好感度アップ作戦があぁぁぁぁ!」
忌々しい断末魔を吐き出しながらガクト着水。
下心を持ったこいつはダメだ。
もう携帯の友人欄にあるガクトの名前を関係者欄に移したほうがいいのかもしれない。
「どうすんのさ大和! キャップもガクトもダメで葉桜先輩は混乱中
実質僕ら詰んでない!?」
モロが足を止めて俺に聞く。
確かに若干想定外なことが積み重なった。
覇王様が出てこないのは想定内だったが、変態がここまで大変な変態かつ強いとは思わなかった。
唯一の救いはこの変態、一応変態ではあるが紳士でもあるようで清楚先輩に手を出さないし
俺達を殴ったりなど暴力を振るってこない事だ。
多分殴りかかったりしなければ向こうから攻めてくる事もなさげだ。
「拙者は変態ではござらんので、コポォ」
変態は決まってみんなそう言う。
つうかどうする。
やっぱり用意しておいた切り札を使用するか?
その最後の手段な人には俺がやられた時、もしくは俺が合図を送った時に動いてもらう打ち合わせをしている。
だが今本当に使っていいものなのか。
「・・・・・・今回、清楚先輩を巻き込んだ責任が俺にはある」
「え、ちょっと大和何を」
「俺がやられたら、打ち合わせ通り最強な人が出てくるからモロは安心しててくれ。
そんじゃちょっと反省してくる」
見れば清楚先輩はやはり顔を抑えて困惑している。
先輩自らが囮になりたいと志願したとはいえ、巻き込むことになった大元の原因は俺にある。
そしてその志願を跳ね除けなかった俺が一番悪い。
ここで切り札を使い、無事問題解決しました良かったね。
などと都合の良い展開は俺的に有り得ない。
男として女性を泣かせたのなら、その罰は与えられて然るべきだ。
「変態、次は俺だ!」
「オウフ! いわゆるストレートな玉砕アプローチですね!」
腰をカクカクしながらこちらを振り向いた変態。
やべぇ鳥肌が立った。
何かもう怖いとか気持ち悪い通り越して戦慄するレベルだ。
だが立ち止まる選択肢は無い。
さらに言えば先制攻撃もダメだ。
ガクトもキャップも二人共カウンターでやられている。
つまり俺なんかが先手をとったところで躱されて橋から投げ飛ばされるのは目に見えている。
ならば狙うべきは玉砕覚悟のカウンター。
幸いなのかどうなのか判らないが、相手は全裸。
男の急所丸出しである。
「って何でエレクトしてんだテメェ!」
「ヌフゥ! いい質問ですな!」
絶対に触りたくないが、手段は他に無い。
とにかく相打ち覚悟のカウンターだ。
ならば相手に先制攻撃させなければ話にならない。
俺はとにかく手を出さず、走って近づく。
流石に射程内に入れば相手も手を出してくるだろう。
と、判断した。
それが失敗だった。
「んん? もしかして私の体に触りたい?
どうぞどうぞ!」
まさかの体と体がぶつかるまで相手は手を出してこなかった。
それどころか俺と体がぶつかって相手は恍惚とし始めた。
鳥肌が立つ。
「うおわぁ!?」
条件反射で手が出てしまった。
「やや! これは残念です!」
当然突き飛ばそうとした手を掴まれた。
そしてそのまま背負投の姿勢。
何でこんな変態に凄まじい肉体性能が宿ってんだよ。
健全な肉体にのみ健全な精神は宿るというが、これのどこが健全な精神なのか。
殆ど諦めが入る。
まぁ俺がやられた瞬間に、先程からずっと完全に気配を隠している姉さんが動き出す。
姉さんにこんな大変な変態の相手をして貰うことに申し訳なさを感じるが、
姉さんならば目を閉じたまま、気で相手に触れず倒せる事を考えての采配だ。
それでもやはりこういう女性にとって不快な人間の相手はさせたくなかったが
まさか清楚先輩を見捨てる選択など俺には最初から無い。
内心謝りながら俺は橋の外へ吹っ飛んだ。
その浮遊感に若干不安を感じる。
だが目を閉じたままでは危ない。
俺は覚悟して目を開け、着水地点を見る。
「危険な真似をしおって。全く、大人しく百代に頼っていれば良い物を馬鹿者が」
「・・・・・・あれ?」
俺は投げ飛ばされたはずだが。
何故か目を開けたら再び橋の上にいた。
というか覇王様の脇に抱えられていた。
どうやら助けられたらしい。
「覇王様、混乱してたのに代われたんですか?」
「ああ。お前が投げ飛ばされそうになった時に俺と清楚が共にお前を助ける事のみに集中できたのでな。
あぁいや、混乱していたのは清楚のみで俺は違うぞ?」
絶対嘘だ。
だって覇王様ってやろうと思えば清楚先輩の許可取らずにいきなり出たりできるし。
ともあれ危険はさったようだ。
「んはぁ! 随分とセクハラをしたようだなぁ、この覇王に対して!」
「ややや、何やら危ない雰囲気。思わず私興奮してきました! 濡れる!」
覇王様は目を閉じて変態と対峙した。
だがどうしたものか、覇王様は素手で相手は全裸。
つまり覇王様が攻撃するにはどうあがいても相手の肌に触る必要がある。
「貴様の肌に直接触るなど絶対に御免だ。故に俺はこれを武器とさせてもらおうか」
そう言って取り出したのは・・・・・・さっきまで清楚先輩が読んでいた本だった。
「ぬおおお!? うるさいぞ清楚、別にいいではないか。
何、本を汚すな? 知らぬ、諦めろ」
何やら内面で清楚先輩が激怒しているらしい。
そりゃそうだ。
本が大好きな先輩が怒らないはずがない。
「・・・・・・仕方ないな、じゃあこれでいいや」
覇王様、本を元に戻して橋の鉄骨をむしり取った。
最近の乙女はジェンガを引き抜くように鉄骨を引き抜けるのか。
その後、橋の上では変態の絶叫が響き渡った。
キャップ達が変態を学園へ連行し、一旦俺達は別行動を取ることになった。
俺と覇王様と姉さんは橋の上で残る事になったのだ。
何故か、覇王様が激怒しそう言ったからだ。
「百代。貴様、何故大和を助けなかった」
覇王様は変態を倒したあと、そのまま気配を遮断し続けていた姉さんに食いかかった。
「ははっ、清楚ちゃんは最初から気づいていたのか。
流石だなぁ。完璧に空気と一体化してる自信あったのにちょっとびっくりだぞ」
姉さんは覇王様に対して今のように普段通りの対応だった。
だが覇王様はそんな姉さんの飄々とした態度に本気で切れる。
「話を逸らすな。
貴様は大和の姉貴分なのだろう、ならば何故大和が先ほどのように危険な事になった際に見捨てた」
覇王様は怒りを顕にし、姉さんの胸ぐらを掴む。
それに姉さんはやはり表情を崩さない。
「清楚ちゃん、お前はどうやら勘違いしてるんじゃないか」
「勘違い? 何のことだ」
姉さんは何故俺が変態に挑んだかを理解しているようだった。
止めるべきか。
このままでは俺の本心を暴露されかねない。
だが、止めれば覇王様は止まらないだろう。
確実に二人が決闘を始めてしまう。
「大和は清楚ちゃんを巻き込んだ責任を果たすためにあの変態に挑んだんだ。
そのスジ通しを邪魔するのは仲間の、ましてや姉貴分のする事じゃない」
案の定バラされた。
俺は顔から火が出る程恥ずかしかった。
そんな格好いいものじゃない。
ただのけじめである。
結果として俺のしたことは無駄極まりないものなのだ。
「どうにも清楚ちゃん。お前は私のように大和の姉貴分を名乗っているらしいが、
そんなザマじゃとても大和の姉貴には見えないな」
「・・・・・・ほぅ。言うではないか」
僅かに、僅かにだが覇王様の怒りのベクトルが変わった。
「成程、その話は本当か大和?」
確認するように覇王様が聞いてくる。
そういうのって本人に聞くのはマナー違反だと思うのだが。
「直接本人に聞くとかサドいな清楚ちゃん」
姉さんは姉さんで楽しんでいる。
どうする。
恥を忍んで肯定すべきか。
それで姉さんとの決闘が防げるなら安い代償なのだが。
俺は少し考えた後、頷いた。
多分今の俺は酷い顔をしているだろう。
自分の内心をさらけ出さされて恥ずかしすぎる。
覇王様はそんな俺の反応を見て目つきを変えた。
厳しく、姉さんを敵として見ていたその攻撃的なものからまるで我が子を見るような、
宝物を慈しむようなそんな目で俺を見、姉さんの胸ぐらから手を離した。
「大和。今回、あの変態を始末するのに手間取ったのは俺がお前の策通りに動かなかったからだろう。
何故何も悪くないお前が責任を取る必要があるのだ」
わかって聞いているのだろう。
その顔に疑問げなものはない。
「そもそも覇王様や清楚先輩にあんな変態の相手をしてもらう自体を作った俺が悪くないワケがないんです」
「それは違うだろう。俺や清楚が自身の意思でお前の力になりたかった故の状況がアレなのだ。
お前は俺を責めこそすれ、責任を感じる必要はない」
多分、俺と覇王様の考えは平行線だ。
俺は巻き込んだことを悪いと思い、覇王様は自らの意思で手を貸したのに俺を危険な目に合わせたことを申し訳なく思っている。
つまり謝罪の押し付け合いになっている。
折れるべきなのはどちらなのか。
少なくとも俺は折れる気はない。ソレは覇王様とて同じことだろう。
可笑しな話だ。
それを覇王様も思ったのか、一度目を閉じた。
そして次に目を開けたとき、口を開くことなく俺に詰め寄った。
「怪我はないか、大和」
「覇王様のおかげで」
「んはっ。そうか、それは良かった」
心から俺が無傷な事を喜んでくれている。
その屈託のない優しく純朴な笑みに俺は釣られて微笑んでしまう。
覇王様は一応確認の為に俺の体を触ったりしてみる。
俺はされるがままだ。
「ん、確かに傷一つないな。
もし擦り傷でもあれば即座にあの変態を追いかけて更なる誅伐を行うところだ」
「過保護すぎますよ」
俺を寵愛してくれている覇王様。
本当に惜しみない愛情をぶつけられてこそばゆい。
「過保護にもなろう。なぜなら俺はお前の姉貴分であり虞美人なのだからな」
ソレはつまり伴侶という事か。
実質愛の告白らしい、言っている覇王様の顔が赤い。
夕日の逆光があるにも関わらず顔が赤いことがわかるのだ。
その照れ具合は相当なものだろう。
「覇王様・・・・・・」
「大和・・・・・・」
互いに見つめ合う。
マジでチューする五秒前。
その気になった俺と覇王様は顔を近づけ合う。
そして唇と唇が合わさる瞬間。横からの視線に気がついた。
「じー」
思い切り見られていた。
邪魔することはせず、ただ静かに俺と覇王様の情事を見守っていた姉さんがいた。
「弟が私を無視して清楚ちゃんとイチャイチャし始めた、なう」
何やら拗ねている姉さん。
確かに拗ねても仕方ないとは言える。
覇王様に食いかかられた挙句、俺や覇王様本人に存在すら忘れられたのだ。
そりゃ拗ねる。
むしろ怒ってないだけ姉さんが優しいと思える。
「む、覇王の情事を見るなど無礼であろう。
去れ、百代。しッしッ」
思い切り邪険に追い払おうとする覇王様。
「かっちーん。モモちゃん大激怒」
ヤバイ。
姉さん口でいうくらいに切れている。
ここで選択肢を謝れば恐らくこの橋が崩壊するレベルの決闘が始まるに違いない。
「覇王様のおバカ!」
「なんと!?」
俺は取り敢えず覇王様をお説教することにした。
「姉さんは俺達の中を取り持ってくれたんですよ。
だから最初は一触即発だった空気もさっきのようにいい空気に変わった。
そんな俺たちの仲を取り持ってくれる姉さんに今の態度は許せません」
「な、そういう事だったのか・・・・・・済まない百代。
俺はお前をどうやら勘違いしていたようだ、今までただの戦闘狂だとばかり」
「た、ただの戦闘狂・・・・・・だと・・・・・・」
作戦成功である。
実際姉さんの俺の心情暴露でいい空気になったことは事実だ。
多分姉さんにそのつもりはなかったと思うけど。
「ヤダ! こんなバカっぷるには付き合ってられん、私は帰るぞ!
もう勝手にしろ! アホ! バカ! 弟の姉不幸ものー!」
姉さんはあきれ果てたようで俺たちに背を向けて走り去っていった。
本気で呆れられたようだ。
俺的に少し恥ずかしい気がしなくもないが、ともかく二人の決闘の回避や依頼達成は果たせた。
「覇王様、不愉快な思いをさせる件に巻き込んで本当にすいませんでした」
「その事はもう言うな、俺とお前の仲だろう。
お前の為ならば不快な事すら喜んで手を貸してやる・・・・・・」
取り敢えず日も暮れて人気も無くなった橋の上で俺達はイチャつき続けた。