真剣で私を愛しなさい!Aアフター   作:ららばい

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3話:君が従者で主が俺で

「これでチェックメイトです」

「なんと、また俺の負けか。

 えぇと・・・・・・これで通算何度目だっけか」

「十戦十敗です覇王様」

 

秋に入り、僅かに夏の面影が消える代わりに冬の匂いが見え始めるその頃。

俺と覇王様はだらけ部の部室でチェスをしていた。

 

実際覇王様はちょっとおバカな所が見えるけれど、清楚先輩の知識もあり実の所頭が悪いことはない。

悲しいことに清楚先輩の知恵まではインストールできていないのか猪突猛進な所がある上に

柔軟な発想力が無いけれど。

 

「じゃあ負けた回数だけ俺が覇王様に好きな命令ができる約束でしたよね。

 そろそろ切り上げないと俺の奴隷になっちゃいますよ」

「う、うぐぅぅぅぅ・・・・・・」

 

奥歯を噛み締めて悔しそうな顔をする覇王様。

その子供じみた反応に心底可愛らしさを感じる。

 

イッツソゥキュート。

可愛い子をいじめたいと思うのは子供から大人になっても依然として残る人のサガか。

俺は覇王様に更なる落とし穴を用意して差し上げる。

どうせこの丸分かりな落とし穴も踏んづけてくれるであろう。

 

「それでは次の勝負で俺に勝てたら今までの負け分全て帳消しにしてあげます

 それどころか一生覇王様の奴隷になってあげても構いません」

「なんと、破格ではないか! 乗ったぞ!」

「何で負けた時の代償を聞く前に乗っちゃうのか。

 世渡り舐めてんのか」

「ひぃ!? な、何故お前が怒るのだ!」

「覇王様を思っての愛のムチです」

 

実際覇王様に賭け事というか心理的駆け引きは向いていない。

余りにも単純すぎて簡単に手のひら上で躍らせることができる。

 

親心なわけではないけれど、将来が本当に心配である。

俺のいないところで悪い人間に騙されないといいのだが。

 

「覇王様、次の勝負で俺に負けたら覇王様は向こう一ヶ月俺の従者になってもらいます。

 それでよければ次の勝負をしましょう」

 

俺の提案に覇王様は顎に手を添えて考えている。

リスクとリターンを考えているのだろうか。

 

「んはっ。乗った、だがチェスはもうやらん。これは俺に向いていない。

 故に次の勝負はこれで付けようではないか」

 

そう言ってだらけ部にある遊戯道具をあさり始めた。

一体何を出すつもりなのか。

大体のテーブルゲームで覇王様に負けるつもりはないけれど、運の要素が強すぎるゲームだと少し危ない。

人生ゲームなど出されてはイカサマすら非常に手間だ。

 

まぁあれはあれで敢えて自分が不人気な銀行役をして金をちょろまかしたりするイカサマもできるけれど。

 

「んはっ。これならば俺は負けぬ。

 さぁ勝負だ大和」

 

自信まんまんに取り出したものは将棋だった。

 

俺は覇王様の意図が読めず沈黙する。

 

「俺はこんなこともあろうかと京極に将棋のコツを教えて貰っていたのだ。

 どうだ、経験を重ね定石を学んだ俺に勝てると思うか!」

「因みに京極先輩に対しての勝率は?」

「えーと。うむ、三回に一回くらい勝ててるぞ」

「・・・・・・京極先輩は負けそうになった時に長考したりしてました?」

「いや、むしろ俺が勝つ勝負ではあいつは思考時間が殆どないな。

 多分この俺の神がかり的な覇王の一手に諦めがついたのであろうよ」

 

成程、接待か。

流石京極先輩、覇王様のプライドを堅実に守っているようだ。

何故か俺が悪いことをしている気分になってきた。

まぁやめないけど。

 

「先程までのチェスはデモンストレーション。

 この将棋が勝負の本番と、覇王的にそういうことですね」

「そうだ。この俺の指す一手に戦慄するがいい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あれぇ・・・・・・?」

「それじゃあこれで覇王様は一ヶ月俺の従者というわけですね。

 パン買ってこいや」

「ぐ、ぐぬぬ」

 

勝った。勝ちすぎてしまった。

 

覇王様のあらゆる手を嫌がらせのように封じ、進路を妨害し、

自信満々な一手をその次の手で絶望の一手に変えて差し上げた。

 

その結果当然のようにヴィクトリー。

 

「い、今のは戯れだ! 次が本番だ!」

「このおバカ!」

「あいたぁ! なんで覇王の頭をぶつのだ!?」

「じゃかぁしいわい!」

 

今のは大変よろしくない。

負け惜しみにしても相手にイチャモンを付けなかったのは評価する。

だがこの往生際の悪さは宜しくない。

 

「敗北したのならその代償を甘んじて受け入れる。

 それが将の務めでしょう、いい加減諦めて受け入れてください」

「ぐうぅ・・・・・・」

 

悔しそうにうつむく。

今回の勝負はいい教訓であろう。

負けたのにそれを認めない姿勢はいつか部下の信頼を失う結末になりかねない。

というか模擬戦で一回そんな事になったし。

 

あの時は自身の失態も全て部下の責任にしたから救いがなかったが、

今回はまぁ本当に覇王様自身の往生際の悪さが問題の焦点である。

 

「わかった。認める、俺は大和に負けた。

 最初の約束通り一ヶ月お前の従者になろう」

「そうです、その潔さが大切です。

 しかしこの部屋暑いな、ちょっと裸になってくださいよ」

「この破廉恥が!」

「すいません!」

 

調子に乗りすぎた。

覇王様に鉄拳制裁をもらう。

 

「大体従者は大和で主は俺であろうが。

 何故主従逆転などを・・・・・・む、もしや俺謀反された?」

「いいからしゃぶれよ」

「不埒者!」

「ぐっは! あ、ありがとうございます!」

 

どうにも覇王様の主人に慣れていい気になってしまったらしい俺。

 

やたらとエロイ事をしたくて仕方ない。

仕方あるまい、こんな美人を自分の従者にしたとあればエロい命令しないほうが常識はずれだ。

とはいえ、流石にこれ以上手加減されてるとは言え覇王様の制裁をくらっては脳細胞が死滅しかねない。

 

「最初に言っておくが、いくら俺の主になったとは言えいやらしい命令は聞かんぞ。

 だ、大体そんなのは命令せずとも時と場所さえ考えれば別に・・・・・・」

 

乙女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、清楚ちゃんが一ヶ月大和の奴隷になぁ。

 いいなぁ、私にその権利譲らないか。サービスしてやるぞ?」

「譲るわけないでしょう。覇王様や清楚先輩は俺だけのものです。

 姉さんといえど絶対に渡さないから」

「はは、言うなぁ弟。正直妬けちゃうぞ」

 

微妙に凄む姉さん。

正直怖いけれど、ここは強く出ておきたい。

 

「清楚先輩と大和、どっちに妬けてるのやら」

 

ぼそりと呟く京。

話の流れ的に覇王様を独占している俺に妬けているのだろうが、

確かに独占欲が強い姉さんからしたらむしろ覇王様に妬けている可能性もあるかもしれない。

 

ともかくあまり今の姉さんをからかうのは良くない。

俺は屋上の風にあたりながら昼食到来を待っていた。

 

「待たせたな。ほれ、注文通りの焼きそばパンだ」

「うおう、びっくりした」

 

ボケっと外を眺めていると、扉からではなく校庭の方から覇王様が飛んできた。

階段一々登ってるより覇王様的に早くて楽なのだろう。

だが心臓に悪いのでやめてほしい。

 

「どうした。受け取れ、それともこれじゃなかったのか?」

「いえ、これであってます。

 ご苦労様です覇王様、これ俺からのご褒美」

「んはっ。遠慮せず受け取らせてもらおう」

 

焼きそばパンを受け取り、代わりにご褒美として俺が作ったお弁当を渡す。

 

余り上手く作れてはいないけれど、それでも不味くはない筈。

まゆっちやクッキー4にも横について調理を見てもらっているし。

 

「何で弟が購買のパン買ってきてもらって清楚ちゃんが大和お手製の弁当なんだ?

 普通逆だと思うんだけど」

「しょーもない。ただのイチャつきの延長線でしょ」

 

それもあるが、これは俺的な躾でもある。

 

俺の指示に従えばそのリターンとして相応以上の見返りがある。

それをこの一ヶ月で覇王様に無意識にでも覚えさせる算段だ。

 

例えばこの食事。

どこの学園でも人気な焼きそばパン。

これを入手することは容易ではないが、俺の指示通りに手に入れてくれば手間暇かかったお弁当をプレゼント。

 

傍から見れば手作り弁当を焼きそばパンと交換しているアホに見えるかもしれないが、このシャークトレードも重要だ。

 

覇王様は自尊心が極めて高い。

故に彼女を顎で使うことは細心の注意が必要だ。

だから俺は毎日俺自身が努力して作った弁当を渡し、俺はそれを上回ることのない食事を覇王様に買わせた。

 

「なぁ弟。前の変態事件の食券はどうしたんだ?

 そういえば男共が最近学食食ってる所見たことないけど」

「あの報酬は全部姉さんと覇王様に渡したよ。

 だって俺達男陣はまるっきし役に立たなかったし」

「・・・・・・律儀な大和ステキ。結婚しよ?」

「お友達で。っていうか覇王様の前で言うな、危ないから。

 主に俺が」

 

ともかく、その細かい事を意識しているため覇王様は散々パシらせても未だ文句を言ってはいなかった。

 

そりゃそうだ。

マッサージを命令すれば、その報酬として俺は何かを奢ったりマッサージのお返しをしたりしている。

実の所この使用人期間は俺にとって得することは何もない。

むしろ労力を考えればデメリットだろう。

 

ただ、それでもこの一ヶ月で覇王様には理解してもらう。

俺に従えばそれは必ず価値のある見返りが待っているということを。

それに俺には過去にワン子という実績もある。

 

「清楚先輩はお弁当を美味しそうに食べてるよ?」

「そりゃそうさ。だって覇王様の好みのものしか入ってないし」

 

肉や米、焼き鮭。

デザートは買い置きで申し訳ないが、美味しいと評判の店の杏仁豆腐。

等等、覇王様の好みの物を毎日色々工夫して使った料理を作っている。

 

正直まゆっちや麗子さん。そしてクッキー4には暫く頭が上がりそうにないほど借りができた。

 

ともかく覇王様は本当に美味しく食べてくれていた。

これだけで毎朝早起きして料理習っている甲斐はある。

・・・・・・何やら覇王様と結婚したら俺が台所に立つ未来が垣間見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大和、今日の弁当も実に美味かったぞ」

 

杏仁豆腐の容器、空の弁当を片付けながら覇王様は笑顔でそう言う。

京と姉さんはいちゃつく俺らを見かねて先に教室へと戻っていった。

 

「お粗末さまでした。明日は何が食べたいですか?

 一応リクエストがあれば聞いておきます」

「む。そうだな、唐揚げなどが食べたいな、あぁ勿論食後の杏仁豆腐は引き続き頼むぞ」

 

空の容器は俺に渡されず、覇王様が一度持ち帰る。

それを自室で洗い、綺麗な容器を俺に覇王様が返す流れができている。

俺が命令したわけではない、どうやら清楚先輩が礼儀として覇王様に指示したのだろう。

 

「それは覇王様次第です。

 俺の命令に従ってくれれば考えますよ」

「むぅ。その命令というフレーズは何とかならんのか」

 

覇王様はやはり自尊心が高い。

この命令という言葉を聞くたびに顔をしかめる。

 

「覇王様は従者、俺は主。現在主従逆転中。

 つまり君が従者で主が俺で。オーケー?」

「う、それは重々承知している」

 

俺の有無を言わさない圧力に覇王様引き気味。

敗者の責務は絶対だ。

これを蔑ろにするとそもそも勝負の意味がない。

 

これを守るから勝負には価値があり、同時に勝つ事の重要さをより理解できる。

そして勝つことの重要さを理解すれば無謀な勝負を無意識に避ける癖がつく。

遠回りだがこれを覇王様にはなんとしても理解してもらう必要がある。

 

勝てない戦いは絶対にしない。これは兵法でも何でもない、ただの生きるための術だ。

その常識を欠いていては長い人生いつか足元を掬われかねない。

 

つまりこの期間のうちに覇王様が知るべきなのは、俺への無意識な絶対の信頼。

及び敗北のリスク。勝負自体への危険性の理解だ。

 

「あと十日。覇王様、俺との勝負に負けて反省してます?」

「うむ。まさかここまで悔しい思いを長々とする羽目になるとはな。

 この従者期間が終わればもう一度勝負だ。次こそ俺が勝つ」

「はは、こやつめ・・・・・・あれぇ?」

 

ここに来て俺は自分の策が失敗している事に気がついた。

 

「いえ、ここは負けて反省してもう無謀な勝負をしないって流れでしょう。

 何でリベンジ企んでんのさ」

 

あれか。

弁当による餌付けが拙かったか?

正に味をしめてしまった訳か?

 

「だって負けたままでは悔しかろう」

 

正論ではある。

正論ではあるのだがそれは賢くない考え方である。

 

俺は本気で頭を抱えた。

拙い。宜しくない。

 

本気で考える。

どうすれば覇王様のこの悪癖を改善できるのか。

覇王様の事を誰よりも知っている自信はある。

だがそもそも覇王様自身目覚めてまだ一年はおろか半年も経っていない。

ならば俺の知っていること自体底が知れている。

 

「・・・・・・ん?」

 

いや、訂正しよう。

そうだ、俺よりも覇王様の事を知っている人がいた。

そうだそうだ。その人の意見を聞けばもしかすれば打開策は見つかるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、大和君。ご命令通りのカツサンドです」

「どうも、大変よくできました。花丸あげちゃいましょう。

 では報酬の俺のお弁当どうぞ」

「あは、花丸とお弁当貰っちゃった。ありがたく頂くね」

 

嬉しそうに俺のお弁当を受け取って清楚先輩は俺の隣に座る。

その歩み方、座り方。

そして弁当の巾着を取るあらゆる仕草に気品がある。

 

それでもエレガントとかそういう区別ではない。

本当に素朴なのだ。

気取っているわけでもなく、無意識に優雅さを醸し出す。

正に理想的なお淑やかさ。正にまごうことなき大和撫子。

 

まゆっちも松風離れできたらこんな感じになれそうなのだけれど。

松風のいないまゆっちが想像できないため、この考えも見当違いなのかもしれない。

 

「あ、項羽のリクエスト聞いてくれたんだね」

「まぁ、一応」

 

微妙に照れくさい。

結局甘やかしている事にかわりないじゃねーかと言われれば正にその通りなのだ。

 

「ありがとう大和君。項羽も私の中で凄く喜んでる」

 

屈託のない笑み。

その太陽のように暖かく、しかし太陽ほど肌を灼く感じではない。

陽だまりのような柔らかな暖かさを持った笑顔だ。

 

それを直視して本格的に照れが入る。

 

こういう純情系は俺のキャラではない。

もっとこう、常に相手をリードというか引っ張っていくポジションこそ俺の本分だ。

 

「よくこのカツサンドを清楚先輩が買えましたね。

 購買混んでて戦争状態じゃありませんでした?」

「うん? 人は多かったけど普通に私が歩けるスペースはあったよ?」

 

あ。わかった。

多分清楚先輩が来るまでは血で血を洗うごちゃまぜ争奪戦だったけど

明らかな場違いである清楚先輩が来たことで全員争うのやめた挙句道を譲ったとかだこれ。

それこそ恐らく現場では清楚先輩がモーゼの如く人という波を切り開いて悠然と歩いていただろう。

 

「あの。別にこの従者約束って俺と覇王様だけのものだから清楚先輩が俺に従う必要ないんですよ?」

「でもお昼休みの前にカツサンド買ってきなさいってメール来たけど」

「そ、それは今日は覇王様の日だと思っていたためで・・・・・・」

「ん? う~ん」

 

可愛らしく首を傾げる先輩。

何やら不思議そうな顔をしているが、俺は変なことを言ったのだろうか。

 

「項羽もつまり私。だから項羽がした約束は私がした約束でもあるの。

 だから期間中はしっかり大和くんの従者として命令には従います」

 

きっぱりと言い切った。

 

清楚先輩はこういう筋を通す事にスマートだ。

報酬は惜しまないし、負けた代償もきちんと払おうとする。

覇王様の皺寄せが直撃するのは俺でなくむしろ清楚先輩なのだろう。

それを今ここで改めて理解した。

 

なんとしてでも覇王様の勝負に対しての無謀かつ無計画な立ち振る舞いを改善しなければならない。

じゃなければ自身に、それこそ清楚先輩にいつかシャレにならない結末が訪れかねない。

 

「頂きます」

 

俺が渡したお箸を持ち、お弁当の蓋を開け、手を合わせていただきますをする。

そしてまず唐揚げを掴み口に運ぶ。

 

何度もその肉を噛み、味を堪能。

 

「ん、美味しいよ大和君」

「ありがとう。作った甲斐があるよ」

 

正直に言えば近いうちに清楚先輩と話したいことがあった。

覇王様の事だ。

 

「先輩。食べながらでいいので聞いてください」

 

俺がそう言うと先輩はもぐもぐと口を動かしながらこちらを見た。

 

「今日はちょっと相談したいことがあります」

「項羽の事かな?」

「・・・・・・え?」

「あれ、違った?」

「いえ、そうですけど」

 

何故それを知っている。

何故バレている。

 

出鼻を挫かれたとは正にこの事か。

 

清楚先輩は俺の内心を知ってか知らずか、美味しそうにポテトサラダを食べている。

 

「今からの会話って覇王様も聞くことになりますよね」

「うん。今だってこのお弁当は自分が食べるんだーって言ってるよ」

 

元気でなによりだ。

 

「あのですね。今後、覇王様が勝負事を受けそうになったときは清楚先輩に止めて欲しいんです」

 

俺の言葉に清楚先輩は首を傾げる。

かしげながらももぐもぐと二個目の唐揚げを口に運ぶ。

 

真面目に聞いてくれているのだろうけど微妙に気が抜けてしまう。

 

「清楚先輩は覇王様の行動を基本的に束縛しませんよね」

「そうだね。余り項羽のすることに口出しとかはしないかな」

 

清楚先輩は常識人だけれど、覇王様に対しては傍観者として彼女の非常識な行為にも口出しはしない。

無論俺が知らないだけで、本当は何か忠告などをしているのかもしれない。

けれど覇王様の奔放さを抑えているとは言いづらい。

 

「はっきり言って俺は清楚先輩、覇王様が心配です。

 今回の従者になる約束の勝負だって相手が俺だから良かったものの

 これが見知らぬ男との間で、俺抜きでかわした約束だったらどうなっていたことか」

 

勿論度が過ぎた命令は覇王様の性格上聞くことはないだろう。

だが、それでも俺の覇王様が俺以外の男の命令を聞くなど考えたくもない。

 

だから今後、俺のあずかり知らぬところで覇王様が無謀な勝負を受けようとしたら清楚先輩に諌めて欲しかった。

 

「しないよ?」

「は?」

 

ご飯をもぐもぐと反芻し、飲み込んでから先輩は言う。

 

「項羽は大和君や京極君以外とは勝負事は一切してないよ」

「え、ほんと?」

「本当。あ、この大学芋甘くておいしい」

 

実に嬉しそうにお食事を続けている。

 

言われてみれば、確かに覇王様が勝負している所をここずっと見てない気がする。

俺が心配しすぎだったのか?

 

「あの。覇王様ってそれでストレス溜まったりしてません?」

 

覇王様の性格上、時々勝負事などでガス抜きしないと暴れだしかねないと思うのだけれど。

 

「う~ん。別に、項羽はストレスなんて溜まってないと思うけれど」

「え、あ。そうですか」

「御馳走様でした。あ、杏仁豆腐もあるんだね。

 え、何? これは自分が食べたい?

 むー。たまには私にも食べさせてよー」

 

何やら独り言を言いながらいつものデザートである杏仁豆腐を食べ始める。

多分覇王様がごねているのだろう。

 

はてさて。

どうしたものか。

俺は自分の空回りぶりに頭を悩ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「御馳走様でした。凄く美味しかったです」

「お粗末さまでした」

 

覇王様の時と同じく、清楚先輩は空の容器を持ち帰るべくカバンにしまった。

 

「あのね大和君。私や項羽なら心配ないよ」

 

弁当箱をしまい、お茶を一杯飲んで落ち着いた後、そう言った。

 

「大和君が私達の事を真剣に心配してるし、それに将来の事を本気で考えてくれてるのは知ってるの。

 だから大和君にいらない心配をかけたくない。

 それは項羽も私も共通の気持ちなんだよ」

 

いつも通りの。

そこにいるだけで周りを和やかにさせる清楚先輩。

そんな彼女がきっぱりと言う。

 

俺はどうやら保護者意識が強すぎたらしい。

覇王様は俺が思っていた以上に成長していた。

 

謝罪しなければなるまい。

 

「すいませんでした。と、覇王様にも伝えてください」

 

実際伝えるもなにも、清楚先輩に言えば直接覇王様には伝わる。

ただ、これは清楚先輩にも謝っているのだ。

だから例え覇王様に直接言ったとしても、その場合清楚先輩に伝えて欲しいと俺は言う。

 

深々と頭を下げる。

 

俺の今回の過保護さは心配などと聞こえのいいものではない。

ある意味疑っていたようなものなのだ。

覇王様はなにも成長していないのではないか、清楚先輩はその覇王様を御してくれないのか、と。

 

これは裏切りだろう。

幸いにして相手が不快感を覚えてはいないようだが、それでもやはり一度謝る必要がある。

反省もしなければならない。

 

「大和君は私達の軍師様なんだからそれでいいの。

 そうやっていつも私達を心配してくれて私と項羽は幸せなんだなって思ってる」

 

本心からの言葉だろう。

 

「それは耳触りのいい言葉選びです。

 実際はただの過保護で、どこか覇王様や先輩を疑っていた部分もあったと思うんです」

「それでも、それは私達を心配しての疑いだよね?」

「・・・・・・はい」

 

それは間違いない。胸を張って言える。

ただ、それでもどこか申し訳ない部分がある。

 

「じゃあ許します。

 大和君、私も項羽も今後もどんどん大和君に心配かけるから覚悟してね」

 

頭を下げる俺の手を握る清楚先輩。

 

俺はその目を真っ直ぐ見る。

彼女の目に一切の俺への拒否感はない。

それどころか本当に俺を信頼してくれている。

 

多分俺に疑いすら持っていないのだろう。

 

俺は考えを改めた。

 

信頼していなかったのは間違いなく俺の方だった。

事実覇王様も先輩も俺の事を思い俺抜きでの勝負事をしなくなった。

 

信頼は足元を掬うための一つの要素である。

だが、だから軽んじいい要素ではない。

むしろより強固にし、それを不動のものとすればそれは要塞のような盾となる。

文字通りそれを掬い取ることなどできるはずもない。

 

「はい。好きなだけ心配かけてください。

 絶対に、何があっても俺が何とかしますから任せてください」

 

彼女たちの圧倒的な信頼にはやはり信頼と実績で返さねばなるまい。

 

俺はブレず、死ぬまで覇王様と清楚先輩の力になることを改めて意識した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「所で先輩。今この屋上には誰もいませんよね」

「うん。見た所誰もいないし、時間的に来そうもないね」

「・・・・・・主からの命令です。スケベしましょう!」

 

空気をぶち壊す事を敢えて言ってみた。

 

空気を読んであえて空気をぶち壊してみる。

これが意外とクセになる。

あんまりしすぎると嫌われるから滅多にしないけれど。

 

ともかく、こういうお下劣なことで清楚先輩を一度いじってみたかった。

さて、どんな乙女な反応が返ってくるか。

 

「うん、わかりました。それがご命令なら」

「え?」

「うん?」

 

おや?

 

俺は何やらやってしまったらしい。

だが聞き間違いの可能性もある。

もう一度、もう一度だけ確認してみよう。

 

「ふはは。この直江大和の淫行の相手をしてもらおうか」

 

とびっきりゲスな顔をして言ってみる。

言っていることも下衆だ。

清楚先輩がドン引きした瞬間土下座して嘘ですと謝る準備も完璧である。

 

「はい。お相手させて頂きます」

「え?」

「うん?」

 

何やら戸惑う俺を尻目に制服を脱ぎ出す清楚先輩。

 

おかしいな。俺の推測だと顔を赤くして

 

『もう、こんな所で駄目だよ!』

 

なんて純情でウブな反応が帰ってくるものとばかり。

 

「あ、あの。従者とは名ばかりなので別に欠片でも嫌だと思ったら拒否して頂いても・・・・・・」

「嫌じゃないよ。大和君なら」

「おっふ」

 

シャツを全て脱ぎ、純白のブラジャーを晒す先輩。

雪のように白い肌と相まってその姿は失礼な例えかもしれないが雪女のようだった。

その姿はやわらかそうで、きっと暖かい筈なのに。

それに溺れたら帰って来れなくなれそうな。そんな魅惑的な魅力があった。

 

恥ずかしい事に俺の体は素直なもので、即座にそんな先輩に欲情する。

つまり、草薙の剣が今7割鞘を抜いた状態だ。

このまま相手をメッタ刺しにしてしまえと俺に命令してきている気すらする。

 

「ふふ、午後の授業ちょっと遅れちゃいそうだね」

 

そう言いながらの俺の足元に跪く先輩。

 

 

 

 

 

その日、俺と清楚先輩は午後の授業を全てサボり俺は梅先生に教育的指導を貰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがきです。

私のSSを読んで頂き誠にありがとうございます。
そろそろアイエス、あずみ、弁慶のいずれかのアフターを書かないとあらすじ詐欺になりそうですね。
まじ恋はどのヒロインも魅力的で書き始めれば楽しく書けて良いですね。
それでは。
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