真剣で私を愛しなさい!Aアフター   作:ららばい

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4話:何ということもない昼休み

場所は川神学園グラウンド。

時刻は正午十二時。

 

その場には人の気配が二つほどあった。

 

「葉桜先輩。アタシのお願いを聞いてくれてありがとうざいます」

 

気配の片方、乾一子は愛用する薙刀のレプリカを構え葉桜清楚に刃を向ける。

 

「構わぬ。元より俺は戦好きだ、大和の許可を得たのならば俺が決闘の挑戦を断る理由がない。

 あぁいや、これは決闘ではなく稽古だったか。どうにも締りが悪い建前だ」

「だって、そうじゃないと九鬼も大和も許してくれないんだもの」

 

緊張感はある。

互いに互いを視界に収め、武器を手に持っている。

だが各々の性格か、どこか締まりきらない。

 

「仕方あるまい。一度決闘を気安く受けてしまえば以後世界中から俺に挑むものが一斉に訪れる。

 無用ないざこざで俺や清楚の私生活に支障を出さないための九鬼や大和の采配だ」

 

九鬼に決闘を禁止された時は自分の存在価値を封じられたようで忌々しいものだったが

大和の場合は一切の拘束力を葉桜清楚に課していない。

単純に大和自身が葉桜清楚と一緒にいる時間を邪魔されたくないから頼んだ程度だ。

 

そのお願いが九鬼の課した拘束を上回る拘束力を持っているのが皮肉か。

ともかく項羽は私闘決闘を申し込まれた際はすぐには受けず一度大和に伝えていた。

 

「しかし意外ではないか。まさか久々の私闘の相手がお前とはな。

 大和は俺にもお前にもいい経験になるからと頷いたが、さて、その経験とは何であろうな」

「わかんないけど、でも大和がそういうのならきっと意味があるのよ!」

 

一子は以前から覇王に挑戦をしていた。

一度一子は覇王が目覚めた際に決闘をしていたが、結果は一子の惨敗。

全く勝負にすらならず、笑いながら倒される実力差だった。

故に一子は再び挑んだ。

 

あの日から以前以上に努力を繰り返した。

その努力から自信はついたし、実力もついた筈。

ただどれほど変わったのか、その実感はない。

 

それを知るためにダメ元で大和と覇王に自分の腕を見て欲しいと頼んだのだが、

以外にも大和は快く同意してくれた。

 

その真意は一子も覇王も知るところではない。

ただ、大和を信頼している二人にとって、意味があるというその言葉だけでその決闘に価値はあると見た。

 

「まぁ良い。まさかこの覇王に本気で勝てると思うほど身の程知らずでもないだろう。

 来い、俺はこの後日課のおつかいで焼きそばパンを買ってこなければならん。さっさと済ませるぞ」

 

未だ続く大和との従者契約を果たす為に項羽は少し時間に余裕は無かった。

 

舐めているわけではない。

ただ、覇王のその態度に真っ直ぐな一子は腹が立った。

 

「お言葉通りにいくわよ!」

 

一切の宣誓なく飛びかかる。

 

十分な跳躍だ。

二人の間に空いていた数メートルの距離を常人なら反応すらできない速度で詰め寄る。

同時に長い獲物を振りかぶり、上段から振り抜く。

 

「てやぁ!」

 

初撃は戦いにおいて重要なものだ。

これで序盤の流れを制する事になるといっても過言ではない。

ただ、それは前提として互いの実力差が近しい場合に限る。

 

「ほぅ、ちょっぴりだが以前よりも振りの速さと重さが増している

 ほんのちょっぴりだがな」

 

覇王は事もなげにその薙刀の刃の側面を片手の指で挟む。

 

「ぐ、想定内だけど・・・・・・ッ」

 

反撃に備える。

未だ構えない覇王。

だがその右手には強烈な存在感を持つ方天画戟が握られている。

 

武器の性質上至近距離となると使い回しが極端に困難になるが、相手は覇王。

柄で殴るだけでも圧倒的な威力となる。

それを警戒するが

 

「どうした、これではまだお前の成長など確かめられぬ。

 これはお前の稽古だろう? 次の動きをさっさとせぬか」

 

つまんだ刃を離す。

その際に一切の攻撃をしてこない。

 

「くぅ、本当に建前を守ってくれちゃって」

「建前とは言え約束だ。それを無視すると大和に怒られるからな」

 

その余裕綽々な態度、一子のボルテージを上げるには十分なものだ。

 

悔しげに眉を寄せる。

苛立ちに薙刀を持つ手の力を強める。

 

そのフラストレーションを足の力にこめる。

何をしても見切られている。

何をしても通じない。それを今の一回だけの差し合いで理解できた。

 

駄目ならば駄目なりに開き直った戦い方がある。

 

「ん、玉砕戦法か。俺は嫌いではないぞ」

 

大振りだ。

体重の全てを乗せ、武器の遠心力と重さをあらかた合わせた見え見えの攻撃。

相手が余裕を持ち、攻撃を全て受けきる性質ならばむしろこのような戦法の方が確実。

 

元より小賢しい策など考えつかない一子にとっては賢い立ち回りだった。

 

風を切る薙刀。

バットを振り抜いたかのような、大きく唸る音。

再び上段からくるソレを笑いながら見る覇王。

 

項羽は振り下ろされた刃の側面にコツンと、軽く拳を叩きつけた。

 

「おっと、中々の重さだ。

 少しだけだがお前の体重は以前より増したのではないか?」

「違うわよッ、体重じゃなくて筋力が上がったのよ!」

 

あっけなくその渾身の振り抜きは刃の横を叩かれてあらぬ方向へ向いた。

 

逸らされた一撃は誰もいない地面へと叩きつけられる。

なまじ体重全てを乗せていたため凄まじい手のしびれが一子を襲った。

声こそ上げないものの、顔を顰める。

 

「二発。お前の成長を確かめるにはまだ早計な段階だ。

 どれ、俺の方からも少しじゃれてやろうか」

「え、うひゃ!?」

 

間一髪、身体が勝手に反射して項羽の拳を躱す。

 

顔の真横でとんでもない鈍い風切り音を放つ拳が通りすぎる。

明らかに直撃していたらやばかった。

 

冷や汗を流しながらもこれはチャンスと見る。

空ぶった姿勢の項羽に対して反撃を試みる。

が、甘かった。

 

自分が躱して反撃をしようとアクションを取っている間に、

項羽は既に振り抜いた拳を戻し、こちらに手を伸ばしていた。

そのめちゃくちゃな速度差に唖然とする。

 

「ほら、捕まえたぞ」

「んぐぅ!」

 

胸ぐらを捕まえられ、吊るされる。

全ての体重が喉元に掛かり息がしづらい。

苦しさにむせる。

 

一子はせめて反撃をしようと未だ手放さない薙刀を振りおろす。

 

「いいぞいいぞ。俺は寛大だからな、減点方式ではなく加点方式だ。

 そしてこれは中々の悪あがき、点をやろう」

 

振りおろす速度よりも早く項羽は一子を地面に叩き落とす。

 

一瞬で世界が反転したため、受身すらできない。

思い切り背中を地面に叩きつけられた。

 

「げほっ、げほっ! ぐうぅ!」

 

これも明らかに手加減されていた。

項羽が本来の力で地面に叩きつければこんなものですまない。

それこそ全身の骨が砕けるほどのダメージになる。

 

その事実がより悔しさを味わせる。

 

「良いぞ。それで尚武器を離さない、その不屈さは評価に値する。

 花丸をくれてやろう」

 

ご機嫌な様子で一子の諦めの悪さを評価する項羽。

 

「む、ちょっと評価基準が甘すぎたか?

 百点満点なのに百三十点くらいになっちゃったぞ」

 

そのどこまでも舐めた態度に一子は切れた。

 

元より長々と戦うつもりなどない。

短期決戦以外で自分の勝つ方法などない。

 

既にペースも握られ、欠片もダメージを与えられていないこの現状。

一子は序盤のこの状況で最後の手段を取る。

 

「川神流―――――ッ」

 

痛む体にムチをうち、一気に体を跳ねさせる。

広背筋に力をいれ、体をしならせ薙刀を振りかぶる。

 

懲りもせずまたただの上段斬り、と項羽は看破するも川神流というフレーズに初めてここで警戒をした。

 

「――――顎!」

 

先ほどの一撃とはモーションが僅かに違うものの、それでもやはり上段斬り。

この決闘でまだ三度しか項羽に攻撃できていないが、それは一子にとって会心のひと振りと言えるほどに速い。

項羽はその技の真意に意識を向けつつ体を半身にして躱す。

 

既に油断慢心するその性根は大和によって矯正されている。

相手が本領を発揮している場合に適当な対処をする項羽ではなかった。

 

大きく空ぶる刃。

それを見送る項羽。

その無残に、無様にはずれた刃が地面に接する瞬間、進路を変えた。

 

「喰らいなさい!」

 

薙刀は下向きにある慣性を無理に変え、上向きになる。

つまり上段切りから振り上げ斬りへと変わった。

 

高速な切り返しをする技。

地味ではあるが、これほど不意をつきやすい技も少ない。

無論不自然なまでの進路変更を長物である薙刀で行うのだ、その体に対する負担は並ではない。

更に一度使えば相手は次からそれを警戒するだろう。

 

一度限りしか相手に通じない一子にとって信頼する奥の手。

 

だが、それが項羽に通じることはなかった。

 

「今の掛け声を聞くにこれは技か何かだったのか?」

 

絶句する一子。

 

当然だ、起死回生の奥義はたやすく叩き落とされた。

下からの振り上げによる追撃は文字通り項羽の足により潰されたのだ。

迫る刃にそのまま足をかけ、力づくで踏み潰された。

本物の刃だったのなら項羽もまた別の対処をしたのだろう。

そんな余裕すら感じられる対処だった。

 

「この程度ならば俺もできるぞ。どれ、受けてみろ」

「うあ!?」

 

踏み潰した刃を掴み取り、腕力に物を言わせ一子の薙刀を奪い取る。

同時に未だ一度も使用どころか構えてすらいない方天画戟を投げ捨てて薙刀を構えた。

 

「そらっ!」

「――――ッ!」

 

完全に一子の先ほどの動きをトレースした項羽。

その動きに動揺せざるを得ない。

 

武器を奪われ、その武器が自分に迫る中一子は必死に身をよじった

 

よじる前にあった自分のいた場所に耳障りなまでの轟音が響く。

薙刀が地を叩いた音などではない。

音の種類は風切り音。

それもバットなどで出せる音ではない。

台風のような聞くだけで粉砕するイメージを沸かせる類のものだ。

 

明らかに一子の振りよりも速い。

モーションは同じはずなのに、技の練度では比べるまでも無いはずなのに。

そんな言葉が頭をめぐる。

 

「ここで刃の向きを逸らし、体をこう動かすのだったな」

 

悠長に、事もなさげなことを言いながら項羽は空ぶった刃の向きと進行方向を一変させる。

 

元より初撃から容赦されていた。

ギリギリ回避できるように項羽が力を緩めていたのだ。

全力で薙刀を振っていたのなら恐らくその風圧で吹き飛ばされかねない。

それ程までに力の差がある事くらいは一子も理解していた。

 

理解はしていたのだ。

だが、だから諦める一子でもなかった。

 

「まだよッ!」

 

ほとんど倒れそうになっている姿勢を無理に矯正し、再び跳躍しようとする。

 

間に合うか。

恐らく間に合わない。

何せ振り降ろす一撃以上の速度で振り上げの一撃の方が何故か速いのだ。

多分力の比率を追い打ちの方に優先させたのだろう。

 

ともかく、無茶な姿勢で動いたため筋繊維が悲鳴をあげた。

 

迫る刃、それを見る目、回避しようとする体。

 

結果として刃が一子に当たることはなかった。

 

「・・・・・・どういうつもり?」

 

避けたのではない。

有り体に言えば全く回避行動は間に合っていなかった。

ただ、それでも刃は一子に届いていない。

 

つまり、寸前でその刃を項羽が止めたという事だ。

 

自身の足にほとんどくっついている薙刀を睨みながら一子は問い詰める。

しかし項羽はそんな一子の表情や問いかけに一切の怯みを持たなかった。

 

「どういうつもりもなかろうよ。

 これは稽古だ、稽古相手の足をへし折ってどうする」

 

そこで理解する一子。

そうだ、これは稽古だ。あくまでもそういう建前の上でのこの状況なのだ。

 

つまり自分が勝手にヒートアップして奥の手を出しただけで、項羽自体は極めて冷静にその約束事を厳守した。

 

「これにて稽古も終わり。さて、俺は時間もないから去るぞ。

 ああそうだ、これを返しておく」

「・・・・・・」

 

一子愛用の薙刀を投げ渡す。

それをおっかなびっくり受け取り、釈然としない顔をする。

 

だが項羽はどこ吹く顔で既にその目は一子に向けられていなかった。

 

「その武器はどうにも軽すぎる。

 もう少し重く、重厚かつ過激さがなくてはな。その点これは良い。

 呂布のものだったのが気に食わんが、覇王にふさわしい存在感ある武器だ」

 

一度捨てた方天画戟を拾い、その場を歩き去る項羽。

 

その背中を悔しさと敗北感の混ざった目で見送る一子。

 

「あの・・・・・・稽古ありがとうございました!」

 

ただ、それでも稽古をつけて貰ったことを感謝する。

そう言った分別と純粋さを一子は持っていた。

 

項羽は意外なその態度に少し驚いた顔をして振り向くが、

真っ直ぐな目で悔しさに耐え、礼節を守る立ち振る舞いに薄く微笑んだ。

 

「うむ。気が向いたらまた稽古をしてやろう」

 

軽く手を振り、今度こそ項羽はその場を後にした。

 

そして間もなく、学校中から今の稽古を見た人間の歓声が響き上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナイスファイトだぜワン子。葉桜先輩を相手にとってまぁまぁ粘ったんじゃねぇの」

「やめてよキャップ、誰が見ても手加減してたの丸分かりだったじゃない」

「いや、それでも健闘していたと自分も思うぞ。

 少なくとも葉桜先輩が目覚めたあの時よりは健闘できていた」

 

クリスやキャップがワン子を囲んで先ほどの覇王様との稽古の感想を語り合っている。

 

さっきまではクラス中の奴らに囲まれてもみくちゃにされていたため、ようやく落ち着いたところか。

 

「見ろよ大和。あそこに技パクられた奴がいるぜー!」

「おいこらガクトやめんか」

「チクショー! 健闘するなら清楚先輩の鉄壁スカートめくれるくらいまで戦ってほしかったー!」

 

こうやって馬鹿な事を言っている奴らも、ワン子が落ち込まないようにいじっているのだろう。

多分。違うと思うけど。

 

ともかく、誰もがワン子に勝ち目はないと思ってはいたが、想像より楽しめる寸劇ではあった。

稽古時間自体は僅か三分程度、攻撃した回数など四回くらいしかない。

だというのになぜだろうか、楽しめた。

 

「大和、このガクトって奴に八つ当たりしていいかしら?」

「死なない程度にな、五体不満足にしてやれ」

「テメェこら俺様をなめんなよ! 鍛え上げた筋肉を持つ、この呆れたタフガイに向かってよ!」

 

席を立ち上がってつかみ合いを始める二人。

うん、後に引きずらなかったようで良かった。

 

「おいこら噛むんじゃねぇ! 狂犬病かお前!」

「いたたたた! 後ろ髪掴むなー!」

 

引きずらないにしてももう少し大人しくなってくれると飼い主としては嬉しいのだけれど。

さて、皆に囲まれていた時のワン子の表情を見た感じ、

取り敢えずワン子の方は問題なく俺の思惑通りになったようだ。

じゃあ次は―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・何の用だ、昼休みはもう終わったぞ」

 

屋上で覇王様は一人拗ねていた。

ベンチに体操座りしてブスっとしている。

拗ねてる。間違いないぞこれ。

 

「隣、座っていいですか?」

「いくない、あっち行け」

 

こんな癇癪起こした覇王様も中々良いな。

弄りがいがある。

 

「覇王様、お弁当持ってきました」

「俺は焼きそばパン買い逃した。だからいらん」

 

それは仕方あるまい。

ワン子と稽古している間に完売したのだろう、無いものを買うことはできない。

落ち込んでいる原因の一つがソレか。

 

「準備のいい俺はこんなものも用意してるんだなこれが」

 

そう言って俺は手提げから手作りサンドイッチを詰め込んだタッパーを取り出す。

 

「自分の分はちゃんとあります。

 で、このお弁当は今日ワン子にきちんと稽古を付けてくれた身内からのお礼ですよ」

「・・・・・・最初から買い逃すことわかってたなお前」

「なんのことやら」

 

一応二人の稽古は数日前から決まったことだ。

覇王様が誰かと手合わせするには九鬼からの制限を通す必要がある。

だから俺はワン子や覇王様のために色々と手を回して稽古という形で了承してもらった。

そして実際に覇王様は実に稽古らしい立ち回りを成し遂げてくれた。

正直ここまで俺の言う事を聞いてくれたのは嬉しいものだ。

 

それこそご褒美の一つや二つあげたくなる。

 

「ともかく受け取ってください」

 

半ば押し付けるように渡す。

多分覇王様は俺の弁当を完全に楽しみにしている為、それ以外のものを昼に食べないだろう。

つまり今昼食抜きの状態のはず。

 

「授業はどうする、もう時間はないぞ」

「サボります」

 

次の授業は梅先生だけど、まぁそれは今は忘れる。

後で反省文でも教育的指導でも何でも来いだ。

そんなものより優先するべきは目の前の覇王様なので。

 

「いりませんか?」

「・・・・・・いる」

 

俺の手から弁当を入れた巾着をひったくる。

その不器用な態度も相変わらずで微笑ましいものだ。

 

「と、これも今渡しておきます」

 

ついでに手提げからノートを一冊取り出す。

会うたびに交換している日記だ。

 

覇王様はそれも奪うようにしてひったくった。

 

「んはっ。俺を待たせた罰だ、今ここで読んでやる!」

「どうぞ」

「え」

 

きょとんとする覇王様。

別に俺にとって恥ずかしいことは一切書いていない。

何せ俺は覇王様に常に本心をさらけ出しているのだ、今更交換日記を読まれたところで。

 

「い、良いのか!? 恥ずかしいんだぞ! 凄くうわーんってなるんだぞ!」

 

それは覇王様がピュアすぎるからだと思うのだが。

こう、ずる賢いことや打算ばかり考えている厚かましい俺にとっては特にそうでもない。

 

ともかく、覇王様は俺が余裕なのが不服らしい。

恐る恐るノートを開けた。

 

「覇王様が日に日に聡明になっている気がする。

 俺が何かを指示しなくとも自身の判断で俺にとっての最善の行動をしてくれることが多くなった。

 流石覇王様だと俺も鼻が高い。自慢の主だと胸を張って言える。

 最高の彼女だと誰にでも自慢できる。

 ただ、果たして未来の俺は覇王様にとってまだ必要な存在でいられているのだろうか。

 覇王様は日々前に進んでいる。俺も精進しなければ・・・・・・」

 

ポツリポツリと、俺の書いた内容を読み上げられた。

 

少しネガティブな内容にはなっているが、結局の所覇王様自慢だ。

実際に覇王様は日に日に本当に賢くなっている。

勿論どこか無謀というか、純粋故の考えなしな所はあるけれど、

それでも愚かと評される行動はもう殆どしない。

 

だから最後らへんは少し情けない事を書いているが、この日記の真意はやはり覇王様を賞賛する事にあった。

 

だが、それが覇王様にはわからなかったようで。

 

「馬鹿者、お前は生涯俺の隣にいる約束であろうが。

 俺が成長するのが当然なように、大和が俺の隣にいることもやはり当然。

 くだらない上に有り得ない心配などするな」

 

慰められた。

何というか、棚からぼた餅か?

 

「覇王様、ありがたいお言葉です」

 

そう言って横に座る。

ちらりと横目で顔色を伺えば、先程の拗ねた表情はなく

むしろ俺の気持ちを理解して気をよくしている覇王様。

 

ちょろすぎる。

 

「それじゃあ食事しましょうか」

「ああ、軽い運動もしたあとだ。空腹の塩梅は中々だな」

 

既に先程までしぶってた感情は消し飛んだらしい。

笑顔でにこにこと俺の弁当を開けて箸を持つ。

 

「鮭のほぐし飯か。毎回毎回何だかんだと言いながらもお前は俺の好みのものばかり入れるのだな」

「気持ちは好き嫌いの激しい子供を持ったオカンですよ」

「む、俺は別に好き嫌いなどしていない。お前が勝手に俺の好みのものばかり入れているだけだろう」

 

プライドに触れたのかちょっとカチンと来たらしい。

 

「あ、このエビチリ俺がもらいます」

「こらぁ! それは俺が最後まで残しておくつもりの物だったのだぞ!」

 

涙目で怒られた。

食べ物の恨みは恐ろしいと聞くが、覇王様も結構そういう所にはうるさそうだ。

俺は仕方なく箸を止めてエビチリを取らないでおく。

 

「仕方ないなぁ。あ、これ一個あげます」

 

サンドイッチを入れたタッパーの中にある桃ひと切れを爪楊枝で突き刺し、

覇王様の弁当の蓋の上に置く。

ちょっと俺のデザート代わりに持ってきたのだが、サンドイッチの量が少し多い。

残してしまいそうなので覇王様に美味しく頂いてもらいたい。

 

「覇王に献上とは良い心がけだ。頂いておこう」

「その上から目線ハラ立つわ。やっぱ返して」

「じょ、冗談だ! 感謝するから取り返すな!」

 

弁当の中身の奪い合いが激しい昼食となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ大和。結局川神一子との稽古で俺やアイツの得るものって何だったのだ」

 

食事も終わり、午後の授業の開始を告げるチャイムが鳴り響いた頃

覇王様は俺の膝を枕に寝ながら聞いてきた。

 

俺はまったりと清楚先輩に勧められた小説から目を離し覇王様に目を向ける。

 

「稽古としては俺と川神一子の実力はかけ離れすぎて互いに身にならぬ。

 アレで何かを得れたとは思えんぞ」

 

ふむ。どうやら覇王様は俺の意図が掴めなかったらしい。

元より覇王様は人の感情の機微に疎い人だ、当然それは相手が何を考えているのかも察するのが苦手でもある。

 

「ではそれに答える前に一つ確認を。

 ワン子は以前覇王様と戦った時より強くなってました?」

「・・・・・・いや、お前の仲間だから本人に言うのをやめていたが

 はっきり言えば努力の割に進歩はそれほどでもなかった」

 

だろうな。

ワン子は川神の至るところでハードなトレーニングをしている所を目撃されている。

覇王様も登校中や、俺と歩いているときなどにしょっちゅうその姿を見かけている。

 

「アイツの努力は見事だ。よくやっていると評価もしている。

 だが哀れなことにそれが相応には身になっていない」

 

トレーニングの仕方が悪い訳でもない。ましてやトレーニングの量が少ないわけでもない。

ただ一言で著すのなら

 

「才能がない。覇王様はそう言いたいのかな?」

「・・・・・・言葉を選ばなければな」

 

俺の身内を侮辱するつもりなど毛頭ないのだろう。

覇王様は慎重に言葉を選び続けてはっきり言えていない。

だから俺が代弁したのだが、それでもひどく申し訳ない様子。

 

「それはワン子も薄々感づいている事だからね。

 だから俺はワン子には色々な人と模擬戦でも決闘でも何でもして自分の限界を知る機会を増やしてほしいんだ」

 

恐らく川神院でもワン子は何度かそれらしき事を言われているだろう。

それこそ武の道以外の何かを目指すように。

けれどワン子はそれでもその道を諦めない。

 

それが良い事なのか悪い事なのかは他者が決めることではない。

口出しも俺はしない。ワン子の人生や将来像はワン子が決めるものだ。

 

ただ、それでもワン子には大人になった時に後悔だけはしてほしくない。

 

「自分の限界を何度も突きつけられて、それでも武の道を進み続けるのなら俺はそれを応援する。

 だけど、限界を知らずに闇雲に険しい道を選ぶのは悲劇なだけだ。

 そういう訳で俺はワン子には自身の成長を定期的に理解してもらいたいんです」

 

人生に口出しはしない。

けれど俺とワン子は他人ではない。

人生に口出しはしないけれど人生のターニングポイントは用意してやる。

 

自分の限界をそれとなく理解させ、一旦立ち止まり、これから歩む道を把握できるようにはしてやれる。

その先にある道を尚進むか、道を変えるか。あとは全てワン子次第。

おせっかい、いらないお世話かもしれない。

 

だが、それでもやはり俺にとってワン子は大切だった。

 

「過保護だな」

「小さい頃からずっと傍にいた奴ですからね。

 俺にとって打算抜きに滅茶苦茶大切な人間ですよ」

 

あいつの為なら損得などかなぐり捨てれるし、体はおろか命だって張れる。

風間ファミリーは互いにそういう関係だ。

だから排他的という影もある。

 

だが、少なくとも俺にとってその場所は何よりも信頼できる場所だった。

 

「勿論俺は覇王様の為なら死ねますよ」

「そんなのは当然だ。主の為に部下が命を賭けれずして何が主従か」

 

これは存外に手厳しい。

 

「そして俺は覇王。その忠義を尽くすお前を命をかけて守る。

 どうだっ、史実の俺と違い凄まじい名君だろう!」

 

最後の言葉で台無しである。

 

だが、いい傾向だ。

このご時勢、この日本で命をかけるという言葉は正直な所軽い。

しかし覇王様は間違いなく本気で言っている。

 

だとするのなら本当に命を俺のためにかける必要があれば、惜しむことなく賭けるだろう。

 

「はいはい。確かに覇王様はとても成長なされました。

 これ、ご褒美にあげますよ」

「ご褒美とは言うがいつもの杏仁豆腐ではないか」

 

そうは言うけれど、これ結構入手が困難なんだぞ。

学校終わって速攻買いに行って残っているのかがどうかあやしい貴重な品。

とは言え確かに毎回毎回同じものだと流石に飽きが来るか。

 

明日からはまた別のものを買おうかな。

和菓子とか好きなのだろうか。

 

「んん~。やはり締めは杏仁豆腐に限る」

 

いらぬ考えだったようだ。

飽きるどころか幸せそうに舌鼓を打っていた。

 

さて、流石は覇王様。

結局自分にとっての得るものはなんだったのか。

それを聞く前に話から脱線した。

別に俺の方からそれを語る必要はないから、俺も触れない。

 

「覇王様ってさ、努力しても報われない人をどう思います?」

「ん? そうだな・・・・・・」

 

スプーンに杏仁豆腐を乗せ、口に運ぶ瞬間それを聞く。

覇王様はその問いに真剣に答えてくれるらしく、僅かに顔を引き締めた。

 

「負け犬。以前までの俺であればそう答えていただろうな」

 

まぁそんな所だろう。

目覚めたばかりの頃の覇王様ならばそう言ってもおかしくはない。

 

「だが、今はどうであろうな。

 正直はっきり答えられん」

 

敗北を重ね、また、敗北の悔しさを理解した覇王様は弱者にも恩情をかけれるようになった。

なればこそ、それは確実にどこかで考え方が変わったということだ。

 

「そうですか。うん、それで良いと思います」

 

別にあらゆる問いに明確な答えが必要という訳でもない。

人と人との会話はテスト用紙のように確かな答えなどいらない。

単純にその考えを抽象的にでも伝わればそれでいい。

 

確かに、ワン子との稽古で覇王様は何かを得ているようだ。

覇王様は今回ワン子に敗北という屈辱を与えた。

こうやって少しずつ人に敗北を、辛酸を舐めさせて行く。

覇王様の目指す道はそういう物だ。

 

だが人に辛酸を舐めさせるという事は、舐めさせられた人間の道を少なからず塞ぐことになる。

それこそ覇王様に負けたせいで、その僅かに塞がれた道に進む事を諦める人間も現れるだろう。

 

俺は覇王様にそういう人間を侮辱して欲しくはない。

 

「まぁ俺は負けんがな。何せ覇王だ、強いんだぞ。だから負けないんだぞ」

「小学生レベルの根拠ですね。不安しかないや」

「ぐ、我ながら今のは説得力がないと思った」

 

まぁゆっくりでいい。

負けた人間に同情する必要はない。ましてやリスペクトする必要もない。

けれど侮辱していい訳でもない。

 

それを言葉で教えてもその言葉に重さはない。

だからゆっくりと教えていこう。

 

「その目。また俺との将来の事を考えているな」

 

鋭いな。

 

「俺とお前の仲だ、いい加減目で考えていることもわかるようになってきた」

 

杏仁豆腐も食べ終わり満腹になったらしい。

軽く背伸びして覇王様は再び俺の膝に頭をおいた。

 

「あの、俺まだ食べてる最中なんですけど」

「知らん」

 

なんという王様発言。

 

ともあれ別に足が使えなくてもサンドイッチを食べるのに困ることはない訳で。

されるがままになる。

 

「俺の人生はお前に良い様に誘導されている気がするな。

 何せ俺自身、こんな自分になるなど思っても見ていなかった」

 

ポツポツと語り始めた。

俺は特にその言葉に相槌も言葉を挟む事もせず、黙って食事を続ける。

 

「でも今の俺は間違いなく良い方に向かっている。

 何せ漠然とした目標はあるのに、その将来の不安が一切ないからな」

 

それは頼られているという事だろうか。

悪い気はしないが。

少しプレッシャーを感じなくもない。

もっとも、そのプレッシャーは自分を奮い立たせる類のものだけれど。

 

「なぁ大和」

「なんでしょうか、覇王様」

 

覇王様は俺の膝に頭を置いたまま、俺を仰ぎ見る。

俺も視線を下げて覇王様と目を合わせた。

 

「信頼してるぞ」

「勿体無いお言葉です」

 

俺の人生は覇王様の期待に応え続ける人生になるのだろう。

 

頑張っていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがきです。

戦闘描写、自分にはまだ難しいですね。
精進します。
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