ご主人と最後に会ったのはもう数日前になる。
「お出かけするからいい子にしていてね」と、自動的にドライフードがでてくる機能のある容器に入れられるだけ可能な限りの量を補充して万全の用意をしてくるようだ。
ご主人はCCG捜査官なるモノをやっているそうで、数日間帰ってこれなくなることが往々にしてあるのである。
わたしは、「みゃあ~う」と自分の一番良い顔をご主人に向けて返事をした。
だが、帰ってこない。
帰ってこない。
寂しいので爪とぎに思いっきり爪を立てみてから用意されている自分のベッドで寝た。
全然、帰ってこない。
寂しいので、爪とぎで気分が晴れるまで爪を研いだ後とりあえず寝た。
でも、帰ってこない。
寂しいので、力任せに爪とぎでめちゃくちゃ爪を研いでから、ご主人のベッドに潜り込んでご主人の匂いを胸いっぱいに吸い込んで寝た。
やっぱり帰ってこない。
寂しいので、胸に湧き上がる鬱屈の全てを爪とぎにぶつけ!、何となくご主人の枕の上で丸くなった。
…………帰ってこない………。
そろそろご主人が用意してくれた、食事も水もトイレも限界が近づいているような気がする。
空調は動いてくれているから、寒くてどうしようもないということは今のところ大丈夫だが………………寂しい。
そんな日々をわたしは過ごしていたときベランダ側の窓ガラスに異変が起きた。
今まで見たことない光景がそこに生まれた。
窓ガラスの一部に硬い音と共に蜘蛛の巣が広がったのである。
もちろん、ガラスの破片は我が家の窓は防犯用なので、飛び散ることはなかったが何か変なうねうねしたモノが穴をあけて覗いている気がする。
どこかで嗅いだ気がする匂いがした。
以前、ご主人と一緒に来たことのある???ニンゲン????
未確認物体がちょうどニンゲンの腕が通るほどの穴をあけると、そこからガチャガチャと鍵を開けようとする腕が差し込まれてきた。
何かアヤシイので、わたしは強く警戒の唸り声を上げてその腕にこの数日間に磨ぎに研ぎあげた爪を力の限り一閃させた。
わたしの爪は自慢ではないが、かなり鋭いのである、ご主人の枕や布団に八つ当たりをしたら中のモノがイロイロと散乱して怒られたことがあるぐらいに切れ味抜群なのである。
ニンゲンの身体など、簡単に傷だらけにできるはずなのであるが、何故か爪がその腕の皮膚を裂くことができなかった。
わたしの攻撃を意に介さず、件の腕は窓の鍵をあけて見覚えのある気がする男が入ってきた。
男はわたしの精一杯の抵抗と攻撃をいとも簡単に押さえ込んで胸に抱きかかえた。
「マリスステラ迎えにきた。アキラに会いに行こう」と彼は小さくささやいた。