年に一度ヴィンセントとの約束を果たすために孫のラニとハウオリを連れてやってきたナナキ。
突如謎の光の球体が現れ一人の少年へと変えていった。
突然の出来事にただ驚いていた少年だったが自分以外にも気配を感じた方に振り向いた。
そこには右目に傷があるものとまだ若いとされるものと彼らの背後に隠れる幼獣の三頭の護星獣。
少年は彼らを、正確には彼らの一族のものの一頭を知っている。
「……誰……?」
その言葉を聴いてナナキはハッとした。
「えっ?!モンスターっ!!」
少年は赤ん坊を守るように抱き直し、ナナキ達の方に抱えてない方の手で腰に差した短剣を抜いて彼らの方に向ける。
吃驚したナナキ達はラニが前に出て目の前の少年に誤解を解こうとする。
「待ってくれ、俺たちはモンスターじゃないんだ」
「喋った!?……ということは護聖獣!?」
しゃがんだ事でナナキは初めて彼の腕にあるものが何かが分かった。
スヤスヤと眠っている赤子。
見ているだけで穏やかになる。
しかし、ナナキは何故かその赤子に懐かしさを感じた。
「ん……セトさん?」
少年は首を傾げた。
どうやら彼は自分を父と間違えているとナナキには分かっていた。
「ちょっと待ってくれっ!それっ、
ナナキをセトと間違えている少年に目の前の状況を追い付いてないラニは思わず訂正させた。
「ひいじいちゃんっ!?……ナナキ!?」
ラニの言葉に少年は頭が冷静になってナナキをよく見てみた。
「君は……セトさん……じゃないのかい……?」
「セトは父さんの名前だよ。おいらは息子のナナキ」
少年の質問に答えたナナキとの静かな間が流れた後絶叫が当たり一面に木霊した。
「ええぇ~~~~~~~っ!!あのナナキ君っ!?」
とても現在の状況に思考が追いつかない少年。
何故なら彼が知っているナナキとは年齢の計算が合わないのだ。
護星獣は遅老長寿であり、人間で言う一つ年を取るには三年分必要だと言われている。
ナナキが彼と会ったのは6歳の頃である。
その頃のナナキは人間に例えると2歳にあたる。
当然彼の事は知らない。
しかし彼がナナキと会ったのは二十年前の事であるので、彼の中ではナナキの今の年齢は26歳。人間で言えばまだ8,9歳でなければおかしいのである。
だから目の前の成獣がナナキだと言われても、しかもそのナナキが
「わあぁーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
彼が大声を出したせいで、赤子が起きてしまった。
「!!?よしよし、ごめんね、ごめんねっ!!」
立ち上がった急いで赤子をあやす少年。笑顔で話しかけたり、全然得意ではない歌を歌ったりしているが全く効果がなし。
そもそも彼自身子供がいるどころか未婚の身であるうえ、仕事の関係で子供と接する機会が全く言っていいほどないのであった。
もはやお手上げ状態。八方塞とはこの事だ。
そんな時、ナナキの後ろに隠れて様子を見ていたハウオリがトコトコと出てきて彼の前までやってきた。
「……おうた……歌ってあげるね。」
深呼吸したハウオリが歌を歌い始めた。
祖母であるディネから教わった歌である。
彼にとっては初めて聞く歌。
だけどとても心地がよい。
あたり一面の空気が澄んでいくような感覚だ。
歌が歌い終わるといつの間にか赤子は眠ってしまった。
「ありがとう。おかげで助かった」
優しい眼差しで頭を撫でた。ハウオリの方も頭をクシャクシャにされても嫌な気分じゃない。むしろ喜んでいる。
次に顎下を撫でてあげると今度自分から擦り寄ってきた。
そんな光景を見ていたナナキとラニは驚いた。
「あの人見知りが激しいハウオリが初対面の人間に懐くなんて……」
「……おいらも始めて見た……人間に体に触れられるだけでも嫌がるのに……」
ナナキとラニなんかお構いなしにハウオリはすっかり少年に心を開いていた。
「ハーはね、ハウオリってゆうの。後ろにいるのがハーのおじいちゃんとお兄ちゃん。お兄ちゃんの名前はラニってゆうの」
「君がハウオリちゃんでナナキ君とラニ君か」
それぞれを一頭一頭名前を確認するようにじっくりと見渡して口を開いた。
「ハウオリちゃんが自己紹介してくれたから僕も自己紹介させてもらうよ。僕はシェーン・アンライバルド。神羅製作所、あっ……今はこのネーミングじゃなった。神羅電気動力株式会社通称神羅カンパニーの総務部調査課に所属している者だよ」
(神羅カンパニーの総務部調査課!?タークスじゃないか!?)
ナナキとラニが目の前の少年―――シェーンの言葉に愕然とした。
ナナキは神羅カンパニーの総務部調査課を知っている。別名タークスと呼ばれた特殊部隊で情報収集や護衛などの表の仕事から暗殺やスパイなどの裏の仕事を請け負っている。また、神羅カンパニーの暗部を担当するためタークスは死ぬこと以外では辞める事は出来ない。シェーンが着ている黒のスーツはその証であるため、彼が嘘を言っている様子ではない事が分かる。
余談であるがナナキはタークスにはあまりいい思い出を持っていない。だけど嘗て共に戦ったジェノバ戦役の英雄にはタークスだった者がいたのは事実。
一方ラニの方は別の言葉に衝撃を受けた。
「神羅カンパニーっ!?総務部調査課と言うものは何のことが分からないけど神羅カンパニーという会社はとっくの昔になくなっているよ」
「えっ!?それってどうゆう事なのラニ君……」
訊ねようとしたシェーンはハッと先ほどの光景を思い出して、崖の先の絶景を改めて見た。
深い緑に追われたミッドガル。
さらに詳しく見ようとジャケットのポケットからコンパクト双眼鏡を取り出して覗いた。
建物は所々朽ちており、あちらこちら木々や蔓が生い茂っている。そのうえモンスター達が我が物顔で歩き回っている。
シェーンは双眼鏡を外すと唖然としたのが誰の目を見ても分かる。
シェーンの知っているミッドガルは建設されて最低でも十年は立っているがまだ新しいと言える都市である。なのに今、目の前に見えているミッドガルは完全に遺跡化している。自分の記憶と真逆の現実に惚けてしまう。
「シェーンさん、シェーンさん」
重い空気に耐えられなくなったハウオリが声をかける。
「赤ちゃんの名前なんてゆうの?」
「そうだよっ!おれも赤ちゃんの名前がずっと気になっていたんだぁ」
ハウオリの話に合わせるようにラニも近寄ってきて話しかけた。
「……名前かぁ……」
自らの腕の中で穏やかに眠る赤子を見た。
(そういやぁ……名前を付けて貰ってないんだったなぁ……)
当然この子には名前がない。ないと赤子も自分達も不便。
どうしようと考え込んだ時にふとシェーンはある事を思い出した。今は亡き父ジョーダンとの会話である。
その会話の内容で彼は解決策を見出した。
「……ジェルミナル……」
「「えっ!?」」
「この子の名前はジェルミナル。ジェルミナルだ」
ラニとハウオリの見事なハモリにシェーン微笑んで答えた。
「何でジェルミナルって言う名前なんだ」
「ジェルミナルというのはね僕の父さんと母さんが考えた名前なんだ。僕が生まれる前の話なんだけど男の子だったらシェーン、女の子だったらジェルミナルという名前にするんだって決めていたんだって。僕が男だったからシェーンという名前にしたんだ。だけど子供は僕しか恵まれなかったから女の子用のジェルミナルをお蔵入りしてしまったんだ。この子には名前がなかったんだから両親が女の子用に取っていたジェルミナルをこの子にあげたんだよ。」
「シェーンが今付けた?」
「仕方がないよ。この子の親が名前を与える前だったんだから。僕にとっては『ジェルミナル』は僕の親が残した名前だから……この子にあげてもいいかなぁって」
ラニとハウオリは顔を合わせて納得した。二頭は年は離れているが仲は良好の兄妹。ラニは時々帰ってきては必ずと言っていいほどハウオリの遊び相手になっている。
「さてその赤子の名前も分かったことだし、ジェルミナルのために町に移動しようか」
彼らの会話が終わったのを見計らってナナキは声を掛けた。
もはや今のナナキにとってはヴィンセントに会う事よりもシェーンとジェルミナルの二人が最優先となっていた。
「どうしてだい?」
ナナキの言葉に疑問符を浮かべる。ハァとため息を出して全く気が付かないシェーンに何で町に行くと言ったか説明してやった。
「ミルクとおしめはどうするつもりなんだ……」
「!?しまった!!」
シェーンは重大事項に今気がついた。手元にはオムツやミルクなんて持っていない。着の身着のままこの世界にやってきたんだからそんな物は持って来ていない。
ハウオリのおかげで眠ってはいるけれども、もし今度泣き出した理由がはオムツやミルクの催促だったらどうする事も出来ない。
町に行ってこれらの物を手に入れなければならないのだ。
「連れて行ってくれないか?」
「おいらの背中に乗って」
ナナキはシェーンを乗せるために伏せてた。
「……乗っても大丈夫?」
「おいおいシェーン。
ラニの言葉を聴いてシェーンは突然体を震えだした。降りるのは怖いのかなと思ったがそうではない。
彼の体から怒りが満ちてきているのが分かった。
ラニは自分が地雷を踏んだ事には気が付いた。しかしそれが何かは分からない。
「ふざけんなっ!!僕は26歳だっっ!!」
「「「えーーー!!」」」
ラニだけでなくナナキもハウオリも驚いた。
「身長も低いし、顔も童顔だって事は自分でも認めているよっ!!だけど正真正銘26。とっくに成人を迎えている身さっ!!」
目を尖らせて自分は少年じゃないと言い放ったシェーン。彼は自分の見た目が幼いのでよく未成年と間違えられる事が嫌で嫌で仕方がないのである。そのため未成年扱いは彼の前では禁句であった。
「シェーンっ!悪かった悪かったって。もう二度と言わないっ!!」
鬼のような形相で睨み付けるシェーンは今にも掴み掛かりそうな雰囲気を醸し出しているので、ラニは慌てて誤った。その後、無言のまま踵を返した時のシェーンの背中が先ほどの精神的ダメージの大きさが分かるほど重い空気が漂っていた。
見てるだけで耐えられなかったラニは「本当にゴメン……」と言って心の底から反省した。
ナナキの背中に跨って乗ると「これでいいかい」と訊ねた。
首を回して確認すると縦に振った。
「シェーン。しっかりとおいらに捕まっていてね」
「分かった。でもジェルミナルが寝てるから安全運転で頼むよ」
会話を交わしてすぐに崖を降りて行き、ラニとハウオリもナナキに続きその場を後にした。
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シェーンのプロフィールはもう少し話が進んだら公開します。