デジモンストーリー オールドフレンド 作:Tomato.nit
雄二とパートナーのベタモン二人の再開を描くお話です。
小説など書くのは初めてになるので、拙い文章だとは思いますが温かく見守ってあげて下さい。
蝉の元気も最高潮。8月の頭。
うだるような暑い夏の日。
僕たちの冒険はその日また始まった。
第一話 再会
「暑い。こんだけ暑いと部屋の掃除する気も起きないよ。」
グダグダ言っても部屋が片付かないのは理解している。それでも暑いものは仕方がない。
僕、平山雄二は大学の夏休みを利用して、茨城の実家に帰省していた。前期のテストが終わるまでの4か月間初めての一人暮らしを満喫していたが、久々に帰った実家ではなかなか悲惨な自室が待っていた。
実家を出るときにある程度の私物を段ボールに詰めて部屋に置いておいた。必要なものができたら、取りに来るなり、送ってもらうなりするつもりだったんだけど、その魂胆はどうやら裏目に出たようだ。部屋を開けて最初に目に飛び込んできたのは、記憶の3倍くらいはある大量の段ボール箱と、とっ散らかった部屋の中だ。部屋の主がいないのを良いことに、弟が宝探しに興じて散らかし、親が物置代わりに使ったらしい。
今日の寝床はここのはず。長い戦いの始まりだった。
転がっていたガラクタを半分くらい片付け、ようやく一息ついたので、スマホで時間を確認する。かれこれ3時間。汗だくのまま作業を続け、このままじゃ家の中で熱中症にでもなるんじゃないかと思い、水分補給がてら居間に戻る。
テーブルの上の書置きには「晩御飯のおかず捕りに山に入ってきます。今夜は牡丹鍋。」と書いてある。
イノシシを捕獲出来るわけなんかないから、どうやら豚肉ですき焼きでもする様子だ。よくわからない書置きに苦笑しつつ、風呂場に向かう。
目的はもちろんシャワーだ。冷たい水でも浴びて熱い体を冷やしたい。そうでもしないと続ける気力は湧いてきそうにないし。
シャワーのコックを回し、頭から浴びる。冷水をいきなりぶっかけるのは心臓に良くないらしいけど気にするほど冷たくもない。外の高温は水道管の中の水を温めるのにも十分みたいだ。
風呂場の姿見に映る姿は記憶にあるものとそう大差はない。髪が少し伸びて、腕だけ気持ちガッシリしたかな。毎日のようにバイトで中華鍋を振っているお陰だろう。身長は残念ながら伸びた気配がない。最後に計ったときはちょうど170cmだったかな。今もそんなに変わってないだろう。
鏡の前で案外時間が経っていたみたいで、火照った体もいい感じに冷えていた。
空を見れば太陽はまだまだ天高く燦燦と輝いている。雲一つない青空が広がっていて気分も自然と晴れていく。さあ、もうひと頑張り。
部屋に戻ってからはペースアップすることに。この調子なら日が傾くまでには片付けられそうだ。なんて考えて、段ボールを一つ山の上に積み上げた矢先、視界の隅に奇妙な明滅が写った。
「何だろう」
ベッドの脇から光が漏れてうっすら壁を照らしている。
部屋にあるものだし危ないものじゃないだろう。引っ張り出してみた。
『デジヴァイス』昔流行ったおもちゃだ。
どうせ弟が引っ張り出して遊んだんだと思う。手にとってみるとたまらなく懐かしい気持ちが沸き上がってきて指は無意識にボタンを操作している。画面にはチョコチョコ動くドット絵のデジモンが。
「これは、ベタモン?久しぶりに育ててみるか。」
忘れていた思い出が蘇る。記憶が込み上げてくる。一日中世話したいからって学校に持って行って、先生に見つかって大目玉食らったっけ。
初めてできた完全体はメガドラモン。あの時は嬉しかったな。友達に自慢したり、対戦したり。あんなに夢中だったことも時間が経てば忘れてしまうものなんだと思うと悲しい。何より十年以上忘れ去られていたコイツはどんな気持ちなんだろうか。感情があればの話ではあるけど。
しばらく眺めていると画面のデジモンに変化が訪れた。肉のアイコンが表示される。
「お腹減ったのか。はいはい今からお肉あげますよ~。」
なんだかんだで育成ゲームってやっぱり楽しい。
でも、最近のゲームに慣れてきたからなんだろうけど物足りなさは拭えない。ベッドにデジヴァイスを放り投げて床に寝転ぶ。
ベッドはいまだに半分くらいガラクタの山だ。
「やっぱり、物足りない?」
「まぁ、多少はね。・・・・うん?」
思わず返事しちゃったけど、なんだ今の。母さんたちはちょう夕飯の買い出しに出かけているし。暑さで疲れてんのか。
「そうだよねー。もう遊んでくれない?」
やっぱり僕疲れてんのかな。流石に日ごろ積極的に運動している訳でもないし体力が落ちてるな。あれ、今、もう遊んでくれない?って。
モウアソンデクレナイ?
まさかな。何かの冗談だと思いながらも確かめずにはいられない。
ベッドに放り投げたデジヴァイスは激しく明滅している。何かを僕に伝えるかのように。
「聞こえてるよね?ユウジ?おーい。ユーウージーーーーー」初めて聞く声なのにどこか懐かしい気がする声が僕の名前を呼んでいる。明らかにデジヴァイスから声がする。
「ドッキリだよな? 」誰に問いかけるでもない自分を納得させるだけの問なのに。
「あれ、信じてない」やはり声が返してくる。
「そりゃそうでしょ。てか誰」
そして思いもよらない答えが返ってきた。
「ボクのこと分かんない?メグだよ。メグ」
頭が一瞬空っぽになる。メグは僕が初めて育てたメガドラモン。その成長期の時に付けた名前だ。確かベタモンだったはずだ。それと同じ名前。
イタズラにしても手が込み過ぎている。というか、誰がそんなこと知ってるんだ。それこそ。
「信じてないなぁ。じゃあ、一個質問」少し諦めたような声が問いかけてくる。
「なに? 」
もうなんでもいい。なんでもこい。
「じゃあ、ボクが本当にメグだったら助けてくれる? 」
声のトーンが少し落ちた気がする。期待半分心配半分。そんな感じ。
「メグが僕の考えてるメグなら。どんなことでも力になるよ。」
この言葉に嘘はない。例えどんなに長い時が経ったとしても、あの頃の僕はきっとそうすると思うから。
「ありがとうっ!ありがと、ありがと、ありがと!!」ほんとに嬉しそうに声は叫ぶ。それに応じるようにデジヴァイスが光る。ありがとうに応じてその光は強さを増しながら。
「何も、そんな」
僕の声は途中で遮られる。僕が声をなだめる途中でデジヴァイスから漏れた光が部屋を真っ白に染めた。
「・・・・・きて。・え。おきてよ。」
なんだか柔らかいものに頬を挟まれている。
なんだこの柔らかさ。あったかい。いや、少しひんやりしてるかも。気持ちいい。
柔らかくて、あったかくて、気持ちいい。
そんなものがこの世に存在するわけ・・・・
ある。僕の記憶には確かにあるぞ。
夢のような三つのパラメーターを備えたもの。そう。おっぱいだ。触ったことはないけど。
おっぱいに挟まれているこの状況は・・・・・・パフパフ?!
そ ん な パフパフなんて。こんな夢みたいなことが。
夢?そういえば僕は部屋で掃除していて確か
「もぉ。あんまりやりたくないんだけどな。弱めにやるから許してね」許すってなんのことだろう。
「電撃ビリリン!」
「なあああああああ!?」
体に電流が流れる。比喩ではなく本当に。アニメだったら黒焦げになるやつだこれ。
「生きてるよね?ユウジ。大丈夫?」
何だろう。懐かしい声がする。
「う、うん。生きてるよ。」とりあえず答えて目を開ける。目の前が白い。白いというよりかは白いものに覆い被られている。なんだろう。プニプニの正体ではあるらしい。
とりあえず退かすか。ムニっとした感触。握り込むと確かな弾力が返してくる。うん。やっぱりいい感触。もうちょっと触ってようかな。
「ねえ、くすぐったいんだけど。」白いのから声がする。
「ご、ごめん」
咄嗟に謝り手をのける。と、同時にピョンと白いのが飛び退く。飛んだ。僕の顔を踏み台みたいにして。そして白いのの全貌が明らかになる。
足は4つ。体の色は緑。丸い体の真ん中にはオレンジのトサカのようなヒレのようなものがあって、尻尾もある。さっきまでの白いところは腹みたいだ。
というか僕はこれが何か知っている。ベタモン。デジモン。
やっぱり疲れてるんだな。
「なんだ。ベタモンか。」
おっぱいじゃなかったのは残念だけど、知ってる存在っていうのは有難い。ベタモンなら成長期で安全だしね。
「なんだとは挨拶だね。そうだよボク、ベタモン。っていうかあんまり驚かないんだね。」
ムスッとしたような声が返ってくる。
「いや、夢なら別に驚かなくてもいいんじゃない?」
脳がふわふわしていてこの状況を受け入れているのは夢特有の現象だ。
夢でまでデジモンに会うとは。僕も随分あのオモチャが気に入っていたみたい。しかも今回の夢は明晰夢ってやつだ。夢を夢だと認識している状態。噂には聞いていたけど初めての経験だ。これは少しワクワクする。
「うーん。まだ寝ぼけてるの?夢じゃないんだけどなあ。」左の前足を顎に当てどうしたものかという表情のベタモン。前足器用に動くんだな。
「夢じゃないって言ったって。だってさっきまで部屋で掃除してて、それで。」
言いかけて気付く。あの時部屋であった出来事を・・・
光るデジヴァイスとそこから漏れ出した光に包まれて。ここまで来たら流石に答えは決まってくる。嬉しいような、でも、それが現実だとは到底信じられなくて。恐る恐るベタモンに尋ねる。
「もしかして、メグなの? 」
「うん!やっと分かってくれたんだねユウジ! 」
ピョンっとベタモンもといメグが胸に飛び込んでくる。嬉しいからか尻尾をパタパタ振っている。犬みたいだ。
両手で受け止めると、なんとも言えない感触が手のひらに伝わってきて癖になりそう。
「あ、言うの忘れてた。ようこそ『デジタルワールド』へ」
メグは飛び込んできた姿勢のままグリグリと頬ずりしている。ちょっと待ってほしい。今、ものすごく重要なことをサラッと言われた気がする。
「今、どこって言ったの」
僕が堪らず聞き返すと、ヒョコっと顔を上げてメグは
「デジタルワールドだよ」と何事もないかのように返してくる。そうかデジタルワールドか。
そうなんじゃないかなと思ってはいた。目の前の川を流れる水はぱっと見はただの水だけど、水しぶきなんかを細かく観察すれば01コードの塊が見える。木の根っこの色がおかしいかと思えば太いケーブルが生えてるし。岩に混じってモニターが地面に突き刺さっていたりもする。なんというか、自然と機械が融合している感じ。初めて来た場所なのにどこか懐かしい感じがするのはアニメやゲームで散々この景色を見てきたからなんだろうか。そうかデジタルワールドか。
「ねえ、メグ。百歩譲ってここがデジタルワールドなのはいいよ。いや、良くないけどさ。なんで僕がここに呼ばれたの。」徐々に頭がハッキリしてくる。
「さっき、ボクのこと助けてくれるって言ったよね」腕の中からメグが答える。
「うん。言った」これは確かに言った。まさか本当の本当にメグだとは思ってなかったけど。
「だからね、ボクっていうか、ボク達の町を助けてほしいんだ」どこか悲しげなメグの瞳には僕の姿が写っている。
状況確認ができるにつれて、思考がハッキリしてくる。確かに、「行ってみたい。」「冒険してみたい。」そう思ってた時期は僕にもあった。パートナーと一緒に冒険する。なんて胸躍る話だろう。それはあくまで幼い少年の夢だから無邪気に楽しめていた妄想の話だ。少なくとも、今の僕は心配ごとが色々湧いて来るほどには大人になっていた。
「うそだあああああぁぁ
とりあえず叫びたくもなる。「ホントだよー」というメグの声もむなしく、僕の絶叫は川の水面を揺する。嬉しいやらどうしていいやら帰れるのかとか色んな気持ちがごちゃごちゃになって叫ぶ以外の選択肢は今のところ僕にはないみたいだ。