デジモンストーリー オールドフレンド   作:Tomato.nit

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修行編の締めくくりです。
新技というか、合体技が二つほど出てきます。
バトル書いてるときはノリで進むんで、そんなテンションで読んでいただければよりお楽しみいただけるかと思います。




第十二話 成長の時

「もう少しだよ、頑張って!!」

 僕の目の前ではシードラモンの滝登りが行われている。

 昨日の夜に降り続いた大雨によってその流量は倍近くに膨れ上がっている。

 激しい水流がその行く手を阻むが、障害はそれだけではない。

 滝の上からは巨大な岩や丸太が次々と投げ落とされている。

 投げているのはカブテリモン。

「ほれ、ささっと登り切らんといつまで経っても終わらんぞい」

 そう言いながら、特大の丸太をもう一本投げつける。

 ちなみに、昨日はティラノモンが投げていた。

 

 特訓が始まって今日で三日目。

 山を下りるのは明後日だ。

 そして、今日が各々に与えられた課題の達成期限。

 初日に退化という課題をクリアしたティラノモンはそのまま肉体の強化を続けている。

 続いて課題をクリアしたのはグレイモンだ。

 見上げる程の巨岩を見事に破砕した。カブテリモンが言っていた新たな道がどういうものかは僕には分からないけど、グレイモンは何かをつかんだ様子だ。

 そして、最後がメグ。

 メグに与えられた課題は、この山にある最大の滝を登りきること。

 滝の全長は悠に八百メートルを超し、シードラモンがどれくらい並べられるか分からないほど。

 日本の滝で最も落差があるのが確か五百くらいだったと思う。

 一応昨日クリアはしたものの、昨夜の大雨を見て「明日が修行の本番だわい」と言った結果、メグは再び挑戦している。

 流量が増したことによって、難易度が上がったことに加えて、カブテリモンの投擲は容赦がない。

 ティラノモンの腕は二本。それに対してカブテリモンの腕は4本。同時に投げる数は倍となっている。さらに、メグの回避や攻撃の隙を的確について、そこに打ち込む。そのおかげで、僅かな隙でもメグにとっては命取りとなっていた。

 でも、この修行を見て、分かったことがある。

 今までは意識していなかったメグの動きの癖から生じる死角。

 カブテリモンは的確にメグの意識の外から攻撃行っている。

 そして、この修行は僕にとっての修行の意味もある。

「右に避けて!」

 完全な死角から襲ってくる一本の丸太。

 僕の声に反応したメグは間一髪で回避する。自分で言うのもなんだけど、メグが僕を信頼してくれるからこそ成せる技だ。

 メグの動きの先を読み、その弱点をつぶす。それが今の僕の戦いだ。

 

 最後の岩を打ち砕き、メグは滝の頂きに到達する。

 

 三つの修行。それが今達成された。

 

 力を得たグレイモン、硬さを得たティラノモン、見切りを得たメグ。

 そして、明日はいよいよ総仕上げ。

 

 その内容はカブテリモンとのスパーリングだ。

 ただし、三体は成熟期のまま。

 カブテリモンは進化アリ。

 どちらが有利でどちらが不利か。正直な所は分からない。

 

 修行を始める前の皆だったらアトラーカブテリモンに手も足も出なかったと思う。

 メタルティラノモンですらあんなに苦戦していたことからもそれはうかがい知れる。

 

「ユージ、もう疲れたし、お腹空いたーーーーーーーーー!!」

 へとへとになったメグが滝の上から叫んでいる。疲れたっていう割には元気いっぱいだ。

 いつの間にかこっちに飛んできたカブテリモンが僕を抱えてメグの所に運んでくれる。

「ユウジ殿、そろそろ昼食の時間。今日も美味いのを期待しておるぞい」

 そういえば、初めて町に行くときもカブテリモンに運んでもらったっけ。

 あの時は景色を楽しむなんてほとんど考えてなかった。結構なスピードが出ていたこともあるし、正直僕にそこまでの余裕が無かった。

 今、僕の目の前には壮大な景色が広がっている。

 デジタルワールドは自然が豊かだ。

 様々な植物がその生息地を争い、それを食するデジモンがいる。中には虫や魚といった、デジモンではないデジタル生命体も存在している。

 それらはデジモンの食料にもなっているし、独自の生態系も構築している。

 

 カブテリモンに抱えられて、滝に沿って登っていく。岩肌に打ち付けられた流水は無数の飛沫となって僕たちに振り注ぐ。

 太陽の熱を浴びて火照った体には心地良い。

 見上げれば、まだまだ滝は続いている。

 滝から視線を外せば、広大な森が広がっている。山だから自然がたくさんあるのは当然と言えば当然なんだけど。

 鳥が木々の間を駆け抜け、木の葉が揺れる。

 現実世界に居たころはここまで、自然に直接触れる経験が無かった気がする。

 確かに実家は田舎だけど、それでも文明の利器というか、そういうものに依存していたのだと実感する。

 ここでは、機械ですら自然の一部のように振舞っている。

 自然と機械が融合した姿そのものが自然なんだ。

 

 滝の上につくと、いつの間にかベタモンに退化したメグが出迎えてくれる。

「あー、カブテリモンにのっけて貰ってる!ずるい―!」

 なぜか、プンスカ怒っているメグ。カブテリモンじゃなくて、ボクが運びたかったとかそういうことなんだろうか。

 それなら、可愛らしいと思うけど。

 トサカで僕の足を突いて抗議の意を示す。

「ボクもカブテリモンに乗りたかった」

 そっちか。

 自分が乗りたかったのか。

「自分で飛べばいいんじゃないの?」

「やだー、飛ぶのって意外と疲れるんだよ。それに、ボクってもともと両生類型なんだから、空を飛ぶより泳いでる方が自然だと思うんだ」

 メガドラモンに進化する奴がそんなこと言っちゃダメだと思う。

「どれ、飯の前に軽く運動がしたいところだのう。メグ、一緒に来るか?」

 翅をブンブン震わせながら、カブテリモンがメグを誘う。

 でも、それってめちゃくちゃ早く飛ぶんだよね。昨日見た。

「ホント!?行く行く!!」

 何も知らないメグは呑気なものだ。

 こっちに向ってシーと指を立てるカブテリモン。黙っていろということらしい。

 

 行ってらっしゃい。メグ。

 死にはしないだろうから気をつけてね。

 

 ピョンと角に飛び乗ったメグはテンションマックス。

「シュッパーツ!」

 そんな風にはしゃいでいられるのは今のうちだけだと思うな。

「それでは、美味い飯を期待しておるぞい」

 その言葉を最後に弾丸のように飛び出す。カブテリモン。

 バカみたいな速度に加速したおかげで、突風が吹き荒れた後に空気の逆流が起きる。

 ソニックブームって簡単に起きるんだなーと改めて驚く。

「おちるううううううううううう」

 もはやドップラー効果なのか何なのか分からないくらい、メグの声は低く響いていた。

 

 落ちないでね。メグ。

 そんなことを考えていると空の端で何かがキラリと光る。

 何だろう。

 同時に手元のデジヴァイスが光を放つ。

 そういうことか。

「ふざけんなあああああああああああああ!!」

 ぶちぎれたメガドラモンがカブテリモンを追う。

 

 まあ、飯前の運動にはなるかな。

 

 

 

 空中で爆音が響き渡る中、料理をしているとティラノモンとグレイモンが戻ってくる。

「お、美味そうな匂いがするじゃないか」

 鼻をクンクンさせながらティラノモンが近づいてくる。

 相変わらず地面が揺れる。

 と、もう一つの振動が近づいてくる。

「たまらんな。こんなに旨そうな料理をもっと美味く食いたいと思わないかティラノモン。

いや、皆まで言うな。分かっている。答えはイエスだろう。そうだ、こういうのはどうだ。

今から飯が出来上がるまで俺たちで手合わせするのだ。運動すれば飯が美味い。これは覆すことのできない事実だ。そうだそうしよう。くらえええええええええ!」

 またグレイモンがバカみたいな理由でティラノモンに攻撃を仕掛ける。

 

 ティラノモンも概ね予想していたのだろう。

 因縁が付けられている間に食卓から離れて準備万端。埃が立たないように気を使ってくれたのか。流石だな。

 

 そんなこんなであっちこっちでドンパチやっている中で、僕の振る中華鍋では油をパチパチ跳ねさせながら食材が踊っている。

 

 

 太陽ももうすぐ沈む頃。

 デジタルワールドに来てからは太陽と共に起きて、太陽と共に眠る。そんな野性的な生活を送っている。

 寝つきはすこぶる良い。寝起きも言わずもがな

 そんな生活のおかげなのか最近少しだけ、勘が良くなった。

 やっぱり自然のなかで生きて行くということは僕たち現代人が忘れてしまった動物としての感覚を呼び起こしてくれているのだと思う。

 例えば、

「メグ、そこに居るんでしょ」

 声を掛ければ期の影からひょこっと姿を表す。

「あれ、今はけっこうちゃんとかくれたつもりだったんだけどな。見つかっちゃった」

 こんな感じ。

 得意げな僕の横にメグがやってくる。

 そろそろ太陽も沈むし、寝る準備でもしようか。

 とは言っても今日はテントを張るつもりはない。

 いそいそと寝袋だけを引っ張り出す。

「今日はテントじゃないの?」

「うん。今日は折角だから自然のなかで寝てみようかなって。メグはテントの方がいい?」

「ボクはどっちでもいいよ。強いて言うなら水の上がいい。」

「それだと僕は寝てるうちに死んじゃうんじゃないかな。

「ユージが死んじゃうのは困るし、ユージと一緒に寝る方がいいから陸でいいよ」

 そんなメグの表情はまぶたがどんどん下がっていき既に眠そうだ。

 空には一番星が煌めき、太陽の支配する赤い空は既に多くが月の領土に侵されている。

 今日は快晴。太陽が沈めば満点の星空が広がるだろう。

 どこまでも広がる空が僕らの屋根だ。

「おやすみ。メグ」

「おやすみ、ユージ」

 こうして今日は眠りにつく。

 

 夢を見た。

 その内容をしっかりと思い出すことが出来ない。

 でも、すごく大切なことだった気がする。

 高校生の頃の夢。

 高校生の僕にとって重要なことと言えばあの事件のことだと思う。

 でも、今は思い出す気にならない。

 あれは決して楽しい思い出なんかじゃないから。

 

 そんなモヤモヤした気持ちも眩しい朝日が吹き飛ばしてくれる。

 木の根元で寝ていたおかげで、少しだけ体は痛いけど、不思議と体の調子は良い。

 体の痛みも軽くストレッチするだけで取れる程度。

 爽やかな朝の訪れ、メグは未だに涎を垂らして寝ている。

 遠くでは朝の訪れを告げる鳥の鳴き声が響いている。ちなみにコカトリモンが鳴いているらしい。

 

 近くの川で顔を洗っていると地響きが近づいてくる。

 ティラノモンだ。

「おはよう。今日はいよいよ特訓の仕上げだね」

「おはようだ。まったく散々鍛えてくれた礼をしてやらんとな」

 バキバキと骨を鳴らすティラノモン。やる気は十分みたいだ。

 どこか嬉しそうなのはやはり強くなった自分の力を確認できるからだろう。

 

 スパーリングは昼前に行う。

 それまでは各自準備運動なりそして体を慣らしておくようにと昨日の夜カブテリモンが言っていた。

 河原でのんびりしていると、もう一つの足音が近付いてくる。

「おう、ふたりとも元気そうじゃないか。それはそうとティラノモン、貴様体が鈍ってはいないだろうな。今日のバトルはいわば俺たちの集大成だ。それを運動不足だなんだとつまらん理由で台無しにされては敵わん。そこで、今から準備運動がてら手合わせしてもらおうじゃないか。うおらああああああああああ!」

 毎度の如く、いちゃもんを付けて殴り掛かるグレイモン。

 ホント朝から元気だな。

 

 カブテリモンの様子を見るために森の奥地に向かう。

 この山は町に来てからカブテリモンが手入れしたらしい。そのおかげで、縄張りにしているようなデジモンもおらず、僕が一人で歩き回っても安全だ。

 仮にデジモンが住んでいても、連日あれだけ騒がしくしたら普通は殴りこむか逃げるかすると思う。

 僕なら逃げる。

 森の開けた場所ではカブテリモンが切り株の上で、座禅を組んでいた。

 凛と張り詰めた空気。その空間に踏み込んだ瞬間に肌に突き刺さるような凄まじい気迫を感じる。

 これがカブテリモンの本気ということなんだろう。

 僕とカブテリモンの距離は十メートルは離れている。

 それくらいの間でも感じ取ることの出来る存在感は完全体のデジモンのそれを上回ると言っても過言ではない。

 長い年月をかけて磨き上げられたその能力は粗削りなメグ達とは全く異なる質だ。

 そんな殺気ともいえるような張り詰めた空気が一瞬にして消え去る。

 同時に呼吸が楽になる。無意識のうちに全身の筋肉に力が入っていたようだ。

「おお、ユウジ殿おはようさん。すまんな瞑想に夢中になっておってしばらく気付かんかった。体は大事ないかの」

「おはようカブテリモン。僕だって少しは鍛えてるんだ。大丈夫だよ」

「はっはっは!それは行幸。なれば少しワシの修行に付き合うてみんかの」

「面白そうじゃない。迷惑じゃなければ是非ご一緒させてもらうよ」

「良き哉。良き哉。そこの切り株を使うと良い」

 そう言って指さす先にはカブテリモンが座っている切り株よりも二回り小さい株がある。

「内容は至って単純、座禅を組めばよい。自然の流れを感じ取り、身を任せる。今のお主ならその域までは容易であろう」

 なんだか買いかぶられている気がしないでもないけど、やれるだけやってみよう。

 

 瞳を閉じる。

 

 自然の流れを感じ取る。そんなこと言われても良く分からないけど。

 視界を遮ることで、他の感覚が鋭くなる。

 耳には絶えず、風が木々を揺らす音が響く。

 木の葉のこすれる音。枝が打ち鳴らす音。風自体の音。様々な音で周囲が満たされている。

 鼻には木の香りが届く。

 朝露に濡れることで、優しい土の香りが混じり包み込まれるような感覚になる。

 肌には風の流れを感じることができる。

 森を吹き抜ける風は不規則で、必ず決まった方角から吹くわけでない。

 

 普段は気にしないような情報がどんどん脳に流れ込んでくる。

 気づいていないのかそれとも無意識に遮断しているのか。自分にもわからない。

 でも、それだけの情報が身の回りに溢れていることは僕の意識にかかわらず変わらない事実だ。

 身を任せる。

 その意味はまだ分からないけど、流れ込んでくる情報を一つ一つを噛みしめていく。

 今感じている感覚は普段でも意識を集中すれば感じられる様なものだ。

 でも、うまく言葉に出来ないけど、もう少し先がある気がする。

 

「ウム。ワシの見立てよりも早かったのう。自然が教えてくれることはお主が感じること以上のものがある。それを見抜けるようになれば旅の助けになろう」

 絶妙なタイミングでカブテリモンが声を掛けてくる。

 まるで、僕の心を読んだみたいに。

 いや、そうじゃない。今なら分かる。

 僕が自然を感じると同時に自然も僕を感じているはずなんだ。

 カブテリモンは自然を通して僕の様子を視ていたんだろう。

「気付けたかのう。それが理解できれば上等だわい。ユウジ殿、ゆめゆめ忘れるでないぞ。ワシ程度のデジモンとて訓練すればこの域には到達できる。これからお主が出会うかもしれんデジモンは更なる高みにおることもあろう」

 カブテリモンが伝えたかったのはこのことだろう。

 そう、今僕たちの目の前に立ちはだかっているデビモンはどれほどの力なのか。残念な話だが、前回の邂逅ではそこまでは見抜けなかった。

 今もなおその力は増していると考えていいだろう。

 僕たちの成長とデビモンの成長どちらが上か。

 それが次のバトルの勝敗を決める。

 

「さて、そろそろ行こうかの。修行の成果見せてもらうとしよう」

 カブテリモンが翅を打ち鳴らす。

 腕の一本をこちらに向けてくる。運んでいくからこっち来いってことらしい。

 いよいよ修行の仕上げだ。

 

 

「さて、カブテリモン。散々世話になったからな。少しくらいは覚悟してもらおうか」

 出迎えてくれたティラノモンは早くも殺気立っている。

「腕の一本くらいは頂いてゆくぞ」

 同じくグレイモンもやる気満々。

「今日も懲りずにユージだけ運んで来たね。ボクも乗りたいって言ったのに!」

 一人だけ完全におかしなことを言っているメグ。

 大丈夫なのかな。あの子、僕のパートナーなんですけど。

「ウム。気合十分な様で安心したぞい。ワシもちっと本気出すとしようかの」

 

 対するカブテリモンは余裕を崩さずに悠々としている。

 

 今回のスパーリングでは僕が全体の指揮を執ることになる。

 基本的にはデジモン達に任せることになるけど、死角の補助や連携の起点を作ることが僕の役割だ。

 さっき見たカブテリモンの本気の気迫。あくまであれはカブテリモンとしての力だ。進化できることを考えれば、その上があると見て間違いはないはずだ。

 それを教えるために僕を修行に付き合わせてくれたっていうのは考えすぎかな。

 今は出来ることをするだけだ。

 

 そうして戦いのゴングが鳴る。

 

 最初に仕掛けたのはグレイモン。

「メガフレイム!」

 挨拶代わりの炎球が一直線にカブテリモンに飛来する。が、それは当たることなく容易く回避される。

 それは織り込み済みだ。

 攻撃と共にティラノモンは駆け出し、接近戦に持ち込む。

 飛び道具はあくまで牽制だ。

 勢いのまま殴りかかるティラノモンの拳はカブテリモンの腕に防がれる。

「チっ。やっぱりそう簡単にはいかんか」

 毒突くティラノモンの頭上を跳び越すようにシードラモンとなったメグがサマーソルトを放つ。

 しかし、残る三本の腕がこれを防ぎきる。

「いけ!グレイモン!!」

 そして、伽藍洞になったその胴体を鈍色の角が襲う。

「うおおおおおおお!」

 身動きの取れないカブテリモンに初めて攻撃が突き刺さる。

 角を支点にカブテリモンを上空に放り投げる。

「やるではないか。今度はこっちから行くぞい!」

 打ち上げられた体を空中で立て直し、翅を震わせる。

 振動によって生じた静電気を蓄積、増幅し、雷撃を練り上げるカブテリモン。

「空中は厄介だな。メグ!行くぞ」

「任せて、ティラノモン!スライドエヴォリューション!」

 シードラモンからエアドラモンへと姿を変えたメグにティラノモンが掴まり、高速で上空へと昇る。

 カブテリモンまでの距離は残りおよそ三メートル。

 十分な間合いだ。

「ファイアーブレス!」

 ティラノモンの放った火球はカブテリモンから伸びる小さな電撃の糸がかき消す。

 対空防御。

 ランダムに発生する雷を小さく収束させ、辺りに常に放射することで、近付いてきた物体を迎撃する陣形だ。

 そうして、突破口が開かれないままカブテリモンのチャージは完了する。

「メガブラスタアア!」

 その標的はメグ。

 航空戦力を奪うのは常套手段と言えるだろう。自身が飛べるのであれば、なおのこと。

「やらせるか!」

 慣性を利用し、そのままのスピードで飛び出したティラノモンは自身の足に炎を纏わせる。紅蓮の砲弾と化し、迫りくる雷撃と正面から激突する。

「ほう。面白い技を使う。どんどんいくぞい!メガブラスター!」

 一つ二つと雷撃を重ね、ティラノモンに迫るその威力は二倍三倍と増加し、ティラノモンの勢いと拮抗する。

 炎と雷が互いを食らい合い激しいスパークが巻き起こり、周囲を青白く染め上げる。

「まだまだ!ファイアーブレス!」

 更なる炎を足の一点に集中し、紅蓮の砲弾は雷撃を撃ち貫く矢となる。

 

 雷撃の中心に風穴を開け、その先、カブテリモンへと炎の矢が突き刺さる!

 

 揉み合う姿勢のまま二体のデジモンは地へと迫り、遂に墜ちる。

 

 二体の重量は落下するだけで膨大な破壊力となり、大きく地面を抉り取る。

 砂埃を巻き上げ、カブテリモンの体は地面を滑って行く。

「今のは効いただろ」

 土煙の中、地面に突き刺さった右足を引き抜きながら、カブテリモンを見据えるティラノモン。

「天晴れ天晴れ、まさかあの攻撃を真正面から打ち破られるとは正直驚いたぞい」

 体からパラパラと石を落としながら立ち上がるカブテリモン。その声は驚きの中に嬉しさが感じられる。

「これならどうかの」

 カブテリモンの全身から激しい放電が起きる。

 バチバチと青白い閃光が幾重にも重なる。

「カブテリモン進化!」

 叫び共に空から雷が落ち、その身を包む。

「アトラーカブテリモン!!」

 閃光が太陽の光さえかき消し、その姿を書き換えてゆく。

「いよいよ本気ってことか。グレイモン合わせろ!」

「そっちこそ、遅れるなよ!」

 二匹の恐竜がコンビネーションで仕掛ける。

 日頃から馬鹿みたいに戦闘を仕掛けていたグレイモンは当然のようにティラノモンの動きに対応する。果たしてこれが目的であったかは怪しいがその効果は火を見るより明らかだ。

 左右に展開し、お互いの攻撃の隙を埋めるように攻撃を繰り出すことで攻撃の密度は通常のそれを大きく上回り、怒涛のラッシュと化す。

 対するアトラーカブテリモンは4本の腕を巧みに用いて攻撃を次々と受け流すが、徐々に押され始める。二匹の攻撃は二対の腕と二対の足によって行われる。手数は互角だが、足が勝負を分けている。

「メグ、アレ使うよ!」

 合流したメグに対して指示を飛ばす。

「了解!ブラストエア!」

 グレイモンとティラノモンの体を風が覆う。

 それに伴って二匹から繰り出される攻撃の速度が上昇する。

 ブラストエアはふと思いついた技をメグと一緒に形にしたもの。体を空気の層で覆い気圧をコントロールすることで移動の補助に出来るかと思い研究していた。しかし、飛行中に使用すると想像以上に操作が複雑な為断念した。

 それを「打撃のみの加速」に限定し、処理工程を省くことで攻撃の補助として生まれ変わらせたのがこのブラストエアだ。

「これは良いぞ!」

 ティラノモンが歓喜の叫びと共に攻撃を繰り出す。速度が増すことで、純粋な威力の上昇だけでなく、攻撃の密度がさらに増加する。

「これまた面白い技を使いよるわ。厄介なことこの上ない。しかし、本体ががら空きになっておるぞい!」

 グレイモンの攻撃を絡めとったアトラーカブテリモンはそのままメグに向けてグレイモンを投げ飛ばす。

「そのまま投げ返して!ついでに加速も!」

 僕の指示に従い、飛んできたグレイモンを尻尾の先端で掴み、大きく弧を描いて振り回しベクトルの向きを円運動で捻じ曲げていく。

 射出の瞬間にブラストエアによる加速を加え、グレイモンは山吹色の弾丸となる。

 空気を切り裂くその角は赤熱し、破壊力を増してゆく。

「ストライクホーン!」

「甘い!」

 角が直撃する直前にグレイモンの体を押し止め、その威力を低減させるアトラーカブテリモン。しかし、そのために四本の腕をすべて使っているため、大きな隙を作ってしまう。

 千載一遇のチャンスを逃すティラノモンではない。

「メグ!さっきのやつ全力で頼む!」

「任せて!」

 一陣の風が戦場を吹き抜け、空気の流れが変わる。

 風がその身を包み込むと同時に、なんとティラノモンは自らそこに炎を加える。

 燃え盛る炎を巻き込み、風は火風となり、その身を覆う。

 炎の扱いに長けるティラノモンであるからこそ成しえる荒業だ。

「こいつでどうだ!!」

 攻撃手段こそ、単純な打撃だがその威力は絶大である。

 その四肢から繰り出される攻撃はすべてがティラノモンの必殺技であるファイアーブレスを凌駕する威力を持つ。

 二体のデジモンの技を掛け合わせることで、単体では到底生み出すことのできない攻撃力となったのだ。

 その拳の直撃を受け、アトラーカブテリモンは堪らず腕を解き、防御の姿勢を取る。

「ぬううううう!これほどの威力になるとは。驚いたぞい!」

 拳を受ける度に、青い甲殻には次々と焼け跡が刻み込まれてゆく。

 だが、流石はアトラーカブテリモン。防戦一方ではない。

「これで十分な頃合だろう」

 そう言うと、燃え盛る拳に焼かれることをものともせず、ティラノモンを抑え込む。

「何!?」

 驚くティラノモンを締め上げながら、その体からは次々と電流が流れだす。

 あれはマズイ!

「ティラノモン離れて!」

「うおおおおおお!なんて怪力だ!流石だぜ!」

 その体を押さえる腕を執拗に殴りつけるが拘束は一向に弱まらない。

「これに耐えられればお主の勝としよう。メガブラスタアアアアア!」

 ゼロ距離から放たれたメガブラスターはティラノモンの全身を打ち据える。

 激しい明滅が収まる瞬間、ドサっと音を立て、ティラノモンがその膝を付く。

「ゴフっ」

 血を吐き崩れるティラノモン。

「まったく、ふざけた威力だ。後は頼んだぞ」

 その言葉を残しティラノモンの意識は闇に落ちる。

 流石に殺すことは無いと思うけど、早めに決着をつけるに越したことはない。

「今のでアトラーカブテリモンにもかなりのダメージが蓄積してるはずだよ。一気に勝負をかけるよ!」

 残る二匹のデジモンに激を飛ばす。

「ティラノモンめ、ジイさんにやられるとは情けない。敵は俺が取ってやろう」

「まだまだ若いもんに負けるわけにはいかんでのう。かかってこいグレイモン、揉んでやろう」

「抜かせ。ささっと隠居させてやる」

 啖呵を切って突っ込んでゆくグレイモン。ティラノモンと同じ技は使えると思うけど、そのままじゃ二の舞になるのは目に見えている。

 何か策を考えないと。

 アトラーカブテリモンの決め手はやはり雷撃。

 それを封じるには何が必要だ。

 電気。

 絶縁。

 炎は絶縁を期待できない以上グレイモンではどうしようもない。

 水、純水なら!

「メグ、シードラモンだ!」

 咄嗟の思い付きをそのまま使うしかない。

 ブラストエアは風を纏う技だ。氷を纏えば、電撃を防ぐことができる。

 手足を氷漬けにしてしまうと動きに支障が出る。

 最初から動かない場所なら問題無い!

「グレイモンに氷の角を!」

「分かった!!」

 メガフレイムでアトラーカブテリモンの視界を奪った瞬間、メグがグレイモンの角を覆う様に氷の角を形成する。

 そうして、グレイモンの頭部には太陽の光を反射し、澄んだ空色に輝く巨大な角が現われる。

「メガブラスタアアアアアア!」

 視界を覆う黒煙を貫くようにアトラーカブテリモンが電撃の槍を放つ。

「その角ならいけるよグレイモン!」

「信じてやる!」

 一直線に伸びてくる雷撃を空色の角が真っ向から迎え撃つ。

 バチバチと音を立て、雷の槍は真っ二つに割かれていく。

 上手くいった!

「なんと!これすらも打ち破るとは!」

 驚嘆するアトラーカブテリモンの喉元には既にグレイモンの角が突き付けられていた。

「ジイさん、これでチェックメイトだ」

 4本の腕を空に掲げるアトラーカブテリモン。

「うむ。よくぞここまで強くなった。詰みだわい」

 

 こうして、一週間に及ぶ特訓は見事に完成された。

 

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