デジモンストーリー オールドフレンド   作:Tomato.nit

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第三話 ハノイの町

「もうすぐハノイの町だよ」道案内するメグはシードラモンではなくベタモンの姿だ。カブテリモンとの戦闘の後、一時的に力を使い果たした結果なのか退化してしまった。

 道中でデジヴァイスを確認したところ、『進化の記憶』とでも言うようなデータが追加されていた。どうやら、進化したこと自体がデジヴァイスに記録されるようなので再びの進化も問題なく行えそうだ。

 

 さらにスマホについても新しい発見があった。デジタルワールドに到着したころは圏外だった電波がこの辺りではなぜか受信できている。キャリアを示す文字列はデジ文字になっていて読めなかったが、ベタモンに尋ねたところ『あーうー』と読むらしい。

 ちなみに『アグモン ウォンテッド』の略。アグモンが無くしたものを探すために通信網を整備して、捜索隊を結成したのが始まりらしい。突っ込み処は満載だが敢えて言うまい。

 

 もう一つ、面白い発見がアプリだ。翻訳アプリのカメラ認識がデジ文字にも対応していること。デジ文字自体は現実世界でも目にすることができるため誰かが趣味で作ったものだろう。まさか、こんな風に役立つとは夢にも思っていないだろうけど。

 

 気持ちの良い風が僕らの体を吹き抜ける。今まで感じたことのないような気持ちよさだ。

 

 それもそうだろう、何故なら僕は今、飛んでるわけだし。

 

 吹き抜けるというよりかは風を突き抜ける感じだ。

 

 

 

 

 カブテリモンをすぐに泉から引っ張り上げてみたところ、ダメージは大きいものの致命傷ではなく、一命を取り留めていた。散々手古摺らされた硬い甲殻はここでも役に立ったらしい。

 

 暴走の原因を探るため、カブテリモンの体を調べると、丁度首の甲殻の隙間に差し込まれるように一本のメモリが突き刺さっていた。

 これが原因とみて間違いはないだろう。

 しかし、正体が分からない以上、再びデジモンに危害を加えることも考えられるので僕が保管することにする。

 

 一応カブテリモンが意識を取り戻すまで監視を続けることにする。

 30分もするとカブテリモンは意識を取り戻し、傷ついた体を再び持ち上げた。急に暴れ出す様子はなく、落ち着いている

「カブテリモン、話せる? 」起き抜けに若干申し訳ないけど質問をぶつけると。

「ウム。ところで、お前さんは、人間か」随分貫禄のある喋り方だな、このカブテリモン。

「そう。まだこっちに来て1日も経ってないけどね」ホント、さっきまで暴れてたのがウソみたいな落ち着き具合。

 

「ところで、わしはなんぞこんなところにおるんかいのぉ」やっぱり記憶はない様子。

「信じられないかもしれないけど、さっきまでここでドンパチやってたんだよ」

 それを聞いたカブテリモンがハッと息をのみ、

 

「わ、わしは人間にやられたんかい」とあらぬ誤解をし始めた。

 

「いやいや、闘ったのは僕じゃなくてこっち」脇で見守っていたメグを指さす。これもどうやら逆効果らしく、カブテリモンは大きく肩を落とし、

「遂に成長期のヒヨッコにも後れを取ってしまったのか。焼きが回ったもんよ」少し気の毒なので真相を教えてあげよう。

 

 

「さっきまでは成熟期だったんだよ。今は疲れちゃって成長期に戻ってるみたいだけど」

 

 カブテリモンは「ならば仕方も無し」と一応納得はした様子だ。

 

 

 ここまで大人しくしていたメグが僕の服の裾を引っ張る。待ちくたびれたみたいだ。

 

「ねえ、カブテリモンは大丈夫そうだし町に行こうよ」服を引っ張るのが気に入ったのか更にグイグイ引っ張る。伸びるよ。

 

「町と言うたか」 カブテリモンが何やら興奮した様子で食いついてくる。ちなみに、目の前で大顎がギチギチと鳴っているのが地味に怖い。

 

「ハノイの町だよ」服を離したかと思えば今度は僕をよじ登りだす。さっきのは強度確認か。

 

「やはりそうか!儂はその町に住むガルダモンに会う為、遥々、東のビートルフォレストから参ったのだ」語気が強くなるカブテリモンを余所にメグは僕の背中にたどり着いた。

 

「じゃあ、カブテリモンも一緒に行こうよ」僕の背中から声が発せられる。

「そうさせて貰うかの」

 

「でも、カブテリモン怪我してるんじゃないの? 」

 

「この程度でくたばる様な、軟な鍛え方はしておらん!」デジモンっていうのは皆、強がりなんだろうか。メグも似たようなこと言ってたし。

 

 兎にも角にもこれでようやく僕の使命?も果たせそうだ。

 

 

 

 とまあ、そんなかんじでカブテリモンに抱えられて絶賛飛行中という訳だ。

 僕はカブテリモンに抱えられており、メグはカブテリモンの角にしがみついている。

 どうやらメグは高いところが好きらしい。空に上がってから物凄くウキウキしているのが手に取るように分かる。

 

 カブテリモンの飛行速度は僕らが走るのよりも断然早い。さっきまで必死に逃げていて、その速さは身に染みているけど、森の中じゃなかったらたぶん詰んでいた。風の感じ方としては自動車くらいの感覚なので、30,40km/h辺りだと思う。

 

 森の木が徐々に鳴りを潜め、草原が広がり始めたころ、視界の先に白い建物が見えた。

 

「あれだよ!あれがハノイの町! 」

メグのテンションは最高潮の様で軽く漏電している。静電気がパチパチと、弾けては消えていく。

 

 

 しかし、町に近付くにつれてその異変が露わになる。まず視界に捉えられたのは黒煙。町の西側に黒々とした煙が数本立ち並ぶ。そしてその付近では、今まさに、爆発が発生し、新たな破壊を産む。

 

「カブテリモン、もっと早く!」切羽詰まったようなメグの声が響く。カブテリモンは「ウム」と一声頷くと、更に加速する。風の抵抗がさらに鋭さを増すが、今は気にしてる場合じゃない。

 

 爆発が生じた地点に向かうとそこには町に攻め込もうとする3体のガードロモンとそれに対峙する、一体のケンタルモンの姿がある。何とか持ち堪えるのが精一杯で、このままでは完全に押し負けてしまう。

 

「ケンタルモン、今助けるよ! 」見ていられなくなったのか、メグはまだかなりの高さがあるにも関わらずカブテリモンから飛び降りる。加速していく背中を見守ることしか今の僕にはできないのが悔しい。

 「ベタースラッガー!」

落下のエネルギーをそのまま破壊力に転換し、メグは頭部のトサカで斬撃を放つ。

 ケンタルモンに狙いを定め、必殺のディストラクショングレネードを放とうとしていた一体のガードロモンの背部を強烈な一撃が襲う。

 

 切り付けられたダメージで廃熱機構に不具合が生じたのか、ガードロモンの背部からは白い煙がもうもうと吹き上がり始める。

 

 仲間の破損は歯牙にもかけず、残る二体のガードロモンはケンタルモンに向け、同時にディストラクショングレネードを放つ。回避すれば町に被害が及ぶ。そう判断したのか、ケンタルモンは回避せずに迎撃の構を取る。

「ハンティングキャノン!」

ケンタルモンの右腕には体組織と一体化した必殺兵器ハンティングキャノンが装備され、そこから放たれる砲撃は必殺の一撃と呼ぶに相応しく、並みの成熟期なら一撃で葬り去る。

 しかし、その莫大な消費エネルギーはその後の戦闘を少なくとも数分はまともに行えなくなる程の深刻な問題である。

 

 今回の砲撃も例に漏れず、二発のディストラクショングレネードを打ち抜き、一体のガードロモンに致命傷を与えた砲撃はケンタルモンから立っているだけの余力も奪い去る。

 

 やはり仲間の退場などは気にも留めずガードロモンは標的の排除のみを優先する。

 その目の前には、膝をつき、悔し気な一つ目を兜の向こうから光らさせるケンタルモンがあるのみ。

 進行を阻むものは破壊せよ。シンプルな命令に従い、ガードロモンは目の前の邪魔者を排除する。

「ハイジョスル」

 

 無機質な声と共に放たれた攻撃はケンタルモンを直撃する。

 

 その直前、突如舞い降りた硬い甲殻に阻まれる。

 

「今のはちいとばかし、痛かったのぉ」

 

 甲殻の主はカブテリモン。爆発の余波で燃える腕を振り払い、ガードロモンを見据える。

 

「町から離れて貰うかの」二本の上腕を大きく振り上げ、中腕を地面に付く、脚は地面を踏みしめ、はばたきの推力を無理やり固定する。

「はっけよーい」

 目の前に新たな敵を確認したガードロモンは脅威レベルを更新し、優先順位を変更する。目標を排除するべく、右腕で照準を付け、放とうとした瞬間

「残った」

 唐突に目標の姿が視界から消える。

 推力を一気に開放したカブテリモンは弾丸のようにガードロモンに突っ込むと二本の腕で掴み上げ、そのまま上空へと運び去る。

 

「ここなら問題無かろう。」

 

 上空でガードロモンを放り投げ、その体が重力に引かれ、落下を始める時

「メガ・ブラスタァァァァ」

 

 最大限にため込まれた雷撃はガードロモンを貫き、大爆発を起こす。

 

 地上で見守る僕には空で大爆発が起きたという認識しかない。数秒するとパラパラと機械の破片のようなものが降ってくるのを確認し、勝負の行方を理解する。

 これで合計3体のガードロモンはすべて片付いたことになる。

 

 周囲の安全が確認できたところで、地面に突き刺さったままのメグを引き抜きに行くことにする。

 

「ユージ、早く助けてぇ」トサカが地面に突き刺さり、白いお腹を天高く突き出しているメグ。太陽の光を浴び、その腹部は白く輝いている。

 

 

 さっき飛び出していったとき、あんなに凛々しかったのは気のせいかもしれない。

 

 

 

 

体力の回復したケンタルモンが、「詳しい話は町の長のところでまとめて聞く」ということで僕たちは町の長、ガルダモンの所に案内された。

 

 ハノイの町の中心には純白の教会が建造されており、そこがガルダモンの住居兼町の集会所となっている。空から確認できた白い建物はこの教会だ。

 教会の構造は、概ねキリスト教のものに則ったものだが、細部がデジタルワールド仕様となっている。

 

 入口の正面、教会の奥に位置する祭壇には通信用のコンソールパネルが設置され、教会を明るく照らしている。奥の壁には大きな十字架が設置され、それを支えるように二体のエンジェウーモンの像が設置されている。

 本来長椅子が置かれているスペースには、何もなく、ただただ広い空間が口を開けている。人型でないデジモンも多数いることを考慮すれば当然の作りではある。

 

 最も目を引いたのが教会の正面に設置された巨大なステンドグラスだ。3枚のガラスがはめ込まれており、勇気の紋章を携えたウォーグレイモン、友情の紋章を携えたメタルガルルモンがそれぞれ左右に向き合うように描かれ、真ん中のガラスには二つの紋章を合わせたシンボルを抱くオメガモンの姿が光に照らされ輝いている。

 

 荘厳な出で立ちの教会の内部で感動を覚えていると大気を揺らす羽ばたきの音が響き、上階からガルダモンが降り立つ。

 

「ようこそおいで下さいました。メグのパートナーの方。そして遥か彼方の地より御足労頂いたカブテリモン様、お二人を歓迎致します。加えて、先ほどケンタルモンを助けて頂いたこと心より感謝致します」

 

 優しい声で、僕たちを迎えてくれるガルダモン。その凛々しい顔立ちからは少し違和感があるが女性であるようだ。

 

 声よりも突っ込むべきところが一点ある。その身長は大体180cm位で僕から見れば少し見上げる程度のものだが、問題はその恰好である。教会に住んでいるのだから当然と言えば当然なのだが、黒い修道服を纏っている。

 ガルダモン自体が風の守護神である気もするのだが何も言うまい。

 ちなみに、服のデザインとして翼の部分はツーピースの構造で十分な可動域を確保されている。明らかに専用のデザインで誰が手掛けたのか非常に気になる。

 

「改めて、この町で起きている異変についてお話いたしましょう」

 居住まいを正したガルダモンが話を始める。

 

「デジモンの暴走が始まったのが今から40日前。このとき暴走したのがティラノモンです。彼はその前日に食料を調達するということで、ここから西の『風の平原』に向かいました。 

 そして、町に戻った彼は既に暴走しており、居合わせたデジモン達を襲いました。私たちが駆け付け、何とか無力化しました。その後目覚めた彼は正気を取り戻しましたが原因は解らず終いです」

 

 原因に関しては思い当たるのが一つ。カブテリモンから発見したあのメモリだ。

 

「その後も、町の外に出たデジモンが次々と暴走するようになりました。対策として、外に出る際は最低でも2体以上のデジモンで向かうこととしてからは、暴走の頻度が大幅に落ちましたが、中には二人とも暴走する者たちや、帰ってこないものも・・・」

 ガルダモンの表情に影が差す。その胸中はいか程の想いがあるだろうか。

「そして、我々だけでは対応できないと判断し外部に助けを求めることにしました。しかし、その話をどこで聞きつけたのか、そこのメグは一人で飛び出してしまいました」

ガルダモンは軽く拳を握りしめている。あれは結構怒っているな。メグは僕の陰に隠れて「ごめんなさい」と申し訳なさそうに呟く。

 

「無事に戻ってきたことですし、この際それは不問としましょう。ただし、二度目はありませんよ」

ガルダモンが釘を刺す。

「話を戻しましょう。先ほどあなた達が遭遇したガードロモンですが、あれは町の者ではありません。ここにきて7日ほど前から、この町に対して侵攻と言える動きが見えるようになりました。

 先ほどのガードロモンやタンクモンといった機械化されたデジモンが攻め入るようになり、町の者たちが迎撃していますが、日に日に劣勢になっています。

 ここまでがこの町に起きている異常事態です」

 

 状況は分った。そろそろこちらの情報も開示するべきかな。

「ガルダモン、暴走の原因については一つ心当たりが」

 ポケットから例のメモリを取り出す。

 

「それは? 」

 ざっくりと説明し、メモリを預ける。

「こちらは町のラボラトリで早速解析に回します。貴重な資料を感謝します。こちらのメモリも驚きですが、メグが進化したというのも驚きですね」やさし気な表情のガルダモンはメグを見下ろしながら語る。

 

「普段は好奇心こそありますが、臆病なこの子がそこまで体を張るとは。やはりパートナーとはデジモンにとって大切な存在なのでしょうね」

 

 メグは照れくさそうに目を逸らしている。やっぱり頑張ってくれてたんだな。

 

「決して短くはない道のり、お疲れでしょう。ここはひとつ温泉など如何でしょうか」

 

 ガルダモンからの予想外に魅力的な提案に僕とメグは声をそろえて

 

「「もちろん!」」

 

 飛びついた。

 

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