デジモンストーリー オールドフレンド   作:Tomato.nit

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第四話 風の平原

第4話

 僕らは今「風の平原」に居る。デジモン達の暴走の原因を探るため、最初に被害にあったティラノモンの足取りを追ってここまで来た。ティラノモンは暴走の後、町の施設で傷を癒していたが、今回の旅に同行している。

 肝心の記憶の方は平原に着くまでの事しか覚えておらず、「何かを思い出せるかもしれないから連れて行ってくれ」と半ば強引についてきた。

 相変わらずメグは高いところが好きなようでティラノモンの頭の上に乗っかっている。ともすればティラノモンがベタモンの帽子をかぶっているようにも見える。

 

 町を出てから数時間。一歩踏み出すごとに、地面に響くティラノモンの足音にもようやく慣れてきたころ、「風の平原」に到着した。見渡す限り、広い草原が広がっており、所々に丘や池が散見される。デジモンも多くの種類が生息しているらしく、草原を駆け回るアグモンやガブモン、モノクロモンのような比較的大人しい成熟期のデジモン、空にはバードラモンのような飛行できるデジモンの姿も。

「さて、ここまで来たのは良いものの、どうしたものか」

数歩先を歩くティラノモンが立ち止まり声を掛けてくる。

「この前来た時はどうしたの?」

 僕の代わりにメグが質問をぶつける。

 

「この辺りの水辺では、上質のデジタケが良く採れるのだ。それを探しに、あそこに見える大きな池に向かったのだ。」頭上のメグに話かけるティラノモンは、最初は目だけが上を向き、喋るにつれ徐々に頭が後ろに沿って行き、最終的には空を見上げる形になる。

 それでも頭にしがみつくメグの根性には脱帽である。ティラノモンにはベタモン帽が引っ付いたままだけど。

 

「上手くないよ」

 

 なぜかメグに突っ込まれる。完全に思考が読まれている。悔しい。

 

「ところでティラノモン。あの池、明らかに近寄らない方がいいよね。」

 池の周りには大量のクネモンが犇めいており、その中には進化し、フライモンやクワガーモンといったウイルス種の昆虫型デジモンが何体も見られる。

 

 後から判明することだが、これはクネモン大量発生と言われる異常現象。気象条件や周辺の環境条件など複合要因により発生すると言われており、数年に一度起こる。

 

 これにより、食料の奪い合いや縄張り争いが頻発することにより、強力な成熟期の昆虫型デジモンが多く育つ。さらに、毒を獲得するドクネモンのような変異種やドクネモンが進化することで新種の昆虫型デジモンが生まれることもある。

 そして、最も希少な現象としてアーマー体と呼ばれる特殊な世代のデジモンが確認されることがある。現在確認されているのはハニービーモン、フライビーモン、バタフラモンの3種類である。

 クネモンの大量発生によって、少なからずデジメンタルに適応することのできる個体が誕生もしくは生き残りをかけて適正を獲得することで、古代種という縛りを乗り越えてアーマー進化することがある。従って、クネモンの大量発生によってこれらのデジモンが

発生する地には、知識のデジメンタル、もしくはそれに準ずる何かが存在すると考えられる。

 

「不味いな。下手に刺激すればあの数に襲われることになる」ティラノモンは警戒心を露わにする。一旦池に近寄る足を止めると、大量の羽音が重なり合いけたたましく響いている。

 しばらく様子を見守っているとクネモン達の様子が徐々に変化し始めた。

 

 一匹のクネモンが唐突に周りのクネモンに糸を吐き掛け始める。そうして6匹ほどのクネモンが糸に絡めとられ身動きが取れなくなると、更に糸を被せ巨大な繭のようなものが形成される。糸を吐き掛けたクネモンは繭の中心を食い破るとその内部へと姿を消した。

 

「一体何をしている」

 

 異様な光景を目の当たりにした僕たちはただ事の成り行きを見守るしかない。そして繭を突き破るようにして一体のクネモンが再び姿を表した。

 

 大きさこそ、他のクネモンと大差はないが細部が異なっている。爪の部分が毒々しい紫色を帯び、尻尾の先端の針の部分は紅色となっている。最も変化が如実なのが、黄色かった甲殻は光の入射角によって黒から褐色に変化し、顔や体の稲妻模様が銀色に輝いていること。

 

「あんなクネモン見たことないよ」メグが呟く。異変を察知したのは僕たちだけでなく池の周囲の昆虫型デジモンもそのクネモンを発見した。すると、数匹のフライモンを筆頭に成熟期のデジモンが例のクネモンに襲い掛かる。

 

 だが、クネモンは待っていたと言わんばかりに糸を吐き掛け、自分よりも明らかに大きなデジモンを次々と絡めとる。

 一方的な蹂躙がひたすら続き、襲い掛かるデジモンの姿が無くなった頃にはクネモンの周囲には糸にまみれたデジモンの山がうず高く積みあがっていた。

 

 そして圧倒的な戦闘力を見せつけたクネモンは身動きの取れないクワガーモンに近付き、捕食を始めた。デジモンにとって捕食がどのような意味合いを持つのか正確なところは不明だが、あのクネモンに関しては明らかにその甲殻が変化している。クワガーモンを完全に取り込む頃には褐色に変化していた甲殻は朱色にまで色を変え、その硬さがクワガーモンに匹敵することを物語る。

 

 次々と自らが打倒したデジモンのデータを取り込み、最後の一体を取り込むことで、クネモンに更なる変化が訪れた。体内から薄く光が漏れ出したかと思えば、自らに糸を吐き掛け、繭を形成する。その後も輝きを増し、一瞬周囲を真っ白く染めたかと思えば光は消え、繭に亀裂が生じる。

 中からは赤い甲殻と長い尻尾、鋭い羽根を備えた一体の昆虫型デジモンが姿を表す。

 

フライビーモン。

 

デジタルワールドに於いてその姿を見ることは滅多にないと言われ、希少性に関しては一部の究極体デジモンにも匹敵するほど珍しい存在である。

また、その進化には知識のデジメンタルの力が大きく関わっているため、凶暴性の高い昆虫型デジモンには珍しく、極めて高い知性を持つ。

 

「これが進化か。悪くないものだ」水面に映る自身の姿を眺め、一人呟くフライビーモン。シャドーボクシングの要領で拳や蹴を繰り出す。その動きは徐々に熱を帯び、羽搏きは加速する。

 

 翅と大気との摩擦で生じた静電気を蓄積することで、多くの昆虫型デジモンは電撃を武器として使用する。フライビーモンも例に漏れずフライスパークと呼ばれる技を使用することができる。

 

 打撃の合間に電撃や尻尾による刺突を織り交ぜ、変幻自在の攻撃を繰り出すその姿は蜻蛉と蜂、異なる甲虫の特性を遺憾なく発揮するものであった。

 

「そこのティラノモン、我に何か用か」

一人準備体操が終わったハニービーモンは声だけをこちらに向ける。

 

「そこの池に用事があったのだが、思いがけず珍しい光景が見られたものでな」

 ティラノモンは僕とメグを庇う様に一歩前に出る。

「そう警戒せずともよい。スパーリングの相手は欲しいが、急に襲うつもりなど毛頭ない」

 

 落ち着き払ったフライビーモンはゆっくりとこちらに向かってくる。

 

 

 

「デジモンの暴走か」

 僕らの目的を説明してみたところ、フライビーモンに心当たりはないようだ。ティラノモンは池の散策に向かい、僕とメグ、フライビーモンの3人?で会議中だ。

 

「暴走と関係があるかは分らんが、この平原を抜けた先に、クロックタワーと呼ばれる建物があるのだ。今までは廃墟同然でそのシンボルたる大時計も動いていなかったのだ。しかし、ここ最近電力が供給され動き出すようになった」

 

 電力が供給されるということは誰かが中で活動しているということでいいのだろう。ここで手掛かりがなさそうなら次の目的地はそこかな。

 

「フライビーモンって成熟期なの?」

 話が行き詰った所で、メグがぶった切る。

 

「成長段階というのが曖昧でな。正確にはアーマー体と言うらしい」

 

 アーマー体のデジモンはデジメンタルとデジモンの相性によってその強さが大きく異なる。一般的なものでは成熟期から完全体程度の力を持つとされるが、奇跡のデジメンタルを使うことで生まれるマグナモンではその力は究極体にも引けを取らないものとなる。

 

「強さに関して言えば、そこいらの完全体には負ける気はせんな」自信たっぷりな様子のフライビーモンと青い顔をしているメグ。完全体クラスだと太刀打ちできないのか。

 

 少し遠いがティラノモンの様子を観察してみると、デジタケを見つけては背中に背負った大きな籠に放り込んでいる。完全に当初の目的を忘れている。

 

 スマホで時間を確認してみれば草原についてからかれこれ3時間経っていた。クネモンの捕食シーンが結構な時間続いていたのが大きな原因だ。

 そろそろスマホの充電も無くなってきている。色々便利なだけに使えなくなるのは痛い。

 

「電源なんてないし、充電は出来そうにないか」

僕の呟きに二体のデジモンが声をそろえて答える

「「電気、出せるよ」ぞ」

 

 確かに。

 電源はある。やってみようか。

 

「メグ、ちょっと失礼」トサカの丁度よさげな所にスマホをセットして、スイッチ代わりに横腹をつついてみると、

「すごい!充電できてる!」

「やったね、ユージ」ハイタッチする僕らをフライビーモンはただただ眺めながら

 

「パートナーとは良いものだな」

 そう呟いた。

 

 急速充電なのか、ものの30分で充電は完了し、ティラノモンも戻ってきた。

 

「収穫はあったの、ティラノモン」

 様子は見学していたので知っているが、一応確認してみる。

 

「喜べユウジ!美味そうなデジタケがこんなに取れたぞ」案の定だけどそっちの収穫の話ではない。

 

「ちなみに、記憶に関しては朧気ながら一つ思い出した。あの時、俺は何かと戦ったのだ。それが何かは思い出せなんだが」

 

 案外しっかりとしているティラノモン。それにしても、戦ったか。ティラノモンだって立派な戦闘力のはず、ということは余程の強敵か複数の相手だったか。今は情報が少ないな。

 

 行き詰って空を見上げれば日は傾いてきている。今日はこの辺りでキャンプすることになりそうだ。

 

 町で旅に必要そうなものは一通り揃えることができた。寝る場所を確保するためのテントと寝袋。そして、僕にとっては使い慣れた中華鍋と調味料。今回はそこまで長旅にはならないと思うので、他にはロープや布などのシンプルな持ち物のみ。

 

「お腹すいたよ」 

 ティラノモンの背負うデジタケに目を奪われたメグは、涎を垂らしながらにじり寄る。

「じゃあ、ご飯にしようか。フライビーモンも一緒にどう? 」

 ご飯という単語反応したフライビーモンにも声を掛けてみると

「助かる」

 と乗り気の様子だ。

 

「じゃあ、一皿作ろうか」

 

 デジタケとペピポパプリカの炒め物 

 材料(2人前)

 デジタケ 4個

 ペピポパプリカ2個

 シヲ 適量

 挑戦ニンジンの粉 少量

 

作り方

 デジタケは水で洗い、シヲを揉み込んでおく。

 ペピポパプリカはそのまま食べると混乱するので電気を通して毒素を分解する。

 ティラノモンのファイアーブレスで火を起こし、調理を開始する。

 中火でデジタケを炒め、十分に火が通ったらペピポパプリカを加え強火にする。

 ペピポパプリカの食感が残っているうちに挑戦ニンジンの粉を振りかけとろみをつけて完成。

 

「はい、できたよ」

デジモン達は鍋を振っている僕を食い入るように見つめ、料理の完成を待ちわびており、出来上がる頃にはすっかり待ちきれない様子だ。

 

いただきます。

 

 4つの声がきれいに重なり食事が始まる。有り合わせの材料だけど、我ながらいい出来だ。ちなみにデジタルワールドに来てもお腹は空く。ガルダモン曰くリアルワールドの食料を食べても我々に害はないので、逆も問題ないだろう。とのこと。

 

 ティラノモンはその巨体から食べる量も凄まじく、僕の軽く10倍は食べている。しかし、美味しそうに、次々と食べる姿は料理を作った身としてはこの上なく嬉しい。

 

 フライビーモンは「料理とはすばらしいものだな」と感動している。ずっと野生だった身としては初めての経験なのだろう。

 

 メグも僕の横で美味しそうに料理を頬張っている。いくら器用でも前足で食器は使えないかと思っていたが、フォークなら使えるようで、銀の三叉がせわしなく行き来きしている。

 

 

 食事も終われば後は寝るだけだ。平地で比較的安全な場所を見繕いキャンプの設営を行う。テントの中には僕とメグが、入りきらないティラノモンは外に陣取ることになった。

 フライビーモンは、夕食の礼はさせてもらうということで見張りを買って出てくれた。なんというか律義なデジモンだ。

 

 

「ユウジ起きろ! 」

 ティラノモンの声に飛び起きれば辺りは未だに真っ暗なまま。

 

「敵襲だ」

 テントから顔を覗かせると周囲には闇に紛れて、いくつもの光点が移動している。

 

 空に輝く瞳はラプタードラモンのもの。地上にはタスクモンが3体。そして最も厄介なのが、フライビーモンと戦闘を繰り広げるメタルマメモンだろう。どれも正常なデジモンの動きではない。

 

 「行くよ、メグ!」デジヴァイスを左手に握るデジヴァイスが光を放つ。

 

 「任せて、ユージ!」さっきまでの僕の枕替わりだったメグも既に臨戦態勢だ。

 

「「ベタモン進化!」」デジヴァイスから光が放たれ、メグを包み込み、そのデータを書き換える。

 

「シードラモン!!」

 無事に二度目の進化を果たしたメグは、先行するティラノモンの後を追う。

 しかし、その進路を阻むかのように上空からラプタードラモン、地上からはタスクモンがメグに迫り、三次元の挟撃が仕掛けられる。

 

 こうして3つに分断された戦況は混沌を極めることとなる。

 

 一対一ならばタスクモンを圧倒出来るであろうティラノモンは、二体を同時に相手取ることで苦戦を強いられていた。その巨大な角を真正面から受け止めるティラノモン。そのまま、至近距離からのファイアーブレスでトドメというところで、背後からもう一体のタスクモンによって攻撃され、一手及ばない。

 

 煮え切らない勝負が続く。加えて、常に死角に意識を集中しなければならない戦いはティラノモンにとって長期戦は重荷以外の何物でもない。

 

 苦戦を強いられているのがメグである。水棲型のシードラモンにとって飛行型のデジモン本来、戦闘対象ではない。その点においては、ラプタードラモンにも同じことが言えるが両者には決定的な違いがある。タスクモンの存在だ。タスクモンに注意が引き付けられている間に上空から強襲を仕掛けるラプタードラモンに対して、シードラモンは成す術が無く防戦一方であった。

 

 そして、フライビーモンとメタルマメモン。両者の間では次元の異なる戦闘が繰り広げられている。

 メタルマメモンの小柄な体躯から繰り出される攻撃は、質量自体はそこまで高くない。総重量で言えばティラノモンの攻撃の方が一撃は重い。しかし、そこに圧倒的なスピードが加味されることで破壊力は絶大となる。機械化されたボディはその破壊力を確実に敵に伝達し、壊れることが無い。

 

 対するフライビーモンも素早い動きでこれに応じる。互いに相手を超えるべく戦いを通じて速さを磨く両者は厳しい表情の中どこか喜々としている。

「これほどの強さとは。暴走などしていない貴公と手合わせ願いたかったものだ」

 

メタルマメモンの爪を受け止めたフライビーモンは聞こえるはずもない愚痴をこぼす。

 

 その声を打ち消すかのようにメタルマメモンの左腕から強烈な光弾が放たれた。

 エネルギーボム。左腕のサイコブラスターから発射される必殺技である。

 

 

「くそ!僕にも力があれば」膠着状況をただ見守るしかない。何度この無力を噛みしめればいいんだ。

 何か手は。

 周囲を見回すとあるものが目に入る。

「あれは・・・」

 

 

 戦局が傾いたのは陸と空を同時に相手取るメグの所だった。

 上空から放たれるラプタードラモンのクラッシュチャージ。クロンデジゾイドメタルの装甲の重量を最大限に活かしたその突撃は並みの成熟期ではひとたまりもない。

 

 迫るラプタードラモンに対して、対空迎撃の手段はアイスアローでの攻撃のみのメグ。しかし、上空ばかりに気を取られていては死角からタスクモンの攻撃が襲う。

 

 強襲と強襲二つの攻撃のタイミングが重なり片方の攻撃を防ぐことがでない絶妙なタイミング。一歩間違えば、攻撃する側もダメージを受ける攻撃手段だが、それすら無視し獲物を狙うその姿は獣そのもの。

「これは、ちょっとやばいかも」

 

 せめて一矢報いるべく、ラプタードラモンに向け、最大威力のアイスアローを叩き込む。

 だが、この状況ではタスクモンを止める手段はメグには無い。せめて受け身で被害を減らすべくタスクモンに向き直る。

 

しかし、そこには予想もしていない光景が広がっていた。

 

「そう簡単に僕のパートナーはやらせない」

 メグに迫るタスクモンに、中華鍋を投げつける。鉄と比べると圧倒的に低い打突音が鳴り響く。鍋は鍋でもただの鍋ではない。旅のお供にとガルダモンが持たせてくれたこの中華鍋はクロンデジゾイド製だ。特殊加工で熱しやすく冷めにくい特性は料理に最適だし、何よりクロンデジゾイドは武器としても十分な強度を誇る。

 

 側頭部に衝撃を受け攻撃を中断するタスクモン。その方向を見れば人間が一人、手に縄を持ちその先端には何やら黒い塊が結びつけてある。

 

 今の痛みはあいつのせいであることは分る。シードラモンなどよりも、折角の機会を邪魔した雑魚に腹が立つ。シードラモンはあいつを始末してからゆっくりとなぶり殺せば良い。

 

 こちらを標的にしたタスクモンが向かってくる。これでメグは一対一の状況になる。後は逃げ切るだけ。なかなか難題な気もするけど、追いかけっこはカブテリモンと散々やった。

 

 振り返ったメグの視界にはタスクモンと対峙するユージの姿が写る。

 その光景を目にした瞬間、メグの中で何かが目を覚ます

 

「ユージに手を出すなああああ! 」

 

 速く、もっと速く。水を進むこの体は遅い。欲しいのは翼。速く、速く、大切な人を守るために。

 

 再びメグの体が光に包まれる。

 

 翼を望む純粋な想いはカタチとなる。

 

 海を渡るその体は空を駆ける体へと形を変える。

 

 パラレルエヴォリューション。

 

 自然界では突然変異と呼ばれる進化がある。通常は世代を重ねる際に環境適応を兼ね、異なる進化の道を辿るものだ。そうして生まれた亜種は新しい種となるものだ。しかし、平行進化は世代を経ることなくその環境に適応することを可能にした特異な進化だ。

 

 高すぎる環境負荷は進化の為の経験を阻害することとなる。経験を得る前に淘汰されることになるためだ。そのような環境を乗り越えることができた強者のみが進化という次の段階に進むことができる。平行進化は弱者が、生きることを渇望する弱者が、環境負荷を乗り越え、経験を得るために、今までの経験をリセットすることで成立する一種の自己否定である。

 

 その原動力は意思だ。生き残りたいという強固な意志。

 

 パートナーを守るため、新たな力を欲し、己を否定する。

 そこには、生存を懸けた渇望をも超える純粋な意志が確かに存在した。

 

 エアドラモン

 それが新しいメグの力だ。

 

 駆ける。ユージの元へ。これなら、間に合う!

 

「スピニングニードル! 」

 

 大気を操る。言葉にすればシンプルだがその力は凄まじい。圧縮した空気を矢と成し放つ。

 放たれた矢は敵を穿つ。友に害を成す敵を。

 

 

「怪我は無いよね」

 

 さっきまでタスクモンがいた場所には初めて見る後ろ姿がある。

 いや、あの姿は知っている。エアドラモンだ。

 

「助かったよ」

 

 そうか、成れたんだね。その姿に。

 あの時、二人でたどり着いた高み、その始まりに。

 

「ユージ、気を付けて。上からくる」

 空を見上げれば、片翼を氷に包まれたラプタードラモンが迫っている。さっきまでの劣勢の理由はもう無い。

 

「今度はこっちの番だね」

 手負いのラプタードラモンは一撃で勝負を決めるつもりだろう。エンジン全開で突っ込んでくる。推力と機首の動きによって空中機動を可能にするラプタードラモンに対して、自身の羽で空を駆けるエアドラモンでは根本的な運動性能が異なる。

 

 速さでは前者に軍配が上がるが、旋回や立体戦闘は後者の独壇場だ。地上に比べ空間把握が必要となる空中戦ではどちらが有利か言うまでもないだろう。

 

 攻撃はことごとく回避され、すれ違いざまに真空の刃が襲ってくる。ラプタードラモンの瞳には敗北の色が時間と共に濃くなる。メモリの支配により、暴走状態となっている彼には敵の進化の理由など考えるつもりは微塵もないが、ただ一つ、さっきまで圧倒していた相手に負けるのは気に食わない。

 

 ああ、気に食わない、気に食わない、気に食わない、気に食わない、気に食わない!!!

 そして、その身に突き刺さるメモリは負の感情を増幅させ、思考を奪い去る。ただ、本能に任せ、敵に迫る。その身がいくら傷付こうが最早関係ない。痛みは既に感じない。

 目の前の敵を殺す。

 それだけだ。

 

 ここに来てラプタードラモンの攻撃に鋭さが増す。始めから捨て身の攻撃が主体ではあったが、更に自らの身を顧みること無く攻撃を仕掛けてくる。しかし、蓄積されたダメージは確実に機械部分の機能を低下させており、徐々に速さを失っている。

 何度目かも既に分からない反撃を受け、ラプタードラモンは遂に地に落ち、決着となった。

「やっと墜ちたか」

 強敵の退場を見届けたメグは仲間達の様子を探る。

 

 二対一の劣勢を覆すべくティラノモンは賭けに出た。全力で一体を仕留める。多少のダメージは覚悟の上でだ。

 タスクモンの必殺技はパンツァーナックル。シンプルなパンチではあるが、必殺を冠するまでその威力は高められており、直撃すればひとたまりもない。

 必殺のパンツァーナックルが迫る。ティラノモンは蹴りで迎え撃つ。相殺しきれなかった威力はそのままティラノモンに伝わり、その巨体を上空に弾き飛ばす。

 そして描く放物線の先にはもう一体のタスクモンの姿がある。

 狙い通りだ。

 勢いは殺さず、放物線の先に火球を放つ。燃え盛る炎はタスクモンの動きを完全に封じる。

「トドメだ!」

 パンツァーナックル、重力、ティラノモン自身の技、すべてを内包した渾身の蹴りを叩き込む。

 後にダイノ流星脚と呼ばれる必殺の蹴りが誕生した瞬間であった。

 

 そして、もう一方メタルマメモンとフライビーモンの戦闘は既に終了していた。

 スピードに秀でた両者の決闘は、必殺技が決まった時点でほぼ勝敗が決する。そのような状況で本能のみに任せて攻撃を仕掛ける暴走状態は、自殺行為と言っても過言ではなく、フライビーモンは晒された隙に確実に攻撃をねじ込むことで勝利を手にした。

「言ったであろう。暴走などしていない状態で戦いたかったと」悲し気な瞳には、機能を停止し、微動だにしないメタルマメモンの姿が写る。

 

 こうしてすべての戦闘が終わる頃には、夜も明けはじめ、空を包む闇には太陽の光が切れ目を入れていた。

 

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