デジモンストーリー オールドフレンド 作:Tomato.nit
「あれは、あの時のティラノモンか。これは面白いぞ。新しいメモリの実験台に丁度いいじゃないか」
モニター越しにティラノモンを眺める声は狂気を含んだ笑いを響かせる。
その眼前には10枚に及ぶモニターとそれらから伸びる無数のケーブルが無軌道に這いまわり、4畳ほどの部屋を埋めている。
その背後には人が両腕を回すことも難しいような大きさの円柱上の水槽が鎮座しており、中には緑の液体が満たされモニターの明かりを受け、不気味な光を反射している
そして、液体の中では真っ黒なデジタマがただ静かに、目覚めの時を待つ。
平原を抜けてから3日、僕たちはようやくクロックタワーに辿りついた。
途中で暴走デジモンに襲われることは無かったものの、普通の野生デジモンには何度か襲われた。サイクロモンの群れに出くわした時はなかなか危険だった。
獲物を見つけたと喜ぶサイクロモン達だったが、ティラノモンが一言「お前たち、俺たちを食うもよりも、もっと美味いものが食いたくはないか」と。
基本的に野生のデジモン達は生きるために食事をする。特に成熟期や成長期のデジモンはより強く、生き残る為に、食事イコール栄養という側面が強いため、味は二の次である。
そんな状況であるのはサイクロモン達も変わらないようで、美味い食べ物など滅多にお目にかかることは無いらしく、魅力的な提案であった。
ティラノモンの背負う籠からありったけの食材を引っ張り出し、片っ端から料理してサイクロモン達に食わせたところ、美味い美味いと言いながら、綺麗に完食した。
もう一度ここに来て料理をすることを交換条件にその場を見逃してもらえた。
なんとかやり合わずに済んだのは胃袋を掴めばデジモンも人間も案外言うことを聞いてくれるからだ。
おかげでティラノモンが収穫した食材は一気に底をついたけど、命あっての物種だ。
クロックタワーは平原から続く森を抜けた先にその姿を表した。
金属と石で外装が形作られ、遠くから見ればのっぺりとした灰色だった塔は近くで見るとその材質の違いによって印象が変わる。
遠くからでもその姿が確認できることもあり、ある程度の大きさは覚悟していたけど、ハッキリ言ってこの大きさは予想外だ。
中でデジモンが戦えるくらいのスペースは余裕である。高さもそこら辺の灯台なんかよりよっぽど高い。
「ユウジ、入り口は丁度反対側だ。それにしてもでかいな。一周するだけでもかなりの時間がかかったぞ」
見回りを終えたティラノモンが戻ってきた。ここに来る少し前に大きな川があり、ティラノモンと僕を運んだお陰でメグはヘロヘロだ。空を飛べるエアドラモンはこの旅では貴重な移動手段である。
いかんせんティラノモンが重いので、いざという時にしか使えないのが難点だけど。
「お疲れ、ティラノモン。これ今できたところなんだけど食べる?」
「これは有難い。ところでこれは何という料理だ」
「この前肉畑でもらった巨大肉を、ニッコリンゴとシヲに漬け込んだ、唐揚げだよ」
唐揚げである。食材さえあれば料理は作れるので意外と何とかなるものだ。しかも、デジタルワールドでは肉が土になったり、木に果物以外にも食べ物が成っていたりと現実世界よりも食材は手に入りやすい。
「ユーヒ、ホヘ、メハフハホヒイイ」
口いっぱいに唐揚げを詰め込んだメグがはしゃいでいる。
「行儀悪いよ。メグ」
ゴクっと飲み込み、満足そうな表情。美味そうに食べてくれるのはいい気分だ。
「これは、ヤバいぞ、止まらん!」
早速食べ始めたティラノモンは物凄いスピードで、次々と唐揚げを胃袋に収めていく。文字通り山盛り作ったはずの唐揚げが一瞬で消え去る。
「ユウジ、一つ頼みがあるのだが」
唐揚げを食べつくしたティラノモンが神妙な面持ちでこちらに向き直る。
「な、何?」
あまりの迫力に少し後退る。何日も一緒に旅をして、ティラノモンの大きさには慣れたつもりだけど、そこまで近づかれるとやっぱりデカい。
「今度肉が手に入ったらでいい。もう一度、是非もう一度こいつを作ってくれ。頼む! 」
余程気に入ったのだろう。目からは涙を口から涎を垂らしながら懇願してくるティラノモン。
「ボクもまた食べたい」
こちらも涎を垂らしながら迫ってくるメグ。最近思うのだが、デジモンは食欲に対して従順すぎるのではないだろうか。そのおかげで何度か命は救われたので、僕にとっては悪いことではないのだけど、悪い人間に騙されないのか心配ではある。
食休みも終わり、元気満タンのティラノモンとメグ。ちなみにフライビーモンは町に行くついでに僕たちがクロックタワーに向かうことをガルダモンに報告してくれるとのこと。
伝書バトみたいに使い方だけど。
クロックタワーの内部はだだっ広い空間が広がっていた。中心には円形の舞台のようなものが用意されておりまるでリングの様だ。
そしてリングの中心には一体のデジモンが鎖に繋がれている。
グレイモン
デジモンとしての知名度は言うまでもないだろう。
ティラノモンと並ぶ体躯と橙の体、灰色の爪と頭部の角が特徴的な恐竜型のデジモン。
焦点の合わない目で、涎を垂らし暴れまわる姿は明らかに正気ではない。
鎖につながれた両の手足を無茶苦茶に振り回して、その戒めを解こうと足掻く。しかし、強靭な鎖はビクともしない。
「戦わずに済むならそれに越したことはない。先を急ぐぞ」
先に進むためのリフトのようなものはグレイモンを挟んだ丁度反対側にあり、最短ルートは勿論その横を素通りすることだ。
そして、恐る恐るその横を通り過ぎた時、カチリと音がした。
「やはり、そうなるか」
正直こうなる予感はしていた。枷が外れる音は全部で4つ。それが意味するのは背後のグレイモンが解き放たれたことに他ならない。
「ユウジ、ここは任せて貰えないだろうか」
僕たちに背を向けグレイモンに対峙するティラノモンはそんなことを言う。
「でも、メグも一緒に戦った方が」
「頼む。グレイモンには、奴には、一対一で勝たねばならんのだ」
譲らないティラノモン。
その理由は如何なるものか。僕にはわからないけれど、その決意は曲げることはできないだろう。
「分かった。ちゃんと追い付いてね」
「無論だ」
走る僕たちにグレイモンが迫るがティラノモンがそれを阻止する。
「貴様の相手は、この俺だァァァァァ!」
吠えるティラノモン。その迫力に押されたグレイモンは足を止め、標的を変える。
こうして二体の恐竜型のデジモンが激突する。
僕たちは、その結末を見届けない。
「頼んだよ。ティラノモン」
届かない言葉を背中に送る。今はそれしかできないから。
僕たちを乗せたリフトは一定の速度を保ったまま進む。
途中から見える塔の内部には大型の発電設備のようなものが見て取れ、中心の炉からは複数のパイプが伸びて、タービンに接続されている。
炉の先端が見えたころ、同時に次の階層が姿を表した。
第二階層も基本的な構造は同じだった。
そして、真ん中で僕たちを待ち受けていたのは
「アンドロモン」
完全体のデジモンだ。試作型のサイボーグデジモン。所々装甲が装着されておらず、内部がむき出しだ。試作型といえどもその力は侮ることができない。
出来ることなら戦闘は避けたいがどうにも無理そうだ。
「ユージは離れていて」
メグが一歩踏み出す。同時にデジヴァイスも光を放つ。やる気は十分。
それなら、行くよ!
「「ベタモン進化!」」
「エアドラモン!!」
先手必勝、メグは進化が終わるや否や、突撃する。
三日の旅で気付かされたこと。戦うだけが全てじゃない。戦局を外から見て、指示を出す。それだけでも不利な状況を覆せる。
男子三日合わざれば刮目して見よ。
戦えないなら、勝てる戦いにする。それが僕の役目だ。
空中戦ができるメグの方がアドバンテージはある。その点を加味すれば完全体相手と言えど、決して不利なバトルではないはずだ。
事実、ラプタードラモンとシードラモンのバトルではその点でかなりの苦戦が強いられていた。
上空から攻撃を行うメグに対して、アンドロモンは地上から迎撃するのみ。その動きは決して俊敏ではなく、人間の目でも十分に対応できるほどの速度である。デジモンにとっては見切るのは造作もない。
しかし、高度にプログラミングされ攻撃に特化した制御機構は恐ろしく正確な攻撃を可能とする。
一瞬の隙を突き、一撃必殺の威力を持って敵を屠る姿は正真正銘の完全体である。
空という圧倒的なアドバンテージを持っても、その攻撃力の差は埋められるかどうか怪しい。確率は五分だ。
エアドラモンの必殺技であるスピニングニードルは強力ではあるが、アンドロモンの装甲を打ち抜くほどの貫通力は備えていない。対して、アンドロモンのスパイラルソードはエネルギーを刃にして打ち出す技で装甲や甲殻を備えたデジモンならいざ知らず、鱗に覆われたエアドラモンには直撃すれば致命的である。
先ほどからメグの与えたダメージは装甲にいくらか傷を付け、露出するケーブルを数本引きちぎったのみ。
このままの展開が続けば、先にスタミナが尽きるのは残念ながらメグだ。
打開策が無いと遅かれ早かれ・・・
考えろ、アンドロモンはサイボーグ型デジモン。その体を構成するのは強靭な装甲と精密機器の数々と生体パーツの3つ。装甲を抜けないなら、内部から破壊するしかない。
機械ベースのアンドロモンには生体部品は最小限しか使われていないはず。であれば、その体の中身は機械がぎっしり詰まっている。
精密機械の弱点。
水は流石に対策しているはずだ。いざとなれば試してみるけどそれは最後の手段。
水が利かないなら・・・
機械である以上、金属は必ず存在する。
ある程度の延性が想定されて設計されている箇所なら、極低温で打撃を与えることができれば、破壊も可能なはずだ。
低温脆性、タイタニック号が割れた原因だとか聞いた気もするけど今はそんなことはどうでもいい。
「メグ!作戦がある。一瞬でいいアンドロモンから隙を作って!」
「分かった! 」
大気を操ることのできるエアドラモンの能力。この三日間の旅では移動手段の他、絡め手にも使った。その技の一つが
「コントロールミラージュ!」
自身と相手のデジモンにまで及ぶ広範囲の空気を同時操作することで気圧の谷を作り出すことで、蜃気楼を発生させる技だ。効果はシンプルに自分の位置を錯覚させることができるというもので、逃げる局面では非常に有効な一手であるが、戦闘では扱いにくい。というのも、演算処理が膨大で攻撃が疎かになってしまうからだ。
でも、隙を作るならこれほどうってつけの技は無い。
幻影に向けて攻撃を放つアンドロモン。
ここがチャンスだ!!
「スライドエヴォリューション!」
僕の声と共にデジヴァイスが光を放ち、メグの体はシードラモンへと書き換えられる。
「凍らせて!」
背後を取ったメグのコールドブレスでアンドロモンは徐々にその身を氷に閉ざされる。
背後からの攻撃に反応が遅れたアンドロモンは左半身が氷結するが、残った右腕からエネルギー刃を形成し、メグに切りかかる。
地上が苦手なシードラモンと言えど、半身が使えず動きの鈍った相手の攻撃を大人しく食らう程、鈍足ではない。
攻撃が回避され姿勢を崩したアンドロモンの左半身に、長い尻尾による十分な遠心力を込めた一撃が叩き込まれ、装甲と共にその身を覆う氷が砕け散った。
狙い通り!
少し賭けだったけどうまくいった。
半身が砕け散りアンドロモンの瞳からは光が失われる。破片が転がる中、例のメモリが転がっている。
「お疲れ、メグ」
「ありがとう、ユージのおかげだよ。でも、どうしてアンドロモンに攻撃効くようになったの?」
「説明すると長くなっちゃけど。簡単に言うと、金属は冷やすと脆くなるんだ」
「すごいね。魔法みたいだ」
「魔法っていうか科学だけどね」
十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。これはクラークの三法則だったっけ。
その現象を確認する者にとって、理解の範疇を超えていれば科学も魔法も、過程が異なるだけで結果は同じだ。
そして訳の分からないものは魔法として括ってしまえば余計な思考は捨てることができる。その点では魔法は化学よりも優れているのかもしれない。
アンドロモンに勝った僕たちは次の階層を目指す。
次の階層に向かうリフトから見える内部構造はさっき見た喧しい発電設備ではなく、同じような箱が延々と並ぶサーバールームだ。
そして寒い。熱を籠らせないための処置なんだろうが、人の身には厳しいものがある。
肩を震わせているとメグが巻き付いてくる。
あったかい。
「ユージ大丈夫?」
これなら凍える心配はしなくても大丈夫そうだ。
後どれくらいあるのだろう。ただ、この棟の構造的には一つの階層に対して、発電設備やサーバールームがかなりの割合を占めているため、この構造が続くのであれば階層は多くない。そんなことを考えていればサーバールームの終わりが訪れる。
そして、到着した第三階層は今までと大きく趣が異なる。
デジモンが繋がれてはいる。一体ではなく何体も。見渡す限り檻が所狭しと並べられ、その中には様々な種類のデジモンが鎖で拘束されている。
「酷い・・・」
隣で呟くメグの声は少し震えている。この光景を目にすれば無理もない。
檻の中のデジモンはすべてが暴走している訳ではないようだ。暴走したデジモンとそうでないデジモンの区別は単純で、その目を見ればだいたい分かる。
焦点の合わず赤く輝く瞳が暴走の特徴だ。昆虫型など瞳の無いデジモンでは分かり辛いが、行動からの判断も出来る。
「あそこの檻、町で行方不明になってたデジモンだ!」
二体のギルモンが繋がれている牢に向かうメグ。
「誰かが町のデジモンを拉致して、暴走させていた。ってことだよね」
鉄格子の向こうでは突然近付いてくるシードラモンにビビりまくっている二匹のギルモンが。そりゃ、いきなり行ったら怖いって。
「メグー、自己紹介しないと分かんないよー」
ハッとしたメグは慌てて、
「ボクだよボク。メグだよ。この姿じゃ分かんないか」
「メグ?町のベタモンのメグ?」
「進化してる?」
と口々に喋るギルモンコンビ。
「柵から離れて、壊すから」
先ほどアンドロモンを倒した時と同じ要領で檻を叩き壊すメグ。
戒めから解かれたギルモンたちは、はしゃいでメグの周りをぐるぐると回っている。
「そういえば、誰にここに連れてこられたか覚えてる?」
すると、ピタっと動きを止め、顔を見合わせるギルモンズ。
「「・・・デビモン」」
余程怖い思いをしたのだろう。
肩が震えている。
ギルモン達をこのまま上に連れていくのは不味いか。
ざっと見まわしたところ、周囲の檻の中で暴走していないデジモンは残り6体。
「メグ、暴走していないデジモンを全員解放してあげて。上に進むのはそれからでも大丈夫だし」
メグはうなずくと近場の檻からデジモンを開放し始める。
「ねえ、ギルモン。デビモンにここに連れてこられてからの事、教えてくれる?」
メグが完全にデジモン達を開放し終わる頃にはギルモン達から大方の事は聴けた。
その内容は、予想していたよりも惨い。
止めない理由は今のところ見つからない。
握りしめた拳を空の檻に叩きつける。鈍い音が響き、辺りは一瞬の静寂に包まれた。
血の滲む拳にギルモン達がそっと手を添えてくれる。
「ごめん」
ギルモンたちは黙って見ているしかなかった。それがどれほど辛いことなのか。僕は知っている。
そうだ、落ち着け。怒りに任せるだけじゃダメなんだ。今、しなきゃいけないことをちゃんとしよう。
助け出したデジモンは、ギルモンズ、バードラモン、パタモン、ゴツモン、コテモン、ドリモゲモン、リボルモンの合計8体。
「ドリモゲモン、あの壁、壊せる?」
「任せろい」ドリルを唸らせ壁に向かうドリモゲモン。壁と螺旋が激突し、砂粒をまき散らしながら穴が穿たれていく。この調子なら大丈夫そうだ。
「バードラモン、皆の事任せたよ」
「命の恩人の頼みだ。断る理由もない」全身の炎が勢いを増し、その意思を反映する。
自分でも驚くほど頭がすっきりしている。目の前の障害を効率よく排除する方法が次々浮かぶ。
「町の事は任せたよ、ギルモン。ガルダモンによろしく伝えてね」
これじゃ死んじゃうみたいだけど、そんなつもりは微塵もない。
後は、まだ追い付いていないティラノモン。
「ティラノモン。待ってるよ」
今は信じるしかない。行かせてくれたティラノモンを僕も信じる。
後はデビモンを止めるだけだ。
「メグ、上に行こう。デビモンはここで必ず倒す」
メグは何も言わずに頷いてくれる。これ以上心強い味方もいない。
上の階層に続くリフトがゆっくりと昇降場に到着する。僕らを迎えるかのように。