デジモンストーリー オールドフレンド   作:Tomato.nit

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第六話 曇天

「ようこそ、邪魔者諸君」

 

 最上階にたどり着いた僕たちの目の前にはデビモンが待ち構えていた。右腕を折りわざとらしくお辞儀をする。仕草こそ優雅に紳士的な振る舞いだが、その纏う雰囲気は邪悪そのもの。

 

「初めましてデビモン。一応聞いておくけど、悔い改める気はないかな」

 ギルモン達に聞いたデビモンの行い。

 許す気はない。でも、心を入れ替えるなら。尊重する。

 その気があるなら。

 

「悔い改めるか。では、問おう。私は何を悔いればよい。」

 両手を広げるデビモンの背後にはスクリーンが展開され、映像が映し出される。

 

「デジモン達にメモリを埋め込んだことか?」

 その言葉に連動するように凄惨な映像がスクリーンに映し出される。

 鎖に繋がれ、逃げることもできないグレイモンの首筋にメモリが差し込まれる。体が跳ね、拒絶を示すが、逃れる術は無く、もがき苦しみながら、メモリの支配に蝕まれてゆく。

 

「生きたまま喰らったことか?」

 衰弱し動くこともままならないエレキモンが映し出さされる。見上げる視線の先にはデビモンの姿があり、ニタニタとした笑みを浮かべエレキモンの腕を引きちぎり、口に運んだ。意識を失うエレキモンを叩き起こし、更に食らう。

 

「恐怖の感情を得るために弄り殺したことか?」

 吊り下げられサンドバックにされるデジモン達。

 

「暴走させ死ぬまで戦わせたことか?」

 大量のデジモンの亡骸を踏みしめ、立つオーガモン。その瞳は赤く、体は傷だらけ。そして新たな敵が送り込まれ、戦闘が始まる。

 

「どれか一つでも悔いるようなことがあるだろうか。私の崇高な目的のための礎となれたのだ、感謝して欲しいものだ」

 

 やっぱりそうか。こいつは。

 自然と拳が握り込まれる。

 怒りに任せちゃいけない。分かってる。押さえろ。

 デビモンの高笑いが響く。そして

 

「そうだ。もう一つあったよ。

 君のお友達のティラノモン、彼に強化型のメモリの実験台になって頂いた。

 これは、許しを得なければならないことかな?」

 

 今、こいつ、何て、言った。

 

 パチン

 

 デビモンが指を鳴らす。

 そして、足音が響く。聞きなれた響きだ。

 何日も聞いた音だ。聞き間違うはずもない。

 

 スクリーンには、グレイモンとの戦闘を終え、で息をするティラノモンが映し出される。その背後から、デビモンが音もなく忍び寄り、何の前触れもなく、デスクローを放つ。

 意識を失ったティラノモンを抱え飛び去るデビモン。

 リフトではなく直接上階に登る。

 そして、暗闇の中でメモリを首筋に突き刺され、のた打ち回るティラノモン。

 

 その映像を突き破り、ティラノモンが姿を表す。

 その瞳には僕たちの姿は正しく映ってはいない。赤い光を放つ目が何を意味するのか。

 

「ティラノモン・・・」

 僕の声はその耳には届かない。

 

「感動の再開をしているところ、申し訳ないのだが、もう一つプレゼントがあるのだよ。」

 もう一度指を鳴らす。

 ティラノモンの瞳が紅に染まる。

 

「グアァァァッァァァァアアアア!」その身を引き裂かんばかりの絶叫を放つ。

 

「ティラノモン!」

 やはり声は届かない。そして悲痛な呻きはその強さを増し、その体を闇が包む。

「ティラノモンになにをした!」

 高笑いを続けるデビモン。

 

「さあ、ティラノモンよ、メモリの導きに従い進化せよ。ダークネスエヴォリューション!! 」

 

 デビモンンの開発したメモリ、名称はのちにデビメモリとふざけた名前を付けられるのだが、その効果は絶大である。

 まず、デジモンの身体能力の向上。デジモンの意識を奪い去ることで痛みや恐怖といったおよそ戦闘の妨げになるものを排除し、純粋に野生の力を増幅する。

 意識を奪うことで、メモリ所有者の命令を一方的に受け付けるようになる。

 そして、改良を重ねた結果、強制進化という機能を得た。

 デジモンの進化には経験とキッカケが大きく関与する。その点に着目したデビモンにより、このメモリには二つのデータが収められている。

 一つは過去の暴走デジモンから同期して得た、大量の戦闘データ。

 一つはクロックタワーで、デジモン達から集めた恐怖の感情データ。

 外部から無理矢理経験を与え、恐怖という生物にとって最も抗い難く、同時に抗わなければならない感情を大量に与えることで、二つの要素を満たす。

 

その結果もたらされるのが暗黒進化である。

 

 体を包む闇は密度を増し、ティラノモンの体は完全に見えなくなる。

 中からは際限なく、呻き声が響き、耳を覆いたくなる。

 断末魔のような声を上げ、一瞬呻きが止まる。辺りに響く音はデビモンの笑い声のみ。

 そして、闇が徐々にティラノモンの体に吸い込まれて行く。

 赤かったその体は、灰色に変化し、闇が形を変え、その身を覆う装甲となる。

 

 メタルティラノモン

 それが今の彼の名だ。

 

「さあ、メタルティラノモンよ。自身の手で、友を葬るが良い」

 デビモンの号令と共にメタルティラノモンが動き始める。

 戦うしかないのか。あのティラノモンと。

「お前は絶対に許さない」

 これまで一言も発しなかったメグが、言い放つ。今までに見たことのない表情は完全な怒りだ。

 メグにはデビモンの非道は伝えてなかった。そんなことは僕だけが知っていればいい。仲間が無残に殺され、実験の材料にされていたことなんか知らなくてもいい。そう思っていたから。

 見てしまった。聞いてしまった。その光景を。

 

 エアドラモンに姿を変え、デビモンに突っ込むメグ。その瞳は紛れもなく怒りに染まっていた。

 

「おっと、貴様の相手はそいつだ」

 しかし、その牙は届くことなく、メタルティラノモンに阻まれる。攻撃を躊躇ったメグは殴り飛ばされ、僕の脇にまで吹き飛ばされっる。

 

「それでは、親友同士仲良く殴り合ってくれたまえ」

 そう言い残し、デビモンは背後の闇に姿を消す。

 気が付けば、僕の額からは赤い血が一筋流れている。メグが吹き飛ばされた時に破片でも飛んで来たんだろう。どうでもいい。

「ティラノモンを止めるよ」

 メグは既に地を離れ、空を舞っている。羽ばたきを間近に受け、僕の服が風に靡く

 僕もメグも想いは同じだ。

 

 ティラノモンを取り戻して、デビモンをぶん殴る。

 

「メグ、勝てる?」

 

 隣のパートナーに問う。

 

「これじゃ、ちょっと厳しいかな」

 

 少し申し訳なさそうな声。でも、申し訳なさそうなのは少しだけ。

 残りは自信だ。

 

 ここまで来た経験とティラノモンと作った思い出。

 

「今の僕たちなら」

 

 それが力をくれる。力になる。

 

「うん」

 

 友達を救う。そのために。

 

 いつしかデジヴァイスはその色を変じている。額から流れた血がその画面を濡らすが、吸い込まれるように、色が濃くなる。

 

 

 チカラが要るんだ。

 

 青かったその色は深い橙となり、濃青紫の刺し色が入る。この色が何を意味するのか。答えは、知っている。

 

「「エアドラモン進化!!」」

 

 ティラノモンは絶対に助ける!

 オレンジの光がメグを包み込み、新たな姿へと組み替える。

 

 空を舞うその体は更なる高みへ上る。より速く、より強く。

 

「メガドラモン!!!」

 

 デジヴァイスと同じカラーの体に深い青紫の翼。

 エアドラモンでは失っていた二本の腕と頭部を覆う金属装甲。

 

 その姿は、あの時、僕たちがたどり着いたもの。

 

 もう一度来れたんだ。ここまで!

 

 ただ、強さを求めていたあの頃。

 今は、強さが必要なんだ。友のために。

 「「行くぞ!!」」

 

 ミサイルとミサイルがぶつかり激しい爆発が生じる。

 完全体同士の戦闘は今までの戦闘とは圧倒的に規模が違う。さっきから爆発やら破片やらから逃げるのに精一杯だ。

 

 僕たちの目的はあのメモリの支配からティラノモンを開放すること。

 メタルティラノモンの主な攻撃手段は右腕から放たれるギガデストロイヤーⅡと左腕から放たれるヌークリアレーザーの二つと機械化された強靭な体そのもの。

 

 対地迎撃を想定し改造されたその体は、地上は言うまでもなく空に対しても十分な攻撃力を有する。何より、その強固な装甲はあらゆる攻撃をはじき返す。

 対するメガドラモンは対空迎撃用のデジモンである。機動力と攻撃力を高い次元で両立させることでその性能は担保されている。

 当たらぬ攻撃と効かぬ攻撃、勝利の女神は空か大地どちらに微笑むの

 

「いい加減に目覚ませ!ティラノモン!!」

 進化した影響でメグの性格はかなり変化している。よく言えば大胆に、悪く言えば粗雑に。

 攻撃の殆どを見切るように躱す回避行動は見ているとハラハラさせられる。

 

 メガドラモンは攻撃を回避しながらジェノサイドアタックによるミサイルの乱れ撃ちにより膨大な手数で攻撃を行うが、その尽くは着弾する前にメタルティラノモンのヌークリアレーザーが迎撃し、爆炎をまき散らす。

 爆炎を潜り抜け標的に着弾するもその分厚い装甲により思った通りのダメージは通らずメグにとっては歯痒い展開である。

 暴走状態のメタルティラノモンはその行動の多くが本能的な動きである。ティラノモンの時の、暑苦しいが冷静な様子は微塵もなく、ただただ暴れまわるのみ。

 

 その瞳に映るメガドラモンは破壊する標的でしかない。もう一つ先ほどから視界の先にはちょろちょろと動き回るデジモンではない存在が。人間である。

 

「ウットウシイ」

 無機質ではあるがどこか怒りを含んだ声を発するメタルティラノモン。

「今、喋った?」

 黒煙の中から僕を一瞥したメタルティラノモンは一言呟くと再び、メグに向き直った。

 今までの暴走デジモンは吠えたり呻いたりはしたけど、言葉を発することは無かった。言葉を発する。小さいけれど明確な違いだ。

「どんだけ硬えんだ!装甲抜ける気がしねえ」

 ミサイルと一緒に文句も垂れているメグ。確かにこのままじゃ埒が明かない。

 問題はさらにある。戦闘規模が大きすぎることだ。この階層は重要設備の為か、金属で補強されているので他の階層に比べて頑丈ではあるが、如何せん、暴れ回っているのがどちらも完全体で、その破壊力は言うまでもない。

 戦闘が先か塔が先か、どちらが先に終わるかのチキンレースが同時に開催されていた。

 

 効果的なダメージを与えるには、装甲の隙間に的確に攻撃するしかない。

「となると、こっちで引き付けてその間に格闘戦を仕掛けるか」

 僕の手元にあるのは鍋のみ。鍋。

 何かが引っかかる。

 気を引く。

「さっきは僕の事を無視したんだよね」

 そう、無視された。小物など放っておけばいいと言わんばかりに。無視するということは。

「意識があるってことか!」

 なら、倒す必要はない。正気に戻せばいい。

 闘争本能が強化されている状態なら、それを上回るものをぶつけるしかない。

「だからこれが気になったのか」

 手元の中華鍋が爆発の光を反射し輝く。

 流石にこの状況で料理するわけにはいかないけど。

  

 

「メグ、僕を乗せて」

「危ねえぞ。やめとけ!」

 回避しながら片手間に断られる。でも、賭けるしかない。

「このままじゃ、どっちみち塔が先にぶっ壊れちゃう。唐揚げにかけてみる」

 

「唐揚げって、何言ってんだ、ユージ」

 爆風でメタルティラノモンの視界が奪われたタイミングでメグの左腕に飛び乗る。

「ちゃんと攻撃避けてね」

 軽口を叩くが、流石にアレは生身で当たると死んじゃう。

「任せろ。今んとこ当たってない」

 頼もしいような、不安なような。やるしかないんだけど。

 

 爆風が晴れれば、再びミサイルが迫ってくる。こちらに向かってくるミサイルの迫力は半端ではない。

 

「ミサイルの信管って抜ける?」

「信管っていうか、爆発しないようにはできる。どうする気だよ?」

「ちょっとメタルティラノモンの目を覚まさせに、殴ってくる」

 メグは黙ったまま固まっている。

 目は物凄く冷ややかだ。

 

「・・・ユージ。言いたくはないが、お前バカだろ」

 

 言われるとは思っていたけど、いざ言われると傷つく。

 それはそうと、出来るなら問題ない。

「早速やってみようか」

「勝手にしろ」

 諦めた口調のメグ。この状況が続くのがジリ貧なのはお互い理解している。

「ミサイルは僕が操作するから、出来るだけメタルティラノモンを引き付けて。裏から回り込む」

 メグの右手から大量のミサイルが放たれる。殺到するミサイルが迎撃されている隙に、こちらもミサイルに跨り、大回りで後ろから回りこむ。

 メグの攻撃に気を取られていたおかげで、安全に後ろに回りこめた。

「これで行ける!」

 もう、メタルティラノモンは目と鼻の先だ。

 飛び移ろうとした瞬間。こちらを振り向くメタルティラノモン。

 目が合う。

 

「これでどうだ!」

 鍋の腹を鼻先に叩きつける。ダメージを与えるのが目的じゃない。

 メタルティラノモンの動きが一瞬止まる。

 匂い。

 鍋を最後に使ったのは数時間前。

 そして、その時に料理したのは勿論、唐揚げ。

 鍋に残る油の香り。

 意識があるなら、後は、思い出させるだけだ。

「それ、何の匂いか分かるよね」

 動かないメタルティラノモン。話は通じているだろうか。分からない。けれど、語り掛けるしかない。

「あの時言ってたじゃない。もう一度、食べたいって」

 やはり動かない。しかし、その瞳の奥には確かに僕が写っている。

 瞳の赤は僅かだが、確実に薄くなっている。

「だからさ、そんなメモリに負けないでよ」

 届いただろうか。

「カ ラ ア ゲ」

 

 そして、メタルティラノモンが言葉を紡ぐ。

 

「タベル、カラアゲ」

 

 一言、一言、言葉と共に瞳に赤は抜け落ちる。

 

「俺は、もう一度、唐揚げを、食う!」

 

 魂の叫びとでも言えばいいのだろうか、意識は完全に唐揚げの支配下にある。

「ユウジ、迷惑をかけたな」

 メタルティラノモンはメモリを引き抜きながら、こちらを見る。

 僕はずっと鼻先に掴まったままなので、目との距離は過去最高に近い。

 でかい。進化したおかげで一回り大きくなっているので、なおのことでかい。

 メモリも引き抜いたし、もう大丈夫だろう。

「ユージ!メタルティラノモン!大丈夫か?」

 様子を見守っていたメグもこちらに飛んでくる。

「メグも済まなかったな。散々迷惑をかけた様だ」

 

「謝ることはねえ。悪いのは全部デビモンだ。ってか、メタルティラノモン、進化は解けねえのか?」

 言われてみれば確かに。

「ああ、どうやら俺の場合はメモリの作用はあくまでキッカケだけで、戦闘経験の方は自前のもので足りていたみたいだな。暴走デジモンと戦ったのが大きい分、一部はデビモンのおかげというのも複雑な気分だがな」

 

「それは俺もだ」 

 

 喜ぶべきなのか、怒るべきなのか、確かに複雑な心境だ。

 戦闘が終わり静寂を取り戻した空間。

 僕たち以外の気配は感じられない。あのデビモンのことだ、既にこの塔にはいないだろう。

 

「デビモンの野郎は逃げたか。センサーに反応がねえ」

 メグの方も同じ結論らしい。

「しかし、この階層には結構な設備があった。手掛かりがあるやもしれん、家探しだ」

 

 メタルティラノモンを先頭にスクリーンの奥を調べることに。

 この階層は主にメモリの製造とベータの解析に使われていたらしい。パーツが組み合わせられている途中のメモリがデスクの上に並べられ、開きっぱなしのパソコンには、デジモン達から採取したデータが大量に保存されている。

 この塔で採集していたのは、バトルログと感情データ、メモの効果、の3項目。

 

 ティラノモンの使用記録も残っており、最終更新はついさっき、戦闘の終了までデータの記録がされていた。正確には記録は自動保存で今も転送されている。

 

 転送先は暗号化されていて判別できない。

「データはスマホに保存して持っていくか」

 幸い数字のデータなら大した容量にはならない。

 しばらくスマホを突き刺してカチカチやっていると、背後からメグの呼ぶ声が響く。

 

「ユージ、この地図はなにー」

 

 いつの間にかメガドラモンからベタモンに戻っており、壁に張り付いて地図をぺしぺし叩いている。

 その地図は、僕たちが今いる島「スレッド島」の全景と、いくつかの場所に赤い印が打たれている。

 そのなかの一つは、ここ「クロックタワー」にプロットされている。

「この地図の場所分かる?」

 メグはさっぱりわからないようで、首を振っている。遠くでゴソゴソやっているメタルティラノモンに尋ねてみる。

「全部は分らんが、ココとココなら行ったことあるぞ。どちらも辺鄙な場所で、近くに集落もなければ、辺りには偏屈なデジモンばかりの秘境のようなところだ」

 

「なら、デビモンの研究施設ってことか」

 

 人気というよりも辺りにデジモンがおらず、邪魔される心配のない場所。研究にはピッタリだろう。その研究の内容は決して許すことはできないものだが。

 地図上に打たれた印は全部で6か所あり、丁度島の中心に位置するところに一か所、残りは島の外周に沿うように円形に5つ配置されており、クロックタワーは北端に位置している。

 ここから一番近いのは島の東に位置する場所だ。デビモンの手掛かりは今のところこの地図だけ。次の行先も決まっていないため、近いところから攻めるべきだろう。

 

「次の行先はここにするとして。下の階層のデジモン達はどうしようか・・・」

 

「ここって、暴走させるためのメモリ作ってたんだよね。反対の鎮静剤みたいなのって無いのかな?」

「収集していたデータを見た感じでは鎮静剤はなさそうだね。でも、いい案だよメグ。メモリの使用データはここに在る訳だし、研究設備さえあれば作れるはずだよ」

 褒められ嬉しいのか、メグは喜んでいるけど、問題自体は解決していない。

 

 どうしたものかと考え込んでいると、僕たちの背後で機械の駆動音が響き、デビモンが使ったスクリーンと同型のものが展開される。

「諸君、面白いものを見せてもらった。いやはや、どちらも生き残るとは少々予想外だったがね。おかげで、弱った所を仕留めるという私の計画が台無しだ」

 

 スクリーンにはデビモンの姿が映し出されている。

 

 ことの顛末を知っているということは、録画ではなく、リアルタイムで撮影しているということか。

 

「貰ってばかりというのは私の主義に反する。そこで、君たちに愉快なショーをプレゼントさせて頂こう」

 そうしてデビモンはスイッチのようなものを取り出す。

 

 嫌な予感しかしない。

 

「いきなり押しても構わないのだが。それでは面白みがない。一つゲームをしようではないか」

 その手元にはさらに3つのスイッチが現われる。合計4つとなる。

 

「これは各階層の爆破スイッチだ。一階にはグレイモンが、二階にはアンドロモンが、三階には大量のデジモンが、そして4階には君達」

 

 考えたくもないが、それを止めるためのゲームとは。

 

「君たちの価値観では、命の価値は命でなければ救えないのではないのかな。私はそうは思わないのだが、今回は君たちに合わせるとしよう」

 デビモンが指を鳴らせば、機械の駆動音が響き、4つの檻が引き上げらる。

「私は今から五分おきに、順番にこのスイッチを押す。君たちはそこの檻の中身を殺したまえ。そうすれば、対応する階のスイッチは無効となる」

 

 まさに悪魔の提案だ。

 

「そんなこと出来るわけないだろ!」

 思わず声を荒げる。

 

「これはゲームだ。動けないもの達を見殺しにするか、目の前の風前の灯のような命を消すか。安心したまえ、そこにいる四匹のデジモン達は私が散々痛めつけた者だ。私の計算が正しければ、30分もすれば息絶えるだろう」

 

 デビモンの言葉には嘘はないだろう。その証拠にデジモン達は鎖につながれている訳でもないのに身動き一つしない。

 たとえここで助けたとしても、治療が間に合う確率は限りなく低い。

「外道が」

 

 メタルティラノモンが静かに吠える。

 

「そう怒るな、メタルティラノモンよ。貴様がその姿に進化できたのは言うなれば私のお陰ではないか。感謝したまえよ」

 

 笑うデビモン。僕たちに笑顔も出るはずはない。

 刻一刻と時間は過ぎ行く。

 

「さあ、そろそろ最初のスイッチを押す時間だ。やるかやらないか好きな方を選びたまえ。所詮失われる命は一つだ」

 

 冷静に考えれば、グレイモンを助けるべきなんだろう。だが、罪のないデジモンの命を奪うことに他ならない。

 葛藤が僕たちを包む。

 

 そして、残り1分。

 

「そこまでだ」

 僕たちの背後から、突如声が発せられる。

 そこには、ボロボロになりながらも、アンドロモンを背負っているグレイモンの姿が。

「おおよそ事体は飲み込めた。我々二人は問題ない。そこの二匹を助けてやれ」

「これはこれは、負け犬諸君。遥々こんなところまで来たのかね。私に復讐でも考えていたかな」

 図星と言えば図星なのだろう。言葉を発さず、ただスクリーンを睨みつけるグレイモン。

 

 その表情は怒りに燃えている。

 

「邪魔者が入ってしまったが、まあ良い。それでは残りの二匹を処分するか下の階層の死にぞこないを処分するか選びたまえ」

 

 そう、ゲームは続行中だ。

 

 四階は爆破させても何とかなる。でも三階のデジモン達は助けなければ確実にに死ぬ。

「退け。俺がやる」

 グレイモンが進み出る。

「待って!他に方法が・・・」

 

「無いだろう。今更、一つ罪を重ねたところで俺の罪の重さは消えん。こんな役目は俺のような悪人に任せればいい」

 

 その口元からは炎が溢れ出している。咢から漏れ出る炎は破壊の象徴か、それとも怒りの体現なのか。体内で生成された膨大な熱量は凝縮されることで、その威力を増幅される。メガフレイム。それがグレイモンの必殺技だ。

 

 爆炎の標的は眼前のガジモン。力なく横たわり、その瞳は虚ろに、何も写していない。

 

 ひたすら繰り広げられた暴虐により、その心も体も完全に外界を受け付けない。生の定義を何とするのか。少なくともこの状態は限りなく死に近く生からは遠い。

 

「さあ、時間だ。選びたまえ」

「メガフレイム」

 

 デビモンの問いに返されたのは無慈悲な爆炎。

 小さな体を焼き尽くす炎は一瞬にしてその命を奪い去る。数々の拷問の記憶を焼き払うかのような炎。それは彼にとっては聖火のように映ったかもしれない。

 

「くっくっく、良い!良いぞ、グレイモン。貴様の容赦の無さ、そこの臆病者たちにも分けてやるが良い」

 

「黙れ。貴様は俺が殺す」

 

 再びグレイモンの口からは炎が迸り、飛び散る飛沫は赤く辺りを照らす。

「さあ、ゲームの時間は次で最後だ。一応聞いておこうか。このまま続けるかね?」

 

「いや、ゲームはここまでだ。これ以上命は奪わせない。僕たちだけなら」

 

「そうか。ならばゲームは終わりとしようではないか」

 

 そうしてデビモンはスイッチを握り潰した。

「ゲームは終わりだ」

 新たなスイッチがその手元に現れる。

「今からは私の一方的な虐殺の時間だ。このスイッチを押せば塔は崩壊する」

 

 やはりこいつは純粋な悪なのだろう。圧倒的な悪意に対して、対抗する手立てがあまりにも無い。

 

「さあ、五分だ。時間を与えよう。逃げるも良し。助けるも良し。もしかしたら私は塔にまだいるかもしれない。探してみても良いな。最後の五分だ有意義に使いたまえ」

 

 モニターにはカウントダウンが表示される。死への秒読み。それは誰にとっての死なのだろうか。

 

「クソッタレが!逃げるぞユウジ!」

 

「でも、下にはデジモンが!」

 

「諦めろ。ここで死ぬわけにはいかない」

 

 グレイモンは有無を言わさず僕を抱え上げ、メタルティラノモンとメガドラモンに進化したメグが壁に攻撃を仕掛ける。先ほどまで激闘が続きダメージが蓄積した壁は容易に崩れ、空が露出する。しかし、硬く分厚い壁はなおも健在であり、通路となるには程遠い。

 

 黒い雲に覆われた曇天の空が続いている。

 

「俺は大丈夫だ。メグ、グレイモンを頼む」

 

 ティラノモンが一階に置いてきた籠に、救出したデジモンを放り込んだグレイモン。メグがまとめて抱え上げる。

 脱出の準備を整える間も、メタルティラノモンは攻撃の手を緩めず、壁には次々と穴が生まれる。

 

「俺も手を貸すぜ。ジェノサイドアタック!」

 

 壁に向かう爆撃はその密度を増し、破壊の爆嵐となる。外から入る光は少し、また少しその強さを増す。

 

 そして外壁の崩れ去る音が響き、大穴が現われる。これで脱出は出来る。

「時間切れだ。死ね」

 カチっという無機質な音。ひどく冷たい破壊の始音。

 塔の各所では爆発が起き、その巨体を支える根幹が次々と破壊される。

 僕たちのいる場所も例外ではなく、今まさに天井が音を立てて、崩れ落ちてきている。

 

「俺が支える!先にいけ!!」

 

 その天井を支えるメタルティラノモン。

「頼む!」

 

 全速力で駆ける。空を目掛けて弾丸の如く。凄まじいGが僕らを襲い、意識が持っていかれそうになる。

 でも、目は閉じない。この光景から目を逸らしちゃいけない。それが生き残る僕たちの使命なのだから。

 

「よし!抜けた!メタルティラノモン来い!」

 

 空へと飛び出したメグが振り返る。そこには、落ちてくる天井をミサイルでぶち抜き、瓦礫をものともせずに疾走するメタルティラノモンの姿がある。

 劣悪な足元だが、それをものともせずに走破する。出口に到着する頃にはその速度は助走としては十二分なまでに高まり、大跳躍を可能とする。

 

「来い!!」

 

 メグが腕を伸ばし、そこにメタルティラノモンも腕を伸ばす。

 二つの腕が触れあった瞬間、一際大きな破砕音が響き渡り、塔が崩れる。

 一階、二階、と土煙を上げ、順番に崩れ落ちる塔。そして三階。数多の命が奪われる。一瞬にして。

 

 曇天の空はいつしか雨を産む。

 上がる土煙を空から降る水滴が抑え込む。空へ向かう命の残滓は天の恵みが無情にも地に還す。

 

 刻一刻と強くなる雨脚。大粒の雨は僕らを撃ち付ける。僕らは完全に屈していた。悪意に。圧倒的な悪意の前に。

 ただ、成す術もなく、されるがまま。

 

 認めたくはないが、それしかない。

 

 僕は。僕らは。デビモンに負けた。

 

 雨は止まず、大地を黒く染めて行く。

 

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