ポケモンの言葉が理解できるんだがもう俺は限界かもしれない   作:とぅりりりり

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落ち葉は語る

 

 

 

 レモさんを襲うヌケニンの攻撃は意外な存在によって弾かれる。それはやたら目つきの悪いピチューだ。

【ひっさしぶりに出てこれたと思ったらこれでちか!】

 開幕悪態をつくピチューはレモさんのでもアクリの手持ちでもない。

 そう、まだここにいない唯一の人物。そして、一度も手持ちを見せたことがない女がいる。

「レモンちゃん大丈夫?」

 まったく心配などしていないような声。甘ったるい声にピチューは渋々引いて声の主の足元に立つ。

「ハツキ、無事?」

 片目だけで俺をじっと見るオチバだが機嫌が少し悪いような気がする。

「あいつ……!」

 離れたところからサディが歯ぎしりするのが聞こえた。一方オチバは自分の腰についたボールを見て面倒そうにため息をつく。

「はぁ~……まさかこの私が手持ちを晒すことになろうとはねぇ……」

 心底嫌そうに言うけど元凶はお前だよ。

「まあ、戦力には数えないで頂戴」

 そう言ってボールを放つと飛び出たのはファイアロー。やけに目付きが悪くオチバを睨み、渋々といいたげにオチバから視線をそらして敵二人を見下ろした。

 次いでゴンベとトゲピー、更にはグレイシアとポカブが並ぶ。ちゃっかりこいつ、手持ち6匹揃ってるじゃねぇか! 確かに進化前も多いので戦力になるかと聞かれるとやや不安ではあるがファイアローだけでも十分頼れると思う。

「これだけの戦力差があれば余裕でしょう。さあ、観念しなさい!」

 レモさんの掛け声に合わせてアクリのドーブルたちも一緒にピーとサディの手持ちを攻撃する。

 エモまるを出してもいいが逆にエモまるがやられると俺は身を守る術がなくなるのでおとなしく守られることにします。やっぱり手持ち増やそう……。

 ふと敵に攻撃しているのがレモさんとアクリのポケモンしかいないことに気づいてオチバの方を見る。

 

「待って、待って待って痛い痛い痛い」

 

 振り返ると自分の手持ちにフルボッコにされているオチバがいた。

 ファイアローだけは攻撃してないものの残りの5匹から新手のふくろだたきを受けているオチバはなんかもう、コントの域に達していた。

【てめー都合のいいときだけ呼び出してんじゃねーよ、ブス!】

【焼いて食ったろか! あぁん?】

【誰がかきごおりだゴラァ! お前の頭から赤いシロップ出してやろうか!】

 手持ちがそこそこ揃っててやるじゃん、と見直した俺が馬鹿だったようだ。全く懐かれてない。すごい暴言の嵐。めちゃくちゃ俺がストレス溜まるタイプの手持ちとトレーナーの関係だこれ。

「だから手持ち出すの嫌なのよー!」

「むしろどうやったらそんなに嫌われるんだよ!?」

 頭を庇いながら手持ちたちからの猛攻に耐えるオチバを一応助けてやるとオチバの手持ちたちは不満そうにフーッフーッと息を荒げる。

【お兄ちゃんどいてそいつ殺せない!】

「誰がお兄ちゃんだ! あと、今! 敵! あっち!」

 見ず知らずのトゲピーにお兄ちゃん呼ばわりされる縁はありません。

 なんでレモさんたちが真面目に戦ってる横で私闘が始まってるのか。わけがわからない。

 そんな俺達の足元から嫌な音がしてまさかとオチバを引っ張って回避すると足元が崩れて危うく落とし穴にはまるところだった。ダグトリオが残念そうな顔をする。

【あちゃー、気づかれちゃった】

 いよいよ遊んでいる場合ではない。が、エモまるで対抗しようにも相性が最悪だ。エモまるって電気技以外に何の攻撃技覚えてたっけ? アクロバットとおいうちくらいだったような気がする。

「ハツキ君! オチバさん!」

「いかせねぇ、よっと!」

 サディのマルマインとエンニュートがレモさんを妨害し、俺達に近づけさせないよう攻撃を激しくする。アクリもピーのヌケニンとケンホロウを相手に俺たちに近寄れないでいる。

「てめぇはまともにポケモンの躾けもできねぇからなぁ! そらそっちの雑魚諸共おとなしく捕まりやがれっての!」

 本人はレモさんたちと対峙しているものの俺たちを嘲る言葉は届き、ダグトリオに追い詰められたオチバは心底嫌そうに悪態をつく。

「チッ……変態オヤジの犬が」

 今まで見たことないほどの憎悪。それと同時に絶対に捕まらないという強い意思を肌で感じる。

「――ハツキ、あなたダグトリオの動きにさっき気づいたでしょ。次出て来るタイミングで私に教えて」

「けどお前のポケモン――」

「いいから」

 ふざけていない声音に地面の振動と音に集中してみる。ダグトリオは俺たちの動きを奪うつもりだからある程度何をするつもりかは察しがつく。

 オチバを引いて後ろに下がりながら俺たちがいた場所を示すと、オチバは歯を食いしばって叫ぶ。

「やつあたり!」

 ぞくっとするほど甘く苛烈な叫びに対して口にする言葉の似合わなさ。だが彼女の手持ちが放つやつあたりは普通に接していれば出ないであろう高威力を地面から出てきたダグトリオへと叩きつける。

 6匹全員最悪なまでの高威力のやつあたりを受けたダグトリオは目を回してしまい、ひとまず俺たちの窮地は脱した。が、オチバは具合が悪そうに俺に寄りかかってくる。

「ごめ、んなさい……ちょっと……やっぱり使うもんじゃないわ……」

 手持ちをファイアロー以外全員ボールに戻すオチバの顔色は真っ青だ。

「どうしたんだよ、おい」

「持病みたいなもの、だから気にしないで……。とにかく、私達だけでも逃げないと邪魔に――」

 が、レモさんたちの間を影に入ってかいくぐってきたゲンガーがこちらに迫ってくる。ファイアローとエモまるが迎撃しようとするが素早いゲンガーの動きは二匹の影すら利用して俺たちに近づき、満面の笑みを浮かべた。

 

【ゲームオーバー!】

 

 ゲンガーが俺と、俺に寄りかかるオチバへと攻撃しようとしたその瞬間、オチバが地を這うような声で呟いた。

 

「自分で自分の頭を打ち付けなさい」

 

 ぴたりと、ゲンガーの動きが止まってなぜか土下座するように自分の頭を打ち付け始めたゲンガーに目を見開いているとオチバが更に消耗したように体を預けてくる。

【けしっ、けししししししし! 痛い! めっちゃいてぇ! でも楽しい! 楽しい! ばんざーい! ばんざーい!】

「ゲンガー!? お前またまともに『聞いた』な!?」

 サディの驚く声はレモさんのフライゴンによるいわなだれでかき消され、敵二人が見えなくなった隙にレモさんとアクリが駆け寄ってくる。

「逃げるよ! オチバさん大丈夫!?」

 呼吸の乱れたオチバを俺から預かったレモさんはおんぶして洞窟から抜け出すために走る。本当は俺がするべきなんだろうがレモさんの方が安全なんだよな。

「さっきオチバさん何したの?」

「わからないけどただなんか呟いて――」

 後ろから岩が破壊される音がしたので余計なおしゃべりはやめて走ることに専念する。

 途中、アクリがドーブルを一匹出して何か指示し他かと思うとドーブルはその場で立ち止まってしまう。

「アクリ、ドーブル置いてくのか!」

「大丈夫、足止め、だけ」

 ちらっと後ろを振り返るとドーブルがクモのすを追いかけてきた二人に張って動きを封じていた。やることやったと言わんばかりにドーブルはこっちに走ってくる。

「お前のドーブルたち、わけわかんない技ばっか覚えさせてるな?」

「そう……かな?」

 

 

 

 

――――――――

 

 

 予想もしていなかったドーブルからのクモのすをまともに食らって動けなくなった二人は一応ポケモンに追わせはしたもののねばついてしばらく動けないことに苛ついていた。サディのエンニュートが一応焼いてある程度はマシになったものの全身がベタついて歩くたびにねばねばする感覚に追いつける気がしなかった。

「うぐぬあー! あいつの声を忘れてたぁ!」

「毎度のことながら本当に厄介だ……しかも協力者が今回は強いときた」

 ピーは顔についたクモの糸を鬱陶しそうに剥がしながら暴れたせいで自分よりひどいサディを助けてため息をつく。

「サディ、ゲンガーの様子は」

「だーめだ。もろに聞いちまったからかまだボールの中で自分の頭打ってやがる。混乱みたいに引っ込めても治らねぇあたりが厄介すぎる」

「時間経過が必要か……サディの主戦力が潰されたのは厳しいな」

 サディのボールを見ると本当に頭をボールにぶつけているゲンガーが見える。ピーは苛立たしげに爪を噛んだ。

「追跡させたサディのオオスバメも僕のケンホロウも恐らく返り討ちにされるだろう。見失わない程度に監視して隙を伺うしかない」

 とりわけ、二人にとっても強敵であるレンジャーのレモンを脳裏に浮かべ、サディはイライラしながら服についたクモの糸を払う。その度に粘ついて更に苛ついていた。

「はぁーこんなときリーダーが手伝ってくれりゃなぁ」

「あの人は…………いや、無理だろ」

 二人でなんとかするしかないと、ねばつく糸をどうにかしながら二人はこれからの作戦を考えるために再び動き始めた。

 ちなみに、あまりにもねばつきが取れないためかピーのギャラドスが水を出して洗い流したが、当然のように風邪を引きかねないので乾かしてる間何もできなくなったというオチがついて二人は哀愁漂う後ろ姿で追跡に向かった二匹を回収しに洞窟を出た。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 どうにか追ってきたポケモンも打ち負かして町に戻って今度こそ一人にならないでポケモンセンターで休息を取ることになり、まだ具合の悪そうなオチバをベッドに寝かせ、レモさんとアクリと腰を落ち着けて話をする。

「あの二人にバレちゃったの?」

「あ、はい……すいません……」

「んー、まあ仕方ないよね。狙われるのは不安だけど、今後はできるだけ一人にならないようにしましょう」

「大丈夫……ミーが、ハツキからもう、離れない」

 アクリが腕に抱きついてきて胸がすごく当たってるのが気になって仕方ない。一応真面目な話をしているから落ち着け俺。

「……オチバさんが体調悪いのって、もしかして狙われてる理由に関係してるのかな」

 レモさんが顔色の悪いオチバを見る。一応起きているのか、オチバは気だるそうな声を発した。

「まあ、当たらずとも遠からず、ってとこかしらねぇ……」

「ハツキ君みたいに何か隠している能力があるんでしょ」

 オチバは腕で顔を隠すようにしている。あまり口にしたくないのか無言がしばらく続き、観念したように起き上がって俺達を見る。

「まあ、ハツキがいるし、疑われるってことはもうないと思うのだけれど――」

 頭痛をこらえるように頭を抑えながらオチバは言う。

「私ね、ポケモンを強制的に従わせることができるのよ」

 先程のゲンガーを思い出す。明らかに異常な行動と、その直前にオチバが呟いた言葉。確かに一致する。そして、俺という前例がある以上嘘だとは到底思えない。

「といっても、ちょっと使うだけでこのザマよ。自分の手持ちにすら能力を使わないとまともにバトルできない私は誰かがいないと何もできないってわけ」

 自嘲気味に笑うオチバに「ふーん」としか思えない。なぜそんな嫌われるんだ。

「手持ちもね、自衛のために増やしたはいいけど……そもそもポケモンに好かれない体質なのか一向に懐かれないし言うこともろくに聞いてくれない子ばかりで大変なのよ」

 エモまるたちも生理的に受け付けないみたいな感じなのでほぼ体質みたいなのは間違いなさそうだ。生理的に嫌悪するようなオーラでも出してるんだろうか。

「でもほら、せっかくだからハツキ君もいることだし、交流してみるってのはどうかな? 言葉にすれば今までのわだかまりとかが解消されるかもしれないし、ねっ?」

 俺をちらっと見るレモさんがいいよね?と訴えてくる。俺は確かにオチバのように副作用みたいなものもないので構わないのだが――

「……じゃあ、手持ち出してみるわぁ」

 ボールからぽんぽん手持ちが出てきてオチバのベッドの近くに現れる。

 

「紹介するわぁ。右から順番にきんつば、まんじゅう、ゆでたまご、かきごおり、ちゃーしゅー、やきとりよ」

 

 ピチュー、ゴンベ、トゲピー、グレイシア、ポカブ、ファイアローが軒並み不機嫌そうな顔をして並ぶ。

 

【食べ物じゃない!】

 

「お前が嫌われる理由、ちょっとだけわかった気がする」

 

 食べ物の名前をつけられた手持ちたちは確実にその名前に対して不満を爆発させていた。

 

 

 

 

 




アンケートの方さっそくありがとうございます。ちょっと意外(?)な感じになってきてるので驚いてます。まだ受付中ですので活動報告から是非ポチッとしてもらえれば幸いです。人気投票ではないから結果は言わなくてもいいかなぁと思いつつネタとして面白いことになりそうなので活動報告か番外編かで結果発表してもいいかなって思ってみたり

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