ポケモンの言葉が理解できるんだがもう俺は限界かもしれない   作:とぅりりりり

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旅立ちflyaway

 

 オチバの手持ちとの面談みたいな状況になり、まず一匹目のピチューになぜオチバを嫌うのか聞いてみた。

 

【今まで食わされた仲間の恨みでち!】

「食わされたって何!? どういう状況だよ共食いか!?」

【きんつばをきんつばと知らずにたらふく食わされたでち……美味しかったでち……】

「名前……名前か……」

 きんつばという名のピチューは【美味しかったでち……でち……】と泣いている。まさか本当にきんつばを同族と思っているのか。

「えーと、それが嫌いな理由?」

【まだあるでち! とにかく気に入らないでち!】

 結局最終的に生理的に受け付けないってやつじゃねぇか。あとこのでちでち言うのはなんか癖なんだろうか。

「オチバ、一つ聞きたいんだけどこいつ自分がきんつばって種族か何かと勘違いしてない?」

「ああ、そういえばあなたは選ばれしきんつばたちの中でも意思を持ったきんつばよって教えたことがあったわね」

「お前のそういうところが嫌われるってわかる?」

 

 埒があかないので次、ゴンベ。名前はまんじゅう。

 

【生理的に受け付けない】

「いやそれは多分全員そうだろうからもう言わなくてもわかってる」

 このあとの手持ちたちも同じこといいそうだから釘を差しておくとゴンベが眠そうな目で言う。

【ん~じゃあご飯の量が少ない】

 ゴンベは元々食う量が他のポケモンより多いからなぁ。これに関しては難しいところだ。正直オチバの金銭的な事情は俺と似たようなものかそれよりひどい可能性があるので食事量に関してはオチバが悪いとは言い切れない。

 

 次、トゲピー。名前はゆでたまご。

 

【食われかけた】

「それはオチバが悪い」

 ピチューもゴンベもそうだが懐いていないから進化しないままなんだろうなぁ。せっかく進化すると強いのに。

 

 その後、グレイシアのかきごおりとポカブのちゃしゅーは特に気性が荒く、ひたすら愚痴を俺にこぼし始め、流石にしんどくなったので一旦二匹の話は打ち切らせてもらった。

 そして手持ちの中で唯一あんまり攻撃的でもないし、反応がわかりにくいファイアロー。やきとりって名前、そのまんますぎていっそ清々しい。

「……で、お前の不満は?」

【特にない。名前も不愉快ではあるがそうつけられたなら仕方ない。まあ従うかは別だが】

 ファイアローはちょっとよくわからないが微妙な距離感で他の手持ちたちとは違う印象だ。見ていたオチバが「ああ」と思い出したように言う。

「やきとりは元は私のポケモンじゃないのよ。名前をつけたのは私だけど」

「交換したポケモンってことか」

「いや……まあ、もらったポケモンよ」

 引っかかる言い方だがそれはどうでもいいので本題に戻ろう。

「オチバのこと嫌いなのか?」

【俺は好きでも嫌いでもない。前の主人だってたいして長い付き合いってわけでもなかったしな】

 やきとりはどこか楽しくなさそうに淡々と事実を言っている印象だ。まあこの中では一番マシだろう。

 とにかく、全員の話を聞いて思った結論。

「話し合ってどうにかなるような問題じゃない」

 正直、俺はポケモンの言葉がわかるというわけでだいたいのいざこざは解決できると思いこんでいた節がある。だが、これに関しては無理だと言わざるをえない。

「そもそもオチバお前! なんでトゲピー食おうとしたの!?」

「え、いやぁ、あの時はお腹すいてたから……」

「だからって手持ちを食おうとするか普通!」

「ぶっちゃけ一匹くらいは非常食かな、って思ってるもの」

「だから嫌われるってなんでわかんねーのお前」

 もう全面的にオチバが悪いってことにしたい。さすがに手持ちたちに同情する。

 すると、ずっと黙って聞いていたアクリが首を傾げながら言う。

「……オチバ、ポケモン、嫌い?」

 不思議そうに問われ、オチバは無表情でアクリを真似するように首を傾げる。

「なんで?」

「だって、なんか、手持ちのこと……興味なさそうだし」

「そんなことないわよぉ?」

にこにことしているがその実目が笑っていない。追求しようにもオチバは話題を続けるつもりはないのか「ま、そういうことだから」と話を進める。

「分かり合えるはずないのよ。人間だって結局わかりあえっこないなんだから、ポケモンなんて無理無理」

 友好を放棄したとも取れるオチバの言い方に、レモさんとアクリと見つめ合う。

 ポケモンに対しての接し方は人それぞれだがオチバはなんというか、面倒なタイプだ。結局仲良くしたいのかすらわからない。

「とりあえず……私はちょっと眠るわぁ……。まだ気分悪いし……」

 手持ちをぽんぽんボールへ戻してベッドに潜り込むオチバ。今後オチバを戦力として数えるのは無理だろうと悟ったがそれは俺も似たようなものだ。

 これ以上外に出るのも不安だしポケモンセンター内で休むことを決め、その間寝るまでアクリからベタベタつきまとわれたのだが離れたら怖い気がして黙ってそれを受け入れていた。

 いや、嫌いとかじゃないんだ。ただちょっと怖いし、なんでこんなに執着されるのか全くわからないだけで。

【やーい色男】

「褒めてんのか馬鹿にしてんのかわかんねぇこと言うな」

 エモまるの茶化しはもう相手にするだけ無駄だとわかっているのだが思わず反応してしまう。

 そんな俺とエモまるを見たレモさんは不思議そうに聞いた。

「ねえ、そんなに手持ちと仲良くお喋りするのに本当に能力なくしたいの?」

 当然、と答えようとして何か引っかかるものがあって即答できない。

 俺が求めているものって、なんだったのだろうか。

「まあ、ジラーチなんて出会えるかもわからない幻の存在だしね。その間にハツキ君も考えが変わるかもしれないし、ちゃんと考えなよ?」

 レモさんは大きく伸びをして「私も寝るね~」と手を振ってベッドに沈んだ。ところで俺、この4人部屋で寝るのしんどいんだけど。

 いや、仕方ないことなのはわかっている。俺一人部屋だといざという時に気づけないし、4人で固まっていたほうが安全なのは承知の上だ。

 だが、離れたベッドとはいえ同じ部屋でそれぞれ系統の違う美人と過ごして平気でいられるほうがどうかしていると思う。ただしオチバは論外とする。

 まあ、もちろんそんな邪な考えはアクリがいるから間違いが起きる前に終わりそうだからある意味安全なんだけどさ……。

 逆に言えば4人部屋ということはアクリに下手なこともできないということなのでこれなんてイジメ?って言いたくなる。さすがに付き合ってすぐ手を出すとかはないがこの状況がずっと続いたらストレスでしかない。

 そんな俺の心境を知ってか知らずかアクリはナチュラルに俺と同じベッドで寝ようとしてくる。勘弁してくれ。

「……いや?」

「その……ほら、まだそういうのは早いだろ?」

「早ければ……早い方がいい」

 助けて。

 マフォクシーは俺のことをニヤニヤと見ているしエモまるは先に寝やがった。こいつら俺のこと嫌いだろ実は。

「こ、心の準備が……」

 俺は乙女か。

 正直な話をすると多分レモさんやオチバがいなければまだよかった。この状況はさすがにきつい。察してくれ。

「……まあ、今はまだ……に、しとく」

 せめて人がいないときに頼む。

 なんとか安眠できる権利を得てベッドに入る。呑気に大の字で寝ているエモまるにハンカチくらいの大きさのふとんをかけてやると巻きずしみたいに転がって布団に包まれたエモまるは寝言で【そのサイズのカゴのみはやばい……】などと言ってすやすやと寝息を立てる。どんな夢見てるんだこいつは。

 明日、本格的に旅立つのだが何事もなく進めるのだろうかという不安を抱えながら微睡みに落ちていった。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 次の日。ポケモンセンターを出てしばらく町中でもあの二人が襲撃してこないかと気を張っていたがそんな気配はなく、町の外に出て隣町まで向かうためのどうろを歩く。

 すぐ近くには崖があり、その下は広大な森があった。この辺は森が多いなぁ。

 全然襲撃の気配もないし、流石に気にしすぎたみたいだ。緊張がほぐれて大きく伸びをすると肩がバキバキと鳴る。

「とりあえずフドケタウンを抜けてその先のテトノシティでよかっ――」

 これからの行き先をレモさんに確認しようと声をかけようとしてレモさんに突き飛ばされる。

 何、と思う前に俺が立っていた場所にダグトリオが出現していた。

「きっのうぶりぃー!」

 ハイテンションで飛び降りてきたサディは上空からオオスバメを呼び寄せて俺らの前に立ちはだかる。

「んじゃまあ、そこのドクサレ女と雑魚野郎ちょーだい」

 にたぁとレモさんを見るサディに対してレモさんは目を細めて視線を横にそらす。

「警察に引き渡しても無意味。何回やっても追いかけてくる。根本的な解決策がないって確かに面倒ね」

 じりじり後退するのも駄目と言わんばかりに背後に飛び降りてきたのはピーなんとか。ケンホロウとともに出現し、前も後ろも塞がれた。

「そら手持ちだせよ。昨日の仕切り直しといこうや!」

 サディの発言にレモさんははあ、と深いため息をつく。オチバがぎゅっとレモさんの袖をにぎっているのが見えて、呑気そうに見えてオチバも怯えていることに気づいた。アクリはピーをじっと見て様子をうかがっている。

「うーん、そろそろ力量差を理解してほしいんだけど駄目かな?」

 煽るように言うレモさんにサディが怪訝そうに眉をしかめる。対してレモさんは爽やか畜生スマイルを浮かべて続けた。

「いい加減、私相手に二人がかりで勝てないんだから諦めて? 見通しが甘すぎるわよ」

 レモさんの煽り発言にサディはイライラが増したのか青筋が浮いており「上等だ……」などと呟く始末だ。

「実力で勝てねぇなら手段を選ばねぇまでだ! ぶっ飛べ!」

 マルマインがボールから出ると同時にアレの予兆か光出す。

 その瞬間、レモさんとアクリが俺とオチバの腕を引いて崖の方へと走り出しマルマインのだいばくはつの爆風で崖から派手にダイブすることになる。かなりの高さでこのまま落ちたら骨折どころでは済まない。

「やばいだろこれ! オチバお前、ファイアロー出せよ!」

 エモまるが【あばばばば】と膜を広げて滑空している。お前はそのままでも大丈夫だろうけど俺はこのままだとやばいしエモまるじゃ俺を受け止めきれない。

「えへ、ごめんなさぁい。ボールカバンにしまっててすぐ出せないのぉ」

「ああああああっ! 最悪だよ! お前なんか大嫌いだー!」

「やだぁー! そんな褒められたら照れちゃうー!」

 ふざけた発言のオチバをよそに、アクリは呑気に「ミーは?」などと言っている。それどころじゃねぇ。

 レモさんは冷静に落下しながらボールを放る。フライゴンで俺とオチバ、そしてアクリを受け止め、ジュナイパーに一旦受け止めてもらってからレモさんは飛び降りて指笛を吹く。ジュナイパーは上に飛んでいって二人の相手をしているのだろうか。

 重量過多なのか徐々に徐々に沈んでいくフライゴンがなんとか着地して俺たちを下ろすなり飛び上がる。

「さて、走るよー!」

 レモさんに手を引かれて森を駆け抜ける。フライゴンとジュナイパーを置いていってしまうのにいいのだろうかと思っているとすぐに追いつくように二匹が飛んできた。

「だーいじょうぶ。私と私の手持ちなんだから、ちょっとは信じてよね」

 この中でダントツの安心感と信頼があるレモさんに言われると確かにと思ってしまう。世が世ならこの人は主人公みたいなポジションだろうというくらい完璧だし。

「森を突っ切る気?」

 オチバは走って疲れてきたのか若干息があがっている。レモさんは息一つ乱さず当然とばかりに言った。

「だって振り切るには見失わせるのが一番じゃない? さあ走った走った!」

「ちょっ、まっ、し、しんじゃう……」

 アクリもさすがにきついのか息絶え絶えだ。というか走るたびにこう、すごく胸が揺れる。走りづらそうだ。それを見たオチバはアクリを見てギリッと歯ぎしりする。

「なぁに!? アクリってば私の目の前でよくもまあそんなみっともなく揺らせるわねぇ! 嫌味? 嫌味かしらぁ! ミルタンクじゃあるまいし!」

 どう贔屓目に見ても控えめな胸部のオチバが疲れのせいか、妙にきつくアクリに言う。アクリはオチバの胸を一瞬見て「モーモーミルク飲も?」とだけ返した。二人共走り疲れて言動がちょくちょくおかしい。

「いいのよ! いいのよぉ! 揺れたりしないから走りづらくないしぃ! ああ、大きいのって大変そうよねぇ! あとの人生は垂れるだけだもの!」

「……持たざる者って……余裕がなくて、かわいそう……」

「はいはい、二人共元気そうだからまだまだ走るわよー」

 余裕のレモさんは二人に冷静に言いながら先頭で走っている。俺は一応ちょくちょく後ろを伺いながらレモさんの後ろを走り、二人が離れないのを確認する。

 

 追いかけてくるかはわからないが安全のためにひたすら走り続ける。マラソン染みてきた旅路は始まりを告げ、俺たち4人の旅という名の逃避行が始まるのであった。

 

 

 

 ――この時はまだ、漠然と誰かが欠けることなんて考えもせず。

 

 

 




活動報告にてお礼イラスト載せました。アンケートも活動報告で10月末までを予定しています。もしよければどうぞ。
しばらくはアンケートを少し参考にしつつ番外編を少し挟みます

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