ポケモンの言葉が理解できるんだがもう俺は限界かもしれない   作:とぅりりりり

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Q:なんでこんなに間が空いた?
A:ごめんね


小休止 ~ダストシュート~

 イドース側の八百長。ケイさんの反応からして合意ではないのがなんとなくわかる。

 ただポケモンの言葉しか確証がないせいでそれを声高に主張できるはずもなく、横目でオチバを見ると頷かれて鬱陶しそうに髪を払った。

「主犯も目的もだいたい予想がつくし、どうせアマリトジムリーダーも何人か気づいたはずよ。ていうかあの子たちが気づいていなかったら随分と落ちぶれてるってことになるし、まあ最低4人は気づいたはずよ」

「中止になると思うか?」

「証拠が出ないから続行じゃない? 知らぬ存ぜぬよ。あいつ、昔っから出落ちな真似するから後でしっぺ返し食らうに違いないわ」

 随分と知っている風な言い方だが、それだけ親しい人物がいるなら俺たちにつきまとわないでそっちに合流して欲しい。ていうかしろ。

「えー……なんかショック……イドースのジムリーダーは知ってるのかな……」

 レモさんが残念、いや悲しそうに肩をがっくりさせている。まあまだデモだし明日の本戦は普通にやる――

 

『それでは明日の対抗戦の組み合わせを発表します! ランダムマッチによるものですので対戦順もランダムとなります!』

 

 司会の声とともにモニターにマッチングが表示され、思わず絶句した。

 

 

オトギ(超)VSナッツ(虫)

ナギサ(水)VSノノ(無)

イヅキ(電)VSミール(毒)

コハク(地)VSクロガス(岩)

ユーリ(鋼)VSペトナ(炎)

リコリス(霊)VSアズヒサ(悪)

アンリエッタ(草)VSカザマル(飛)

ケイ(闘)VSシャロレーヌ(妖)

 

 

 イドース側の、完全に八百長だこれ。相性最悪が露骨過ぎていっそ本当は何もしてないんじゃないかってくらいに清々しい贔屓の組み合わせしてる。ランダムとか嘘だ。証拠はないけど半分以上相性が悪いとかひどすぎる。

「スーちゃん……あいつ、本当にこう……小物ねぇ……」

 オチバの呆れ果てた声に一度この黒幕がどんなやつか拝んでみたいと思うほどだ。小物っていうかこれアホだろ。

「これ……見る価値、ある?」

 アクリ直球すぎる。まあ気持ちはわかる。といっても片方の反応を見る限りやらせではないからまあ、まだ見れるはず……、はず……。

 

 

 素直に楽しめるんだろうか、明日の観戦……。

 

 

――――――――

 

 

 

 ――ホテルの最上階にあるホールの一つ。アマリトジムリーダーの数名がそこに集っていた。

 

「どうせスイセンだろ」

「スイセン君でしょうねぇ」

「スイセン兄様ですよね……」

 ユーリ、リコリス、アンリエッタがそれぞれ不機嫌、笑顔、困り顔で同じ名前をあげる。ケイはもはや感情を出すことが億劫とでも言いたげに椅子にもたれる。

「まさかとは思ってたけど本当にあの馬鹿兄貴やりやがった」

 その様子を苦笑しながらオトギはメンバーの確認とともに話をまとめようとする。

「ナギサちゃんとコハク……あとイヅキはまだ気づいていないかな?」

 

 現在このホールにはアマリトジムリーダー8人のうち5人が集まっている。

 ケイ、ユーリ、リコリス、アンリエッタ、オトギ。この5人はデモの段階で不正に気づいたがそれをあの場で声高に主張するための証拠がなく、気づかないふりをしていた。対抗戦の組み合わせ発表で思わず目眩がしたアンリエッタだったがユーリは「だろうな」と達観し、リコリスは静かに笑顔で怒り、オトギは「困ったなぁ」と笑ってごまかしていた。

 相手が馬鹿すぎると対応に困る。

「で、どうします?」

 オトギが他人事のように言う。事実、犯人であるスイセンの昔からの知り合いである4人が勝手に悩んでいるだけなのでオトギは他人事なのだろう。

「どうもこうもあるか。別に相性不利だろうがフィールド主導権を取られようが勝てばいいだけの話だぞ」

 ユーリはあくまで冷静に、かつ傲慢に言い放つ。この場にいるメンバーは全員相性不利を組み合わせられているメンバーでもあった。

「俺たちが不利を組まされてるのは大方スイセンの馬鹿が警戒して決めたに違いないからな。あいつらしい考えだ。たかだか相性不利程度で俺たちをどうにかできると思っている」

「スイセン君てば、昔っからタイプです、相性です、って感じだものねぇ~」

 リコリスの小馬鹿にしたような言い方にアンリエッタはごほん、と咳で諌める。

 

「こういうとき、ユーキ姉様がいれば……」

 

 思わず、という呟きがアンリエッタの口から漏れた。その瞬間、部屋の温度が一気に下がったような錯覚に陥ったアンリエッタとケイはまずい、と顔色が悪くなる。オトギもなんとなく察したが詳しくはわからないのか首を傾げて氷点下の原因であるユーリとリコリスを見るだけだ。

「ユーリ姉様、あの」

「聞かなかったことにしてやる。とにかく、明日の試合は死んでも負けるんじゃないぞ、アンリ」

 怒気を孕んだユーリはそれだけ言い残して部屋から出ていったユーリにどっと冷や汗が流れるアンリエッタ。そしてもう一人、温度を下げるリコリスも無言で部屋から出ていった。

 生きた心地がしないその3人だけが残された空間でアンリエッタは腰が抜けたように壁に寄りかかり、オトギも冷や汗をかきながら笑う。

「えーっと、逆鱗に触れちゃったのかな?」

「まあ、身内の中のタブーってやつ」

 ケイがオトギにそう言うとそれ以上は聞くつもりはないのかオトギは「そうかい」と言って彼もまた部屋を後にする。

 残されたケイとアンリエッタは重たいため息をついて顔を見合わせる。

「……とにかく、お互い頑張ろうか」

「そうっすね」

 果てしない不安は勝敗よりも今後のユーリの扱いについてなのだが言わずとも二人はそれをただしく認識していた。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 あの後、一通りのイベントが終わったため皆ホテルに戻っており、オチバやアクリは先に部屋に戻ったが俺とレモさんは最上階へとこっそり忍び込んでいた。

「つーわけで、急いであのジムリーダーに話つけましょう」

「い、いいのかなぁ……」

 悩んだ様子のレモさんだがこのままオチバを俺たちで連れ回すより身内に返した方が本人にとってもいいことだ。無論、本人の了承は取っていない。

 最上階はどうやらジムリーダーたち専用らしく、人の気配は下よりも少ない。何人か出払っているのかもしれないな。

「えーっと、あの小さい人、ユーリさんでしたっけ?」

「そうそう。あ、でも本人に小さいとか言っちゃ駄目よ?」

 明らかに地雷っぽいもんなぁ。

「あ、向こうから声がするね。どうする?」

 当人ならともかく別のジムリーダーとかだと追い出されてしまう可能性がある。隠れて様子を伺った方がいいだろうか。そう考えているうちに声の主が見えてきた。

 

「明日楽しみですね!」

「そうね。ペトナちゃんもがんばってね」

「任せてください! アマリト最強だかなんだか知りませんけどやってやります!」

「残念だわ~。私があのチビ女倒したかったのに。期待してるわ」

 どうやら声の主はシスター姿のフェアリー使い、シャロレーヌさんと炎使いのペトナさんである。

 二人とも楽しそうだが不正を知っているんだろうか? 知らないとしたら二人もある意味かわいそうではあるが。

 すると、別の方から足音がし、シャロレーヌさんがそちらを向いて「あら」と嬉しそうな声をあげた。よく見えないのでレモさんと一緒に少しだけ近づくとそこにはアマリトのジムリーダーの二人、一人は件のユーリさんがいた。もう一人は黒服のゴースト使いでたしかリコリスさんという人だ。

 口火を真っ先に切ったのはシャロレーヌさんである。

 

「そちらはずいぶんと仲良しグループでいらっしゃるわね? 身内身内身内……アマリトってこわーい」

 

 シャロレーヌさんの煽りに応戦したのは意外にもユーリさんではなくリコリスさんだった。

「どうしたのぉ、急に怯えたりして。あ、わかったわぁ! 明日私達に無様に敗北することを想像しちゃったのね!」

「やだ、下品な黒牛女に話しかけたつもりはないのだけれど?」

「はぁ?」

 

 なんでこの人達喧嘩腰じゃないと話せないんですか。

 

「まーまー、シャロレーヌさん。明日の結果で語りましょうよ! 時間が無駄ですって!」

 ペトナさんがやんわりと仲裁に入るがユーリさんは仲裁というより呆れて吐き捨てる。

「ま、くだらない小手先を容認しているようじゃアバズレ女のお里が知れるな。せいぜい相性有利で負けた時の言い訳を考えておくんだぞ」

「そうねぇ。そこのペトナちゃん、だっけ? かわいそうにねぇ、ユーリが相手なんて、運がないわぁ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 くすくすと笑うリコリスさんの迫力に気圧されるペトナさんである。が、その横で微笑みは浮かべつつもあからさまに不機嫌そうなシャロレーヌさんが廊下の空気を氷点下まで下げかねないほど低い声を出す。

「ペトナちゃん。こんなのは無視していいのよ。いい年して幼馴染馴れ合いばかりの彼氏もできたことない干物女たちなんかこうやって人を馬鹿にすることしかできないんだから」

「お前のように男漁りを誰も彼もがすると思うな」

 つまらなさそうにユーリさんがその場を去ろうとしたとき、シャロレーヌさんが目を細め、にっこりと笑うとユーリさんの背に向けてフフッと笑いながら言った。

 

「いつまでそうやって気取っていられるかしら? ねえ、実の姉を見殺しにした元チャンピオン様?」

 

 その瞬間、2つの殺気がシャロレーヌさんを襲った。一つはユーリさんのピカチュウ。もう一つはリコリスさんのジュペッタだ。どちらもピクシーが守って防いだが殺気は消えることがない。

「あら、図星突かれて攻撃なんてそっちこそお里が知れるわね」

「そのふざけた口二度と開けないようにしてやろうか!」

「ちょ、ちょっとここでバトルはまず――」

 唯一ペトナさんが慌てるが間に入ることもできずホテル内だというのに技が飛び交い、騒ぎを聞きつけた他のジムリーダーの怒声が響く。

 やばい、この状況で声を掛けるなんてそんな――

「ハツキ君伏せて!」

 えっ、と思う前に頭に何かがぶつかってきて思考は一瞬で消え、意識もぷつりと途切れるのであった。

 

 

――――――――

 

 

 

 ジュペッタのダストシュートはそれはもう綺麗に弾き返され、その先には隠れていたハツキたち。

 レモンの声も間に合わず、ハツキの頭に直撃し、ただでさえ威力の高い技が鍛え抜かれたジムリーダーの手持ちから放たれ、勢いづいたものが襲おうものなら意識が飛ぶのは仕方のないことである。むしろ怪我をしてもおかしくないのだが幸か不幸か目を回しただけで済んだようだ。

「おい! 何の騒ぎだ!」

 ジムリーダーの一人が騒ぎを聞きつけて争うジムリーダーたちを怒鳴る。岩タイプの使い手、クロガスは自陣のシャロレーヌを睨み吐き捨てる。

「仲良くしろとまでは言わん。問題を起こすな」

「向こうがいきなり攻撃してきたのですよ? 私を責めるのは筋違いではなくて?」

「やかましい同罪……ん?」

 通路の先に人影があることに気づいたクロガスは大股でそちらに近づいてみると目を回したハツキとそれを抱えるレモンを見てはっとする。

 

「おい一般人巻き込んでるぞ馬鹿ども!」

「えっ、ここ関係者以外立入禁止じゃ」

 ペトナが驚きつつもシャロレーヌの後ろに隠れて様子を伺う。

 クロガスは膝をついて目を回したハツキの具合を確かめるよう声を掛ける。

「君、大丈夫か?」

 軽く揺するが完全に気絶しているため返事はない。クロガスが念の為脈をとったりして簡単にだが状況を確認すると呆れた顔で言う。

「とりあえず大事ではないようだが念の為医務室に連れて行かないとな。おいリコリス! お前責任持って面倒見てやれ」

「え~なんで私なのよぉ」

「お前の手持ちの技のせいだからだ! まったく、いい年してお前らはくだらねぇ喧嘩すれば気が済むんだ! 被害者出さないと止められないのか!」

 しらばっくれる血の気の多い女性陣を叱りつけるクロガスだったが効果は期待できそうにない。

 渋々とフワライドにハツキを乗せて医務室まで連れて行こうとするリコリスはんべっ、とクロガスに舌を出して拗ねたようにその場から立ち去ろうとする。

「あ、あの……」

 解散する流れに待ったをかけたのはレモンだ。

「そ、そのユーリさん……」

「……なんだ。サインの類はマナーを守るやつにしかやらん」

 勝手に関係者エリアに入ったことを咎めるように言うユーリにお前がマナーを問うのかとクロガスが微妙な表情を浮かべる。

 レモンは迷っていたからか、少しどもり、ようやく意を決したように例の件を口にした。

 

「その、お姉さんって――」

 

 刹那、レモンは強い殺気を感じ言い終える前に自分がその場にしゃがみこんでいることに気づいたときにはリコリスのジュペッタがユーリのピカチュウのアイアンテールを受け止めている状況にあった。

「ちょっとちょっと~。クロガスおじさまー、ユーリ抑えてー」

「おま、お前っ! 一般人に何してやがる!」

 血相変えたクロガスに抑えられそうになるユーリはギラギラした目でレモンを睨めつける。

「貴様、俺にその話をするとはいい度胸だな――!」

「はいはい、危ないからおじさま抑えてて~。ほら、あなたも行くわよ」

 腰を抜かしているレモンに手を差し伸べるリコリス。ユーリからの殺気をひしひしを感じながらもタブーを踏んでしまったことに気づいたレモンは潔くその場を離れ、リコリスと共に医務室へと向かった。

 

 しばらく歩いた先で一般エリアの医務室にたどり着くとまだプレオープンだからか医師が不在で、呼び出しボタンを押してからベッドにハツキを置いたリコリスは呑気そうに言った。

「ま、お医者様が来るまで一緒にいてあげることね~」

「は、はい」

「それにしてもぉ、さっきのはちょっとまずかったわぁ。ただでさえ機嫌悪いもの。わかってると思うけどもうその話しないでねぇ?」

 先程のユーリの尋常ではない殺気を思い出し、レモンは冷や汗が流れる。ハツキがうっかりその話題を口にしていようものならもっと危険だったかもしれない。

「ま、さすがに申し訳ないし、お医者様が来るまで相手してあげるわぁ。あなた占いとか興味ある~?」

「えっ! もしかしてリコリスさんの占いですか!?」

「あったり~。お詫びとしてタダで占ったげる。気絶してる彼は……まあとりあえずあなたからしましょうかしらぁ。何か気になることある~?」

 リコリスの占いはイドースでも有名であり、よくあたると評判なのだ。滅多に占ってもらえないことから希少価値もあり、レモンはハツキのことがあるにも関わらずワクワクを抑えきれない。

「えっと……そ、その……恋愛に関してとかって……できます?」

「ああ、あなたもう男運最悪だから自分で選ばないほうがいいわよ」

 あまりにも無慈悲なコメントにレモンは言葉を失い無言でリコリスを見る。リコリスはというと真面目な様子で腕を組み、更に続ける。

「そうねぇ。なんというかあなた、駄目男を寄せ付けるというか……もし今付き合ってる彼氏とかいるなら絶対に別れたほうがいいわよぉ。絶対失敗するから」

「……」

 辛辣なコメントにレモンはどこか遠い目をしつつ「肝に銘じます……」とだけ返した。何か思い当たる節があるのかその表情は沈痛だ。

「あとは……」

 リコリスが何か言いかけると同時にはっとしたように前髪で隠された目を見開くとレモンもびくっと姿勢を正す。

 

 その瞬間のリコリスには"何か"が視えていた。

 

 数秒の沈黙の後、リコリスは申し訳なさそうにため息をつく。

「……恋愛とかよりも、こっちのほうが深刻ねぇ」

「え?」

「あなた、このままだと死んじゃうわよ」

 ふざけているわけでもなく、ただ淡々と事実を口にしたリコリスに、レモンは呆然とするばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 


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