ポケモンの言葉が理解できるんだがもう俺は限界かもしれない   作:とぅりりりり

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ディナータイム ~ピリピリするよどこまでも~

 

 目覚めるとエモまるとレモさんが顔を覗き込んできていて、なんとなく自分に何が起こったのかを察しがばっと起き上がる。

【大丈夫かー?】

「だいじょうぶ……」

 頭がまだ痛むが意識ははっきりしている。

「よかった。一応異常はないみたいだから部屋にいって安静にしてよっか」

 医務室らしき場所だがレモさん以外に人間は見当たらない。

 聞くところによるとアマリトのジムリーダーがここまで連れてきてくれたらしく、その後医者にも診てもらったが異常はないとのことで俺が目覚めるのを待っていたらしい。

 すると、アクリとオチバの待つ部屋へと戻る最中、思い出したようにレモさんがなにかのメモを取り出して俺に手渡してくる。

「そうだ、リコリスさんが『起きないから運勢だけ見といたわ~』って」

「は、はあ……」

 どうやら俺が気絶している間に占いをしてもらったらしい。お詫びとかなんとかで。あんまり占いに興味はないがまあせっかくだし、とメモを開く。

 

『盲信は大凶。視野を広く持ちましょう』

 

 ご丁寧に最後にハートマークつきだ。なんとも不穏な一文に俺の人生の薄暗さを物語っている。

 歩きながらそれをポケットにしまうとエモまるが渋い表情を浮かべた。

【なんだー気にしてんのかー?】

「いや別に」

 全く気にしてないと言えば嘘になるがしょせんは占いだし気にしても仕方ない。

【つーか腹減ったー】

「レモさん。飯どうなってましたっけ」

「あ、ご飯なら下のレストランでバイキングだって! 二人も呼んで早く行こ」

 バイキングかぁ。久しぶりに肉いっぱい食べたいな。こういう機会じゃないとなかなか好きなだけ食えないし。

 一旦宿泊予定の部屋へと戻るため、レモさんとともにエレベーターのボタンを押してこの階に来るのを待った。

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

「見えた?」

「見えた。といってもあの金髪女と男だけだ」

 廊下の物陰から様子を伺うのは白服コンビことピートレクトとサディ。合法とは言えない手段で忍び込んだはいいが4人を見つけられずようやく発見できたようだった。

 二人共白い服ではなく一般トレーナーのような格好をしており、少し不審ではあるものの普段よりは浮いていない。

「人が多いとこでやらかしてだいじょーぶ?」

「あんまりよくはないが……これ以上捕獲が長引くとあの人に嫌味では済まされなくなるしな……」

 自分たちの上司のことを思い出し、ピートレクトは身震いする。部下へ一切の慈悲がない上司と自分たちのことへの関心が薄いリーダーに頼れないピートレクトは必死に自分たちで作戦を考える。

「リーダーは?」

「リーダーなら別の仕事があるからってあの人に止められた」

「へー珍し。リーダーいっつも仕事してないイメージなのに」

「それ、絶対本人の前で言うなよ」

 口が災いしか呼ばないサディにきつく注意しながらエレベーターに乗り込んだ二人を確認し、閉じた扉の前で何階までいったかを確認する。

「この後レストランにいくとか言っていたな……。どのタイミングで襲撃を……ってサディ聞いて……」

 

 途中からまったく喋らなくなったサディを不審に思い振り返るとそこにはクレープを食しているサディの姿があった。

 

「って何食ってんだよ!」

「ニンフィアクレープ」

「何を食べてるかって話じゃない!」

 もぐもぐとニンフィアをモチーフにした飾りチョコがついたクレープを食べるサディとゲンガー。そののんきな姿にピートレクトは怒りを通り越して呆れ果てていた。

「まさかサディ、さっき少し単独行動したときにそれ買ってたんじゃないよな……?」

「そだよ。ブースターホットドッグとサンダースわたあめもあるよ」

「祭りの屋台楽しむラインナップ揃えてるんじゃない! 何一人で満喫してるんだよ!」

「はい、チョコナナのみ」

「違う! 俺にも分けろってことじゃない!」

 

 

 

 深い深いため息のあとに隙をうかがうため二人は変装のため露骨にサングラスをかけて先回りのためにレストランへと向かうのであった。

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 レストランは大変賑わっており、明らかに上流秋級っぽい人たちは別のエリアのレストランへと案内されているのが見えた。どうやらジムリーダーたちもそこらしく、話をする機会はないようだ。

「はぁ~……肉だ肉……」

 バイキング形式のものなので一つ一つがやたら小さいハンバーグを皿に複数盛って気持ちばかりのサラダをひとつまみすると4人揃って席についてそれぞれの好みがよく出た皿が並ぶ。

 レモさんはとにかく色んな種類のおかずを選んでおり一足先に幸せそうな顔で食べ始めていた。結構な数を盛っているがあまり下品に見えないあたり育ちがいいんだろうなというのが伺える。

 育ちといえばオチバとアクリもそうだ。二人の皿は系統は違えどバランスがよく、どちらかといえばサラダやピクルスなど野菜料理が多い。オチバは量が多めでアクリは少なめというところで差を感じる。

「……ちょっとぉ、さすがにそれはどうなのよぉ」

 俺の皿を見たオチバが苦言を呈するように眉をしかめる。レモさんはニコニコしながら自分のご飯に夢中のようで手持ちたちが呆れた顔でそれを見ていた。

 そう、俺の皿はズバリ肉祭り。ハンバーグと唐揚げとそしてローストビーフ、ほかその他諸々と気持ちばかりのサラダ。

【相変わらず肉好きだなー】

 エモまるは呆れ気味に自分の飯をもぐもぐしながら俺の皿を指差す。エモまるはどちらかといえばきのみとかを好むので食の嗜好は合わない。

「お肉……好き……だね……」

 アクリもちょっと驚いたような顔をして自分のハッシュドポテトをもぐもぐしている。ちなみに俺はライスも大盛りだが他の面々はパン派らしい。あとはレモさんがパスタを持ってきている程度か。

「いいだろ、別に。バイキングなんだし」

 肉に関してはもう何の肉かとか考えるだけ無駄だし絶対に牧場関連に近づかないことを誓っている。一歩間違えたら俺、二度と肉が食べれなくなるし。

 もぐもぐとそれぞれ食事を進め、レモさんはおかわりのことを既に考え始めたり、オチバは窓の外の景色を眺めていたりと穏やかに時が流れていく。アクリ? アクリはずっと俺を見ていてちょっと緊張する。

 久しぶりのハンバーグに幸福感が満たされていく。肉ってこんな幸せになれるんだなぁ。

 

 

【へへっ】

 

 

 そんな幸せ真っ只中の俺を現実に引き戻すように誰かの声が聞こえてくる。はっと顔をあげるとレストラン内はそもそもポケモンがそう多くボールから出ていないためかあまり声が聞こえてこない。レモさんがデンリュウ出してるのが一番大きいんじゃないかというくらい小さいポケモンがちらちら机に乗っていたりするくらいだ。

 妙に耳に残る誰かの声が気になってきょろきょろとあたりを見渡しているとガタンという机を叩く音が聞こえてきた。

 

「おい! お前、堂々と文句を言ったらどうなんだ! 陰口ばっかり叩きやがって」

 

 ざわっと少し離れたところが騒がしくなり怒声が聞こえてくる。

 野次馬がいるものの、様子を見に近づけばトレーナー同士の、いや正確にはトレーナーの集団同士の諍いのようだ。

「陰口……? はっ、これだからアマリトの人間は。わけのわからないことで因縁をつける面倒なやつしかいないときた」

「ねえ、ちょっとやめなよ……」

 

 最初に怒声をあげたのは格闘家らしき格好をした青年。それを冷ややかな目で見下ろしているのは黒い、神父のような服をまとった男。そしてそれを止めるように男の袖を引っ張ったのは学生服の少女だった。

 なんだろう、と思っていると周りの野次馬のヒソヒソと話す声が聞こえてくる。

 

「フローレのジムトレーナーだ……」

「あっちはアマリトの……見た感じワコブか?」

 

 えーと、フローレ……ワコブ……えーっと……だめだ2地方の情報がごちゃごちゃしててわけがわかんねぇ。

 混乱しているとレモさんが口の端にソースをつけたままキリッとした表情で耳打ちしてくる。

「フローレシティはデモンストレーションで戦ってたあのシャロレーヌって人のジムがあるところ。ワコブはその対戦相手のケイって人のジム」

 ようやくパッと頭の整理ができてきた。要するにあのシスターみたいな人と和服の人のジムトレーナー同士の揉め事だ。

 

「しかも人の皿まで勝手に盗りやがって! くだらない嫌がらせまでしやがって!」

「なんのことだ? まったく……見当違いも甚だしい。だいたい君の皿を盗って私になんの得がある」

 断片的な情報だけなので善悪はわからないが陰口だとか皿をとったとかいう話なので要するにこれ……その……言い方は悪いが小学生レベルの喧嘩なのでは……?

 

「ちょっとケンガ、何騒いでるのよ」

「おいおい、穏やかじゃねーな。どうした?」

 騒がしい状況が続いていると凛とした女性と軽薄そうな男が道着のジムトレに後ろから声をかけ、2地方のジムトレーナーたちがにらみ合う。

 状況を把握したように女性の方が目を伏せ頭を軽く下げる。

「ケンガが言いがかりをつけたようね。ごめんなさい、ルドベン殿」

「リーホさん! 言いがかりじゃなくて――」

「いーから黙っとけ。場所わきまえろって、な?」

 軽薄そうな男が道着の青年の肩を掴んでおさえており、ピリピリとした空気が流れる。

 そして、女性が前に出て謝罪の言葉を述べると冷たい目をしていた神父服の男が嫌味っぽい顔をして笑う。

「話がわかるのがアマリトにもいるようで何より。ですがせっかくの食事の場でいきなり怒鳴りつけられ気分が悪い私の気分をどうしてくれるのですか」

「ルドベン殿はイドースのジムトレーナーの中でも思慮深く、寛大で優れたお方だと耳にしております。誠に勝手だとは思いますがケンガはまだ若輩者でして――」

「はっ、随分とべらべらと口が回るようだ。さすがはあのエセ王子の従者といったところか」

 後ろで「うわ」と青ざめたのは軽薄そうな男。道着の青年を手放して慌てて女性をの肩を掴んで後ろに下げようとするが女性はそれを振り払って神父服の男を忌々しげに睨む。

 

 

「――エセ王子ですって?」

 

 

 静かな怒りがはっきりと見て取れた。それを見て神父――ルドベンはにやにやと笑う。

「ええ、女の癖して男の真似事をしてる半端者。なぜあんなのが持て囃されているのか理解に苦しみます」

 煽るような言い方に女性は――それを上回る哀れみの顔をルドベンに向けた。

「つまりあなたは大衆の気持ちを理解できないとおっしゃるんですね。少しルドベン殿の評価を改めねばなりません。随分と、前時代的な価値観と視野の狭さをお持ちの売女の腰巾着だと」

 

 

「いい加減にしろお前ら」

 

 アローラガラガラと共に間に割って入ったのは先程から仲裁しようとしていた軽薄そうな男。軽薄そうな気配はかき消え、視線だけ動かしてルドベンを見る。

「こちらが不当な言いがかりをつけたことは認めるし謝罪もする。だがそちらも我々のジムリーダーを侮るならば煽っていると取られても仕方ないことを理解できない頭ではないだろ」

「――ああ、誰かと思えば負け犬オズか。年長者気取りか?」

「事実年長者だからな」

 オズと呼ばれた男が間に入ったにも関わらずルドベンは煽るようなことを口にするのをやめない。

 しかし、そんなルドベンが突如目を丸くして露骨に舌打ちすると自らの眉間のシワを抑える。

 

「お前らこんなところで何をしている」

 

 よく通る声。野次馬も思わず道を開けるその人はディーラー姿の男性。ジムリーダーの一人だったはずだ。

 そして、その横には不機嫌そうな和服の男。そう、件のワコブジムリーダーのケイさんだ。

 

「アズヒサ様こそなぜこちらに?」

 ルドベンがつまらなさそうに言うと男は汚物でも見るかのようにルドベンを見て吐き捨てる。

 

「チッ、全員献血でも行ってきたらどうだ? 俺のテリトリーでくだらねぇ争いしてんじゃねぇよ」

 そんな様子のアズヒサさんに申し訳無さそうな顔をしてケイさんは頭を下げため息が漏れる。

「……うちのが迷惑かけてすみません」

「リーダーがこんなことで頭下げんな」

「いえ、俺の教育不足なので」

「け、ケイさん……」

 叱られた子供のようにしょんぼりとした道着姿のジムトレーナーがケイさんを見ると呆れたように息を吐いて頭をぼりぼりと掻く。

「悪いと思ってるなら問題を起こすな」

「でも――」

「でもじゃない」

 ばっさりと言い訳を切り捨てて騒ぎは収束していくようだ。まだ何か話をしているがさすがにあの中に入って声を掛ける勇気はない。

 

「さっきのディーラーみたいな人、ええと悪タイプのジムリーダーでしたっけ?」

「そう。そしてこの町のジムリーダーでもあるアズヒサさん。マフィアと常に争う修羅の町の長にしてテトノ最大のカジノのオーナー」

 

 あれ、テトノシティってそんな町だったっけ?

 俺の知っているテトノシティってもっとこう、観光地だったり船が出てたり人が結構出入りするけど大都会ってほどでもないような町だった気が……。

 

「ここ数年で一気に情勢がね……。元々違法賭博から非合法なポケモン売買まで裏でとんでもなく悪どいことしてた組織があったんだけどアズヒサさんがジムリーダーに就任してからその黒いところにばっさりメスを入れて革命を起こしたって話。おかげで前より安全ではあるけど抗争やら何やらでバタバタしてるから観光エリア以外はあんまり関わらないほうがいいって言われてるわね」

「俺の知らない間になんでそんな修羅の町と化してるの……」

「でも……抗争……場所選んで……やってるから……近づかなければ……大丈夫……」

 

 まず抗争やってる時点で怖いんだが?

 

「多分……この町に……フロンティアが……できたのも……町のイメージアップの一環……」

「あーなるほどね。でもまだ慌ただしいのにそんなことしたら観光客カモられたりして余計に悪いことになりそうなものだけど」

 アクリとレモさんの情勢考察はよくわからないので右から左に聞き流し、ふとオチバを見る。その目はどこか哀愁に満ちており、向けられる先は和服のジムリーダー。

「……おっきくなったわねぇ……」

 オチバの声は聞こえなかった。しかし、表情から慈しみのようなものを感じることだけはわかる。つられてケイさんを見ていると視線を向けていたからか気づいたようにこちらに顔を向け目が合う。

 しかしケイさんはどうでもよさそうに視線を元のジムトレに戻してその場を離れていく。目があってびっくりしてて気づかなかったがオチバは人混みに紛れていて見つからなかったらしい。

 

 

 それにしても、イドースとアマリトの人間の関係がここまで険悪だとは思わなかった。ジムリーダーたちだけならずトレーナーもあんなだとは。

 ……明日の対抗戦、本当に何事も起こらないんだろうか。

 

 

【あれぇ? おっかしいなぁ】

 

 

 ふと、また先程の気になる声が聞こえてぐるりとあたりを見回すがやはりそれらしきポケモンは見当たらない。

 どこか楽しげな声は少女のような感じというのはわかるのだが人が多いとさすがにどこから聞こえてくるのかがはっきりとわからない。

 

 

 気にはなるが特に何も起こっていない以上どうすることもなく、俺たちはその後バイキングを楽しんだ。

 

 

 

 

 

 




Q、ルドベンなんでそんな喧嘩売るの?
A、アマリト嫌いだから

地味にアマリト関係者は全員新新トレに登場済み

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