ポケモンの言葉が理解できるんだがもう俺は限界かもしれない   作:とぅりりりり

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落ち葉は進めず

 

 

 即席秘密基地で地味に長い絵のモデルが終わるとアクリが突然仰向けになってぶつぶつとなにか言い始める。

「人付き合いって……難しい……何言えばいいのか全然……わかんない……」

「はあ……」

「ごめん……ミーは……いわゆる話下手だから……」

「別に気にしてない」

 うるさいより静かな方が落ち着くし、アクリのポケモンもほとんど喋らないので久しぶりに心穏やかだ。ドーブルはともかくマフォクシーすらスケッチブックで何か描いてるし。

「絵が好きなのか」

「……まあ、これで……生活してるし……」

 本業らしく、エモまるが絵を覗き込んで感心したようにすげーと呟く。アクリからすぐ近くのマフォクシーに跳んだエモまるはマフォクシーに声をかけた。

【へい姉ちゃん! 何描いてんの】

【宇宙】

 スケールでかいぞこのマフォクシー。

【んなの描いて楽しいのかー?】

【エモンガにはわからないでしょうけど、宇宙からの啓示が私に降りてくるのよ】

 やっべぇすっげぇ突っ込みたい。でもポケモンってたまに宇宙関係のもいるくらいだしそんなに変なことでもない、のか……? エスパータイプだし。

 エモまるとマフォクシーをガン見してたからかアクリにつんつんと突かれて振り返るとスケッチブックに文字が書いてある。

『ふぅこに用……?』

「いや、なにしてんのかなーって見てただけ……」

 マフォクシーことふぅこの声がエモまるとの会話で聞こえてきたからついつい気になったなんて言えない。レモさんが割りとおおらかなだけで普通の人間はドン引き案件だ。

「あっ、そうだレモさん」

 この後出て行ってまたあれに遭遇したら次こそ危険だ。別れたばかりで申し訳ないが命の危機なので仕方ない。レモさんに連絡して次の町まで一緒に行ってもらおう。

 携帯を取り出してレモさんにかけてみると4コールほどで応答が返ってくる。

『もひもひ? ごめんね、今おやつたべてたから……んぐ……何々、どうしたの?』

「あ、レモさんすいません……ロレナシティに向かう途中で白服の危ない女に襲われて……」

『えっ、大丈夫? 助けに行ったほうがいい?』

 電話の向こうで【えー、今から行くのかよー】とデンリュウの抗議の声が聞こえてくる。悪い、デンリュウ。

「今湖畔の近く……だと思うんですけど助けてくれた子がいてその子の秘密基地の中で隠れてます」

『ん、わかった。とりあえず今そっち向かうからまたあとでこっちから連絡するまで動かないでね』

 本当にいい人だなぁと思いながら通話を切るとなぜかアクリにじーっと見られていることに気づき、「な、何」と言うとアクリがスケッチブックに文字を書き始めた。いや喋れよ。

『彼女?』

「違うわ」

 レモさんが彼女とか恐れ多い。まあ顔は可愛いしいい人なのでフリーなら狙っていたかもしれないけどあの人、その気一切ないだろうし。

 アクリは俺の答えを聞いて何も言わないでそのままスケッチブックにまた描き始めるが文字を見せるわけでもなく、もくもくと集中した様子で座り込んでいる。

【なー、あんたのトレーナーどうしたんだ】

【遅く来た思春期ってやつよ】

 エモまるとマフォクシーの会話が聞こえる。盗み聞きみたいでなんか罪悪感あるけど正直本人が喋らないのでついつい聞き耳を立ててしまう。

【ししゅんき? なんだそれ食えんのか】

【食べれないわよ。好きな相手と上手く話せないっていう人間特有の現象よ。面倒よね、人間って】

 んん? なんか聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ。ていうか俺が聞いちゃいけねぇやつだそれ。エモまるそれ以上突っ込むな。

【あのねーちゃん、うちのハツキのこと好きなのか。趣味悪いな】

 エモまる、ロレナシティでのマカロンはなしだ。

 マフォクシーは俺をちらっと見てくる。一瞬だけ視線が合うがすぐに逸らされた。

【まあうちのアクリは基本的に見た目の好みで判断するタイプだから……】

 マジかー、マジですかー……。

 アクリを見ると俺を見ないでスケッチブックと向き合っている。俺が余計なこと言うのもあれだし、なんというか、むずむずする。

 いや、顔はかわいいし、俺としては異性に好意を持たれるのもまんざらではないから別に嫌ではないんだけど気づいた方法がポケモン伝いだし、自分から言い出すと自意識過剰みたいでなんか――

 くだらないことで悩んでいると携帯が鳴る。レモさんがさっそく連絡をくれたようだ。

『もしもし? 今湖畔についたけど、出てこれる? 見える範囲で他に人間は見当たらないし合流しよう?』

「あ、はい。ちょっと待っててください」

 すると、アクリが立ち上がり、素早く荷物をまとめると俺の袖を掴んで上目遣いをしてくる。これは、その、そういうことだろうか。

「ミーも行く」

「あー……うん……」

 魂胆が見えてるせいで複雑だ。もっと、もっとわかりやすく何か言ってくれないかな。

 秘密基地から出ると美しい湖畔がまず目に入る。ぐるりとあたりを見渡すと後ろからおーい、とレモさんの声が聞こえて振り返る。

「いたいた。さっきぶりだねぇ」

 呑気な笑顔も今は癒やしでさっきの白服がまた出てもレモさんがいればなんとかなりそうだと安心できる。

 が、アクリはレモさんをじっと頭から爪先まで見て、ある一点で止まる。

「えーっと……ハツキ君を助けてくれたっていう子かな?」

 戸惑い気味にアクリの視線を受け入れ、低い背のアクリに合わせるように少しだけかがむ。かがんだことでアクリの視線がやっぱりあそこに集中していることがわかった。要するに胸。

「……勝った」

 ぼそりと、あまりにも小さい声だがアクリはそう呟いて少し勝ち誇る。アクリは小さい背に対して胸のボリュームがレモさんよりある。まあ、その、レモさんは普通サイズだと思うのでアクリがロリ巨乳なだけだと思う。

 明らかに失礼なことを言われたのにレモさんは嫌そうな顔一つせず少しだけ笑いながら頬を掻いた。

「あー、もうちょっと大きくなりたいけどもう打ち止めなんだよねー、ってハツキ君がいるところで言う話でもないか」

 口にするとセクハラだけどレモさんは全体のバランスがいいからそのままでいいと思います。

「なーに? ハツキ君、出会うの女の子ばっかだね? モテ期?」

 からかうように背中を叩いてくるレモさんだが出会った女の4人中2人が眼帯女と危ない白服女なんですがそれをモテるとカウントするのはちょっと不本意すぎる。

「さて、どうする? 飛んでいく……って思ったけどそっちの子も一緒に行くなら歩きになるかな?」

 アクリの方を見てレモさんが首を傾げるとアクリはスケッチブックに文字を書いた。

『一緒に行く』

「恥ずかしがり屋さんなのかな? まあいっか。じゃあ早いところ町まで行こう。陽が暮れるまでにつけるといいけど――」

 その瞬間、ロレナシティ方面で爆発があり、だいぶ離れているはずの俺らにまで爆風がくる。

「…………あれだけ派手な爆発、ロレナの警察が動きそうだけど……ちょっと放置できないなぁ」

 レモさんはレンジャーなので自然やポケモンを守るために災害などに手を貸さないといけないらしい。それが本来の仕事なので仕方ないが今時間を取られるのは少し痛い。

「多分私のほうがロレナ在勤の人たちより早くつきそうだからせめてそっちが来るまで私の仕事していいかしら」

「さすがに俺も頼んでる身分でわがままは言えないですよ」

 ここでそもそも無視するような人だったら俺を助けてくれるはずないくらいにお人好しだし。

 アクリはぼんやりと爆発地点を眺めながらドーブル……さっき秘密基地のときにいたドーブルとは違う個体を出した。

「ミーも、てつだう」

「あ、本当? じゃあ早速行こうか」

 レモさんは特に何も突っ込まないがアクリの顔には明らかにいいところ見せたいっていう意思が見えている。なんだろう、この、答えだけ先に見たせいでだいたいの気持ちがわかってしまうもどかしさ。

 嫌な予感はしているがここで逃げるわけにもいかないしむしろ向かう先なので、諦めてレモさんの救助活動の手伝いに徹する覚悟を決めた。

 

 

 

――――――――

 

 

 時間は少しだけ遡る。

 

 

 森というほどではないが湖畔の先にある木々が増えたどうろで足を庇いつつオチバはロレナシティへと向かう。足を痛めたのは本当に失敗だったと内心愚痴りながら木にもたれて少しだけ休憩のために息を吐く。

 今頃発信機の本体を押し付けたハツキの方へと追手は向かっているはず。そちらに気を取られている間に人の多いところで紛れてしまおうと考えたがあのくだらない策にどれだけかかってくれるか。

 オチバは自分を追う人間の特徴をもうある程度理解していた。一人は狡猾でとにかくしつこい男。これは警察に引き渡されたからしばらくは大丈夫だ。どうせすぐに出てくるのだろうが、何もしないよりはマシだった。

 そしてもう一人、今自分を追っているであろう女。

 あれは馬鹿だ。特大の馬鹿。頭が悪いとも言うがそれ以上に思考回路がぶっ飛んでいるせいで男の方よりも危険だ。だが騙すならこちらの方が容易である。

 手持ちを出して移動しようかとも考えたが飛んだりしたらそれこそ目立つ。下手に目立たないよう慎重に進んだほうが安全だ。

 再び進もうと、足を気遣いながら立ち上がると危険を感じて足の痛みをこらえながら走ると背後が爆発して、その爆風でふっ飛ばされた。

 全身、地面に叩きつけられて、足どころではないと歯ぎしりしながら近づいてくる女を睨む。

 オチバを見下ろす女は不気味なほど笑顔だった。その後ろに、マルマインが気絶しているのを見てこの爆発があれの大爆発だと悟る。

「いつぶり? ピーの野郎が追ってる間は遠くから見てるだけだったからさぁ、久しぶりな感じしないんだよね」

「さあ、興味ないわ」

 手持ちを出すことに若干の抵抗はあったものの背に腹は代えられない。が、女の足がオチバの手を踏みつけてボールに触るのを防いだ。

「俺を騙しやがって、殺したいなぁ、殺したいなぁ。でもさぁ、旦那の獲物殺したら俺が素材になっちゃうしさぁ、なあ、どうすればいい?」

 答えなど最初から聞いていない女は独り言のようにブツブツと呟きながらオチバを蹴る。オチバもろくな抵抗ができないのかされるがままだ。

「旦那もさ、腕の一本くらいは折れても事故って言ってたししゃーないよな。お前が悪いんだもん。俺を苛つかせるお前が悪い、うん、そうだよ俺は間違ってないよ。足折って、腕折って、それでも持って帰ろう。あ、でも潰しちゃうとさすがに怒られるから骨だけか。じゃあ、俺がやんないとだめだな、うん」

 ポケモンにやらせると骨だけではすまないとぼやきながら伸ばしてくる手を振り払おうとするも掴まれて、折れるほどではないが強い力に苦しそうに声を出す。

「痛い? 痛いの慣れてるだろ? なあ、なあなあなあ、どんな気分だよ教えろよ」

 思考回路がまともじゃないこの女に何言っても無駄だとオチバは諦めてせめて痛みを最小限で済ませてほしいと願うも、その瞬間は訪れない。

 不審に思って女を見ると、警戒しているのか女はきょろきょろと周囲を見渡す。

 

 

「そこまで――!」

 

 

 上空から飛び降りてきた赤い服のレンジャーが女とオチバの間に割って入って至近距離でデンリュウの10まんボルトをくらった女は舌打ちしつつも退避し、レンジャーことレモンを睨む。

「てっめぇ――! 人間にポケモンの技とか正気かぁ!?」

 ポケモンを含む全員、が「お前が言うな」と総ツッコミしそうなことを考えるもレモンは明確な怒りを隠そうともせず女を見る。

「だいばくはつを使うことそのものは禁止されていないけれど、それによる人間への傷害は看過できるものじゃないわ。おとなしくしなさい。さもないと――」

「うるせぇ! 優等生は机にでもかじりついてろっ!」

 女がエンニュートを繰り出すとレモンはフライゴンを出す。

「エンニュート! りゅうのいかり!」

「フレイヤ!」

 りゅうのいかりをなんなく躱してフライゴンはだいちのいかりでエンニュートを一撃でひんしにさせ、不愉快そうに爪を噛む女をレモンは冷めた目で見る。

「そちらが攻撃したなら私に否はないわ。正当防衛だもの。覚悟はできた?」

 女が歯ぎしりしていると更に二人、駆け寄ってくる。

 その一人が、自分が囮にした相手だと気づいてオチバは少しだけ焦る。

 自分の悪運に呆れながらも、これに頼るしか自分が無事に逃げ切る方法がないと悟って、囮の対処は失敗したなと自分に悪態をついた。

 

 

 




SAN値が低い(ハツキ)のと、SAN値がめちゃくちゃ高い(レモン、アクリ)のと、SAN値が高そうに見えて低いの(落ち葉)と、SAN値が0なのが白服女

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